メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年4月17日~4月24日

人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか
人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか水野 和夫

日本経済新聞出版社 2007-03
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おすすめ平均 star
star資産運用を行っている人に必読の書

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世界経済の「新常識」を3つのキーワードで説く

本書を手にして、最初に目に飛び込んでくるのは「一九九五年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなった」というくだりである。長い間金融・資本市場に身を置いてきた多くの人たちは、この出だしに黙ってうなずくのではないか。

著者は、日本のみならず、世界の経済システムはIT(情報技術)革命と、それを駆使するグローバリゼーションが変化の原動力となったとする。そして、グローバリゼーション下での構造変化の内容は「帝国の台頭と国民国家の退場」「金融経済の実物経済に対する圧倒的な優位性」そして「均質性の消滅と拡大する格差」と指摘する。すなわち、常識が通用しなくなった原因を、3つのキーワード「帝国化」「金融化」「二極化」で説明している。

金融・資本市場の最先端から、国際間における大きな資金の流れをとらえた現状分析は、現実の数字に基づいており、とても面白く読むことができる。さらに歴史を遡って政治・経済の変化をたどり、論証を進めていくことで、現状が多面的にあぶり出されている。まさに時空を超えた視点に立つ分析ともいいうる、300ページに及ぶ労作である。

読むうちに、著者はどのように考えるか、もう少し聞いてみたいという点が出てきた。

米国には経常収支の赤字を穴埋めする資本輸入がなされているが、受け入れた資本を自国の利益の追求に用いるのは当然のことである。したがって赤字に伴う資本輸入が続く限り、本来失うはずの通貨は失われず、米国は消費を増やし、海外の株式取得や企業買収を無制限かつ自在に行いうる。

しかし、米国がこうした行動をとることができるのは、資本輸出する黒字国があってこそである。黒字国が自国通貨の切り上げを嫌い、黒字相当分を資本輸出することは、貴重な通貨主権を米国に渡しているようなものだ。著者が展開する米国の「帝国」化の見方は、よくよくみると米国の帝国主義の発露だけではなく、黒字国が通貨主権を放棄してまでも守りたい現状と相俟って成り立っているのではないか、と考えるがどうであろうか。

金融経済が実物経済に対して優位に立つ、すなわち「金融化」において、ドルが基軸通貨であることを十二分に利用して、米国は国益を大きく増進させた。目を転じて、日本の国益を追求するという視点で、どのような通貨政策が期待されるか、いずれ機会があれば、著者の視点で論じていただきたいというのが読後感である。【評者 三國陽夫(三國事務所代表取締役)】

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

「最後の社会主義国」日本の苦闘
「最後の社会主義国」日本の苦闘レナード・ショッパ 野中 邦子

毎日新聞社 2007-03
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構造改革遅れる日本の見えない「退出」現象を解く

邦訳のタイトルは魅力的であるが、本書の基本的なテーマは、原題通りの「退出への競争」である。社会を動かす力は政治的な「要求(Voice )」だけでなく、人々の「退出(Exit)」行動も同様に重要だということは、ハーシュマンの東ドイツ崩壊の研究にもあるが、これを著者は現在の日本の問題に適用している。

例えば、企業が法人税引き下げ要求だけでなく、税率の低い国へと工場を移す行動が「退出」である。この要求と退出のいずれの行動が重視されるかは、退出のコストに依存する。仮に、コストが十分に低ければ、日本からの脱出競争が生じて、国内は瞬く間に空洞化してしまい、それを防ぐために政府は税率を下げざるを得ない。逆に、退出のコストが著しく高ければ、企業は税率引き下げへの政治的な圧力を大幅に高めるであろう。

問題は退出コストが中途半端な高さの場合であり、意欲的な企業から徐々に退出するため、その弊害が十分に認識されないまま、産業の空洞化が着実に進むことになる。また、海外と容易に比較できる法人税と異なり、空港・港湾・エネルギーなど、日本経済の非効率性から生じるコストの大きさは、より見え難い。それに対して、大手製造業からさほど強い要求がなされないことは、日本からの対外直接投資の拡大を通じた緩やかな退出が着実に進んでいるためという。

この要求と退出は、少子化についても見られる。女性の就業と子育てを両立させる働き方や消費者ニーズに沿った保育所の改革は遅々として進まず、旧い制度が維持されたままである。しかし、これに対する改革への政治的な要求は必ずしも大きくなく、むしろ家庭で子育てをという逆の立場の要求と相殺されている。こうしたなかで、女性の非婚や子どもを産まないという形での「退出」が、徐々に進んでいることが、少子化問題の本質であるという。

