メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年11月13日~11月20日

社会的責任のマーケティング―「事業の成功」と「CSR」を両立する
社会的責任のマーケティング―「事業の成功」と「CSR」を両立するフィリップ・コトラー ナンシー・リー 早稲田大学大学院恩藏研究室

東洋経済新報社 2007-08
売り上げランキング : 6645

おすすめ平均 star
starCSR時代のマーケティング
star分類のネーミングに難

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大量、濃密な取材で浮かび上がるアメリカ企業の社会的取り組み

最近、日本でも、企業の社会的責任(CSR)という言葉をよく耳にするようになったが、CSRについて総合的、体系的に論じた書物は、これまで驚くほど少なかった。マーケティングの大家であるコトラーと非営利団体のコンサルタントなどを務めるリーが著した、ずばり『Corporate Social Responsibility』というタイトルを持つ原書を翻訳した本書は、このような状況に風穴をあける、画期的な意味を持つ作品といえる。

本書の価値を高めているのは、執筆にあたり、アメリカにおいて社会的取り組みに力を入れている代表的な企業を対象にして、大量かつ濃密なインタビューを行ったことである。ヒアリングは50社を超える企業の関係者に対して行われ、そのなかには、25人の上級管理職からの踏み込んだ内容のインタビューも含まれるという。読者は、本書に盛り込まれた具体的事例の豊富さに圧倒されることであろう。

これらのインタビューを踏まえて本書は、企業の社会的取り組みについて、主としてマーケティングの観点から、総合的、体系的な記述を展開している。社会的コーズ(主張)というキーワードを駆使し、企業の社会的取り組みのオプションを、(1)コーズ・プロモーション、(2)コーズ・リレーテッド・マーケティング、(3)ソーシャル・マーケティング、(4)コーポレート・フィランソロピー、(5)地域ボランティア、(6)社会的責任に基づく事業の実践――の6つに分類したうえで、それぞれについて、企業にとっての潜在的なベネフィット(利益)と問題点を明らかにし、社会的取り組みを成功させるための方向性を示しているのである。

本書が目指すのは、企業が事業の成功とCSRとを両立させること、言い換えれば、社会的取り組みを義務から戦略へ転換することである。そのために、本書の結論部分では、社会的取り組みを選択し、実行し、評価するにあたって企業がとるべきベストプラクティスを、25項目にわたって列記している。あわせて、非営利団体などが企業から資金援助や支援を獲得するためにとるべき行動について、10項目にわたって提案している点も興味深い。

残念ながら本書では、企業の社会的取り組みにかかわるベネフィットとコストに関する定量的な分析が、ほとんど行われていない。情報開示面での障壁が高いためだと推定されるが、定性的分析が優れているだけに、画竜点睛を欠く読後感が残ることも否定できない。【評者 橘川武郎(一橋大学大学院商学研究科教授)】

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

グローバル資本主義を考える (シリーズ・現代経済学 4)
グローバル資本主義を考える (シリーズ・現代経済学 4)石見 徹

ミネルヴァ書房 2007-08
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グローバル化の是非についてあえて中庸の姿勢を維持する

長年にわたって国際経済研究に従事してきた石見徹氏の待望の新著である。いったい、グローバル化とは何なのか。その啓蒙性に着目する楽観的認識もあれば、その伝統破壊的な横暴さを批判的に見る視点もある。論争が渦巻くテーマであるが、その評価は定まらない。

グローバル化は拒否できない、というのが著者の解答である。なぜなら、それは戦後の国際秩序の帰結であり、戦後の日本は、生活水準の改善を含めて、その恩恵を受けてきたからであるという。途上諸国の貧困や格差に対しても、著者は、グローバル化はおおむね貧困の解消に役立ったと考えている。中国やインド、韓国やベトナムの事例が、開放政策との関連で肯定的に、グローバル化の成果として語られる。では、アジア金融危機はどうなのか。その原因として、不良債権を累積させた金融機関・投資家の群集心理や、モラルハザードが強調される。対外開放につながった自由化政策については、評価はやや厳しいとはいえ、危機を醸成したというまでの強い批判(例えばヘッジファンド批判)はうかがえない。

