メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年9月5日~9月12日
| 日本金融システム進化論 | |
![]() | 星 岳雄 アニル カシャップ Anil Kashyap 日本経済新聞社 2006-07 売り上げランキング : 30935 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
金融システムの歴史を概観し「銀行縮小」の未来を予測
本書は日本の金融システムを歴史的に概観しながら、今後の変化の方向を探ろうとする目的で書かれている。2001年9月に出版された英語版の翻訳であり、日本の事情に詳しくない外国の読者を想定して書かれたものであるから、日本の金融システムに関する基礎的知識がなくとも読み進めることができる。また、実証分析の基礎となっている経済理論の枠組みが丁寧に説明されていたり、企業破綻への銀行などの関与のあり方の変化を示す具体的な事例を紹介していることも、本書の特徴であろう。
著者たちの基本的な問題関心は、(1)家計貯蓄の保有資産形態、(2)企業の資金調達方法、(3)銀行の業務内容、(4)企業のガバナンスへの銀行の関与、の四つの視点から日本の金融システムの歴史的な変化を明らかにすることである。この分析によって4期に区分した構造変化が示され、さらに現在の時点で展望される日本金融システムの将来像(第5期)が明らかにされている。
導き出された考察結果は、かなりの点で大方の意見に一致しているように見える。すなわち、(1)系列金融はコストを伴うが、高度成長期にはそのメリットが上まわっていたため存続しえたが、(2)厳しい規制が銀行の革新的行動を妨げた可能性が高かった、(3)金融自由化の最大の受益者は個人貯蓄者ではなく企業であった、(5)1980年代以降、銀行は大企業の顧客を資本市場に奪われ、企業破綻救済への関与に控えめな役割を果たすにすぎなくなった、などである。
それらの考察結果のうち本書でとくに強調されている点は、歴史的な側面では、戦後の「間接金融」への移行に関して、戦時の変化よりも戦後改革期の変化を重視する点で戦時源流論とは異なる理解を示したことであろう。
傾聴すべき指摘であるが、戦後改革期の都市銀行業務が、ガバナンスの視点で「間接金融」と直結しうるかなど、今後分析すべき課題は多いようである。
本書のもう一つの重要なメッセージは、本来の銀行業務が縮小することは不可避であるとの予測を打ち出していることであろう。これは日本企業がアメリカ並みの銀行借り入れ依存度に接近すると、「最低20%の借り入れ需要の減少が起こる」との推計結果に基づいている。銀行経営は近い将来に厳しい選択を迫られていることになる。
本書で標準的な経済学の分析手法を学びながら、日本の金融システムの将来像を、読者がそれぞれに考えてみるのも面白いだろう。【◎評者 武田晴人(東京大学大学院経済学研究科教授)】
| ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実 | |
![]() | B.エーレンライク 曽田 和子 東洋経済新報社 2006-07-28 売り上げランキング : 46742 おすすめ平均 ![]() 初めて描かれるワーキングプアの世界 新しい低賃金労働者の現実!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本も「他人事」ではないアメリカのワーキングプア事情
ニッケルは5セント硬貨、ダイムは10セント硬貨で、「少額の金銭しか与えられない」という意味。名コラムニストの著者が、アメリカのワーキングプア(働く貧困層)の生活を自ら体験して描いた。
技術も資格もない女性が、知らない土地で住まいと仕事を探し、1カ月、収支を合わせて生活する。それだけの実験だが、住まいも仕事もトラブルの続出である。最初に就いた仕事はウエートレスだが、職場近くのアパートは家賃が高く、同僚たちの住まいは、路上の車の中だったり、友人と共同で借りている簡易宿泊所だったり。「サービス業や小売業の多くがそうであるように、貧しい人々は富める人々の住まいに近いところで働かざるを得ない」からだ。
