メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年1月16日~1月23日

証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち
証券投資の思想革命―ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たちピーター・L. バーンスタイン Peter L. Bernstein 青山 譲

東洋経済新報社 2006-12
売り上げランキング : 21700


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臨場感あふれるファイナンス理論誕生の現場

本書はピーター・バーンスタインのベストセラー『Capital Ideas』の邦訳だ。内容は、投資理論発展の歴史と思えば分かりやすい。翻訳の初版は今から13年前に出され、ファンドマネジャーなど投資運用業務に携わる者の間では、バイブル的な書物の一つと数えられていた。当初の訳者は、著名なファイナンス理論研究家である青山護氏と山口勝業氏だった。1999年に青山氏が逝去されたこともあり、今回、山口氏が一部翻訳を見直し、体裁を変えての再出版となった。

バーンスタインは、一部の職人的な技術であった投資手法がハリー・マーコヴィッツやウィリアム・シャープ、フィッシャー・ブラックなど、多くの優秀な研究者によって近代科学として昇華していく様子を実に生き生きと伝えてくれる。同氏の専門的な知識とプレゼンテーション技術はさすが一流のなせる業だ。読み物としても面白く、投資運用の専門家や金融理論研究者だけでなく、一般読者にも十分に楽しめる。

マーコヴィッツが提唱した投資理論であるミーン・バリアンス・モデル(平均分散モデル)に始まり、投資に関するリスクとリターンを計量化し、それらを結びつけたシャープのCAPM(資本資産価格モデル)、オプションの価格理論であるブラック・ショールズ・モデル、さらには、ポートフォリオ・インシュアランス理論まで、実に手際よく語られている。しかも、内容の説明に数式をほとんど使わず、分かりやすい例えや、理論を作り上げた本人の言葉が効果的に引用されている。数学の知識やファイナンスの専門的な知識がなくても、主要なファイナンス理論の概要をつかむことは難しくないだろう。

また、主要なファイナンス理論家の人となりや、彼らが新しい理論を考える背景が詳細に述べられている。本書を読んでいると、ウィリアム・シャープが隣にいるような、独特の臨場感すら味わうことができる。それは、ファイナンス理論の展開を理解するために大きなメリットである。研究者でも「なるほどそうした背景から、こうした理論構成が生まれたのか」と納得できる部分は多いはずだ。バーンスタインが、長年にわたって積み重ねた投資運用の実績と経験がそれを可能にしている。

一つ著者に期待することは、新しいファイナンス理論にまで守備範囲を広げてほしいことだ。ファイナンス理論は心理学を取り入れた行動系の理論など、さらに新しい局面に突入している。そうした分野をカバーする次作の出版を期待したい。【評者 真壁昭夫(信州大学教授)】

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

日米通貨交渉―20年目の真実
日米通貨交渉―20年目の真実滝田 洋一 鹿島平和研究所

日本経済新聞社 2006-12
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おすすめ平均 star
star改めて考える「国益とは何か」
star高い評価はつけられない

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「生の声」から見えてくる戦略なき日本の米国追随外交

本書は、日米円・ドル協議に始まり、プラザ合意、ルーブル合意、構造協議、年次改革要望書と続く一連の日米通貨交渉の現場を、関係者へのインタビューやコメントをもとに描く、いわば一つの回顧録である。本書を紐解きながら日米関係の二十数年間を振り返ると、日本が米国に距離を置く姿勢を採るのがいかに困難であり、譲歩を繰り返すことに終始する歴史だったのかが分かる。

官僚エリート大国日本で、在野を歩いてきた一介の研究者にすぎない評者からすれば、民に対して巨大な権威を振るう官僚諸氏が、こと米国を相手にすると、かくも従順に譲歩する以外、なす術を知らなかったことに驚いてしまう。著者の意図はどうであれ、これはとても交渉と呼びうる代物ではない現場の様子を浮かび上がらせている。

交渉とは、相互の利害を調整しながら合意内容を詰めていくものだろう。本書が明かす日米交渉の舞台裏は「国益を賭けた闘い」と言うにはほど遠い。官僚諸氏の努力を評価するとすれば譲歩の程度を云々するくらいだろうか。