結局、著者の独自の主張は、「市場の失敗」や「政府の失敗」に対して、「世論の失敗」を対置したことであろう。いわば、世論の暴走である。したがって、あまり積極的に賛辞を呈することもせず、あるいは過激なグローバル化批判に走ることもなく、近代西欧の啓蒙主義に対して、一種の中庸の姿勢を維持する。

従来の文献を手堅く収集し、その是非を問いただし、一面的な断罪を避け、かといって、積極的な賛意を表することもせず、グローバル化に対しては是々非々論を展開する。著書の帯にあった「『グローバル化』は『悪魔の碾き臼』か?」には、おそらく著者の解答は「NO」だろう。その姿勢自体はけっして間違っていない。しかし、日米関係でも対等の地位を築けず、アジアでも孤立しかかっている日本社会に対する危機感が乏しいのはなぜなのか。同じグローバリズムを論じながらも、例えば作家の辻井喬氏が『新祖国論』で溢れんばかりの危機感を表明する姿勢とは対照的である。著者の博識ぶりに敬意を表するにやぶさかではないが、評者は、そのあまりにも感情を抑制する淡々とした筆致に、ある種のもどかしさを抑えることはできなかった。なぜなら、危機の最中にあっても危機感を欠く姿勢からは、何ら戦略は生まれず、激しく揺れる時代を漂流する社会しか想像できないからである。【評者 中尾茂夫(明治学院大学経済学部教授)】

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 31-1)
KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 31-1)ギリアン・フリン 北野寿美枝

早川書房 2007-10-24
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おすすめ平均 star
star血に導かれる哀しき連環の物語。

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新人とベテランが描く極限心理の惨劇

家族の悲劇と向き合った秀作を2本。薄暗い話はゴメンだという人以外には、特丸のおすすめだ。

ギリアン・フリン『KIZU―傷―』(ハヤカワ・ミステリ文庫、882円)はデビュー作。「スティーヴン・キングの絶賛!」つきだ。キングの推薦文はそれ自体が本より面白かったりするので、ウームとためらう人も多いかも。だが、これは掛け値なし。

カバー写真を隠さないとイタクて読めない。キズこそわが証しか。

少女連続殺人、因習的な田舎町、望まずして帰郷するヒロイン記者、再燃する家族との葛藤。などの道具立ては無難なパターンで進行。しかし流れは、ヒロインのある「性格」が明らかになる前半4分の1で一変する。規格型サイコ・ミステリとは別の物語が出現してくるのだ。

もう1本の、トマス・H・クックの新作『石のささやき』(文春文庫、770円)は、こういう紹介が不適切であることを承知でいえば、文学である。作者の長いキャリアのうちでもベストの部類。練達の語り口のうまさは間然するところがない。

狂気に崩壊していく人物を描くなら、サイコ方面の派手な設定がいくらでもある。作者はそれを排し、ただ内面を凝視し、心理の綾織りを精緻にえぐり出すことに向かう。緻密な文章芸に頼るきらいもあり、低迷気味だった近年のクックにいささか歯がゆい思いもあったが、本作は新たな頂点をつくった。

この2作、どちらも結末の予想はだいたいつく。それでも最後まで引き回される。ある意味、これらに描かれる極限心理の惨劇のほうが、血みどろの残虐シーンよりもよほど衝撃的かもしれない。じわじわと浸透してきて、ある日突然、掴みかかってくるだろうから。

ミステリの力は、ラストの意外性でも驚愕の舞台設定でもなく、人間を描出する確かな眼だと示してくれる。【野崎 六助 (作家・評論家)】

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

100年企業、だけど最先端、しかも世界一
100年企業、だけど最先端、しかも世界一泉谷 渉

亜紀書房 2007-09
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おすすめ平均 star
star教科書のようだ。

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著者インタビュー 泉谷 渉(産業タイムズ社編集局長)

