メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年1月8日~1月15日
| エンドレス・ワーカーズ―働きすぎ日本人の実像 | |
![]() | 小倉 一哉 日本経済新聞出版社 2007-11 売り上げランキング : 2988 おすすめ平均 ![]() 長時間労働を考える、タイムリーな書 労働時間研究のために 「仕事」の実情を理解するのにお勧めです。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
過労死寸前!?「限界」を超える日本人の労働時間
著者は、労働政策研究・研修機構の主任研究員で、日本の労働時間について緻密で膨大な調査研究を重ねてきた。その成果を一般向けの平明な書物として公刊したのが本書である。
日本人はどれほど働いているか。本書から数字を拾えば、男女計の月平均は約200(男性206、女性184)時間である。男性の5人に1人強は月240~300時間にも及ぶ。40時間×4週を基準にすれば月80~140時間の残業をしていることを意味する。
これは厚生労働省が過労死の発症との関連性が強いと認める残業時間の危険域にある。人間として生命を維持する「限界」を超えている点で、日本人の労働時間は、まさに表題にいうように「エンドレス」である。
なぜ残業をするのか。理由は多様と思われるかもしれない。しかし、調査では複数回答の6割が「所定労働時間内では片づかない仕事量だから」、4割が「自分の仕事をきちんと仕上げたいから」と答えている。「残業手当や休日手当を増やしたいから」は5%もない。
ストレスと労働時間の関係についての調査でも、多様な選択肢のなかで明確な関連が見られたのは、「働く時間が長い」と「仕事量が多い」の2つであった。 「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度(WE)があるアメリカでは、ホワイトカラーの4割、全労働者の2割が残業手当の支払いから除外されている。著者の推計では日本でも、管理監督者(「名ばかり管理職」を含む)と裁量労働制の適用労働者を合わせれば、労働時間管理を受けないか、時間管理が緩やかな労働者が最大2割弱いる可能性がある。とすれば、日本はWEの導入を待たずして事実上エグゼンプション状態にあるといえよう。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣、契約社員などの非正規労働者の間でも長時間働く人が増えている。日本のパートの労働時間は、正社員に比べれば短いが、ヨーロッパの基準で見れば、限りなく正社員に近い。しかも、近年では、パートの残業をした人の割合も、残業時間も目立って増えている。本書で紹介されているUIゼンセン同盟の調査によれば、女性独身パートの1割強が頻繁にサービス残業をしており、月平均サービス残業時間は10時間を超える。
労働時間をきちんと管理し、労働基準法の実効性を確保するためにも、エンドレスに働いている人々にぜひ読んでいただきたい力作である。【評者 森岡孝二(関西大学経済学部教授)】
| イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1 | |
![]() | ジョン・J・ミアシャイマー スティーヴン・M・ウォルト 副島 隆彦 講談社 2007-09-05 売り上げランキング : 6124 おすすめ平均 ![]() 現実主義と丁寧な論証に考えさせられる ダメだ、こりゃ。。。 知識人必読の書ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 2 | |
![]() | J.J. ミアシャイマー S. ウォルト 副島 隆彦 講談社 2007-10-17 売り上げランキング : 1875 おすすめ平均 ![]() イスラエルの戦史と米国のイスラエルロビーの実態が分かりますAmazonで詳しく見る by G-Tools |
アメリカの中東外交をゆがめる陰の存在を厳しく批判
本書に書かれていることは、中東事情をある程度知る者ならば、ほぼ「常識」ともいえるだろう。本書の意義は、アメリカの影響力がある政治学者たちが、これまでタブーとされてきたイスラエル・ロビー(イスラエルの利益をアメリカの中東政策のなかで優先させることを考える圧力団体)への批判を詳細に、かつ実証的に論じたことにある。
著者たちは、アメリカのイスラエル・ロビーがいかにアメリカの中東外交をゆがめ、その国益を損なってきたのかを検証する。同時に、イスラエルの強硬なパレスチナ政策が矛盾に満ち、中東和平の実現をほど遠いものにしていることも明らかにされている。