債権国日本は、債務国米国の国債を、為替リスクを厭わず買い続けた。ジャパンマネーが米国債を買わず、日本が日米金利差を意に介さず、金利引き上げを断行すればどうなっただろうか。米国は高金利を余儀なくされ、景気失速すらきたしただろう。そうならなかったのはジャパンマネーの存在に負うところが大きい。これは日本の米国に対する「貸し」のはずである。

そうした「貸し」が交渉の武器として有効に使われることはなかった。しかし、それが国際政治の冷酷な現実だといった反論がなされるかもしれない。それに対しては、在米資産累積で共通する最近の中国の対米交渉を見よと言いたい。

日本のプラザ合意以降の通貨史を反面教師としながら、中国は外貨準備の中枢をなす米国債保有という武器を、縦横に使う。1兆ドルを超す外貨準備の一部を、国有銀行の自己資本に組み込む中国の奇想天外な一手は、そのしたたかな交渉力を存分に見せつける。

評者は、官僚諸氏の交渉術を、前向きにとらえることは、とてもできない。交渉力の彼我を決めるのは軍事力だけではあるまい。本書も、官民が一体となって交渉する米国と、各省バラバラで司令塔を欠く日本の戦略不足を明かす。

ともあれ、本書が、日米通貨史の現場に携わった多数の生の声を記録した貴重な文献であることは間違いない。【評者 中尾茂夫(明治学院大学教授)】

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

夢からの手紙
夢からの手紙辻原 登

新潮社 2006-11-29
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おすすめ平均 star
star時代は江戸、夢と現の融合を活写

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大奥華伝―歴史・時代アンソロジー
大奥華伝―歴史・時代アンソロジー縄田 一男

角川書店 2006-11
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先日、後桜町天皇の少女時代の活躍を描いた『花はさくら木』で大佛次郎賞を受賞した辻原登の最新作『夢からの手紙』は、全6編を収録した珠玉の短編集である。

家族や商売をかえりみず、借金をしてまで遊女の元へ通う男の情念が凄まじい「川に沈む夕日」、下級武士や浪人と俳諧同人を作っている商人が、生活に困窮する仲間の嫉妬によって追い詰められていく「おとし穴」など、誰もが経験するかもしれない人生の断面を鮮やかに切り取っているので、時代を超越した普遍的な物語になっている。

なかでも出色なのは、落魄した旧友から金持ちの好事家が集まる秘密の会合があることを聞いた平凡な武士が、その退廃的な集会に心を奪われていく表題作である。

人間ならば、心の奥にしまい込んだ欲望や妄想を持っているはずだ。普段は絶対に表に出ない願望が、ふとした切っ掛けで抑えられなくなったらどうなるのか? 日常生活のすぐ隣にある“魔”と、自分が抱える“魔”が出会ってしまった瞬間を、幻想的なタッチで浮かび上がらせていくので、身も凍るほどの恐怖が堪能できる。

テレビドラマとそのヒットを受けて制作された映画の影響もあり、大奥への関心が高まっている。縄田一男編『大奥華伝』(角川文庫、620円)は、松本清張、山田風太郎など7人の作家の作品を通して大奥に生きた女たちの魅力に迫るアンソロジーである。

春日局の政治的手腕を評価した杉本苑子「春日局」、映画「大奥」と同じ絵島生島事件を題材にした平岩弓枝「絵島の恋」などは、女の嫉妬が渦巻き陰湿なイジメが横行していたといった紋切り型の大奥像を覆してくれるだろう。【末國善己(文芸評論家)】

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

お父さんはやってない
お父さんはやってない矢田部 孝司+あつ子

太田出版 2006-12-05
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おすすめ平均 star
star疑わしきは罰する現実
star「疑わしきは罰せず」
star人ごとではない「えん罪」の怖さ

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著者インタビュー 矢田部孝司(会社員) 『お父さんはやってない』

夫婦で描いた痴漢えん罪事件・全記録

──痴漢えん罪事件で逮捕されたご本人とその奥さんによる、発生から高裁での逆転無罪判決までの記録です。ほとんど実名なので勇気が要ったと思いますが、なぜ書かれたのですか。

■私もいろいろな人に助けてもらったので、同じように無実の罪で苦しんでいる人たちのために、何かしたくて。自分の経験から裁判でどうすれば勝てるかを書いて、自分が受けた恩を返したいと思ったのです。

