メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年12月11日~12月18日
| 中国の不良債権問題―高成長と非効率のはざまで | |
![]() | 柯 隆 日本経済新聞出版社 2007-09 売り上げランキング : 4648 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
好調な中国経済に潜む巨大リスクを冷徹に分析
サブプライムローン問題に端を発した米国経済減速懸念に関連して、わが国経済の先行き不透明感が強まりつつある。このため、わが国では、中国経済の拡大持続に期待する向きが少なくない。しかし、中国経済については情報開示が必ずしも十分ではないこともあって、その実態を正確に把握することはなかなか難しい。
本書はそうした制約の下で、入手可能な最大限のデータ・情報や内外の研究論文を検証しつつ、中国経済の現状を冷徹に分析している。
本書で指摘されているのは、表面的には好調な中国経済に潜む巨大なリスクである。具体的には、(1)国有企業や国有銀行の非効率性とガバナンスの欠如、(2)実態的にはほとんど解決されていない巨額の不良債権、(3)社会の各層で拡大を続ける所得格差、(4)株式・不動産市場におけるバブル発生、という「四脅」(4つのリスク)である。
このうち、不良債権問題について著者は、中国の会計基準がグローバルスタンダードと大きく異なることや、本格的処理には必ずしも繋がらない手法(いわゆる「トバシ」)が多用されていることなどを指摘し、公表されている不良債権額の信憑性に重大な疑問を呈している。こうした認識は、評者のそれと完全に一致する。
著者が指摘するこれらのリスクについては、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長が近著で、「どれか一つが火種となって大火災が生じてもおかしくない」と述べているように、その処理を誤れば、経済面のみならず、中国の政治・社会全体にも重大な動揺を招きかねないものといえよう。
また著者は、好調を続ける実体経済面にも警戒の目を向ける。すなわち、現在の中国の高度成長は、基本的には米国などへの輸出増とそれに誘発された固定資本投資増に支えられている。このため、外需が減少に転じた場合は、こうした投資主導型の成長は、「内需不足により、持続できるかどうかは不透明」な状況にあるといってよいだろう。
こうした点を鑑みると、日銀などが主張する、「米国経済が減速しても、中国経済などの活況によって世界経済全体の拡大は持続する」という「デカップリング(分離)」論は、あまりにも楽観的という感が否めない。
それにしても、バブル再燃を危惧する日銀が、バブル経済そのものともいえる中国経済の活況持続を当てにしなければならないというのは、何たる皮肉というべきか。【評者 渡辺 孝 文教大学国際学部教授】
| 1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74) | |
![]() | 竹森 俊平 朝日新聞社 2007-10-12 売り上げランキング : 2262 おすすめ平均 ![]() 「不確実性」を前提とした政策当局の危機管理の必要性説く 頭の整理になるが学者の限界も見える 今年度下半期最高の経済書の一つになるのではAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「不確実性」の概念を軸に金融危機への処方箋を探る
人間は過去を忘れたり、時には学んだりもする。1980年代後半の日本のバブルは、過去を忘れた典型だった。3000万円のマンションが2、3年で9000万円にもなったのは異常という以外になかろう。事後的にみな気がついた。
著者は指摘する。金融緩和によりバブルを招いた反省から、日銀は強力な引き締めを行い、さらに景気後退後も金融緩和を遅らせ「失われた10年」を招いた。
それに対して米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長は日本の失敗を観察し、2001年からの景気後退の危機に際し、1年間で政策金利を5%近くも引き下げる荒業で、家計の住宅投資と消費を盛り上げ、景気後退を短期に終息させた。
しかし、グリーンスパンの危機管理の成功は、サブプライム問題に象徴される今後の世界経済の不安材料をつくり出したかもしれないのである。だがそれがわかるのも事後的である。未来は不確実だ。
本書はシカゴ大学で45年も教鞭をとったフランク・ナイトの「不確実性」という概念を軸に、1997年の「世界を変えた金融危機」に焦点をあて、「不確実性を前にした投資家心理」や、FRBや日銀、あるいは国際通貨基金(IMF)など国際機関の対応を分析しながら、危機管理の処方箋を慎重に探っている。
日本の経験が典型的にそうであるように、過度の楽観主義によるバブルの発生は、その崩壊後の人々の行動を、一転して最悪のシナリオを考慮しながら行動する過度の悲観主義に導く。危機それ自体が危機を深めるのである。
