メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年6月5日~6月12日

小売国際化プロセス―理論とケースで考える
小売国際化プロセス―理論とケースで考える矢作 敏行

有斐閣 2007-03
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理論研究と聞き取り調査で見る 小売業の海外進出と現地化

長い間、国内的産業の代表格とされてきた小売業にも、国際化の波が押し寄せている。本書は、その小売国際化プロセスの現実を分析し、それを概念化することを、テーマとしている。

小売国際化プロセスを分析するにあたって、本書が注目するのは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業態の国際移転、そのなかでも、初期参入を経て、各業態が現地化する局面である。

そして、(1)母国市場で確立した標準化された事業モデルを移転するが、現地の市場特性に応じて部分的な修正を行う「標準化のなかの部分適応」、(2)標準化された事業モデルを現地化する過程で連続的な適応を起こし、既存モデルを超える革新的な事業モデルを創出する「創造的な連続適応」、(3)参入する国・地域に応じて新しい事業モデルをつくり出す「新規業態開発」――という3つの分析概念を駆使し、(1)については日本のトイザらス・中国のイオン・中国のイトーヨーカ堂・台湾の仏カルフール、(2)については日本のセブン-イレブンとマレーシアのイオン、(3)についてはアジア各国における英テスコの事例を、それぞれ深く掘り下げる。一連の事例分析から導かれた本書の結論は、「業態戦略は参入市場にしたがう」という命題に集約されている。

本書の魅力は、小売国際化プロセスの概念化をめざす理論的研究と、25回以上におよぶ海外での聞き取り調査に象徴される実証的研究とが、統一されている点にある。前者の理論的研究では、知識ベースの小売国際化論構築の重要性が指摘され、後者の実証的研究では、欧米小売企業の「発展的な国際化」に対する日本小売企業の「受動的な国際化」など、一連の興味深い事実発見がなされている。

一方で、取り組むテーマがあまりに壮大であるため、著者自身も論及しているように、本書の分析成果が「道半ば」であることも、また、事実である。例えば、アジアで複数の国・地域に進出したカルフール、米ウォルマート、テスコ、イオンの参入成果は、国・地域ごとにばらついているが、その理由は、必ずしも十分には解明されていない。

この点では、参入時期、参入方法、参入先の特殊要因などが重要であることが示唆されているが、これらの諸要素は、小売国際化プロセス全体の概念化において、どのように処理されるのだろうか。いずれにしても、本書によって新たな地平に立つことになった小売国際化研究の、今後の深化に注目したい。【評者 橘川武郎 一橋大学大学院商学研究科教授】

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

チーム・キットカットのきっと勝つマーケティング―テレビCMに頼らないクリエイティブ・マーケティングとは?
チーム・キットカットのきっと勝つマーケティング―テレビCMに頼らないクリエイティブ・マーケティングとは?関橋 英作

ダイヤモンド社 2007-02-17
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starクリエイター視点のマーケティング

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消費者の心に響く広告とは? 仕掛け人が明かすその極意

チョコスナック市場でこの数年、ネスレのキットカットが躍進し、トップシェアをとるに至っている。その躍進は「きっと勝つ」という縁起担ぎで受験生に人気が出たことから始まった。

それだけだと偶然の成功と受けとられかねないが、著者の引用をそのまま借りれば、「偶然は、それを受け入れる準備ができた精神にのみ訪れる」。実は、そこにはマーケティング上のさまざまなチャレンジがあり、それを成功させた多くの知恵が潜んでいる。著者は、そこでクリエイターとして積極的に関わった人物である。2つの点が、たいへん印象に残った。

第1は、コミュニケーション。テレビCM、新聞・雑誌といった華やかな、いわゆるATL(Above The Line)媒体ではなく、イベントやチラシなど地味なBTL(Below The Line)媒体を意識的に重視したことが面白い。すでに周知されたブランドを再活性化するのはATLマス媒体ではないというわけだ。

ホテルに宿泊した受験生にフロントで「頑張って下さい」の一言を添えてキットカットを渡すサンプリング、東京大本郷キャンパスに近い本郷3丁目の商店街の協力を得て、東大受験時に街を桜で埋め尽くしたキャンペーン。ブレイクタウンというサイトを開き、岩井俊二監督を起用してショートフィルムを制作し、キットカットの世界を楽しんでもらうウェブ・コミュニケーション。

