メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2007年10月30日~11月6日

リーダーへの旅路―本当の自分、キャリア、価値観の探求
リーダーへの旅路―本当の自分、キャリア、価値観の探求ビル・ジョージ ピーター・シムズ 梅津 祐良

社会経済生産性本部 2007-08
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おすすめ平均 star
star直訳したような日本語が残念だが、読む価値あり

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成功者125人の「旅路」からリーダーシップの獲得法を学ぶ

経営学のトピックのなかでも、キャリアやリーダーシップなど奧の深い概念を議論する際には、これまでも、例え、とりわけメタファーと呼ばれる隠喩が注目されてきた。人生やキャリアを劇場に例える人もいれば、旅に例える人もいる。本書は、リーダーシップ獲得のプロセスを、キャリア上の経験と絡ませながら、旅路のメタファーでとらえた好著だ。

リーダーシップは実践的なトピックであるので、ただ鑑賞するように読むのはいただけない。自分のこれまでの(経験の連鎖、山あり、谷ありの)旅路、そこでの歩みを振り返りながら、本書のために取材された125名のリーダーの生の声に深く耳を傾け、読み進むのがいい。

著者がライフ・ストーリー(人生物語)法と呼ぶものは、生涯発達心理学でよく用いられる方法だが、人がどのような経験をくぐり、それぞれの経験をどのように意味づけているのか、内省して物語ってもらうという素直な方法である。素直なだけに、リーダーシップの実像を知るにはとても有効だ。

内容的には次のような深みのあるテーマが取り上げられる。なによりも自分の本当の姿をよりよく知ること、自分の価値観と拠って立つ原理・原則を言語化し、有言実行すること、自分を動かす要因を知ること、夢の実現のための応援団(支援チーム)を作りあげること、そのうえで、メンバーが自らをリードする人間になれるように努力すること。いつまでも「おれが、おれが」というだけでは、リーダーシップは取れない。「われわれ」という意識に転換することが肝心だ。そうできたら、われわれの夢を実現する部下に尽くすことが大事だ。

著者がこの本に先立つ前著で強調したことだが、リーダーシップの旅路において、けっして踏み外すことのない経営者が発揮する影響力を、「オーセンティック(本物の)・リーダーシップ」と呼んでいる。エンロン、ワールドコムなどに限らず、わが国でも踏み外し、テレビで謝罪をする経営者をたくさん見てきた。

経験から学ぶ、苦境からも教訓を得て、けっしてぶれない経営リーダーに自らを育てたいと思う人、すでにそういう旅路に立っている人、そういう旅路を人事、先輩として後進のために整備したいと思う人には好著だ。リーダーシップの理論そのものよりも、リーダーシップをどのようにして身につけるのかに関心を持つ人には、待望の書籍だ。【評者 金井壽宏 神戸大学大学院経営学研究科教授】

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

エレクトリックな科学革命―いかにして電気が見出され、現代を拓いたか
エレクトリックな科学革命―いかにして電気が見出され、現代を拓いたかデイヴィッド・ボダニス 吉田 三知世

早川書房 2007-08-24
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電子をめぐる発見・開発の歴史科学者のエピソードでつづる

現代の生活は電気のうえに成り立っている。照明、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、CDやDVD、それにパソコンと携帯電話、それらはすべて電子の流れが引き起こす作用を利用しているからだ。その原理がわからないまま通信技術として開発された時代から情報革命の渦中にある現代まで、電子をめぐる歴史を、関与した科学者や技術者のエピソードを中心にして物語風にまとめたものが本書である。

先陣争い・特許戦争・投資戦略などの個人の野望、家族や伴侶への思いやり・研究のみへの没頭・偶然の発見などの研究者の生き様、戦争が引き金となった熾烈な開発競争、それらが入り交じって電気の数々の可能性が切り拓かれてきたことがよくわかる。

電気通信の歴史には何回かの革命があった。まず、電流を使った電信・電話の発明がある。電流が何であるかをまだ知らなかった1830年代に発明家によって成し遂げられたのだ。やがて、電磁気学の法則が発見され電磁波を操作できるようになって無線通信・ラジオの時代がもたらされた。電力線を使わない通信技術という画期的な革命であった。

次の革命は、トランジスターの発明である。低電力で稼働し、安価に製作でき、長時間安定して働く固体素子は真空管を駆逐してしまった。並行的に進んだコンピュータの発明と結び合わされて現代の情報化社会を招き寄せたのである。

この過程で興味深いのは、開発の主体が、野心的な発明家(モールスやエジソンなど)、色気の多い科学者(ウィリアム・トムソンやショックレーなど)、企業家を兼ねた技術者(フィールドやワトソン・ワットなど)、基礎研究のみに邁進して開発は企業に任せた科学者(バーディーンやホジキンなど)と入れ替わってきたことである。科学と技術の関係が時代とともに推移したことが読み取れるからだ。

