メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年2月27日~3月6日

コンテナ物語ーー世界を変えたのは「箱」の発明だった
コンテナ物語ーー世界を変えたのは「箱」の発明だったマルク・レビンソン 村井 章子

日経BP社 2007-01-18
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おすすめ平均 star
starもしもコンテナがなかったら・・・

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世界の物流システムを変えたイノベーションの本質

まさにイノベーションと起業家の物語である。考えてみれば、海運コンテナがなければ世界経済は現在のようではなかったろう。この「箱(The Box)」が広範な世界貿易を可能とし、グローバル経済を現実のものにした。日本の輸出経済も「世界の工場」中国もコンテナがなければありえなかった。しかし、この極めてシンプルな箱が世界を一変するシステムになるには、様々な障害の克服と10年近い歳月を待たなければならなかったのである。

面白いのは、コンテナが、マルコム・マクリーンという、海運とは無縁なトラック業界の起業家(アントレプレナー)によって推進されたことである。1913年生まれのマクリーンは借りたおんぼろトラック1台から、全米有数の運送会社を築き上げたやり手経営者であった。彼の経営スタイルや事業拡大方法も興味をそそる。しかし、本書の最大のポイントは、単純な「箱」が世界を変えるイノベーションに進化するには、たくさんの周辺システムの変革が必要だったという事実である。

マクリーンは貨物輸送をさらに安く速くすることを考え、コンテナ利用を始めただけだが、その実現には船、トラック、鉄道輸送にわたる「規格」の統一、埠頭におけるクレーンシステムの建設や港湾自体の再設計、さらには既得権益に胡座をかいていた既存海運企業や労働組合との闘いが必要であった。とくに、多くの職を奪う可能性を秘めたコンテナに対して、港湾労働者や組合は敵意をむき出しにした。

意外にもこうした状況を一変させたのは、泥沼化したベトナム戦争だった。ジョンソン政権下で戦線拡大したベトナムで、効率的な兵站業務を可能とするにはマクリーンの売り込むコンテナの有用性を受け入れざるをえなかったのである。こうしてコンテナの規格統一が進み、軍隊用語の「ロジスティックス」が一般的な経営用語となった。フラット化する世界のサプライ・チェーンという概念もコンテナなしでは生まれなかった。

最近の研究成果が明らかにしているのは、イノベーションとは単発の技術的発明ではなく、複雑に入り組んだ社会的構築物だということだ。 「コンテナは古い経済を破壊したが、新しい経済を興しもした」と著者がいうように、コンテナは創造的破壊を伴うイノベーションだったのである。

本書のような書物に出会って感心するのは、身近な題材を通じて現代史を鮮やかに描いていく、アメリカの優れたジャーナリストたちの力量である。【評者 米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)】

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!
「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!馬場 康夫 ホイチョイ・プロダクションズ

講談社 2007-01-20
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おすすめ平均 star
starすばらしい名著
star映画の宣伝なんてとんでもない、歴史本として秀逸

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エンターテインメントをビジネスにした男たちの群像

最後の部分まできて、目頭が熱くなった。主人公たちの一所懸命さが愛おしかったのか、それとも……。

本書は、わが国のエンターテインメントを作り上げた人々の群像劇。著者は映画「私をスキーに連れてって」の監督もこなした多才の士。そうした構成はお手の物だろう。小谷正一と堀貞一郎という2人の主人公と、読売新聞の正力松太郎、電通の吉田秀雄から始まって井上靖、手塚治虫、市川昆、江戸秀雄といった人たちが彩った日本のエンタメ幕開けのドラマだ。

なかでも印象的な話を2つ。小谷正一は、いつもこんな話をしていたという。 「日本三景の内、宮島はちがう。海の中に鳥居がにょきにょき生えてくるわけはない。会議で誰かが、海の神さん迎えるのやったら海の中に鳥居立てよやないかと言い出したにちがいない。アホウ、そんなことしたら海の潮の満ち引きで手間かかって話にならん。こてんぱんにやっつけられたと思うんやで。……(しかし)こいつのおかげで旅館もタクシーもみんなやっとるのや」

