メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2008年3月18日~3月25日

戦後日本経済史 (新潮選書)
戦後日本経済史 (新潮選書)野口 悠紀雄

新潮社 2008-01
売り上げランキング : 188

おすすめ平均 star
star大蔵官僚からみた戦後経済
star「自分史」と重ね合わせた「1940年体制」の歴史
star戦後からバブル崩壊までを、、、この方は元大蔵官僚

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独創的な視点でバブル以後の日本経済低迷の原因を看破

私の見るところ野口氏の著作は3つのカテゴリーに分けられる。1つは『「超」整理法』をはじめとしたハウツーもの、2つ目が金融工学などの専門書、そして3つ目が本書のような経済啓蒙書である。私はカテゴリー3の本しか読まない。カテゴリー1を読まないのは、ハウツーは自らで生み出すべしという信念に基づくものであり、カテゴリー2を読まないのは、難しくて分からないという我ながら情けない理由に基づくものである。

野口氏はとても人間業とは思えない驚異的なペースで本を書き続けているが、いずれも質が高い。質の高さを示す話として、私には次のような思い出がある。1993年当時、経済企画庁で経済白書の担当課長だった私は、バブルの総決算を行うべく準備を進めていた。するとちょうど野口氏の『バブルの経済学』という本が出た。担当課長補佐はT君(今や若手エコノミストとして売り出し中)だったのだが、彼がこの本を読んで、苦い顔をして私のところにやってきた。そして「こういう本が出ると本当に困ります。これだけの分析をされてしまったら、我々のやることがなくなってしまいます」と言った。内国調査課のスタッフが束になっても、野口氏の著作に及ばないというわけだ。

本書はその野口氏が戦後の日本経済の歩みを独創的な視点で解説したものである。必然の連続として歴史をとらえようとする野口氏の姿勢に私は強く共感する。その主張は極めて明快である。戦後の日本経済は、戦時期に確立された経済制度(1940年体制)のうえに築き上げられた。この体制があったからこそ高度成長が実現し、日本経済は石油危機を円滑に乗り切ることができた。しかしこの体制は次第に時代の流れにそぐわないものとなり、日本経済の桎梏と化していった。その矛盾の現れがバブルであった。だが、時代に即した新しい体制はいまだ確立する気配はなく、人々は依然として従来型のシステムに強い愛着を抱いている。近年の日本経済の地盤沈下状況を見ると、著者の主張には説得力がある。

本書のもう1つの特徴は、本書が野口氏の自分史でもあることだ。例えば、野口氏が大蔵省に入った時の入省式で、時の大蔵大臣田中角栄氏が、一列に並んだ20人の新入生一人一人を、メモなしで名前を呼びながら握手をしていったといった印象的なエピソードがふんだんにちりばめられている。こうした部分を読んでいるだけでも本書は十分に面白い。【評者 小峰隆夫 法政大学大学院政策科学研究科教授】

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

暗流―米中日外交三国志
暗流―米中日外交三国志秋田 浩之

日本経済新聞出版社 2008-01
売り上げランキング : 96

おすすめ平均 star
star穏健な良識派の一冊だが突き抜けるものはない
starジャーナリストとしての凄みを感じさせる一冊

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米中間で揺れる日本の選択に冷静、シビアな結論を導き出す

アメリカ国防総省(ペンタゴン)本部に、35年にわたって君臨する伝説的な軍略家がいる。アンドリュー・マーシャル、85歳。冷戦時代に対ソ連戦略の策定にかかわったこの老人が、残り人生のすべての情熱をかけたテーマ、それが「中国の台頭をにらんだ国家戦略づくり」だという。

老人はこれから20年ほど通用する骨太の対中戦略を作り上げるため、中国を丸裸にしようとしている。あらゆる情報を精査したうえで、明・清朝における中国の行動パターンや、水、エネルギー、少子高齢化が社会に及ぼす影響まで調べ尽くしている。

しかし、話を聞きに行っても、彼は「わからんのだ」「我々は知らないことばかりだ」と答えるのだという。著者はよくこんな人物にたどりつけたものだなと、そこにまず感心させられた。

対中戦略をまとめたり、それを遂行していくうえで難しい問題はいくつもある。例えば米国指導層のなかで、台頭する中国を警戒する人たちと、その将来を楽観視して協調を図る勢力がせめぎあっている。

楽観論者は、中国も国際社会に組み込まれていくうちに、責任ある大国になっていくという。悲観論者は、中国が国力を増すにつれ自己主張を強め、米国に挑むようになるという。

そこに加えて、米国の大統領は、就任直後は中国に対して警戒路線をとり、やがて関係改善に転じるというパターンを繰り返してきたという。そうやって米国の対中政策が揺れるたびに、日本の対中政策も影響を受けてきたという。

そうした状況を踏まえつつ、著者は日本の長期的な対中戦略について検討を試みている。「日米同盟の堅持・強化」「日中接近」「防衛力の増強」「非武装中立に近い政策」という4つのシナリオを提示し、それぞれのケースで何が起きうるのか、その可能性を挙げていく。