著者たちは、イスラエル・ロビーの圧力を受けるアメリカ政府が、特にパレスチナ問題でイスラエルに偏った支援を与えることがアルカイダなどイスラム過激派の台頭をもたらし、彼らの主張や活動に追い風を与えてきたと主張する。また、イスラエル・ロビーの意向に応じたアメリカの政策が、イランで保守強硬派のアフマディネジャド政権の誕生をもたらし、ハタミ前大統領の改革路線を挫折させることになった。イスラエルがシリアとの対話を推進したほうが、はるかにその安全を高めることになるというのも著者たちの考えだ。
著者たちによれば、イラク戦争を提唱し、推進したネオコンも、そのタカ派的な思想からイスラエルの右翼との連携を図っている。イラク戦争は、イスラエルにとって脅威となっているサダム・フセインを排除すれば、イスラエルとアメリカの戦略的利益になるとネオコンは考えた。アメリカにも多大な犠牲を強いることになったイラク戦争は、アメリカのイラク石油への思惑よりも、イスラエルの目標にかなったものだったという。
著者たちは、アメリカが偏った中東政策を行わないためには、アメリカ国内でイスラエルやイスラエル・ロビーについて開かれた議論が行われることを提案する。アメリカ国内でイスラエル・ロビーの活動を批判すれば、政治家たちは社会的地位を脅かされたり、また選挙に当選することができなかったりするため、アメリカはその中東政策の軌道修正をできないままでいる。
本書を読むと、アメリカの民主主義の暗部に改めて接する思いだが、イスラエル・ロビーがもたらす否定的な影響をアメリカ以外の国際社会でももっと論じてもよいのではないか。【評者 宮田 律(静岡県立大学国際関係学部准教授)】
| 裏切り涼山 | |
![]() | 中路 啓太 講談社 2007-12-11 売り上げランキング : 72694 おすすめ平均 ![]() 珠玉の歴史小説登場Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| のぼうの城 | |
![]() | 和田 竜 小学館 2007-11-28 売り上げランキング : 3307 おすすめ平均 ![]() でくのぼうという異才 魅力的な戦い方Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昨年、小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビューした中路啓太の2作目が、“三木の干殺し”で有名な三木合戦を、伝奇的な手法で描いた『裏切り涼山』である。
三木城を守る別所家は、秀吉の巧みな交渉で開城に傾いていたが、突然反旗を翻して籠城する。秀吉の軍師・竹中半兵衛は、信長の浅井攻めの時に主家を裏切った涼山に、調略のため三木城へ潜入することを依頼する。
裏切り者の涼山と、忠義を重んじる尼子十勇士の生き残り寺本生死之介という正反対の2人を主役にすることで、危機的な状況に置かれながらも、保身と政治抗争に明け暮れる為政者の暗部が見事に活写されていく。
物語が進むにつれ、涼山が主家を裏切った理由が人としての筋目を通すためであったことが分かってくる。裏切り者の汚名を着てまで義を貫いた涼山は、逆説的に上に立つ者の責任の重さを問いかけているのである。
やはり新鋭の和田竜『のぼうの城』(小学館、1575円)も、秀吉の小田原攻めにおける局地戦を題材にしている。
秀吉は、腹心の石田三成に武功を上げさせるため、武州忍城の攻略を命じる。戦いは大軍を預けられた三成の楽勝と思われたが、その前に「でくのぼう」をもじって「のぼう様」と呼ばれている城代・成田長親が立ちはだかる。
長親は、その渾名の通り武芸は苦手、卓越した知謀もないのだが、人を惹きつけるカリスマ性だけは持っている。この長親が、才能と力のある者が弱者を蹂躙する戦国の掟に異議を唱えることを胸に秘め、大軍を翻弄していく展開は、現実の格差社会が厳しさを増しているだけに、溜飲を下げる人も多いはずだ。【末國善己(文芸評論家)】
| 壁を壊す | |
![]() | 吉川 廣和 ダイヤモンド社 2007-11-02 売り上げランキング : 15100 おすすめ平均 ![]() これぞ、会社改革! <伏魔殿>対策にどうぞ 老舗企業経営者の破壊的経営改革に驚嘆!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 吉川廣和(DOWAホールディングス会長・CEO)
社内の「壁破壊」改革を続け7年で経常利益10倍増に
──社内オフィスの「物理的な壁」を破壊し続けましたが、何を一番壊したかったのですか。
■会社には、改革を阻むいくつもの「壁」がありますが、最終的に人間の壁を破らないと会社の文化は変わりません。最もやっかいな心の壁を物理的に補強しているのが実際の壁です。つまり、隣の人と壁で仕切られると交流ができないから、情報の流れが悪くなり、部屋ごとに小さな派閥もできる。それを破ることで、風土を含め会社にあるすべての「壁破壊」に挑みました。
