メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2008年2月5日~2月12日

ステータス症候群―社会格差という病
ステータス症候群―社会格差という病マイケル・マーモット

日本評論社 2007-10
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おすすめ平均 star
star格差が健康に与える影響とは

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「健康」にも広がる格差社会的地位が高いほど……

格差と聞くと、すぐに思い出されるのが経済格差であるが、著者のマーモット氏は経済の発展した裕福な国でも、社会階層間で各種の病気になる確率や長生きの確率など健康の格差が拡大し、それが教育や職業などを通じ子供に受け継がれていると指摘する。

ワシントンのダウンタウン東南部からメリーランド州モンゴメリー郡まで車で行くと、1マイル進むごとに平均寿命は1・5年ずつ長くなり、乗車した地区の貧乏な黒人と降車した地区の裕福な白人では20年もの差が生じている。しかしこうした現象は経済的要因や医療へのアクセスの違いによってのみ説明されるわけではない。健康の社会格差は4000万人以上の国民が医療保険に入っていない米国だけではなく、全国民が国営医療制度により医療を享受できる英国でも確認される。

事実、英国の給与や失業リスクが均質的である公務員を調査した結果によると、喫煙などの生活習慣が同じであっても、社会的地位の高い職務の人ほど健康度は高い。アカデミー賞を取った俳優と、ノミネートされたが受賞できなかった俳優とを72年間のデータで追跡した結果では、所得などに差がなくても、受賞者のほうが4年も長生きしている。

世界各地のデータや時にはヒヒやサルといった動物データを用いて、健康度における連続的な勾配を持った社会格差、すなわちステータス症候群の原因究明により、たどり着いた先は「人々が生活し働いている日々の環境の違い」である。自分の人生に対し、どれだけのコントロールを持てるかといった「自律性」と、どれだけ社会参加の機会を享受できるかといった「参加の度合い」の違いが、ステータス症候群の根底に潜むという。

著者は、長年にわたり健康の社会格差に関する世界の疫学研究をリードしてきた研究者であり、基礎データに基づく彼の主張は説得的である。なかでも注目されるのは、「健康格差の研究から得られた中心的メッセージとは、格差の程度は社会によって異なり、同じ社会のなかにあっても時代によって異なる」という主張である。

1970年代後半、当時のソビエト連邦について、米国の上院議員が死亡率のデータの悪化に気づき、次の10年間で共産体制は崩壊すると宣言したという。この紹介事例は、現在、メンタルヘルスや過労死、過労自殺の増加が社会問題となっているわが国において、人々の働き方や暮らしに警鐘を鳴らしていると受け止めるのは悲観的過ぎるだろうか。【評者 樋口美雄 慶応義塾大学商学部教授】

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)
高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)水月 昭道

光文社 2007-10-16
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star傑作!
star良書です
starおもしろい本だ

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博士の「半数が失業者」厳しい現実をもたらしたものは?

失業率50%。この国の博士号取得者の実態をリポートした残酷物語である。昔から大学院を出ても就職は厳しかった。近年は大学院生が激増しているのに研究職やシンクタンクの求人は減る一方である。苦労して博士号を取ってもフリーターの道を歩まざるを得ない優秀な人材がいかに多いことか。ノラ(野良)博士という言葉まである。ロストジェネレーションとも重なる彼らは制度的矛盾を背負わされている。

この背景には、有力大学と文部科学省が既得権益維持のために手を握り、社会的需要がないのに院生を急増させた政策の誤りがあると指摘する。簡単にいえば、少子化で大学入学者が減る分を院生の増加で穴埋めするモデルである。大学院生の数と大学経営および教員定数がリンクしているのである。院生を育てるには多額の税金も投入されている。院生は「金づる」なのか、という本書の問いは核心を衝いている。

大学院の定員が急増した結果、大学院全入時代に突入した。修士課程ではカルチャーセンター化が進行しているといわれる。しかし、カルチャーセンターでは教え上手な講師が純粋に学びたい人を相手に教えているのに対し、大学院はそうともいえない。大学院の敷居が非常に低くなったために多種多様な目的で大学院へ来る人が増えている。再チャレンジ組、在留資格を得ることが目的の外国人、資格マニア、飲み友達を探しに来る中高年のなかに一部の勤勉な社会人と勉強好きな学生が混じっているのが現状である。

社会に開かれた大学院といえば聞こえは良い。しかし、旧来の大学院のイメージから脱却できない多くの教員は院生の激増と質的変化に頭と体がついていけない。一部では目を疑うような低水準の修士論文も容認されているという。実態は名目化と空洞化である。この帳尻合わせは一部の良心的な教員に押し付けられているが、その努力と忍耐にも限度がある。

企業の人文・社会系院生を見る目は今も温かくはない。企業はもともと「高度職業人」が大学院で生み出されるなどとは信じていない。需要のないところに供給が作り出された結果、院卒のデフレスパイラルは止まらない。