こんな、消費者の身近に寄り添い、心に響く、ユニークなコミュニケーション施策を次々に編み出していった。

もう一つのポイントは、消費者のインサイト(本音)。マーケターは自分の製品の属性からつい考えてしまう。「この製品にはこんな特徴があるので、それを何とか売り物にして……」といった具合だ。しかし、今の時代、「その製品を消費者がどう見ているのか」を探ることからスタートすべきなのだ。何かを押しつけるのではなく、消費者のその商品に関わるインサイトに注目する。これが大切なのだ。「キットカットで『きっと勝つ』」と言ってしまうと、単なる語呂合わせとしか見られないが、「キットカットを手がかりに、心の中に抱え込んだストレスを少しの間でも解消したい」と思っていた消費者のインサイトを探り当てた結果がこの言葉に結実しているのだ。

著者自身のキットカットへの思いの深さがよく伝わってくる。友人たちが各章で関連したテーマで語るコラムも魅力的。【評者 石井淳蔵 神戸大学大学院経営学研究科教授】

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

砲台島
砲台島三咲 光郎

早川書房 2007-04
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タイタニック号の殺人
タイタニック号の殺人マックス・アラン・コリンズ 羽地 和世

扶桑社 2007-05
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戦争と大惨事が舞台のタイムリミットもの2作

歴史ミステリの愉しみは、史実と想像力の衝突にあり。史実は不動、されど過ぎ去った時代は刻々と異なる顔もみせる。それは、殺人フィクションを遊ばせる絶好の自由空間でもあろう。……ニュースをみれば、母親の頭と腕をノコギリびきにして観葉植物代わりにした少年の犯罪とか。おお、これじゃ、とても現代ミステリは事実に勝てそうもない。歴史に退避するほうが賢いってことか。

三咲光郎『砲台島』(早川書房、2100円)は、昭和20年、あの戦争の末期、空襲にさらされた国内に惨死体が溢れ返っていた時代を描く。死体が日常茶飯事だった状況にも、ミステリアスな殺人があったという話。主人公は死神憲兵と少年警察官。つまり、現代警察小説におなじみの「バディもの」パターンだ。

無慈悲な戦略爆撃は証人や物証を消滅させていくし、少年には召集令状が間もなく届くだろう。これも「限られた時間内に事件を解決せよ」というタイムリミットものの、特殊型といえる。単純な退避ではなく、アイデアを生かすための創意を過去に求めたわけだ。 「戦争とミステリ」に並ぶのは、「大惨事とミステリ」。

マックス・アラン・コリンズ『タイタニック号の殺人』(扶桑社ミステリー文庫、880円)は、タイトルの語るとおり、沈没した巨大客船内の密室殺人の話。こちらも、事件解決まで許された期限は5日間。沈む前に真相は解明されるかそれとも(?)、といったサスペンスが効果的。

探偵役は「思考機械」シリーズで高名な作家フットレル。他の登場人物もほぼ実在した。と、これまでだれも手をつけなかったのが不思議なくらい素敵な題材だ。作者は虚実とりまぜた歴史ものを得意とするコリンズ。手堅い考証が、大作映画『タイタニック』とは一味違った「史実」を再現する。この作に始まる大惨事シリーズ数冊も大いに期待できる。【野崎六助 作家・評論家】

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

バイアウト―企業買収
バイアウト―企業買収幸田 真音

文藝春秋 2007-05
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著者インタビュー 幸田真音(作家) 『バイアウト』

会社は誰のものか読者と一緒に考えたい

――企業買収(バイアウト)をテーマにしたきっかけは何ですか。

■1980年代半ば、ニューヨークで企業買収のセミナーを受講し、先端的な買収手法に驚いたことがあります。これはずっと温めてきたテーマです。

――すご腕のファンド経営者や不正経理操作で逮捕されるIT産業の寵児が登場します。村上ファンドなどをモデルとして意識しましたか。

■この作品はあくまでフィクションですが、一連の事件をイメージの背景にしてもらえば、一般の読者も入りやすいかな、とは考えました。執筆にあたっては徹底した取材を重ね、連載当時の最新情報を盛り込みました。米国や日本で実際に行われていることや専門的知識をかみくだいて書いたつもりです。