──非鉄金属の生産を主にした老舗企業が、環境・リサイクルなどの分野を強化し、7年で経常利益を10倍に伸ばしました。トップとしてリーダーシップをどう発揮されたのですか。
■「べき論」はいらない! 「やり抜く」ことが仕事だ、と言い続けました。私流のリーダーシップは、改革ができ、改革を続けられるかどうかに尽きます。会社を取り巻く環境が激変するなか、昔の技術や文化で生きていけるわけがありません。ヒト、モノ、カネが「ないない尽くし」のなかで、改革を実行していくのは苦しいことです。よく現場に「100万円の設備でできる仕事は30万円で仕上げなさい」と言います。そこに知恵や技術力が生まれ、同じカネで3件の改革ができます。
──「形を変えれば改革できた」という幻想に陥る懸念もあります。
■形を変えるのは1つの手段。形を変えるなかで、一人一人の心のあり方まで変われば、DOWAのDNAが生まれます。うちの会社はそこまで到達しておらず、富士山でいうと3合目ぐらい。リーダーが慢心しないことです。
──過度な競争や市場原理主義が批判されています。一方、終身雇用など日本的な経営の良さを見直そうという動きをどう見ますか。
■会社は仲良しクラブではなく、競争に勝ち残るための戦闘集団です。私は会社の利益を上げ、成長させることを約束し、達成できなければトップを辞めると宣言しています。この約束を果たすには市場で勝ち抜くしかなく、市場原理主義者かもしれません。終身雇用は働いて会社に貢献すれば自分の生計が成り立つという文化だから、役に立つ。ただ、昔はだらけていてもいったん雇用されると犯罪でも犯さない限りクビにならなかった。これはダメで、競争力を持つために終身雇用をうまく使っていくのがいいでしょう。
──同じ昭和17年生まれの小泉純一郎さんは「自民党をぶっ壊す」と構造改革を唱えましたが、今、政界ではその反動、弊害が指摘されています。社内に「改革疲れ」はありませんか。
■政治の改革には光と影があり、今は影の部分を言い過ぎです。地域格差の発生は最初から分かっており、改革が悪いのではなく、手を打てばよい。引き続き大胆に改革すべきです。確かに社員はちょっと疲れてます。だけど企業が存続する限り、改革は永遠です。疲れてもらったら困ります。改革に慣れて、できれば楽しむようにならないと。
| 円の未来 Yen's Future (光文社ペーパーバックス) | |
![]() | 田村 秀男 光文社 2007-11-22 売り上げランキング : 28045 おすすめ平均 ![]() このまま円は凋落、人民元がアジア通貨になるか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
キャリートレードで売られる円、国内にバブルを引き起こし、対外的には購買力を高める人民元、そして世界中で起き始めたドル離れ――これら3つの通貨を軸にし、国際政治・経済の裏舞台を交えながら、グローバル化経済の現実に迫っている。本書を通じて、最終的に著者が問いたかったのは、「円」の未来というより、グローバル化のなかでモノ作りの根幹を見失った、日本の製造業の復活だったようだ。
| テロマネーを封鎖せよ 米国の国際金融戦略の内幕を描く | |
![]() | ジョン・B・テイラー 中谷 和男 日経BP社 2007-11-22 売り上げランキング : 1198 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
副題は「米国の国際金融戦略の内幕を描く」。中央銀行の利子率決定「テイラールール」の考案者でブッシュ政権の財務次官として9・11以後の国際金融政策を取り仕切った著者が、アフガン財政政策、イラク金融安定プロセスなどを詳述している。最高に面白かったのが為替市場大規模介入をめぐる日米の熾烈な駆け引きの内幕。「主権在米経済」ぶりをモロに見せてくれる。
| 戦争の経済学 | |
![]() | ポール・ポースト 山形浩生 バジリコ 2007-10-30 売り上げランキング : 281 おすすめ平均 ![]() 戦争って儲からない…Amazonで詳しく見る by G-Tools |
書名からは思いつきにくいが、マクロ経済とミクロ経済の初歩的な教科書である。戦争は、短期的には雇用を増やし、物価を押し上げ、政府支出を増大させる。その鉄則は20世紀の戦争でも貫徹されたのか経済学の目で検証する。その検証を通して、逆に経済学の初歩を身につける。善悪はなく、ただ経済学の視線が貫かれる。
| 超ギガバンク・メガ公庫の未来戦略―旧国営金融は国を潤すか | |
![]() | 石川 和男 時事通信出版局 2007-11 売り上げランキング : 188490 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