誰がこの宮島の鳥居を考えたのか、彼はいろいろな人に聞いてまわったが、結局、分からずじまい。なるほど。「クリエーターが表に出たら終わりや」といつも言っていた小谷正一の、クリエーター魂にピッタリの話ではないか。

もうひとつ。エンターテインメントの愛と信頼の輪の話。著者は、ウォルト・ディズニー・プロダクションがディズニー作品の著作権を守るために訴訟を起こしたことを残念に感じている。というのは、エンターテインメントは先の時代を生きたクリエーターたちとの愛と信頼にもとづく模倣の積み重ねだと、著者は考えるからだ。シェークスピアはギリシャ悲劇に題材をとり、ディズニーはマーク・トウェインの作品を模倣した。「先達の作った娯楽作品を見て、面白いなあと感動し、自分も同じ感動を人に与えたいと、記憶の再現を志す。いつの時代も、それがエンターテインメント作りの出発点だ」と。愛と信頼で満たされた世界では、著作権は不要なのだ。

こう書いてきて、目頭が熱くなった理由が分かった。人を喜ばせる仕事をしながらも、しかし名を残さず舞台の裏に消えていった人々。いわば名もなき人たちに対する著者の深い愛情。それが心に響くのだ。

最後に小谷正一さんからの宿題。「自分の一番好きな人に今、何を渡したら一番喜んでもらえると思いますか?」。

答えは難しいですよね。【評者 石井淳蔵(神戸大学大学院経営学研究科教授)】

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

私説放送史 「巨大メディア」の礎を築いた人と熱情
私説放送史  「巨大メディア」の礎を築いた人と熱情大山 勝美

講談社 2007-01-19
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著者インタビュー 大山勝美(テレビ制作会社・カズモ社長)

創生期の歴史から学ぶ放送の原点

――ライブドア事件など、いま放送界が直面する問題を考えるため、放送の原点を見直したかったと、まえがきに書いておられますね。

■ええ。ぼくも勉強したかったし、調べていくと目を開かされることがたびたびでした。占領期の放送政策などの歴史をたどるといまの問題がみえてくるんです。

――1925年の東京放送局の開局で、総裁の後藤新平が放送に期待する役割として「文化の機会均等」「家庭生活の改革」「経済活動の活化」「教育の社会化」の4つを挙げています。放送の始まりが報道より娯楽に重点があったとの記述を興味深く読みました。

■教育や文化を通して国民をひとつにし、国民主義を根付かせようという役割を担っていたんでしょう。たとえば、28年に開始した「ラジオ体操」は「全国のみなさん!」の声で始まり、台湾や朝鮮半島、サハリンにまで届いていました。ラジオによって、近代国家日本を支える「国民の一員」という意識が育てられたといえます。

――創生期の歴史から学んだことは。

■放送は電波という国家の財産を使っていて、公共性や社会性がとても大きく、大衆文化に貢献しなくてはならないということです。ところが、最近の関西テレビ問題などに象徴されるように、どうあるべきかという原点を忘れ、商業主義に走っている。放送を金もうけや企業の思惑だけに利用してはいけない。それを放送界が自覚しなければ、同じことが続々と起こるでしょう。若い制作者たちは視聴率を神の声と考え、何をしてはいけないかという判断ができないまま、日々の競争に明け暮れしているからです。

――民放のラジオやテレビの開局にあたっては、新しいものを作ろうとする放送人の熱意が印象的でした。

■私がラジオ東京(現TBS)に入社したのは、テレビ放送が始まってから1年半後でしたが、まだ興奮が残っていましたね。番組に誇りを持っていて「魂を売らない」という姿勢があった。広告が売れないとの事情かもしれないが、局としてこれだけは伝えたい、自主番組でもいいとの気概を感じました。しかし、その後、テレビが広告媒体として大きな影響力を持ったために、周りがほっとかなくなった。