高学歴ワーキングプアは社会的損失である。博士号を教員免許と認定したり、小中高で専門教育者として活用してはどうか、という本書の提案は緊急に検討されるべきだ。文部科学省の役人、大学教員、大学生、保護者、高校の先生にぜひ読んでいただきたい1冊である。【評者 高橋克秀 神戸大学大学院経済学研究科准教授】

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

お家さん 上巻
お家さん 上巻玉岡 かおる

新潮社 2007-11
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star早くドラマ化を
star朝ドラか大河ドラマ希望

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お家さん 下巻
お家さん 下巻玉岡 かおる

新潮社 2007-11
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十五万両の代償 十一代将軍家斉の生涯
十五万両の代償  十一代将軍家斉の生涯佐藤 雅美

講談社 2007-12-18
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創業者妻の視点で描いた伝説商社の興亡

第1次大戦のころには、三井物産を凌いでいた鈴木商店。玉岡かおる『お家さん(上・下)』は、創業者・鈴木岩次郎の妻よねの視点で、伝説の商社の興亡を描いている。

岩次郎の急逝後、困難と知りながら店を続ける決意をしたよねに応えるため、従業員は仕事に邁進。よねを象徴として戴き、鈴木商店を世界企業へと押し上げていく。

鈴木商店は「虚業」を嫌う番頭・金子直吉の命令で、自社が商う商品を系列企業で生産しようとした。そのため採算を度外視してまで神戸製鋼所、帝国汽船鳥羽造船所(現・神鋼電機)、帝国人造絹糸(現・帝人)などを買収。また企業を支えるのは人材と考え、若手の育成にも力を入れた。その背後には、企業は社会を発展させるために貢献しなければならない、という信念があった。鈴木商店は牧歌的な家族経営のため高度資本主義の波に飲み込まれるが、その理想主義は、利益追求に汲々としている現代企業こそ見習うべきではないだろうか。

佐藤雅美『十五万両の代償』(講談社、1995円)は、徳川家斉時代の経済政策に焦点を当てた歴史小説である。

松平定信の倹約に嫌気がさした家斉は、水野忠成に贅沢ができる経済改革を命じる。忠成は大量の通貨を発行して好景気をもたらすが、家斉の夢をかなえるため、長崎貿易に薩摩藩の割り込みを許し、15万両もの貿易赤字を出す。さらに後継者の水野忠邦は、再び無意味な緊縮財政に走り幕府を疲弊させてしまう。

幕府の無策を一刀両断する著者の筆は小気味よいが、為政者の顔色だけを見て政策立案する官僚がいつの時代も変わらないと思うと、暗澹たる気分になってしまう。【末國善己 文芸評論家】

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

パイプラインの政治経済学―ネットワーク型インフラとエネルギー外交
パイプラインの政治経済学―ネットワーク型インフラとエネルギー外交塩原 俊彦

法政大学出版局 2007-12
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著者インタビュー 塩原俊彦 高知大学人文学部准教授

エネルギー資源にもある新自由主義をめぐる対立

──エネルギー問題を取り上げた本が数多くあるなか、原油や天然ガスを輸送するパイプラインに焦点を当てた珍しい学術書となっています。

■類書は日本に存在しません。ロシア以外の世界中のエネルギー企業の情報がふんだんに盛り込まれていますから、貴重な情報源にもなると自負しています。パイプラインを切り口とすることで、エネルギー資源が持つ国家安全保障上の重要性と経済的価値という両義性を分析している点も特徴です。

──両義性を持つが故に、資源ナショナリズムに代表されるような様々な問題が引き起こされるわけですね。

■ロシアの場合、パイプラインを通じて原油や天然ガスを旧ソ連諸国や欧州に輸出しており、近年はウクライナなどへのガス供給を一時停止するといった事態が発生しています。エネルギー資源が国家安全保障の観点から政治や国家権力と深く結びついている結果、パイプラインの運用政策が外交カードとして用いられているわけです。

一方で、ロシアが資源を供給しているEU(欧州連合)では、エネルギー関連企業が有するパイプラインや送電網を売却させ、それらに対するアクセス権を開放し、市場原理による競争を持ち込む流れが進んでいます。

──政治と経済の2つの原理がエネルギー資源を取り巻いている。それが現在の状況であると。

■しかも、その2つはいまぶつかり合っています。先進国では、市場優先の新自由主義的なイデオロギーが、これまで国家独占に近かった「採掘→輸送(パイプライン)→加工・販売(消費者・企業)」というネットワークの「分離」による競争激化・効率化を強いており、それを産油国にまで波及させようとしています。とはいえ、パイプライン政策は、エネルギー安全保障の観点から政治的な圧力も受けます。