2007年発足のゆうちょ銀行は集金力はあるが運用力がない。08年発足の日本政策金融公庫は集金力はないが運用力がある。この巨大金融機関の片肺飛行を解消するのは証券化であるという。ゆうちょ銀行は国債から民間債券への投資にシフトし、リスクマネーを供給、日本政策金融公庫は、融資を証券化すべきと主張。このほか、財投改革、郵政民営化、政策金融改革のプロセス、今後の課題などを扱っている。
| なぜ騙されるのか?―悪質商法の見分け方と撃退法 | |
![]() | 村 千鶴子 新日本出版社 2007-11 売り上げランキング : 138983 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「自分は大丈夫」と思っている人ほど危ないのが悪質商法被害。被害者の6割以上がサラリーマンや自営業者など「働いている人」というデータもある。その背景には、法律のスキをついたり、人間的な弱点につけ込んだりする悪質商法事業者と消費者との情報「格差」がある。消費者問題の第一線で活躍する著者が、現行法制の限界を指摘しつつ、悪質商法の見分け方と撃退法を具体例に即して分析している。
| アジアのなかの日本 (日本の〈現代〉 2) | |
![]() | 田中 明彦 エヌティティ出版 2007-10 売り上げランキング : 98365 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
外交史にも経済学の視点を
田中明彦著『アジアのなかの日本』(NTT出版、2520円)では、戦後の日本のアジア外交史が丁寧に語られている。ごく最近のことも、新聞、雑誌などをくまなく調べ、極めて客観的なドキュメントになっている。評者が直接かかわったアジアの金融危機についての章も、淡々と、しかも正確に事実関係を追っている。
田中はまえがきのなかで、本書の3つの命題について、次のように述べている。
まず、第1の命題は「20世紀後半のアジアにおける地域化は、冷戦の終結、グローバル化、民主化の3つの構造的流れのなかで起こっている」というものである。しかし、この3つの構造要因は「地域化も進めるが、他方さまざまな危機も生み出す可能性をもつ」というのが第2の命題。そして、最後の命題は「地域化の進展と危機の連鎖は、地域的な制度形成の要因になる」というものだ。
確かに、歴史を追っていくと、この3つの命題のような流れが東アジアに存在したことは確認できる。しかしもうひとつ、田中のいう命題が説得力をもって事実から透けて見えてこないのはなぜだろう。評者には、本書が外交史の分野にとどまり、経済の分野に踏み込んでいないのがその理由ではないかと思える。
田中が3つの命題の中心に据える「地域化」は優れて経済的現象でもある。その経済的地域化、つまり東アジアの市場主導の経済統合についての分析と外交史をクロスオーバーさせることが、どうしても必要なのではないだろうか。東アジアの生産ネットワーク、あるいはサプライ・チェーン・ネットワークについては、多数の論文が経済学の分野で発表されている。特に、世界銀行、アジア開発銀行などのエコノミストたちはここ数年、極めて積極的に実証分析を展開している。
もちろん、田中は政治学者ではあるし、政治学の分野では制度の展開についての論文はあるが、企業の分業や市場の統合についての分析はあまり見ることがない。難しい注文かもしれないが、特に今の東アジアを分析する場合、外交や制度の展開を企業や市場の動きと連動させることが必要だ。もっとはっきり言えば、政治学と経済学のクロスオーバーということなのだろう。【榊原英資 早稲田大学教授】
| 元老西園寺公望―古希からの挑戦 (文春新書 609) | |
![]() | 伊藤 之雄 文藝春秋 2007-12 売り上げランキング : 61559 おすすめ平均 ![]() 専門家による小著 まだ全部を読んでいないのですが・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「元老期」に焦点を当て新しい西園寺像を描く
西園寺公望については、明治末に30歳代の若さで病死した国木田独歩が『陶庵随筆』で早くも月旦を試みている。もっとも独歩は駿河台の西園寺邸に居候となったことがあり、やや身贔屓の気味がなきにしもあらずだった。岩井忠熊著『西園寺公望――最後の元老』(岩波新書、2003年)は近年の著作であるが、旧臘(07年末)、伊藤之雄著『元老西園寺公望――古希からの挑戦』(文春新書、987円)が出現した。後者の著者は、前者(岩井著)が元老期の西園寺の描き方が「平板な叙述」に陥っているとして、堂々と対抗しようとしている。その意気や壮とすべきか。