――指導者たちの人間ドラマとしても読めますね。 ■創業者の信念がはっきりしていて、魅力的な人物がそろっています。それぞれ大正デモクラシーのころに青春を送っただけあって、未来や社会に夢を描いたロマンチストが多い。いまのメディアの経営者にも、放送の役割はこうあるべきだ、ということを真剣に考えてほしいと願っています。公共の電波を借りているなら、大衆に還元しなければいけない。娯楽もだけれど、人間性を拡大したり、新しい社会の価値観を作ったり、未来への可能性を探るという使命を忘れてはならない。自論ですが、尊敬されないメディアは滅んでいくと思います。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

年金無血革命
年金無血革命永富 邦雄

文藝春秋 2006-12
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著者は第一生命保険で年金の担当役員を長く務め、定年後、76歳でこの本を書いた。自ら処女作であり遺作と言っている。「無血革命」とは明治維新、ポツダム宣言受諾に次いで、年金でも無血革命を、と訴える。(1)政府が満鉄調査部のような中立のシンクタンクを設立、問題を洗い出し、(2)それに基づき経営者、労組が一体で改革に取り組むよう提言している。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略
シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略一條 和生 徳岡 晃一郎

東洋経済新報社 2007-02
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おすすめ平均 star
star中高年よ、読め!
starアイデアの具体例が参考になりそう

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シャドーワークとは、通常の意思決定プロセスからは外れた個人の自主的な意志と裁量で編み出す創造的な仕事であり、目に見えない部分の勉強や準備活動などを指す。本書では日産マーチの開発ストーリーをはじめリコー、バンダイ、スターバックスなどの例を挙げ、シャドーワークが成功するためのポイント、障害となる壁は何か、成果主義との関連などを探っていく。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

中国に喰い潰される日本 チャイナリスクの現場から
中国に喰い潰される日本 チャイナリスクの現場から青木 直人

PHP研究所 2007-01-27
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おすすめ平均 star
star“志”ある著書
star官民一体の媚中行動の実態

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「中国経済を支えているのは、ありもしない一三億の国内市場ではなく、日本など海外からの旺盛な投資と国外の輸出マーケットなのである」と著者は書く。規模の拡大だけで質を伴わない中国経済の成長神話のなかで、報道されることのない中国リスクの数々。著者が自らの目で見た、中国に翻弄される日本政府や企業の実態を暴きだす。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

ワインと外交
ワインと外交西川 恵

新潮社 2007-02-16
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イラク戦争後、シラク仏大統領との夕食会でブッシュ大統領が食べてみせたフレンチフライ、小泉首相との夕食会で韓国の盧武鉉大統領が口にした「今日の夕食は軽めにします」の真意は?世界のトップの華やかな「饗宴外交」の裏側を読む。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

修羅場をくぐった広報マン
修羅場をくぐった広報マン島谷 泰彦

講談社 2006-11-09
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企業と社会を結ぶ最前線に立つ広報マンたちは何を考え、どう行動しているのか。「やじうま広報塾」を開塾する著者が、党内野党を実践したトヨタ広報をはじめ、石油温風機事故に直面した松下電器など、広報マンの人間ドキュメントを描き出す。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

地球温暖化の現場から
エリザベス・コルバート, 仙名 紀

地球温暖化は確実に進行している。海面上昇で移住せざるを得なくなったアラスカ州シシマレフ島の人々の物語を皮切りに、シベリア、アルプス、南アフリカなど、世界数百カ所を訪れた著者が温暖化の影響を報告する。

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

90年代の証言 宮澤喜一―保守本流の軌跡
90年代の証言 宮澤喜一―保守本流の軌跡五百旗頭 真 薬師寺 克行 伊藤 元重

朝日新聞社 2006-11
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保守主義の本分とは何であるのか

宮澤喜一、おそらく身近に接したせいもあるのだろうが、少なくとも評者にとっては接触した多くの政治家のなかで最も尊敬できる人である。彼がすぐれない体調のなかでこうしたインタビューに応じたのは、戦後の政策の展開を正確に後世に伝えたいという思いからであろう。激しく変化する政治の中枢にありながら、現実を見つめ、それに知的に対処しようとする真摯な態度には頭が下がる。