家賃を払うには複数の仕事に就くしかないが、肉体的な負荷の大きい仕事の掛け持ちはきつく、体は悲鳴を上げる。さらに、ハウスサービスにしろスーパーの店員にしろ、彼女が経験した「単純労働」はどれも単純でなかった。新しい用語や道具、新しい技術をマスターすることが要求され、相当の集中力もいる。そしてそのどれもが、極めて低賃金だった。
求人広告が溢れているのに、なぜ少しでも割のいい仕事に移らないのか。一つの理由は、貧しいほど制約があるからだ。車社会のアメリカで、職場への往復を親戚の車に頼るしかなかったり、新しい職場の人間関係の懸念もある。さらに、賃金などの情報は不透明で、合理的な判断を妨げる。貧困から這い上がる可能性は、貧困であるほど見えてこない。
アメリカのワークフェア(勤労福祉)政策は、生活保護への依存層に受給条件として一定の就労を求め、彼らをこうした労働市場に移行させた。そして「貧困」が忘れられた。
中流以上の階層にとって、依存的な人々への扶助は「税金の無駄遣い」と、非難の対象だったが、政府の「施し」がほとんど引き揚げられると、貧困層は彼らの視界に映らなくなった。貧困層とは生活の場やサービスを共有することもなくなった。原著がアメリカでミリオンセラーとなったのは、その貧困の現実にスポットを当てたからだ。
これをアメリカの話だと切り捨てられるだろうか。日本人にも、目の前にあるのに見えていない現実があるのではないか。統計上の格差議論から目線を変えて「ワーキングプア」の問題を考える必要を痛感する。【◎評者 小杉礼子(労働政策研究・研修機構副統括研究員)】
| 琉球は夢にて候 | |
![]() | 岩井 三四二 角川学芸出版 2006-07 売り上げランキング : 62988 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 難儀でござる | |
![]() | 岩井 三四二 光文社 2006-07-21 売り上げランキング : 11992 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
信長、秀吉、家康の乱世を夢とともに駆け抜けた男
斬新な設定の歴史小説で注目を集めている岩井三四二が、2冊の新刊を上梓した。まず『琉球は夢にて候』は、泡沫武将の亀井茲矩の視点から戦国を描く異色作である。
父が仕える尼子氏が滅んだため、13歳で下男同然の生活を送ることになった茲矩。やがて尼子氏再興のために戦う山中鹿介の麾下に加わった茲矩は、尼子氏を支援する豊臣秀吉にも認められるようになる。山中鹿介が倒れた後、秀吉に領地を与えられた茲矩だが、天下を手に入れ、暴君と化した秀吉の過酷な命令に従わなければならなかった。
信長の中国地方攻略の最前線で戦った茲矩は、覇者が秀吉、家康と変わるたび、時の権力者に認められるため、より危険な任務を引き受けていく。これは吸収合併された弱小企業が、親会社の意向に汲々とする姿に重なる。大名になっても気苦労の絶えない茲矩を支えたのは、失われた故国を奪還し、さらに南国の楽園・琉球に渡るという少年時代からの夢だった。実現の難しさを感じながらも、夢を目標に乱世を駆け抜けた茲矩の活躍は、厳しい毎日を生きる現代人の清涼剤になるはずだ。
続く『難儀でござる』(光文社、1680円)は、信長に先帝の13回忌の費用を出させるため山科言継が奔走する「信長を口説く七つの方法」や、稲葉彦六が隠居しない父に手を焼く「守ってあげたい」など、偉人に翻弄される一般人の悲哀を描く短編集である。
絶対に断われない状況で、とんでもない仕事を命じられる主人公には多くの人が共感を抱くだろうが、現代のビジネスマンに近い存在だからこそ、懸命に働く普通の人たちの偉大さが、実感できるのではないだろうか。【末國善己(文芸評論家)】
| レーサーの死 | |
![]() | 黒井 尚志 双葉社 2006-04 売り上げランキング : 81345 おすすめ平均 ![]() 読み応えあり→福沢・鈴木誠一・風戸。 Ayrton Forever…Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー くろい ひさし黒井尚志(ジャーナリスト)
「レーサーの死」と「事故」の間に横たわる深い闇
――1994年のアイルトン・セナの事故死は衝撃的でしたが、「レーサーの死」に注目するという異例のノンフィクションのきっかけは?