ところで最近話題になっている倉富勇三郎の日記(佐野真一著『枢密院議長の日記』講談社現代新書)は、字が難解で読み通した人はいないという触れ込みであったが、実は伊藤之雄氏だけがこれに成功した歴史家であるという。『元老西園寺公望』でも、随所にこの日記が活用されており、さすがにとうならされる。
著者伊藤氏にとって、右の著書は会心の作であるとともに、氏のライフワークの1つである元老研究に区切りをつけるものであろうと思われる。評者は助手時代にある学術雑誌の編集委員を務めていたが、伊藤氏の初めての論文(元老の役割に関する内容)を査読し、推薦の手続きをとった記憶がある。歴代首相の任命に際し、常に天皇に対し、“奏薦”の権限を有する元老の機能については、著者の近代史研究の出発点でもあるし、その後も著者の念頭を離れなかった問題であるらしい。
西園寺公望は、近代の政治家のなかでも異色の存在で、青春期に維新の変革で岩倉具視の腹心として活躍し、その後、周りの反対を押し切ってフランスに留学、パリ=コミューンにも際会した。独歩らの作家を招待して雨声会を催したのも「文人宰相」の面目であり、伊藤整が『日本文壇史』で詳述している。本書で著者が強調するのは、西園寺の幅広い国際感覚で、中国蔑視の風潮のなかで中国をも含めた列強を意識しており、しかもデモクラシーを支持しながら大衆の持つ非合理的感情の恐さにも気づいていたという。【今谷 明 国際日本文化研究センター教授】
| 国際金融危機の経済学 | |
![]() | ジャン・ティロール 北村 行伸 谷本 和代 東洋経済新報社 2007-10 売り上げランキング : 5538 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
企業金融論に2つの概念を加え国際金融の問題を考える
本書は、国際金融危機はなぜ起きるのか、危機防止のためにどのような制度設計が必要かを論じたものである。著者のティロール教授は、ゲーム論、産業組織論、企業金融論などの世界的な大家である。
本書が斬新なのは、標準的な企業金融論に2つの概念を加えることで、国際金融の問題を取り扱っている点である。企業金融論では、「借り手(代理人)が、投資家(依頼人)に収益を確約しつつ、提供された資金を有効に利用するか」という代理人問題を扱う。国際金融の問題を考えるにあたっては、「重複代理人」と「共通代理人」の2つの概念を追加すればよいという。
まず、重複代理人問題。依頼人である外国投資家は借り手を監視するだけでは、収益を確保できない恐れがある。それは、借り手だけでなく投資先の政府の行動が収益を大きく左右するためである。例えば、政府は国内投資家や借り手など自国民の利益を優先し、外国投資家の利益を保護しないかもしれない。つまり、外国投資家にとって、代理人は借り手と政府の2つということになる。投資家は借り手のモラルハザードを防ぐためにさまざまな契約を結ぶことができるが、政府とは契約が結べない。政府の存在は、外国投資家と借り手との契約にも影響を及ぼし、市場の失敗を引き起こす。
共通代理人問題は、複数の外国投資家から政府や民間企業が借り入れをしているケースである。つまり、複数の依頼人に1人の代理人が存在する場合であり、モニタリングの欠如などによって、過大な借り入れといった市場の失敗につながる。
著者は借り手のモラルハザードを阻止する仕組みとして、情報公開を通じ国家の対外債務や経済的リスクを明らかにすること、政府が外国投資家の利益を損なうインセンティブを取り除くこと、政府が融資条件の原則を受け入れることなどを挙げる。その実行のために、政府と外国投資家との間の契約の欠如などを補完する役割を担う代理人モニターを設置する必要があり、その役割を国際通貨基金(IMF)が果たすべきとしている。IMFに対して、国際金融における「最後の貸手」としての事後的な危機の処理ではなく、早期是正措置的な危機管理の役割を求めている点は興味深い。
クレジット・バブル崩壊後も新興国市場のブームは膨らみ続けている。次なる波乱は、新興国を舞台に起こる可能性がある。評者は、著者の提言を即実行に移すべきだと考えるが、もう手遅れだろうか。【評者 河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長)】
| 失われた民主主義―メンバーシップからマネージメントへ | |
![]() | シーダ・スコッチポル 河田 潤一 慶應義塾大学出版会 2007-09-21 売り上げランキング : 11404 おすすめ平均 ![]() 寡頭支配vs草の根民主主義Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アメリカでは包括的な社会政策に合意が成立しにくくなった