――音楽会社が敵対的買収の対象となり、窮地に陥る場面では、さまざまな対抗策が登場しますね。

■企業防衛策といっても抗がん剤投与のようなもので、副作用の心配もあります。買収を仕掛けられたらどうなるか、作中で疑似体験してもらえるのでは。

――日本では、企業買収に否定的な見方が多かったようですが。

■株の持ち合いや裁量行政、保護体質や護送船団など、日本特有の資本主義があった。ただいったん上場したら外洋に出るようなもので、株は誰に買われてもおかしくはない。規制緩和や企業会計の国際化で防波堤がなくなり、いろいろな国籍の船と丁々発止をやらねばならなくなった。敵対的買収ばかりが注目され、マイナス面が強調されがちですが、本来M&A(企業の合併・買収)は相互の補完、効率化やスピード化という前向きな手段のはず。大切なのは買収後の検証です。

――会社は社員のためにある、と考える人が一般的ではないですか。 ■「会社は誰のもの?」「会社の価値とは?」をこの作品で、読者と一緒に考えたかったのです。時価総額だけで企業価値を決めていいのかとも問いたい。この音楽会社には人気歌手やプロデューサーなどの人的資源や原版権といった知的所有権があります。こうした価値をどう評価するかは、これからの大きなテーマになるでしょう。

――経営者には厳しい時代ですね。

■日本には、高い技術力があり、良好なキャッシュフローを有する魅力的な企業が多く、だからこそ狙われやすいとも言えます。安易に買われないためには、時価総額を上げるしかない現実があります。経営者には緊張感をもった経営が求められますが、戦々恐々とするだけでなく、国際競争力をつけて、逆に買いに行く気概を持ってほしいです。

――防衛策はありますか。

■ひたすら株価を上げておくしかないですね。サヤ抜きを目的としない優良で健全な安定株主を、海外に求める努力も必要です。そして国は、ルールを守らない者を厳しく排除すること。一番の防衛は金融政策でしょう。「円」が強ければ、なにも外資からの買収圧力を怖がる必要などないですから。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

日本マーケティング史―生成・進展・変革の軌跡
日本マーケティング史―生成・進展・変革の軌跡森田 克徳

慶応義塾大学出版会 2007-04
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1913年に発売された森永製菓の「ミルクキャラメル」に始まり、サントリー、キリンビール、日清食品、ダイエー、イトーヨーカ堂、花王、アサヒビールなど10の商品・ブランドの事例を取り上げ、どのようなマーケティングの結果、消費者に知られるようになったかをたどっている。一般読者の興味をも引きつける本だ。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

ビジョナリー・ピープル
ビジョナリー・ピープルジェリー・ポラス スチュワート・エメリー マーク・トンプソン

英治出版 2007-04-07
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おすすめ平均 star
starビジョナリーな人たちからのメッセージ
star事例が豊富
star本当の成功とは何か

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全米ベストセラー『ビジョナリー・カンパニー』の著者が、テーマを「会社」から「人」に移し、世界に大きな影響を与えている人々200人以上へのインタビューをもとに「成功」の理由を探る。そこで発見したのは、1自分なりに定義した意義、2想像力のある思考スタイル、3効果的な行動力――の調和という共通点だった。彼らの発言をちりばめながら、意義ある人生への方程式を解きほぐす。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

YouTubeはなぜ成功したのか
YouTubeはなぜ成功したのか室田 泰弘

東洋経済新報社 2007-05-11
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おすすめ平均 star
starパンピー
starYou Tubeってそうやって成功したんだ!
starビッグ・ウエーブの最先端

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またたく間に世界的な人気サイトとなった米ユーチューブ。立ち上げたのは20代の移民や移民の子どもら3人だった。ビジネスというより、面白がって始めたが、グーグルが2000億円で買収。その買収交渉は、双方のオフィスの中間点にあるデニーズで行われた。新興企業らしいエピソードを盛り込み、新旧勢力が確執する、最新のネット世界を描いている。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

大正デモクラシー
大正デモクラシー成田 龍一

岩波書店 2007-04
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おすすめ平均 star
star雑業層=ワーキングプアによる「蜂起」は?
star満州はヨーロッパ文明の取り入れ口であり、コミュニズムと接する場でもあったという指摘は新鮮
star一読の価値あり

