メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年12月25日
| 波乱の時代(上) | |
![]() | アラン グリーンスパン 山岡 洋一/高遠 裕子 日本経済新聞出版社 2007-11-13 売り上げランキング : 189 おすすめ平均 ![]() 米国の前司令塔が語る20年間の世界経済 最終学歴ジュリアード音楽院で世界の経済を動かした男 天皇の人間宣言Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 波乱の時代(下) | |
![]() | アラン グリーンスパン 山岡 洋一/高遠 裕子 日本経済新聞出版社 2007-11-13 売り上げランキング : 179 おすすめ平均 ![]() 思っていたよりは... 下巻は"ご託宣"みたいなのがく、開発途上国の指導者たちに説く啓蒙書みたいな感じ 続・功罪Amazonで詳しく見る by G-Tools |
カリスマ議長が経歴を積む姿と周囲の仕事ぶりは特に興味深い
1987年から2006年までの長期にわたって、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)議長を務め、世界経済のなかで最も重要な役割を果たしてきたグリーンスパン氏の回顧録である。
グリーンスパン氏には独特のミステリアスな雰囲気があり、一種カリスマ的な信用を得てきた。私は、氏を1度だけ間近に見たことがある。1990年ごろ、経済企画庁で国際関係の課長をしていた時に、当時の経企庁長官(相沢英之氏)とFRBを訪問したのである。われわれが通されたのは連邦公開市場委員会(FOMC)そのものが開かれる会議室で、われわれが座った椅子には理事の個人名が記されていた(その椅子に座ったので、私はややミーハー的に喜んだ)。
やがて奥のドアが開いて、グリーンスパン氏が1人でゆったりと現れた。彼は、ひょうひょうとアメリカ経済の現状について語ったのだが、面白かったのはその後だ。随行者の1人が極めて細かい統計についての質問をした。するとグリーンスパン氏は一言「私はその統計のことは知りません」と答えた。普通「知りません」と言うと、「知らないで申し訳ない」という感じになるのだが、同じせりふをグリーンスパン氏が言うと「そのような統計は見るに値しないから私は知らないのだ」と言われているような気がした。カリスマのなせる業である。
本書ではそのグリーンスパン氏が、自らのエコノミストとしての歩みとFRBでの経験を余すところなく述べ(ここまでが上巻)、ついでテーマ別に経済成長、所得格差、高齢化などについて自らの考えを述べている(これが下巻)。
私が特に興味深かったのは、前半のエコノミストとしてのキャリアを積んでいくところと、FRBでの経済専門家たちの実務的な仕事ぶりである。例えば、FRBでは、連邦準備銀行の幹部、職員が担当地区の銀行や企業と常に連絡を取り合っており、そうして集めた情報によって、公式の統計が発表される1カ月ほど前には、受注や販売の動向が分かるのだという。また、スタッフに調査を依頼すれば、ほぼどのようなテーマであっても、各種の学説の長所と短所を詳細に評価した報告が短期間で届くのだという。
こういう話を聞くと、私は、アメリカでは政策決定のプロセスにおいて、経済学の知識とプロフェッショナルとしてのエコノミストの能力がいかにフルに生かされているかを再認識し、心からうらやましく思うのである。【評者 小峰隆夫(法政大学大学院政策科学研究科教授)】
| 赤い土・フェロシルト―なぜ企業犯罪は繰り返されたのか | |
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不法投棄はなぜ起こったか 記者の執念が企業を追い詰めた
石原産業がチタン鉱石から酸化チタンを製造する過程で作られたフェロシルトを、リサイクル製品と偽って不法投棄していた。捨てられたのは三重県から愛知県、岐阜県、京都府などの山地で、そのため土地が赤色に染まっていた。
『朝日新聞』の社会部記者として、この事件を早くから追っていた著者が、その取材の過程を克明に記録し、関係者の証言や周囲の住民の声、そして県庁や市役所の対応ぶりを詳しく伝えているのがこの本。
石原産業の秋沢元会長は記者に対して「あなたのおかげでうちは500億円も損したんだから、景気が悪ければとっくに倒産していたよ」と言ったという。
取材のきっかけになったのはXという人物からの情報提供だというが、おそらく内部告発者と思われる人物からの資料提供がなければ、この事件が表面化されることはなかったかもしれない。
石原産業といえば、1960年代から70年代にかけて、四日市ぜんそくの公害事件で有名になり、さらに大量の廃硫酸を四日市港にたれ流したことで大問題になった会社である。