逆に産油国では、ネットワークの一連の事業を垂直統合した独占企業と国家との結合が、国家による株式保有を通じて強まりつつあります。国家干渉の広がりで、政治と経済が「癒着」して、「市場の尊重」が後退しています。先進国内、または先進国と産油国間で、新自由主義をめぐる対立や権力闘争が繰り広げられているのです。

──日本はどのようなエネルギー政策を組み立てるべきでしょうか。

■本書はロシアに関する考察が中心ですが、書いて思うのは、日本の政策が脆弱であるという事実です。資源の探査・採掘の積極化については、田中角栄元首相が日本独自で積極的に取り組むべきだと考えていました。ですが、当時の米国政府やエネルギー関連企業が警戒感を持ち、「虎の尾を踏んだ」と言われています。この挫折の結果、いまでも日本のエネルギー政策は英米などの大企業に首根っこを押さえられています。

遅すぎるかもしれませんが、国内エネルギー産業改革の加速化、および、資源採掘から生産・供給までの一連の事業の垂直統合に向けて大胆な一歩を踏み出すことが喫緊の課題でしょう。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

企業の社会的責任(CSR)の徹底研究―利益の追求と美徳のバランス-その事例による検証
企業の社会的責任(CSR)の徹底研究―利益の追求と美徳のバランス-その事例による検証デービッド・ボーゲル 小松 由紀子

一灯舎 2007-11
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おすすめ平均 star
starCSRは重荷

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原題は「美徳の市場」。企業の美徳行為は、果たして売り物になるのか、ペイするのか、高くても買う消費者はどの程度いるのかなど、CSRの基本問題に切り込んだ力作。途上国の労働条件や環境、人権をめぐる欧米企業の事例を詳細に分析し、CSRの可能性と限界を指摘。美徳の市場を支える市民社会と、それを補完する政府の能力強化に向けた新たな「企業の責任」論を提示している。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義
誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義松岡 正剛

春秋社 2007-12-20
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おすすめ平均 star
star読みやすく面白い歴史書
star政治・思想・資本主義、東西の近世・近代史の基礎知識

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表現は口語体で平易だが、おそらくはとんでもないことが書かれている書。サブプライムローン問題で英米流の金融資本主義への疑問が強まっているが、それ以前に西欧近代の価値観への対案の可能性を提出する。それは必然的に、西欧近代の導入の成功とされる明治維新への疑問にもつながる。農業でいえば、直播き的な英米流の資本主義に対して、苗代を挟む資本主義、民主主義を想定する。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

中国の環境問題 今なにが起きているのか (DOJIN選書 (12))
中国の環境問題 今なにが起きているのか (DOJIN選書 (12))井村 秀文

化学同人 2007-11-20
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おすすめ平均 star
star気軽に読めて、アジアの未来を考えさせられる
starビジネス、行政、中国研究など、様々な分野の人にお勧め
starビジネスマンにもおすすめ

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急速な経済成長の半面、大気汚染や砂漠化、水不足など深刻な環境問題に悩む中国の現状を、長年にわたって日中環境協力にかかわってきた著者が冷静かつ客観的に描く。特に環境問題を中国の社会・経済・統治システムなどの背景と関連づける複眼的な視野から分析しているのが特徴で、中国の現状と未来を立体的に考えるうえで示唆に富んでいる。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

岐路に立つ日本の安全―安全保障・危機管理政策の実際と展望
岐路に立つ日本の安全―安全保障・危機管理政策の実際と展望森本 敏

北星堂書店 2008-01-11
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拓殖大学海外事情研究所主催で2006~07年に行われた危機管理・安全保障連続シンポジウムの書籍化。国際社会の最大脅威であるテロと大量破壊兵器の結合に、米国力の相対的低下、北東アジア不安定化のなか、どう対処するか、専門家の見解が分かる。自衛隊統合運用体制と米軍再編、米の対アジア戦略と日米役割分担など機微に触れる内容が満載、役に立つ。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

そこに日本人がいた!―海を渡ったご先祖様たち
そこに日本人がいた!―海を渡ったご先祖様たち熊田 忠雄

新潮社 2007-12
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元ニッポン放送報道記者。取材や趣味で世界数十カ国を回り、どの国にも日本人の痕跡があるのに驚き、世界各地に飛び出した最初の日本人を文献や史料を基に探したリポート。南米、アフリカや南アジアまで足を延ばしていた幕末、明治の先祖たちのバイタリティーには恐れ入る。150年前の海外雄飛のドキドキ感を追体験して、今の自信喪失状況を突破しよう。

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

どうすれば本当においしい料理店に出会えるか (アスキー新書 044) (アスキー新書 44)
どうすれば本当においしい料理店に出会えるか (アスキー新書 044) (アスキー新書 44)西部 一明