それとともに、語られるエピソードも発明家個人の喜怒哀楽のレベルから、金儲けのための企業戦略へ、そして国家との談合や対決へと拡大してきた。発明が個人の営みであった時代から社会的に大きな影響力を持つように変化したためだろう。現代は科学者の、人を感動させるエピソードが語られ難くなった時代なのかもしれない。

その反省もあってか、昨今の科学史の記述は関係者への聞き取り調査が主流になっているという。本書はそれを歴史にさかのぼって試みていると言えるだろう。【評者 池内 了 総合研究大学院大学教授】

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

ヴェネツィアの悪魔 上 (ランダムハウス講談社 ヒ 1-5)
ヴェネツィアの悪魔 上 (ランダムハウス講談社 ヒ 1-5)デヴィッド ヒューソン 山本やよい

ランダムハウス講談社 2007-10-02
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star本年度ナンバー1!

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ヴェネツィアの悪魔 下 (〔ランダムハウス講談社文庫〕 (ヒ1-6))
ヴェネツィアの悪魔 下 (〔ランダムハウス講談社文庫〕 (ヒ1-6))デヴィッド ヒューソン 山本やよい

ランダムハウス講談社 2007-10-02
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おすすめ平均 star
star本年度ナンバー1!

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ディオニュソスの階段 上 (ハヤカワ文庫 NV テ 7-1)
ディオニュソスの階段 上 (ハヤカワ文庫 NV テ 7-1)ルカ・ディ・フルヴィオ 飯田亮介

早川書房 2007-09-20
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ディオニュソスの階段 下 (3) (ハヤカワ文庫 NV テ 7-2)
ディオニュソスの階段 下 (3) (ハヤカワ文庫 NV テ 7-2)ルカ・ディ・フルヴィオ 飯田 亮介

早川書房 2007-09
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「水の都」を舞台に歴史と音楽が交錯する

デヴィッド・ヒューソン『ヴェネツィアの悪魔(上・下)』(ランダムハウス講談社文庫、882円・861円)は、ヴェネツィア・ミステリツァー・ロマンの新しいページを飾る秀作だ。作者はイタリア警察小説シリーズ2作で注目された英国作家。これはそのシリーズ以前の作品。出来映えは「どうかね」と心配したが、むしろ、こちらのほうを先に紹介していただきたかったくらい。

物語は、現代と18世紀、300年を隔てた「水の都」を往還する。喪われた作者不明の楽譜とヴァイオリンをめぐって陰謀と殺人と愛が渦をなす。現在の章と過去の章とが交互に入れ替わる進行で、現在に姿を現わした楽譜と楽器の因縁が過去のパーツにおいて明かされる仕掛けだ。どちらにもイギリス人の悪漢が陰謀の元締めをつとめるように、相似形に作られているところが面白い。

舞台は、もっぱら汚濁の犯罪都市といった一面が強いが、とくに過去のヴェネツィアはびっくりするほど不潔な街だ。ヴィスコンティ映画「ベニスに死す」の疫病都市みたいなイメージである。ミステリ度はそこそこと思わせて、後日談めいたエピローグにそれなりのサプライズも仕込まれている。

ルカ・ディ・フルヴィオ『ディオニュソスの階段(上・下)』(ハヤカワ文庫、各798円)は、フランス産の猟奇もの。時代は20世紀初頭にとられている。畸形の館のフリークスたち、サーカス団と機械人間、ストライキ闘争に揺れる工場と煽動家。それらのうちに、内臓をぶちまけるサイコ殺人鬼が暗躍する。正義の側にある敏腕刑事は救いがたいジャンキーなのだが、いちばんまともな人物である。

階段は階段でも、これはねじくれた螺旋階段の物語。猟奇満載で迫ってくる話だから、刺激に弱い読者には向かない。混沌とした酩酊感を味わいたい(悪酔いをものともしない)方におすすめ。【野崎六助 作家・評論家】

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

裁判員制度の正体 (講談社現代新書)
裁判員制度の正体 (講談社現代新書)西野 喜一

講談社 2007-08-17
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star逆効果
star徹頭徹尾、強硬批判のみに終始している書。
star徹底的な裁判員制度批判。

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著者インタビュー 西野喜一(新潟大学大学院教授)

問題点の多い制度逃げ回るのが一番

――1年半後に始まる裁判員制度の批判書です。以前は裁判官をされていたんですね。難解な本かと思いましたが、分かりやすく書かれていました。

■司法修習を終えて裁判官に任官しました。民事の判事補を10年、判事を5年務めました。新潟地裁の時に誘われて、アカデミズムにも興味があったので、新潟大学で17年間、主に民事訴訟法を教えています。元は法律専門誌に書いた論文を、教え子に読んでもらって一般向けに書き直しました。