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太平洋戦争はなぜ起きたのかを考える時、1931年の満州事変だけでなく、「政党の自殺行為」の分析は避けて通れない。ロンドン海軍軍縮会議に反発した軍が浜口雄幸・民政党内閣を「統帥権干犯」と非難。政友会が軍の尻馬に乗って騒ぎ、軍を勢いづかせた結果、最終的に政党政治を終焉させた。思潮、文化の動向も視野に入れた多面的な切り口は勉強になる。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

天皇の日本史
天皇の日本史武光 誠

平凡社 2007-05
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天皇は江戸時代以前、お飾り的存在だったとする通説を論破し、摂関家も戦国大名も将軍も天皇の権威をなおざりにできなかったと主張する。各時代の政権はさまざまな形で土地とそれに縛られる農民を支配したが、商工業者を支配していたのは天皇だったから、各時代の政権は天皇を無視できなかったと説く。1冊で日本史の流れがわかる優れものだ。

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

あなたが年収1000万円稼げない理由。―給料氷河期を勝ち残るキャリア・デザイン
あなたが年収1000万円稼げない理由。―給料氷河期を勝ち残るキャリア・デザイン田中 和彦

幻冬舎 2007-01
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おすすめ平均 star
star今後のキャリアについて考える時に読みたい一冊
starまずまず
starほとんど言い尽くされた軽~い本

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年収1000万円という意味

年収1000万円という金額は、つい最近まで、大企業に勤めていれば、少なくとも定年まで勤め上げれば、当たり前に期待できた金額だった。

公務員などは、いまだに年功序列で終身雇用の給与体系なので、例えば、定年間際の都バスの運転手やごみ収集員などの年収が1000万近くなることがある。マスメディアは、公務員の高給の象徴として、こてんぱんに叩くのだが、昔であれば40年以上勤め上げた結果なのだから、そう目くじらを立てなくてもという話になっていたのかもしれない。実際、公務員の給与ベースが民間の参考金額になるのだから、彼らの給料を引きずり落とすことは、自分の首を絞めることになる。

ただ、会社が株主のものとなるという社会システム(これまではある種の共同体だったのに)では、働き以上の給料を払うことは株主が許さない。

そこで、がぜん年収1000万円に大きな意味がでてきた。

その年収1000万円の価値とはどういうものかというのを、具体的に説得力のある形で説明してくれるのが、『あなたが年収1000万円稼げない理由。』(幻冬舎新書、756円)である。著者の田中和彦氏は、『週刊ビーイング』『就職ジャーナル』などの編集長を歴任し、「今まで2万人以上の面接を行ってきた転職コラムニスト」だという。

自分が当たり前の能力と思っていることが、別の業界では強い武器になる話(電機会社の海外営業マンがビデオ会社では抜群の語学力の扱いを受けたなど)、ダブルスキルの希少価値で一気に全国区のキャスターになった話(国際線のフライトアテンダントが第1回目の気象予報士に合格、折しも女性の合格者はわずか12名。合格の日に「ニュースステーション」のウェザーキャスターに誘われた女性など)、会社の言いなりになるより専門性を身につけたほうが自分を高く売れる話(山一証券の倒産時など)、言われてみれば、それはそうだと思うことだが、意識していなければなかなかできない話が並ぶ。

キャリアデザインが他人事と思うのは確かに甘い。この著者の田中氏も自らのキャリアデザインに成功しているし、私自身も医者でありながら、これについてはそれなりに努力していることを白状しておく。【和田英樹 精神科医】

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

江戸のナポレオン伝説―西洋英雄伝はどう読まれたか
江戸のナポレオン伝説―西洋英雄伝はどう読まれたか岩下 哲典

中央公論新社 1999-09
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おすすめ平均 star
star出島はファイアウォールだった(江戸の情報フィルタリング)

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歴史書として読むトルストイの面白さ

いわゆる歴史学者が書く歴史書はたいてい面白くない。難解そうな専門用語が多く正確な記述かもしれない。だが、その時代の雰囲気が伝わってこないのだ。その点で作家の描く歴史書にはその時代の奏でる高低長短の音色を感じさせるものがある。

トルストイ『戦争と平和』全6冊(岩波文庫、各987円)は名作中の名作だが、とびきり上等の歴史書としても読むことができる。なによりもこの文豪は歴史学者に憤懣やるかたない。歴史叙述とはどうあるべきか、その答えが作品そのものなのだ。