ただし、米国のアジアへの軍事的関与がどういう形をとり続けるのか、中国の対外路線がどうなるのか、という2つの変数がある。それがどう動くかで、日本がとりうる選択肢は大きく左右される。

だから著者は、日本の選択については「好き嫌いが入り込む余地はさほどない」「自分の意思で国家戦略の方向を選べるのは、一握りの超大国だけに許された特権である」という。

米国と中国と日本で政治家や官僚に対するインタビューを続け、深い思考を重ねながら、著者は極めて冷静かつシビアな結論を導き出した。見事なプロフェッショナリズムだなと思う。【評者 上村幸治 獨協大学国際教養学部教授】

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

群青に沈め―僕たちの特攻
群青に沈め―僕たちの特攻熊谷 達也

角川書店 2008-02
売り上げランキング : 11523


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白蝶花
白蝶花宮木 あや子

新潮社 2008-02
売り上げランキング : 6078

おすすめ平均 star
star愛に飢えていた娘たちの物語

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特攻少年兵の青春から戦争の本質に迫る

熊谷達也『群青に沈め――僕たちの特攻』は、潜水服を着て海中に潜み、機雷で米軍の上陸艇を破壊する特攻兵器「伏龍」部隊で訓練に励む少年たちを主人公にしている。

戦争小説と聞くと、下士官による私的制裁や壮絶なイジメを思い浮かべるかもしれないが、本書にはそうしたステレオタイプなエピソードはない。ひたすら潜水訓練に没頭し、少しずつ成長していく主人公・浅沼の姿は、現代の高校を舞台にしたスポ根小説を思わせるさわやかさがある。

だが死を意識していた少年兵も、仲間の事故死を悲しむ間もなく繰り返される訓練によって、感情を表に出さない一人前の兵器になっていく。

特攻隊員は愛国心に燃えていた特別な存在ではなく、時代が変われば誰もが平然と死地に向かう人間になりうる。そのことを明らかにした本書は、単なる反戦メッセージを超え、戦争の本質に迫った傑作といえる。

少女同士の友愛から男女の性愛までを描いた宮木あや子『白蝶花』(新潮社、1470円)は、過激な性描写もあるが、全体は往年の少女小説を思わせる。各章のタイトルが花の名前なのも、吉屋信子の名作『花物語』へのオマージュだろう。

ヤクザの親分に身請けされたものの別の男に惹かれていく千代子、出征する恋人の子供を身籠もった千恵子など、物語は戦前戦後の世相を縦糸に、その混乱のなかでも命懸けで愛を貫いた女たちの人生を横糸に進んでいく。

男に運命を左右される主人公たちは、男社会に抑圧されている女性の現実を暴いている。だがヒロインを時代の犠牲者とせず、“性”を通して生命の美しい輝きを表現しているので、感動も大きい。【末國善己 文芸評論家】

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)
ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)堤 未果

岩波書店 2008-01
売り上げランキング : 20

おすすめ平均 star
star新鮮な感じのするルポ報告とは言え、アジテーション演説を聞いている様な錯覚
star大メディアでは報道されないアメリカの実態が満載
starアングロサクソンの価値観ー投資利回り最大化

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著者インタビュー 堤 未果(ジャーナリスト)

民営化で貧困にあえぐ人々 米国の現実を知ってほしい

──取材のきっかけは?

■2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ時、私は隣のビルの20階で働いていて、衝撃で床にたたきつけられました。テレビはビルが倒壊する映像とブッシュ大統領の「アメリカは負けない。敵はこいつだ。やられる前にやる」という演説を繰り返し、新聞は「戦争が始まった」と。メディアが一斉に恐怖をばら撒き、街のなかは「報復を叫ばなければ敵だ」という愛国心一色の雰囲気で、アフガン攻撃、イラク戦争と続きました。何かが違う、と感じたのですが、メディアを見ても分からない。父がジャーナリストで、父と同じ職業はいやでニューヨークの国際機関などで働いていましたが、どのメディアも真実を報道しないのならば、自分で調べよう、とジャーナリストになる決心をしました。

──本には新自由主義と民営化による中流家庭崩壊、貧困層切り捨てによるハリケーン・カトリーナ被災者の困窮やフードスタンプ(食料配給切符)で暮らす貧困層子弟の肥満問題、貧困ビジネスでもうける大企業という構図がリアルに書いてあります。取材は相当に難しかったのでは?

■9・11を機に政府が個人情報を握ってしまいました。「落ちこぼれゼロ法」は個人情報を手にした軍が大学進学の学費を出すなどと言って貧困層の青年に近づく裏口徴兵政策です。取材のきっかけは19歳兵士のインタビューでした。信用してくれて、友人を紹介してくれて、グループのネット掲示板にも私の名前をアップしてくれたので、一気に知り合いが増えました。ほとんどの兵士が生活のために軍に入っており「戦争の真実を世界に知らせたい」と取材に協力してくれました。

──危険はありませんでしたか?