──実際の本は、ご主人と奥さんが日付順に、だいたい交互に書く形式になっています。奥さんの感情を抑えた筆致がいいんですね。特に保釈が認められず警察署に拘留された夫への初めての手紙がいいですね。泣けました。

■私が書くと、どうしても国とか司法への怒りになってしまうんです。被害者への怒りはありませんが。家内も書きたいと言い出したので、こういう形になりました。取り調べの様子や裁判の経過などは、私が説明しなければなりませんし。編集者さんがうまかったと思いますが、家内が家族とか感情的な部分を受け持つことになりました。

──それにしても取り調べはひどいものですね。

■痴漢事件は証拠を集めるとか、そういう捜査はしないんですよ。被害者の言い分を聞いて、被疑者を追い込むように追い込むように持って行く。2人の供述の信用性を比較して有罪無罪を決める。だから私の方の信用度を落とすことに主眼が置かれている。たとえば、つり革がなかったのにつかまっていたと主張している、とかね。

──結局、つり革はある確率の方が高かった。それを発見してくれたのは友人でした。今回は友人たちの協力が大きかったと思いますが。

■そうですね。実際に痴漢行為はできないことを証明するために、実物大の電車模型を作ってくれたり、エキストラを集めて再現ビデオも作ってくれました。全部無償でね。

──最初に友人を集めたのは奥さんでした。でも、友人たちに話したことを最初は怒ったんですよね。

■周囲に逮捕が知られてしまうのが怖かった。勝手なことをやるな、とね。知れた時、子どもの受けるショックだけが心配だったんです。

──そんな奥さんとケンカして、一時は一家心中までしようとしている。

■精神的におかしくなっていました。会社も辞め、何も失うものがないどん底状態でした。裁判官も信用していなかった。日本の裁判の有罪率は99・86%。とても勝てると思ってなかった。

──1月20日に公開される周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」の原作なんですか?

■原作ではありません。周防監督が映画を作る際、リアリティーを増すため、私の話の細部やエピソードを参考にされたようです。

ただ、映画はよくできていて、家内は当時の私の姿とダブってしまって、思い出してしまうので、試写は観られなかったようです。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

フィデル・カストロ後のキューバ―カストロ兄弟の確執と「ラウル政権」の戦略
フィデル・カストロ後のキューバ―カストロ兄弟の確執と「ラウル政権」の戦略ブライアン ラテル Brian Latell 伊高 浩昭

作品社 2006-12
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2006年7月末、80歳を目前にして病に倒れ、一線から退いたフィデル・カストロ議長。カストロ後のキューバはどうなるのか。原著は05年10月にアメリカで刊行されたものだが、CIA高官としてキューバ情勢の分析にあたってきた著者が、新政権を率いることになる弟ラウルとの知られざる確執、権力移譲の真相、ラウル政権の実力と行方を描いて話題となった1冊。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

企業の一生の経済学―中小企業のライフサイクルと日本企業の活性化
企業の一生の経済学―中小企業のライフサイクルと日本企業の活性化橘木 俊詔 安田 武彦

ナカニシヤ出版 2006-12
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企業はどのように誕生し、成長、衰退、あるいは再生していくのか。日本の中小企業を対象に、豊富な統計データから「企業の一生」を分析する。人的資本や資金調達、取引関係や銀行との関係、開業率の地域格差、事業継承、存続と倒産など、企業のライフサイクルごとの分析から構造変化を読みとり、日本経済活性化の道を探る。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

ITロードマップ〈2007年版〉情報通信技術は5年後こう変わる!
ITロードマップ〈2007年版〉情報通信技術は5年後こう変わる!野村総合研究所技術調査部

東洋経済新報社 2006-12
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次世代Webの進展でビジネスや消費生活のシーンはどのように変わるのか。スマートフォン化した携帯電話を利用したクライアントへのプレゼン、電子マネーやおサイフケータイのさらなる進化、セルフレジの拡大など、5年後の情報通信技術の変化を分かりやすく解説しながら、様々なシーンごとの新サービスの展開を描き出す。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

インベントリー・マネジメント―新しい在庫の考え方と発注方式の設計
インベントリー・マネジメント―新しい在庫の考え方と発注方式の設計星野 〓@59C1@二

日経BP企画 2006-09
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在庫管理のなかでも大きな役割を演じる発注方式には、定期発注方式や定量発注方式が代表的なものとして知られているが、これまでどのような場合にどちらの発注方式が望ましいか、という本格的な比較・選択の研究は行われてこなかった。本書では論理的な筋道をたどって、発注方式の選択基準が導出できることを示している。また、選択基準にかかわる考察から、2つの新しい発注方式を提案している。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