アスキー 2007-12-10
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star見る目を養おう

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ブームの裏にある本当の「食」

ミシュランが東京の料理店を格付けし、ザガットも2008年版レストランガイドを出版、各出版社も軒並み料理店を評価する雑誌特集を出すなど、今や料理店格付けブームとでもいえるような状況になってきている。

いったい、おいしい料理とは何なのか、おいしい料理店とはいかにして出合えるか。これらを正面から論じたのが、西部一明『どうすれば本当においしい料理店に出会えるか』(アスキー新書、760円)である。

著者は辻調理師専門学校のリヨン分校で8年間働き、その後イタリアの3つ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」などで修業したあと、東京・西麻布にレストラン「ゼフィーロ」を設立した。

著者は日本の今のグルメブームに対して大変批判的である。そしてその批判はフランスやイタリアなどでの長い滞在と食の経験からきているのである。

「日本以外の国では、グルメブームみたいなものが広がるという状況に出会いませんでした。普通に食事を楽しみ、生きるために食べている人がほとんどのように感じます」

「少なくともそうした国のそうした人々は『食』で騙されたりはしないのです」

「『国民の盛衰は、その食べ方いかんによる』『文化は貧しい暮らしからは生まれてこない』という言葉の意味は、本来、価格や情報操作で作られた価値観で生活の質を測る、ということではないのです。そういう基礎的な国民常識が崩壊してしまったら、そんな国では本物は生まれてすらこないというしかありません」

グルメブームの裏側で起きている日本の食文化の崩壊に対する西部の危機感は、評者にも共通する。食というのは文化であり、しかも文化の基本である。また、食の裏側には食材があり、それを支えるのが農業・漁業であり、その国の地域共同体なのだ。

アメリカを中心に大規模農業・畜産業、ファストフード、スーパーマーケットのシステムが作り出され、食が工業化してしまったが、本来、食は手作りであるべきものだろう。

吉兆の創業者、湯木貞一は「料理屋と屏風は広げると倒れる」と言ったそうだが、まさにその通りである。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

弾左衛門とその時代 (河出文庫 し 13-1)
弾左衛門とその時代 (河出文庫 し 13-1)塩見 鮮一郎

河出書房新社 2008-01-05
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中世民衆の生活文化(上) (講談社学術文庫 1848)
中世民衆の生活文化(上) (講談社学術文庫 1848)横井 清

講談社 2007-11-08
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中世民衆の生活文化(中) (講談社学術文庫 1849)
中世民衆の生活文化(中) (講談社学術文庫 1849)横井 清

講談社 2007-12-10
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中世民衆の生活文化(下) (講談社学術文庫 1850)
中世民衆の生活文化(下) (講談社学術文庫 1850)横井 清

講談社 2008-01-10
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前近代の差別問題に向き合うために

いつもネタに困ると、茶とか食とか、軽い話題に逃げてきたので、今回は重い問題の本を取り上げた。前近代の差別の問題を扱った文庫が期せずして相次ぎ公刊された。1つは、塩見鮮一郎著『弾左衛門とその時代』(河出文庫、756円)で、江戸時代、関八州の「えた頭」として被差別民を統括した弾左衛門をテーマとしたもの。

弾左衛門の弾の字は弾正台の弾に由来するようで、裁判権を象徴する文字であるが、ともかく弾左衛門の初見である慶長10年からこの称があった。以前(戦国期)は後北条氏に属した武蔵の土豪であったと見られる。のち浅草鳥越にあった役宅は1000坪という広大なもので、帯刀と羽織着甲を許され、江戸初期は江戸と相豆2国を管轄するだけであったが、江戸後期には水戸と日光を除く関八州と、駿・甲2国に陸奥の一部を加えた膨大な領域の被差別民を配下に収めた。皮革業と灯心藺草の販売特権を有していた。明治初年の改革で、平民に昇格はしたが、その特権はすべて失った。

次に、横井清著『中世民衆の生活文化(上・中・下)』(講談社学術文庫、上735円・中798円・下945円)は、1975年に東京大学出版会から出された同名著の文庫版で、当時から世評の高かったもの。上巻は下克上の文化と庶民の遊戯、中巻は京都町衆の生活史、下巻で卑賤観、触穢など、中世の差別問題が扱われている。横井氏一流の流麗な名文で綴られているが、内容は歴史学に突き付けられた重い問題意識に満ちている。著者は中世の差別構造の総本山ともいうべき京都の町に育ち、戦後も生きていた差別の根強い実情を見聞し、自らその渦中におられたこともあったらしい。

わが国の差別の構造は、近世幕藩制下に統制化、形式化されたものといわれるが、その源流は中世にあり、獣類肉食を忌む仏教思想の影響もあって、わが国独特の様態を生み出した。草履、雪駄は庶民の必需品であるが、皮革を原料とするのでこの構造に深くかかわっている。いずれにせよ、差別問題は厄介なものとして忌避するのでなく、国民一人一人が向き合うべきもので、この両書を広く一般に薦めたい。【今谷 明 国際日本文化研究センター教授】