こうした要求と退出との対比は、1980年代の米国による日本の構造改革促進への政治的要求と、90年代以降の中国と比べた日本への関心の低下などにもあてはまる。

国会などでは、格差の是正論議が華やかであるが、他方で、日本のさまざまな分野で生じている「緩やかな退出」現象は見え難い。これらを十分に把握し、それに対して速やかに制度的な改革を講じよというのが本書の基本的なメッセージである。短期的な利害のみに目を奪われ、個人や企業の「退出」を防ぐ構造改革が妨げられている日本の現状への警鐘といえる。【評者 八代尚宏(国際基督教大学教養学部教授)】

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

芸能をビッグビジネスに変えた男 「ジャニー喜多川」の戦略と戦術
芸能をビッグビジネスに変えた男 「ジャニー喜多川」の戦略と戦術小菅 宏

講談社 2007-03-23
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著者インタビュー 小菅宏(著述家) 『芸能をビッグビジネスに変えた男 「ジャニー喜多川」の戦略と戦術』

「理想の男の子」を40年追求し開花した唯一無二の方法論

――ジャニーズ事務所のキムタクこと木村拓哉こそ、近年の最大ヒット商品の1つだと思っていたものですから、思わず手にとりました。ジャニー喜多川氏自身はほとんど表に出てこない人ですが、小菅さんとの関係は?

■私は1968年から約20年間、集英社の雑誌編集部員として、ジャニーズ事務所担当のような形でジャニーさんと密接に付き合いました。フォーリーブスのデビューから解散までをまるまる体験し、ジャニーさんと郷ひろみとの訣別も間近で目撃しました。

最近はSMAPなどを中心にジャニーズ事務所がまさに芸能界を席巻していますが、私から見ると、当時ジャニーさんから聞いた方法論がついに開花したように思えます。初期の試行錯誤と、現在の隆盛とを照らし合わせて、ジャニーさんの仕事の核心を描いてみようと思ったのが本書です。

――ジャニーズ事務所は男の子を基本的にグループで売り出す。その組み合わせを考える時が、ジャニー喜多川の至福の時なのだと本書にあります。

■ジャニーさんは女の子の願望が決して1人の男の子では満たされないことを知っている。「スポーツマンタイプ」「お坊ちゃまタイプ」「不良タイプ」など複数の個性をパズルのように組み合わせて初めて「理想」に近づけることを彼は発見しました。

この絶妙のパズルを解けるのは彼だけですし、しかも「宝塚」方式で次々と新人を用意する。来年喜寿を迎えるお年ですが、いまも「理想の男の子」の追求を続け、現に若い女の子たちを熱狂させています。こんな人は唯一無二でしょう。

――ジャニー氏は数奇な人生を生きてきた人ですよね。アメリカ人として生まれ、朝鮮戦争にも行っている。

■彼は「アメリカ」をずっと背負っていて、本場のショービジネスを日本に伝えられるのは自分だ、という自負が原動力になっていると思います。ビジネス面を主に受け持つのは姉のメリー喜多川さんですが、この2人の発想や行動力は実際に日本人離れしていて、その意味でも絶対的ですね。

――郷ひろみとの訣別のいきさつも本書の読みどころの1つですね。

■今に至るまで、ジャニーさんがアイドル造型として最も愛したのは郷ひろみでした。それだけに訣別は痛恨事だったでしょう。郷は頭のいい人で、自分の戦略をもっていたのに、ジャニーさんはそれを十分に理解してあげられなかった。その反省は、おそらく今の木村拓哉との関係などに生かされていると思います。

――それにしても、若者の好みも変化する。ジャニーズ事務所の戦略はいつまでもつのでしょう。

■いつの時代でも女の子は可愛い男の子が好き。その「不易」の部分を基本として押さえ、SMAPなどではお笑いの要素を加えて時代の「流行」も巧みに取り入れている。少なくともジャニーさんが健在である限り、ジャニーズ事務所の旋風は止まないでしょう。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

人に好かれる法
人に好かれる法近藤 信緒

ダイヤモンド社 2007-04-06
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だから嫌われる
だから嫌われる山見 博康

ダイヤモンド社 2007-04-06
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60年前の女性ベンチャー企業経営者によるベストセラーを復刻。「信用してもだまされない」「負けることが平気」など、いまも世にも通じる「人に好かれる法50カ条」はじめ、人との付き合い方の知恵を満載。

「50カ条」の解説書『だから嫌われる』も同時出版(山見博康著、1365円)。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