1805年、ペテルブルクやモスクワの社交界ではナポレオンの話題でもちきりだった。その裏では、遺産相続をめぐる醜い争いがくりかえされていた。そうしたなかで、屈指の資産家ベズーホフ伯爵家、派手だが傾きかけたロストフ伯爵家、高貴で重厚なボルコンスキー公爵家、それぞれの人々がくりひろげる人間模様が生き生きと描きだされる。ほどなく宣戦の詔勅がくだされ、青年たちは各自の思いを胸に出征する。

ナポレオンやアレクサンドル1世のような為政者のみに目が向きがちであるが、歴史の底流にはとてつもなく多くの人々の思惑がひそんでいる。そのすべてをあぶりだすことはできないにしても、この大河ドラマを読めば時の流れる雰囲気がたまらなく肌身をさする。そのせいか、人生を二度も体験したという気にさせてくれるのだ。

ところで、ナポレオンという男はわが国にはどのように伝わったのか。岩下哲典『江戸のナポレオン伝説』(中公新書、735円)はナポレオンの受容をめぐる手軽にして執拗きわまりない歴史書である。なにしろこのテーマは筆者の卒論に端を発するという。

蘭学者小関三英は国民軍を創設したナポレオンにことさら興味をいだいた。その伝記を翻訳し、その死後、その訳書は多くの人に親しまれた。吉田松陰も、佐久間象山も、徳川慶喜も、西郷隆盛も、『那波列翁伝初編』を読んでいたという。幕末維新は己をナポレオンになぞらえようとした危機感の強い人々が引っ張っていたのかもしれない。【本村凌二 東京大学教授】

■2007/06/12, 毎日エコノミスト

あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実
あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実ピエトラ リボリ Pietra Rivoli 雨宮 寛

東洋経済新報社 2006-12
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star搾取工場の善悪について考えさせられる。
star先進国発展の歴史を知る一冊
star切り口がすばらしい!

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Tシャツで語るグローバル経済論 「女工哀史」的現状も視野に

本書の原書は2005年に刊行された。いずれ翻訳書が出て然るべき本だと思っていた。少々時間がかかったが、訳本刊行を祝したい。

およそ、Tシャツほどグローバルな普及度の高い衣料品はない。どこにいっても、巷はTシャツ人間であふれかえっている。この最もグローバルな商品のグローバルな旅路を追うことで、グローバル経済とは何者で、その功罪をどう捉えるべきであるのかを考える。それが本書のねらいである。Tシャツ物語を通して語られるグローバル経済論だ。

Tシャツとともに行く著者のグローバル行脚は、テキサスの綿花畑から始まる。そこで栽培された綿花が中国にわたって糸になり、生地になり、Tシャツになり、そしてまたふたたびアメリカに戻って、テキサス人をはじめとする数多くの人々の日常着となる。彼らに使い古されたTシャツは、古着としてアフリカで第二の人生を迎える。

本書に盛んに登場する言葉に「スウェット・ショップ」というのがある。日本流にいえば、「女工哀史」という言葉が最もよく対応する。スウェットは汗である。

海を渡るTシャツ群は、奴隷的過酷労働を強いられる女工さんたちの汗と涙の成果物ではないのか。そのような製品のおかげで、大企業が繁栄を謳歌する。それがグローバル経済の真相ではないのか。そんなTシャツの世界制覇を許していいのか。この問いかけに対して、自由貿易の正当性を説く経済学者たちはどう答えるのか。グローバル化礼賛論者たちはどう反論すべきであるのか。本書は、この問題提起に真正面から答えようとする研究者の真摯な試みだ。

解答はどう出たか。端的にいえば、すっきりした結論は出ていない。それでいい。著者は、この壮大な実証研究を通じて、すっきりした結論を出し得ないことに確信を持った。ここに本書の真価があるのだと思う。

女工哀史が許されていいはずはない。だが、女工哀史なくして、途上国の人々は極貧の農村生活から決して解放されない。この事実はやり切れない。やり切れないが、そのことに愕然とした反グローバル運動家たちの活動が、このやり切れない問題への人々の注意を喚起し、対応を促す。そこにこそ、希望があるのだと著者は主張する。その通りだろう。地球大の厄介な問題については、地球挙げて知恵を絞らなければいけない。一人は皆のため、皆は一人のためだ。それがグローバル時代の合言葉だ。そのことを、本書がひたひたと語りかけてくる。【評者 浜 矩子(同志社大学ビジネススクール教授)】