ドイツの犬はなぜ吠えない?
ドイツの犬はなぜ吠えない?福田 直子

平凡社 2007-01
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日本でも空前のペットブームだが、ドイツ人の犬好きは半端ではないらしい。賃貸住宅の広告に「子供はおことわり、犬はOK!」の文字が躍り、紐なしで自由に町を歩き回る犬たちは、子供料金で地下鉄にも乗れ、総じてお行儀がよい。犬の税金、動物保護党という政党まで存在する一方で、「動物愛護テロリスト」も登場するほど過激化する保護運動、国産純血犬シェパードとナチスの歴史などのエピソードもちりばめられ、犬をめぐる“大騒動”からドイツ社会の実相を見つめる。

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

中国の頭脳 清華大学と北京大学
中国の頭脳 清華大学と北京大学紺野 大介

朝日新聞社 2006-07
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おすすめ平均 star
star正しい中国のパワーを理解する人にはお勧め
star歴史書半分、現在動向半分
starアジアの最高学府

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エリートを育てる中国の科学立国政策

北京大学は何度も訪れていたが、今回、初めて清華大学を訪問した。実は日本ではあまり知られていないが、清華大学は名実ともに中国でナンバーワンの大学である。中国国家教育委員会の大学院総合評価でも、中国広東管理科学研究院の大学総合ランキングでも、1位が清華大学、2位が北京大学である。

授業中の生徒に話しかけて驚いたのは、全員がそこそこ英語を話すことである。あとで学長の顧秉林氏に聞いたことだが、新入生は全員、夏休み中に1カ月合宿をして、英語だけしか使わせない特訓をしているという。

清華大学は404ヘクタールの広いキャンパスを持ち、学生総数3万2000人、教授陣は8000人。サポートスタッフを入れると5万人強の1つのコミュニティーである。学生は全寮制、教師たちも90%はキャンパス内に住んでいる。夏期休暇等以外は学生はキャンパスの外に出ることはほとんどなく、勉学に専念しているという。おそらく、日本の一流大学の学生の4、5倍は勉強しているだろう。

『中国の頭脳 清華大学と北京大学』(紺野大介著、朝日新聞社、1365円)は、清華大学、北京大学など、中国のエリート大学を紹介しつつ、中国の国をあげての科学立国政策を紹介している。いわゆる「科学発展観」の概念は、(1)中国が発展するために科学を伸ばし、(2)知識を高め、(3)勉強に励み、(4)外国を熟知することであるという。まさに、日本の明治維新の時の「学問のすすめ」を国家が総力でバックアップし、人材の育成に努めているわけだ。

清華大学出身の朱鎔基前首相が進めたこの政策は、同じく清華大学出身の胡錦濤国家主席によっても強力に推し進められている。しかもそれぞれ、大学や研究所が企業を持ち、産学共同で技術をコアにした企業活動を幅広く展開している。中国科学院はレノボ、清華大学の清華同方と、それぞれ大学や研究機関が企業を持っているのだ。

外国を熟知せよとの原則に従って、外国、とくにアメリカとの交流は年々強くなっている。中国のシリコンバレーと言われる北京の中関村には、留学生を起業させたり、就職させる公的機関が存在し、海亀組(海外留学生)の最大限の活用を図っている。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

天ハ自ラ助クルモノヲ助ク―中村正直と『西国立志編』
天ハ自ラ助クルモノヲ助ク―中村正直と『西国立志編』平川 祐弘

名古屋大学出版会 2006-09
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敬宇中村正直は、幕末昌平黌の教授で、儒学者としては徳川日本の掉尾を飾るインテリの人であった。しかし慶応2(1866)年、世の行く末を傍観するに忍びず、自ら志願して英国に留学、ジョン・スチュアート・ミル等の自由主義、民主主義思想を学んだ。帰国してみると徳川は“瓦解”しており、彼も駿府に逼塞を余儀なくされたが、スマイルズの自助論を和訳して『西国立志編』として刊行する。福沢諭吉の『学問のススメ』と双璧をなす啓蒙書として、たちまちベストセラーとなった。

