メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年9月19日~9月26日

誰のための会社にするか
誰のための会社にするかロナルド ドーア Ronald Dore

岩波書店 2006-07
売り上げランキング : 5511

おすすめ平均 star
star同一論旨の繰り返しは気になるが分かり易い好著
star切り口が面白いです

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「準共同体的企業」という「日本流」を捨ててはいけない

「会社とは株主のものである。だから株主重視の経営をしなければならない」という株主資本主義論が流行したが、それに対して著者は強く反対してきた。

そうした株主重視の「株主所有企業」に対して、著者は日本の実情に合った企業制度の提案をしていく。

日本の会社は、ステークホルダー(企業の利害関係者)、とりわけ従業員を大切にする「準共同体的企業」であり、そこでは従業員がみな会社のために一所懸命に働き、会社に忠誠をつくした人が、やがて社長になっていく。

ところがバブル崩壊以後、この「準共同体的企業」を支えた枠組みである株式相互持ち合いが崩れ、機関投資家が大株主として登場し、そこから敵対的企業買収の脅威が増大してきた。

そしてグローバリゼーションの名のもとに経済学者や法律学者が株主資本主義を唱え、政府の役人もそれに加担して法律を改正し、日本の会社を「株主所有企業」にしようとしている。

ライブドアや村上ファンドも、こういう潮流のなかから生まれたのだが、著者は、これが日本の企業をだめにすると警告する。

そして、これまでの日本の「準共同体的企業」の良さを守るとともに、それをさらに改革するために、企業議会を作って従業員を経営に参加させ、そして、付加価値計算書を各企業に発表させる。また、敵対的企業買収に対抗するために、M&A審査会を作る、などの提案を行っている。

さらに、株式相互持ち合いを再構築せよ、と言い、新日本製鉄と住友金属工業、神戸製鋼所の3社間で、敵対的買収に対する防衛策として株式持ち合いを行う計画が進められていることについて言及している。

しかし、同業者間でのこのような株式持ち合いが今後、大規模に行われることを期待するのは無理ではないか。「準共同体的企業」を守るにせよ、あるいは「株主所有企業」にするにせよ、いずれもそこには大きな壁が立ちふさがっている。それほど困難な局面に日本の株式会社は直面しているし、またアメリカの株式会社もその意味で危機に直面している。

著者は、アメリカ帰りの経済学者たちが、アメリカ型がグローバル・スタンダードだとして宣伝してきたことを厳しく批判しているが、輸入理論の紹介を職業としてきた日本の学者のあり方に対する批判は多くの学者にとって耳の痛い話だろう。

同様のことは、経済産業省をはじめとする官僚たちについても言えることだ。【評者 奥村宏(株式会社研究家)】

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

二代目経営塾
二代目経営塾関 満博

日経BP社 2006-08-18
売り上げランキング : 26882


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ケーススタディーに見る元気な中小企業の後継者問題

日本の中小企業、なかでも製造業を取り巻く環境は長い間、苦しい状況にあった。隣国中国が低廉な人件費を武器に世界の工場に発展していくのに合わせて、発注先や親会社の工場は中国に進出していった。

仕事はなくなり、しかもバブル経済崩壊後は長期不況が続いた。デフレ経済の下で売り上げも利益も減少した。そのうえに、ずっと以前からの後継者難が加わり、廃業や倒産が相次いで中小企業の数は減り続けた。長く中小企業の現場を観察し、研究し続けてきた著者には、辛い時期が続いただろう。

しかし、著者は光明を見いだしたようだ。著者は2001年以降、りそな総研の「マスターコース」をはじめとして、全国で中小企業の「後継者育成塾」を主宰している。その結果、中小企業の問題とは、仕事の発注先が外に出てしまうことや不況、デフレではなく、後継者の問題だと確信するに至った。

経済のグローバル化、東アジア経済の急成長、情報通信革命などで、大企業も含めて製造業は従来のやり方では通用しない。それより、やる気と能力のある後継者さえいれば、中小企業は新しい時代の新しい道に踏み出していけると確信したのだ。

さらに、後継者には先代の子女がもっとも望ましいということも確信した。従来の、血縁よりも能力で後継者を選ぶべきだという考え方との決別である。それは、中小企業経営者という激しい生き方が必要とされる選択は、安定を優先する会社員の家庭出身の人々には難しいという理由による。