■遺族に事故時の正確な情報を伝えたかったからです。8人のレーサーの死を書きましたが、レースカーを作ったメーカーから一方的に「運転ミスが事故原因」と宣告され、遺族から訴訟を起こされたケースもありました(最終的に和解)。福沢諭吉のひ孫にあたる福沢幸雄です。
69年2月12日、トヨタ自動車とヤマハ発動機が作った「トヨタ7」のテスト中に福沢は事故死するのですが、当時の雑誌に掲載された事後直後の写真を見て、「操作ミスのような単純な事故ではない」と直感しました。直線コースの真ん中に濃いブレーキ跡がはっきりと残っていて、そのままコースを外れ支柱に激突、炎上していたからです。福沢は経験豊富なトップレーサーで、車に欠陥があった疑いがある。しかしこの時、トヨタは警察の現場検証を拒み、司法解剖さえせず「運転ミス」で済ませてしまった。
――福沢幸雄の事故死によってトヨタのドライバーに抜擢された川合稔もテスト中に非業の死を遂げています。
■福沢が英語とフランス語に堪能で毛並みもよいのとは対照的に、川合はたたき上げの苦労人でした。川合の死もトヨタ側は直後から「運転ミス」を強調しましたが、すぐに関係者から真相が公然と語られるようになりました。
川合は事故死する70年に、当時の人気タレントの小川ローザと結婚していましたが、川合の死以後、彼女はマスコミの前から忽然と姿を消しました。私は川合の事故当時の真相を確かめる作業と同時に、彼女に取材を申し込みました。どうしても確かめたいことが一つあったからです。それは「トヨタから正確な事故原因を知らされたか、否か」。結局「お話しすることは何もないそうです」と、ローザの妹から断りの連絡を受け、実現しませんでした。
――もし会えていたら?
■事故は運転ミスではないことを、私の調査からきちんと説明しました。今さらトヨタの責任を断じるつもりはありませんが、遺族には真実を伝えてほしい。そうでなければ志半ばで死んでいった川合や福沢が浮かばれません。
――遺族や事故関係者の取材は気が滅入るものではなかったですか?
■本当に重かったです。一番きつかったのは74年6月2日、「魔の30度バンク」と呼ばれた富士スピードウェイ第一コーナーで起きた多重接触事故の原因を作ったとされる黒沢元治の取材でした。この事故で鈴木誠一と風戸裕の2人が死亡。黒沢はレース関係者から糾弾され、捜査当局からは殺人罪を問われかけました。結局、立件されることはありませんでしたが、レーサーたちの心に深い傷跡を残したのです。黒沢に3時間以上インタビューしましたが、風戸の父親から「君に何一つ責任はないから気にしないでくれ」と言われ、救われたという言葉が30年間閉ざしてきた彼の心の闇を明かした一瞬だったと思います。
| 経済政策を歴史に学ぶ | |
![]() | 田中 秀臣 ソフトバンククリエイティブ 2006-08-17 売り上げランキング : 57616 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
格差社会の真相と小泉政権の「負の遺産」とは何か。著者は、「市場の失敗」を正すには政府の積極的な財政・金融政策の適用が必要であるとするリフレ経済学の立場から小泉政権の構造改革を改めて見つめ直す。1920年代から30年代の日本の昭和恐慌、世界の大恐慌時代の政策論争にまで遡り、「ポスト小泉」の政策を探る。
| 中東イスラーム民族史―競合するアラブ、イラン、トルコ | |
![]() | 宮田 律 中央公論新社 2006-08 売り上げランキング : 25593 おすすめ平均 ![]() 特にイランに関する記述が秀逸Amazonで詳しく見る by G-Tools |
イスラムを共通の基盤とし、中東を構成してきたアラブ、イラン、トルコの3民族を歴史的視点から捉える。イラク戦争後の新秩序を模索するイラク、核開発をめぐって西欧との対立を深めるイラン、クルド人独立運動など多様性の問題を抱えるトルコ。競合と協調を繰り返してきた民族の歴史に、米、欧、露、イスラエルが加わり、複雑化する中東のダイナミズムを探る。
| ドイツ病に学べ | |