消費者からみたコンプライアンス経営
消費者からみたコンプライアンス経営松本 恒雄

商事法務 2007-02
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消費者政策の流れはいま、「企業の自主的努力を市場の力を借りて実現していく」という“第三の波”の最中にあり、建前としての消費者重視ではなく、経営総体としての実効性が問われている。そのカギとなる自主行動基準、コンプライアンス経営の意義や論点、海外の状況などを立体的に整理し、消費者利益確保のために企業が真正面から取り組むべき課題を掘り下げている。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

新聞の時代錯誤―朽ちる第四権力
新聞の時代錯誤―朽ちる第四権力大塚 将司

東洋経済新報社 2007-02
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おすすめ平均 star
star日経の社内広告独自基準に抵触? ついに、この本の広告を拒否した日経の言い分
star衝撃の問題作、関係者必読の一冊

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著者は新聞協会賞受賞後、子会社の巨額不正経理事件で当時の鶴田卓彦・日本経済新聞社長の経営責任を社内から追及。懲戒解雇され、裁判で解雇撤回を勝ち取った。新聞の不祥事は“言論の自由”という錦の御旗の下、戦時下の言論統制時代の経営形態を温存、特権を手放さない個人商店的体質が原因とし、「普通の会社」への転換を主張。そうしないと大新聞は生き残れなくなる、という話には説得力がある。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

未完の明治維新
未完の明治維新坂野 潤治

筑摩書房 2007-03
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おすすめ平均 star
star感動すら覚えました

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尊皇攘夷を掲げた維新の英雄たちは、新政府で富国強兵を進めた。「強兵」を重視する西郷隆盛、「富国」の大久保利通、「立憲制」の木戸孝允、「議会制」の板垣退助の各グループの対立が表面化し、合従連衡のなかで明治日本の近代国家ができた、と説く。維新は民主主義を希求した「武士の革命」だった、と評価。西郷の「征韓論」は伝説、と喝破するなど通説の間違いを遠慮なく批判している。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

ポスト・デモクラシー―格差拡大の政策を生む政治構造
ポスト・デモクラシー―格差拡大の政策を生む政治構造コリン・クラウチ 山口 二郎 近藤 隆文

青灯社 2007-03
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問題を明確にするため、釣り鐘型の「民主主義の放物線」を描く。そこに放物線を横切る線を引く。放物線が最初に横線と交わるのは20世紀前半。放物線が20世紀中頃のピークを過ぎて、2度目に横線と交わるのは2000年。つまり私たちは今、民主主義のピークを過ぎてポスト・デモクラシーの入り口にいる。労働組合の凋落、ケインズ政策の放棄、投票率の低下、企業のロビー活動の政治支配などがその証左とされる。しかし悲観論ではない。

■2007/04/24, 毎日エコノミスト

人にいえない仕事はなぜ儲かるのか? 角川oneテーマ21
人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?  角川oneテーマ21門倉 貴史

角川書店 2005-11-10
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おすすめ平均 star
star税金に疎いサラリーマンにお薦めの一書
star節税というか、(合法的)脱税というか
starしっかりした本でした!

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税金を払うのが嫌いな国

拝金主義ということばが、昨年の流行語の一つになったが、それによって職業の貴賎といわれるものがなくなったといってよい。

昔であれば、いくら金になっても「人にいえない仕事」があった。私も灘高に通っていた頃、パチンコ屋の子供がかなりたくさんいた。跡を継げば、確実に大金持ちになれても、彼らは医者や弁護士を目指した。親もそれを望んで私立の中高に子供をやる。当時は、お金よりステータスのほうが求められたのだろう。しかし、今では、彼らの子供は小学校から大学までつながった学校に行き、青年実業家と名乗り、その勝ち組の1人は東大卒の外交官の娘であるタレントと結婚する。ステータスより金の時代である。

そんな折にあえて、『人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?』(角川書店、720円)という本をみつけた。著者の門倉貴史氏は気鋭のエコノミストで地下経済の専門家である。

読んでみると、結局、そういう職業の人間は税金を払っていないから儲かるという当たり前のところにいきつく。そして、門倉氏はさまざまな取材から、節税のテクニックを紹介し、税のしくみの問題点を明らかにしていく。

これだけでも十分情報としては価値があるが、最後に彼独自の税理論が展開される。税を高くすると、地下ビジネスの勢いが増すので危険だという考えと、所得に税をかけるより、支出に税をかけるという独自案が表明される。