――司法の側に身を置いていた人が、なぜ反旗を翻したのですか。

■国民にも、国にも、裁判のためにもならない、あまりにもひどい制度だからです。それなのに、マスコミを含めほとんどが大政翼賛的に推進しているのが現状です。そこで「本当のことはこうだ」と明らかにすることが、国民の血税から給料をいただいている者の義務ではないか、と考えたのです。

――本では裁判員制度を無用な制度、違法な制度、粗雑な制度、不安な制度、過酷な制度、浪費の制度、迷惑な制度、危険な制度――と8つの問題点を挙げて細かく批判しています。

■問題点を詳しくは説明しませんが、そもそも憲法は参審制も陪審制も想定しておらず、だから参審制である裁判員制度は「違憲のデパート」といってもいい制度です。それを国民に余計な負担を強いてまでなぜ導入するのか、その説明が十分されていません。今のままの制度でいいとも思っていませんが、くじ引きで選ばれたら誰でも裁判員になるというのはどうでしょう。

――このままの導入は正直不安に感じますが、一方で「健全な社会常識を司法判断に」ということは必要だと思います。最近でも富山で再審無罪判決があったばかりです。

■富山の事件は強姦容疑なので、より重大な刑事事件が対象の裁判員制度では裁きません。ただ公判で被告は一貫して有罪を認め、弁護も情状面だけだったそうで、裁判員制度であってもあの悲劇が避けられたかは疑問だと思います。確かに昭和50年代に誤判事件が目立ちましたが、裁判所と国民感情は刑事事件ではズレが少ないのではないでしょうか。国民の常識を反映させるべき事件というのは、例えば冤罪の多い痴漢事件や、民事の行政訴訟などだと思います。しかし、そういうことを論議すべきだった司法制度改革審議会では、最初に「国民参加ありき」の方向に話がいってしまいました。

――「現代の赤紙から逃れるには」と裁判員を辞退する方法が書かれた章では、何度も笑ってしまいました。

■楽しみながら書きましたが、どれも合法です。やりたい人は別ですが、負担や苦労ばかりある裁判員は最初から選ばれないほうがいい。くじ運が悪かっただけで死刑判決をするはめになったら、普通の人にとってその心理的負担は大きいですよ。こんな制度はいずれ凍結か廃止されるでしょうから、それまでは逃げ回るのが一番だと思います。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

世界エネルギー市場―石油・天然ガス・電気・原子力・新エネルギー・地球環境をめぐる21世紀の経済戦争
世界エネルギー市場―石油・天然ガス・電気・原子力・新エネルギー・地球環境をめぐる21世紀の経済戦争ジャン・マリー・シュヴァリエ 林 昌宏

作品社 2007-08
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エネルギー、世界資源戦争に関する本は多いが、これはヨーロッパきっての専門家が科学、金融、政治、環境各分野のデータを織り交ぜて、国家と国際企業が規制と自由化を武器に繰り広げるエネルギー戦争の現状を分析した欧州のベストセラー。石油危機など個別の出来事には詳しくとも、全体の流れの理解がいまいち不得意な日本人に文明史的視点は参考になるだろう。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

民主主義という不思議な仕組み (ちくまプリマー新書 64)
民主主義という不思議な仕組み (ちくまプリマー新書 64)佐々木 毅

筑摩書房 2007-08
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おすすめ平均 star
star民主主義、その進化の過程

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高校生、大学生向けの入門書なのだが、政治専門書2、3冊分の内容がある。ギリシャの民主制と近代民主主義との違い、代表制という「みなし」、世論の支配の意味、参加と不服従、利益政治と自己同一性をめぐる政治、ナショナリズム、軍事力、環境・資源問題……と現代政治の抱える難問に日本最高の知性が普通の言葉で回答する。8月初版の本だが、紹介しておく。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?
人間改造論―生命操作は幸福をもたらすのか?鎌田 東二

新曜社 2007-09
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「生命操作は幸福をもたらすのか?」が副題。クローン技術、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)培養、ヒトゲノム解読、着床前診断、エンハンスメント(増進的介入)など、人間改造医療は歯止めが利かない。学会などの生命倫理観は欧米のキリスト教(一神教)的生命倫理観だ。八百万の神の伝統がある日本人が納得できる生命倫理観とは何かを考えた興味深い書だ。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

じっぴコンパクト知らなかった! 驚いた! 日本全国「県境」の謎 (じっぴコンパクト)
じっぴコンパクト知らなかった! 驚いた! 日本全国「県境」の謎 (じっぴコンパクト)浅井 建爾

実業之日本社 2007-09-19
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国境に比べ、県境が話題になることは少ない。だが、全都道府県の約半数23都県に県境未定地があるという。曲がりくねった一筋の線が引かれるまでには、悲喜こもごものドラマが演じられた。「石川県は人口日本一の大県だった」「十和田湖の県境はどこ?」「富士山は誰のもの?」など54項目にわたって県境の線引きにまつわる歴史を解説し、日本地図に秘められた民衆の生活史を浮き彫りにしている。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