対応策はなにか。政策当局者が「『自分は金を持っている』ことをはっきり示し」「惜しみなくそれを使う」(ウォルター・バジョット)ことが必要らしい。
本書が抉り出している「マクロの心理学」は、評者のようにミクロしかわからない門外漢にも、事の重大性をよく理解させる。つまり専門外の人間に専門を理解させるという「新書」の役割をよく果たしている本である。
また細部が面白い。例えば危機に陥った国へのIMFによる政策要求の雑多性。インドネシアに「慈善事業への寄付のための税引き後所得への2%の強制的な賦課」などを高飛車に求めている。いったいこれはなんだろう。
ところがそのIMFは、今では各国がカネを借りなくなり、金利収入を失い財政危機に陥っているとのことだ。【評者 中沢孝夫 兵庫県立大学環境人間学部教授】
| 芸術家の奇館 (講談社文庫 は 29-11) | |
![]() | デイヴィッド・ハンドラー 北沢 あかね 講談社 2007-11 売り上げランキング : 56574 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| キューバ・リブレ (小学館文庫 レ 1-2) | |
![]() | エルモア・レナード 高見 浩 小学館 2007-11-06 売り上げランキング : 40509 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
NY近郊の村を舞台に人間性の暗闇が次々と
新作が出れば、何はともあれチェックしておきたい書き手がいる。大した理由もないのだが、そのヒイキ筋が並んで健在を示してくれるのは、単純に嬉しい。
ということで、1冊目は、デイヴィッド・ハンドラー『芸術家の奇館』(講談社文庫、900円)。皮肉屋映画コラムニストと黒人女性警官の恋人コンビ・シリーズ。舞台は、ニューヨーク近郊の因習的な地域社会。最初は正直なところ、奇をてらった組み合わせのように感じたけれど、2作目の本書でうまく練成にいたった。「隠れファン」の憂き目を見ずに済んだようでホッとした。
単純な爆殺事件の裏に幾重にも絡み合った人間模様が。善人ばかりのはずが、とてつもない人間性の暗闇があちらにもこちらにも。そして、由緒ある田舎村に押し寄せる開発の波――。このあたりは、意外にも、英国風カントリー・ミステリの味わいであり、作者の芸域の円熟を愉しめる。栄光の過去をひたすら追い求める孤独な芸術家という作者得意のキャラクターが今回もメーンだが、マンネリにはおちず、新しいパッケージのもとに成功している。
しかし。どうもこのタイトルは……。「奇館」はたしかに重要な舞台装置ではあるにしても。まあ、クロート向きで、いいか。
2冊目は、エルモア・レナード『キューバ・リブレ』(小学館文庫、820円)。老練レナードの初期には、ウエスタン小説が多くあった。これは往年をほうふつさせる西部劇スタイル。舞台は、米西戦争直前のキューバ。美男美女のカップルを軸に、雑多な悪役がからんで展開する正攻法の歴史冒険ロマンだ。
曲者揃いが先の読めない話を盛り立てるといったレナード・タッチは影をひそめ、驚くほどにストレート。小国の独立に介入する超大国アメリカのエゴを批判する今日的観点もうまく注入したところがこの作家らしい。【野崎 六助 作家・評論家】
| 頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書 688) | |
![]() | 渡辺 明 筑摩書房 2007-11 売り上げランキング : 7360 おすすめ平均 ![]() 将棋内容のウエイトが難しい。 欲を言えば、もっと本題に特化した内容を伝えて欲しいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 渡辺 明 将棋棋士】
プロ棋士の勝負は紙一重 でもそこでは必ず差がつく──棋士の本といえば戦術書か、人生論や哲学を語るものが多いのですが、本書はどちらでもありませんね。
■「将棋の魅力」を書きました。定跡や戦法の解説は専門書で読めますし、まだ23歳の僕が人生を語るわけにもいきません。せっかく新書を出すなら、コアな将棋ファン以外の人にも手にとってもらえる本にしたかったんです。
──駒の動かし方に始まり、棋士のライフスタイルまで解説しています。
■プロ棋士の所属する組織についてや、毎日の過ごし方をお伝えすれば、将棋に、より興味を持ってもらえると思って。
──本の最終章は、2006年の竜王戦第3局をサンプルにした自局解説。特徴は心理描写です。「ここはダメかと思った」「よしよし、相手は考え込んでいるぞ」など、対局中の感情を率直に明かしています。
■ええ。手筋の解説は極力減らして、勝負の最中の緊張感や感情の揺らぎを書きました。ちょっと難しかったです。
──棋風や発言から強気一辺倒のイメージがある渡辺さんですが、読むと意外にむき出しの弱音も吐いている。