本書は、そうした元気で性格もカンもいい後継者たち35人のケーススタディーである。

後継者は6種類に分類されている。「父の代の仕事を劇的に変える」「第二創業、新規事業分野に向かう」「引き継いだ仕事を着実に深める」「女性後継者たちの登場」「中国の事業継承の『現場』で、何が起きているのか」「父からの独立」の6種類だ。女性と中国が登場していることが時代を表している。

後継者育成塾主宰の経験を踏まえて著者は、日本には優秀な後継者候補がたくさんいることも確信している。彼らに、事業を継ぐことの意義と有利さを説き、孤立しがちの彼らに同じ後継者の仲間を紹介し、国内や中国の中小企業集積地を見せて刺激を与えれば、彼らの目の色や表情が変わってくる。

著者は、そうした取り組みを通じて中小企業の後継者問題は解決できると確信した。中小企業の明るい書である。【評者 北村龍行(毎日新聞論説委員)】

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

殿様の通信簿
殿様の通信簿磯田 道史

朝日新聞社 2006-06
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おすすめ平均 star
star「殿様たち」の再現ドラマ
star面白かった! 
star馬鹿殿ではありません

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著者インタビュー 阿部力也(世田谷区議会議員)

国民の知らない特権はまだまだある

――例の小泉チルドレンの一人が「すげー、なんと年収が2500万円!」と発言して話題になりましたが、一般に比べてかなり高額なところから、国民がこうした議員特権に関心を持つきっかけになりました。

■歳費だけだと年間2230万円ですが、世界でも最高レベルです。しかも収入はこれだけではないんですよ。また議員年金とか議員宿舎とか一部の特権は報道されましたが、まだまだ国民の知らない特権はあります。

――阿部さんは以前は国会議員秘書を務め、今も現役の区議会議員です。いわば身内からの「告発」ですが、どうして本を書こうと思ったんですか。

■告発ではありません。永田町にいる時は、気が付きませんでしたが、地方議員になって初めて国会議員とのギャップに驚きました。そもそも国民がこうした議員特権について知らないので、改善の声も出ない。それなら特権を公開して、改善のきっかけになればと思ったんです。

――地方議員にだって特権があるんじゃないですか? ■ なってみてわかったんですが、地方議員の場合はかなり改革が進んでいます。物見遊山という批判の高い海外視察も、まだやっている自治体はありますが、少なくとも世田谷区はありません。政務調査費も、領収証や細かな報告が義務づけられていて、ガラス張りになっている。ところが国会議員はそうじゃないんです。

――領収証が要らない毎月100万円の「文書通信交通滞在費」ですね。 ■国会議員は、JRパスがもらえるのでJRは無料。私鉄もタダ。しかも公用車が配備され、国会休会中も、日曜祝日でも自由に使える。議員会館からは都内なら電話も無料ですから。

――交通費や通信費をもらっているのに、この優遇はおかしいと思います。

■二重取りの構造ですよね。説明が付かない。JRや電話代も、議員の財布からは出ないが、国会がちゃんと払っている。つまり税金なんです。実費精算にすべきですよ。

――豪華な議員宿舎に批判が集まっていますが、議員宿舎があるのに滞在費が出るのも不思議です。都内や首都圏選出で、国会へ通える自宅があるのに議員宿舎を使っている人もいる。

■だから使い道がなく、例の小泉チルドレンが「丸々100万円余った」と言ったと聞きました。議員の小遣いといわれてもしょうがない。

――こういう特権を決めているのが国会議員自身と聞くと、脱力してしまいます。今後改善できるのでしょうか。

■政治をやることで自分の懐を温めているということが、国民から見えてしまっている。だから改善しなければならないという認識のある議員は、民主党にも自民党も増えてきてはいます。わかりやすい改革なんですが、国会議員で得する人がいないことと、生活に直結しないので有権者へのアピール度がさほどないから、なかなか進まないんです。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

2010年の企業通貨―グーグルゾン時代のポイントエコノミー
2010年の企業通貨―グーグルゾン時代のポイントエコノミー野村総合研究所情報通信コンサルティング一部企業通貨プロジェクトチーム

東洋経済新報社 2006-09
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おすすめ平均 star
star今やホットトピックのポイント・電子マネーをよくまとめている

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住宅ローンでマイレージがたまる航空会社のサービスなど、ポイントサービスが企業の垣根を超えて多種多様な広がりを見せている。カードなどに蓄積されて電子的価値を持ち、一種の通貨として少額の決済にも利用されるこうしたサービスは、推計で年間5000億円程度を超えるという。電子マネーの概念を大きく変える最近の動きを追い、企業通貨の未来を考える。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

