メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年7月3日~7月10日

ホメイニ師の賓客 上―イラン米大使館占拠事件と果てなき相克 (1)
ホメイニ師の賓客 上―イラン米大使館占拠事件と果てなき相克 (1)マーク・ボウデン 伏見 威蕃

早川書房 2007-05
売り上げランキング : 27530


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ホメイニ師の賓客 下―イラン米大使館占拠事件と果てなき相克 (3)
ホメイニ師の賓客 下―イラン米大使館占拠事件と果てなき相克 (3)マーク・ボウデン 伏見 威蕃

早川書房 2007-05
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米とイラン、対立の原点をドキュメンタリータッチで描く

1979年に発生した、イラン人学生たちによるテヘランのアメリカ大使館占拠事件は、アメリカ人に根深いイラン不信を与えた。この事件は、アメリカとイランの断交をもたらし、アメリカは、90年代のクリントン政権時代、イランに対する制裁法を成立させ、さらに現ブッシュ政権は、イランをイラク、北朝鮮と並ぶ「悪の枢軸」に含め、イランが進める核エネルギー開発を極めて危険視するようになった。

本書は、そのアメリカ大使館占拠事件をドキュメンタリーとして追ったものだ。著者のマーク・ボウデンはソマリアでのアメリカ軍の戦闘を描いた『ブラックホーク・ダウン』の著者としても知られる。豊富な取材によってアメリカ大使館の人質たちとイラン人学生たちのやり取りや、人質たちのイランとのかかわりも克明に描かれている。80年4月に行われた「イーグル・クロウ」という人質救出作戦がどうして成功しなかったのか、緊迫感をもって詳細に描写されている。

この人質事件は、無謀とも思われた救出作戦が失敗し、さらに3年にわたって人質が解放されず、カーター政権の威信を大きく傷つけたことによって反米的な主張を持つイラン人たち、特にイスラム政治勢力にある種の自信を植え付け、彼らの権力を強化することになったことも本書では明らかにされている。

大使館を占拠した学生たちはカーター大統領が離任する直前まで人質を解放することがなかったが、彼らはあくまでアメリカに対する「勝利」を考えていた。また本書は大使館にとらわれていた人質たちのその後や現在の様子、さらには著者自身のイラン訪問記やイラン・イスラム共和国観にまで触れている。

アメリカとイランの緊張が高まっている時だからこそ、この本が出版された意義がある。ボウデンの「多くのアメリカ人にとって、イラン人質危機はイスラム・ファシズムとの最初の遭遇であった」などの表現はイスラムやイランに対するアメリカ人の典型的な偏見を表しているかのようである。

人質を取ったイラン人学生たちとイランの現体制に対する著者の嫌悪感や侮蔑も強く感ずる。また、53年当時にイランが「ペルシャ」と呼ばれていたなどイラン現代史に関する記述にも不正確なところが時折見られた。しかし、現在注目されるアメリカとイランの対立の歴史的、あるいは心理的要因が特にアメリカ側の視点から明快に理解できる作品であるといえよう。【評者 宮田 律(静岡県立大学国際関係学部准教授)】

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

リスクファクター
リスクファクターステラ・リミントン 田辺千幸

ランダムハウス講談社 2007-06-02
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五つの星が列なる時
五つの星が列なる時マイケル・ホワイト 横山 啓明

早川書房 2007-05
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英情報局女性元長官の見事な小説家デビュー作

作者の前歴を知りたがるのも読者の特権。

ステラ・リミントン『リスクファクター』(ランダムハウス講談社文庫、998円)の作者はなんと、女性として初のイギリス情報局長官のポストまでのぼりつめた人物。しかも引退後、自伝を書き、おまけにこの作品で小説家デビューを飾った。

だがこうした経歴の人が小説を書くと、体験依存型の大味な活劇になったり、某重大事件の「今だから明かせる」的インサイドストーリーになったりするので困る。その点、本作は違う。経歴の威光を借りなければセールスできない代物ではない。英国スパイものの伝統に連なる見事な達成である。