■マイナスの感情を露わにすることに、恥ずかしさとかためらいはありません。思考が「直球」なんでしょう。言いたいこと、正しいと思うことはポンポン口に出しちゃいますから。「名人戦問題」や「女流棋士独立問題」の時のように、日本将棋連盟内部でも意見が割れるような、難しい案件の時でも同じでした。できれば僕の言葉は軽く聞き流してほしい(笑)。
──歯に衣着せぬ発言が読めるブログも人気。ほぼ毎日更新しています。
■1日に約1万5000アクセスがあります。将棋界は世代交代が遅れていますから、若い僕らが少し変わったことをするだけで目立っちゃうんです。
──確かにこの10年以上、羽生善治さんを筆頭とする30代の「羽生世代」がタイトルをほぼ総なめにしています。唯一20代で竜王を保持しているのが渡辺さん。
■羽生さんという突出した天才を目標に、集団で切磋琢磨したことがあの世代の強みです。羽生さんも、必死で逃げたんだと思う。
10代から20歳くらいまでは毎年7割の勝率を上げていたので、僕にとって将棋に勝つのは当たり前のことでした。正直言って将棋を軽く考えた時もある。でも戦う相手が強くなってくると負けが増えてきます。負けて、どうするか。勝てなくても仕方ないと考える人もいるでしょう。でも僕は、勝つことの大変さを実感してから、一番強い棋士になりたい気持ちがさらに強くなった。
──棋士の強さはどう判断しますか。
■常に複数の7大タイトル(竜王・名人・棋聖・王位・王座・棋王・王将)を持っている状態なら「俺が一番」と思えるんじゃないでしょうか。
プロ棋士の勝負はいつも紙一重。でもそこでは必ず差がつくんです。目標にたどり着くために、今の自分はまだ足りないのか、足りないものは何なのか、それはまだ分かりません。
| 波乱の時代(上) | |
![]() | アラン グリーンスパン 山岡 洋一/高遠 裕子 日本経済新聞出版社 2007-11-13 売り上げランキング : 152 おすすめ平均 ![]() 天皇の人間宣言 真のグリーンスパンがわかる 功罪Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 波乱の時代(下) | |
![]() | アラン グリーンスパン 山岡 洋一/高遠 裕子 日本経済新聞出版社 2007-11-13 売り上げランキング : 176 おすすめ平均 ![]() 思っていたよりは... 下巻は"ご託宣"みたいなのがく、開発途上国の指導者たちに説く啓蒙書みたいな感じ 続・功罪Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米連邦準備制度理事会(FRB)前議長の上巻が回顧録、下巻が今の世界の分析と2030年の世界の経済、社会予測。曖昧言葉で有名だったが、本書は率直な語りぶりに驚く。東アジア通貨危機、日本のバブル崩壊など分かりやすく解説してあり、金融を知らない人の入門書になる。ルービン元財務長官の回顧録にも感動したが、こっちの方がもっとエンタメ風で面白い。
| 狂奔する資本主義―格差社会から新たな福祉社会へ | |
![]() | アンドルー・グリン 伊藤 誠 横川 信治 ダイヤモンド社 2007-09-29 売り上げランキング : 4748 おすすめ平均 ![]() 評価できますAmazonで詳しく見る by G-Tools |
新自由主義的グローバリゼーションが強まった1980年代以降の世界経済システムの展開を、マルクス学派の立場から説得力あるデータで描いた労作。金融の不安定化、中国の興隆、不平等の拡大という大きなうねりを論じつつ、米英型自由主義国と欧州型福祉国家における経済の現実を丁寧に整理しており、日本の将来を考える数多くの素材を提供してくれる。
| お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書) | |
![]() | 勝間 和代 光文社 2007-11-16 売り上げランキング : 6 おすすめ平均 ![]() 疑いをもつ 金融についてみんな知らなかったことばかり よく理解できたAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は、公認会計士の資格をもち、外資系でコンサルタントやアナリストとして働いた経歴をもつ。書名から推測できるように、本書は、投資・運用のすすめである。だが、数多い同種の本とは違う。たとえば株式投資について「プロが得して個人が損する」とある。ではどうすればいいか。投資理論や業界の現実を踏まえながら、まじめに「お金をコントロールする」方法を指南している。
| 中国セックス文化大革命 | |
![]() | 邱 海濤 新潮社 2007-10 売り上げランキング : 16112 おすすめ平均 ![]() 筆者独特のエッセイ風風俗論 ま~そりゃ「禁書」になるでしょうね・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
文化大革命から改革開放を経て、高度成長期に至る中国の“もう1つの革命”、性事情の変化を赤裸々に綴っている。1955年上海生まれで在日経験も長く、現在はプロデューサーとして活躍する著者が、自身の体験や独自の取材、各種報道を通じて得た事実を歴史的な文脈のなかに整理しながら語り明かす性の解放史。政治経済大国・中国の実像を立体的に理解するうえで、貴重な手掛かりを与えてくれる。