日本のモノ作りを支える100年企業の技術

──老舗企業の研究に関する書籍は他にもありますが、この本は世界最先端の技術を持ち、なおかつ市場シェアの高い企業に焦点を当てています。

■昨年、『電子材料王国ニッポンの逆襲』という本を執筆しました。取材する過程では、液晶テレビのディスプレーなどに使われる電子材料を作っている企業には創業100年を超える「100年企業」が多いことに気づきました。しかも100年かけて培った技術が、形を変えていまなお息づいている。今回の本で最先端の技術を持ち、世界市場で活躍する企業にこだわったのは、デジタル家電製品など「日本のモノ作り」を支えているのが100年企業の技術であると分かったからです。

──取材で印象に残ったことは。

■多くの企業が共通して言った「技術・文化の伝承が企業の寿命を長くしている」という言葉です。100年企業は、日本には推定5万~10万社あるとされていますが、中国は1000社程度、韓国は5社といわれています。中国は社会主義体制への移行、韓国は日本占領下にあったことが影響していますが、日本との差は文化の違いも反映していると思います。

中国や韓国では、政治体制が代わると、前体制の文化を否定し破壊した後に、新たなものを作っていきます。それに対して、日本は体制が代わっても、技術や文化を大切に連綿と継承してきました。この伝承の精神が日本企業にはあるのでしょう。また取材では、「企業が100年以上存続するうえで基盤となる精神は何か」を聞きに行ったのですが、実際は現在研究を進めている技術や開発計画の話が中心となりました。企業存続の秘訣は、「革新の連続」だと分かりました。結果的に執筆の段階で、全体の6割を現在の動向に焦点を当てる構成としました。

──100年企業になる条件の1つに、地域との共生を挙げています。

■山口県宇部市にある1897(明治30)年創業の宇部興産を取り上げましたが、同社は地域の発展と企業の発展を同じ座標軸でとらえていました。「企業だけ良ければ」という考えではありません。創業時、人材などはそのほとんどを地域から供給してもらっていたはずです。地域に支えられることで存続できた。その一方で、宇部興産は地域医療を支える病院を作ったりして、地域との共生を図ってきました。

──本を通じて泉谷さんの「モノ作り」文化へのこだわりが見えますね。

■書店に行くと「いかに成功するか」「短期間で効率よく稼ぐ方法とは」といった本が売れているようです。特に企業活動においては、利益を上げることが重要になってきます。しかし、人がなぜ働くのか、企業がなぜモノを作るのかということの本質には、アイデンティティーの確立があると思います。少なくとも100年企業にはそれがありました。シャープや東レなど、間もなく創業100年を迎える企業があります。機会があればぜひ第2弾を執筆したいですね。 

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

マネーの動きで読み解く外国為替の実際
マネーの動きで読み解く外国為替の実際国際通貨研究所

PHP研究所 2007-10
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読みやすい為替解説本。外国為替の仕組みから始まり、相場の決定要因についての諸説を紹介、先物為替予約、通貨オプション、通貨スワップ取引といった実際の取引手法について大変分かりやすく説明し、外為の歴史もコンパクトにまとめている。アジア通貨危機、アルゼンチン危機など通貨・金融危機に1章を当てている。通読するだけでなく辞典的にも使えそう。

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

ガスプロムが東電を買収する日
中津 孝司 (著)

ガスプロムはロシアの天然ガス独占体。日本の電力、ガス企業は近くサハリンから液化天然ガスを輸入する。ガスプロムは安定供給の見返りに日本の電力株、ガス株を要求し、保有比率を徐々に引き上げていく、と著者は見る。そうなる前に、総合エネルギー企業誕生を想定した業界再編に取り組むべきと主張する。電力業界への警告の書。

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

トヨタ 愚直なる人づくり―知られざる究極の「強み」を探る
トヨタ 愚直なる人づくり―知られざる究極の「強み」を探る井上 久男

ダイヤモンド社 2007-09-07
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おすすめ平均 star
starトヨタ出身の常務にも目から鱗でしたが、この本も・・・
starどうつくっているのか
starトヨタらしさの所以を若干垣間見ることができました