■2008/02/12, 週刊エコノミスト

日本的流通の経営史 (明治大学社会科学研究所叢書)
日本的流通の経営史 (明治大学社会科学研究所叢書)佐々木 聡

有斐閣 2007-11
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メーカーの流通系列化で卸店が「共存」した謎を解く

卸売りの多段階性は、小売りの零細性・過多性・生業性と並ぶ日本の流通システムの特徴として、長い間、社会的関心を集めてきた。スーパーマーケットのような量販店が普及したのちも、いわゆる「中飛ばし」が起こらず、食品問屋をはじめとする卸売商が着実な発展を遂げたことは、多くの学者の研究対象となってきた。この卸売り機能の根強さは、メーカーによる流通系列化の動きとどのように「共存」してきたか。この興味深い問題に光を当てたのが本書である。

本書の第1の特徴は、石鹸・洗剤・化粧品業界を対象にし、明治期から1960年代までの長期にわたって、メーカー・卸店・小売店間の取引関係や取引条件の変化を大局的見地から俯瞰していることである。取り上げられるメーカーは、第2次世界大戦前・戦中・戦後のライオン、戦前・戦後の花王、戦前の資生堂である。

第2の特徴は、数多くの1次史料を発掘し、それに緻密な実証的検討を加えて、数多くの事実を見出していることである。本書に盛り込まれた多数の表の大半は、著者が発見ないし作成したオリジナルなものであるし、第4・5章で論じられる戦中および終戦直後の石鹸配給統制の実態は、今回初めて光が当てられたといっても過言ではない。

第3の特徴は、これが本書の価値を最も高めている点であるが、メーカーの流通系列化のプロセスでも卸店の主体性が基本的には確保された事実を析出したことである。メーカーが戦前において自社製品の販路を形成する際に既存の流通網を活用したこと、戦中・終戦直後の石鹸配給統制においても有力卸店が要の役割を果たしたこと、戦後になってメーカーが手形のサイト短縮などに踏み込んだ取り組みを展開した際にも個別の歴史的事情が重視されたことなどは、この事実の存在を如実に示している。

本書では、メーカーおよび卸店の主体的行動が、時系列に即して克明に描き出されている。その意味で本書は、経営史研究のすぐれた成果といえる。

残念なのは、その表題にもかかわらず、本書が、日本的流通とは何かについて、掘り下げていないことである。また、その点との関連で、再販制度導入後のメーカーと卸店との関係についての検討が他日の課題とされたことにも、物足りなさを禁じえない。再販制度導入後の時期まで分析の視野に入れないと、日本におけるメーカーと卸店との関係に関する歴史的研究は完結しないからである。【評者 橘川武郎 一橋大学大学院商学研究科教授】

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

パーシヴァル・ローエル―ボストン・ブラーミンの文化と科学
パーシヴァル・ローエル―ボストン・ブラーミンの文化と科学デイヴィッド・シュトラウス 大西 直樹

彩流社 2007-11
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天文学者ローエルはなぜ火星の文明を主張したか

パーシヴァル・ローエルという名を覚えておられる人のほとんどは、火星表面に整然とした「運河を観測」し、地球を上回る文明が火星にあると主張したやや偏執的な天文学者、というものではないだろうか。私もその1人であった。

しかし、本書を読めば、確かにその一面はあったのだが、それは彼が育った時代が生み出し、彼が持った文明進化論の1つの表れであったことがよくわかる。

ローエルは19世紀後半に、綿花産業でのし上がったボストンの上流階級(ブラーミン――インドのカースト制度にちなむ呼び名)に生まれた。豊かな財産を背景に地域の経済を握り、同族結婚で伝統を守り、ボストンの文化的な優位を保つことに腐心したブラーミン(ハーバード大学の有力なスポンサーであった)は、石油や鉄鋼業などの産業資本家に脅かされる時代を迎えていた。

この時代の変わり目において、地域に閉じたブラーミンの生き方に反撥したローエルは、より広い世界に出かけ、さらに宇宙にまで広がる夢をこそ持つべきだと考えた。遠く日本(や韓国)を旅し、まだ欧米人が誰も行っていない能登や御岳にまで足をのばしたのも、文明の多様さを知ることが目的であった。極東と西洋という異なった文明の経験は、産業社会へと移行しつつあるアメリカを客観視することを可能にしたのである。火星の文明を主張したのも、私たちを取り巻く、より大きな世界を夢想したためなのだ。

彼が生きた時代において進行したもう1つの変化は、科学と文化の分離である。優れた文筆家であり講演者・写真家でもあったローエルは科学の素養にも恵まれ、2つの分野の溝を軽々と越えることができた。日本の伝統美を楽しみつつ人類学的な研究に勤しんだのはその表れである(日本人は進化の止まった人種で科学的能力がないと断じているのだが)。スペンサーの宇宙進化論の信奉者であったローエルにとっては、火星の生命を文明進化の象徴とみなして科学と文化の融合を図ろうとする試みでもあったのだ。