話は、イギリス本土に潜入したテロリストと彼らを追いつめる政府機関との攻防を描く。政府機関と警察とが連携するよりも互いに裏をかき合う、といった展開もおなじみのパターン。テロの真の目標は後半になって明らかになるわけだが、これが素朴に設定されていて、いわゆる狂信的テロの類型に陥っていないのは救いだ。大義が大国にのみあるというのは、もちろん得手勝手な幻想にすぎない。エンターテインメントを通してまでこの種の幻想を強要されるのにはうんざりするが、本作にその心配はない。

それにしても英国の自然風土はずいぶん苛酷だと、この小説によって具体的に知らされる。

マイケル・ホワイト『五つの星が列なる時』(早川書房、1890円)も第1作。この作者は(比べるのは不適切かもしれないが)、科学方面で多くの著作がある。

小説にも科学啓蒙書の特質がよく表れていてわかりやすい。残虐サイコ殺人を占星術の法則に結びつけ、さらには近世錬金術にまで大風呂敷を広げていく。プラス暗号解読もあり、こういうサービス満載は『ダ・ヴィンチ・コード』流行以来のサスペンス・コードなのかと感心した。【野崎六助 (作家・評論家)】

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実
僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実草薙 厚子

講談社 2007-05-22
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おすすめ平均 star
starまじめな子どもも大人も危ない
star”僕”とその他の人の思惑のズレ
starカギは、人間のもつ特質

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著者インタビュー 草薙厚子(ジャーナリスト) 『僕はパパを殺すことに決めた ――奈良エリート少年自宅放火事件の真実』

事件の真実を伝えていけば対処法は分かるはずです

──昨年6月に奈良で起きた医師宅放火殺人事件。進学校に通う高校1年の少年Aが自宅に火を付け、継母と幼い弟妹の3人が亡くなった。その「事件の真実」とサブタイトルが付いています。これまでも少年事件の著作がありますが、なぜ少年事件なのですか?

■学生時代から少年非行に関心はあったので、卒業後に少年鑑別所の法務教官になりました。しかし理想と現実のギャップがあり過ぎて2年で辞め、その後はテレビ局や外国の通信社に勤めました。ただ少年事件は10年ほど前から取材を続けていました。

──今回の著書には、少年Aを含む多数の関係者の供述調書が引用されています。そのことで法務大臣が「少年法に対する挑戦」と発言し、奈良家裁から抗議も受けました。供述調書はどうやって手に入れたのですか。

■入手方法は、当然ですがお答えできません。家裁からの抗議や法相発言は真摯に受け止めますが、少年法の精神を軽視しているわけでなく、ましてや挑戦しているつもりもないんです。ただ、少年事件に携わる司法や行政の関係者のなかにも、私の仕事を肯定的に捉えてくれる人はいるということです。

──そうした人から託されたと考えてもいいのですか?

■それにも答えにくいですが、少年事件は一般の事件に比べて、明らかにならないことが多い。事件を起こした子供たちの動機を「心の闇」で片づけて、それ以上追及しない。そこをあいまいにしたままだから、事件から教訓を得られず、再発を防ぐこともできないのだと私は思います。この本を読んだすべての親に、家族のあり方をもう一度考えてほしいんです。

──この事件は、エリートゆえの特別な例ではないとも書いています。

■そうです。これまで取材した例で見ると、ほとんどの親子関係で共通項があります。それは親が、(1)期待しすぎ、(2)過干渉、(3)放任――の3つです。過干渉と放任は相反するようにも思えますが、ありうるのです。この少年の場合でいえば、指導と称して父親は厳しく勉強を強制していますが、社会性については放任している。私の同世代の友人たちは子供の育て方が分からないと怖がっていますが、バランスを取ることが事件を防ぐことになると思います。事件の真実を伝えていけば、対処法は分かるはずです。この少年もちゃんとシグナルを出していたんですから。

──死亡した継母で、本文中で唯一名前が出てくる民香さんのご両親とは直接、話をされていますね。唯一救われる部分でした。

■事件の3カ月後に訪ねました。私は前から、少年は「広汎性発達障害」だと書いてきました。これで事件を読み解くと理解しやすい。民香さんのご両親は、それを読んで思い当たることがあったようです。娘を殺した憎い“孫”のはずですが、ご両親は彼が出所したら支えてやりたいとおっしゃっています。それが民香さんの気持ちだろうと。

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

上杉謙信に学ぶ事業承継
上杉謙信に学ぶ事業承継北見 昌朗

幻冬舎 2007-06
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おすすめ平均 star
star歴史に学ぶ経営
star社長の必読書
starまたまた、頭を殴られた気持ちです