中国思想史
中国思想史溝口 雄三

東京大学出版会 2007-09
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今までの中国思想史と違ってダイナミックだ。唐の貴族社会から宋の平民社会への転換に5代53年の分裂割拠が必要だったように、秦漢帝国成立以来、唐宋変革期に並ぶ1000年ごとの変革期が1911年の辛亥革命で、革命成立(49年の再統一)まで38年かかった、という壮大な歴史観は説得力十分。アヘン戦争近代化説への反論でもある。一読をお勧めする。

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み (角川SSC新書 (008))
『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み (角川SSC新書 (008))岩崎 明彦

角川SSコミュニケーションズ 2007-10
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おすすめ平均 star
star映画ファンだけではなく、ビジネスマンも興味をもつ作品です。

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映画に学ぶファンドの仕組み

実は今年、私にとっての最大のニュースは30年来の夢であった映画を撮影したことである。百聞は一見にしかずというが、撮ってみて分かったことは多かった。いろいろな業種の本当の姿や仕組みを知るのに、体験は重要と思い知らされた。

ただ、私の場合、夢の実現に時間がかかったのは、ひとえにお金の問題である。

私のような素人に映画を撮らせてくれるような酔狂な人間はいないと思い、もう1つの本業というべき、受験ビジネスの会社をどうにか回していって内部留保を取り崩し、何とか映画を撮った。スポンサーが自分だったのだ。

しかし、いくらお金があっても、スタッフ集めなど、映画を具体化するためにはプロデューサーの力が必要だ。そして、配給してくれる会社、上映できる映画館を探さないと、映画を発表できない。私も最近になって、やっと来春公開のめどがついたというのが現状だ。

さて、この複雑な映画の興行システムを、独自の視点から解説してくれる本に出合った。岩崎明彦『「フラガール」を支えた映画ファンドのスゴい仕組み』(角川SSC新書、756円)である。

この本の内容は私が読んでもリアルだ。例えば、映画館に入る金(興行収入)のうち、半分は映画館が持っていき、残りの20%は配給会社が手数料で持っていくので、作り手の会社には40%しか入ってこない仕組みが解説される。DVDでは売り上げの35%くらいということだ。「フラガール」の場合、興行収入15億円の大ヒットということだが、このうち作り手に入る金は6億円、ただしDVDの販売収入その他で合計12億円になるので、6億円の出資で12億円の回収だそうだ。

この本の面白いところは、著者の岩崎氏が米国系投資銀行を経たファンドのプロであり、そこから転職して映画ファンドを立ち上げた人なので、映画だけでなく、ファンドというものの原始的な仕組みが学べる点だ。最近はワインファンドなど、金融以外のファンドも増えている。恥ずかしくて人に聞きづらいファンドの基本も学べる便利な本である。

日本のコンテンツ産業の成長のため、金融と結びつける岩崎氏の方法論はユニークだ。麻生太郎氏ではないが、コンテンツ産業は未来の日本の主力産業になり得るものだ。それを学ぶうえでの名著といえる。【和田英樹 精神科医】

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

黒人ダービー騎手の栄光 激動の20世紀を生き抜いた伝説の名ジョッキー
黒人ダービー騎手の栄光 激動の20世紀を生き抜いた伝説の名ジョッキージョー・ドレイプ 真野明裕

アスペクト 2007-02-22
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ダブリンの市民 (岩波文庫)
ダブリンの市民 (岩波文庫)ジョイス 結城 英雄

岩波書店 2004-02-19
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おすすめ平均 star
star芸術家を豪語するジョイスの実験小説
star屈折した人々の日常
star訳者のセンス

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天才黒人騎手の生涯は20世紀の再考を迫る

しばしば「真理は細部に宿る」という。人間社会の細部はなんといっても個人である。だから、「歴史の真実は個人が語る」ともいえる。

ジョー・ドレイプ『黒人ダービー騎手の栄光』(アスペクト、2100円)は「黒いマエストロ」と呼ばれたジミー・ウィンクフィールドの生涯を語りながら、はからずも激動の20世紀の再考を迫る。

合衆国南部では黒人が馬を扱うことでは天賦の才があることは常識だった。自然に小柄なジミーは騎手をめざすようになる。「この世には人が平等な場所が二つある。On the turf(競馬場)と Under the turf(墓)だ」。馬を扱うこつを心得た黒人には白人富豪も文句が言えなかったという。

若くしてジミーはケンタッキー・ダービー2連覇をなしとげる。だが、アイルランド系移民の増大で黒人騎手は競馬界から駆逐される。1904年、ジミーは大西洋を越えてロシアに向かった。革命直前のモスクワでは貴族たちの政治がらみの風聞がうずまいていた。貴族に目をかけられた「黒いマエストロ」はそれらを耳にしながら、勝ちつづける。