本書は19世紀末から20世紀初頭という世界の変動期において、自由人として生きようとしたローエルを詳細に分析しており、現在の私たちが失ってしまった壮大な夢を追い続けた人であったことがよくわかる。

彼が主唱した火星探査や宇宙生命探索は、今や天文学の重要なトピックスになっている。その先見性も時代の産物であったのかもしれない。【評者 池内 了 総合研究大学院大学教授】

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

島田荘司 very best 10 Reader's Selection/Author's Selection (講談社BOX)
島田荘司 very best 10 Reader's Selection/Author's Selection (講談社BOX)島田 荘司

講談社 2007-12-26
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starこういう造本になるとは予想していなかった
starこれがゴッド・オブ・ミステリー?

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ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ミステリ 1808) (ハヤカワ・ミステリ 1808)
ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ミステリ 1808) (ハヤカワ・ミステリ 1808)ギルバート・アデア 勝呂忠 松本 依子

早川書房 2008-01-11
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star本格ミステリーファン垂涎の‘クリスティーに捧げる殺人事件’。

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ファンと著者が選んだ島田荘司のエッセンス

野崎六助 作家・評論家

書名は『島田荘司 very BEST10』(講談社、2625円)。これは、箱の中味を一見しても何なのか、わからない。書店に並ぶのだから、本以外のなにものでもないと伝わるはずだけれども。

近ごろは、CDにしろ、DVDにしろ、ボックス版をよく見かける。巨匠、名匠、曲者、取り混ぜてその作家のすべてをオール・イン・ワンに詰めこむ。その書籍形態がこれだと思えばよい。ただし全仕事ではなく、エッセンスだ。

島田荘司の全短編からのセレクションをワンボックスに詰めた。著者自薦とファン投票で選ばれた5編ずつ。2分冊のセットで、分売不可。どちらからも読めるボックス仕様が嬉しい。

中味を取り出してみれば本。しかして、箱詰めのハイパーモダンな外観に、ンと立ち止まる。この箱入りシリーズは、書き下ろし小説あり、コミックあり、評論もあり、雑誌の分冊形式のようでもある、ジャンル越境本として、すでに定着している。

アンソロジーは初めてだが、こうして著者の本格ミステリ一筋の四半世紀を集成して眺めるのは、ありがたく贅沢な時間だ。中味表紙の黄色と水色が、半世紀前の『世界推理名作全集』を再現する色合いなのも、何やら物狂おしく懐かしい。

ギルバート・アデア『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』(早川書房、1260円)は、タイトルからもわかるように、クリスティーの名作へのリスペクトを捧げたパロディー。書き手は名うての曲者。最初の1行から、いったいどんな仕掛けでくるのかと、眼光紙背の気合いで読んだ。

なるほど、じつに達者である。言葉遊びもふんだん、目くらましはアノ手で、メーントリックはアッチを引っ張り、贋造品の古色の出し方も入念にかもされている。……あまり目を皿にしすぎたので、いけない、無粋にも、じつに些末な誤植を見つけてしまった。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

チャイナマネーの時代―世界を動かす中国経済
チャイナマネーの時代―世界を動かす中国経済野村証券金融経済研究所 山口 正章 郭 穎

東洋経済新報社 2007-12
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著者インタビュー 山口正章 野村証券金融経済研究所アジア調査部長

経済の転換目指す中国五輪を境に社会変化も

──中国経済の現状について、この本で新しい見方を提供しています。

■中国といえば「爆食」、つまり資源を食い尽くして、世界は大変なことになる、というイメージが強い。しかし、現在の中国は「量から質へ」を目指し、内需主導、消費主導の経済に転換しようとしています。環境やエネルギー問題にも、また都市と農村、沿海部と内陸部の格差についても取り組むなど、持続可能な経済発展を模索しているのです。その理念が胡錦濤政権の「科学的発展観」であり、具体化したものが第11次5カ年計画(2006~10年)です。ところが、これらは意外に日本のビジネス界に浸透していないのです。

──書名になっているチャイナマネーの動向については、非常に関心が高まっています。

■11次5カ年計画のなかで、1つだけ事態が悪化している問題があります。対外不均衡です。意に反して黒字体質が強まり、外貨準備は貯まる一方です。かといって人民元の性急な改革はできませんから、今中国にできることは、かつてジャパンマネーがそうだったように、海外でドルを使うことしかないのです。だから、世界中で資源の権益を買いまくっているのです。