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49歳で急死した上杉謙信は、後継者を指名していなかった。内乱の末に養子の景勝が跡目を継いだが、謙信のようにはいかず、関ヶ原のあと徳川家康に降伏し、15万石の小大名として生き延びた。まるでカリスマ創業者と2代目を見ているような……。著者は中小企業の賃金・人事問題コンサルタント。茶目っ気のある書き方で、上杉謙信から事業継承の教訓を引き出している。

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

密約―外務省機密漏洩事件
密約―外務省機密漏洩事件澤地 久枝

岩波書店 2006-08
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おすすめ平均 star
starわからない
star国民の知る権利

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1972年に発効した沖縄返還協定で米軍用地復元補償費400万ドルの日本側肩代わり密約があった、と報道した著者が情報提供者だった外務省女性事務官とともに国家公務員法違反で逮捕され、有罪判決が確定した。著者が追った密約の全貌が明かされる。沖縄返還で行われた政治家の密室の裏切りは現在進行中の米軍再編にも持ち越されている、と警鐘を鳴らす。

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

大本襲撃―出口すみとその時代
大本襲撃―出口すみとその時代早瀬 圭一

毎日新聞社 2007-05-23
売り上げランキング : 5773

おすすめ平均 star
star昔はこんな時代だったのでしょう

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明治維新後、日本は貧しかった。民衆宗教に救いを求める庶民が続出した。出口なおが開いた「大本」は娘婿、出口王仁三郎の努力で大きく発展。軍幹部にも影響を与えたため、国体の変革を狙う宗教ではないか、と恐れた国家権力が弾圧に乗り出した。昭和10年の第2次大本事件である。王仁三郎の妻で二代教主、出口すみの生涯を描きながら事件を掘り下げた大作だ。

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

癌はもう痛くない ペイン・クリニックはここまできた
癌はもう痛くない ペイン・クリニックはここまできた花岡 一雄

祥伝社 2007-05-24
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がんの緩和ケアは誤解だらけ

実は、私は、この春に映画を作った。

「受験のシンデレラ」という映画で、がんで余命1年半と宣告された受験界のカリスマが、初心に戻って貧乏な少女を東大に合格させるという話である。

自分としては、受験版の「あしたのジョー」のつもりで作ったのだが、丹下段平に相当する受験のカリスマの設定について、たまたま私の同級生が、東大の緩和ケア診療部長をやっていて、緩和ケアの勉強会でゲスト講師を頼まれたことから、これを映画に使いたいと思った。

そのくらい緩和ケアが知られていないと思ったからだ。要するに、これは、末期の慰めではなく、がんの苦痛から解放し、残りの人生の質を高める治療のことだ。例えば、私の映画の場合、がんの痛みやだるさを緩和ケアで楽にしてもらって、最後の2年、健康人のように受験指導に専念できるという話にしてある。

その勉強会の代表で、当時は東大麻酔科の教授だった花岡一雄先生の新刊『癌はもう痛くない』(祥伝社新書、777円)は現代人の新常識と言える本だ。

緩和ケアのなかでもっとも誤解されているものに医療用の麻薬がある。余命を縮めるとか、中毒になるとか思われ、敬遠されている。しかし、痛みが軽減されたほうが食欲なども出るので、むしろ余命も延ばすし、痛みの治療で、経口で使う限りは依存症にならない。最近では治るがんでも痛みの治療に使うそうだ。

本書が親切なのは、痛みをどう医者に伝えたらいいかなど、患者の立場の話が具体的に記されている点だ。緩和医療の解説もコンパクトでわかりやすい。

要するにがんの痛みを我慢する必要がないどころか、我慢しないほうがいいという新常識を親切に教えてくれる。

だが、私が映画に盛り込みたいと思ったほど、この手の啓蒙は遅れている。

実は、本年4月から「がん対策基本法」という法律も施行され、緩和医療を早期から適切に行うことも記載されている。しかし、本書を読んで、あるいは私の実感からしても、法律以上に大切なのは、人々が緩和医療をもっと知ることだ。

緩和ケアを行う私の同級生は、「むしろがんで死にたい」と言う。痛みや苦しみがないのなら、死期がはっきりし、死の準備もでき、最期まで頭もはっきりして体も動くがんのほうがほかの病気よりよほどいいと。これには私も同感だ。【和田秀樹 精神科医】