■多国籍企業の民間戦争請負会社が世界中から貧困な若者を集め、イラクなどの戦地で危険な業務に従事させていることも、この若者たちから取材できました。取材妨害もされましたが、危険地域には友人の兵士に同行してもらい、狙われやすい個人攻撃もしないよう気をつけました。

──日米のメディアへの注文は耳に痛かったのですが。

■日本のメディアには『ニューヨーク・タイムズ』などアメリカのメディアへの崇拝があるようですが、アメリカのメディアは9・11以後、口をつぐんでしまいました。何が起きているか、を正確に伝えるべきメディアが沈黙したら、民主主義の危機です。それでも、アメリカでは「多国籍企業というモンスターこそ敵なんだ」と声を上げ始めた人たちがいます。日本のメディアでも事後報告だけでなく、未来の選択肢を打ち出す骨太な記事がもっと出てきてほしい。

──読者にも注文していますね。

■読者もメディア・バッシングをするだけでなく、いい記事が出たら「素晴らしい」とほめて、育てないといけない。それが市民の責任だと思います。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

プーチンのエネルギー戦略
プーチンのエネルギー戦略木村 汎

北星堂書店 2008-01-24
売り上げランキング : 11058

おすすめ平均 star
starサハリン2がガスプロムに乗っ取られたわけ

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政治学者としての長い研鑽のうえに、必ず原資料に当たって調べて書いたこの本は本物だ。プーチン政権は豊富な石油・天然ガスの「レント(不労所得または超過利潤)」を独占的に国家と自分の派閥の手中に収め、それをテコにして、自分に都合のいい内外政策を強行している、と断じる。プーチン戦略の原点である「準博士」論文が剽窃だったという書き出しから驚かせる。説得力十分だ。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)
こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)大竹 文雄

筑摩書房 2008-01
売り上げランキング : 8962

おすすめ平均 star
star知的好奇心を大いに刺激された
starまあ豆知識としてなら
star日本での身近な経済社会現象から経済学の有用性を示した好著

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全27話がとにかく面白い。肥満とせっかち度の関係を時間割引率で測り、たばこを吸う人は年収200万円減同様の不幸度、臓器売買なしに移植を増やす方法、美男美女への賃金優遇は不合理かどうか、出世を決めるのは能力か学力かを東大入試中止の学年の追跡調査で割り出す、と意表を突きながら経済学の「なるほど」を学ばせてくれる。本誌で好評を博した連載の新書化。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側
NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側宗像 誠之 日経コミュニケーション

日経BP社 2008-02-01
売り上げランキング : 11465

おすすめ平均 star
star批判のための批判
star少し物足りない
starNTTの自爆とならないように

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NTTは巨大通信会社として関連企業の国際競争力強化に貢献すべきなのに古い電話的価値観に凝り固まり、設備屋と労務屋が旧田中派政治家らと組んで保身に走り、真に必要な技術屋は子会社に追い出したため、昨年5月の大規模ネットワーク障害などが起きた、と断じる。NTTの組織形態見直し年である2010年への対応に追われる首脳陣への強烈な批判の書だ。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

理性の奪還 もうひとつの「不都合な真実」
理性の奪還 もうひとつの「不都合な真実」アル ゴア 竹林卓

ランダムハウス講談社 2008-02-16
売り上げランキング : 9961

おすすめ平均 star
star大統領になるはずだった男アル・ゴアが、米国のもう一つの「不都合な真実」を暴く。

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「アメリカの民主主義はいま危機に瀕している」とゴアは書く。なぜそうなってしまったのか。中身は「テロとの戦い」を煽り、強引にイラクに侵攻したブッシュ政権への徹底した批判だが、それだけにとどまっているわけではない。それを受け入れたアメリカの言論の状況を、「文字の共和国」が「テレビの帝国」に蹂躙された現実から掘り起こし、理性を取り戻せと警告する。けっして他人事ではない。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

関西モダニズム再考
関西モダニズム再考竹村 民郎 鈴木 貞美

思文閣出版 2008-02
売り上げランキング : 490454


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日本のモダニズムを関西を中心に考察し直した画期的な学際研究の書である。20世紀初頭に実現した「阪神間モダニズム」すら“東京中心史観”によって正当に位置づけられているとは言い難い。書名の『関西モダニズム再考』は京都を加えた新しい視点を意味する。カラフルな私鉄沿線の分譲地や宝塚少女歌劇のパンフレットなど、編集に工夫が凝らされていて楽しい。

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

文明の接近―「イスラームvs西洋」の虚構
文明の接近―「イスラームvs西洋」の虚構エマニュエル・トッド ユセフ・クルバージュ

藤原書店 2008-02
売り上げランキング : 75336


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帝国以後―アメリカ・システムの崩壊
帝国以後―アメリカ・システムの崩壊エマニュエル トッド Emmanuel Todd 石崎 晴己