──中国が昨年、外貨準備をアクティブ運用するための国富ファンド(SWF)、中国投資有限責任公司(CIC)を設立し、話題になっています。

■2~3年前から、いずれ中国はSWFを設立せざるをえないと見ていました。というのは、積み上がった外貨準備に見合う形で、中国人民銀行は不胎化のための中央銀行手形を発行しています。現在の中国は金融引き締めが行われている一方、人民元とドルの交換レートは5%程度元が切り上がっており、米国債で運用していたのでは、そのうち逆ザヤになるからです。今後チャイナマネーが影響力を強めていくことは間違いありません。中国がチャイナマネーをうまくコントロールして国力を増すのか、それとも円高バブルの日本のように、チャイナマネーの暴走を許してしまうのか、今後の中国を見るポイントだと思います。

──本書では北京五輪の経済効果についても試算していますが、随分小さいので驚きました。

■一般に、五輪までは景気過熱、五輪後は不況になるといわれていますが、われわれの計算では、08年の五輪によるGDP押し上げ効果は、0・25%にすぎません。ということは五輪後の落ち込みも小さく、不況には至らないと見ています。中国経済にとって北京五輪は、ささいなプロジェクトでしかないのです。1964年の東京五輪の時の日本経済と比べて、今の中国経済ははるかに大きく、進んでいるからです。それよりも、日本がそうだったように、五輪を境に、中国の社会構造、消費構造が変わります。そこにビジネスチャンスが眠っていると考えるべきなのです。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

北朝鮮vs.アメリカ―「偽米ドル」事件と大国のパワー・ゲーム (ちくま新書 699)
北朝鮮vs.アメリカ―「偽米ドル」事件と大国のパワー・ゲーム (ちくま新書 699)原田 武夫

筑摩書房 2008-01
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starサクラの指摘がありましたが・・・・
star驚愕の推論です
star残念だ・・。

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北朝鮮といえば日本では核開発と拉致事件を連想する。昨年1月の米朝ベルリン協議以降の米朝接近がなぜ起きたか、不明なままだ。著者は欧州を含めた先進諸国が北朝鮮の良質で安価な労働力と豊富な鉱物資源を狙って利権争奪合戦を始め、アメリカの朝鮮利権参入への動きが今回の一連の騒動の裏にある、と説く。国際金融をめぐる動きの紹介など視野を広げてくれる。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

中国ニセ食品のカラクリ
中国ニセ食品のカラクリ富坂 聰

角川学芸出版 2007-12
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star抜群に面白い!!!

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人造卵やホルマリン漬け鮮魚など、想像を絶する不正食品が出回る中国の食品事情。おぞましさすら漂う不正の現場を、赤裸々にリポートする。それにしても、少なくない業者がそのような「黒心」(良心に恥じる行為)に走るのはなぜか。その背景に、過酷な競争社会に追いつめられた敗者の生き残りへの執念を見る著者は、中国製品に安さだけを求めてきた日本社会の価値観のあり方をも問い返している。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

追いやられる日本
追いやられる日本潮田 道夫

毎日新聞社 2007-12-22
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21世紀に入って日本の国際社会での存在感が急速に薄れている。1989年末の世界時価総額番付(上位20社)を見ると、日本企業が14社を占めたが、昨年末ではゼロ。代わって中国企業が8社を占めトップに立った。日本は、世界の脇役に追いやられつつあるようだ。日本のマージナライゼーション(辺縁化)の危機の内実に迫る。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

地球の呼吸はいつ止まるのか?―エネルギー・環境連立方程式
地球の呼吸はいつ止まるのか?―エネルギー・環境連立方程式デヴィッド・ハウエル キャロル・ナフル 枝廣 淳子

ウェッジ 2007-12
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「エネルギー・環境連立方程式」の副題のように、英国のニコラス・スターン卿、アル・ゴア米元副大統領ら環境保護論者の理想論を批判、あくまで目先のエネルギー安全保障と折り合いをつけながら、温暖化問題に対処すべきで、そうしなければ逆に破局を招く、と説く。「長い時間軸と短い時間軸の調和」という考え方は冷静で現実的な議論の基礎となるだろう。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎ダニエル T.マックス 柴田 裕之

紀伊國屋書店 2007-12
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致死性家族性不眠症という遺伝病がある。50歳を過ぎると発病し、不眠の揚げ句に死に至る。原因は、プルジナーが牛海綿状脳症の病原体として特定したプリオンだ。その後さまざまな病気で、病原体はプリオンではないかという可能性が生まれた。そして人類の多くはプリオン病にかかりにくい。なぜか。そのなぞは途方もなく古い時代の食人習慣にさかのぼる。

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

叡智の断片
叡智の断片池澤 夏樹

集英社インターナショナル 2007-12
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star素晴らしい引用の数々

