メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年11月27日~12月4日

財投改革の経済学
財投改革の経済学高橋 洋一

東洋経済新報社 2007-10
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小泉政権の知恵袋が明かした改革の論理

本書の題名は一見して専門的で地味なため、手に取る読者は少ないかもしれない。しかし本書には小泉時代を読み解く大きなカギが隠されている。

小泉時代が歴史に残ることは間違いない。そして歴史を正確に評価するためには、政策立案者の論理をできる限り正確に知る必要がある。しかし、わが国では政策立案者がその論理を語ることは極めてまれである。

著者の高橋洋一氏は、一般的な知名度こそ少ないとはいえ、ここ10年ほどの日本の経済政策を追いかけている人ならば知らない人はいない著名人である。東大数学科出身の元大蔵省官僚という異色の経歴もさることながら、竹中平蔵氏と知り合い、小泉改革に参画し、最終的には出身母体である官僚組織と対決する公務員制度改革法案にまでかかわった氏の経歴は、それ自体興味深い。安倍政権では日本の重要政策の半分には関与していたのではないだろうか。その人物が書いた本である。いやが応でも興味をかきたてられる。

著者によれば、道路公団民営化、郵政民営化から、政策金融改革へと至る一連の改革は、財政投融資の改革に端を発する大きな流れの論理的帰結である。

それは単純にいえば、これまで政府が保証してきた規制金利・補助金が維持できなくなるときには、市場原理を貫徹せざるを得ず、そのためには郵貯を含む公的金融の機能を、完全民営化を視野に入れて再編成せざるを得ない。ファイナンスに明るい高橋氏は、財政投融資改革の衝撃があたかもドミノ倒しのように、公的金融機能全般に波及していく過程を明らかにしている。語り口は淡々としているものの、本書で明らかにされたことは政策論争の文脈で見たときには興味深いことばかりである。政府資産売却の件は日本の官僚機構の隠然たる権力を思い知らされる。

ここで説かれているのは改革必然論である。しかし、言うまでもなく改革は政治プロセスを経て決まる。道理ばかりが通るとは限らない。本書で議論されている改革のほとんどすべてが反対された。改革がいかにして実現していったのか。補論を除いて本書ではほとんど語られていないが、小泉改革の政治経済学について、やがて著者が語ることを期待したい。

くしくも本書上梓直後、高橋氏は政権から去ることになった。改革派の知恵袋として活躍してきた氏の、今後の去就が大いに注目される。つまり、当分この人物から目を離すことはできないということだ。【評者 若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授)】

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く
スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解くジョセフ・E・スティグリッツ 藪下 史郎 藤井 清美

ダイヤモンド社 2007-10-19
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star忙しい方はの第1章「21世紀初めの日本と世界」だけでも
star投資効率は高い

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ノーベル賞学者の怒り節が炸裂 各国の経済政策を一刀両断

ジョセフ・E・スティグリッツ、グローバル時代を語る。縦横無尽に、徹底的に。それが本書だ。スティグリッツは言わずと知れた2001年のノーベル経済学賞受賞者である。世界銀行のチーフエコノミストとして、経済のグローバル化がもたらす諸問題を日々目の当たりにし、それらをめぐる国々の政策対応に鋭い批判の眼差しを向けてきた。

本書に収録された論考は、03年3月から07年8月まで、月1回のペースで執筆され、日本では『週刊ダイヤモンド』誌に掲載された。若干の修正を施したうえで、改めて時系列的に配列されている。加えて、第1章が本書向けに書き下ろされた。

目を引く見出しを挙げていけば、「紙幣発行によるデフレ克服策」(03年3月)、「アウトソーシングの大波と『雇用の赤字』」(04年5月)、「グリーンスパンFRB議長の『負の遺産』」(05年11月)、「2006年は格差拡大の年になる」(06年1月)、「サブプライム問題の原因はFRBにある」(07年8月)という具合だ。本誌の読者には、いずれもすぐにピンとくるテーマだろう。

これらの諸問題に対して、熱血のスティグリッツ怒り節が展開される。前述の諸見出しから想起される通り、スティグリッツ節は一貫して懐疑精神に満ちている。実態なきインフレの影に怯える中央銀行は愚かだ。グリーンスパン神話は幻想だ。グローバル化礼賛論は許しがたい。野放図な金融自由化は恐怖のシナリオだ。

