メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年4月3日~4月10日
| ワーキング・プア―アメリカの下層社会 | |
![]() | デイヴィッド K.シプラー 森岡 孝二 岩波書店 2007-02 売り上げランキング : 2842 おすすめ平均 ![]() アメリカ庶民とは何か、が実感でわかる 努力が報われない。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
冷静な視点であぶり出すアメリカの働く貧困層の実像
私たちは、アメリカは格差の大きい社会であると頭のなかでは理解しているし、アメリカのテレビドラマに映し出された下層社会も見ている。また、貧困層は移民やシングルマザーに多いという統計も知っている。しかし、それはあくまで表面的な理解にすぎない。アメリカ貧困層の本当の姿は、彼らによりそい、生い立ちを聞き出し、彼らとその家族が貧困ゆえに直面する様々な困難の「現場」にいなければわからない。本書はまさにそういう仕事である。
本書で取り上げられている人々は、単なる貧困だけでなく、麻薬、アルコール、早すぎる出産、性的虐待のトラウマなどの問題を抱えていることが多い。また、彼らは読み書きや計算といった仕事に必要な「ハードスキル」はおろか、遅刻や欠勤をしないことや勤勉さ、同僚とうまくつきあっていくといった「ソフトスキル」すらも身につけていない。自信がなく、自分は会社にとって「いないに等しい存在」だと感じているために会社や同僚への迷惑に思い至らず、無断で休むことに抵抗感が少なくなっている。そして貧困は悪循環をもたらす。たとえば、貧困のために歯の治療ができずに歯を失ったある登場人物は、そのために良い仕事につけず、貧困から脱出できずにいた。
しかも、貧困は世代をまたいで連鎖していく。貧困者は、自分の子どもと向き合う心理的な余裕をもたないことから育児に失敗しがちになり、子どもは精神的な発達においてハンディを背負ってしまう。また、少ない所得から家賃を払うために食費が犠牲になり、そのために子どもたちの栄養状態が著しく悪化している。貧しい食事は、子どもたちの学校での集中力を奪っている。かくして貧困家庭の子どもにとって、勉学の成果を上げることは著しく難しくなるのである。
本書はこのような貧困の実像に迫る事例に富んでいるが、その説得力は著者が一貫して冷静な観察者としての視点を維持していることに求められる。アメリカ社会の彼らに対する冷たさを指摘するだけではなく、貧困者の個人的な問題もきちんとおさえており、本書がアメリカで広く受け入れられた理由も、その辺りにあるように思われる。
本書で示されたことが、「格差社会」と言われる日本の将来を暗示しているかどうかはわからないが、アメリカ社会が持っている病理的な一面を見事にあぶりだしている本書を、第一級のノンフィクションとして広く薦めたいと思う。【評者 太田聰一(慶応義塾大学経済学部教授)】
| 後藤新平 日本の羅針盤となった男 | |
![]() | 山岡 淳一郎 草思社 2007-02-24 売り上げランキング : 129770 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
新平が目指した「公共」の思想とは何だったのか
後藤新平という巨人には、様々な切り口がある。著者は「公共」という切り口で、西南戦争から関東大震災後の帝都復興までの新平を描く。その「公共」とは、役人が独占する現在の公共と本質的に異なる。
プロローグで「公共」を定義する。「公共の思想とは、権力者が民を縛る方便ではなく、人々が為政者に求める信義の要であろう。権力に近い者が、公共事業の名のもとに私腹を肥やす悪習とは対極にある。公の字に騙されてはなるまい」。
新平は、今に至るも日本社会に定着したとは言えない「公共」をもって、官吏の道を歩み、台湾を統治し、満鉄の初代総裁としてその基礎を築き、帝都復興に取り組んだと見る。
その新平の「公共」の意識の淵源を、著者は新平の恩師・安場保和のその師、横井小南に求める。本書の魅力は、現在の常識で安易に人や出来事を理解するのではなく、常に淵源にさかのぼる労をいとわぬところにある。