![]() | 熊谷 徹 新潮社 2006-08-24 売り上げランキング : 42600 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「ドイツにはなぜ400万人を超える失業者がいるのか」「旧東ドイツはなぜいまだに経済状態が悪いのか」――16年間ドイツに住むジャーナリストの著者が、こうした疑問に答え、グローバル化の対応に遅れ、経済や社会の様々な側面できしみが出ているドイツを、エピソードやデータを交えて浮き彫りにした1冊。
| 二代目経営塾 | |
![]() | 関 満博 日経BP社 2006-08-18 売り上げランキング : 4247 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の中小企業のキーワードは「対中認識」「産学官連携」、そして「後継者問題」だと著者は言う。次世代を担う若手経営者たちの事業革新や新規事業、女性経営者、中国での事業継承など、テーマごとに35社の中小製造業を取り上げ、成功の秘密を探る。
| 脳のなかの水分子―意識が創られるとき | |
![]() | 中田 力 紀伊國屋書店 2006-08 売り上げランキング : 928 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
全身麻酔はなぜ人間の意識を抑えるのか。「薬剤が脳のなかの水分子を結晶化させる」というライナス・ポーリング博士の、従来の説を覆す論文に出会った著者は、「意識と水分子」の謎に挑んだ。意識は脳のなかの水から生まれるのか。著者30年の歩みを語る。
| 大丈夫か、日台関係 | |
![]() | 内田 勝久 産経新聞出版 2006-05-25 売り上げランキング : 30171 おすすめ平均 ![]() 日台関係はなぜ重要なのかAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「台湾大使」として2002年から05年までの3年間、交流協会台北事務所長を務めた著者が、日本政府と現地の間で感じた矛盾をはじめ、政治、経済、文化、人間模様など、台湾の現状を体験的に語る。
| 国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来 | |
![]() | 富田 俊基 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 6021 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国家の帰趨を左右する力を持つ国債金利の変動とは何か
イギリス名誉革命以降の諸国の国債の歴史について、学問的裏づけをもって展望した書である。国債の歴史は資本主義、民主主義の歴史とともにあることが実感できる。
絶対王政の君主が自らの領土を拡大すべく戦費を調達するために、身勝手な重税を課そうとしたことが市民革命の発端の一つとなったのだが、それと同時に、途方もない額の債務も負っていた。この反省が、今日の財政民主主義を導いた。租税法律主義(課税するときには議会で法律を制定しなければならない)のみならず、国債発行の上限を議会で定めることも、民主主義にとって重要なルールとなった。徴税権と通貨鋳造特権が国家に与えられているのは、絶対王政も民主主義国家も同じだが、これらをいかに節度ある形で行使するかが鍵である。
増税に反対する国民、支出増大を促す社会・経済構造の変化を背景に、国債増発の誘惑は常につきまとう。本書では、帝政ロシア、ナチスドイツ、戦前の日本の国債を例示して、破局の引き金は戦争ではあるが、その裏側で当初比較的低金利で発行できたために増発した国債が、最後には累増して事実上のデフォルトに至る過程があったことを、生々しく描いている。その生々しさは、当時の金利や物価の変動や国債発行の推移を、今日よく用いられるグラフの形で示していることからも醸し出されている。
それとともに、国債市場という、資本主義の市場形成に重要な役割を果たす機構を、各国各時期において的確に考察している点は、他に類のない本書の特徴である。
国債は、単に国の財政政策の産物にとどまるものではない。債権者があっての国債である。その需給構造の中で国債金利が決まる。特に世界大恐慌以前の資本主義は、各種の規制がない点で今日の資本主義よりも原理的なものであり、その時代の国債市場の動きは人々の思惑が率直に現れる。国債金利は、国家の帰趨を左右すると言って過言でないほど、ものを言う。国債金利の変動の意図を理解する重要性を、本書は教えてくれる。