| 枢密院議長の日記 (講談社現代新書 1911) | |
![]() | 佐野 眞一 講談社 2007-10-19 売り上げランキング : 1114 おすすめ平均 ![]() 宮中から見た大正裏面史 いつものことですが 「佐野眞一」の「評伝作品」として楽しむAmazonで詳しく見る by G-Tools |
嘉永6年生まれで昭和23年に96歳で死去した倉富勇三郎の日記の一部を7年がかりで解読したリポート。朝鮮総督府司法部長官、宗秩寮総裁事務取扱、枢密院議長などを歴任し、日々の出来事を克明に書き綴った奇書で、今まで読破した人はゼロとか。宮中某重大事件、柳原白蓮騒動などの記述は淡々として最高。当時のエリート層のものの考え方がよく分かる。
| 最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情 (光文社新書 318) | |
![]() | 石渡 嶺司 光文社 2007-09 売り上げランキング : 608 おすすめ平均 ![]() アホ?バカ? 問題提起は当たっている箇所があるが・・・・ 買うな!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
推薦・AO入試の罪
私は、以前から日本の子供たちの学力低下を問題にしてきたが、現在はその加速を心配している。
以前、2007年問題といって、今年は大学の志願者数と入学定員が逆転するとされていた。かろうじてそうならなかったようだが、来年か再来年には確実にそうなるようだ。すると学校さえ選ばなければ、希望者は必ず大学に入れることになる。これで学力低下が起こらないわけがない。
このことについてのリアルなリポートを、日本で数少ない大学関連専門のライターである石渡嶺司氏が『最高学府はバカだらけ』(光文社新書、777円)として出版した。
大学生をインタビューした際の稚拙な回答は驚くばかりだが、それ以上に私が気になるのは、推薦入試とアドミッション・オフィス(AO)入試の現状だ。
以前から、なぜこの成績でと思うような子供がそれなりの名門大学(早慶レベルも含む)に簡単に入ることを疑問に感じていたが、大学が学生確保のためにその枠をどんどん増やしている。
本来、推薦入試は11月以降にすべしとされているのに、実際にはそれよりずっと前に「内定」を出す。
さらに問題なのは、面接や小論文で人物重視の選考をするAO入試だ。形式的には一般の学力試験とは違った形の入試ということになっているが、石渡氏は、事実上これは推薦入学と同義語だと言い切る。
この制度によって、推薦入学は定員の5割まで(2000年までは3割)という文部科学省の通知も有名無実化された。ついでに言うと、AO入試は11月以前でも合格者が出せる。こうして高校3年生がいちばん暇という推薦内定者やAO合格者が乱造される。高校側も進学実績が上がるのでそれに便乗するし、内申点も下駄をはかせることがざらという。
しかも大学は年に1兆5000億円もの税金を使っているのに、入学者数と推薦入学者などの割合について、ろくに公開されていない実態も明らかにされる。
かくしてアホな学生が増殖していくのだが、石渡氏は大学に入ってから賢くなるという「化学反応」にも注目し、教育のいい大学も紹介している。
確かにこの視点は大切だが、高校までの勉強がおろそかだと、「化学反応」も起こるのかと不安になる。【和田秀樹 精神科医】
| 君命も受けざる所あり (私の履歴書) | |
![]() | 渡邊 恒雄 日本経済新聞出版社 2007-11 売り上げランキング : 6843 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「大連立」の仕掛け人? うわさの新聞人の自伝 秋の政局を揺るがした自民・民主の「大連立」騒動。仕掛け人は『読売新聞』渡邉恒雄主筆といわれる。『日本経済新聞』連載「私の履歴書」に加筆した『君命も受けざる所あり』(日本経済新聞出版社、1680円)の発売は11月1日、タイミングがよすぎる。
時に上司に背いても自己の判断を貫けとサラリーマンに説き、取材対象の懐に飛び込んでのスクープを誇る。大野伴睦、中曽根康弘らに食い込んだ政治の裏話は生々しく、ジャーナリストというより黒幕フィクサー風。敗戦直後の東大共産党細胞・新人会の人脈を今日まで駆使し、強引な取材・経営手法は占領期共産党にそっくりだ。
ジャーナリストとしての武勇談も多いが、書かれていないこともある。佐藤・ニクソン沖縄返還交渉に肉迫しながら核持ち込みの密約には触れない。隣国を「核保有を誇示する旧大日本帝国のような軍事独裁国家」と述べるが、国名は名指さない。最後の著書にするのは惜しい。「大連立」の内幕を含む報道人としての完結編を残してほしい。