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自動車生産世界一を目前にしたトヨタの強みの源泉を人づくりに求め、生産現場から経営幹部、海外拠点や関連企業までの幅広い分野に及ぶ愚直なまでの人材育成戦略を解剖する。海外ライバル企業によるトヨタ幹部のスカウトが相次ぐなか、人づくりを基軸に置く組織文化を自社にどう定着させるのかを考える参考にもなる。取材上のエピソードがふんだんにちりばめられており、読み物としても楽しめる。

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

中国のインターネットにおける対日言論分析―理論と実証との模索
中国のインターネットにおける対日言論分析―理論と実証との模索祁 景【エイ】

日本僑報社 2004-07-01
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中国のインターネット言論の「過激さ」はよく知られている。本書は、2001年の9・11テロ、中国人女性が米国の警官から暴行を受けた趙燕事件、05年の反日デモという3つのケースで、どのような対米、対日言論がネットで展開されたかを詳細に追跡した異色の実証分析だ。そこには、外向的な「ナショナリズムの噴出」という表層の裏側に、内向的な「デモクラシーの訴求」が隠されている、と著者は分析する。

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

学校のモンスター (中公新書ラクレ (258))
学校のモンスター (中公新書ラクレ (258))諏訪 哲二

中央公論新社 2007-10
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おすすめ平均 star
star教育を通じて語る「近代」。でも,現場的には・・・。

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1960年までは子供は学校で初めて社会を知った。テレビの発達で子供に変化が出る。その後、75年からの消費社会では子供を養育する揺籃だった家庭や地域におカネ万能の社会が押し寄せた。子供は入学前から影響され、学校が管理不能になっていく――諏訪理論が絶好調。親のモンスター化も時代の流れだったのか、と妙に納得。しかし、対策は抽象的だ。

■2007/11/20, 毎日エコノミスト

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克
経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克野口 旭 浜田 宏一 若田部 昌澄

ナカニシヤ出版 2007-09
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経済政策の形成で対立する専門的知見と社会的通念

経済学を医学のようなものだと考えると、どちらにも専門的知見と一般社会の通念との対立がある。医学でも経済学と同じく学派の対立があって、必要とされる処方が専門家の間でも異なることはあるだろう。だが、その場合でも、一般社会の側は、専門家の意見によって処方を判断することが通常だ。しかし、経済政策では、通念が大きな影響を及ぼし、それによって誤った政策が行われる危険が大きいという。

本書は、利害による政策決定というこれまでの研究動向を踏まえながら、専門的知見と一般社会の通念という概念を追加して歴史をさかのぼり、政策形成の事例を研究する。専門的知見と通念を対立させるとは、通念の側は正しい専門的知見を理解できないと認定していることだ。私は、この認定に疑問を持つ。著者たちが通念と認定する側に、極めて有能な人々がいるからだ。この人々が、専門的知見を理解できないので、通念に固執しているとは思えない。

本書の、金本位制の採用、デフレをめぐる議論などは、専門的知見と通念との対立軸で分析されている。これらの分析は、広範に文献を渉猟した重厚なものだ。ただこれらの分析結果を反転させて、例えば、金本位制は外債の借り入れを拡大するという利害によって導入されたと解釈することも可能ではないか。

第6章では、デフレを軽視し、デフレが金融的現象ではないと主張するのは、政治家よりも経済学者、エコノミストであるとも書かれている。そう主張する何らかの利害が専門的知見の側にもあると考えたほうが自然なのではないか。第7章では、別の専門家の異なった知見を批判している。すなわち、ここでは専門的知見と通念との対立ではなく、専門的知見同士の違いが問題なのだ。このような論争は、著書よりも専門誌を通じて行われたほうが誤った専門的知見が早く淘汰される。日本の専門家の世界に問題があると思う。日本では、専門家にも奇妙な通念がある。第8章は専門的知見と通念という区分に疑問を呈した刺激的な論考だ。

私は、専門的知見と通念という区分けすべてには賛成できない。デフレをめぐる専門的知見は分裂している。ばら撒くなら、公共事業でばら撒くより、個人にばら撒いたほうが効率的なのは経済学の公理であるのに、個人へのばら撒きを非難する専門的知見もある。本書には、専門的知見と通念という概念で政策形成の現実を分析したがゆえに、その区分けを乗り越えるための洞察も詰まっている。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