本書のなかで「ポスト小泉」の日本にとって示唆深いのは、財政再建に取り組んだ過去の事例である。第一次大戦後のフランスの財政危機を救った「ポアンカレの奇跡」や、1951年のアメリカのアコード(財務省と連邦準備制度理事会の合意)を題材とした考察は、国債管理政策の成功要因についての教訓をうまく引き出している。「ポスト小泉」政権では、やはり財政健全化が最優先課題である。【評者 土居丈朗(慶応義塾大学経済学部助教授)】
| 日中関係―戦後から新時代へ | |
![]() | 毛里 和子 岩波書店 2006-06 売り上げランキング : 4744 おすすめ平均 ![]() 入門にも最適 バランスの取れた論考Amazonで詳しく見る by G-Tools |
戦後の日中関係の基層と構造変化を読み解く
心理学に「誤った信念の課題」という実験がある。幼児に対して他人の「こころ」がわかるかどうかを調べるものだ。通常は4歳でこの能力(メタ認知)が備わる。幼児ならば、他人の気持ちなどお構いなしに「行きたいから行く」でも許される。しかし、64歳の首相が「ブッシュ大統領が靖国参拝するなと言ったとしてもね、私は行きます」と言うのはどんなものか。
日中関係は病理的状況にある。国内にもウイルスは蔓延しつつある。首相が靖国参拝した8月15日夕刻、首相の破壊的アジア外交を批判してきたかつての盟友、加藤紘一衆議院議員の自宅に右翼が侵入して全焼させたとみられる事件が起きた。われわれは新しい戦前のとば口に立っているらしい。
この時代閉塞のなかで、書かれるべき本が最良の書き手によって生み出されたのは、一つの希望であり救いでもある。著者は現代中国研究のトップランナーとして激動する中国政治を冷静に観察し、巨大な学問的蓄積を重ねてきた。自ら「遺言」という本書では、抑制された筆致のなかにも「首相一人の『文化』、『心』の問題で日中関係がこれほどこじれることを、『異常だ』と思うべきだろう」と苦渋をにじませる。
もちろん本書の主題は靖国論ではなく、戦後の日中関係の基層と構造変化を読み解くことである。毛里教授の時期区分は、(1)1949年から71年までの冷戦のなかの対立期、(2)国交正常化以降の70年代の戦略的友好期、(3)80~90年代半ばまでの安定・発展期、(4)90年代後半から2004年までの構造変動期、(5)05年の反日デモ以降である。
構造変動の背景として日中の経済パフォーマンスの大きな格差が中国の大国意識を目覚めさせ、アジアにおけるパワーシフトをもたらしたことが指摘される。日本の「失われた10年」が国内経済にとどまらず、国際政治に及ぼした影響を知って慄然とさせられる。中国にとっても対日関係は政権の存立にかかわる。とくに、以前は無視することができた「世論」がインターネット時代に入って制御不能なまでに膨張し、圧力をかけるようになっている。
日中関係は、そのときどきの両国のリーダーの個性と相性に左右されてきた。きわめて属人的であり偶然に依存する部分が大きく脆弱である。次期首相は「相手に対するある種の敬意と信頼感なしに外交交渉は実らない」という当然の立脚点まで立ち戻るのが先決である。
日本にも中国にも実行可能な、現実的なメッセージが提示されている。【評者 高橋克秀(神戸大学大学院経済学研究科助教授)】
| 抹殺部隊インクレメント | |
![]() | クリス ライアン Chris Ryan 伏見 威蕃 早川書房 2006-07-21 売り上げランキング : 30527 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 暁への疾走 | |
![]() | ロブ ライアン Rob Ryan 鈴木 恵 文藝春秋 2006-07 売り上げランキング : 29837 おすすめ平均 ![]() レーサーがレジスタンスとして活躍…には違いないけどAmazonで詳しく見る by G-Tools |
今回は2人ライアンでいこう。
クリス・ライアン『抹殺部隊インクレメント』(ハヤカワ文庫、945円)は、元特殊部隊SAS隊員を主人公とするシリーズの新作。前作はアルカイダの資金を横取りする話だったが、本作の趣向は「内部の敵」パターンだ。
主人公が医薬品メーカーから極秘に受けた作戦は、特許薬品をコピーし密造する「無法者」の工場を徹底的に破壊せよというもの。