1917年、ボルシェヴィキ政権は競馬観戦を禁止する。ジミーはパリ行きの列車に乗った。だが、彼はもはや年配になっており、亡命ロシア人たちの人気者にすぎなかった。やがて厩舎経営にのりだすが、ナチス・ドイツの足音も近づいてくる。私生活でも3度の結婚に2人の愛人がおり、まさしく波乱万丈の人生は歴史の真実を語ってくれる。

文学作品は創作かもしれないが、時には真実よりも生々しい。かのジェイムズ・ジョイス『ダブリンの市民』(岩波文庫、798円)は19世紀末から20世紀初頭のアイルランドの、とくにその首都の市民階層の鬱屈を描く短編集である。作家自身は「中の下」の階層だったという。アイルランド人は「未耕地」「貧血」などと揶揄され、19世紀半ばの大飢饉の余波で人口が半減してしまった。その背景には、就職も結婚もままならず、何かに逃避するか国外に出るかしかなかった人々の閉塞状況があったのだ。【本村凌二 東京大学教授】

■2007/11/06, 毎日エコノミスト

人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書 1910)
人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書 1910)河野 稠果

中央公論新社 2007-08
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仮説の普遍性を検証し少子化日本の未来を探る

「人口学」の醍醐味は、出生・死亡・移動といった人口動態や人口構造に変化をもたらす“真犯人”(要因)を探し出し、それを援用して将来を見通すことにある。特定の国の事象から浮かび上がった “容疑者”(仮説)が、果たして他の国の他の時代にも当てはまる普遍的なものなのか。歴史をさかのぼり、世界地図を広げながら、そこで起こった経済・社会・生物・政治の現象を記録したデータを手掛かりに、関連諸分野の研究蓄積を総合的に駆使し仮説の妥当性を検証し、社会の問題を問いつめる。本書の読者は、戦前の国策にくみしたとしてわが国では疎んじられてきた人口学の醍醐味を味わい、この学問が日本社会の進むべき方向性を考えるうえで不可欠であることがわかろう。

たとえば結婚や出産の「リスク回避論」である。社会が混乱したり、経済が不況な時には、人々は将来不安からリスクを避けようと結婚や出産を先延ばしする。事実、1930年代の大不況期にあって、西欧諸国のうち少なくとも10カ国で出生率が人口置き換え水準(親世代・子世代が1対1で置き換わること)以下に急降下した。また90年代の旧ソ連圏の国では、市場主義的経済への移行混乱期に、「出生崩壊」現象が起こった。この仮説に従うと、わが国における少子化は、男女共同社会の実現を求める変革期にあって、いまだにこれが実現せず、女性が結婚により就業や他の自己実現の機会を奪われるリスクを回避した現象であることになる。

他方、合計特殊出生率に基づきヨーロッパ地図に色塗りすると、北欧や英仏蘭の高出生率国と、東欧や南欧などの低出生率国に二分割される。両者の違いを見ると、経済的要因というよりも、家庭の内と外におけるジェンダー間不衡平というべき文化的ディバイド(相違)が影響している。このことは、日本や韓国が超低出生率から脱出するには、職場や家庭における固定的性別役割分担からの脱却が求められることを示唆する。

人口学の基本概念や指標はマスコミにもよく登場し、日常的に使われるようになった。だが、なかには専門家にとって見過ごしがたい誤解もあるという。合計特殊出生率は本来、女性の年齢別出生率の合計であるが、女性が生涯にわたって産む子供数と単純化されることがある。だがその単純化にはいくつかの前提があり、それをわきまえないと、時には大きな過ちを犯す。多数の事例を用いながらその危険性を紹介するが、それを知るうえでも本書は有益である。【評者 樋口美雄 慶応義塾大学商学部教授】

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人
中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人関 志雄

東洋経済新報社 2007-07
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中国を先導する経済学者12人の主張と人物を紹介

本書は、驚異的な発展をとげる中国経済を理論面だけでなく政策面においても先導してきた12人の経済学者たちの議論、学者たちの相関図や彼らの経歴などを簡明直截に紹介している。著者の関志雄氏は香港出身で、日本の中国経済研究をリードしながら、またこうした中国経済研究の紹介を繰り返している。

中国は1980年代から改革・開放政策に転換し、社会主義から「社会主義市場経済」への体制移行を急速に進め、多くの経済学者たちが政策研究と政策実践の両面に関与してきた。中国経済でも、硬直した計画統制の問題点の発見からその是正の必要性の確認、市場経済体制への移行策の作成とその実証実験、そして実証実験の評価という政策サイクルに、多くの経済学者たちが携わった。彼らは経済発展と体制移行の同時進行という「歴史的大転換期」で「千載一遇の時機をとらえ、活発な政策提言や世論形成を通じて改革に直接的または間接的に参加しており、中国的特色のある経済学が形成されつつある」。著者によれば、中国の「経済学は象牙の塔における空理空論ではなく、13億人の運命を左右する経世済民の学問なのである」。