中心市街地活性化三法改正とまちづくり
中心市街地活性化三法改正とまちづくり矢作 弘 瀬田 史彦

学芸出版社 2006-09
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人口減少・高齢化社会を迎え、都市圏をいかに再構築するか。まちづくり3法(中心市街地活性化法・改正都市計画法・大規模小売店舗立地法)改正を中心に、ものづくりのまち尼崎、佐世保市の大型店進出問題、東北地方のコンパクトシティ論、TMO(タウンマネジメント機関)など、実例に即して現状と課題を検討する。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

下流社会マーケティング
下流社会マーケティング三浦 展

日本実業出版社 2006-09-05
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中流が減少して「上」と「下」が増加する時代と言われる。そうした階層化社会の現実をふまえ、団塊世代、新人類、団塊ジュニアの世代ごとのライフスタイルや消費動向を分析する。団塊ジュニアのデザイン志向を分析したデザインマーケティング論も収録。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

東京名画座グラフィティ
東京名画座グラフィティ田沢 竜次

平凡社 2006-09-12
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1960年代末から70年代、名画座と呼ばれる映画館が輝きを放った時代があった。封切館の華やかさとは一線を画し、旧作、名作のラインナップ、オールナイト上映など館独自の路線が人気だった。池袋文芸坐をはじめ、東京の名画座とその時代を語る。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

YS-11世界を翔けた日本の翼
YS-11世界を翔けた日本の翼中村 浩美

祥伝社 2006-08
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おすすめ平均 star
starまた違った切り口の一冊

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日本が第2次大戦後初めて開発したYS―11が、ついに9月末で国内の旅客輸送から退役する。1972年の製造中止以来、30年以上を飛び続けた後のリタイアとなる。YS―11開発に込められた情熱と頭脳の足跡をたどる。

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って
白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って前田 速夫

河出書房新社 2006-07-11
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おすすめ平均 star
starもっとヨタ歩きして欲しい。

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白山信仰 空白の“中世”に迫る

加賀の白山といえば、山岳信仰等々むずかしいことはさて置き、私にも多少の思い入れがないではない。まだ20歳代のサラリーマンの頃、友人と岐阜から白川郷へ遊びに行った時、郡上八幡の北方で眺めた白山山頂の神々しいまでの白さは、いまだにまぶたに焼きついている。

その印象もあって、翌年夏に白山登頂の計画を立て、あわよくば南尾根を縦走し、越前の石徹白まで長駆する山旅に出発したのだが、金沢で雨に降り込められ、山頂はおろか、途中で泣く泣く引き返さざるを得なかった。以来私にとって、白山は見果てぬ夢となって今に至っている。

私事はともかくとして、白山は公に言われる養老元(717)年の泰澄による開山以前に、山岳信仰の霊場であったことは確実で、かつてはイザナミを祀り、やがてそれが菊理姫に転じたことはよく知られている。しかしこの地は中世に一向一揆が跳梁し、それへの弾圧もあって史料は煙滅し、わずかに『白山宮荘厳講中記録』なる年代記1点を除いて皆目記録が残っておらぬことで、史家を悩ませてきた。

前田速夫著『白の民俗学へ』(河出書房新社、2100円)は、民俗学の立場から、白山信仰の空白の"中世"に切り込もうとした意欲作である。

眼目は、全国ことに東日本の被差別集落に多く白山神が祀られているのは何故か、という命題に絞られる。私自身も学生の頃、被差別問題研究の先達、林屋辰三郎先生からこれを聞かされ、印象に残っていたが、長らく学界でもタブーであったようで、納得のいく解答に出会ったことはなかった。

著者によれば、すでに柳田国男が早くからこれを指摘し、天才的な文化人類学者、ニコライ=ネフスキーもこの問題を考えていたようである。通説では浅草弾左衛門が息子の病気平癒を白山に祈り、願かない家内に白山神を祀ったのが始まりというが、著者はもっと根源的な解答を求めて中世神仏の世界を探り進む。本書は近年の若者の宗教離れ、民俗離れを嘆く悲憤慷慨の書でもあり、警世の書とも読めるが、読み進めるにつれ、肩が凝らず、興味はますます涌いてくる。近頃の快著だ。【今谷明 国際日本文化研究センター教授】