場所はベラルーシ、旧ソ連のなかでもとりわけ厄介な土地。《法が及ばない東欧の辺境地帯、異常者のマフィア、元KGB将校、管理の杜撰な核兵器がごろごろしている国》――最近のスパイアクションではおなじみの紛争地帯だ。作戦の進行とともに、イギリス国内では元兵士の引き起こす悲惨な事件が続発し、その後始末をして回る暗殺部隊の影もちらつく。
というわけで話は、アフガン戦争、湾岸戦争の時期にまでさかのぼる。ついこのあいだとはいえ、どこか遠い20世紀末の出来事だ。「卑劣な戦争」を遂行するための「勇敢な兵士」。薬物でコントロールされた兵士たちを襲う運命は? アクションシーンの迫力で一家をなした作者がプラスアルファの魅力をアピールする挑戦作だ。
ロブ・ライアン『暁への疾走』(文春文庫、810円)は、第二次大戦時、ドイツ占領下パリのレジスタンスの話。正直なところ、今さらの感じもしなくはない背景だが、これがゴージャスな冒険ロマンに仕上がっている。
主人公は愛国の闘士ではなく、スピードに命を賭けるカーレーサー。非合理な悪に立ち向かう伊達男と美女が織り成す愛と友情と誇りの1篇。話はともかく思いきり古く、古いものにこそ価値は宿ることを実証した。『鷲は舞い降りた』のヒギンズ節を思い出す読者も多いだろう。実在の人物をベースにしたフィクションというから二重の驚きだ。【野崎六助 (作家・評論家)】
| 鞍馬天狗とは何者か―大仏次郎の戦中と戦後 | |
![]() | 小川 和也 藤原書店 2006-07 売り上げランキング : 169718 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 小川和也(一橋大学大学院・博士課程在学中、日本思想・近世思想史)
鞍馬天狗を生んだリベラリストの葛藤
――颯爽と白馬にまたがって現れ、悪を斬る黒頭巾の剣士、鞍馬天狗は、大正から昭和に一世を風靡した時代劇・小説のヒーローですが、生みの親の作家・大佛次郎さんは外務省出身のエリートで、『ドレフュス事件』『パリ燃ゆ』『天皇の世紀』などのノンフィクションを著したリベラリストです。
■鞍馬天狗誕生は外務省時代に大量に購入した洋書の借金返済で筆をとったのが真相ですが、これが大当たりした。第1作が出たのは1924(大正13)年、大正デモクラシーの余韻が残る時代。しかし一方では不況の嵐が吹き荒れ、労働争議が多発、前年には関東大震災で首都が焦土と化しています。そうしたなかで鞍馬天狗は、国民が待ち望んだ英雄像だったのではないでしょうか。
――モデルは坂本龍馬だった?
■鞍馬天狗は幕末の勤皇の志士という設定ですが、組織に属さず、ただひとり「人道の敵」に立ち向かう孤高の存在です。龍馬も土佐勤皇党などの党派に属さず単独行動で、新撰組と闘い、倒幕を果たす。実は、小説には西郷隆盛や勝海舟など実在のスターが登場するのに、なぜか龍馬は出てこないんです。約40年にわたって書き継がれたシリーズで唯一、最後の作品に登場するだけ。これはいわゆる「キャラクターがかぶる」からだと思われるのです。
――大佛さんの戦中の言動には封印された「空白」が存在し、その頃に書かれた随筆を掘り起こしてみると、戦争協力につながる文章があったという衝撃的な事実が明らかにされています。
■「反戦の知識人」のイメージが強い大佛さんだけに、国民に戦争遂行を促す文章を目にした時には正直、驚きました。ナチズム批判をしていたにもかかわらず、その数年後の39年には来日したヒトラー・ユーゲントを賛美している文章にもぶつかりました。これをどう解釈すればよいのか。
――38年の満州訪問と、満鉄の人々との出会いが一つの転機だったのではないかと書いています。
■当時、大陸には「満鉄リベラリズム」と呼ばれる自由な空気が存在していました。大佛さんには、「五族協和」や「八紘一宇」といった思想が、満鉄社員や開拓移民によって、侵略のスローガンではなく文化主義として国境を超えて広く実現しているように見えたようです。目的のために精神と肉体を集中し、行動している人々への共感が強いんですね。それは特攻隊への共感をつづった文章にも現れています。
大佛さんの心中には常に軍国主義に対する反発と、「国民」との連帯感があった。前線で死んでいくのは徴兵された国民です。その犠牲を無駄にしないために「戦争に勝たずにいられるか」という、戦争協力と非戦・軍部批判の複雑な論理の同居があった。国民大衆の味方として権力と闘い、闇を切り拓こうとする鞍馬天狗が、戦中・戦後と、長く書き継がれた秘密もそこにあると思います。