著者はまた、新平が「公共」を思想の根源に据えたのは、西南戦争後の防疫の失敗の体験によると見る。安場保和との出会いで医師への道が開かれた新平は、愛知県病院に勤務していた。西南戦争の帰還兵を受け入れるため、大阪陸軍臨時病院が設置される。新平は志願して帰還兵の防疫に当たった。
見たものはコレラ禍の地獄だった。しかも、戦勝に酔う兵士は医師の指示を無視して全国に散っていく。コレラの蔓延を防げなかった。「予防は治療に勝る」と、新平は確信した。以降、新平の主題は貧民の救済になっていく。
また、西南戦争後の失敗の経験が、日清戦争後の防疫に生かされる。日清戦争後の防疫はまた、名コンビ・児玉源太郎との初めての出会いでもあった。
コンビは以降、台湾統治、満鉄創業の準備等で如何なく力量を発揮する。科学者である新平の発想を政治家や軍人は理解できない。長州閥でもある児玉が防波堤になり、新平の奔放で緻密な事業を実現させてゆく。
著者はまた、科学者・新平が政治家・新平に変わる瞬間も見逃さない。台湾統治に際して、台湾を覆っていたアヘン吸引の悪習を、新平は厳禁するのではなく、「漸禁策」を採用する。科学者の理性を捨て、台湾の現実と財政的要請に妥協する。
だが、「公共」の道は踏み外さない。そして「公共」に基づくからこそ新平の提案の多くは実現しない。現在に至るも、日本は新平が想起した「公共」を実現できていない。【評者 北村龍行(毎日新聞論説委員)】
| ロング・グッドバイ | |
![]() | レイモンド・チャンドラー 村上 春樹 早川書房 2007-03-08 売り上げランキング : 37 おすすめ平均 ![]() 言葉で空気を描くひと 533ページ、一気読み ハルキ“マーロウ”はイカす・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ノスタルジアか新発見か、帰ってきたチャンドラー
村上春樹の新訳によるレイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』(早川書房、2000円)を読む。旧友に会いに行くようなものだった。おそらく新訳が出なければ再読することはなかった。
けれども本を手にしても、コーヒーカップの傍らに置いていつまでも眺めていていいのだと思えていた。いざページを開けると引きこまれた。懐かしい世界がそこにあり、いつまで読んでいてもいいし、いつ読み止めてもいい。結局、早く読み終わってしまうのが惜しくて、4日も5日もかけて断続的に読んだ。忘れている細部もあるが、話の大まかなところは頭に残っているから、それでよかった。今回の新訳で初めて日本語に完訳された部分がけっこう多いことに気づく。こんなにも枝葉の多い小説だったのだ。
読みながらさんさんと心に降り注いでくるものはノスタルジアだった。
チャンドラーは通過儀式のようなものだと思ってきた。たまたま出会ってしまうようなイニシエーションではあっても。訣れを告げる方法はチャンドラーのテキストのなかにはない、もちろん。
新訳でだれしもが最初に突き当たるのは、書き出しの1行だ。《テリー・レノックスとの最初の出会いは、……》となって、「私」という主語が手品のように隠される構文である。ここは、「私が初めて彼と出会ったとき」「私が初めて彼の姿を目にとめたとき」といったニュアンスで受け止められ、数えきれないエピゴーネンたちがこの情感を模写して亜流を形成したのだった。ここが村上訳では「出会い」を擬似主語にすることによって差異化された。日本語ではこうした処理も可能だ。「私」を形式的に削っても、私の充満する叙情世界は変質をこうむらない。
見事な骨格だが贅肉もたっぷり。時折、訳者の力量をもってしてもカバーしきれない無惨なトーンが露出する、不思議な準古典小説。【野崎六助 作家・評論家】
| 読書の腕前 | |
![]() | 岡崎 武志 光文社 2007-03 売り上げランキング : 16638 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 岡崎武志(書評家) 『読書の腕前』
若い時に楽しみを知れば、大人になっても持続する
──読書の楽しみ方を指南する本ですが、念頭にあったのは若い人?