福沢諭吉に比して中村敬宇はメジャーではない。それを不満とした比較文学者の平川祐弘氏は、『天ハ自ラ助クルモノヲ助ク──中村正直と「西国立志編」』(名古屋大学出版会、3990円)を刊行して、一般の注意を喚起した。「明治維新とは日本が漢字文化圏に背を向け西洋文化圏に目を向けた方向転換」であるという独自の認識からの著作である。

明治維新の成功には種々の説明づけがなされているが、『西国立志編』を愛読した一般庶民が刻苦勉励した結果と言っても言いすぎではなかろう。同書が文学として読まれたのみならず、小学校の教科書に多く採用され、草の根の人々に読まれたからである。その具体的な姿は、国木田独歩の「馬上の友」「非凡なる凡人」「日の出」(以上、独歩著『運命』岩波文庫所収)の諸作にいきいきと描かれている。

独歩は早大政経中退で、早くから出世コースを外れていた。だから彼は立身出世小説には手を染めなかったが、巡査や小学教師、技手など市井の平凡な職業人を尊重し、孜々として努める人々をいくつかの短編修身小説に描いて、明治の時代精神を著した。独歩の短編が時代を超えて読まれるのは、そこに普遍的な理念が含まれているからでもあろう。事実、戦後の窮乏時代を生きた私などは、独歩の小説が古くさいとは微塵も思わなかった。しかし前述の3作は最近の文庫本では割愛されていることが多い(例えば新潮文庫『酒中日記』等)。平成の若者が修身にそっぽを向くのはやむを得ないが、自助自立まで棄て去るのは如何か。【今谷明 国際日本文化研究センター教授】

■2007/01/23, 毎日エコノミスト

アメリカの金融政策―金融危機対応からニュー・エコノミーへ
アメリカの金融政策―金融危機対応からニュー・エコノミーへ地主 敏樹

東洋経済新報社 2006-11
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90年代前半の「ゼロ金利」を核にグリーンスパン指揮下の政策を分析

金融危機に陥っていた1990年代初頭からニュー・エコノミーの入り口となる96年までの米国の金融政策を総合的かつ詳細に分析したものである。政策会合のすべての発言が記録された議事録を時系列的に分析したうえで、各局面における重要な政策課題の理論的な分析が加えられている。

まず、90年ごろの金融危機の初期局面で、FRBは金融不安の深刻さを全く認識していなかった。そのインパクトを徐々に学習し、市場予想を上回る大幅な利下げを繰り返すことになる。その結果として92年半ばには実質ゼロ金利に到達する。

FRBは実質ゼロ金利政策解除には極めて慎重で、ようやく94年初頭から中立金利水準に向けて利上げを開始する。利上げは小刻みかつ連続的で、緩和時と異なり市場の予想に沿って行われた。市場の混乱回避のために、政策決定内容の即時公開も実施される。94年以前は政策が変更されても即時公開されず、市場はFRBの資金オペレーションから政策変更の有無を探り当てていたのである。

FRBは秘密主義から情報公開の方向に徐々に転換していくが、グリーンスパン前議長自身は必ずしも積極的ではなかったことは興味深い。曖昧模糊とした彼のスピーチだけでなく、政策指示書からのFFレート目標範囲の削除など、情報公開とは逆行する決定も行われていた。しかし、政策変更への金融市場の反応はグリーンスパンの議長就任後に早まっていることから、著者は情報公開よりも政策行動パターンのわかりやすさが市場には重要である可能性が高いと論じている。

95年以降は構造変化への対応時期に当たる。想定を上回る失業率低下で、インフレ圧力の高まりを懸念する向きも少なくなかった。しかしFRBは、エコノミスト軍団による「データの丁寧な観察」から生産性上昇や自然失業率低下という構造変化を検出し、過度な利上げとその帰結としての景気後退の回避に成功した。FRBの適切な金融政策のサポートもあって、その後米国はニュー・エコノミーが本格化していく。もっとも、資産バブルという新たな悩みの種を抱え込むことになるのだが。

読者は「(本書が取り上げた)興味深い時期に政策担当者たちが試行錯誤しながら編み出した工夫」を学ぶことができる。今後の米国の金融政策を読み解くうえで有用なだけでなく、政策金利の中立水準への復帰、ニュー・エコノミーへの中央銀行のサポート等、今後の日本の金融政策運営を考えるうえでも様々なヒントを与えてくれる。【評者 河野龍太郎(BNPパリバ証券チーフエコノミスト)】

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

中国が世界をメチャクチャにする
中国が世界をメチャクチャにするジェームズ・キング 栗原 百代

草思社 2006-09-28
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おすすめ平均 star
star中国が引き起こす世界勢力構造変化を捉えている
star中国の指導者にも読んでもらいたい良書
star「自転車を漕ぐ像」の行く末?