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

これが女の出世道!
これが女の出世道!とらばーゆ編集部

徳間書店 2007-03
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企業トップ女性35人の成功術 経験による親身なアドバイスも

労働力不足時代を迎えて、女性のいっそうの社会進出を望む声が高まっている。政府も、これまで均等処遇と両立支援策を強化して、女性の社会進出をサポートしようとしてきた。そして、今では働く女性のなかでも企業のトップに上り詰めた人たちがたくさん生まれている。本書は、そうした女性エグゼクティブ35人に対するインタビュー集で、雑誌『とらばーゆ』の連載を編集した書物である。

本書の魅力は、登場している女性一人ひとりが持つ魅力に尽きる。彼女たちに共通しているのは、男性社会の偏見や家庭との両立といった、仕事に真剣な女性が直面せざるを得ない困難を乗り越えるだけの、仕事に対する情熱とパワーである。そうした次元に立ってしまえば、もはや男女の区別はなくなってしまう。しかも、彼女たちはそうした困難自体を自分の仕事の「肥やし」にしてしまっている面がある。実にしたたかであり、それゆえに痛快でもある。

別の意味での面白さもある。彼女たちは、これから仕事で活躍しようとしている後輩の女性に対してたくさんのアドバイスをしている。たとえば、「自分の強みを持つこと」「チャンスが来たら必ずチャレンジすること」「自分の今やっていることをとにかく成功させること」「自分が本気で必要だと思うことは遠慮せずにやること」「無駄になる経験は何一つない」「すぐに向かないと思って辞めてしまったら永遠に自分の適性などわからない」などはその一部である。

一見すると、これらは常識的なアドバイスで、それほど新味があるとは言いがたいように思える。また、ハウツー本にもこうしたアドバイスはしばしば登場するものの、実際には「言うは易し、行うは難し」である。しかし、本書ではすべてのアドバイスが自らの切実な体験に裏打ちされており、それゆえに強い説得力を持ちえている。そして読み進めるにつれ、これら「当たり前」に思えるアドバイスが、結局は男女を問わず「出世に至る鍵」であることに気づかされる。

男性は出世をして当然だと世間から思われているから、「男性の出世道」でインタビュー本ができることはないだろう。女性エリートがこれから仕事に打ち込もうとしている後輩女性にアドバイスする形をとっているからこそ、「出世に至る鍵」が本のなかにちりばめられることになったのではないだろうか。男女を問わず、出世に関心がある人に薦めたい本である。【評者 太田聰一(慶応義塾大学経済学部教授)】

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

悪党の戦旗―嘉吉の乱始末
悪党の戦旗―嘉吉の乱始末岩井 三四二

新人物往来社 2007-03
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戦国の凰お市の方
戦国の凰お市の方鈴木 輝一郎

河出書房新社 2007-03
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「お家」のために奮闘する人々

岩井三四二『悪党の戦旗』は、滅亡した主家を再興するために東奔西走する遺臣たちの奮闘を描いている。

赤松満祐は、恐怖政治を行う足利六代将軍義教を暗殺する。有力大名は自分を支持すると考えていた満祐だが、その見込みは外れ、赤松家は逆賊にされてしまう。

トップの判断ミスで家臣が路頭に迷う展開は、現代の企業間競争を彷彿とさせる。それだけに人生の岐路に立たされた遺臣たちが、家族と生活を守るためにさまざまな選択をする姿はリアルに映る。

やがて赤松家に、南朝の帝を暗殺し、奪われた神璽を奪還すればお家再興を許すとの命令が届く。これに賭けた遺臣たちは、決死の覚悟で敵地吉野へ潜入する。

主家再興の夢を実現するため、赤松家臣団は過酷な任務を遂行する。だが目標を達成すると、次なるノルマを課されてしまう。生きるために戦い続けるか、貧しくても余裕のある生活を送るかで悩む赤松家の姿は、どこか現代の勤め人の悲哀とも重なっているように思える。

鈴木輝一郎『戦国の鳳お市の方』(河出書房新社、1680円)は、織田信長の妹お市の方の実像に迫っている。

お市は20歳の時に浅井長政に嫁ぐが、これは当時としては異例の遅さ。またお市は、浅井家滅亡の時には落ち延びているのに、なぜか再嫁した柴田勝家とは共に討ち死にしている。著者はお市をめぐる多くの謎に、独自の解釈を施しているので、最後までスリリングな展開が続く。