■ええ、とくに大学生ですね。電車で携帯に目をこらす人は多いけれど、読書する姿は減っている。若者が読まないと本は売れないし書店も困る。特効薬はなく、気の長い話なのですが。
──読書のためにわざわざ電車旅行をするといった、岡崎さんならではのこだわりも魅力でした。
■オーソドックスな読書術にするつもりはなく、そのつど興味のある本を読み散らかしてきた実感を書きました。スキーなどと違って、読書の腕前は見えにくい。でも上手下手の段階はあります。ベストセラーや、やさしい恋愛小説などで止まってしまうのでなく、遠藤周作の対談集がおもしろいと思ったなら、その対話者が書いた噛み応えのある小説にも目を向けてほしい。より深いものに出会うきっかけになります。
──新学期に国語の教科書を開くのが楽しみだったと書いていますが、教科書も大事な入門書なんですね。
■あれほど一生懸命に読むものは、ほかにないでしょうね。読書の楽しみを若いころに知れば、大人になっても持続します。読まないではいられなくなります。
──大学生の読書量が減っているという実感はありますか。
■古本屋に通っていてわかるのは、ここ13年くらい、文芸書がすごく安いこと。それだけ大学生が買っていない。ぼくらの学生時代は学部にかかわりなく普通に文芸書を読んでいた。ビートルズの新作レコードを聴くように、大江(健三郎)の新作を読み、友だち同士でも話題にした。知らない題名を聞いてあわてて本屋でのぞくとかね(笑)。そうした知的虚栄心のようなものは読書では大事なんですよ。
──書評のために読書をしたあとも、楽しみとして本を読むそうで。
■ええ。タバコのブレンダーに聞くと、仕事場でタバコを試飲していても休憩時間には自分のタバコを吸うそうで、あれと似ています。個人的な本は、極端にいえばすっかり内容を忘れてもいい。何かしら後味が残ればそれでいいんです。明日から何かの役に立つというようなことは考えない。でも結果的に何らかの形で残っていくんです。
──買っても読まないまま積んでおく「ツン読」の効用もある?
■半ば言い訳ですが(笑)。本選びはそんなに効率がよくないという意味です。でも、これから読もうとする本を身の回りに置くことによって、読書欲が刺激されます。
──どこから手をつけたらいいか考えあぐねている入門者向けに、本選びの助言はありませんか。
■映画の原作などどうでしょう。藤沢周平の映画を見たら、原作と比較したり、別の作品を読んだり、当時の地方の藩の財政を図書館で調べたり。要は好奇心があるかどうかなんです。読書とは、本と対話する時間を持ったり情報を得るだけでなく、本が描く世界に関心を持ったり、自分の世界をもっと広げる行為だと思いますね。
| メディチ・マネー―ルネサンス芸術を生んだ金融ビジネス | |
![]() | ティム・パークス 北代 美和子 白水社 2007-02 売り上げランキング : 55787 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ルネサンス芸術の擁護者として知られるメディチ家は、15世紀にヨーロッパ最大の金融網を作り上げて巨万の富を築いた銀行一家でもあった。ローマ教皇と結びついてフィレンツェの実質的独裁者となったコジモ、ミケランジェロをはじめ芸術家を保護し「豪奢王」と呼ばれたロレンツォなど、メディチ家の人々と金融ビジネスを描く。
| ボクがライブドアの社長になった理由 | |
![]() | 平松 庚三 ソフトバンク クリエイティブ 2007-03-17 売り上げランキング : 7717 おすすめ平均 ![]() ライブドア再建への気持ちが溢れているAmazonで詳しく見る by G-Tools |
2006年1月のライブドア事件で堀江貴文前社長の後継を託された男、平松庚三とはどういう人物なのか。事件から1年の今、平松新社長への聞き書きによる事件の顛末とビジネス人生のすべて。ソニーを振り出しにアメックス、AOLなどヘッドハントで転職を重ねた日々、築き上げてきた人脈、KOZO改革的ビジネス論までを縦横無尽に語る。
| 最強企業はなぜM型なのか?―成功するM型仕事術のすすめ | |
![]() | 峰 如之介 グラフ社 2007-03 売り上げランキング : 38031 おすすめ平均 ![]() 「なぜ朝なのか?」ということへの説得力Amazonで詳しく見る by G-Tools |
毎朝8時から全取締役が朝会で情報の共有化を図るキヤノン、ワタミでは朝7時から渡邉美樹社長が経営理念を熱く語りかけ、セブン〓イレブン・ジャパンでは創業以来、毎週火曜日の朝に全国の経営幹部が集結するFC会議が開かれている。M型(朝型)企業はなぜ強いのか。ビジネス資源としての「朝」を解剖する。
| ひきこもりの国 | |