実は、私は全く逆の考え方をしている。人口減少社会では、慢性的な消費不足が起こるので、支出をたくさんする人を優遇すべきで、税を高くして、その代わり経費をもっと認めろという考え方である。税を高くすると、確かに地下経済の割合が増える(実際、北欧でも高いようだ)のだろうが、現在、税金の高い北欧諸国は、社会保障の充実と国民の教育レベル(政府が面倒をみてくれる)の高さのために、高い国際競争力を誇っている。地下経済の割合が高くても犯罪は少ない。

ただ、いろいろな考え方を知ったり、試すことは決して無意味なことではない。また、増税よりクロヨンを改めろという主張もまっとうだ。もう一つ私が言いたいのは、日本人の税金を払うのが嫌いな国民性を何とかしてほしいということだ。それこそが愛国教育というものだろう。【和田英樹 精神科医】

■2007/04/24, 毎日エコノミスト, 58ページ

日本の200年〈上〉―徳川時代から現代まで
日本の200年〈上〉―徳川時代から現代までアンドルー ゴードン Andrew Gordon 森谷 文昭

みすず書房 2006-10
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おすすめ平均 star
star質の高い日本の近・現代史の分析
star日本を特殊視しない点に好感
star歴史が自然と頭に入る

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日本の200年〈下〉―徳川時代から現代まで
日本の200年〈下〉―徳川時代から現代までアンドルー ゴードン Andrew Gordon 森谷 文昭

みすず書房 2006-10
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おすすめ平均 star
starこれからの基本文献

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近代日本の社会科学―丸山眞男と宇野弘蔵の射程
近代日本の社会科学―丸山眞男と宇野弘蔵の射程アンドリュー E.バーシェイ 山田 鋭夫

NTT出版 2007-03
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海外の知的エリートは日本近代をどう学ぶか

海外の若者の日本イメージは、宮崎駿のアニメや村上春樹の小説でかたちづくられる。対日外交に携わる政治エリートや日本企業の交渉相手となるビジネスエリートの日本イメージは、どう構築されるのだろうか。

アンドルー・ゴードン(森谷文昭訳)『日本の200年 徳川時代から現代まで』上下(みすず書房、各2940円)は、ハーバード大学歴史学部長の執筆した日本近現代史教科書である。原書はオックスフォード大学出版会から出て、米国のみならず世界中で日本に関心を持つ学生たちの必読書になった。かつてのライシャワー『ザ・ジャパニーズ』のように世界の知的エリートの日本像形成に重要な意味を持つ。

外国人の書いた日本史だからとあなどってはならない。南京大虐殺も従軍慰安婦も、戦時米国の日系人強制収容も占領下の検閲も、豊富な事例と生活文化に目配りして描かれる。世界史の中に巧みにバランスよく日本を嵌め込み、通常1945年で区切る日本人のあまたの通史より読みやすい。

ゴードン教授の日露戦争からサンフランシスコ講和までを「帝国」とし、52年以降を「現代」とする時期区分の方法論的基礎まで探りたければ、同世代のアンドルー・E・バーシェイ(山田鋭夫訳)『近代日本の社会科学 丸山眞男と宇野弘蔵の射程』(NTT出版、4410円)を併読しよう。世界の社会科学がどんな研究を日本人に期待するかが、洗練された叙述で語られる。カリフォルニア大学バークレイ校のバーシェイ教授が20世紀の日本の学問を総括して見いだした2大成果は、日本社会の特殊性に根ざし内在しながら、普遍に開かれた独創性を持つ、宇野弘蔵のマルクス経済学と丸山眞男の政治思想史だった。豊富な日本語文献に緻密に目配りしたうえで、今日の日本では忘れられ無視されがちな「戦後民主主義」の知的伝統が、アメリカの最先端研究者に注目され甦った。

日本学のスタンダードであるゴードンやバーシェイを学んだ外国人に南京大虐殺の幻や東京裁判の不当性を説いても無力である。自分の知性の貧困を証し軽蔑されるだけである。知的遺産の共有こそ対話の出発点である。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】

■2007/04/24, 毎日エコノミスト, 58ページ

ウマはなぜ「計算」できたのか―「りこうなハンス効果」の発見
ウマはなぜ「計算」できたのか―「りこうなハンス効果」の発見オスカル・プフングスト 秦 和子

現代人文社 2007-03
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期待に見合う結果しか見ない人間心理への警告

サーカスや見世物で様々な動物の卓越した技を見ることがある。私たちは、それを動物たちが持つ生得の能力が訓練によって引き出されたのだと解釈し、その技に感心しつつも「さもありなん」と思っている。