こんな調子で、地球経済上で生起してきた事件群とそれに対して施された政策措置が一刀両断されていく。実に小気味いい。多くの場合に、わが意を得たりと嬉しくなる。

ちなみに、序論的位置づけの第1章にいわく、「……日本経済の回復に寄与した主な要因は、小泉純一郎首相(当時)の経済プログラムとはほとんど関係がなかったように思われる」。これぞ、わが意を得たりの極みだ。さすがはスティグリッツ先生、私と同じことを考えている。不遜にもそう思ってしまった。

エコノミストたちに浴びせられがちな「ああでもない、こうでもない」という批判は、この著者には当てはまらない。それは彼が真のエコノミストだからだ。批判精神なきエコノミストはエコノミストとはいわない。エコノミストは人の悪口を言うからこそ、存在価値がある。本書を読んで、この確信を新たにした。勇気づけられる快著だ。【評者 浜 矩子(同志社大学ビジネススクール教授)】

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

殺人にうってつけの日 (新潮文庫 フ 13-57)
殺人にうってつけの日 (新潮文庫 フ 13-57)ブライアン・フリーマントル 二宮 磬

新潮社 2007-10
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おすすめ平均 star
star一筋縄ではいかないフリーマントル

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エンジェル・メイカー (ランダムハウス講談社 ク 4-1)
エンジェル・メイカー (ランダムハウス講談社 ク 4-1)ジェシカ グレグソン 子安亜弥

ランダムハウス講談社 2007-11-01
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おすすめ平均 star
star戦争が狂気を呼び寄せた、凄惨な女たちの悲劇。

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冷戦スパイの「その後」 遺恨試合の結末は?

男の戦争、女の戦争がある、という話。どちらも、どちらもイノチにかかわる。

ブライアン・フリーマントル『殺人にうってつけの日』(新潮文庫、860円)は、落日の冷戦スパイたちのその後を描く。彼らに引退や安息の時はこないのだ。

この作家も息の長い堅実な書き手で、著作も何十冊目になるか。人気シリーズが何本もあるが、じつは、本作のようなノンシリーズ作が狙い目。堅実というのは必ずしも褒め言葉にならず。だが、シリーズ外だと、そつのないバランス感覚が薄まるので、意外な読みどころとなるわけだ。

二重スパイとその管理官が繰り広げる虚々実々のかけひき。作者としては手馴れた世界だが、15年後の遺恨試合という点が新しい。復讐に燃える側のキャラクターが迫真的。善も悪もない混戦模様で、結末の主導権を女性にゆだねたのは、やはり、作者の手堅さではあるが、そこに到るまではやはり「男vs男」の熱戦だ。

ジェシカ・グレグソン『エンジェル・メイカー』(ランダムハウス講談社文庫、945円)は、デビュー作。実話を基にしているが、寓話として受け取れるような作品だ。

第1次大戦時、ハンガリーの田舎村。男たちのほとんどが出征してしまった村に捕虜収容所ができる。残された女たちと外国人捕虜のあいだにいくつかの、束の間のロマンスが生まれる。戦争が終わり兵士たちは帰還してくるが、たいていは身体や精神に深刻な傷をきざまれている。別人になった男たちの帰郷は、女たちにどんな波紋を巻き起こすか――。やりきれないほどの閉鎖的な物語とはいえ、数十年前の悲劇を追いかけるよりも、これが21世紀の天使をつくる「女の戦争」かと納得。

年代記的に物語るタッチはとくに前半が単調だし、「男の側」がほとんど見えてこないといった短所はあるものの、鮮烈な現在の小説だ。【野崎六助 作家・評論家】

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

京都花街の経営学
京都花街の経営学西尾 久美子

東洋経済新報社 2007-09
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おすすめ平均 star
star視点が面白い
star博士論文がベースとは思えないおもしろい視点!
star知らなかった。そんな社会だったんだ

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著者インタビュー 西尾久美子 神戸大学大学院経営学研究科COE研究員

京都の花街が続くのは舞妓さん制度のおかげ

──なぜ京都の花街を研究対象に?

■京都生まれの京都育ちで、小さいときから踊りを習い、花街の踊りの会に連れて行かれたりして、花街はなじみの深い存在やったんです。大人になって、お茶屋のお座敷に同席したときに、お姉さん芸妓さんから祖母が話していたような京言葉で話しかけられ、「ここでは、京都がずーっと続いてたんやわ」と懐かしい気持ちになったんです。そこで、その続いていた秘密を明かしてみよう、と。

──時代の変化につれて、日本各地の花街が衰退、消滅、変容するなかで、京都の花街だけが、なぜ350年も続いてきたのでしょう?