![]() | マイケル・ジーレンジガー 河野 純治 光文社 2007-03-23 売り上げランキング : 5810 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アメリカの日刊紙の東京支局長など在日経験の長いジャーナリストの著者が、日本独特の現象と言われる「ひきこもり」の実情を検証することから、日本が抱える病理の根本を浮き彫りにする。若者たちへの取材だけでなく、ジャーナリストの視点から日本の政治・経済・社会の問題点を捉え、複眼的に見つめていく。さらには経済危機を脱した韓国の改革、日本の苦悩の背後にあるアメリカの影響などにも視点を広げている。
| 中国外交の新思考 | |
![]() | 王 逸舟 天児 慧 青山 瑠妙 東京大学出版会 2007-03 売り上げランキング : 105339 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
グローバル化が進み、冷戦後の米国が優位に立つ世界の状況を、中国はどう捉え、どのような国際戦略を展開しようとしているのか。中国気鋭の国際政治学者が分析する。97年のアジア金融危機とグローバル化、主要な戦略パートナーとしての米国、急激な市場化、情報化がもたらした社会の変化、台湾問題、朝鮮半島問題、日米安保、インド・パキスタン関係、石油・天然ガスなどをめぐる東シナ海の係争問題、中露関係などを詳細に描き出す。
| 日本は略奪国家アメリカを棄てよ―グローバリゼーションも共同幻想も必要ない | |
![]() | ビル・トッテン ビジネス社 2007-01 売り上げランキング : 2393 おすすめ平均 ![]() 日本国籍を取得したアメリカ人の話Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アメリカ盲信はもう卒業する
私が、愛国者を1人あげよと言われたら、残念ながら多くの日本人をさしおいて、アシスト社長のビル・トッテン氏を挙げるだろう。そのくらい彼の書き物は日本を思っているし、私有財産に執着せず、日本の環境にいい生活まで実践してくれる姿には頭が下がるばかりだ。
愛国、愛国と言いながら国の金を平気で無駄遣いしたり、税金を払うのを避けようとしたり、国民の一部が飢えたり、自殺したりしても平気な格差社会化を勧める輩には爪の垢を煎じて飲ませたい。
ビル・トッテン氏は、はれて日本国籍を取得されたそうだが、その彼の新刊が『日本は略奪国家アメリカを棄てよ』(ビジネス社、1575円)である。
冒頭から恐ろしいことが書いてある。日本は安全保障条約があるから、他国が攻めてきた場合、アメリカが守ってくれると思っているが、実際は「共通の危険に対処するように行動する」と書いてあるだけだということだ。要するにアメリカが共通の危険を感じる相手から攻められない限り、日本は守ってもらえない。
かつて尖閣列島に台湾が海軍を出動させたことがあったが、在日米軍はまったく動かなかった。国交がない国でありながら、台湾は共通の危険を感じさせない国ということなのだろう。だとすると将来、アメリカと中国が蜜月状態となり、あるいはアメリカにとって中国が日本以上に大切なマーケットになったりすると、中国が日本を攻めてきても共通の危険を感じないかもしれない。その際には、基地を提供し、膨大な負担をしていながら、日本は見殺しにされることになる。
はからずもアメリカは急速に北朝鮮の擁護政策にまわり、金融制裁なども解除する方向に向かっているが、これも共通の危険を感じていないということを表している。そのあたりの危険を、トッテン氏しか触れないのが不思議なくらいだ。
そのほか、アメリカやイギリスの蛮行の歴史や、貧富の差が拡大したアメリカ人の生活の真実なども論じられるが、このような知識はアメリカに「NO」と言うために必須のものだ。最後に、ヨーロッパやベネズエラのチャベス大統領の例をひいて、社会主義のどこが悪いと明言する。社会主義者と呼ばれるのを恐れて何も言えない日本の元左翼文化人には痛切な言辞で小気味よい。【和田秀樹 精神科医】
| 社会主義インターナショナルの群像―1914-1923 | |
![]() | 西川 正雄 岩波書店 2007-01 売り上げランキング : 182819 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| ドイツの歴史教育 | |
![]() | 川喜田 敦子 白水社 2005-11-25 売り上げランキング : 179994 おすすめ平均 ![]() 歴史を「共有」することの難しさAmazonで詳しく見る by G-Tools |
社会主義の理念と国家と国民
私はマルクス主義者にも社会主義者にもなったことはない。だが、東欧社会主義国家が崩壊したからといって、社会主義の理念そのものが過去のものとなったわけではないだろう。フランス革命の「自由・平等・博愛」は今もなお生きていると思う。