困難があっても意志を曲げないお市、秘めた過去を知りながらお市を受け入れる長政と勝家の織りなす三角関係は、せつなく美しい恋愛小説としても秀逸である。【末國善己 文芸評論家】

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

天皇の誕生―映画的「古事記」
天皇の誕生―映画的「古事記」長部 日出雄

集英社 2007-03
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star「古事記」の戯曲化
star千曳の石は重からず‥。楽しく読める「古事記」

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著者インタビュー 長部日出雄(作家)

シナリオで読む「古事記」 独自解釈も盛り込んで

──「古事記」の記述をシナリオ形式で再現してあります。何度も途中で読むのを断念した経験者としては、ストーリーが目に浮かび、初めて古事記を読んだという実感があります。

■初めての日本語の書物と言える古事記を、現代語に訳したものはいろいろあります。でもどれも読みにくくて大抵は途中で落後してしまう。しかしこうしてシナリオにしてみると理解しやすい。読みやすい、分かりやすいと言ってもらえると嬉しいですね。

──今回初めての試みかな、と思いましたが、1996年に出された『天皇はどこから来たか』のなかに、一部シナリオ形式にした個所がありますね。

■あのころの考えが今は確信に変わったので、一部でなく全部をもう1度書いてみようと。昨年6月に脳梗塞で倒れまして、遺言のつもりで書こうと思ったこともあります。古事記のエピソードである須佐之男の八岐大蛇退治や因幡の白ウサギ、海幸彦・山幸彦など断片だけ知っている人は大勢います。でも全体のストーリーのなかで、その話がどういう位置を占めているのかを知らない人がほとんど。そこで天地開闢から神武天皇の結婚までを脚本にしてみたんですよ。

──古事記の記述通り、九州の高千穂に発した原大和朝廷が東遷した、という説を元に書かれています。

■南九州は未開の地だったから、そこが皇室の発祥の地ではありえない、という批判があるが、それは現代人の見方ですよ。10年ほど前、鹿児島県の上野原遺跡で縄文前期とは思えない高度な文明が発掘されました。稲作が伝えられたころは南九州が先端だった。僕は高千穂に行って確信しました。そこの棚田で稲作技術を磨き、やがてその技術を持って東進していった、と。

──大和や北九州のような多くの部族がひしめき合う場所で、顔見知りの部族がわが先祖は太陽だったと言い出しても、誰も言うことを聞かないという指摘は新鮮でした。だからその部族は辺境から来たに違いないと。

■そうです。そのころ祖神と太陽神を一致させ天照大御神を発明した部族がいた。外来の鏡で太陽を反射させ、五穀豊穣に欠かせない太陽をも操ることができるという宗教を生み、それを信じれば高度な稲作技術を与える。それが天孫族で、その長が天皇になったと思います。今はみなさん反発するけど、10年経てば常識になりますよ。

──古事記は天武天皇と稗田阿礼の共作だという説も興味深かった。

■古事記は1人の作者でしか書けないまとまった体系をしています。それができたのは天武天皇しかいなかった。しかし一方で、古事記は女性に味方していることも多い。主神の天照大御神が女性ということをはじめ、男女が対立すると、古事記の語り手はおおむね女性側に立つ。稗田阿礼は、僕は女性だったと思っています。天武天皇の原作に稗田阿礼が自分の考えを交えながら語った、それが古事記だと思いますよ。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

「素人以上プロ未満」のための経済・金融入門―今がわかるニュースの読み方
「素人以上プロ未満」のための経済・金融入門―今がわかるニュースの読み方五十嵐 敬喜

東洋経済新報社 2007-04
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経済や金融のやさしい解説書はあるが、基礎編だけだ。専門書は多い。その中間、基本的なことはわかっているから、その一歩先を教えてほしい、という読者のニーズに応えた本はほとんどお目にかかったことがない。本書はそのニーズにちょうどいい。金融やマネーの動きを考えるときには「必ずバランスシートで」など、なるほどと思わせる解説書になっている。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える
ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える谷本 寛治