■1つには、舞妓さんという制度が大きいと思います。舞妓さんがいるのは京都だけです。日本各地から舞妓さんに憧れて、若い女の子たちが続々と京都にやってきます。最近は彼女たちを受け入れる置屋の数が足りないほどやそうです。次々に新たな人材が供給され、花街の側でも彼女たちを一人前に育てるシステムがしっかりと出来上がっていることが、強みになっているんやと思います。

──お茶屋も京都だけですね。

■お茶屋は、料亭などと違って、場所を提供して「お座敷」の場をコーディネートするイベント企画会社みたいなものです。京都ならではの「おもてなし」のソフト、ノウハウが確立されていて、産業複合体としての花街のキープレーヤーになっているんです。お茶屋の存在がなければ、京都の花街がいまでも続いていることはなかったでしょう。企業が学ぶ点もあるのでは。

──でも、「一見さん、お断り」。敷居が高そうです。

■確かに、いまだに続く「一見さん、お断り」は自らマーケットを狭めているように見えます。しかし、それはそれで合理的な一面もあることが分かりました。それだけではなく、お茶屋は、別の顔を持っています。従来型のお座敷のサービス以外に、舞妓さんを呼んで行う観光客向けイベントをコーディネートしたり、お茶屋の一角を使った「お茶屋バー」を開いて実質的に敷居を低くしようとしています。環境に合わせて、変わるところはしっかり変わってるんですよ。

──ところで、ふだんお茶屋遊びをされるんですか?

■女性ばかりでときどき。後口と呼ばれる、料理を頼まない2次会などであれば、それほど高くはありません。お茶屋のお母さんによると「おなごはんのほうがはまらはります」とのこと。わざわざ東京から遊びに来られる女性もいるそうです。

──研究者としては異色の経歴をお持ちですね。

■短大を出て、会社勤めをしていたのですが、36歳のときに子連れで滋賀大学に入り直し、神戸大学の大学院で博士号を取りました。これまでは「女性の働き方」といったテーマで講演を頼まれることが多かったのですが、この本が出てからは企業経営者の前で話をすることが増えましたね。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

グローバル資本主義と巨大企業合併
グローバル資本主義と巨大企業合併奥村 皓一

日本経済評論社 2007-10
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1990年代から始まった、欧米の金融、通信、エネルギー業界の大型合併を丁寧にフォローしている。著者はこうした合併を21世紀型のビッグビジネスによるグローバル寡占体制と見ており、その支配構造の解明が本書の狙い。世界市場における支配力を強化して利潤を増やすことにグローバルな合併の戦略的狙いがあるとする。合従連衡のプロセスがよく整理されている。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

日韓企業戦争 国際市場で激突する宿命のライバル
日韓企業戦争 国際市場で激突する宿命のライバル林廣茂

阪急コミュニケーションズ 2007-11-01
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おすすめ平均 star
star提灯記事もいいとこだろ
star簡単な、最近の日韓企業に対する分析

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韓国経済は2005年の名目GDPが日本の6分の1、購買力平価で見た1人当たりGDPは日本人の72%にまで迫った。サムスン、現代など輸出産業のおかげだ。日本も自動車、デジタル家電で生き延びようとしており、国際市場で日韓激突は続く。2業界の韓国の強さの秘密を解剖する。約20年間、韓国企業の相談に乗り、韓国経済界に知人が多い著者の分析には説得力がある。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

社長の値打ち 「難しい時代」にどうあるべきか (光文社新書)
社長の値打ち  「難しい時代」にどうあるべきか (光文社新書)長田 貴仁

光文社 2007-10-16
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「社長」の肩書を持ちながら、その器ではない「シャチョウ」が多すぎるのではないか。長いジャーナリスト経験を持つ経営学者である著者が展開する辛口の “現代社長論”。自らの取材体験にもとづく名経営者や迷経営者との対話などをベースに、社長の役割や哲学、またその苦悩などを描き、今後社長職がどのように進化していくのかを、説得力のある事実と分かりやすい文章でまとめている。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

勝手サイト 先駆者が明かすケータイビジネスの新機軸 (ソフトバンク新書 52) (ソフトバンク新書 52)
勝手サイト 先駆者が明かすケータイビジネスの新機軸 (ソフトバンク新書 52) (ソフトバンク新書 52)石野 純也