■2006/09/26, 毎日エコノミスト

トカゲの脳と意地悪な市場
トカゲの脳と意地悪な市場テリー バーナム Terry Burnham 柳沢 逸司

晃洋書房 2006-08
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おすすめ平均 star
star新ネタ少ない

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理論通りには動かない市場と人間の本源的能力の関係を探る

本書は、元ハーバード大学経済学教授で現在、投資顧問会社の経済部長をしているテリー・バーナム氏による投資指南書だ。

タイトルの「トカゲの脳」の意味は、太古に人類が持っていた食物を探したり子孫を残すための本源的な能力である。また、市場では金融資産の価格が思いもよらぬ動きをして投資家を困らせることがよくある。そのため市場は投資家に意地悪だという。これら二つの要因をつなげると、人間が本源的に持つトカゲの脳では意地悪な金融市場に勝つことが難しいという結論になる。

なぜかというと、トカゲの脳は元来、市場での金融資産の動きに対応する能力を備えていないからだ。そこでバーナム氏は、投資家が市場で勝利を収めようと思うのなら、トカゲの脳を克服して、論理的な脳である前頭葉を駆使することを推奨する。この論理展開には相応の説得力がある。

最近、行動系のファイナンス理論などでは、「金融市場は理論通りに動かない」と指摘する専門家が多い。特に、実際に市場でオペレーションを行う実務家の間では、そうした指摘に賛同する声が多い。ただし、これらの見方では、市場の構成員である投資家は生身の人間であり、間違いもするし、感情的になったりする。そのため、市場は理論的な間違いを犯すことがあるとの結論で止まっている。多くの実証研究は、市場は効率的に動くという効率的市場仮説を反証すること、及び、そうした事象(アノマリー)が、どのような背景で発生するかを解析することが主な目的になっている。

本書は、もう一歩進んで、投資家である人間が合理的に投資行動を行えないのは、トカゲの脳に依存していることが原因だと断じている。この点については、もう少し説得力のある説明がほしいところだが、論理展開としては興味深い。またバーナム氏は、米国経済やインフレに対する見方、債券・株式・不動産に対する投資のアドバイスを書き加えている。一つの考え方として、参考になる部分も多いだろう。

ただ、同氏の考え方やアドバイスの論理立てがどの部分もやや漠としているのが気になる。もう少しストレートに単純明快に理由を説明するほうが読者にとっては親切だと感じる。また、本書で使われている専門用語の訳にやや難解な部分がある。国内の市場関係者や研究者の間では、最近かなり専門用語の訳語が定着している。そうした訳語を使ったほうが読み手にとってはわかりやすいだろう。【評者 真壁昭夫(信州大学教授)】

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

資本主義から市民主義へ
資本主義から市民主義へ岩井 克人 三浦 雅士

新書館 2006-07
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おすすめ平均 star
star総決算
star岩井経済学のフィロソフィー

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経済学者vs文芸評論家が挑む貨幣論から人間論まで

通底する主題は、「貨幣は貨幣として使われるから貨幣である」。そこから展開して、「言語・法・貨幣はデファクト・スタンダードであって自己循環論法によって成立しているにすぎない」。「法人はモノであって同時にヒトである」。ヒトである法人が契約を結ぶには、代表取締役という生身の人間がいなければならないが、法人と代表取締役との関係は、契約関係ではありえず、倫理が必要な「信任関係」である――。

『貨幣論』『二十一世紀の資本主義論』『会社はこれからどうなるのか』などの著書で、こうした主題を展開している経済学者に、手練の文芸評論家が切り込めばどうなるか。その面白さで本書は成り立っていると言っていい。

たとえば法人論。資本主義は契約関係で成り立つと言われているが、実は根源には、信任関係がある。だから「資本主義社会は倫理性を絶対に必要とする」と言う経済学者に対して、文芸評論家は、こう挑発する。

言語・法・貨幣が自己循環論法によって成り立っているということは、そこには「中心もなければ底もない」。ポストモダンの哲学者リオタールふうに言えば、「大文字」はない、つまり超越的理念などない。しかし、「小文字」の倫理は個人の趣味の問題であって、倫理というものは、なんらかのかたちで「大文字」であらざるをえない。だから「倫理性の問題そのものが、ほかならぬ岩井さんの理論によって成立しえない」。二律背反の問題が突きつけられている、と。

これに経済学者は「ポストモダン、ポスト産業資本主義が全面化するなかで、倫理性なるものがはじめてクリティカルなところで問われるようになった」と答える、といった具合。