本書は、驚異的な経済発展をとげる中国において、政策研究だけでなく政策実践にも積極的に関与する経済学者の主張を紹介している。最高決定機構である中国共産党政治局が定期的に開催する集団学習会に彼らの多くが招待され、ブレーンとして講演をしている。多くは文化大革命(1966年~76年)時代に辺境に送り込まれて辛酸をなめた文革世代であり、改革への強烈な想いを共有している。胡鞍鋼、樊綱、林毅夫などは私自身も交流があり、学者であるだけでなく、彼らの議論と行動を通じて、中国経済の現状、未来への展望などが理解できるはずである。

ただし、ここ数年の中国経済は来年の北京オリンピック、2010年の上海万博などを控え、過熱気味である。住宅急騰、株の急騰、物価上昇など「泡沫(バブル)」が弾ける危険性が迫っている。それゆえに、本書も紹介する経済の現状に対する深刻な論争(西山会議)における中国経済の悲観的見解と社会主義経済への回帰提案などについても、中国経済のある意味で負の遺産として「改革開放の水先案内人」のなかに盛り込まれてよいかもしれない。【評者 小島朋之 慶応義塾大学総合政策学部教授】

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

弥勒の月 (文芸)
弥勒の月 (文芸)あさの あつこ

光文社 2006-02-22
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おすすめ平均 star
starじつは
star登場人物は魅力的
star時代小説好き

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夜叉桜
夜叉桜あさの あつこ

光文社 2007-09-21
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おすすめ平均 star
starシリーズ物ではあるけれど・・・
star続編

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果ての花火―銀座開化おもかげ草紙
果ての花火―銀座開化おもかげ草紙松井 今朝子

新潮社 2007-08
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starやっぱり今朝子さんがすき!

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閉鎖的な封建社会に不満を持つ同心の木暮信次郎と、暗い過去を乗り越え平凡な商人として生きる清之介。連続殺人事件が、“闇”を抱える双子のような2人を引き合わせてしまう『弥勒の月』は、あさのあつこ初の時代小説として話題となった。その続編『夜叉桜』では、岡場所の女が殺される連続殺人を追う信次郎が、事件と清之介の繋がりを発見したことから、再び2人の運命が交差していく。

事件に関わる信次郎と清之介が、とも“闇”を隠して生きているだけに、物語が進むにつれて、岡場所の女への差別感情や自分の境遇に対する不満、出世や金銭への欲望といった個人や社会が抱える多くの“闇”が暴かれることになる。なかでも、決別したはずの過去に追いつかれた清之介が、再び暗黒の世界に戻るのか、今の生活を続けるのかの選択を迫られる場面の迫力は圧倒的だ。

物語はダークな展開だが、ラストにはささやかな希望が描かれ、何より人間は自分の力で運命が変えられるのかがテーマになっているので、読後感は心地よい。 『吉原手引草』で直木賞を受賞した松井今朝子の受賞後第1作となる『果ての花火――銀座開化おもかげ草紙』(新潮社、1575円)も、明治初期が舞台の捕物帳『銀座開化事件帖』の続編である。

元旗本の久保田宗八郎は、値上がり確実とされる投資話や庶民に負担を強いる徴兵制、政府による言論弾圧など当時の世相を反映した複雑な事件を次々と解決していく。

宗八郎は西洋の物真似ばかりしている明治政府を批判するが、これは外圧に弱いだけでなく、西洋の流行を何でもありがたがる現代日本を皮肉っているようにも思える。【末國善己 文芸評論家】

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

検証 現代中国の経済政策決定
検証 現代中国の経済政策決定田中 修

日本経済新聞出版社 2007-09-07
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おすすめ平均 star
star読み応えある大著

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著者インタビュー 田中 修(財務省財務総合政策研究所研究部長)

限界に達した改革開放路線 農村が置き去りに

──中国の漸進型の改革開放路線が、もはや限界に達している、という認識ですね。

■江沢民・朱鎔基時代は、大都市、東部地域優先で、農村が置き去りにされ、格差が広がりました。当時都市の所得は年率8%の伸びを見せましたが、農村は4%とその半分にすぎませんでした。一部の富裕層は生まれましたが、全体としては消費は伸びず、中国の成長は投資に多く依存するようになりました。これはアジア通貨危機前のタイ、インドネシアの経済構造に似ています。