生臭い読後感の毒消しに、昨年末青森の出版社から出た菊池清麿『国境の町――東海林太郎とその時代』(北方新社、1890円)。紅白歌合戦で「赤城の子守歌」を熱唱する直立不動の歌手には哀愁の影が感じられた。その秘密は満州にあった。歌手東海林太郎は早大大学院修了のエリートで満鉄調査部員だった。恩師は非合法共産党指導者から獄中転向の佐野学、「満州に於ける産業組合」という学術論文もある。
音楽好きの青年の生涯を変えたのは蓄音機と満州事変に向かう好戦ムード。学生結婚した幼なじみの妻の上昇志向になじめず、バリトン独唱をピアノ伴奏で支える妻の友人に惹かれ家庭崩壊。退職・帰国して開いた中華料理店は学生への出血サービスで商売にならず。一念発起し音楽コンクールに応募、音楽学校も出ていない独学だが何とか入賞し、天才藤山一郎とは異なる硬派浪曲調で軍靴の時代の庶民の心をつかむ。流行歌手として前線慰問もいとわず戦後は冷や飯、場末のキャバレーから復活して日本歌手協会初代会長、紫綬褒章。寡黙で一生懸命な歌声通り、まっすぐな生き方が清々しい。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】
| 捨てられるホワイトカラー―格差社会アメリカで仕事を探すということ | |
![]() | バーバラ・エーレンライク 曽田 和子 東洋経済新報社 2007-09 売り上げランキング : 10405 おすすめ平均 ![]() 転職活動ルポ 中国・インドに侵食されるアメリカAmazonで詳しく見る by G-Tools |
体当たりルポで浮かび上がるアメリカ労働市場の酷薄さ
アメリカ企業のホワイトカラー労働者はどのように働いているのか。これこそが著者である気鋭のジャーナリスト、バーバラ・エーレンライクが調べようとしたことだった。アメリカのオフィスは本当に世間で言われているように窒息寸前の状態にあるのだろうか? しかし、通り一遍の労働者に対するインタビューでは、良い面・悪い面も含めた本当の姿は見えにくい。そこで著者がとった方法は、自らが仕事を探してどこかの会社に入り込み、そこで働きながら情報を得ていくというものであった。だが、会社組織の壁はあまりに高かった――。
結局、著者はほぼ1年にも及ぶ熱心な就職活動にもかかわらず、ホワイトカラーの仕事(主にPR関係の仕事を探していた)を獲得することができなかった。そのため、本書は著者自身がどのように挫折したのかを記した「失敗の書」になってしまっている。それにもかかわらず明瞭に浮かび上がってくるのは、アメリカの労働市場の言いようのない酷薄さである。
仕事の探しのプロセスでは、インターネット上に出されている求人に積極的に応募しなければならないが、それだけで簡単に仕事は見つかりはしない。そこで登場するのが、有象無象のキャリアコーチたちである。彼らの(それほど役に立たない)アドバイスを得るために、求職者の多くはなけなしのお金を払っている。また、自分の採用を有利にしてくれそうな人との「コネ」が大事だということで、著者もそうした「コネ」を得るためにあらゆる種類の集まりに顔を出した。そうした努力にもかかわらず、PR専門職希望の著者が得ることができたのは、継続的な雇用や賃金の保証のない不安定な販売の仕事だけだった。
著者の経験が、どれだけアメリカにおけるホワイトカラーの職探しを代表しているのか、という議論はありうる。しかし、著者の求職仲間たちのエピソードからも、仕事経験が豊かな人でも、いざ仕事を失えば、次に安定的な仕事を見つけるのは極めて困難となることは間違いなさそうだ。
本書には、これまでまじめに努力を重ねていた人たちに突如襲いかかる失職の不幸が、ビビッドに描写されている。しかし振り返ってみると、日本でも雇用の二極化が進み、同じような悲劇の予兆が表れている。アメリカの経験を他山の石として日本は安定的かつ効率的な労働市場を作り上げることができるだろうか? その正念場にあることを思い至らせる1冊である。【評者 太田聰一 慶応義塾大学経済学部教授】
| 企業創造力―組織の可能性を呼びさます6つの条件 | |
![]() | アラン G.ロビンソン サム・スターン 英治出版 2007-02-01 売り上げランキング : 228329 おすすめ平均 ![]() 社内SNSの必要性を予言?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
企業の力を引き出す方法を伝授すべての社員に創造性と可能性が
組織には2―6―2の原則があると聞く。組織のことを思って積極的に活躍している上位層の割合が2割、組織が動き出せばついていくという中位層が6割、そして組織がどう動いても落ちこぼれる下位層が2割いるという説だ。組織をそう理解すると、頼りになるのは上位層。彼らを積極的に活用しリーダーとして活躍してもらう、真ん中の6割の人々を引っ張ってもらう、それが組織の業績を上げるコツだと考えることになる。たとえば、年功序列を廃して個人ごとの業績評価制度を導入し、業績の高い人により高い報酬を与えようというのはその典型的なやり方だ。
しかし、どうだろうか。組織の力は、そうした上位層と中位層だけで成り立つのだろうか。期待されていない下位層の2割の力が、実は「組織の実力」に影響を与えるのではないだろうか。