ソフトバンククリエイティブ 2007-10-16
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おすすめ平均 star
starめまぐるしく変わるケータイビジネスが一からわかる1冊
starケータイコンテンツビジネスの現状と近未来が見える

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携帯電話のコンテンツビジネスが変わった。「勝手サイト」と呼ばれる公式サイトではない自由な場では、新しい企業が次々と生まれ、既存企業を凌駕しつつある。そこでは、カメラやGPSを活かした携帯電話ならではのコンテンツなど、創意工夫が繰り返され、短期間で黒字化しているケースも多い。本書では注目企業の事例から、成功の秘訣と将来性が示されている。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

ビルマとミャンマーのあいだ―微笑みの国と軍事政権
ビルマとミャンマーのあいだ―微笑みの国と軍事政権瀬川 正仁

凱風社 2007-10
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映像ジャーナリストによるビルマ訪問記。「微笑みの国と軍事政権」と副題にあるように、信心深い仏教徒の国なのに冷酷な軍事独裁国家でもある。立ち入り禁止地区でカメラを向ける著者に、銃撃を受けて死亡したAPF通信の長井さんの姿が重なる。少数民族弾圧の実態や庶民の素朴な生活ぶりなど、ベールに閉ざされた国の貴重な現場リポート。基礎知識も得られる。

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

少子化対策が日本をダメにする
少子化対策が日本をダメにする和田 秀樹

グラフ社 2007-07
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おすすめ平均 star
starつかみは面白い。が、しかし

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男はつらいらしい (新潮新書 228)
男はつらいらしい (新潮新書 228)奥田 祥子

新潮社 2007-08
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おすすめ平均 star
star悩める男のグチを聞き続けた女性記者の迫真レポート
star世の男性必読の名著
star恋愛するには相手が要るのに…

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以前、拙著『少子化対策が日本をダメにする』でも問題にしたことだが、私は、少子化の真の原因は、女性が働きながら子育てができないとか、教育や子育てに金がかかりすぎることではなく、非婚化・晩婚化によるものだと考えている。

実際、結婚生活が15年から19年続いている夫婦では、1970年当時から、完結出生児数は2・2人でほぼ横ばい状態で、若い時期に結婚していれば、平均して2人以上は産んでいるのだ。

非婚・晩婚というと、女性の問題と思われがちだが、実際には男性のほうがはるかに深刻である。女性の生涯未婚率が7・3%であるのに、男性のそれはなんと16・0%(2005年統計)という。

そのような結婚できない男の生の姿を記者として追跡し、女性の視点から鋭く分析したのが、奥田祥子『男はつらいらしい』(新潮新書、714円)である。著者は『読売ウイークリー』の敏腕記者で、自らも独身である。

経済力がないから結婚できないという男性のほかに、昔と違って女性が経済力をつけた今は、男性には経済力以外の魅力も求められるという。一方、収入や男性的魅力が十分あっても、高すぎる理想のために結婚できない人もいる。たとえば、そういう男性はずっと年下の女性を求める傾向が強いそうだが、現実として10歳以上年下と結婚できた男性はわずか3%にしか過ぎないそうだ。

そして、女性が強くなったといわれるなかで、相変わらず男性に「頼りがい」を求める女性が少なくないという本音も、女性の著者だから説得力がある。

最後のまとめとして、「思い切って(結婚を)経験してみなさい」という70歳代の女性弁護士の言葉が引用されているが、失敗を過度に恐れる世代には含蓄がある。これは、結婚に限ったことではない。

そのほか、理解されづらい男性更年期の話(精神科と泌尿器科の連携がうまくいっていない話は精神科医の私にも身につまされる)、相談を求める男の心理(これも社会がアメリカ化するなか、それを支えるメンタルヘルスのニーズを知るうえで重要なテーマだ)、さらに男性も育児に参加しなくてはいけなくなった時代の父親たちの苦悩なども描かれており、秀逸だ。