編者の1人、五百旗頭真が指摘するように、宮澤のリベラルとしての政治への抑制のきいた姿勢は、日本の政治家には極めて珍しいものである。宮澤型の政治家がほとんどいなくなってしまった日本の進路に危惧を抱くのは、評者だけではないだろう。権力を持つ者の「品位と節度」、そして「礼節と品位を欠く権力行使」への断固たる反発、これこそ本来の保守主義ではないだろうか。近ごろの品位のない、いわゆる「親米保守」の人たちに少しは見習ってもらいたいものだ。

極めて興味深いインタビューであるが、一部に「品位と節度」を欠く質問があるのが気になる。宮澤は、知的なもの、学問的なものに、ある種の尊敬の念を持っており、必ずしも現実を知らず、未熟な理論で断定しようとする質問者たちを諭すように答えている。1980年代後半のバブル経済について、「私はあの時代のことが、なかなか自分でもよく分からないんです」という答えは、バブル経済に対して極めて断定的、一方的判断を下す軽薄なジャーナリストやエコノミストに対しての皮肉でもあるのだろう。

特に宮澤を「遅れてきたケインジアン」とか、「古い時代の最後の役割を担っていた」と断定する伊藤元重に対して評者は強い反発を感じる。いったい、自分を何様だと思っているのかと、悪口のひとつも言ってみたい心境である。

日本の学者、特にエコノミストのなかには、経験も浅く、幅広い見識もないのに、こうした態度をとる人たちが少なくない。伊藤はまだ品位と節度のあるほうだが、奥深い現実をそう簡単に切ってほしくないものだ。【榊原英資 (早稲田大学教授)】

■2007/03/06, 毎日エコノミスト

政治学は何を考えてきたか
政治学は何を考えてきたか佐々木 毅

筑摩書房 2006-12
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「20世紀型体制」の解体と「市場」というイデオロギー

1980年代までの経済政策は分かりやすかった。国内だけを見ていればよかったからだ。国内政治は各種の利益集団の角逐と妥協で成り立っていたし、利益の再配分も経済成長でそれなりに可能であった。もちろん各種の外圧もあったが、それすらも内政のツールであったといってよい。

しかし「冷戦体制」の崩壊とグローバリズムは、一国的な民主主義と秩序の枠組みを大きく揺るがしたのである。 「八〇年代までの『グローバル化』は外部世界を日本の側から『グローバル化する』ことを事実上意味していたとすれば、九〇年代以降の『グローバル化』は日本のシステムが『グローバル化される』過程にほかならなかった」と著者はいう。

確かにそうだ。「グローバル・マーケットが各国政府の政策を判断し、評価する主体の位置につき、『投資の社会化』といった理念に基づいて国内的合意を形成していくことを至上命令とする体制とは主客転倒のような事態が発生したのである。国際金融市場での評価が悪ければ、民主政治であろうとなかろうと資金は流出し、通貨は暴落し、金融危機が発生することは避けられない」。

20世紀の資本主義がファシズムや社会主義と対峙しながら、「法の支配」を基軸とし、自由を擁護し、民主政治を推し進めてきたことは事実であろう。しかし情報のグローバル化が社会主義の崩壊を推し進める主要なテコとなったように、金融をはじめとした経済のグローバル化は各国の政治体制を大きく揺さぶりはじめている。かつてのような国内的な利益政治で用が足りることはないのだ。

経済だけではない。例えば国際的なテロの跳梁は「国家による暴力の独占を前提としてきたウェストファリア体制を終焉」させており、現代の国際政治はそれを与件とする以外にない。こうしたなかで「政治に携わる人々は新しい統合の基盤を見いだすことの必要性を痛感しているが」、危険なのは「政治的な見通しのはっきりしない素朴なナショナリズムや倫理主義的なレトリック」による統合力の回復だ。大切なのは知力を駆使した新しい政治課題の設定だろう。