藤原書店 2003-04
売り上げランキング : 21529

おすすめ平均 star
starアメリカを見るヨーロッパ人の冴えた視点
star目から鱗ではない
starイラン革命=清教徒革命 論

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文明の衝突
文明の衝突サミュエル・P. ハンチントン Samuel P. Huntington 鈴木 主税

集英社 1998-06
売り上げランキング : 2110

おすすめ平均 star
star予言のつもり
star現在進行中のシナリオ
star中華文明と日本

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常識覆す新たなイスラム観

『文明の接近』(藤原書店、2940円)は、『帝国以後』の著者エマニュエル・トッドの最新翻訳書である。

トッドは歴史学者として幅広い議論を展開しているが、そのベースは人口学。その彼がイスラム圏の人口動態研究の第一人者であるユセフ・クルバージュと組んで、人口学的視点からイスラム諸国の分析を行ったのが本書である。

トッドの基本的命題は近代化の重要な要因は出生率(合計特殊出生率)の低下であり、それをもたらす条件は識字率の上昇である、というものである。特に女性の識字率の上昇が出生率の低下に重要である。宗教は通常、出生率の低下に歯止めをかけるが、脱宗教化が進むにつれ、このバッファー(緩衝装置)もなくなってくる。

出生率の低下に悩む日本で、出生率の低下こそが近代化だと高々と宣言されると、多少戸惑ってしまうが、十分、説得的な議論であることは否定できない。

こうした分析からイスラム圏を眺めてみると、すでに多くの諸国で出生率が劇的に低下しているという。なかでもイランとチュニジアのそれは低く、フランスと同じだという。ということは、イスラム圏全体が、ことにイランなどがすでに近代化・民主化の途上にあるということになる。

とすれば、現在のイスラム原理主義や自爆テロなどの暴力の拡大はどう解釈したらいいのだろうか。

トッドはこれを「移行期危機」という概念で説明する。つまり、近代へ移行するプロセスで旧レジームと新しい勢力の間で社会が混乱し、「危機」が発生するというのだ。

イギリスのピューリタン革命、フランスの大革命、さらにはドイツでのナチスの台頭や日本の軍国主義などがかつての「移行期危機」だったという。 「移行期危機」なのだから、現在のイスラム圏での暴力はイスラム教やイスラム文明が本質的に持っているものではなく、いずれ文明は接近するというわけだ。

むしろ問題なのはイラクでのアメリカ軍の駐留と欧米のイスラムをめぐる脅迫観念だという。ハンチントンの『文明の衝突』のアンチテーゼとして読むとなかなか面白い。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

阿片の中国史 (新潮新書)
阿片の中国史 (新潮新書)譚 ろ美

新潮社 2005-09
売り上げランキング : 144439

おすすめ平均 star
starお里が知れる……
star軽い歴史読みもの
star軽い読み物として

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日本の阿片戦略―隠された国家犯罪
日本の阿片戦略―隠された国家犯罪倉橋 正直

共栄書房 2005-11
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アヘンをめぐる中・英・日のドラマ

東アジアの近代は、1840年のアヘン戦争で幕が開けた。今年の大河ドラマで薩摩藩主島津斉彬の開明ぶりがクローズアップされている。英国に敗れた清朝をめぐる情報は、日本の幕藩体制に衝撃を与え、その危機感から開国、明治維新への胎動となった。一方、中国は英国をはじめとする列強による不平等条約を強行され、半植民地の歴史をたどることになる。

アヘンについては、譚ろ美『阿片の中国史』(新潮新書、735円)が、世界史の側面から、倉橋正直『日本の阿片戦略』(共栄書房、2625円)は、日中関係史の面からそれぞれ見つめ直している。著者譚は、中国人の父と日本人の母との間に生まれた。父は中国革命に参加し、外交面を担当した。母方の祖父は、日本の陸軍中将として中国戦線で戦い、後にインパール作戦で敗退の指揮をとっている。この数奇な家系が、世界史のなかで唯一中国が、アヘンの害毒で悲惨な運命をたどることになる歴史を取り上げさせたと思われる。唐代に中国へ運び込まれた「ケシの花」が、観賞用から薬品へ、そして麻薬となり、なぜ大英帝国の濡れ手で粟の「新商品」となったのか。その過程を政治、経済のみならず文学作品も史料として、小冊子ながら面白い。