現在急速に進展しているグローバル化が、アメリカのレーガン政権によって推進された新自由主義の経済政策を主柱にしていることは、周知の通りである。現ブッシュ政権もレーガン革命を継承しており、対外政策でも単独主義の傾向が強いことから、グローバル化がもたらす弊害に本格的に取り組まずにすましている。
本書はアメリカ政治で民主主義がいかに形骸化しているかを論じており、その主眼は、社会的な格差が拡大しているなかで有効な対策になるはずの、「包括的な社会政策がなぜ取りにくくなっているか」である。言わばアメリカの内側から、グローバル化の問題を解明している。
著者スコッチポルは、中仏両革命の比較など歴史社会学の研究で有名だが、アメリカ政治史でも社会保障の歴史や国際比較の観点から、「科学的」政治学が主流のアメリカの学界で大胆な問題提起を行い、一派をなしている。本書でもアメリカ民主主義研究の原点であるトクヴィルにまでさかのぼって、現代の民主主義の問題点を検討している。
その要点は、アメリカで包括的な社会政策がニューディール期や第2次大戦後の時期に実現したのは、在郷軍人会などの階級横断的な結社の全国的な連合体が、政治的にも強力な影響力を発揮したからだという、独自の見解である。そのために全人口の1%以上に達した連合体の結成年や存続期間が跡づけられ、大規模な戦争が結成を促進したことを明らかにしている。
それに反して、1960年代以降、専門家が主導するアドボカシー(政策提言)・グループが影響力を持ち、個別的な争点についてはきめ細かいとはいえ、低所者層の福祉には関心が向かなくなっている。それは、財団の補助やダイレクトメールによる資金集めをもとに活動し、一般会員の参加を必要としなくなっているからである。
逆にグループ間の競争が激しくイデオロギー対立が高進することで、国民全体を対象にする包括的な社会政策に合意が成立しにくくなっているのであった。
スコッチポルの提示する処方箋は、全国的な結社の連合体を復活することにある。しかし、この点ではキリスト教連合のような右翼のほうが先行しており、改革の側でそれをいかに成功させられるかが課題になっていた。現在2008年の大統領選挙に向けて「変化」を求める機運が高まっており、ようやくその可能性も生じつつある。【評者 五十嵐武士(東京大学法学部教授)】
| ダイイング・アイ | |
![]() | 東野 圭吾 光文社 2007-11-20 売り上げランキング : 305 おすすめ平均 ![]() 主人公に魅力がないのが一つの鍵? これは久々にヒットでした! のめり込む、妖しく恐ろしい世界Amazonで詳しく見る by G-Tools |
道化の死 世界探偵小説全集 41
ナイオ・マーシュ (著), 清野 泉 (翻訳)
オカルト、ホラーと思わせて結末は……
東野圭吾『ダイイング・アイ』(光文社、1680円)。人気作家の「幻の1冊・解禁!」などといわれると読みたくなるのが人情。
交通事故で死んだ被害者の末期の眼、そして部分的記憶喪失(事故時のみ限定モード)におちいった加害者の前に現われた邪悪な目のマネキンのような女。アイデア百出の才人らしく、何が起こるかわくわくさせる導入だ。む。待てよ。これはオカルトか、それとも、グロめのサイコ・ホラーなのか。
並の料理人なら、ホラー系にひん曲がっていくのが自然のレシピ。
ついついこちらも「そんなもんだろ」と見当をつけて読んでいくと……。そこはヒガシノ、純然たるミステリの結末が待っている。決め技は分身テーマ。二重の交換が巧みな「つなぎ」をつくった。読むほどに、かつての東野の試行錯誤の跡が見えてくるのも面白い。分身とか交換(殺人)とかは、ミステリの粋と技法をつくして饗応してこそ味わい深いのだ。
えっ? 多少のご都合主義は我慢することですよ。
話は変わって翻訳ミステリの古典発掘路線。ナイオ・マーシュ『道化の死』(国書刊行会、2625円)をもって、同社の世界探偵小説全集がひとまず完結するそうだ。
比較的高価なハードカバー版で、知られざる傑作、不運にも未紹介だった名作を、丁寧な解説つきで新訳していくシリーズも、何種かを数える盛況だ。マニアックな路線に先鞭をつけたのが、このシリーズである。ミステリ興隆の副産物とはいえ、意義は大きい。当初は、どこまで続くかと危ぶむ声もあったが、たんに定着するのみでなく、ますます拡大していく勢いなのは驚きだ。わたしもいろいろと恩恵をこうむった。もはや欧米の「古典復刊」を抜きに今日のミステリ・シーンは語れないだろう。その先頭をきったシリーズの完結に、まずは乾杯。【野崎六助 (作家・評論家)】
| 生活経済からみる福祉―格差社会の実態に迫る (MINERVA福祉ライブラリー 93) | |
![]() | 馬場 康彦 ミネルヴァ書房 2007-10 売り上げランキング : 254028 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