もし大佛さんが生きておられたら、戦争協力に軍部の強制があったのかどうか、そこを聞いてみたいですね。
| トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇 | |
![]() | 『週刊東洋経済』村上ファンド特別取材班 東洋経済新報社 2006-07-28 売り上げランキング : 3765 おすすめ平均 ![]() 聞きかじった断片的な情報を羅列して無理して村上叩きをやっている本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
村上ファンドの村上世彰・前代表逮捕と、その後に発覚した福井俊彦・日銀総裁の村上ファンドへの出資。村上被告は「私は絶対に逮捕されない」と豪語していたそうだが、背後には政・官・財を巻き込む闇の構図があるのだろうか。「報道のあり方」をも含め、村上ファンド事件の人脈と構図を追う。
| 検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた! 中小企業のWeb2.0革命 | |
![]() | 佐々木 俊尚 ソフトバンククリエイティブ 2006-08-01 売り上げランキング : 2321 おすすめ平均 ![]() 切り口の違う2.0本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ウエブ2・0がビジネスを大きく変えると言われる。実はその本質的変化は、大企業でも先端テクノロジーの世界でもなく、中小・零細企業から始まっているのだと著者は指摘する。福井県の老舗の鯖寿司店、東京・品川の屋形船、書類の保管ビジネスに乗り出した福岡県の倉庫会社など、「検索エンジン」を武器に挑戦する中小企業のウエブ2・0革命を紹介する。
| アメリカ型不安社会でいいのか―格差・年金・失業・少子化問題への処方せん | |
![]() | 橘木 俊詔 朝日新聞社 2006-08 売り上げランキング : 3111 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
働いているのに貧困から抜け出せないワーキングプアの問題が、時代のキーワードになりつつある。景気回復といいながら不安感の拭えない、この日本の現状をどうするのか。格差拡大、フリーター、年金改革、少子・高齢社会などの問題を、アメリカとヨーロッパの対応策を比較しながら検証。日本の取るべき道を探る。
| 株への投資力を鍛える―稼ぐ銘柄選びのシナリオ | |
![]() | 馬渕 治好 東洋経済新報社 2006-08 売り上げランキング : 33180 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「父ちゃんの立場指数」で経済の動向を占う、「エビとオペラ」とマクロ対ミクロ、マラドーナ現象と中央銀行と市場の戦い、世界の市場とオイルマネーとファンドの動きなど、まず経済・市場分析のポイントを押さえ、「稼ぐ銘柄選びのシナリオ」を伝授する。
| 日本の女性天皇 | |
![]() | 荒木 敏夫 小学館 2006-08-04 売り上げランキング : 58017 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本にはこれまで8人10代の女性天皇が存在した。古代から江戸期、6世紀末から8世紀末の200年間に限れば、実に92年を女性天皇が統治していたのだ。女性天皇は「シャーマン」なのか「中継ぎ」なのか、それとも……。女性天皇をめぐる歴史の真実を探る。
| 小心者の大ジョッキ | |
![]() | 端田 晶 講談社 2006-07-28 売り上げランキング : 6336 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
恵比寿麦酒記念館の館長が語るビールの話あれこれ。ビヤホールを作ったのは日本人だった! 二日酔いの妙薬は犬の毛? ビールのポスターになった映画女優は売れる? 愉快なエピソードから美味しい飲み方までが満載。







読み応えあり→福沢・鈴木誠一・風戸。


