本書を読むと、創造的な能力というのは万人に与えられていることに気づかされる。
「組織に働く人たちが自発的に創造的に働く。それが組織の存続と成長を決める」という議論はこれまでにもあったし、そのためのいろいろな施策も提唱されている。だが、本書はこれまでのそうした議論と一味も二味も違っている。いくつかさわりの部分を紹介すると……。
・誰が創造的か、事前に予測できない。そもそも「創造的な能力」というものはない。仕事に必要な知能レベルに達していれば、誰もが同程度のクリエーティブをもっている。
・これまでの創造力の議論は、解くべき問題がすでに存在することを前提としている。
・創造的活動の大部分はあらかじめ計画されたものではなく、予期せぬ出来事に目を向けることから始まっている。
・ブレーンストーミングには限界がある。代案を並べて創造性が生まれるわけではない。
・「さあ、創造性を発揮してくれ」という場を人工的に作っても意味がない。今ある職場を、創造性を引き出しやすい環境に変えることが肝心だ。
・「本来の仕事時間の、たとえば15%を自由に使ってもよい」というルールがある。だが、そのルールと創造性とは無関連だ。
こうした事例だけではわかりにくいが、組織成員は等しく創造力を持ち、等しく組織に貢献できる可能性が強調される。それは、あらかじめ2―6―2などといった形で組織に区別を持ち込む考え方の対極にある。考えてみる値打ちはありそうだ。【評者 石井淳蔵 神戸大学大学院経営学研究科教授】
| へび女房 | |
![]() | 蜂谷 涼 文藝春秋 2007-10 売り上げランキング : 240117 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
保険金の不払いや誇大広告など、保険会社の不祥事が相次いでいる。渡辺房男『命に値段つけます』は、生命保険の黎明期を描くことで保険の本質に迫っている。
明治12年、両国橋で質屋を営む角田小太郎は、夫を亡くし途方に暮れている妻子の面倒を見たこと、父とは旧知の仲だった安田善次郎に富裕層向け生命保険の加入を断られたことをきっかけに、月1銭の掛け金で会員同士が助け合う庶民のための生命保険会社を立ち上げる。
小太郎の会社は、会員に不幸があったら金を出し合って救済金を捻出する江戸の「講」を発展させたものなので、次第に統計学に基づく「生命表」を使って、掛け金を科学的に算出する近代的な生命保険会社に圧されていく。
今も保険会社の多くは、契約者が経営陣を選ぶ相互会社となっている。これは保険が、相互扶助の精神を理論化することで進化したことと無縁ではあるまい。契約者の善意を信じ、利益を無視してまで奔走した小太郎の姿は、保険とは何かを改めて教えてくれる。
蜂谷涼『へび女房』(文藝春秋、1450円)は、幕末維新の動乱で運命が激変した4人の女性を描く連作集。
維新で失業した旗本の夫に代わり、蝮の漢方薬を売る的屋になって一家を支えるきちの気っ風の良さが痛快な表題作や、アメリカ人の夫に愛されながらも、大名のご落胤ゆえか割り切れない気持ちを抱えている糸子の隠された過去が明かされていく「きしりかなしき」など、本書に登場する女性たちはとにかく元気。新しい時代を受け入れ、柔軟に渡っていく能力は、男性より女性のほうが卓越していることが実感できるだろう。【末國善己 文芸評論家】
| メタボの罠―「病人」にされる健康な人々 (角川SSC新書 2) | |
![]() | 大櫛 陽一 角川・エス・エス・コミュニケーションズ 2007-10 売り上げランキング : 8005 おすすめ平均 ![]() 現場の医師として一言申す メタボの判定基準はおかしいことをデータを基に告発する 製薬会社との癒着ですか…Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 大櫛陽一 東海大学医学部教授
メタボの基準は大間違い「ちょいメタ」が一番健康
──専門の医療統計学の面から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の基準値のおかしさを指摘した本です。来春からは厚生労働省の肝いりでメタボ健診(特定健診・特定保健指導)も義務化されますね。
■今のメタボの診断基準だと、40~75歳で血圧や中性脂肪など1項目でも異常と判定されるのは、男性で94%、女性で83%です。それで男性の6割、女性の5割が医療機関の受診を勧められます。世界一長寿の日本人は、それほど不健康なのでしょうか。それなら、中高年の大半が異常なのではなく、基準値のほうが異常だと思うのです。
──メタボ健診で厚労省は、医療費の2兆円削減を目標に掲げていますが、逆に患者が増えるわけですか。
■医師不足といわれている折に、本当の病人が診てもらえない事態も起こりますよ。しかも面倒な生活指導よりも薬を出すほうが簡単なので、そちらが主となるでしょう。本当は薬の必要のない健康な人で、医療費が5兆円も増える計算です。