家計調査のデータ分析に基づき、現代生活の底を流れる特徴として、(1)収入間格差の拡大、(2)「必要からの乖離」、(3)「生活標準からの排除」―― という3つの傾向を抽出。その矛盾を集中的に受けている生活保護、母子、障害者、高齢者の各世帯類型別に収入・支出構造の現状と問題点を読み解く。生活経済学の視点と手法で描き出した現代の貧困の実像は、福祉の貧困をも浮き彫りにしている。
| 人口経済学 (日経文庫 F 57) | |
![]() | 加藤 久和 日本経済新聞出版社 2007-11 売り上げランキング : 27097 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人口減少が始まった日本で、これから脚光を浴びる、というよりももっと早くから定着していなければならなかったのが人口経済学という分野だ。人口と経済との相互依存関係を分析し、あるべき政策の処方箋を書くのが目的の学問である。本書は、平易な形で書かれたその入門書だが、人口減少時代にどのような社会政策・経済政策が求められるかについても解説している。
| シナリオ2019―日本と世界の近未来を読む | |
![]() | 宮川 公男 東洋経済新報社 2007-11 売り上げランキング : 6181 おすすめ平均 ![]() 生きている地球のためにできること・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
有識者600人以上のアンケートをもとに、各分野の専門家が描く2019年の日本と世界の近未来像。人口、食料、通貨、教育、貧困、主要国・地域など21テーマについて、常識的シナリオと対極的なサプライズシナリオを提示し、それぞれの可能性を吟味する。ドラッカーによれば、2010年代は現在の大転換期の仕上げ局面。近未来を見すえ、新年の構想を練る際の羅針盤の1つとして参考になる。
| モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」 | |
![]() | エフライム・ハレヴィ 河野 純治 光文社 2007-11-22 売り上げランキング : 37827 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
イスラエルの諜報機関モサドの前長官の回顧録。第1次世界大戦後、英仏が石油利権奪い合いのため中東で人為的国境線を引き、その後の紛争の火種になったことから説き起こし、湾岸戦争、イラク戦争でのイスラエルの戦略・教訓を綴る。日本のインテリジェンス戦略構築に有益なヒント満載。中東現代史の流れも学べる好著だ。
| 最後のサムライ山岡鐵舟 | |
![]() | 圓山 牧田 平井 正修 教育評論社 2007-09 売り上げランキング : 103458 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
明治維新に先立ち、山岡鉄舟は官軍支配の地を駿府(静岡)まで徒歩行して西郷隆盛と会い、将軍・徳川慶喜の恭順の意を伝えて江戸城無血開城が決まった。その鉄舟は大量の書を残したが、業績は書き残さなかった。鉄舟創建の東京・谷中、全生庵3世住職・牧田が鉄舟を惜しんで明治21年に「鉄舟居士乃真面目」を著した。その現代語訳。剣と禅と書の達人、日本人の理想像の1人が史料で描かれる。
| 勝者と敗者の近現代史 | |
![]() | 河上 民雄 かまくら春秋社 2007-11 売り上げランキング : 34507 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 河上民雄(元日本社会党衆議院議員、東海大学名誉教授)
歴史に学ぶ大切さを知り国際的感覚を身につけよ
──徳川慶喜の近代化構想や、勝海舟と福沢諭吉、山県有朋と原敬、近衛文麿と石橋湛山、石原莞爾と岸信介などを対比しながら、実現しなかった構想を取り上げています。この発想はいつごろから温めていたのですか?
■私は、1945年7月に陸軍の東部第11部隊に入隊、川中島の河原で夜間匍匐前進訓練をして、米軍上陸に備え帝都防衛ということで逗子沿岸に配置され、8月15日の終戦を迎えました。上官の姿が見えたら直立不動で敬礼しましたが、玉音放送後は上官を見ても誰一人敬礼しないんです。組織の崩壊です。自分の国が滅びる瞬間を最下級の兵士として目の当たりにして、歴史とは何か、考えさせられました。90年に20年間の議員生活を終えましたが、議員時代はいつも「勝ならどうするだろうか」と『氷川清話』を読み返していました。ある人を通じて石橋湛山を知り、こんなに気骨のある人がいたのかと驚き、勝海舟と石橋湛山を中心に読んできましたが、大学院で講義するのを機にその周辺を読み直してまとめました。
──近代日本は違う歴史もありえた、という話ですね?