先生とわたし
先生とわたし四方田 犬彦

新潮社 2007-06
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おすすめ平均 star
star評伝のかきかた
star懲りない人々のものがたり
star買いですが。

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師弟の愛憎と悲劇に満ちた日々を驚きの記憶力と端正な文章で紡ぐ

伝説の英文学者、由良君美という先生がいた。1970年前後の数年、わが国の人文学が最後の光芒を放った時期に、脱領域的研究で学問の風景を塗り変えていった怪物的学者である。四方田氏は、師匠への傾倒と愛憎と悲劇に満ちた濃密な日々を驚くべき記憶力と端正な文章で紡ぎだした。

評者が由良君美の名を初めて耳にしたのは、由良の高弟で四方田氏の兄弟子に当たる高山宏教授の東京都立大における講義である。博覧強記で学魔の異名をとる高山教授がなお「学魔一族中に屹立する魔中の魔」とまで畏敬する由良君美とはいかなる御仁か。興味は湧いたが魔界に引き込まれそうで手が出せなかった。

由良先生の講義はどのようなものだったのか。70年4月から東大駒場で語学の授業を受けたTさんによると、先生は次のように自己紹介したという。

「自分は旧制成蹊の文理裏表を卒業した。官学は嫌いだったので学習院で哲学を学んだ。大学院は慶応の英文、その後NHKラジオで海外向け英語放送の仕事をしながら研究を続けた。最近駒場では他大学の優秀な連中も呼ぶという開かれた空気になったので、招かれて助教授になった。偶々諸君の担任になったが、学生とウエットな関係は持ちたくないので、退学届けに判子が必要なときは歓迎しますがその他コンパ等のお招きは遠慮する」。その整った顔、大きな鼻、パイプ煙草、アスコットタイ、肘に当て布のついたチェックのブレザーと優雅な所作に威厳を漂わせていた。

学者として盛名をはせた80年代。しかし、由良氏は学内政治に疲弊して酒浸りとなり奇行が目立つようになる。午後4時の太陽となった師と映画評論家として日の出の勢いの弟子の危ういバランス。目に見えない溝が広がっていく。ついに師は最愛の弟子に拳骨を見舞った。師を追い越し、早足で駆け去る弟子に対する嫉妬が永訣の魔の夜を誘ったのか。

殴られる理由のわからないまま弟子は悩み続けた。先生が亡くなってからこの評伝が書かれるまで17年。四方田氏は「若年だったわたしが、由良君美の人間的な弱さを忖度し、それに共感を向けることができなかった」ことを後悔している。

大学改革が叫ばれるなかで、人文的教養主義は存亡の危機に瀕している。師弟関係という言葉も死語になりつつある。しかし、四方田氏は「人間に知的世界への欲求が恒常的に存在しているかぎり、師と弟子によって支えられる共同体は、けっして地上から消滅することはないだろう」と結ぶ。【評者 高橋克秀 神戸大学大学院経済学研究科准教授】

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

吉岡清三郎貸腕帳
吉岡清三郎貸腕帳犬飼 六岐

講談社 2007-08
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おすすめ平均 star
starはやく続編が読みたい!

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無双十文字槍―鬼坊主末法帖
無双十文字槍―鬼坊主末法帖犬飼 六岐

徳間書店 2007-08
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武蔵ゆかりの達人が活躍する新鋭作家の2冊

昨年、『筋違い半介』で話題を集めた新鋭の犬飼六岐が、2冊の新刊を刊行した。

まず『吉岡清三郎貸腕帳』は、剣の達人が依頼人の悩みを解決する連作集である。主人公の吉岡清三郎は、前科があることをネタに商売敵に強請られている商人を助けたり、町道場に雇われ、先代に敗れた雪辱を果たすため修行してきた男と戦うことになったりと、何かと忙しい。

自分の剣技で商売をするというアイデアは、決して珍しくない。ただ清三郎は依頼人に雇われるのではなく、金の代わりに腕を貸し、任務完了までにかかった日数分の金利を取る。この金利が高利貸並みで、しかも支払いが滞ると情け容赦なく取り立てる。その意味で清三郎は正義の味方ではないが、不安定な雇用状況で働き、金にうるさいところは、見事に現代を象徴している。