詳しくは本書をよんでほしいが、著者は世界秩序のネットワークとして〈帝国〉という概念を紹介している。それは同質性を前提とする国民国家ではなく、固定的な境界や領土に依存しない支配装置のことなのだが、発想が実に刺激的なのである。

思想研究と政治分析とを併せ持った本書は、読者を知的興奮の渦にまきこむだろう。【評者 中沢孝夫(兵庫県立大学教授)】

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

外国人投資家
外国人投資家菊地 正俊

洋泉社 2007-01
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おすすめ平均 star
star意外な面も
star団塊世代にお勧めの一冊
star思い切っていえば「100万円の価値がある本」じゃないかな

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日本の株式市場を左右する「外国人投資家」とは何か

本書は、外資系証券会社のストラテジストである菊地正俊氏が書いた、日本株に対する海外投資家の投資スタンスに関する書物だ。さすがに現役ストラテジストだけあって、文章の行間から海外投資家の持つ生きた感覚が伝わってくる。

タイトルは「外国人投資家」になっているものの、わが国の株式市場に関する、著者の様々な知識がちりばめられている。海外投資家の実像を理解するだけではなく、わが国の株式市場の動きや、その基礎にあるメカニズムを垣間見ることができる。また、書きぶりは平易で、株式専門家が薀蓄を傾けたエッセーと考えればよいだろう。

本書を読んで頭に残ったことは、世界有数の債権国であり、個人金融資産が1500兆円を超えるわが国の株式市場が、なぜ、海外投資家の動向に大きく左右されているかという点だ。

マネーフローから考えると、貿易黒字で蓄積したわが国の資金は、高い期待収益チャンスを求めて、米国などの海外の金融市場に流出する。その一方で、海外から入ってくる投資資金が、わが国の株式市場の動向を決している。海外から流入する投資資金の一部は、元をたどれば、わが国から流れ出た資金が国内株式市場へ還流する構図なのである。国内に多額の投資資金の蓄積がありながら、自国企業の株価の決定を、自国の投資家ではなく、海外の投資家に委ねなければならない。そのメカニズムには、言葉では言い表せない矛盾を感じる。

その背景には、国内外投資家の株式に対するリスクの考え方の違いやバブル崩壊後の株価低迷の苦い経験、さらには少子高齢化が進むわが国経済に対する懸念など、様々な要因が混在している。しかし、日本企業に最も精通している国内投資家が、海外に持ち出す資金の一部を国内の株式投資に向けると、わが国の株式市場の様相は一変するはずだ。わが国の投資資金が、世界有数の生産技術を持つ日本企業の株価を決定することになる。それが本来の姿だろう。それを実現するためには、国内投資家は、運用知識や手法をもっと勉強する必要があるのだろう。

本書に一つ望むとすれば、これだけ豊富な内容を新書のなかに押し込めるよりは、紙面を多く取れる単行本にしてほしかった。色々なデータや、毎日、株式市場と接点を持つ著者自身の生きた感覚で、わが国のキャピタルマーケットが抱える特色、問題点をさらに深く議論することが出来れば、一段と有益な書物になったと考える。【評者 真壁昭夫(信州大学教授)】

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

ごみを喰う男
ごみを喰う男中村 敦夫

徳間書店 2007-01
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赤い羊は肉を喰う
赤い羊は肉を喰う五條 瑛

幻冬舎 2007-01
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おすすめ平均 star
star心理を操作する

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「喰う」ものの正体とは何か 現代日本の暗部を描き出す

国産映画の配収復興が話題となっている。外国映画を21年ぶりに抜いた。けれども、急上昇したグラフをみると、数年前の落ち込みぶりに一驚する。落ちるところまで落ちていたのだった。

閑話休題。ミステリの方面では、国産優位は久しく動かず、外国贔屓に徹したくもなるが……。今回は国産2本で。偶然かどうか「喰う」がダブルで並んだ。

中村敦夫『ごみを喰う男』(徳間書店、1785円)は、きわめて正調の社会派ミステリだ。題材は大都市の有害廃棄物。ゴミ投棄問題の暗部に、政治家・建設業者・市民運動家などを配し、いかにも元環境派議員と思わせる展開。「社会派推理はこう書け」のお手本だな。