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名言で教養を身につける

私の知り合いの某有名人と賢く見せる方法について論じ合ったことがある。

彼は言った。『経済入門』『心理学入門』『宗教入門』というふうに、あらゆるジャンルの入門書を読んで、何でもある程度知っている状態になることだと。

薄っぺらのように聞こえるかもしれないが、知性のベースに知識があるのは否めない事実だ。だから、私は詰め込み教育を支持する。

私自身、小説とか詩とかをほとんど読まないので、教養というものが全くといっていいほどない。学歴で誤魔化しているが、賢そうに見えない理由と反省している。

だが、年を食ってくると教養がありそうに見せる必要は高まる。そう思っていたら、便利な本を見つけた。芥川賞作家、池澤夏樹さんの『叡智の断片』(集英社インターナショナル、1680円)である。

作家、政治家、そのほかのセレブリティのウイットに富んだ名文句が満載されている。会話のなかに盛り込むだけで、教養だけでなく、ユーモアのセンスもある人間と思われること請け合いだ。

池澤氏の最高のお勧めのユーモア。

「ミッテランには百人の愛人がいる。その中の一人がエイズなのだが、それがどの女か彼は知らない。ブッシュには百人のボディガードが付いている。その一人は実はテロリストだが、それが誰か彼にはわからない。そして私には百人の経済顧問が付いていて、その一人は優秀なはずだが、それが誰だかが私にはわからないんだ」――ゴルバチョフの言葉だそうだ。素晴らしいセンスに敬服する。

民主主義とポピュリズムに関する名言。

「民主主義とは、人民の、人民による、人民のための脅迫である」――オスカー・ワイルドの言葉だそうだ。最近の日本の世論の動向を見ていると、よく当てはまる。「民主主義とは、半数を超える人々の選択が、二回に一回以上は正しいのかもしれない、という仮定の上に成り立っている」とはE・B・ホワイトの言葉。

本をあまり読んでいない人や、その時間がない人は、こういう引用がちょっとできれば、かなり知的に見える。本当はこうした名言を知ることが知的になるための第一歩だと思うのだが。

ただ唯一の難点は、年をとってくると記憶力が衰えて、誰の言葉かということを覚えられないことだ。【和田秀樹 精神科医】

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

十字軍の思想 (ちくま新書)
十字軍の思想 (ちくま新書)山内 進

筑摩書房 2003-07
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star「地下水脈」というタームは絶妙
star十字軍の史実を勉強してから読みましょう
star十字軍を支える思想とは

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十字軍―ヨーロッパとイスラム・対立の原点 (「知の再発見」双書 (30))
十字軍―ヨーロッパとイスラム・対立の原点 (「知の再発見」双書 (30))ジョルジュ・タート

創元社 1993-09
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starいい本だが8回のバランスが難
starバランス良い良書
star十字軍入門の良書

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欧米人の思考の底にある十字軍という出来事

「相手の立場になって考えれば、大抵のことは怒る気にならない」と言ったのはリンカーンだった。それにならえば、他者の理解し難い部分に思い及ぼすのも他者を知る最短コースと言えないだろうか。

世界史のなかで十字軍という出来事は分かりづらい。だが、欧米人の思考の底には脈々と流れるという。山内進『十字軍の思想』(ちくま新書、756円)はその地下水脈を掘り当て、時折の噴出に注意を促す。

世俗権力が強大であれば、聖戦という大義は生まれにくい。10世紀ごろ、世俗の領主たちは対立し混乱していた。平和を願う気運が高まり、「神の平和」が希求される。それは聖なる平和であり、なにものにも汚されぬものだった。この浄化という宗教的情熱が聖地エルサレムの奪回へと人々を突き動かす。

そもそもイスラム教徒は必ずしも殲滅すべき敵ではなかったのだ。しかし、いったん聖戦の情念に火がつけば、汚れたものはどれも殲滅されるべきものだった。カタリ派などの異端運動もスラブ人などの異教徒も抹殺すべき敵になる。こうして「北の十字軍」や「モンゴル十字軍」も出現した。

やがて20世紀のボーア戦争にもアルジェリアの植民地化にも、十字軍のメタファーが持ち出されるのだった。その底流は今日のアフガンやイラクにおける米軍の派遣にも潜んでいる。なにしろ、最近のギャラップ調査によれば、アメリカ人の48%が神の天地創造を信じており、進化論を認めるのは28%にすぎないというから驚く。

ところで、聖地奪回運動としての「ナンバー十字軍」に限れば、ジョルジュ・タート『十字軍』(創元社、1575円)が手ごろである。これまでの十字軍研究はヨーロッパ側の史料を主とするものだった。だが、イスラム側にもサラディンによるエルサレム奪回などの「対抗十字軍」のプロパガンダがあり、それはほどなくジハードと結びつく。当初は独立心の強いシリアの都市では十字軍は敵とは見なされていなかったという。双方の視点をバランスよく収めた本書は、多数の図像とともに気軽な読物になっている。【本村凌二 東京大学教授】

■2008/02/05, 週刊エコノミスト

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