その石原産業の同じ四日市工場で出たフェロシルトを、海ではなく地上に廃棄していただけでなく、観測データの改竄、廃棄も行っていた。
石原産業は戦後、岸信介などとともにA級戦犯とされ、その後釈放された石原広一郎が作った会社だが、その息子があとを継いで社長となった段階で問題が起こり、かつて労働組合の委員長をしていた秋沢が社長になり、「労働組合が会社を乗っ取った」といわれたものである。
このあたりの事情が詳しく書かれているが、それにしても労働組合の委員長が社長になり、それが公害をたれ流して住民から非難されるというのが日本の会社のあり方である。
記者が『朝日新聞』でこの事件を報道していた過程で、従軍慰安婦報道をめぐるNHKと朝日新聞との対立が政治家たちから批判を受け、そのあおりをくって記者の石原産業についての記事が当分の間、掲載見送りになった、というあたり、マスコミ報道の一面をのぞかせてくれる。
ほかにJFEスチールや神戸製鋼所、さらに東京電力などのリサイクル偽装についても書かれているが、単に石原産業だけでなく、多くの会社で「会社のためならなんでもする」というのが日本の会社人間である、ということがよくわかる。
ただ、叙述を工夫すればもっと読みやすくなったのにと残念な気がする。【評者 奥村 宏(会社学研究家)】
| おたから蜜姫 | |
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| 錏娥哢た | |
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お姫様が『竹取物語』に隠された謎に挑む
米村圭伍『おたから蜜姫』は、温水藩の蜜姫が活躍する『おんみつ蜜姫』の続編。作中に前作の粗筋を書く離れ業もあるので、すぐに作品世界に入っていけるだろう。
今回の蜜姫の任務は、『竹取物語』のかぐや姫が5人の求婚者に要求した5種類の宝物を探すこと。剣は得意でも頭脳労働は苦手な蜜姫は、古典文学に詳しい母・諏訪御前の助けを借りて調査を続けるが、やがて『竹取物語』には古代史の秘密が隠されていることが分かってくる。
歴史の知られざる真相を探る物語は、時空を超え徳川幕府の初期に大久保長安が画策したとされる謀略の存在に繋がっていくので、そのスケールも大きい。暗号から歴史の秘密を掘り起こす手並みは『ダ・ヴィンチ・コード』に勝るとも劣らない出来栄えである。
花村萬月『錏娥哢た(あがるた)』(集英社、2310円)も、女忍者が縦横無尽に暴れる伝奇小説の王道となっている。
不老不死の「蛆神様」に率いられている裏伊賀の隠れ里で、伝説の忍者・錏娥哢たが誕生する。成長した錏娥哢たは、徳川家康の意外な“正体”に肉薄していく。
著者が山田風太郎や半村良へのオマージュといっているように、作中にはエロ・グロ色はもちろん、SF的なアイデアも満載。融通無碍な筆から生みだされる物語のパワーは、伝奇小説ファンはもちろん、面白い物語が好きなら必ず圧倒されるはずだ。
2作とも弱者の視点から歴史を捉える伝奇小説の特質を活かし、荒唐無稽な展開を通して、権力に固執する人間のグロテスクさや、権力者は平然と庶民を切り捨てるといった社会の“闇”を明らかにしたところも見事である。【末國善己(文芸評論家)】
| 憎まれ役 | |
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著者インタビュー 野中広務(元自民党幹事長)
這い上がった2人だから言いにくいことも言える
──なぜ野村さんと共著に。
■共に京都出身で、共通の知人の文藝春秋出版局長から「対談をやってみたらどうですか」と勧められたのがきっかけです。僕は前から、この人の試合後のぼやきがすばらしく、「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」のように、政局にも通じる名言を吐いておられ、興味を持っていました。お話ししてみて、すごい努力の跡がうかがえ、特に安岡正篤さんなどの歴史書を読んでおられる。あれほど勉強し尽くした人はいない。寿司屋に一緒に行っても、板長との会話は豊富で、座持ちが見事な人でした。
──何が一番通じ合いましたか。
■私は町会議員から出発し、野村さんはテスト生としてプロ入り、2人とも「這い上がった男」なんです。趣味と仕事が一致した者同士であり、何より共通するのは、メディアから「憎まれ役」扱いされたことでしょう。野村さんは長嶋(茂雄)さん、私は小泉(純一郎)さんの敵役。でも、2人はただの「憎まれ役」でなく、おかしいと思うことは、世間を敵に回しても、おかしい、と発言してきました。
──政界の主流は這い上がった人間ではなく、2世3世議員ですが。
■つねられてみなければつねられた人の痛みは分からないから、そういう政治家がおらなくなって、怖いことですよ。最初から国会議員の息子として、周囲から大事にされている人間に人々の暮らしが見えてくるでしょうか。
──現在の自民党で「憎まれ役」になれる人は?