アヘンについての第1幕を英国を主役とする20世紀初頭までとすると、第2幕は英国に代わって日本がアヘンの主役となる。倉橋は満州事変、日中戦争期のアヘン問題を、日本が国際法を無視した国家的犯罪として究明している。著書の第1章は「大学でケシを植える話」という興味深いテーマである。著者自身が、許可を受けてアヘン、モルヒネの栽培、製造の実験を試み、その知識に基づき、満州や日本各地を丹念に調査している。例えば満州の公文書館に保存されていた文書を発見し、満州中央銀行の財政収入源がアヘン専売制にあることを突き止めた。また日中戦争の長期化に伴い、1941年から当時の厚生省の担当でアヘン大増産運動が全国的規模で展開された驚くべき実態を随所に統計や写真を入れて明らかにしている。2幕目は日本の敗戦で終幕した。しかし21世紀に入りアヘンの闇ルートは再び復活している。【中村 義 東京学芸大学名誉教授】

■2008/03/25, 週刊エコノミスト

日本経済活力維持の条件
日本経済活力維持の条件野村證券金融経済研究所

東洋経済新報社 2007-12
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緩慢な拡大を続ける日本経済の展望に重要なヒントを与える

日本経済は、バブル崩壊後の「失われた10年」を経て、緩慢ながらも拡大を続けている。しかし、内外の環境は激変している。例えば国内面では、少子高齢化が急速に進み、今後、労働力不足や消費の減退が懸念されている。また国際面では、国内企業の競争力低下問題や「空洞化」問題がある。こうしたなかで、日本経済や日本企業はどう発展していくのか……。本書は、そうした問題を考える際の重要なヒントを与えてくれる。

本書ではこれらの問題に関し、いくつかの点を指摘している。まず、日本の製造業の国際競争力低下や「空洞化」が叫ばれて久しいが、実は1990年代末ごろから、電気機械や精密機械を中心に技術力(正確には全要素生産性)は急速に向上している。またこの結果、国内の生産力減少にも歯止めがかかりつつあり、特に電気機械や自動車産業では、国内生産力増強投資が目立っている。さらに、これまで非効率産業の代表といわれてきた非製造業についても、規制緩和などによる競争激化によって効率性がかなり好転し、事実、金融・保険や情報サービスの内外価格差は急速に縮小している。これらの指摘は、悲観的な見方に偏りがちな、日本経済の将来展望に対して、何がしかの燭光を与えるものといえよう。

また、本書では、労働力不足問題についても、重要な示唆を与えている。すなわち、仮にわが国が今後、女性労働力や高齢者の活用などの対策を講じても、2026年には日本経済は労働供給力の限界に到達すると指摘したうえで、特に地方経済は、元々高齢人口の増加によって生産力の低下が懸念されるなかで、生産年齢人口を「介護」という生産性の低い分野に振り向けざるを得ない結果、これがさらに生産力低下を招来するという形で、「経済縮小のスパイラルの発生が強く懸念される」と指摘している。

ただ、本書の主張すべてが首肯できるものかといえば、必ずしもそうではない。例えば、現在の日本経済は、非正規雇用増加などによる「人件費の変動費化」によって、「低金利+低インフレ+高揚感なき景気拡大」という「適温経済」にあるとし、このため現在の景気拡大は「強い持続性を持つ」と主張する。しかし、こうした主張は、かつての米国経済に関する「ニューエコノミー論」同様、当該経済に対するやや過大な自信や評価のようにも思える。こうした点も含め、日本経済の将来を考えるうえで、本書は一読に値するものといえよう。【評者 渡辺 孝 文教大学国際学部教授】

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

生活保護VSワーキングプア (PHP新書 504)
生活保護VSワーキングプア (PHP新書 504)大山 典宏

PHP研究所 2008-01-16
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おすすめ平均 star
star看板に偽りあり
starセーフティネットからトランポリンへ-「保護」から真の「自立支援」への脱皮
star見えにくい実態を伝え、有益

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元ケースワーカーがあぶり出す生活保護の「実像」

「生活保護」という言葉は、人々の感情を大きく揺さぶる。先だっても、受給額の引き下げ問題で世論は過熱し、政府の方針も揺れ動いた。その背後には、「最後のセーフティーネット」に対する人々の強い思いが交錯している。しかも、最近では「働く貧困層」(ワーキングプア)の問題が深刻だ。こうした昨今の状況を考えると、本書の出版は誠に時宜を得たものである。

「生活保護vsワーキングプア」というタイトルは、一見際物のような印象をもたらしかねないが、内容はしごく真面目で、示唆に富む指摘に満ちている。現在の生活保護制度のあり方を批判することは容易ではあるが、往々にしてそれは物事を一面的に見ている場合がある。本書がバランスのとれた記述となっているのは、著者が生活保護ケースワーカーとして、生活保護の実務を行ってきたことによる。

生活保護については、保護費を抑制するために役所で申請を出させないようにするという「水際作戦」が広く行われているとして、日本弁護士連合会などが批判している。その一方で、収入を申告しなかったり、酒に耽溺したりする人にも保護費が支給されることがあり、国民からは「審査が甘い」として役所に対する批判が噴出する。そうした主張の狭間で、ケースワーカーは苦悩している。しかも、最近では労働市場の変容を反映して、若い世代が生活に困窮するケースが増えてきているが、現在の制度では、身体的・精神的に「壊れ」なければ保護が受けられない。こうした事実を本書は明快に描き出しており、生活保護の「実像」をあぶり出すことに成功している。