しかし、飼い主の指示が一切なくても、前足で地面を叩いて足し算や引き算の答えを当て、トコトコと歩いて指示された色の布を選び出し、首を振って「はい」「いいえ」の意志を表現するウマが出現したらどうだろうか。ひょっとしてウマにも計算能力や判断力があるかもしれないと思い込むのではないだろうか。

1904年に、そんなウマがドイツに現れた。フォン・オステンという老人が育てたハンスという名のウマで、世間に一大センセーションを呼び起こしたのである。多くの人々が見守るなかで、ハンスはほとんどの問いに正しく答えたのだ。見世物であっても見料はとらなかったから儲けのためのトリックではなく、オステンがいない所でも一般の人の質問に的確に答えたから、飼い主の合図や扶助によるとも考えられなかった。

これが世間に知られるや、ウマにも思考力があると宣伝され、著名な動物学者やトリックの権威が立ち会い、ハンスの際立った知的能力を保証した。当時、進化論が力を得つつあり、動物に人間と対等な思考力があってもおかしくないと考える(願う)風潮が強い時代背景もあった。

しかし、これに疑問を持ったのが著者たち調査委員会の面々である。彼らはハンスと質問者の微妙な行動を徹底観察し、二重盲検法を用いて実験室で試し、最後に自分たちがハンス役や質問者役になって一部始終の再現に成功した。ハンスに思考力や記憶力があるわけではなく、質問者が知らず知らずの間に示すごく小さな(ほんの2ミリの)身体の動きや視線の方向を読みとって反応しているにすぎないのだ、と。

本書はその経緯をまとめたもの(原著は1907年刊)で、緻密で考え抜かれた実験を通して世間の願望を覆した報告集でもある。動物を対象とした実験はいかにあるべきかの見本であるとともに、表象だけから判断してしまう人間心理の危うさへの警告ともなっている。人間はある期待を持つとそれに合った結果にしか目を向けない傾向があるからだ。

まだ設備の乏しかった頃の実験の工夫には頭が下がる。英雄に祭り上げられたハンスにとっては迷惑な話であっただろうが。【評者 池内了(総合研究大学院大学教授)】

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

東アジア共同体をどうつくるか
東アジア共同体をどうつくるか進藤 榮一

筑摩書房 2007-01
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おすすめ平均 star
star対中認識が甘い
star今後の日本の生きる道

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東アジア地域統合に向けたアセアン中心のシナリオを描く

今日のEU(欧州連合)にいたるヨーロッパの地域統合の歴史を振り返ると、3つの条件を共有しながら地域共同体が形成されてきたことが見えてくるという。すなわち「共通の脅威」「共通の利益」「共通の価値観」である。旧ソ連という共通の脅威が統合のきっかけをつくり、関係諸国が市場統合を進めることで、共通の利益が生まれ、そしてその共通の利益を軸にして、徐々に共通の価値観がつくられていった。

それを東アジアにあてはめるとき、大きな転機となったのが、1997年にアセアン諸国や韓国を襲ったアジア通貨危機だった。危機をつくりだした「ヘッジファンドが跋扈する“カジノ資本主義”」がいまや東アジア諸国にとっての共通の脅威となったと著者は言う。言い換えれば、米国独り勝ちのドル機軸通貨体制への不信と危惧だろう。

そして、通貨危機後の対応を通じて、浮かび上がってきた「東アジアの枠組み」とは、小国連合であるアセアンに日中韓を加えた「アセアン・プラス・スリー」であったというのが、本書のもう1つのポイントである。

通貨危機直後の日本のAMF(アジア通貨基金)構想は米国の反対にあって挫折したが、98年以降「新宮沢プラン」「チェンマイ・イニシアチブ」さらにはアジア域内債券市場やアジア共通通貨の可能性を秘めた、ACU(アジア通貨単位)の試みなどがなされる一方で、日本の直接投資の復活や中国経済の急速な勃興のなかで、東アジア域内での経済的な相互依存体制は強まっている。アセアンを媒介にした東アジア全体の共通の利益もまた生まれてきているのである。

統合に向けたアセアンの役割を「統合の緩衝剤」「統合の磁場」「統合の操縦者」の3様に位置づけ、経済のみならず安全保障、さらには文化についてまで、将来の東アジア地域統合へのシナリオを描ききったのが本書である。あまりに楽観的に見えるかもしれない。しかし、欧州の例を考えれば、近視眼的な外挿法で考えないほうがいい──そう感じさせるほどに、アセアンを中心にしたさまざまな試みの精緻な位置づけには説得力がある。