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

中世ヨーロッパの社会観
中世ヨーロッパの社会観甚野 尚志

講談社 2007-06-08
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世界一周の誕生-グローバリズムの起源
世界一周の誕生-グローバリズムの起源園田 英弘

文藝春秋 2003-07-19
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おすすめ平均 star
star歴史家がせまる世界一周の「起源」
starグローバル化現象の起源を交通史から解き明かす
star世界一周の誕生

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象徴に現実を重ねる中世欧州人のまなざし

わかりにくいことはしばしば何かにたとえられる。われわれ現代人なら世界を囲碁やチェスに見立てるだろうか。あるいは蜜蜂の生態になぞらえるだろうか。だが、中世の人々はいとも簡単にそうできるのだった。

甚野尚志『中世ヨーロッパの社会観』(講談社学術文庫 、1050円)は近現代人には思いもよらない隠喩の象徴世界を明らかにしてくれる。王蜂のもとにおびただしい数の仕事蜂が集まる。彼らは性交もなしで種族を再生するのだから、聖なる神の摂理をなによりも実現する生物と見なされていた。シェイクスピアの史劇のなかでも、蜜蜂は自然の法則に従って秩序ある行動を教えてくれる、と大司教がヘンリー5世を諭している。われわれなら、せめてエリザベス1世ならと思いたくなるのだが。もっとも、王蜂は実は女王蜂であり、それも空中高く上がって性交するのが観察されるのは近代になってからのことなのだ。

チェスはインドからペルシャ、イスラム世界を経てヨーロッパに伝えられたという。そのチェスの駒と諸身分が対比され、社会の階層秩序がわかりやすく説かれる。王と王妃の並びに裁判官、騎士、代官がおり、医者、商人、公証人、鍛冶屋、農民などがおり、のらくら者までがいる。

このようなシンボル思考は象徴に重ねて現実に意味をもたせるものだった。現代人には想像力の遊びにすぎないものでも、中世人には思考に生命感をもたらすものだったという。

中世の世界観は地球が丸いということすら想像もできなかった時代のものである。それが知識であるばかりか、実感できるようになるのは19世紀後半のことである。鉄道で大陸横断がなされ、蒸気船で大洋の定期航路ができるようになってからだ。

園田英弘『世界一周の誕生』(文春新書、735円)はヒト・モノ・情報が「丸い地球」をめぐりだした時代の証言に取材しながら、今日のグローバリズムの起源をたどっている。明治4年に横浜を出発した岩倉使節団は1年9カ月で世界1周の旅を終わる。あの『八十日間世界一周』とほぼ同時期の出来事だったのだ。【本村凌二 東京大学教授】

■2007/07/10, 毎日エコノミスト

英文の読み方
英文の読み方行方 昭夫

岩波書店 2007-05
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おすすめ平均 star
star真に英文を読む下すための1冊
star想像力の格闘家
star英語を学んでいる大学生は是非読んで!

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著者インタビュー 行方昭夫(東京大学名誉教授)

ピンぼけ翻訳は文脈や筋がわからないから

――「アイ・ラブ・ユー」は「愛している」とは限らない、といった意表を突く指摘で始まりますね。

■大学の授業で努力しているのは、英語が苦手な学生にも興味を持ってもらい、よくわかれば英語が面白いと悟ってもらうこと。この本でも身近な経験や例文を使いゆっくりステップを登るように説明しました。英語力の必要性を感じながら、何から手を付けたらいいか迷っているビジネスマンなどを念頭に置いています。

――読むだけで、聞き、話す、書くといった力は身に着きますか?

■英会話の場合も基本的な部分は「読む」と同じ。文法や語彙などを身に着けていれば、発音の訓練をすれば話せます。逆に基本がおろそかな人はいつまでもいい加減な会話しかできない。英文和訳をとっさにやるのが「聞く」ことですから。

――高校や大学で英語講読の人気がないそうですね。

■学生が嫌っていて、教師も日本語訳を飛ばしてそのまま理解させる授業をやっています。会話だけ教えてくれという人もいるが、読むことなしには進めないのです。

――訳読が嫌われている理由は?