著者は、生活保護のあり方に対して重要な提案も行っている。現在は、「この人は保護に値する人であるか」についてケースワーカーがギリギリの判断を行い、「保護するに値する」となればその後は半永久的に給付し続ける形をとっており、制度本来の「自立」を促すという趣旨から逸脱しているという。そして、生活保護を緊急避難として活用しながら、被保護者が経済的・社会的に自立することを促進することこそが、今後の生活保護行政として重要であると指摘している。著者も認識しているように、理想通り物事が進むかどうかは分からないが、制度の「あるべき姿」を提案することは大切な試みであると評価したい。

分かりやすい文体もあいまって、本書は生活保護の現状と課題を知るうえで格好の1冊となっている。【評者 太田聰一 慶応義塾大学経済学部教授】

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)
検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)パーシヴァル・ワイルド 越前 敏弥

東京創元社 2008-02
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グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)パトリック・クェンティン 武藤 崇恵

原書房 2008-02
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おすすめ平均 star
star嗚呼!真に悪夢の如き迷推理(語り手の真摯な姿に免じて★3つです。)

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新訳あり初紹介あり 元気な旧作の“凄み”

相も変わらず「翻訳ミステリは売れない」の厳冬期がつづくようだ。――などというマクラももはや使い古された観がある。

使い古しで連想するわけでもないが、結果的に、堅実な水準を保っているのは旧作の復活・復刻・発掘だ。

その1冊、パーシヴァル・ワイルド『検死審問 インクエスト』(創元推理文庫、882円)は、新訳での名作リニューアル。「海外ミステリ検定試験」(*)に必ず出る設問の1つに「きみはインクエストを読んだか」がある。そのくらい高名な作品なんであるが、初訳から約半世紀を経て読みやすい新訳になったのは目出度い。

審問調書の記録によって全編をとおすといったスタイルは、すでに新奇でも驚異でもない。だが、この考え抜かれた構成には、改めて讃嘆のため息が出る。如何にして書き手は「盲点」をつくりだすか。形式が内容を規定するのだ。あくまでさり気なく語られた話の運びにミステリの精髄が埋めこまれている。

本筋とはあまり関係ないが、重要人物の老女のベストセラー作家が毒舌家メンケンのパロディーみたいな毒にみちた演説で法廷を沸かせる場面がケッサクだ。それも、立派な伏線なのだが。

もう1冊の、パトリック・クェンティン『グリンドルの悪夢』(原書房、2310円)は、70年ぶりの初紹介。これも、田舎の異常事をユーモアの衣でつつむ英国カントリー調ミステリ。作者は、マニアには有り難い名前で、最盛期の作風の痕跡を、この初期作品に探るのも愉しみだ。結末部の妙に深刻めかしたところなど、やっぱりこういう人だったかと思わせる。

しかし、堂々と新作の新刊紹介と銘打つことのできないこの欄。いささか淋しいものがなきにしも……。 (*)の「検定試験」について、筆者個人は現在のところその存在を未確認であることを申し添えておきます。【野崎六助 作家・評論家】

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

死因不明社会 (ブルーバックス 1578)
死因不明社会 (ブルーバックス 1578)海堂 尊

講談社 2007-11-21
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おすすめ平均 star
star知らないことがいかに恐ろしいことか
star縦書きのブルーバックスって。。
star日本の解剖率は2%

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著者インタビュー 海堂 尊(作家・医師)

“画像による解剖”が医療崩壊の流れを止める

──海堂さんは、映画が公開中の「チーム・バチスタの栄光」の原作者でもありますが、この本は本業の病理医として書かれたAi(エーアイ)の啓蒙書ですね。まずはAiとは何ですか。

■Aiとはオートプシー(=解剖)イメージング(=画像)の頭文字で、CTやMRIで死体の画像を撮影する検査です。ただAiというより、Aiを用いた「死亡時医学検索」をきちんと行うシステムの構築を目指しているんですけどね。人が死ぬと医者が死亡診断書を書きますが、普通は表面から見て死因を推定して書いています。本来は解剖して調べなければ本当の死因はわかりません。日本の年間死亡者は100万人以上ですが、そのうち解剖されるのはわずか2%台です。ただ解剖は、遺族の心情に合わないことも理解できます。そこでAiを実施して、画像で死因に疑問が出た場合、解剖するというシステムを提唱しているのです。

──「バチスタ」に登場するフィクションの存在である厚生労働省の異色官僚、白鳥圭輔が説明役ですね。帯には「バチスタ」はこれを書くために生まれたと書いてありますが。

■ちょっと違うんです。本名でAiの専門書を2冊書きましたが、無名でもあり全然売れず、挫折を味わいました。そんなある日、Aiを使ったトリックを思いついたんです。それで医師としてではなく、個人としてミステリーを書いたのです。私にとっては物語と医学は別々の道です。白鳥を出したのは出版社側の要請なんですよ。

──このまま死因不明社会が続くと、どういう問題があるのでしょう。

■死因が特定されないと、医療過誤が発見されなかったり、犯罪が見過ごされたりします。また診療の効果判定も正確にできない。つまり、再発したのか、それとも治療の効果はあったが別の原因で死亡したのか、医学的な検証をしない無監査状態なのです。それはやがて無責任医療につながります。

──それは怖い。その解決の処方箋がAiという主張ですが、賛同者は?