2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)では農村が大きな被害を受けました。保健所がないし、入院費が高いので農民の所得では入院できず、たくさんの人が亡くなりました。江・朱時代の政策のひずみがSARSで一気に表面化したといえます。胡錦濤指導部は、社会的弱者を重視する政策に本格的に取り組もうとしています。

──中国経済が大きく変わった1996年以降の経済政策を時系列に沿って克明にフォローしていますが、中国経済も、ほぼこうした政策通りに動いてきたのでしょうか。

■経済成長についてはほぼ意図した通りだったと思います。1990年ごろまでは、国民の生活は「温飽」といわれていました。かつかつの生活を意味します。1987年の党大会では、2000年までにGNP(国民総生産)を1980年の4倍にし、「小康」水準を実現する目標を掲げました。小康とは、いくらかゆとりのあることを意味します。マクロ的に見ればほぼ到達したといえますが、まだ膨大な貧困層を抱えており、5年前の第16回党大会では、「2020年までに国民が全面的に小康」状態に到達することを国家目標に掲げました。

経済構造の変革については政策通りに進んでいません。96年の第9次5カ年計画には、資源、エネルギーを大量消費し、環境を破壊する「粗放型経済成長」からの脱却を盛り込んでいますが、転換に成功できていません。これは胡錦濤指導部の最大の課題です。

──500ページに及ぶ労作ですね。目次を見ると、アジア通貨危機の襲来、人民元切り下げ観測、投資過熱の抑制といった個別のテーマが、いつ、どんな会議で議論されたかがわかる。

■「現代中国経済の総合事典」を意識した構成にしています。中国が打ち出す経済政策が過去にも同じようなものがあったのか、今回が初めてのものなのかを確認できる、との感想をもらいました。

──中国人民銀行は今年5回利上げしましたが、経済は過熱する一方。ブレーキをかける手段はあるのでしょうか。

■潜在成長力は9%ともいわれていますが、いま11%を超える成長で、どこかにひずみが出るおそれがあります。銀行の貸し出しの伸びが異常で、不動産などに金が回り、過熱をエスカレートさせています。党の中央紀律検査委員会が銀行幹部を汚職で摘発して、見せしめにすれば、効き目があるかもしれません。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

監査難民 (講談社BIZ)
監査難民 (講談社BIZ)種村 大基

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カネボウの粉飾決算で公認会計士の逮捕者を出し、日興コーディアルグループや三洋電機の不正会計問題でさらに信用を失墜して解散に至った、みすず監査法人(旧中央青山監査法人)の軌跡を追ったノンフィクション。著者の企業会計への造詣は深く、銀行資本主義から市場資本主義に転換する日本経済のきしみが読み取れる。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

イスラム金融入門
イスラム金融入門吉田 悦章

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金利の概念を用いないイスラム金融が注目されている。中東オイルマネーの急増や産油国の経済成長による資金調達需要の拡大などが背景にある。「利子をとらない」といっても、驚くほど特殊なものではなく、日銀出身の著者が、一般の金融用語などを使いながら、その考え方や仕組み、現状を解説しているのが本書の特長。日本の損保会社によるイスラム保険(タカフル)への取り組みも紹介されている。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

監視社会の未来―共謀罪・国民保護法と戦時動員体制
監視社会の未来―共謀罪・国民保護法と戦時動員体制纐纈 厚

小学館 2007-09
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国民動員を競う総力戦では平時から「戦争反対」世論を封じ込め、中央権力を強化させる「監視社会」がはびこる。武力攻撃事態対処法などの有事法制の補完といわれる国民保護法は国民保護が目的ではなく、国民動員のための民間防衛体制確立を目指したとんでもない法律だという。戦前の軍機保護法制と比べながら、監視社会を進める政府・防衛省の意図を鋭く批判する。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

秘密結社の日本史 (平凡社新書 389)
秘密結社の日本史 (平凡社新書 389)海野 弘

平凡社 2007-09
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star日本の歴史の裏模様がまさに秘密結社
star駆け足ですが、非常に面白い本です

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「分離し、隠された社会であり、セクトやカルトに重なり、隠された秘密の知に関わる」と著者が定義する秘密結社を、日本の史実に即して浮かび上がらせる。神話のなかの秘密結社から始まり、中世・近世・江戸・近代の職人、芸能、宗教、政治集団を幅広く取り上げ、秘密結社という視点から歴史の読み直しを提示する。従来本格的に論じられなかったテーマだけに、歴史好きには一読の価値がある。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

沖縄戦の真実と歪曲
沖縄戦の真実と歪曲大城 将保

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沖縄史料編集所主任専門員として沖縄県史の編纂に携わった著者は県民聞き取り調査で、スパイ取り締まりを名目に実際は食料略奪、壕占拠のために日本軍が住民虐殺を繰り返したことを明らかにする。「集団自決」の真実は軍強制による悲惨な死だった。責任ある軍幹部が「私は正しかった」と反省もせず存命という。軍隊と市民の関係を考え直さざるを得なくなる1冊だ。