■英単語を一つ一つ置き換える、いわゆる一対一の翻訳をしているからだと思います。例えば「メアリーは元気のいい少女でした。会社の上司が女性蔑視の発言をすると必ず文句をいいました」などと英文を訳す学生がいる。でも、この場合、「ガール」=「少女」でいいのか。読むというのは、実は豊かな想像力や推理力を必要とし、わくわくするほど面白いもの。何となくの訳語しか浮かばない、ピンぼけ翻訳はたいてい、背景となる文脈を指すコンテクストを捉えていないからですね。

――文脈や筋、行間を知ることは、英文理解のために重要なんですね。

■これは出版したあとの話ですが、ビジネスマンの知人から手紙がきた。本に出てくる「アイ・クッド・ノット・アグリー・モア」という言葉を実際の商談で聞いた時、プロの通訳が「賛成できない」と訳したらしい。交渉はうまくいったのに変だなと首をかしげていたら、相手が気付いて「大賛成だよ!」。知人は前後関係から分かったんですね。

――さて、社会人が英語を身に着けるためには何をしたらいいでしょう。

■多読です。英国では歴史的に植民地に英語を浸透させるために難易度別の読本をたくさん出版しています。文学だけでなく歴史や経済の仕組み、野球などバラエティーも豊かです。書店で最初の2ページほどを読んでみる。知らない単語が2、3個というレベルで関心を持てる内容なら買って読む。読み終えてもすぐに水準を上げてはいけません。同程度のものを10冊読んでから、はじめて上に進み、また10冊。読破するうちに英文への恐怖心が薄れ、英語に慣れます。実行している人は少ないのですが、それを続ければ必ず、米経済紙の『ウォールストリート・ジャーナル』も読めるようになります。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

「改憲」の系譜―9条と日米同盟の現場
「改憲」の系譜―9条と日米同盟の現場共同通信社憲法取材班

新潮社 2007-05
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おすすめ平均 star
star改憲への潮流

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国民投票法が成立し、憲法改正が風雲急を告げる。9条は日米安保と表裏一体で戦後日本を繁栄させたが、北朝鮮の核など新たな脅威にどう対処すればいいのか? 昨春まで配信した大型企画に大幅加筆した。参事官制度をめぐる内局と制服組の対立、FSX国産開発問題、ミサイル防衛構想、同盟変質、返還後の沖縄が抱える課題など、重い問題を読みやすくまとめている。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

徹底予測これが新成長ビジネスだ!―日本をリードする55のフロンティア
徹底予測これが新成長ビジネスだ!―日本をリードする55のフロンティア三菱総合研究所

日本経済新聞出版社 2007-05
売り上げランキング : 13373


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三菱総研の将来予測最新刊。これからの10年が「黄金の10年」になり得るという明るい見通しをもとに、心の豊かさを含めたさまざまな価値を生み出す新技術と新ビジネスを紹介。総合シンクタンクの陣容を生かし、ナノテクノロジーから環境ビジネスまで幅広くカバー。特に先端的な科学技術の平易な解説に力を入れている。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

強い会社は「周辺視野」が広い
強い会社は「周辺視野」が広いジョージ S.デイ ポール J.H.シューメーカー 三木 俊哉

ランダムハウス講談社 2007-04-17
売り上げランキング : 166948

おすすめ平均 star
star"兆し"を見逃さない組織を構築するために

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複雑で変化の速い社会では、視界の中心部だけでなく周辺部で生じる微弱なシグナルをキャッチし、読み解く「周辺視野」が組織の明暗を分けかねない。具体的事例や各種研究の学際的整理を基に、普段は見逃しがちな周辺部の小さなシグナルにも敏感になるために必要な要素を7段階に分けて体系的に解説、「先読み」と「備え」能力を高める方策を提言している。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

日本人のための歴史学―こうして世界史は創られた!
日本人のための歴史学―こうして世界史は創られた!岡田 英弘

ワック 2007-05
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歴史に進歩はない、偶然の積み重ねが歴史をつくる、と説く中央ユーラシア歴史学の泰斗が2001年出版の旧書を改訂。663年の白村江の敗戦に危機感を持った倭人が公用語を中国語から新しい国語に代え、日本を建国した、とか、世界史は大モンゴル帝国から始まる、とか、「日中友好」は災禍の歴史だ、など持論を展開する。楽しく元気の出ること間違いなしの一冊だ。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