西川正雄『社会主義インターナショナルの群像 1914〓1923』(岩波書店、7140円)は前向きに過去をふりかえる。しかも30年にわたって渉猟された史料を仔細に検討するのだから、生半可な執念ではすまない。
第1次世界大戦直後、4年半ぶりにスイスのベルンで26カ国の社会主義政党の人々が一堂に会した。この会議で最も緊迫したのは、戦勝国フランスと敗戦国ドイツの双方の社会主義者たちの間でなされた「戦争責任」をめぐる応酬だった。ドイツ社会民主党の多数派は戦時公債に賛成投票したではないか、とフランス側は詰問する。ドイツ側は、開戦前夜におけるロシアの脅威を考慮すれば、やむをえない判断だったと言い返す。やがてドイツ側のアイスナーが進み出て、1914年夏には誰にも予知できないことがあり、皆が誤りを犯した、と率直に反省する。だが、その2週間後、彼は暗殺された。
国際平和と国民防衛との緊張と一口に言うのはたやすい。だが、その緊張は社会主義インターナショナルを掲げる人々のなかでこそ、最も張りつめたものになる。そのことを思い知らされる場面でもある。
ちなみに、著者によれば「平和・人権・自由」が現代のスローガンである。平等理念は人権思想のなかで生かされる、との感慨がもれてくる。
ところで、ドイツの学校では現代史の学習に1年を費やすという。とくにナチの時代については教科書の記述も詳しく、反省の時間もたっぷりある。負の過去をいかに次の世代に伝えるか、そこに腐心する戦後ドイツの姿は生々しくもある。
川喜田敦子『ドイツの歴史教育』(白水社、1995円)は、過去を置き去りにすれば現代人の矜持もありえないことをさりげなく示唆する。両書を通じて、国家と国民は同じではないことが改めて念頭をかすめた。【本村凌二 東京大学教授】
| 円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋 | |
![]() | 安達 誠司 東洋経済新報社 2007-02 売り上げランキング : 47536 おすすめ平均 ![]() 日本経済をすっきりとさせない「強い円」へのこだわりAmazonで詳しく見る by G-Tools |
日本経済の長期衰退を招く「強い円」思想への警告
日本銀行が2月に金利引き上げを決定した直後に、「世界同時株安」の衝撃が世界を襲った。日本銀行はいわゆる「円キャリートレード」(調達コストの低い円でリスク資産に投資する行動)を投機とみなし、この早期抑制を目指すことを利上げの理由のひとつとしてあげていた。今回の世界同時株安に、日本銀行の利上げがもたらした円キャリートレードの縮小が寄与しているという見方もあった。このような日本銀行の政策が与える効果が、日本一国だけではなくグローバルな現象のなかでどのような意味をもつのかを、首尾一貫した視点から明瞭にしたのが本書の貢献である。
題名にもなっている「円の足枷」とは、著者の造語である。円・ドルレートの長期トレンドが購買力平価を上限にして、この十数年、一貫して円高基調にあり、そのことが日本に長期停滞とデフレをもたらしている。この「円の足枷」は日本銀行の金融政策のスタンスによるものであり、金融政策のレジーム転換によって市場参加者の期待の変化が生じない限り、日本経済はこの「円の足枷」から脱出できない、と著者は説いている。日本経済は2003年以降、回復途上にあるが、いまだこの「円の足枷」から脱しておらず、そのことが日本経済の長期的な衰退を招くだろう、というのが本書の重要な警告である。
さらに本書では、米国の膨大な経常収支赤字・財政赤字を世界各国がファイナンスしている現状を「新ブレトンウッズ体制」と名づけ、特に中国、日本、アメリカの3カ国が相互依存関係を深めていることを計量的に示している。たとえば中国の政策当局が内需拡大政策に本格的に舵をとり、元切り上げに踏み切れば、そのことが中国の保有する米国債の保有を不安定なものにし、アメリカ経済に深刻な影響を与えるだろう。
そしてアメリカの経済状況に影響を受けやすい日本経済は深刻な不況に陥ると本書は指摘している。この「新ブレトンウッズ体制」が今後持続可能であるかどうかは、中国経済の動向がキーとなるという本書の示唆は重要であろう。さらにこの「新ブレトンウッズ体制」のなかで、「円の足枷」から脱するレジーム転換を行うことが政府と日本銀行の緊急の課題であり、具体策として4%の名目成長率へのコミットを提示している。
本書の1ページごとに刻まれた優れた知見の数々は、著者が日本の最高のエコノミストの一人であることを鮮烈に印象づけるであろう。【評者 田中秀臣 上武大学ビジネス情報学部助教授】
| そもそも株式会社とは | |
![]() | 岩田 規久男 筑摩書房 2007-03 売り上げランキング : 5337 おすすめ平均 ![]() 株主に会社のオーナーシップがある理由 初心者には若干難しいところもあるけど 時代の流れに即した株式会社論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「会社論」議論に対し株主主権論を擁護