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英国人ジャーナリストが検証した巨象・中国に揺れる世界

2004年2月中旬から数週間の出来事だった、と著者は言う。まず台湾でマンホールのふたが消えた。次いでモンゴルやキルギスで。やがてこの動きは世界中に飛び火して、米シカゴでスコットランドで、カナダでマレーシアで、次々とマンホールのふたが盗まれる事件が起きた。中国の需要で、くず鉄の値段が跳ね上がったためだ。

急成長する中国経済が世界にどのような影響と衝撃を与えているかについて、英国人のジャーナリストの目から検証したのが本書である。

中部イタリアの織物業の中心地、プラートに中国人の不法移民が入り込み、やがて地元の織物会社が次々と中国人の経営に変わっていく。米国中西部の工作機械産業の町、ロックフォードが、中国からの安価な工業製品やアウトソーシングによって、いかに落日を迎えたか──といった挿話が、現場を踏まえて、丹念に語られる。

それにしても、「世界をメチャクチャにする」という邦題はないだろう。このタイトルは、いかにも中国脅威論に便乗し、煽り立て、悪意さえ感じさせる。本書の原題は『CHINA SHAKES THE WORLD』。典型的な中国脅威論の形をとった本ではあるが、著者の視線は非常に冷静で、おおむね公平だ。

たしかに、中国浙江省の義烏に見られる壮大な偽ブランドのマーケットや中国の急成長に伴う環境の負荷の増大、地方政府レベルの不正、腐敗の蔓延、さらには、資源をめぐる米中利権の衝突など、著者の目から見ての中国の行儀の悪さが数多く語られる。

だがそれだけではなく、自由貿易の名の下、米国などの多国籍企業が中国の低賃金労働を利用して膨大な利益を上げている一方で、米欧の製造業を支えてきた中堅・中小企業やその従業員が犠牲になってきた。その結果、中国全体が豊かになったかどうかは疑問だ、といった視点も、著者は持ち合わせている。

中国は、その急成長ゆえに、本書で指摘されるような、危うい問題点を抱えているのは事実だ。文中で、北京のエコノミストが好んで使う例え話を紹介している。「中国は自転車を漕ぐ象のようなものだ。スピードが落ちたら倒れてしまい、地球が揺れることだろう」。

しかし、もっと大きな問題は、著者も気がついているように、中国という象が、倒れずにうまく自転車を漕いでいたとしても、その図体の大きさゆえに、やはり世界を揺るがすことではないのか。【評者 西和久(毎日新聞編集委員)】

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

切り裂かれたミンクコート事件
切り裂かれたミンクコート事件ジェームズ アンダースン James Anderson 山本 俊子

扶桑社 2006-11
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おすすめ平均 star
star最高に楽しい!

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極東細菌テロを爆砕せよ〈上〉
極東細菌テロを爆砕せよ〈上〉クライブ カッスラー ダーク カッスラー Clive Cussler

新潮社 2006-11
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極東細菌テロを爆砕せよ〈下〉
極東細菌テロを爆砕せよ〈下〉クライブ カッスラー ダーク カッスラー Clive Cussler