支倉常長―武士、ローマを行進す
支倉常長―武士、ローマを行進す田中 英道

ミネルヴァ書房 2007-05
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イエズス会に導かれた天正少年使節の帰国から13年後の1613年、伊達藩の遣欧使節支倉常長はフランシスコ会のソテロを伴い、スペイン領メキシコに至る。さらに大西洋を渡ってスペインのフェリペ3世から洗礼名を賜り、ローマ法王パウロ5世に謁見した。常長の残した19冊の記録は失われ、帰国した日本はキリスト教を禁じていた。ソテロを批判するイエズス会の史料を基に、常長の遣欧使節は失敗とされる。だが著者は、通商・外交的に大成功とする。

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

グローバル経済を学ぶ
グローバル経済を学ぶ野口 旭

筑摩書房 2007-05
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おすすめ平均 star
star前著とほぼ同じ内容ですね
star良書

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グローバル経済とは何か? 「通念」を打破する正統派啓蒙書

グローバル化、グローバリゼーションほど、多様な意味で用いられている言葉もそう多くはないだろう。最近陸続と刊行されている関連書籍も、新しい帝国やグローバル資本主義の危機といったきらびやかな意匠をまとっていて実ににぎやかである。

本書は、そうしたにぎやかさとは明確に一線を画す。人々はグローバル経済についてあたかも「亡霊」であるかのように思い、不安を抱いている。しかし、そういう不安は多くの場合、人々の思い込み、「通念」にすぎない。例えば、国々が生存をかけた死闘を行っているという思い込み(国際競争主義)がそれである。競争しているのは企業であって国ではない。また、現代において通貨危機が多発するといった思い込み(グローバル資本主義の危機)がそれである。通貨危機とは固定相場制という特定の国際通貨制度につきものの現象である。

反面、著者はグローバル経済の影を指摘することも忘れない。グローバル経済とはモノ、ヒト、カネの国際間取引の拡大であり、そこには光、すなわち利益もあれば、影、すなわちその不利益もある。自由貿易の利益が実現する背後には必ず衰退産業が消滅していく過程がある。その時の「痛み」を適切に認識し、対処しなければ、グローバル化は円滑に進行しないだろう。

本書は、近来まれに見るほど正統的かつ模範的な経済学啓蒙書である。最近新訳が刊行された『国富論』をひもとけば分かるように、アダム・スミスは多くの人が信じている「通念」から説き起こし、その問題点を指摘する形で議論を進めている。スミス以来の経済学の歴史は、重商主義から幼稚産業保護論、ひいては開発主義といった国際競争主義との対決の歴史であった。経済学者がこうした「通念」の打破を強調するのは、彼らが良い政策の基礎としての経済学の有効性を信じているからである。比較優位説や貯蓄投資バランスを淡々と説く著者の冷静な分析の背後には、社会を改良せんとする情熱が隠されている。

著者は、人々はグローバル経済の光よりも影を過大視する傾向があるという。また人々は生まれながらにして国際競争主義者なのだろう、ともいう。それはなぜなのか。さらに影の部分に適切に対応するにはどのような制度や政策が必要なのか。本書のような優れた啓蒙の努力がその答えである。と同時に、これらの疑問は、啓蒙には限界があることをも示すのだろうか。すべての経済学者に突きつけられた課題である。【評者 若田部昌澄 早稲田大学政治経済学術院教授】

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

iPodは何を変えたのか?
iPodは何を変えたのか?スティーブン・レヴィ 上浦 倫人

ソフトバンク クリエイティブ 2007-03-29
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おすすめ平均 star
star小さな成功の積み重ねが大きな成功へ
star功績