世の中が、奥田氏のような物分かりのいい女性ばかりだったら、多少は男も生きにくくなくなるだろうに。【和田秀樹 精神科医】

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

歴史家たちのユートピアへ―国際歴史学会議の百年 (世界史の鏡 0巻)
歴史家たちのユートピアへ―国際歴史学会議の百年 (世界史の鏡 0巻)樺山 紘一

刀水書房 2007-11
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歴史家が求めたユートピア

過去の事実を冷徹に見きわめるのが歴史家なら、現実主義者と思われがちである。その歴史家が理想を求めるとすれば、どこか甘ったるく胡散臭いような気がしないでもない。

樺山紘一『歴史家たちのユートピアへ』(刀水書房、1680円)を読めば、そんな懸念も吹き飛んでしまう。副題に「国際歴史学会議の百年」にとある。

そこでは、相互理解を深めて、国際協調にいくらかでも寄与しようとする歴史家たちの模索が跡づけられている。創設への準備段階で外交史協会が音頭をとったのには思わずうなずく。だが、1900年の第1回パリ大会では、アマチュア研究者を脇にして純然たる専門家が中核をなした。もっとも、フランス人以外の参加者は折からパリ万国博覧会が開催されており、気もそぞろだったとか。

第2回ローマ大会では、「すべての歴史は現代史である」というテーゼで名高い歴史哲学者クローチェが基調報告をしている。さらには、世界的な名声にかがやくローマ史家モムゼンも86歳の老体に鞭を打って参加したというから豪勢きわまりない。でも、遺跡や芸術にあふれる都だから、またもや外国人の目は観光にむかってしまったという。

回を重ねるごとに20世紀を代表する錚々たる歴史家が登場する。アンリ・ピレンヌ、マルク・ブロックにつづき、戦後はトインビーもブローデルも出席している。しかし、そのような有名人の後ろで、数多くの無名の歴史家たちが舞台を支えていたことは忘れるべきではない。本書をはじめとする「世界史の鏡」シリーズの成功を祈りたい。

とまれ、なによりも歴史の現実に学ぶのが歴史家の務めである。だからこそ、ユートピアの「可能性に賭ける」ともらす著者の肉声が印象に残った。

ところで、樺山紘一ほか編『20世紀の歴史家たち(全5巻)』(刀水書房、各2940円)は、今や国際歴史学会副会長にある編者の射程の広さにあらためて驚かされる。それぞれの分野の専門家たちが錚々たる学者の伝記と業績をとりあげながら、編者の目は歴史家の生き方と理想郷を遠望していたわけだ。【本村凌二 東京大学教授】

■2007/12/04, 毎日エコノミスト

格差社会と財政 (財政研究 第 3巻)
格差社会と財政 (財政研究 第 3巻)日本財政学会

有斐閣 2007-10
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格差をめぐる学者の活発な議論 一般読者にも興味ある話題が

本書は、2006年10月に近畿大学で開催された日本財政学会での報告論文やシンポジウムの内容を中心にまとめられたものであり、わが国が直面する多くの財政問題に日本の財政学者がどのように学術的な研究しているのかを示すものである。その意味では、大学の研究者を主たる読者層とする研究書、学術書として分類できるだろう。

しかし、本書の第1部で紹介されているシンポジウム「格差社会と財政の役割」は、格差問題について、財政面にとどまらず、広くいろいろな角度からその問題点や是正方法について、活発な議論を展開している。格差問題については、日本が格差社会であるかどうか現状認識に関する討論もおもしろいが、格差の指標として可処分所得ではなくて生涯所得が重要であるという指摘が新鮮である。格差問題がこれほど広く注目された背景には、日本的福祉国家の行き詰まりだという議論もある一方で、相対的格差と絶対的格差を区別し、また、国際的な視点や経済的な制約を重視すべきだという議論もある。専門家だけでなく、広く格差問題に関心のある一般の読者にとっても十分に読み応えのある内容となっている。

本書に収録されている研究論文は多岐にわたっており、公営交通事業の効率性に関する論文や税の所得弾力性の変化をマクロ経済との関連で調べたものなど、それぞれ興味深い。なかでも、日本と韓国の財政学者がお互いに論文を報告し、討論しあった日韓特別セッションに関する第3章は注目に値する。わが国と韓国は、少子高齢化が急速に進展していることや国と地方の財政関係、租税や予算制度に類似点が多いことなど、共通の経済社会・財政環境にある。本書では地方分権の動きを主要なテーマとして、その共通点や独自性に関して、日本側、韓国側からそれぞれ有益な報告がなされており、今後の相互交流の出発点としても重要なものとなっている。