実は清三郎、宮本武蔵に敗れた剣の名門・吉岡家の末裔。そのため吉川英治『宮本武蔵』をパロディー化した場面もあり、原典を知っていると楽しみも大きい。

続く『無双十文字槍』(徳間書店、1890円)は、荒れ寺に住む宝蔵院流槍術の達人・末法院不覚が、かわら版屋が持ってくる奇妙な事件に巻き込まれていく連作集。

世間の常識を嘲笑う不覚のエキセントリックな性格は吉岡清三郎に似ているが、主人公が破戒坊主なので、怪談めいた事件やエロティックな要素も多くなっている。

不覚は不可解な事件を解決していくが、その方法が破天荒なので次の展開が読めずスリリング。不覚の型破りな言動が、生活を守るためなら平然と狡猾に立ち回る庶民のブラックな一面を暴いていることも忘れてはならない。【末國善己 文芸評論家】

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

熱湯経営―「大組織病」に勝つ (文春新書 586)
熱湯経営―「大組織病」に勝つ (文春新書 586)樋口 武男

文藝春秋 2007-08
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おすすめ平均 star
starトップに立って欲しい方だが、直属の上司だと困るかな...
star心があつくなる本です
star熱湯経営なんて・・・

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著者インタビュー 樋口武男(大和ハウス工業代表取締役会長兼CEO)

能力やなくて気持ちの持ち方の差やね

――熱湯とはぶっそうな題名で。

■ぬるま湯はいけないという発想です。大学を出て初めて就職した鉄鋼関係の商社は家族的で、がんばってもがんばらなくても給料は同じ。私はいつか独立しようと考えていたので、「こんなに楽したらいけない。もっと鍛えてもらわないと」と不満でした。大組織病というのは企業に限らず、どんな組織にもあるのですよ。

――それで、大和ハウス工業へ転職するわけですね。

■「猛烈会社」という週刊誌の記事を見てぜひ行きたいと思った。コネがなくて苦労した末、ようやく就職の糸口を見つけることができた。とはいえ、結婚もしていて迷っていたら、親父に「どんなにいいところへ行っても辞めたい思う時がある。すると、就職を勧めた人のせいにしがちだ。武男の人生なのだから、自分で決断せい」といわれた。女房も「思った通りにしていいが、グチは聞きたくない」と許してくれた。自分で選んだだけに後へは引けない。通勤に片道2時間、早く仕事を覚えたくて、進んで残業もした。自分の会社を作るという強い気持ちがありました。

――不運な上司にあたったことも、さらりと流しておられますね。

■いや、何十年たった今も葛藤はあります。恩も忘れないが、恨みも忘れない。でも、変な形で恨みを晴らしてはいけない。仕事や会社のことは前向きに浄化しないとね。

――赤字会社の大和団地を任された時は大きな転機ですね。

■大和ハウスが野武士の集団とすれば、大和団地はお公家さんの集団です。その違いが思わしくない業績につながっていた。ぼくは本社から送り込まれた進駐軍のように思われていて孤立無援でした。しかし、860人もの社員がいる。自分のやり方でベストを尽くしてみようと、山口支店で成功した対話路線を始めた。

――経済記者は「まずはリストラですね」と質問をしたとか。

■リストラが人減らしという意味なら、絶対にしないと答えましたよ。赤字会社で人を減らしたら、モチベーションが下がる。人間なんて気持ちの持ち方で人生観も変わる。気持ちがなえてしまうようなことをしたら、優秀な人が辞めていく。能力にあまり差はないんですよ。やる気になり、活性化したら、知恵も出てくる。気持ちの持ち方の差やね。

――どうやってやる気に?