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挿話で描く革命的商品の物語 賞賛が過ぎる点もあるが……

アップル・コンピュータ社を根強いファン向けのニッチ市場から一般市場へ進出させ、わずかな期間で同社の利益の過半を稼ぎ出し、社名からコンピュータの名前を削除させた、家電史上もっとも成功した商品の一つ、iPodについて書かれた本である。それも高名なテクノロジー専門の記者の手になるため、開発や販売秘話に終わるわけがない。

iPodがもたらした革命の記録者たらんと著者は情熱を傾け、膨大な挿話を駆使して、興味ある物語を伝説にまで高めようとしている。音楽をパッケージメディアから解放し、ネジも電源スイッチもないシンプルで明快なデザインとインターフェースを完成させ、ポッドキャスト、映像への展開など、iPodの革命がいかに大きなものであったかを畳み掛けてくる。無理だと思われた音楽メジャーを束ねて有料ダウンロード・サービスを開始できたのも、見事なデザインに結晶したのも、伝説的存在である最高経営責任者のスティーブ・ジョブズならではの力業であるというのも説得力がある。iPodが違法ダウンロード、私的複製など、デジタル化が引き起こした社会問題に浮かぶ旗艦であることが分かってくるところなどは、著者の独壇場だ。

しかし読み進むうちに、アップル・コミュニティーのインサイダーである著者ゆえに、デジタル・エリートの自慢話を聞かされているような気分になり、白けてくる。情報収集力、歴史的文化的な位置づけ、達意の文章、あらゆる面で一級の書であることは間違いないが、iPodを「崇める呪物」と言い、本書の最後の文であり原題にもなっている「パーフェクト・シング」と言うように、iPodへの偏愛が度を超している。

本書でもiPodの先導役として繰り返し紹介されているソニーのウォークマンも、音楽を室内から出して生活習慣を変えた商品であったが、iPodに置き換えられた。電子機器である以上、パーフェクトであるわけがなく、メディア技術の激しい変遷を見続けてきた著者としては、賞賛が過ぎるように思う。音楽業界への痛烈な批判は痛快だが、何でも技術が解決する前提に立っているようで楽観的すぎる。iPodの決定的な欠点としてネットワークに直接繋がっていないことがあるが、それについては全く触れられていない。

iPod賛歌としてはパーフェクトで、訳文もこなれていてパーフェクトと言っていいほどだけれど、この本をまだiPodで読んでいない。【評者 浜野保樹 東京大学大学院教授】

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

銀しゃり
銀しゃり山本 一力

小学館 2007-05-31
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丹念な時代考証で描く浮世絵師の娘の成長

今、粋で気っ風のいいヒロインを書かせたら河治和香の右に出る者はいないだろう。

天保の改革で庶民の生活が圧迫されていた時代を、浮世絵師歌川国芳の娘・登鯉が駆け抜けていく『侠風むすめ』も、とにかく痛快な作品だ。

刺青ブームと登鯉のせつない恋がリンクするミスマッチが面白い「紋紋」。登鯉が深川芸者になった友達とその仲間が置かれた厳しい現実を知ることで女として成長する「お侠」など、丹念な時代考証で知られざる江戸文化を再現し、絶妙な物語に仕上げているので、類似作が見当たらない斬新な作品になっている。

幕府の禁令が強まると、国芳は頓智を使って法律スレスレの浮世絵を発表する。それを見た江戸っ子は国芳の絵を勝手に解釈し、ご政道批判の風刺画と見なす。これは庶民のしたたかさを描いているが、同時に、庶民の声が集まれば政府に対抗できる力が持てるという、現代的なテーマを示しているようにも思える。

刺青好きという登鯉の性格が、「遠山の金さん」をパロディー化するための伏線と分かるラストも見事だった。

山本一力『銀しゃり』(小学館、1680円)は、著者が得意とする深川を舞台にした下町人情ものである。

深川に鮨屋を開いた新吉は、武士ながら職人を尊敬する小西秋之助に助けられ、新しい鮨・柿鮨を完成させる。

新吉の試行錯誤を通して、鮨の歴史や作り方が分かるのも楽しいが、さまざまな職人が連携して一つの商品を作り上げるプロセスは、物作りの醍醐味が詰まっている。

金よりも自分の仕事に誇りを持つ職人をヒーローにしているので、“職人気質”を見直すきっかけになるだろう。【末國善己 文芸評論家】

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

図説中国食の文化誌
図説中国食の文化誌王 仁湘 鈴木 博

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驚きに満ちた中国の食文化

中国の食文化についてはさまざまな著作があるが、王仁湘著・鈴木博訳『図説中国

食の文化史』(原書房、5040円)ほど包括的で奥の深いものを読むのは初めてである。著者が考古学者ということもあるのだろう、古代中国からの長い食の文化史に裏打ちされた分析は大変説得的だし、評者にとって新発見も数多くあった。