■徳川慶喜が慶応3(1867)年11月にまとめた近代日本の国家構想「議題草案」は、ほぼ同じころできた坂本龍馬の「新政府綱領八策」と非常に似ている。今の憲法のさきがけともいえる構想です。慶喜はあまりにも鋭すぎて危険なので、西郷隆盛、大久保利通に失脚させられたのではないか。勝海舟は鉱毒事件の足尾銅山を現地視察、田中正造を応援している。日清戦争に反対し、福沢の脱亜論を批判している。福沢は文明を垂直的にとらえていたが、勝は「古今の差なく東西の別なし」ですから。勝、福沢のアジア観の相克は今でも続いています。
──日本がベルリンの壁崩壊について、感度が鈍かった、との指摘ですが。
■近代日本は最初、政権丸ごとで欧米を視察するなど国際化に邁進したが、そのうちに国際的な出来事に感度が鈍くなりました。リットン調査団が日本で聞き取りした際はほとんど通訳つきでしたが、中国要人の多くは英語で話した、といいます。
冷戦崩壊も89年当時、政界では危機感が全く見られなかった。戦後の日米安保体制を支えた基本条件が消え、歴史としての20世紀が終わった、という現状認識がなかった。この感度の鈍さは続いています。できれば20世紀中に日中が和解し、アジア共同体の手掛かりを作っておくべきだったのですが、小泉政権が毎年、靖国参拝を繰り返すことで台無しにした。今やるには相当なエネルギーが必要でしょう。
覇権国家は経済覇権確立後、タイムラグをおいて政治覇権を確立します。いずれ政治大国中国が台頭するでしょう。その前に日本の立ち位置をしっかりしておかないと悔いを千載に残すことになりかねません。歴史に学ぶことです。若い人には国際的な感覚をどんどん身につけてほしいですね。
| 学校のモンスター (中公新書ラクレ (258)) | |
![]() | 諏訪 哲二 中央公論新社 2007-10 売り上げランキング : 43818 おすすめ平均 ![]() 近代的個人と「この私」 時代遅れの教育論 教育を通じて語る「近代」。でも,現場的には・・・。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| なぜ勉強させるのか? 教育再生を根本から考える 光文社新書 | |
![]() | 諏訪 哲二 光文社 2007-02-16 売り上げランキング : 40168 おすすめ平均 ![]() いい本だなあ~!! 勉強とは伸ばすことより縮めること 人は“変わる”し、変わらないことには始まらないAmazonで詳しく見る by G-Tools |
クレーマーと化す親への対処法
最近の流行り言葉の1つに、スクール・モンスターなるものがある。無理難題を教師にふっかけ、教師を心の病にしたり、学校を辞めさせたりする生徒の親のことである。たとえば埼玉県の公立高校では、勧奨退職者は1年で150人の予測だったが、実際は600人以上だったという。
こんなことでは優秀な人材が教師になってくれないから、対処法は私の大きな関心事だった。基本的には、校長のような学校管理者や教育委員会の事なかれ主義がクレーマーの親たちをのさばらせていると、私は考えていた。
それとは別の角度からこの問題を考える本を見つけた。諏訪哲二『学校のモンスター』(中公新書ラクレ、798円)である。著者は「プロ教師の会」を主宰する現場教師出身の教育評論家。前からその発言には注目していた。
前著の『なぜ勉強させるのか?』から一貫して主張されているのは、学校というのは生徒に学力をつけるためだけの場ではなく、「公」性を内面化した近代的個人にしていく場だということである。
要するにいくら学力が高くても、社会のルールを守れるようにできなければ、社会には受け入れられない。それなのに、学校が「公共」であることから逃げ、「公共」の場であると考えていない親や子供がいることに問題があるという諏訪氏の言説は説得力がある。作家・高村薫さんの「自分が40分の1だと初めて学ぶ場」という言葉を引用しながら、自分がみんなのなかの1人に過ぎないことを学校を通じて学ばないといけないと述べる。
クレーマーと化す親への対処法にしても、現実的だ。「教師の側にも問題がある」という親側のクレームは、左の人にはもっともなもので、右の人にはとんでもないものだろうが、イデオロギーの対立では始まらないと説く。思想の問題でなく、行動、やったことがいけないという公共性を重視した対応が必要なのだというのは、心理学の立場からは十分うなずける。「人を殺したい」と考えるのを禁止できないが、殺人は禁止できるし、処罰できるのである。
そのほか、テレビドラマの「金八先生」のように、人生を押し付ける先生は合わなかった場合、生徒がひどいことになるという話や、夜の繁華街で少年少女を指導する「夜回り先生」の批判など、考えさせられることが多い。【和田秀樹 精神科医】


長時間労働を考える、タイムリーな書
労働時間研究のために
「仕事」の実情を理解するのにお勧めです。
ダメだ、こりゃ。。。