新潮社 2006-11
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 ジェームズ・アンダースン『切り裂かれたミンクコート事件』(扶桑社ミステリー文庫、980円)は、待望久しく復刊された『血染めのエッグ・コージー事件』の続編。幻の名作第2弾である。  舞台は同じく英国上流階級の別荘。個性絢爛たる連中が一堂に会する設定も同じなら、ページの3分の1以上過ぎてやっと殺人事件が起こるというテンポも同じ。だが繰り返しにはあらず。面白さはこちらが上だ。謎解き犯人当ての趣向よりその材料となる人間模様にさかれる分量のほうが多い。具の薄いパンばかりのサンドイッチみたいだが、パンに味わいが深い。  集まった人物のほとんどが表向きの身分とは別の正体を隠している。これが一通り裏返しに剥がされてから真相究明にいたる。一応の解決をみてからまだ70ページも、この正体暴きが続くので油断できない。こんなに長々しいフィナーレも珍しい。前作でトンデモ・トリックが飛び出したお屋敷で、本筋とは外れるが、今回もちょっとした「曲芸」が披露される。  2006年度のトップニュースにくる(?)北朝鮮クライシスは、当然ながらミステリ界においても格好の面白ネタだったわけで。多くの本がカウントダウンされたが、トリをとるのはこれか。クライブ&ダーク・カッスラー『極東細菌テロを爆砕せよ(上・下)』(新潮文庫、各700円)。父子共作に加え、ヒーローもダーク・ジュニアに移行しつつあるが、18作目になるシリーズの基調は不動である。海は陰謀の宝庫であり、どこまでも男の冒険を誘う秘境だ。  話はいささかナマ臭く、韓国トップの財界人が「北」の休眠工作員として破壊活動に身を捧げるという展開。テロリストが手にする武器は旧日本軍開発による細菌兵器だ。海中深くから引き上げられた「軍国主義の亡霊」を「北」が最強カードとして使う。──これは因果応報の寓話みたいなものかと納得した。【野崎六助(作家・評論家)】

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて
ハーバードMBA留学記 資本主義の士官学校にて岩瀬 大輔

日経BP社 2006-11-16
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おすすめ平均 star
star若者の新しい生き方
starこの人はシックスシグマの外側の人、平均近傍の人が下手に真似すると火傷の可能性あり。とはいえ、参考になる記述多し。
star経験者がその瞬間に語ることの価値

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著者インタビュー 岩瀬大輔(ネットライフ企画株式会社取締役副社長)  『ハーバードMBA留学記』──資本主義の士官学校にて

起業家精神の「総本山」で考えた「エリートの責務」

──岩瀬さんは東大法学部卒業。司法試験に合格しながら、外資系コンサルティング会社に就職、その後、外資系ファンドに転じた。これは異色の経歴と言えるのでは? ハーバードビジネススクール(HBS)でも成績上位者として顕彰されたといいますから、大変優秀な方には間違いないですが。

■恐れ入ります。司法研修所に入らなかったのは、早く世の中に出て、自分なりに世界にインパクトを与える仕事がしたかったからです。とはいえ、私の経歴は特にユニークではありません。ロースクールを出て弁護士にならず、コンサル会社やファンドを経てHBSへ、というのは、欧米では一つの典型的なキャリアパスです。

──そのHBSでの体験をつづったのが本書。「資本主義の士官学校」に横溢するアントレプレナーシップ(起業家精神)にまず驚かれていますね。

■起業家が一番偉い、一番カッコイイという風土ですね。日本にも最近そういう風潮がありますが、アメリカはもっと強い。なにしろ周りにある大企業は、マイクロソフトにせよデルにせよ、もとをただせばベンチャーですから。HBSにも成功した起業家たちがよく教えに来ます。自分たちとさして変わらない年齢の彼らに接して、学生たちはまた発奮するわけです。

──岩瀬さんが留学していた2004年からの2年間は、その起業家精神の行き過ぎが日米両国で社会的な議論となった時期でもありました。

■学校側も企業倫理の授業に力を入れていました。しかし倫理についていうなら、本の最初に書いたように、学生たちの強い意識に驚きました。「お前のプリンシプル(信念)は何だ」と普通に聞いてくる。そういうのは、日本では青臭いと敬遠されるじゃないですか。アメリカ人が金儲けにまるで罪悪感がないのは本当です。しかし、理念を重視し、ルールに厳しい。特にHBSでは「ノブレス・オブリージュ」の意識が強いですね。

──エリートの責務というやつですね。HBSには世界中からエリートが集まってくるでしょうが、国による違いはありますか。

■たとえば中国人に「環境問題を語るのは先進国の贅沢だ」と言われたり、意見の違いはあります。しかし、自己意識に関しては世界共通というか均質化している。未来のリーダーたる自負の一方で、多くは「我々は生まれる前にいいクジを引いたにすぎない。この幸運を社会に生かさねばならない」と思っている。私も共感しました。おこがましいけれど、この本を書いたのもその幸運を広く共有したいからです。

──さて、岩瀬さんはまだ30歳。HBSを出て今なさっている仕事は?