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ビジネスのスキームを活用して社会的課題に取り組む人々をソーシャル・アントレプレナー(社会的企業家)と呼ぶ。病児保育や自然保護、フェアトレードなどの分野で日本の先駆的な事業をリードしてきた6氏が、起業に至った想い、直面した困難をどう乗り越え、事業を続けてきたのか――について語り「想いが社会を変える」実例を報告する。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

夕張問題
夕張問題鷲田 小彌太

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starリアルな夕張論を展開
star夕張破綻の特異性

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炭鉱の町、夕張市の中田鉄治前市長は、日本のエネルギー転換の中で石炭を人質に、国や道からカネを引き出して観光開発に注いだ。それは北海道炭鉱汽船の萩原吉太郎の手法を踏襲している。再建計画をみると、そう悲惨ではない。多すぎた市職員の数や給与を、他市並みにするだけだ。しかも夕張にはメロン農業がある。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

小泉政権 50の功罪
小泉政権 50の功罪鈴木 棟一

ダイヤモンド社 2006-10-20
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小泉純一郎政権の5年5カ月は受動的イメージだった日本の首相を強いリーダーシップを発揮しうる存在に変えた、と評価。人々の情念(パトス)に訴え新自由主義的内政改革を進めながら、外交で混迷を深めた理由を分析する。政治手法分析、時代論、日本政治の歴史――など骨太の筆致でありながら、綿密に資料を追って書いた実証的な現代日本政治入門書だ。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

近衛文麿「黙」して死す―すりかえられた戦争責任
近衛文麿「黙」して死す―すりかえられた戦争責任鳥居 民

草思社 2007-03-21
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star読み物としては面白い
starどこまでが事実でどこまでが筆者の推測か?
star老いてなお

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近衛文麿は首相として日独伊三国同盟を締結、第3次内閣では日米交渉に失敗して内閣を放り出し、優柔不断な無責任政治家という評価が定着した。戦犯容疑で出頭する前夜、自殺したが、著者は都留重人、E・H・ノーマン、内大臣の木戸幸一が近衛を死の淵に追い詰めたと推理する。なぜ木戸は近衛を死に追いやったのか? 理詰めでスリリングな謎解きが最高に面白い。

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち内田 樹

講談社 2007-01-31
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star賛否両論ありますが
star面白いが、思いつきのニート論
star低レベル

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なぜ日本の子供は勉強するのをやめたか

エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』になぞらえて、『下流志向』(講談社、1470円)の著者、内田樹は、「学びからの逃走」「労働からの逃走」を主題に興味深い分析を展開する。

今や、どんな比較統計を見ても、日本の子供たちは世界で最も勉強をしないグループに転落してしまっている。「どうして日本の子供たちは勉強するのをやめてしまったのか」という問いに答えることは、日本の将来を考えると大変重要なことである。「労働からの逃走」も同様だが、著者はこれらを「個性の発現だと信じる人たち」が増加したことによってもたらされているのだと主張する。

大衆消費構造の定着によって、子供たちを含め、多くの人は消費主体として「等価交換」、あるいはより有利な交換を求め、いわば楽をして儲けようとする。勉強をしないでうまく世渡りが出来ればこんないいことはないし、たいして労働をせずに儲けられればこんな有利なことはないというわけだ。ホリエモンが若者たちのヒーローになり、テレビでふざけているお笑いタレントがもてはやされる最大の原因はこの学びと労働からの二重の逃避だというわけだ。なさけないことだが、今の子供たち、いや、世間一般のヒーローは、軽薄な若手経営者や、テレビタレントたちなのである。

しかし、内田はこうした市場原理主義、あるいは「アメリカン・モデル」の時代は終わったという。

「交換というのは、おっしゃる通り、それに付随してさまざまな価値を生み出す『きっかけ』にすぎないのです」

「マリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』で知られるトロブリアン島の『クラ』の交換儀式の場合がそうです。そこで交換されるのは貝殻でできた装身具なんですけれど、それ自体は何の有用性もない。交換の隠された、ほんとうの目的は、その無価値な装身具の交換がスムーズに行われるように、クラ儀式の当事者の間で揺るぎない信頼関係を築くことや、交換のために遠くの島まで帆船で出かける遠洋航海の技術に熟達することなんですね」

結局、われわれのビジネスも交換そのものよりもそれを支えるインフラが大切なのだという。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/06/05, 毎日エコノミスト

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