■巨人軍のヘッドコーチが「みな優秀な選手だが、おだててもいうことを聞くのは3日間だけ」といった。会社も同じで、ご機嫌とりしていたら仲良しクラブになる。嫌われるのがいやなら経営者になるなと私はいうんです。

――リーダーは孤独だそうですが。■孤独に耐えられないなら、リーダーになる資格はない。基本的には合議制で決めるが、なんでもそうしていたら、ビジネスのスピードに追いつかない。正念場では、自分の心に従って決断し、責任を取らねばならないものです。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

「ガソリン」本当の値段 石油高騰から始まる"食の危機" (アスキー新書 25) (アスキー新書 25)
「ガソリン」本当の値段 石油高騰から始まる岩間 剛一

アスキー 2007-08-10
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おすすめ平均 star
star臨場感ゆたかな石油問題の解説書
starエネルギー問題の現状
starぷんぷん

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石油価格の高騰が止まらない。そもそも原油の値段はどう決まるのか。西欧メジャーによる支配は今はなく、中東OPECの力も落ちている。ニューヨークの先物市場で決まっているのが現状だ。そこに近年高まる資源ナショナリズムの動きがどのような影響を与えているか――。書名から受ける印象とは違い、原油価格だけではなく、石油エネルギーにまつわる現下の諸問題を、手際よく解説してくれる。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

格差社会から成熟社会へ
碓井 敏正 (編さん), 大西 広 (編さん)

資本の蓄積が一定の水準に達し、減価償却分を除いて資本蓄積が不要になりつつある段階を「資本主義後の社会=成熟社会」と位置付け、そのような段階にある日本の政治、経済、福祉、地方自治、労働運動などの課題を探った問題提起書。「市場と自由主義的民主主義を本気で認め……説得力のある改革と運動論」の構築を訴える著者グループの理論的枠組みが、分かりやすく解説されている。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

定年前・定年後 新たな挑戦「仕事・家庭・社会」
定年前・定年後 新たな挑戦「仕事・家庭・社会」ニッセイ基礎研究所

朝日新聞社 2007-10-05
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おすすめ平均 star
starおもしろくて、役に立つ
star今までにないタイプの本
star現実感をもって引き込まれます。

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8年にわたって742人の男性の定年前後を追跡調査したデータとインタビュー調査をもとに、エピソードも盛り込んだ。特に仕事、家庭、社会について詳細に分析。全共闘が燃え盛った学生時代、高度成長と安定成長時代を仕事一筋で生きて、今やそば打ちが団塊世代の代名詞、では情けない。ここにはさまざまな粘り強い人生がある。「なるほど」の事例紹介満載だ。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書 683)
ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書 683)荻上 チキ

筑摩書房 2007-10
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おすすめ平均 star
star問題を解決するための本というよりも、こんな問題ありますよと紹介する本
starおおむね良好。
star丁寧に論じてますよ

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「ネット群集の暴走と可能性」の副題。「2ちゃんねる」はネット右翼の温床ではない、気に食わないホームページに集中的にアクセスし制御不能にする「炎上」はウェブに特有な現象ではない、ネットのない時代に戻れないのだから、政府の監視などを避けながら利用者がネットに慣れるしかない、と説く。新しいメディア論だ。ネット用語の解説が年配者にはありがたい。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

オレの心は負けてない―在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい
オレの心は負けてない―在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい在日の慰安婦裁判を支える会

樹花舎 2007-09
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在日朝鮮人元従軍慰安婦、宋神道さんは2003年3月、最高裁で国家賠償請求を棄却され、敗訴した。支える会の梁澄子氏らがまとめた裁判闘争記録集。本人尋問調書では1922年に朝鮮半島の忠清南道に生まれ、朝鮮人の中年女性に誘われて天津、漢口、武昌などで慰安婦をした経験が率直に語られる。同名の映画を補完する本で、深く考えさせる内容だ。

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人
中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人関 志雄

東洋経済新報社 2007-07
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日本と異なる中国経済学者の役割

日本ではあまり広く知られていないことだが、中国では政策をめぐる論争がかなりの自由度をもって激しく戦わされている。しかもそれが政治家や官僚の間だけではなく、学会も巻き込んで幅広く行われているのだ。