■今は、ネットを活用した新しい生命保険会社を立ち上げようと準備中です。日本で特に規制の強いこの分野で、インパクトのある仕事をしたいと思っています。

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

航空運賃のカラクリ―半額チケットでなぜ儲かるのか
航空運賃のカラクリ―半額チケットでなぜ儲かるのか杉浦 一機

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最近の航空運賃は、「早割」や「特割」など、買い方次第で半額やそれ以上に割安な航空チケットも存在する。なぜこんな安い料金で航空会社は儲かるのか。航空自由化によって激化した航空運賃競争の背景を探る。フライト単位で採算を考えるようになったエアラインの、利益を最大化するビジネスモデルとは何か。

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

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昭和33年布施 克彦

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■2007/01/16, 毎日エコノミスト

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■2007/01/16, 毎日エコノミスト

華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち
華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち樋泉 克夫

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政治体制を超え、国境をまたいで世界に活躍する華人企業家たちを検証する。高成長の中国本土から台湾、香港、マカオ、ASEANにまでおよぶ「大中華圏」を出現させた原動力とは? 彼らの人脈、金脈、ビジネス哲学、錬金術、価値観などを探り出していく。

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

軍産複合体のアメリカ―戦争をやめられない理由
軍産複合体のアメリカ―戦争をやめられない理由宮田 律

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2006年11月の中間選挙で与党共和党が敗北したこともあって、アメリカ国内でもイラク戦争否定の声が強まっている。ブッシュ政権はなぜイラク戦争に固執したのか。第2次大戦以降、アメリカの政治・経済を支配してきた軍産複合体という視点から分析する。

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春
私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春陳 凱歌 刈間 文俊

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著者は「黄色い大地」「さらば、わが愛/覇王別姫」で知られる中国の代表的映画監督。1960年代後半、中国大陸を席巻した若き紅衛兵たちと同世代である著者が、文化大革命のさなかで過ごした青春時代を振り返る。

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

プロフェッショナル原論
プロフェッショナル原論波頭 亮

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star新入社員むけの課題図書に最適
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star間違った解釈もされやすいが、まさに原論。

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プロフェッショナルとは何か

現代社会のことを知識社会という人は多い。元々、ドラッカーが言い出したようだが、基本的には知識労働者が中核をなす社会という意味で使ったようだ。

では、知識労働者というと、現在では知識によって富を産む人という意味で、知識を富に変えることに重きが置かれているようだが、当初は知的専門職というような意味で使われていた。

私自身、知的専門職と「知識で富を産む人間」は分けて考えなければいけないと最近思うようになっていた。

知的専門職の人間が富を求めるとどうなるか? 医者が患者から取れるだけ取ろうとするアメリカ医療の姿、仕事をたくさんとるために構造計算書を改竄する建築士、エンロンやライブドアで問題になった会計士不正、そして高額訴訟をたきつけるアメリカの弁護士。これらはみんな知的専門職が金に走った結果だ。

この知的専門職が一般にプロフェッショナルといわれるものだが、そのあり方について明快な答えを出してくれるのが、波頭亮著『プロフェッショナル原論』(ちくま新書、714円)である。

プロフェッショナルというものが、高い職能を有し、クライアントに対する問題解決型のサービスを行い、インディペンデントな立場であるというのは、実は私自身の目指すところと一致している。もちろん本業の医者でもそうだが、心理学ベースのコンサルタント業務も、志望校別個人の受験計画作成通信サービス業もすべてこのカテゴリーに入る。

私自身、これらの仕事の質には自信を持っているのだが、営業力のなさを嘆いていたら、波頭氏によるとプロフェッショナルは営業をしないのだそうだ。確かに本業の医者は営業をしないで、患者さんを待っている立場だ。プロフェッショナルは厳しい掟の下で、公益への奉仕精神あってのものだそうだが、これが現在の経済優先社会と相克を生じる。

波頭氏の答えは「さらに職能を磨き、その掟を一層厳しく守るのみ」というストイックなものだ。基本的には賛成だが、精神分析学の立場では、それで自己愛が多少は満たされるようにしてほしい。

要するに、金がなくても社会的尊敬が集まることで、彼らのプロフェッショナル意識が回復するというのが、心理学的な答えである。【和田秀樹(精神科医)】

■2007/01/16, 毎日エコノミスト

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