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行有田 哲文/畑中 徹

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star経緯を丹念に調べた好著
star新聞連載記事のとりまとめ

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「ゆうちょ銀行」の行く先

有田哲文・畑中徹著『ゆうちょ銀行』(東洋経済新報社、1680円)の「はしがき」で有田は、ジョージ・オーウェルの名作『動物農園』に言及している。『動物農園』はスターリンをモデルにした豚のリーダー、ナポレオンが人間を追放して動物の支配を確立したあと、次々と「革命」の精神を裏切り、堕落していく様を描いた小説である。

まやかしの「小泉改革」で作られた「ゆうちょ銀行」の行く先は、『動物農園』のそれではないかと示唆しているわけだ。

テレビとスポーツ新聞などを巧みに利用した小泉純一郎のデマゴギーは見事に成功し、「民営化」は実は大変な問題含みだと考えていた多くの専門家やメディアも、この問題について口を閉ざしてしまった。

有田と畑中が、やっと今の時点で郵政選挙直前に持った「違和感」について、詳細な分析を加え、出版するに至ったのは、遅すぎたとはいえ、日本のジャーナリズムがまだまだ健全な部分を残していたことの証左でもあろう。

小泉流の白か黒かの二分割思考で割り切れるほど、郵政問題は単純ではないし、小泉のいくつかの主張、例えば「公務員の民間人化」の効果などは、単純なうそであった。しかし、それ以上に郵便局の金融部門、銀行・保険部門の民営化は多くの困難を伴い、日本の金融システムを大きく混乱させかねない。

だが、有田、畑中を含めて、今になって「こんなはずではなかった」などと言ってほしくない。こんなことは2005年の選挙の時から分かっていたことだ。資金運用の経験が全くない20万人以上の職員を抱え、200兆円を上回る巨大な資金をどう運用するのか。郵貯・簡保資金を段階的に縮小し、職員の数も減らしてからならともかく、グローバル化し、競争が熾烈になっている金融マーケットのなかで、こんな時代遅れの「異形の巨艦」が生き残れるわけがない。金融システムや金融マーケットを多少でも知っている者ならば常識ではないか。

そんなことを熟知しているはずの西川善文がどうして社長を引き受けたのかは謎だ。「ゆうちょ銀行」はどこに行ってしまうのだろう。【榊原英資 早稲田大学教授】

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

溥儀―清朝最後の皇帝
溥儀―清朝最後の皇帝入江 曜子

岩波書店 2006-07
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数奇な運命をたどったラストエンペラー

1987年度のアカデミー賞の映画、ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」(坂本龍一が音楽を担当し、出演して評判になった)の主人公、愛新覚羅溥儀(1906~1967)は、3度帝位につきながら3度とも最後の皇帝という、世界史上に例をみない数奇な運命をたどった。この興味深い彼の生涯に関心をよせる歴史家や作家は多い。

入江曜子『溥儀』(岩波新書、819円)は、溥儀の生涯をパーソナリティーにまで目配りして叙述している。1度目は、1911年の辛亥革命によって打倒された清朝の宣統帝である。わずか6歳の幼帝であった。秦の始皇帝からおよそ2000年続いた皇帝政治の終焉であった。2度目は17年、軍閥張勲に擁立されて帝位復活を宣言したものの、12日間でたちまち瓦解した。12歳であった。3度目は、34年3月、日本の傀儡満州国皇帝に即位したが、45年8月15日の「大日本帝国」の敗北とともに終わりを告げた。その後ソ連軍の捕虜となり、ハバロフスクで抑留生活を送った。この間、東京の極東国際軍事裁判には、検事側証人として出廷し、傀儡皇帝をめぐる日本の謀略の罪状を告発した。50年にハルピンに戻され、59年には特赦によって北京に帰った。北京では植物園の軽労働や、北洋軍閥時代の資料編集委員をつとめた。62年には「自己改造をした皇帝」として、毛沢東と会見している。

溥儀自身も「自分のなかに2人の自分がいる」と屈折した心理を語っているが、彼の人間形成を知る手がかりとして、R・F・ジョンストン『紫禁城の黄昏』(入江曜子・春名徹訳/岩波文庫、945円)をあげておく。著者ジョンストンは1919年から5年間、溥儀の英語の家庭教師をつとめたオックスフォード出のイギリス人である。紫禁城の聖域中の聖域に初めて足を踏み入れた外国人であった。強度の近視で物の見分けがつかずに苦しむ溥儀に、前例がないからという周囲の反対を押し切って、「眼鏡をかけた皇帝」を誕生させた。近代文明に身をもって接触した驚きと喜びは、その後の溥儀の新たな歩みのスタートを象徴する話である。【中村 義 東京学芸大学名誉教授】

■2007/10/30, 毎日エコノミスト

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