箸についての論文がきっかけで本書に至ったと「まえがき」で述べているが、彼の箸文化論はひじょうに興味深い。フォークはヨーロッパが起源だと思いがちだが、中国には5000年も前からフォークがあったという。箸は殷の時代からというから3000年強の歴史しかない。著者によると、フォークは箸によって次第に食卓から淘汰されてしまったのだという。

「われわれが西洋料理を味わうときにやむをえずフォークを手に執るのは、西洋人の食事方式を尊重しているからにほかならないと思う。さもなければ、箸でフォークにとって代える人が少なくないと信ずる。わたしは、箸で西洋料理を味わうことについてきわめて肯定的である」

もう一つ、評者にとっての新発見は、羊肉が極めて美味で高級な食材とされていたことである。南宋の時代は科挙の試験に合格し、官に就くことの代名詞として「羊肉を食らう」という言葉が使われたそうである。また、美しいという字は大きな羊ということでできた字だと著者は推測している。「肥えた羊を食べれば非常に美味しいので、この字が出来た」というのだ。それから、鮮という字の「基本的な意味は鮮魚のこと」だが、これも旁の羊は美味を表しているという。「羊頭狗肉」という言葉は知っていたが、羊肉がこれほど高級なものであったとは驚きであった。

唐から宋にかけて会食制が一般的になったが、それまでは分食制だったという。大きな食卓と高足の椅子の発達が会食を促したのだろうという。

多岐にわたる詳細な分析を読みながら感じるのは、中国の食の歴史が古く、また極めて豊かであり続けたということだ。これは、1000年単位で見ると中国が世界最大の経済大国であったということだろう。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

楊貴妃―大唐帝国の栄華と暗転
楊貴妃―大唐帝国の栄華と暗転村山 吉広

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七夕に華を添える玄宗と楊貴妃の誓詞

7月7日は七夕祭り。笹竹の色と音、色紙・千代紙の細工と切り絵、願いを託した短冊……、子供のころの思い出が蘇る。もうすぐ夏休みと実感させてくれる、心弾む行事だった。職業柄、この気分は今も変わらない。

旧暦のこの夕べ、天の川の両岸に輝く二星、牽牛と織り姫は鵲が翼を連ねて架ける橋で年に一度の逢瀬がかなうという。何とも壮大で浪漫に満ちた中国の伝説に基づく星祭りである。

この折に技芸(裁縫や習字)の上達を祈る慣習は、中国古代からのもの、我が国もこれを踏襲してきたと言ってよい。が、かの伝説に基づけば、色恋の祈願こそふさわしいと思うのだが……。 「たなばた」の訓はこの行事が我が国に定着した証左。古来の厄除けの一習俗―棚機津女なる女性が、年一度、水辺の機屋で布を織りながら水神を迎えて一夜を過ごす―とみごとに結びついたのが要因のようだ。

ところで、七夕の行事に華を添えるのが、この夕べに玄宗皇帝と楊貴妃の交わした誓詞である。いわく「天に在りては比翼の鳥(翼を重ねて飛ぶ雌雄の鳥)」「地に在りては連理の枝(一本化した2本の枝)とならん」。この永遠の愛、特に星に祈願した形跡はないが、この夕べを選んだのはその意図を十分示唆するものであろう。

この誓詞は言うまでもなく白楽天の虚構、「長恨歌」の一節。非業の死を遂げた楊貴妃は仙界で太真として生きていた。彼女はこのことを玄宗に伝える証拠として2人の秘め事を示したのであった。かくして詩人は傾国の美女を仙界で蘇らせるとともに2人の切ない思いの長久を謳い上げたのであった。

かつて友人の接待で山口県は長門市の湯本温泉に宿泊した際、この近隣に難を逃れた楊貴妃が漂着して程なく死んだという伝説があることを知り、思わず笑みしたことであった。「日本の民衆は楊貴妃を連れてきていたのか」。

先日、ある画家の画集を目にし、楊貴妃の今なお“生存する”姿を認識させられた。「長恨歌」は『源氏物語』をはじめ、日本の古典文学に多大な影響を及ぼした。村山吉広『楊貴妃』(中公新書、754円)は、この理解のためにも必読の書であろう。【水野 実 防衛大学校人間文化学科教授】

■2007/07/03, 毎日エコノミスト

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