■アンケートでは、医師はAi導入のロジックには大半が賛成でした。遺族もほとんどが反対はありません。また救急救命センターでは、死体の画像診断はかなり行われているんです。

──では、本書でもかなり厳しく指摘されていますが、問題は予算を付けない厚労省の官僚ですか?

■そうですね、現状ではAiを実施しても費用はすべて病院負担です。反官僚と見られますが、有効性を知っていてやらない組織は許せないんです。医師会も導入に動き始めたし、昨年は千葉大にAiセンターのプロトタイプができるなど、Ai認知に向けて包囲網はできつつあると思っています。幸いにも、日本はCTもMRIも世界屈指の普及率で、インフラの整備にお金が掛からない。あとは厚労省が、Aiに予算の裏付けを付けてくれれば、死因不明社会は解消できる。それこそが医療崩壊の流れを止める方法だと思います。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

財投改革の虚と実
財投改革の虚と実富田 俊基

東洋経済新報社 2008-01
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0年前の『財投解体論批判』で財投機関債構想を批判した著者が21世紀の財投改革を検証。官僚の天下り批判などを受けて取り組んだ組織改革には看板掛け替えのような無意味な改革が多く、意味ある改革はあくまで個別事業内容の見直しで行うしかない、と結論づけた。官僚批判だけでは財政投融資運営が良くならず、冷静な議論が必要であることを教えてくれる良書だ。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化
不安な経済/漂流する個人―新しい資本主義の労働・消費文化リチャード・セネット

大月書店 2008-01
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都市、労働、資本主義文化の変遷を考察し続けて著者による最新の労働・消費文化論。新しい資本主義が理想とする人間像は「短期的なものに順応させられ、潜在的能力だけを評価され、過去の経験をすすんで放棄する自己」であるとの視点から、不安定性と断片化いう現代社会の特性を分析。博覧強記の学際的アプローチを通じて、人々による「弱々しい文化への反逆」の開始を予測する。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

日本を救うインド人 (講談社+α新書 385-1C)
日本を救うインド人 (講談社+α新書 385-1C)島田 卓

講談社 2008-02-21
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主張が強く、自己中心的。だが、言っていることは論理的。以心伝心は通じないし、チームワークもない。自論を譲らないが、議論の後はあっさりしている。何でも「できる」と安請け合いする。社会主義の残滓で労働者の権利意識が強い。それでも、グローバル化で見えてきた日本の弱点を補うには、インドと組むべきだと説く。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす (NB Online book)
中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす (NB Online book)遠藤 誉

日経BP社 2008-01-31
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おすすめ平均 star
star時代を感じさせてくれました
star中国動漫事情を知る画期的な書
star現代中国を理解する上での必読書

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動漫は中国語で動画(アニメ)と漫画。80年代に「鉄腕アトム」が上陸したのをきっかけに「スラムダンク」でバスケブームが起き、「セーラームーン」人気で中国中の少女に“変身”がはやったり、と手軽に入手できる海賊版の浸透で日本製動漫人気が爆発的だという。「反日」だけではない新人類の姿が詳細にリポートされる。インターネット連載の待望の単行本化だ。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

昭和天皇 (岩波新書 新赤版 1111)
昭和天皇 (岩波新書 新赤版 1111)原 武史

岩波書店 2008-01
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おすすめ平均 star
star昭和天皇と貞明皇太后
star母である貞明皇后は琉球の聞得大君みたいに祭祀にのめり込んで…
star刺激的だがあくまで仮説

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戦前の公務から、戦後は天皇家の私事として継続する宮中祭祀に光を当て、昭和天皇の実像に迫る。お堀の内と外での昭和天皇を、各種資料や証言に基づいて丹念に考察し「天皇は祭祀のたびに、神々に向かって、一体何を祈っていたのだろうか」を軸に、戦前・戦後の連続と非連続を浮き彫りにする。生物学研究と宮中祭祀との関連、皇族間の確執にも言及、激動の生涯を多面的に描き出している。

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

鈍感力
鈍感力渡辺 淳一

集英社 2007-02
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おすすめ平均 star
star弱り切っていた自分に友が勧めてくれた書です
starマイナス思考の時に読むといい本
star考えさせられる作品