ライブドアによるニッポン放送株の買い占めや、王子製紙による北越製紙株へのTOB(株式公開買い付け)のように、日本でも、いわゆる敵対的買収事件が続発し、そこから「会社は誰のものか」という議論が盛んになっている。
このような敵対的買収は日本文化になじまない、という批判が経営者や従業員からなされているが、そんなことはないと著者は主張する。北越製紙の経営者が王子製紙との経営統合を拒否したのは、「北越の経営陣自身の利益追求のため」ではないか、と言う。
「会社は誰のものか」「企業統治はどうあるべきか」という議論に答えるために、アメリカの企業統治は株主主権論であるのに対して、日本は従業員、というよりコア部門の正社員主権論であったと対置するところから議論は出発する。
日本の会社が従業員主権であるという主張は1980年代のバブル時代に流行した。その代表ともいうべき、一橋大学の伊丹敬之教授の従業員主権型企業統治論の主張を取り上げて批判しているが、このあたりの議論はやや錯綜していてわかりにくい。
もし、従業員主権型企業が矛盾なく成立するためには、コア従業員が発行済み株式の過半数を所有して取締役の選任・解任権を取得することが必要だと著者は言うが、もちろんそんな株式会社は日本には存在しない。
敵対的買収に対して起こったような、日本のビジネスマンによる株主主権に対するアレルギー反応は、冷静に理論と現実に照らして考えれば、株主主権に対するいわれなき恐怖にすぎないと著者は言う。
ただ、著者のこの株主主権論は、交換の法則、誘因の法則、希少性の法則という三つの市場の法則から説いていくというもので、極めて抽象的、教科書的で、現実の株式会社の実態、あるいはその歴史から解明していくというものではない。
一方では、ライブドアや王子製紙の仕掛けた敵対的買収事件などを取り上げるが、本筋の議論は抽象的な経済学の次元で説明している。
この本の題となっている「そもそも株式会社とは」という問いに答えるためには、株主全員の有限責任を前提とした株式会社の原理はどのような条件のもとで成立するのか、などという株式会社の原理から説明していく必要があるし、さらに、19世紀後半に近代株式会社制度が確立して以後、それがどのように変化してきたか、ということを説明する必要があるのではないか。【評者 奥村宏 株式会社研究家】
| 泣き虫弱虫 諸葛孔明 第弐部 | |
![]() | 酒見 賢一 文藝春秋 2007-02 売り上げランキング : 10072 おすすめ平均 ![]() 注意!途中で止められません^^ やっと出ました!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部』は、独自の解釈で『三国志』を読み替えるシリーズの第2弾で、今回は孔明出廬から長坂坡の戦いまでが描かれている。
著者によると、正史『三国志』は決して中立ではなく、劉備を善、曹操を悪として歴史を語っているという。ただ劉備軍の武将も乱世を生きているので、時に悪辣な謀略に手を染めることもあった。劉備を英雄にしたい『三国志』は、劉備軍の悪事を隠蔽しているのだが、本書は歴史書の遺漏や矛盾を指摘することで、長く続いてきた劉備贔屓の歴史観を覆していく。
それだけに、無能なのになぜか民衆の支持率が高い劉備、あやしい論理を弄ぶ放火マニアの孔明、大量殺戮が好きな関羽と張飛らが織りなす物語は思わず笑ってしまうほどだが、『三国志演義』より面白くリアリティーもある。
本書は徹底した偶像破壊を行っているが、圧巻なのは長坂坡の戦いの真実である。『三国志』では、曹操軍に追われて逃亡する劉備を慕う住民が、劉備軍と行動を共にしたとされていたが、当時は敵に占領されても住民が虐殺されることは少なく、実際、劉備に従わなかった住人は曹操の支配下で平穏に暮らしたという。
このほかにも、劉備の嫡男・阿斗(後の劉禅)を抱えて敵陣を突破する趙雲、殿軍を任された張飛が長坂橋で大喝し、曹操軍を退けたといった有名なエピソードが、見たこともない姿に変えられていくので、驚きも大きいだろう。 『三国志』の世界にツッコミを入れながら、ニート問題や大衆迎合政治の是非といった現代の世相にもシニカルな批評を加えているので、考えさせられることも多い。【末國善己 文芸評論家】
| 野球再生―よみがえれ魂の野球 | |
![]() | 広岡 達朗 集英社インターナショナル 2007-01 売り上げランキング : 103224 おすすめ平均 ![]() この一冊を待ってました! ボビーを更迭した男の球界改革論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 広岡達朗(野球評論家)
額に汗して働かないIT長者と巨人は同じです
――いよいよ開幕した日本のプロ野球ですが、野球人気の凋落やスター選手の大リーグ流出などで、取り巻く環境は厳しいものがあります。再生のカギは何ですか?