元警視庁エリートの僧侶を探偵役にすえ、後半、彼のトラウマである迷宮入り事件が浮上してくる、という趣向も加えた。かつての冒険小説から作風は一変したが、正義感は不変である。

五條瑛『赤い羊は肉を喰う』(幻冬舎、1890円)は実力派の存在を示したが、一筆では紹介しにくい。政治家と業者の癒着など「ごみ喰い」と重なるところはあるにせよ、こちらの「肉喰い」は「喰い方」がちがう。メーンは情報操作による集団コントロール。

一方に「愚かな小羊」たる大衆を意のままに操る理論を研鑚する謎のエリートグループ。対決するのは、しがない一介の調査員。彼の属する下町情緒の人情世界にけっこう味があり、脇役たちの個性にもなかなか彩りがある。ペンギン・ドミノ仮説――集団の中のペンギンが一匹倒れると全員がドミノ倒しになるという現象を人間集団支配に応用する――など、秀逸なイメージは交差する。だが、そこからどぎつい陰謀ロマンに肥大していくかという期待は外れる。

新都心の多目的ファッションビル空間に未曾有のパニックが仕掛けられ……。【野崎六助(作家・評論家)】

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

ファンドの時代
ファンドの時代野口 均

千倉書房 2006-12
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著者インタビュー 野口均(ジャーナリスト、ノンフィクション作家) 『ファンドの時代』

日本の投資ファンドの担い手を黎明期から追う

――アドバンテッジ・パートナーズ、ユニゾン・キャピタル、MKSパートナーズといった日本の投資ファンドの担い手たちを数多く取材している。彼らは今や数千億円を集め、ダイエーやカネボウのような大企業の再建に手を挙げ、完全に市民権を得た。

■今は保険会社や年金基金、一般企業が先を争ってお金を出すようになったが、黎明期には機関投資家を回っても「2ケタのリターンなんて夢物語」と信用されなかった。当時は、外資系ファンドのなかには金融機関から簿価100億円の不良債権を10億円に買い叩いてまとめ買いし、それを当の債務者に15億円で売り、債権債務を清算して大もうけする、なんてこともやっていた。

機関投資家にとって、ファンドへの投資は債券投資などに比べリスクが高い。だが、ハイリターンを得る機会を逃すことも、避けるべきリスクの一つだ。海外の機関投資家の多くは運用資産の3%前後をリスクマネーに投資していると言われる。ある程度損しても構わないお金だ。日本のファンドが運用実績を上げるに従い、こうしたリスクマネーが集まるようになった。

――企業再生やMBO(経営陣による企業買収)型のファンドが主流になってきたと。

■ファンドが入ると、まず資本効率が良くなる。本ではクレーン機器メーカーのキトーをカーライルが再生するケースを書いたが、金融機関との持ち合い株を売却し、資金を設備投資に振り向けた。カーライルが世界的な情報網を駆使し、キトーは主力のホイストという牽引機1本ではまだまだ成長できるとのデータを示し、オーナー経営者の交代もなく再生を果たした。

バイアウト・ファンドは基本的に友好的な買収をするので、元からいる経営幹部や社員に経営を任せてサポートに回ることが多い。ただし、親会社からの天下りやオーナー一族のやる気のない経営幹部は排除するし、しがらみのある取引先も替える。明確な経営目標の設定、公平な人事評価、適度な成功報酬制、こうしたことを実行すれば、企業は生き返る。大企業も「選択と集中」の原則で、不採算部門や子会社を売却するようになった。ファンドから見ると、こうした事業はやり方によっては宝の山に変わるのだ。

――経営立て直しは、かつては銀行がやっていた。

■1990年代、不良債権に苦しんでいた銀行はリスクマネーを出せなかった。その代役を果たしたのがファンドだ。加えて、日本の企業は、極端に言えば経営者がやりたい放題できる「経営者支配」の弊害が横行し、解決にはやはり誰かが株主として企業に乗り込む必要があった。