■私らと苦楽を一緒にした古賀(誠選対委員長)君とか、若手では菅(義偉選対副委員長)君がそういう役目を果たしてくれると思います。特に、郵政で造反した人たちは深い傷を負ったわけだから、選挙区調整では、その心が癒えるようにしてやらなければいけない。今、郵便局は民営化で惨憺たるもので、大きい郵便局の窓口は、分社化されたから冷たくなっているし、小さな特定局は複雑に変わっていくような対応に苦しんでいます。
──9年前の小渕内閣の官房長官当時、小沢一郎氏(現民主党代表)の自由党と連立を仕掛けました。先の自民、民主の大連立話をどう見ましたか。
■参院での与野党逆転を考えれば、連立は1つの方法だと思います。党利党略で激突ばかりしていては国、国民の不幸になる。方向としては望ましかったけど突然過ぎたね。小沢さんも自分の思い通りになった自由党時代と比べ、余裕が感じられなかった。マスコミもいかん。一方の旗頭が連立工作に動くなど、本来の役割と明らかに違う。それに乗る総理経験者がおるというのも情けない話だ。
──82歳の今、これだけは言っておきたいことは。
■自衛隊が武力を行使し、地球の裏側まで行けるような国にはなってほしくない。戦争の無残さを忘れないでほしいと思いますね。
| より高度の知識経済化で一層の発展をめざす日本―諸外国への教訓 | |
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世界銀行が途上国向けに日本の成功体験の教訓を提供するためのリポートの邦訳だ。「失われた10年」後の日本は外国から正当に評価されていない。著者らは「知識ベースの経済」優等生で「公平な成長」を成し遂げた国として分析。トヨタ、セブン―イレブン・ジャパン、シャープ、シマノなど高度な知識創造企業の分析などは日本人が読んでも興味深く、納得できる。
| 超長期予測老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図 | |
![]() | 小峰 隆夫 日本経済研究センター 日本経済新聞出版社 2007-10 売り上げランキング : 1356 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
各国経済の行方を考えるうえで欠かせない人口予測をもとに、2050年の成長力を分析している。独自の試算は、(1)少子高齢化の影響を最も強く受けるのは日本、(2)アジアは世界経済の成長センター、(3)日本は世界第2位の経済大国――という3つの常識を覆す結果に。これが事実になるかどうかは今後の政策にも左右されるが、超長期の人口変動がもたらす未来の世界経済地図を垣間見ることができる。
| 「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方 | |
![]() | 駒崎弘樹 英治出版 2007-11-06 売り上げランキング : 478 おすすめ平均 ![]() なかなか面白い 子どもが大きくなったら読ませたい 言葉が認識を生んで、認識がアクションを生む。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「社会起業家」という言葉がある。ベンチャー起業のように、社会の変革を目指して、事業を起こす人のことだ。著者は28歳。子供が病気になって仕事を休んだために勤め先をクビになった、という話をベビーシッターをしている母親から聞いて、「病児保育」という誰も手を付けなかった事業に取り組んだ。若者らしい、好感の持てる奮戦記である。
| 自由に生きるとはどういうことか―戦後日本社会論 (ちくま新書 689) | |
![]() | 橋本 努 筑摩書房 2007-11 売り上げランキング : 6113 おすすめ平均 ![]() 幅広い世代の人が興味深く読める好著 学生のうちに読んでおきたいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