──私は腹囲が85センチ以上あるので心配です。ところが基準となる腹囲は捏造だ、と本には書かれています。
■日本人の統計では、診断基準よりやや上の「ちょいメタ」が、一番健康で長生きなので安心してください。詳細は本にあるので省きますが、メタボの基準値は初めに結論ありきで、統計学的に間違いが多い。まず腹囲を決めた時の対象者が少なすぎます。男女別、年齢別に数値を取るべきなのに、数が少ないから全部をごちゃ混ぜにして統計を取っている。しかも測定位置が間違っているから、腹囲は男性が85センチ、女性が90センチと世界中で日本だけが男女逆になった。はっきり言ってしまえば、製薬会社から研究費をもらっている人が基準値を決めるということは、利益相反になり、おかしいと思います。
──元々メタボの基準というのは、生活習慣を改善する目標だったのではないですか。
■そうです。だが日本はあたかも新しい病気の診断基準にしてしまった。ある基準値から上を病気としてしまったが、高すぎるのも問題だけど、低すぎるのもまた問題なんです。例えば栄養の悪い昔と違い、今は〓メタボ世代〓の人が高血圧で血管が破れて死ぬことはほとんどない。逆に無理に血圧を下げると脳梗塞になる。コレステロール値も極めて高ければ心筋梗塞の危険はあるが、低いと逆にガンやうつ病になる可能性が高まる。メタボは肥満を「悪」としているが、やせていても糖尿病になる人はいるんです。
──末尾にある男女別、年齢別の表は参考になります。医者には血圧が高いといわれるんですが、あの表で見ると全然問題なくて安心しました。
■これからは健康も自己責任が問われる時代です。自分で考えて「値」に向き合えばいい。おかしな医者にだまされないように、自分の健康は自分で守るべきです。
| いまなぜ信金・信組か―協同組織金融機関の存在意義 | |
![]() | 安田 原三 日本経済評論社 2007-10 売り上げランキング : 153015 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
金融審議会は協同組織金融機関(信用金庫・信用組合)の制度的見直しを開始する。信金・信組を株式会社である銀行と同じ基準で見直すのが、議論の方向だ。しかし、それで中小零細の商工業者や農業、個人の資金調達に応えられるのか、さらに金融市場の補完的役割から一歩進んだ協同組織の存在意義があるのではないか――など、本書では13人の研究者がそれぞれの視点から反論と問題提起を行っている。
| 「地球企業トヨタ」は中国で何を目指すのか―奥田碩のトヨタイズム | |
![]() | 奥田 碩 朱 建栄 角川学芸出版 2007-09 売り上げランキング : 140758 おすすめ平均 ![]() 中国市場戦略の本ではなくトヨタの経営哲学というか・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
トヨタ自動車を世界でも最強の企業にした奥田碩相談役とインタビュアー役の朱建栄氏(中国の政治外交史が専門)が語り合う。「バスに乗り遅れた」といわれるトヨタがどう挽回したかを奥田氏が語れば、朱氏が中国人との付き合い方では、「メンツを重んじること」が重要と答える。話はトヨタのDNA、今後の日中関係にまで及ぶ。中国との付き合い方の知恵が随所に見られる。
| 図表でみる世界の年金―公的年金政策の国際比較 | |
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経済協力開発機構(OECD)が加盟30カ国の公的年金政策を年金受給者個人の視点で比較した初の試みで、これは2005年版の翻訳。すでに07年版も出ているが、先進国が高齢化に悩む姿が数字で示される。面白いのは02年に20歳で働き始め、年金受給年齢で退職した人が手取りでいくらもらえるかを国際比較したこと。日本の年金問題を相対化する視点が養える。
| リタイア・モラトリアム―すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか | |
![]() | 村田 裕之 日本経済新聞出版社 2007-08 売り上げランキング : 41376 おすすめ平均 ![]() 団塊の世代はいつも時代の最先端 この本は「今すぐに読むべし」 斜陽化する「ハッピー・リタイアメント」の象徴とは?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昨年4月施行の改正高齢者雇用安定法は、60歳定年後の雇用確保を事業主に義務づけた。著者は、定年から実際に職場を去るまでの数年間を「リタイア・モラトリアム」と命名。今までの会社中心から個人中心へ、生活の価値観を移行させる準備期間だと説く。団塊世代らは増えた自由時間を使って今までとは違うことをしたくなり、最終的にはこれからの人生の目的を真剣に模索し始めると分析する。
朝鮮通信使―江戸日本の誠信外交
仲尾 宏 (著)