一般的に大学の研究者がアカデミックな学会で報告する論文やそこでの討論には、研究者固有の世界があるため、一般の読者にはなかなか理解しにくい面もある。しかし、日本の財政学者も現実の財政問題を研究する際に、その問題の重要性や分析結果の現実的な意味について、よりわかりやすく、かつ、専門家でない人をも説得できる議論が必要とされる。本書はわが国財政学会の現状を率直に情報開示しており、専門家や研究者の枠を超えて、広い読者層に関心を持たれることを期待したい。【評者 井堀利宏 東京大学大学院経済学研究科教授】

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

大量破壊兵器―廃絶のための60の提言
大量破壊兵器―廃絶のための60の提言大量破壊兵器委員会 川崎 哲

岩波書店 2007-09
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人類最大の脅威をなくすには何をすればよいか

人類にとって現在、最大の脅威は大量破壊兵器であるといって過言ではない。大量破壊兵器とは、核、化学、生物兵器やそれらを防御困難な手段で運ぶミサイルを指す。それらが恐るべき兵器であることは広島、長崎やオウム真理教によるサリン・ガス使用の経験を持つ日本人はよく知っており、世界にその恐怖を訴えてきた。

しかしそれだけで十分だろうか。大量破壊兵器の恐怖をよく知るがゆえに、日本人は兵器やその存在を許してきた国際社会の構造を知的に理解したうえで、その廃絶を訴える姿勢を欠いてきたのではなかろうか。日本人の思いは道徳的ではあっても説得力を欠くものではなかったろうか。

本書は、大量破壊兵器に関する確度の高い知識に基づいてその廃絶を訴える、すぐれた入門書であり提言である。本書は、国連とスウェーデン政府の委嘱を受けた国際有識者委員会が、大量破壊兵器の脅威を削減し、廃絶への道を踏み出すための具体的提言をまとめた報告書の翻訳である。委員長はイラク戦争開戦期に国連イラク監視検証査察委員会(UNMOVIC)の委員長として活躍したスウェーデン出身のハンス・ブリクス。また、アメリカからはクリントン政権下の国防長官ウィリアム・ペリー、日本からは監訳者の西原正・平和安全保障研究所理事長、その他ロシア、中国、英仏、インドなど核保有国からも参加している。

60ある提言の基本姿勢は、大量破壊兵器の規制条約や国際機関、たとえば核拡散防止条約(NPT)や国際原子力機関(IAEA)に対する近年の幻滅感にもかかわらず、国際的な協力を強めることが大量破壊兵器の脅威を縮減する唯一の方策であるという立場である。

特に棚上げとなっている核実験全面禁止条約(CTBT)の発効、兵器級核物質の生産禁止条約の制定を提言するとともに、各国の軍事政策における大量破壊兵器の比重を減らしてその使用の可能性を低くし、それらをテロリストの手から守るよう各国に義務づけることを訴える。

国際社会の現状では、こうした比較的現実的な提言すらも、実現性の低いものに映る。ブリクスが序言において強調するように、鍵を握るのはアメリカである。アメリカがその強大な力を、脅威の直接的な除去よりも国際制度の強化に向けたとき、自らと世界の安全を高めることになるというブリクスの主張には共感を覚える。【評者 中西 寛 京都大学法学部教授】

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

消えずの行灯―本所七不思議捕物帖
消えずの行灯―本所七不思議捕物帖誉田 龍一

双葉社 2007-10
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捕物、怪談、人情…… 変わった味わいの芸道小説

ブームの追い風もあって、時代小説でデビューする新人が増えている。今回はそのなかから2人を紹介したい。

小説現代長編新人賞を受賞した田牧大和『花合せ――濱次お役者双六』は、変わった味わいの芸道小説。

稽古中に立女形を怒らせてしまった大部屋の濱次は、その帰り道、皿屋敷のお菊風の町娘から朝顔の鉢を渡されてしまう。芝居小屋の雑用をしている清助はその朝顔がマニアに人気の高い「変化朝顔」であることを見抜き、秘かに金に換えようとするが肝心の鉢を盗まれてしまう。

町人文化華やかな化政期の風俗を丹念な考証で再現しているが、それ以上に盗まれた鉢の探索を通して、捕物帳、怪談、市井人情ものといった時代小説の様々な要素を自在に取り込み、独自の世界を作る手腕は卓越している。

ラストが漫画『ヒカルの碁』を思わせるのはご愛嬌だが、才能がありながら芸の道に打ち込めなかった濱次が、奇妙な事件を経て新境地に達する展開は、芸道小説としても青春小説としても楽しめる。