■育成です。人は必ず育つものです。選手が育てば流出しても補充は可能だし、野球の裾野を広げることにもつながります。一般社会にも当てはまりますが、育成ということに気づかない組織はダメになりますよ。
――巨人に対して厳しい見方ですね。昨シーズンの無惨な結果を、根本的な治療には見向きもせず、サプリメントを活用する対症療法だけで対応してきた結果と指摘しています。
■巨人は球界のリーダーです。ところが長い間、選手を育てられなかった。その結果、ドラフトをいじり、FA制度を導入し、挙げ句が他チームの優秀な選手を引っこ抜くことで補強してきた。勝つことに主眼を置き、育てることを二の次にしてきたツケがここにきて噴き出してきた。「勝ち組」になればいいという点で、額に汗して働かないIT長者と巨人は同じです。
――指導者の育成についてもかなりのページを割いています。
■人気者がそのままコーチや監督になる仕組みは時代遅れです。アメリカでは下位リーグで実績を積み上げなければ、大リーグのコーチにはなれない。私は引退後に単身渡米し、さらに広島やヤクルトでコーチをして「人は必ず育つ」ことを選手に教えてもらった。今の球界を見渡しても、選手が上達する理論を持っているコーチは少ないですよ。そうしたしっかりした指導者を作れば選手層は厚くなります。
――コーチ養成学校の構想にも触れられていますね。
■14~15年前から温めていることで、プロ野球機構にコーチ学校を作ればいい。必要な技術や知識を教え、研修を経てライセンスを与える。プロ・アマの壁の問題はありますが、指導者不足に悩んでいるアマチュアチームに派遣すれば底辺の拡大にも役立つでしょう。さらに大学野球部の活用もいい方法です。レギュラーにまったく縁のない野球部の選手は、コーチ業を学ばせればいい指導者になると思いますよ。
――「ほめて育てる」には批判的です。
■おだてるのとほめるのとは違いますよ。おだては甘い言葉で選手を動かしているだけで人は育たない。厳しいことを言う人に、きちんと結果を出した時にほめられれば、うれしいからまた頑張ろうと思うわけです。
――ところで今年のプロ野球ですが、どうご覧になりますか。
■巨人は若い投手がいいですから3位には入りますよ。こういう投手が伸びたら来年以降強くなる。でも育成をやめたらまたダメですけどね。中日の落合監督は一番しっかり野球を教えている。今の監督の中ではトップでしょう。ただその次の監督はやりにくいでしょうね。ソフトバンクはやっと王ちゃんの思想が出てきたので、今年はいいんじゃないですか。
アメリカ産牛肉から、食の安全を考える
アメリカ産牛肉の輸入が再再開されてから数カ月だが、食の安全に対する信頼は復活しているとは言い難い。低価格・大量生産の思想のなかから生まれたBSE(牛海綿状脳症)とは、そもそも何であるのか。日本産牛肉のリスクは本当に小さいのか。輸入再開を求める外圧と内圧など、BSEをめぐる問題を分かりやすく解説する。
| 癒しの島、沖縄の真実 | |
![]() | 野里 洋 ソフトバンク クリエイティブ 2007-02-16 売り上げランキング : 5513 おすすめ平均 ![]() 沖縄最前線にいた人の自叙Amazonで詳しく見る by G-Tools |
沖縄が人気である。珊瑚礁の砂浜、三線の音色と歌と踊り……。経済効率や、豊かさ、便利さを追い求めてきた現代人にとって、ゆったりしたスローライフの沖縄はまさに癒しの島。しかし沖縄には30数年前まで日本ではなかった時代がある。『琉球新報』の記者として40年あまりを沖縄と共に生きた著者が、その目で見つめ続けてきた沖縄の真実を語る。
| フィリピーナはどこへ行った―日本から消えた彼女たちの「その後」 | |
![]() | 白野 慎也 情報センター出版局 2007-02 売り上げランキング : 126897 おすすめ平均 ![]() 安らぎと愛しのフィリピーナ達の行方Amazonで詳しく見る by G-Tools |
“芸能人”として年間6万~8万人のフィリピーナが来日するようになった1980年代以降、最盛期には6000軒とも言われるフィリピンパブが賑わった。しかし2005年3月の法務省の省令改正で入国は激減、06年には8000人台になった。この本は、日本から消えた彼女たちの「その後」を追ったフィリピン現地ルポである。
| ドイツは過去とどう向き合ってきたか | |