――取材で感じたことは? ■野心家でプロ志向の強い人ばかりだった。出世を目指すサラリーマンタイプではない。腕一本でビジネス社会を生き抜く意思とパワーを感じた。思考は論理的で、金融技術や法律知識を使いこなすことに生きがいを感じているようで、起業家ともまたタイプが違う。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

金融市場の勝者―銀行・ファンド・企業、複線化する金融
金融市場の勝者―銀行・ファンド・企業、複線化する金融高田 創 柴崎 健

東洋経済新報社 2007-02
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「金融の国盗り物語」の時代に入ってきた、と著者らは言う。バブル崩壊後のプロセスのなかで、それまで銀行だけが担ってきた金融仲介機能が解体され、ファンドや企業、海外投資家などが入り乱れて銀行と激しく競合している。本書では、そうした複線化する金融の流れを分析し、新たな資本市場の姿として、クレジット市場の動きを探っていく。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために
夕張破綻と再生―財政危機から地域を再建するために保母 武彦

自治体研究社 2007-02
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このままでは第2、第3の「夕張」が登場しても不思議はないほど、全国の地方自治体の多くが財政破綻の状態に陥っている。夕張市の財政はなぜ破綻したのか、破綻の真犯人は果たして夕張市の行政だけなのか。夕張問題の政治的、社会的意味を問い、夕張が再び希望の持てる町となるための再生への提言を行う。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理
職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理荒井 千暁

筑摩書房 2007-02
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おすすめ平均 star
star異論もあるが頷けます。
starかなり興味深い内容
star古典落語か?

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いま職場ではうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)で心身のバランスを崩し、果ては過労自殺に追い込まれる事態が社会問題となっている。産業医として最前線に立つ著者が、重いノルマや評価の理不尽さ、周囲の無理解といった、成果主義システムの下で生み出されている実態を検証、人間関係の病理を描き出す。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

試験の社会史 増補―近代日本の試験・教育・社会
試験の社会史 増補―近代日本の試験・教育・社会天野 郁夫

平凡社 2007-02
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「試験」のはじまりは中国の官僚試験の「科挙」とされるが、それは官僚選抜の手段以上に発展することはなく、学校入試をはじめとする各種の資格試験が社会に広く活用されるようになったのは、19世紀の近代化・産業化以降であるという。日本において、明治維新は「試験の時代」のはじまりでもあった。明治日本の試験制度を遡り、教育と社会の進歩をはかる手段としての試験がどのようにして誕生し、社会に影響を与えていったのかを探る。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

報道写真と対外宣伝―15年戦争期の写真界
報道写真と対外宣伝―15年戦争期の写真界柴岡 信一郎

日本経済評論社 2007-01
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昭和初期から第2次世界大戦までの時期に、写真が日本の対外宣伝活動にどのようにかかわっていったのかを考察する。名取洋之助、木村伊兵衛らに代表される1930年代の報道写真の台頭、満州事変以降の15年戦争期の写真界と深いかかわりがあったとされる鉄道省国際観光局、「文化大国・日本」を世界に紹介する国策の下に設立された半官半民の国際文化振興会の動きなどを歴史的に追うなかで、写真と報道、戦争と写真の変遷が語られる。

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相
でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相福田 ますみ

新潮社 2007-01-17
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おすすめ平均 star
star教師と保護者は対等でない
star新聞・雑誌の決定的な嘘
starでっちあげほど怖いものは無い

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教育再生会議の第1次報告書が提出され、教育3法の改正が行われるという。ゆとり教育の見直しのほか、不適格教員の追放や教員免許更新制の導入などがうたわれているが、私にはこれに若干の疑念がある。一つには、問題教師というのはマスコミを賑わわせるから多く見えるだけで、現実にはそう多い数ではない。大多数の教師はかなり一生懸命だし、日本の高校までの教育は、多くの国が教育改革を行う際の手本になっているのだ。