誉田龍一『消えずの行灯――本所七不思議捕物帖』(双葉社、1890円)は、小説推理新人賞受賞作を含む連作集で、榎本釜次郎(後の武揚)が難事件に挑む捕物帳。

同じ場所で起こるのに、なぜか死因が異なる不可解な連続殺人事件を描く表題作をはじめ、作中には多様なトリックが出てくるが、なかでも理化学系は鮮やか。山田風太郎の〈明治もの〉を意識してか、毎回歴史的な有名人が事件に絡むのだが、ゲストの来歴を詳しく解説するのではなく、分かる人だけがニヤリとできるようにしておいたほうが“粋”だったように思える。【末國善己 文芸評論家】

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

新・戦争論―積極的平和主義への提言 (新潮新書 229)
新・戦争論―積極的平和主義への提言 (新潮新書 229)伊藤 憲一

新潮社 2007-09
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star立場を問わず通過しておきたい議論
star軍事力を肯定した上で平和を実現する
starこの本を読まずに、今後「戦争」を論ずるなかれ

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著者インタビュー 伊藤憲一 日本国際フォーラム理事長

「不戦時代」到来の今こそ日本は積極的平和貢献を

──今、「新」の1字を冠した戦争論を問う意味は何でしょうか。

■2つあります。第1は、人類史が「戦争時代」から「不戦時代」に移行したという、画期的事実を指摘することです。戦争を「国際政治システム」のなかで一定の条件下に成立する「社会現象」の一種であると見抜けば、このことが分かります。第2は、「不戦時代」こそが憲法9条の理想の現実化であり、日本人は先頭に立って積極的に平和に貢献すべきだ、と訴えることです。

──平和論は個人の価値観と結びつきますが、左右両派からの反応は?

■この本の思想は、外交官、大学教授などの経験から熟成した着想です。湾岸戦争のころから、「あれもしない」「これもしない」と否定形でしか語らない日本の消極的平和主義を「偽物の平和主義」だと批判してきました。反戦左翼の人は頭に来ているようですが、私は平和主義そのものを否定しているわけではなく、「あれもする」「これもする」という積極的平和主義への転換を求めているだけです。右翼ナショナリストの立場から見れば、「ナショナリズムの時代は終わった」という主張は「甘い」ということになるでしょう。北朝鮮問題がありますからね。短期的には「そのとおりだ」と思いますよ。しかし、私の視点は中長期的視点です。「不戦時代」の世界システムにどう東アジアの地域システムを組み込むか、という発想が大切なのです。

──積極的平和主義の観点から日本は当面、どう行動すべきですか。

■インド洋での海上自衛隊の給油活動だけでなく、日本の能力でできることは何でもすべきで、その分野を広げていかなければならない。民主党の小沢一郎さんのいう国際治安支援部隊(ISAF)への参加も、大賛成です。

──核拡散阻止には悲観的ですね。

■核保有の技術的・産業的障壁は、どんどん下がっていきます。国家レベルの拡散の完全阻止は不可能でしょうね。でも、米国の核と他の保有国の核とは、大砲とピストルぐらい次元が違います。この米国の力(私は「一方的確証破壊」能力と呼んでいます)が「不戦時代」の不戦性を担保しているのです。この戦略的現実を直視する必要があります。あと、私のいう「エコMAD(経済的相互確証破壊)」の経済的現実も、「不戦時代」の不戦性の担保として、同じくらいに重要です。

──北朝鮮の核問題は?

■時間が解決しない問題はありません。ソ連崩壊によって東西冷戦は解決しました。金正日も不老不死ではなく、確実に老い、死んでいく。その間の暴発さえ防げば、必ず東アジアにも本物の「不戦時代」がやって来ます。

──国際核テロリストの脅威を最も強調しています。

■花火程度の核でもテロリストが入手し、東京やニューヨークに仕掛けたら、それこそ人類の破滅に通じます。人類は「戦争時代」の「戦争」観に固執して、古いパワー・ポリティクスをしているときではないと思います。

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

「流通戦略」の新常識 (PHPビジネス新書 41)
「流通戦略」の新常識 (PHPビジネス新書 41)月泉 博

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star流通の世界を読み解く醍醐味

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伊勢丹と三越の合併などの百貨店の再編、イオンとセブン&アイ・ホールディングスの2強の突出、デフレで勝ち組となった衣料品専門店のユニクロとしまむら ――流通は勝ち組と負け組みに2極化し、大変革期を迎えている。本書は勝ち組流通企業の強さの秘密を分析、「モールビジネス」「ジャパンオリジナル」など、今後の流通戦略のカギとなるテーマをやさしく解説する。