朝鮮通信使四百年の年に歴史学者が書いた入門・概説書。秀吉の侵略戦争の傷跡が癒えない江戸初期、朝鮮側は謝罪と被虜人送還を要求。謝罪に応じない幕府との間を対馬藩が取り持ち、善隣平和の二百年を実現した。東アジアだけでなく世界の動きも視野に入れ、通信使の役割を歴史のなかに再構築。現代ナショナリズムへの批判の書でもあり、読後に充実感を味わえる。
| 戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像 (双書時代のカルテ) | |
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国連PKOで分かる現場主義の重要性
テロ対策特別措置法の関係で、自衛隊の海外での活動と国連の平和維持活動(PKO)などとの関係が注目されてきている。
国連のPKO活動の第一線で活躍した明石康の著作『戦争と平和の谷間で』(岩波書店、1155円)は、国連という組織を崇高な理念という側面からだけでなく、その現実の活動という側面から見るために大変参考になるものである。
「紛争を平和的に解決しようとする調停活動や平和維持活動は、われわれの世界が不完全で過度的なものであることを示している。いつ、どのように、ぎりぎりの最小限な武力を行使しなければならないかは悩ましい問題である。旧ユーゴスラビアという、国連史上で最大の平和維持活動の責任者として、私が当面したこの問題について、どう考え行動したかを記しておくのは、今日の世界における国連の可能性や限界について、私の考えを語ることにもなるだろう。どんな理念についても言えることだが、その有効性を検証する道としては、具体的な人間とその行動に照らして考えてみるしかないように思う」
国連や日本の安全保障をめぐる議論は極めて観念的なものが多い。そして観念的なのは左寄りの平和主義者だけではなく、右寄りのナショナリストも同じなのである。そんなことで日本の安全保障議論は不毛な空論になってしまう傾向が強い。評者などがこの問題に興味がないわけではないのに議論に参加しないのは、こうした観念論に辟易しているからである。
企業経営についてしばしば現場主義の重要性が説かれる。安全保障、特に国連のPKOなどについても、まさに似たような発想が必要なのであろう。明石が国連という、各国の利害が激しくぶつかり合い、また超大国のエゴが支配しがちな現場で、いかに当事者たちが苦労しているかを語っている本書は、この分野でも現場主義が重要であることをわれわれに教えてくれる。
国連というシビリアンの組織のトップにいた明石が、現場にいた軍人たちが極めて優秀で協力的だったと語っているのが印象的である。いつでも問題なのは現場を知らない観念的な本部のようである。【榊原英資 早稲田大学教授】
| 牛頭天王と蘇民将来伝説――消された異神たち | |
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『風土記』の“断片”に描かれた神話を追って
『風土記』は8世紀前半の成立であるが、その大半は散逸し、今残っているのはわずかの国々にすぎない。しかし後世の史書のなかに、失われた国の『風土記』の記事が断片的に引用されて残っているものがある。そうした偶然に残った断片記事を「逸文」と呼んでいる。『備後国風土記』は本体は伝わっていないが、鎌倉時代に編まれた神道書である『釈日本記』の文中に、逸文となって残っているのがあり、その『備後国風土記逸文』に、次のような神話が記されている。
旅に出た武塔神(素戔鳴尊)が、ある兄弟に宿を請うたところ、裕福な兄は断るが、貧乏な弟の蘇民将来は歓待したので、翌年再来した武塔神は蘇民に茅輪の呪力を教え、おかげで蘇民の一家は危難を免れた。
この神話は広く民間に流布し、「蘇民将来之子孫也」と書いた護符を門口に貼る風習や、茅輪くぐりの神事が各地で行われた。2001年の4月には長岡京市の遺構で「蘇民将来之子孫者」と墨書した小さな木の札が発掘された。8世紀後半には蘇民将来が魔除けのお守り札として普及していたことになる。相当に古い民間習俗であることが知られる。“蘇民将来”は、以上のように神話に出てくる人名であるが、その語源は「神符を衣袖に懸く、則ちたとい死人と雖も、蘇生し来る故に云う」と室町時代の辞書(『文明本節用集』)に解説されている。
川村湊著『牛頭天王と蘇民将来伝説』(作品社、2940円)は、この神話(民話)の由来と成立を追って、備後、京都、伊勢、尾張、近江、土佐、陸奥と全国を旅行し、紀行文に借りてひとつの民間信仰の成立を検証しようとしたものである。牛頭天王はインドの祇園精舎の守護神といわれ、日本では素戔鳴尊と同一視された神格で、疫病を鎮める強い力を持つ疫病神であった。八坂神社(祇園社)の祭神であり、祇園祭が元来疫病を祓うための神事であることは知られる通りである。
このような護符を伝播したのは、修験者や陰陽師であったらしいが、近代になって国家神道が成立し、修験が表向き禁圧されたこともあって、姿を変えさせられたものが多い。【今谷 明 国際日本文化研究センター教授】



頭の整理になるが学者の限界も見える
今年度下半期最高の経済書の一つになるのでは




功罪





いつものことですが