また、安全保障に関連して、中国の(軍事的)脅威についても1章を割いているが、ハイテク軍拡(と兵力削減)を進めながら、一方で、多国間外交へ転換しようとしている“お家の事情”を明らかにした中国の軍事力分析は興味深い。【評者 西和久(毎日新聞編集委員)】

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

武田家滅亡に学ぶ事業承継
武田家滅亡に学ぶ事業承継北見 昌朗

幻冬舎 2006-06
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おすすめ平均 star
star武田家滅亡の責任の7割は、武田信玄にあった
starおすすめです
star事業

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恋愛模様の裏にうごめく北野大茶会の陰謀

天正15年、秀吉は北野大茶会を開催する。大茶会は当初10日の予定だったが、なぜか1日目で中止されたという。その謎に迫ったのが、安部龍太郎『恋七夜』である。

京の花街・上七軒に大茶会への協力を求めるため、石田三成、津田宗及らが訪れる。上七軒の最高位・北野太夫を名乗る富子は使者を接待するが、その席にいた宗及の結師・源四郎に恋をしてしまう。

結師は紐を結んで封印を作り、茶道具に毒が仕掛けられるのを防ぐ技能者で、家に伝わる秘術を守ることが求められていた。一方、最高の教養を身に付けた富子も、厳しい伝統の中で生きていた。

古くからの“掟”によって自由が制限されている富子と源四郎が、苦悩しながらも懸命に愛を育む過程を描いているので、物語は一見するとせつない恋愛小説のように思える。だが秀吉政権のプロパガンダである大茶会が近付くにつれ、二人は巨大な陰謀に巻き込まれることになる。

個人の恋愛模様を掘り下げることで、歴史の隠された“闇”を暴くというミステリー的な構成は秀逸。無名の人々と歴史の激流がぶつかる瞬間に着目することから生まれる人間ドラマは、深い感動を与えてくれるだろう。

伊東潤『武田家滅亡』(角川書店、1995円)は、愚将とされてきた武田勝頼を再評価した作品である。

長篠合戦で老臣が戦死したのを幸いに、勝頼は積極的な改革を進めていく。それなのに武田家が滅んだのは、場当たり的な外交と、政権が財政再建の方針をめぐって対立したことにあるという。危機に瀕しても既得権を守ろうとする官吏の姿は、明らかに現代日本と重ねられている。【末國善己(文芸評論家)】

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

その「記者会見」間違ってます!―「危機管理広報」の実際
その「記者会見」間違ってます!―「危機管理広報」の実際中島 茂

日本経済新聞出版社 2007-02
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star「備えあれば!!」

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著者インタビュー 中島茂(中島経営法律事務所代表、弁護士)

本能では隠してたくても心を鬼にし、情報開示を

──今の記者会見、どこが一番間違っていますか?

■まだまだ以心伝心とかあうんの呼吸、「沈黙は金」という姿勢が美徳の国なんですね。結局「何を言いたいのか、真意を察してくれ」と。私は「お察し社会」と言っています。しかし、今はそれではダメ。大切なのはトップが「伝える決意」を持ち「伝える技術」の必要性を理解することです。不祥事が起きた時、トップは「全体像が解明されてないから記者会見まで必要ない」と言いがちで、「よっし、会見やりましょう」となかなか踏み切れません。欠陥商品問題、データ改ざん事件など企業の不祥事が加速的に増えているのに、そのたびに一般社会が望むプレゼンテーションと企業側の説明がちぐはぐになっている。どうしても危機管理広報をまとめた本が必要と思いました。

──人の行動と同様、緊急時に企業の正体が露呈すると強調しました。

■まずいことを隠すのは本能なんですよね。とりあえず隠しておけ、バレないで済むかもしれないと。それを批判しようとは思わないし、たぶん私だって隠したくなる。けれども、そういう本能を超え、心を鬼にして情報を開示しないと企業は生き延びられない。それがマネジメントです。

──企業経営法務の弁護士として数々の記者会見に出たわけですね。

■「どんな法的対策も社会に理解してもらってなんぼだ」と考えてきました。株買い占め事件で買収防衛を担当した時、新聞から「買収側が革新的で防衛側は守旧派」というレッテルを張られ、世論をどう味方につけれられるかが勝負だと痛感しました。

──トップの意志が明確な会社はどのぐらいですか?