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

ガスプロム―ロシア資源外交の背景 (ユーラシア・ブックレット No. 111)
ガスプロム―ロシア資源外交の背景 (ユーラシア・ブックレット No. 111)酒井 明司

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エネルギー市場の今後、またプーチン大統領の思考と基盤を知るためには、ロシア最大の天然ガス生産・輸送・販売企業であるガスプロムの分析が欠かせない。ロシア産ガスに依存する欧州は、この怪物の動向に神経を尖らせ、一挙手一投足を見守るが、日本にはその実態を伝える情報は少ない。2008年、日本にもサハリン2からのLNGがやって来る。必読の1冊である。

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

新しい神の国 (ちくま新書 684)
新しい神の国 (ちくま新書 684)古田 博司

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star儒教・東アジア・学問
star別亜...........
star中国や朝鮮とは異なる国

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「日本は東アジアの一部」という言説は間違い、と説く。岡倉天心の「アジアは1つ」も大東亜共栄圏思想も進歩的文化人の中国・北朝鮮礼賛、贖罪思想も相手国の実態を見ず、儒教古典知識などを頭の中でふくらませ、実態と乖離した、と。日本の「和」の思想は中国には通じない、と喝破する。脱亜でなく、最初から別亜だった、という説には魅力がある。

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

構想力 (角川oneテーマ21 C 138)
構想力 (角川oneテーマ21 C 138)谷川 浩司

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star勝負師が語る構想力
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「先をイメージし、見通す力」である構想力をどう鍛えるか。谷川浩司・永世名人が、数々の名勝負や生きざまをもとに、構想に必要な4つの力やその磨き方、加齢と構想力の関係などを縦横無尽に語る。読んだからといって、にわかに構想力が身に付くわけではもちろんないが、自らの体験に即して真摯に語りかける一言一句に、達人ならではの味わい深いリアリティーとさわやかな読後感が残る。

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

「脳力」低下社会
「脳力」低下社会森 昭雄

PHP研究所 2007-09-21
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star今後の研究に期待
star「ニセ科学」蔓延社会

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子供の脳が危ない

いわゆるIT革命が進行するなかで、パソコン、ゲーム、携帯電話などのIT機器が、子供を含めて多くの人の日常に深く組み込まれるようになってきた。 『「脳力」低下社会』(PHP研究所、1260円)の著者、森昭雄は、脳神経科学の専門家。脳神経のメカニズムを少し難しい部分もあるがやさしく解説し、IT機器漬けになっている子供たちの「脳力」が低下していると警鐘を鳴らしている。

「現在、学校での授業中、先生の話を集中して聞くことができず、教室内をうろうろしている子供たちが増加しています。これは、話を聞くための脳の神経ネットワークが機能低下を引き起こしている可能性が考えられます。また、脳の前頭前野(記憶・感情・集団でのコミュニケーション、創造性・学習、そして感情の制御や犯罪の抑制を司る部分)にあるワーキングメモリ(作業記憶)を司る場所の活動が低下していることも考えられます」

IT機器やテレビとの一方的な対応が習慣づけられてしまうと、双方向で対話をしながらものを記憶し考えるということがなくなってしまうし、読むという時間のかかる情報の取得ではなく、リアルタイムの情報ばかりに接していると、余裕をもって情報を吸収するということができなくなってしまう可能性があるという。

脳科学は大きく展開してきたが、まだまだ未知の部分は多く、100%の確率をもって断言できないとはいえ、森の指摘する可能性は極めて深刻なものであるといわなければならない。

それにしても、日本の多くの一流企業がゲームや携帯電話について頻繁にマーケティングし、子供を相手に利益を上げている光景はいただけない。アルコール飲料と同じように成人するまで与えるなとはいわないが、幼稚園児や小学生を相手に商売をするのはやめてもらいたいものである。

一企業、一産業の利益のために、日本の子供たちの「脳力」を低下させ、日本人全体の幼児化を進めている最大の犯人がテレビ業界とIT業界であることは間違いない。いつから日本企業は利益のために公共心を失ってしまったのだろうか。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/11/27, 毎日エコノミスト

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