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欧州では、残念ながら日本は「歴史認識をめぐり頑迷な態度を崩さず、周辺諸国と融和しようとしない国」というイメージが定着しつつあるという。戦争責任や戦後補償などをめぐって日本と比較されることの多いドイツだが、具体的にはどのように過去と対決し、近隣諸国や被害者の信頼を取り戻そうとしてきたのか。ドイツ在住17年のジャーナリストが、政治・教育・司法・民間のジャンルに分け、現場の取り組みをコンパクトにまとめた。
| 組織進化論―企業のライフサイクルを探る | |
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組織という社会単位はなぜ、どのように出現し、変化を遂げていくのか。最新の進化論の動きを取り入れながら企業やNPO、ベンチャーなどの組織が発生し、群れをつくり、コミュニティーが生まれていくダイナミックなプロセスを描きだす。個々の企業や団体の動きを追うのではなく、「群れ」という視点に着目し、環境に適応する特徴が一つのベンチャーから他の組織に広がり、群れ全体で進化していくメカニズムなどが示される。
| ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機 | |
![]() | 船橋 洋一 朝日新聞社 2006-10 売り上げランキング : 25922 おすすめ平均 ![]() “外交とは内政である”そして“外交は常に多国間の関係性である” 大変な労作である 文句なしの大作Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本は北朝鮮問題で孤立するのか
6カ国協議が再開され、北朝鮮問題が新たな展開を見せはじめている。昨年秋の米中間選挙によってブッシュ政権の外交戦略が大きく転換したことが、今回の進展の最大の原因である。
船橋洋一が『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(朝日新聞社、2625円)で詳細にドキュメントしているように、従来までのアメリカの対朝政策は、様々なプレーヤーが交差することにより、必ずしも整合的なものではなかった。それが、ラムズフェルド前国防長官、ボルトン前国連大使らの対朝強硬派が次々辞任するなかで、対話派がしっかりと主導権を握り、核問題などの段階的解決に向けて動き出してきたわけだ。
こういう曲がり角にあるからこそ、過去の対朝外交の歴史を振り返ることに意味があるのだろう。船橋の労作『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』は、そのための格好の書であろう。
膨大なインタビューに基づいたドキュメントは、全体としてかなり迫力はあるが、やはり圧巻は第1章、第2章の小泉訪朝、再訪朝のくだりであろう。評者は「小泉劇場政治」全体についてはかなり批判的であるが、日朝国交正常化にかけた小泉チームの活躍には敬意を表さざるをえない。小泉という思いこんだらぶれない変人宰相と、巨大なリスクをあえて取る外務官僚らしくない田中均という異才の組み合わせが、こうした結果を生んだのだろう。当時の外務事務次官、竹内行夫が田中について、「ハーメルンの笛吹きのようなところがある」と言ったと船橋は書いているが、本来、保守的な外務官僚から見れば、リスクテイカー田中均は、そういう存在なのだろう。
小泉純一郎と田中均という2人の異才のなかで、バランスを取りながら「大義」のために舞台を整えたのが、当時の福田康夫官房長官と古川貞二郎官房副長官だったと、船橋はドキュメントする。今の官邸と違って、なかなかしたたかで有能な官邸であったようだ。しかし、拉致問題が逆流して小泉や田中が(特に田中だが)メディアに叩かれ、単純な強硬論だけを主張した安倍晋三が世論の支持を受けて浮かび上がってきたことは、日本にとって不幸なことだった。安倍が変わらなければ、北朝鮮問題で日本は孤立するしかないだろう。【榊原英資 早稲田大学教授】


アメリカ庶民とは何か、が実感でわかる
努力が報われない。















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