■2、3割かな。CSR(企業の社会的責任)とは厳しい言葉です。改善も再発防止もできない組織は解散すべきだという意味ですから。私の仕事は「顧客名簿を紛失し、あす謝罪会見します」という依頼をいただいた時に、会見のシナリオ、Q&Aを作ることです。地道に努力しているから誰か分かってくれると思っても、ちゃんと報道されない限り分かってくれません。

──不祥事の場合でも「企業トップは無形の経営資源。辞任は慎重に」と説いています。

■広報、再発防止など戦略的に辞任の是非を分析して考える発想がない。ここまで来たら辞任しかないとかいう程度で、特にリーダーがパニックになると戦略的な発想を放棄しちゃう。鉄の意志で現場に踏みとどまってやっていないと企業は持ちこたえられません。

──政界の記者会見はどう評価しますか。

■広報マインドがまだまだですね。例えば、少子化対策にどう対応し、プレゼンテーションしたら理解を得られるかという考え方が希薄です。「子供が増えればいい」と結論だけ言ってしまう。テレビを見ただけで「こういう人だ」と判断される世の中になっているのに、マインド的には「真意をわかってくれ」というムラ社会のままです。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

コーポレートブランディング格闘記―BtoBブランディングの実践ストーリー
コーポレートブランディング格闘記―BtoBブランディングの実践ストーリー石井 淳蔵 横田 浩一

日経広告研究所 2007-03
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一般の消費者ではなく企業相手に生産のための商品を売る、いわゆるBtoB企業にとって、ブランドは必要なのか。BtoBブランディングでどのような世界が開けるのか。産業用部品を生産する架空の会社を舞台に、小説仕立てでブランド戦略の立案・実行に奔走する人々の姿を描き出す。要所にブランドづくりの効果などの解説もつく。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

新聞社―破綻したビジネスモデル
新聞社―破綻したビジネスモデル河内 孝

新潮社 2007-03
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おすすめ平均 star
star新聞人の限界か
star大胆な提携案に驚き
star5年、10年後、新聞社はどうなる?

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毎日新聞社の役員を務めた著者が、産業としての新聞社の将来像を語る。販売と広告を収益の2本柱とする新聞社のビジネスモデルは、極端な「部数至上主義」へと向かっており、販売店網を維持するための異常なコスト負担を伴う過当競争を生み出していると指摘。経営の現場を知るその分析は説得力を持つ。独自案として、大胆な業界再編も提示している。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

オバサンになりたくない!
オバサンになりたくない!南 美希子

幻冬舎 2007-03
売り上げランキング : 53200


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年をとるのは仕方がないが、オバサンとは呼ばれたくない。家庭があっても、いつまでもオンナでいたい。50歳を超えても変わらない現代女性の本音を、マニュアル風に軽妙につづる。著者によれば、「群れる」「開き直る」「実をとる」がオバサンの三悪。そうならないために、「ハムを贈る女にならない」「夫と手をつなぐ」など実践的に提案する。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

<スピリチュアル>はなぜ流行るのか
<スピリチュアル>はなぜ流行るのか磯村 健太郎

PHP研究所 2007-03-16
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おすすめ平均 star
star現代スピ事情
star親や教師は読んだほうがいい
star江原さんに対する記述が少ない

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テレビで高視聴率を稼ぎ、ベストセラーを次々生み出す「スピリチュアル」の世界。それは宗教とどう違うのか、という疑問を出発点として、江原現象から「ロハス」ブームまで幅広く分析。「大きな物語」がなくなった時代、宗教を信じない人々の精神的欲求を、それらが見事に埋めていることを指摘する。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

日本人の老後
日本人の老後長山 靖生

新潮社 2007-03
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子供の頃から老人になることが夢だった、という著者。しかし、老いの現実には、具体的な準備と、精神的な覚悟が必要だ。老後の不安を、金銭面や健康面で具体的に分析した後、江戸時代の楽隠居の例など、老いの理想を歴史のなかに探る。文芸評論家らしく、老いにまつわる作家たちのエピソードが豊富。まだ40代の著者は、団塊世代が老人イメージを変革する可能性を指摘する。生きたい「余生」を選ぶためのヒント集。

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交
エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交西川 恵

新潮社 2001-05
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おすすめ平均 star
star外交の極致は食卓にあり
star斬り捨て御免!
starフランスの外交・食文化が絡み合う

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ワインと外交
ワインと外交西川 恵

新潮社 2007-02-16
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日本人が気づかない饗宴外交の舞台裏

サントリー学芸賞を受賞した西川恵の前著『エリゼ宮の食卓』は、なかなかの名著だった。ウィーン会議の昔から食を外交の武器としてきたフランスの「饗宴外交」を、エリゼ宮と全面協力して見せてくれたのだが、『ワインと外交』(新潮新書、735円)は、その続編とでも言うべき著作である。ただ、前著がエリゼ宮に焦点を絞り、そのメニューとワインを中心に据えていたのと比較して、今回はメニューやワインを示しながらも、皇室外交や首脳外交の舞台装置を見せるという仕掛けである。