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“気にしない”の偉大な効用

私が精神科医になって以来、何が考え方が変わったかといって、人間、理屈通りにいかないことに気づいたことだ。

例えば、かつてはトラウマのある人には、それを精神分析治療などを通じて思い出させたり、過去と現在の記憶を統合させたりすればよいという考え方をしていた。ところが、そのような治療では過去のことを気にするようになるので、最近はそれが否定されている。

余計なことを気にするとかえって具合が悪くなると、今から80年も前に精神分析を批判したのは森田療法の創始者、森田正馬先生だが、近年は国際的にも見直されている。

この現代版ともいえる生き方の処方箋のような名著を見つけた。渡辺淳一『鈍感力』(集英社、1155円)である。言わずと知れた大作家のエッセーであるし、ベストセラーでもあるので、このコラムに紹介するまでもないのかもしれないが、本誌の読者のような知的プロフェッショナルの人にこそ読んでほしい本だ。

仕事であれ、女性を口説く時であれ、人の評価や相手の反応に過敏になりすぎず、気にしないでいることで、トライが続けられる。それこそが成功の鍵であり、幸せの鍵であるということが、渡辺氏独特の洒脱なロジックと、さまざまなエピソードを交えて綴られる。

不安なことを気にしたり、不安でなくなれとあがいたりすると余計不安になることを看破したのが、前述の森田先生だが、確かに鈍感力を身に付けることは、メンタルヘルスにいいということは、精神科医の私からも断言できる。

私は、正解のない今の時代、学問やビジネスで成功するうえで、知的体力の大切さを強調している。知的体力とは、次々と仮説を立てる知性と、それを試し続ける体力と、失敗しても次の仮説にトライできる精神力を合わせたものなのだが、鈍感力があれば、この知的体力も身に付くはずだ。人生、諦めた時点で負けなのだから。

私自身、この年になって諦めずに映画を作ったのだが、実は、せっかく身に付けた鈍感力が弱くなってきていた。初めての世界へのチャレンジなので、周囲の評価が気になって仕方がなかったのだ。余計なことを気にしても、仕事の邪魔になるだけと再び私を勇気づけてくれたことでも本書に感謝したい。【和田秀樹 精神科医】

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅
あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅城戸 久枝

情報センター出版局 2007-08-21
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おすすめ平均 star
star中国と日本の歴史を今一度考え直したいと思った本
star日本と中国を考えるときに欠かせない本
star涙なしには読めない、感動の実話。

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ある韓国外交官の戦後史―旧満州「新京」からオスロまで
ある韓国外交官の戦後史―旧満州「新京」からオスロまで梁 世勳 梁 秀智

すずさわ書店 2007-09
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旧満州の記憶をめぐる日・中・韓国人の落差

多くの書評やブログで評判の城戸久枝『あの戦争から遠く離れて――私につながる歴史をたどる旅』(情報センター出版局、1680円)は、圧倒的感動を呼ぶ迫真のドキュメント。

日本の敗戦時に旧満州国にはソ連軍が入った。中国東北部の人々からすれば侵略・傀儡国家からの「解放」で、「日本鬼子」の敗走は自業自得だった。その地獄からの脱出時に両親と生き別れた幼い日本人は、1980年代から「残留孤児」として浮上した。

著者の父城戸幹は幼時に牡丹江の農家に引き取られ、中国人孫玉福として育つ。成績優秀で北京大学にも合格しかけたが、入学願書に「中国籍・日本民族」と書き進学の夢を絶たれた。そこからどうして1970年に帰国できたかは、涙なしには読めない。国交回復前、文化大革命さなかだから、想像を絶する苦労と努力があったろう。

本書のもうひとつの魅力は、「残留孤児」の父と帰国後に結ばれた母の間に生まれた娘が、大学生になって父の「故郷」長春の吉林大学に留学し、父の養家の親族・親友に温かく迎えられ、父の前半生の記憶と真実を現地で発掘し蘇生する家族愛の物語である。

だが感動の日中友好秘話には出てこない、もうひとつの真実にも目を向けたい。梁世勳『ある韓国外交官の戦後史――旧満州「新京」からオスロまで』(すずさわ書店、2100円)は、同じく新京(長春)で「日本人」として敗戦を迎えた朝鮮人の自伝。日本の植民地支配から「解放」されても、中国では「鬼子」として扱われた。日本人と変わらぬ苦難で鴨緑江を越え李承晩政権崩壊時に韓国で公務員に。朴正熈・全斗煥政権下の練達外交官でノルウェー大使まで務めた。その満州体験の記述は淡々とし、対日外交最前線での貴重な証言とは無関係かに読める。だが巻末で著者は長春を再訪し、神父として残った兄がスパイの汚名で獄死したと知る。訳者の梁秀智は日本の大学で教える実娘。幼時の引き揚げ体験が平易な日本語に昇華され、重く甦る。

日中韓「東アジア共同体」を言うのはたやすい。だがかつて旧満州国で何があったかを知らずに唱えても、再版「五族協和」としか映らないだろう。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】

■2008/03/18, 週刊エコノミスト

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