一部の教師にはこのような更新制があったほうが好ましいのは認めるが、マクロで見ると、教員が免許更新によけいな時間をとられるより、これまで通り、あるいはこれまで以上に、生徒に専心できるほうが学力再生につながると思うのだが、実態調査もないまま、この一見すると正論が通ってしまった。

それ以上に「問題教師」そのものに冤罪の可能性があることを教えてくれたのが、福田ますみ著『でっちあげ』(新潮社、1470円)である。ベテランルポライターの福田氏が、全国で初めて教師によるいじめ事件として認定された事件が冤罪であったことを告発したルポだ。

事件は2003年、福岡で起きた。外国人の血が流れているとして子供を差別し、激しい暴力や自殺強要でPTSD(心的外傷後ストレス障害)に追い込んだ史上最悪の「殺人教師」と、マスコミで袋叩きにされた教師の物語である。

ルポはその教師の一人称の形で事件の裏側を教えてくれる。そこに描かれるのは、親の抗議に対する校長や教育委員会の弱腰、事なかれ主義、クレーマー(苦情屋)の親への教師側の無力、暴力を振るう子供へ教師が注意する際の危険だ。

結果的には、子供の親に外国人の血が流れているというのはでまかせで、医師のPTSDの診断も思い込みによる誤診であった。前回もこの欄で問題にしたが、子供は嘘をつかないと信じるのは、あまりにナイーブだ。

昨年秋、同じ福岡でいじめによるとされる自殺があった際、校長や教育委員会がすぐに認めなかったのも、このような冤罪事件で慎重になっていたのだと考えると、反省していないのはむしろマスコミのほうだ。このままだと、優秀な人材に教師になりたいと思わせるのがさらに困難になると痛感した。【和田英樹 精神科医】

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

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「敵性人」の体験こそが知の巨人のルーツだった

昨年出た重厚な好著だが、うまくマッチングできずに、本コーナー用に積んだままだった2冊。

一つは鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創『日米交換船』(新潮社、2520円)。日米開戦半年後の1942年6月18日、ニューヨークからスウェーデン船籍のグリップスホルム号という大型客船が船出し、東アフリカのロレンソ・マルケス港に向かった。北米に滞在していた日本人外交官、ビジネスマン、研究者・留学生約1000人が乗った。「敵性外国人」の帰国船で、途中ブラジルで中南米日系人400人も乗船、ロレンソ・マルケスで、日本から帰国する米国人らを乗せて到着した浅間丸、コンテ・ヴェルデ号と乗客を取り替え、ようやく8月20日に横浜に着く。いわゆる第1次日米交換船である。

そこに乗船していた鶴見から、加藤・黒川が「封印された記憶」を聞き出す仕掛けで、鶴見の語りは冴える。船内部屋割りは、駐米大使から密入国追放者まで6階級に分けられた。留学組の鶴見俊輔・和子、都留重人、武田清子らは船底4人部屋で、閉じられた空間での開かれた議論が、戦後、『思想の科学』や、べ平連運動の隠れた源泉となる。遣唐使から岩倉使節団の伝統を戦時帰国船が引き継ぐ逆説、鶴見との会話から透ける加藤典洋『敗戦後論』の原点、特に後半の黒川創による行き届いた史料分析・解説が貴重だ。

もう一つは、すでに書評も多く出た『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(日本評論社、4935円)。ナチス支配下で育ったユダヤ系ハンガリー人経済学者。戦後社会主義下で「反均衡」「不足の経済学」から体制変革の理論的基礎を拓いた異端の軌跡で、理路整然で明晰、数学的な乾いた記述だ。

だが博士の数式でも文学になる。数理経済学や政策科学の実用的読み方も可能だが、一度は社会主義・共産主義にあこがれた経験をもつ人々には、格好の内省の機会を与える。著者の「現実が理論と乖離していることが分かれば、理論を修正しなければならない」という一節にある種の葛藤を感じとれば、呪縛からの解放の程度がわかる。

鶴見もコルナイも知のノマド=遊牧民であり、真の愛国者でもあった。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】

■2007/02/27, 毎日エコノミスト

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