実は外国から見た場合、日本人が感じている以上に皇室外交が重要だという指摘は納得がいく。憲法上は象徴だが、外国での扱いは元首である。エリザベス女王とバッキンガム宮殿が果たしている役割を日本の皇室も、少なくとも外交上は担っているのである。

戦後の複雑な日蘭関係の改善に、オランダのベアトリックス女王がつくした話も感動的である。そして、2000年5月の天皇、皇后両陛下のオランダ訪問が果たした外交的役割が、これほど大きなものであったという認識は、評者も含めて多くの日本人が気がついていなかった点であろう。

しかし、ホワイトハウスの晩餐でしばしば「コウベ牛」のステーキが出てくるとは驚きである。評者もニューヨークのレストランではしばしばコウベ牛がメニューに入っているのを見たが、一国の元首の正式な饗宴にまで出てくるとは……。しかも、06年6月の小泉首相のための晩餐会では「テキサスのコウベ牛」とある。これは「カリフォルニアのシャンパン」というのと同じことで、日本政府が正式に抗議すべき事柄なのではないだろうか。

シャンパーヌと同様、神戸は地名である。「テキサスの神戸牛」など語義矛盾であろう。フランス政府は公式にこのことを問題にし、シャンパーヌ地方産以外の発泡ワインについてはヴァン・ド・ムース(スパークリング・ワイン)と呼ばせ、シャンパンという名称を使わせていない。「テキサスの霜降り肉」とでも言ってほしいものである。いや、ひょっとすると霜降り肉ではないのかもしれない。テキサスの上質の赤身肉であるとすれば、ますます「コウベ牛」はいただけない。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/04/17, 毎日エコノミスト

茶人たちの日本文化史
茶人たちの日本文化史谷 晃

講談社 2007-02-16
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star他の日本文化とのつながりにおいて

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東アジアの前近代史を揺さぶったお茶の話

茶の湯は本欄ですでに何度も取り上げたが、依然として東アジア前近代史の重要な問題である。

13世紀に世界を震撼させた蒙古の騎馬軍団が、15世紀頃に至って急に弱体化した理由は、喫茶の習慣のせいであるという説がある。19~20世紀に蒙古周辺に旅行したヨーロッパ人の紀行文を読むと、蒙古人がほとんど10分とおかず、ひっきりなしに茶(バター茶)を飲んでいるという記述があり、なるほどこれでは戦争に従軍しても役に立つまいと思われる。これに輪をかけたのがチベット人の飲茶である。

蒙古も西蔵もヤク(髦牛)や羊の肉を食べるので、ビタミンCを摂らないと壊血病に侵される。両地方は野菜、果樹に乏しく、喫茶によってビタミンCを摂るしかないのである。従って、他地域の人々と異なって、茶が必需物質となるわけであった。しかも茶は磚茶(発酵させた茶葉を煉瓦状に固めたもの)にして簡単に運搬が可能であった。チベットやモンゴルへは、軍馬を茶葉と交換する茶馬貿易によって磚茶が輸入され、彼らは一刻も茶なしではいられなくなったと言えよう。

日本は果樹野菜に恵まれ、茶は必需品というわけではないが、それだけに茶は饗応儀礼として独特の展開をとげた。谷晃著『茶人たちの日本文化史』(講談社現代新書、777円)は、遣唐使による茶の伝来から、現代の茶の湯の流行までの日本喫茶史を、明庵栄西や武野紹鴎など、茶人を軸にして通観したもので、とくに斬新な視点が出ているというわけではないが、通史としては明快でよくできている。

一服一銭(街頭の立ち売り茶)は中国の宋代にすでに見られる(成尋『参天台五台山記』)が、日本でその初見史料と言われる『東寺百合文書』を用いて道香後家というお婆さんの茶売り人を紹介しているのが目新しい。しかし街頭茶売り人のなかには、将軍足利義教の怒りに触れ、禁制の機密事項(叡山焼き討ち)を客にしゃべったとして首をはねられた者もいる。また、幕末明治期、日本が産業革命以前でめぼしい輸出品のなかった時代、煎製緑茶が大量に西欧に輸出され、外貨を稼いだことは注目されてよいことである。【今谷明 国際日本文化研究センター教授】

■2007/04/17, 毎日エコノミスト, 62ページ

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