社会主義から市場経済への移行段階にあるだけに、その論争の主要なもののひとつが経済政策に関してのものなのは、むしろ当然のことだろう。

関志雄著『中国を動かす経済学者たち』(東洋経済新報社、3360円)は、そうした経済政策に関するさまざまな議論や主要な経済学者を紹介しながら、歴史的かつ詳細に分析している。日本の経済政策に関する論議や日本の経済学者のあり方と大きく異なる中国のそれを知ることは、中国の政策決定メカニズムと今後の政策動向を占ううえで、大変参考になるだろう。

まず気が付くのは、日本と異なって経済学者たちの政策に与える影響が大変大きいことである。例えば、国務院の総理、副総理たちは中央省庁から意見具申を求めるのと並行して、有力な学者たちから意見聴取をしている。また、共産党の政治家たちもそれぞれ親しい経済学者の意見を参考にしつつ、自らの政策的ポジションを最終的に決定しているケースが少なくない。

こうした事情を反映してか、経済学者の側も純粋理論を大学にこもって研究するというより、実践的な政策論を展開することが多い。また、主流派経済学者の多くが、ロナルド・コースやダグラス・ノースなどの影響を受けた「新制度学派」であるというのも興味深い。日本の多くの主流派経済学者が市場原理主義に近い新古典派であることとはかなり趣が違うようだ。

体制移行が主要な政策命題である中国にとって、制度分析や比較制度論が重要なのは当然であるが、こうした学問的背景があるからこそ、ロシア流のショック療法の失敗をせずに、漸進的改革を実現できたのだということもできるだろう。

日本の経済学者の原理主義的主張や現実離れした政策論議に辟易している評者にとって、中国の経済学者たちの現実主義と政策指向は極めてフレッシュであり、学ぶところが多い。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

峠の歴史学 古道をたずねて [朝日選書830] (朝日選書 (830))
峠の歴史学 古道をたずねて [朝日選書830] (朝日選書 (830))服部 英雄

朝日新聞社 2007-09-07
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足で調べた峠の歴史 目からウロコの発見も

「峠」という字は、いわゆる国字で、日本独自の文字であり、漢字ではない。中国で日本の峠に相当するのは、『三国志』で有名な落鳳坡の「坡」や大散関の「関」の字であろうか。それだけ、峠とは日本の地理的風土を反映した用語であり、峠に関する儀礼も多い。国境は多く峠であったが、中央の使者を国司・郡司らが迎える「坂迎え」の式など、その典型であろう。

服部英雄著『峠の歴史学』(朝日選書、1470円)は、峠の種々相を、1流通の道、2軍事の道、3信仰の道の3つに大別し、峠にまつわる歴史の名場面を再現し、蘊蓄を傾ける。著者の強みは、実地に何度も現地に足を運び、景観を頭に焼き付けていることだ。したがって、観念的な著作では全然ない。

著者は中世荘園史が専門であるが、登山の趣味があり、著者の歴史地理学は、いわゆる趣味と実益を兼ねたもののようである。若い時分には、相当危険な山行も冒されたらしい。滝壺に落下して骨折、などといううわさを聞いたことがある。さすがに近年はさような「冒険」はされないようであるが、その冒険精神は健在のようで、本書にもそれを反映した個所が散見される。

本書には、一読して目からウロコの落ちる、含蓄の深みが随所にある。例えば、日本の古道は、谷筋ではなく尾根道が多い。現に評者の勤務先の裏山は、中世の山陰道が走っていたが、やはり稜線(尾根道)である。このように古道に尾根筋が多いのは、著者によれば、「牛は尾根を歩く」からであるという。運搬には牛の労力を要するが、牛は谷筋を極端に嫌う。水や溝を牛は本能的に恐れるのだという。水田に牛を入れるのに、鼻ぐりを引いて強引にやらないと、牛は決して水田に入ろうとしない。よって谷筋の道では牛は役に立たず、どうしても物資運搬の道は尾根筋をたどることになるのだという。積年の疑問がこれで解けた。

このような著者の視点も、しょっちゅう現地を歩き、古老の言に耳を傾け、農耕の実際に通暁した著者ならでは、と敬服する。拙著『歴史の道を歩く』(岩波新書、品切れ)と併読していただければ幸甚である。【今谷 明 国際日本文化研究センター教授】

■2007/11/13, 毎日エコノミスト

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