自由という価値観をキーワードに世代別生き方の理想と現実を語る。1960年代に団塊の世代は都市の巨大化と科学的合理主義に抗し、自然と野生の回復を求めた。80年代は「権威からの自由」が日常化し、マイホームパパが象徴的存在に。現在は、給与所得の全般的下降状況のなかで他人を貶めようとする欲望が渦巻く「貶斥社会」だとし、打開する方向も提示する。
| 日中戦争への道 満蒙華北問題と衝突への分岐点 (講談社学術文庫 1846) | |
![]() | 大杉 一雄 講談社 2007-11-08 売り上げランキング : 146613 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1996年の中公新書『日中十五年戦争史』を改題、文庫化したもの。満州事変とは何だったのかが最大のテーマ。マルクス主義的「決定論」を鋭く批判、別の選択肢の可能性を探った。一読して、石原莞爾ら軍部の専横は言うまでもないが、広田弘毅、内田康哉ら外務官僚の勇気のなさ、軍へのおもねりが日本を滅ぼしたのではないか、と改めて思った。渾身の力作である。
| 君命も受けざる所あり (私の履歴書) | |
![]() | 渡邊 恒雄 日本経済新聞出版社 2007-11 売り上げランキング : 14559 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
メディア側から見た戦後政治史
『君命も受けざる所あり』(日本経済新聞出版社、1680円)は、ナベツネこと読売新聞グループ本社会長兼主筆である渡邉恒雄が、『日本経済新聞』の「私の履歴書」に加筆した自伝である。ともかく面白い。メディアの側から見た戦後史、戦後政治史が極めて率直に語られている。
『聞き書 宮澤喜一回顧録』が戦後60年の内側からの貴重な証言だとすれば、この渡邉の自伝はそれと双璧をなす外側からの歴史的証言だといえるだろう。
戦後直後の混乱期、共産党に入党し、しかも共産党の状況に飽きたらず、東大新人会をつくり、「主体性」論争を仕掛ける。なかなか痛快だし、血の気の多い多感な青年ならごく自然な行動だったと思える。
評者も血の気の多いほうで1960年、安保反対のデモに参加したが、共産党に入党するまでには至らなかった。最終的には大蔵省に入ったが、実は新聞記者になりたかった。読売新聞社にでも入って渡邉などにしごかれていれば、随分面白い人生になっていただろう。
渡邉は鳩山一郎や大野伴睦に気に入られて、自民党政治のなかに深く入っていく。中曽根康弘との盟友関係はよく知られているが、鳩山や大野の知遇を得ているとは知らなかった。これだけタイプの違った政治家に好かれるというのは、渡邉が信頼できるだけではなく、魅力的だからなのだろう。現在でも大連立の仕掛け人になったりして、裏では渡邉のような大ジャーナリストが政治を動かしているという部分は少なからずあるのだろう。
社内でのさまざまな確執を率直に語っていることも好感が持てる。反骨精神がこれだけ強い人物がサラリーマン生活を送ることはなかなか大変なことだ。最終的にはいい上司に恵まれ、運もよかったのだろう。サラリーマンの出世は最後は運だが、その運を呼び込むのも実力のうちというところか。
熱血漢でありながら純情であるところがまたいい。「智恵子抄」を引用しながら、「妻が愛しくてならない」と本を締めくくることができる人は、日本人ではほとんどいないだろう。ある意味では充実した人生を送った大変幸せな人だということであろう。【榊原英資 早稲田大学教授】


米国の前司令塔が語る20年間の世界経済
最終学歴ジュリアード音楽院で世界の経済を動かした男
下巻は"ご託宣"みたいなのがく、開発途上国の指導者たちに説く啓蒙書みたいな感じ
続・功罪