言語・法・貨幣という社会の基本的な仕組みがデファクトスタンダードにすぎない、つまり確たる根拠をもたないことで、自己崩壊の「底なしの不気味さ」(だからこそハイパーインフレーションも起きれば、パニックも起きる)を見る文芸評論家。それを承知のうえで、そこから(法に対応する)国家と(貨幣に対応する)資本主義のどちらにも還元されない活動領域としての市民社会を、倫理をてこに構想する経済学者。その対話はさまざまなジャンルに飛躍して、飽きさせない。

批判は当然ある。また、7年にわたって季刊誌に断続的に掲載された(最終章は語りおろし)ためか、重複、繰り返しの多さには閉口させられるが、脳の刺激になることは間違いない。【評者 西和久(毎日新聞編集委員)】

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

税財政の本道―国のかたちを見すえて
税財政の本道―国のかたちを見すえて大武 健一郎

東洋経済新報社 2006-07
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著者インタビュー 大武健一郎(前国税庁長官、商工中金副理事長)

どういう国を選択するのか議論は早くやってほしい

――国家の役割や戦略を最も重視した本ですね。

■税には財源調達以外に、経済や社会構造に大きな影響を与える機能があります。右肩下がりの経済を迎え、付加価値を上げない限り、税財政には自然減収すら生じてきます。生産年齢人口が減少し、超高齢者が急増する「人口逆ボーナス」時代に突入し、2025年には5~6人に1人、田舎では2~3人に1人が75歳以上になります。地方中核都市に大病院を作り、高齢者の住居や施設を集中化させなければなりません。真に困った時に対応するため、日ごろは国や自治体に頼るのではなく、自分のことは自分でやることが重要です。

――財政状況の深刻度は?

■一般会計で国債費と地方交付税交付金を除いた一般歳出(46兆円)すら税収(45兆円)で賄えない状況のなか、06年度予算でなお30兆円の新規国債発行が予定され、借り換え債、財政融資特会債を合わせると165兆円の国債発行が見込まれます。これだけの国債ストックだから金利が1%上がれば一般会計の歳出は4兆円膨らむ。国債を引き受けていた郵便貯金も、民営化すれば利回りのいい外国債運用に入る。その分、国債は外国の投資家や政府に買ってもらわざるをえなくなります。

――「経済を活性化しつつ、消費税の引き上げ時期が来た」と強調しています。引き上げの時期と規模は?

■物価の急激な上昇は避けなければならないから、引き上げ率は5年くらいに1度、3%程度に限られます。来年1月から所得税の定率減税が全廃されるので、経済活性化策いかんですが、08年1月ごろの引き上げが適当です。

――格差社会批判をどうみますか。

■世界各国と比べれば日本に本当の格差は極めて少ない。最近流行の「下流社会」論は、自分の果たすべき役割を果たさないための抗弁になりがち。経営者として大事なのは、まず時代に合っているか、次に本業には惜しみなく金を使うが、それ以外はドケチであること。ヒルズ族も時代には合っているが、本業以外にドケチを貫かないと長続きしません。

――歴代在位3位の小泉純一郎首相の5年半をどう総括しますか?

■小泉さんは競争社会を生き抜くという国のかたちを唱え、今までにない手法でマスコミを通じて直接国民に語りかけた。私も財務省主税局長として、「公平、中立、簡素」から「公平、簡素、選択」を打ち出した。既成の権力を壊すのに中立は一番いいが、新しい国を作っていくには国民全体での選択が必要です。小泉内閣は過去のしがらみを捨てることが第一でした。

――自民党総裁選での税財政論議が不十分ではないですか。

■どういう国を選択するかという議論は早くやってほしい。国や自治体の役割を大幅縮小し、支出を削減しなければ、財政再建はできるはずもない。再チャレンジだけじゃありません。田舎を回ってみて、チャレンジできる人は2割、できない人は8割。できない人への活路を見いだすことが大切です。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

公益を実践した実業界の巨人 渋沢栄一を歩く
公益を実践した実業界の巨人 渋沢栄一を歩く田澤 拓也

小学館 2006-08-25
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明治の代表的実業家、渋沢栄一の足跡をたどる。天保11(1840)年、現在の埼玉県深谷市で藍玉の製造・販売を手がける裕福な農家に生まれた栄一は、昭和6(1931)年に91歳で亡くなるまで、500に及ぶ企業や学校、病院の設立、公共事業等に尽力した。その業績が多く残る首都圏を中心に、ノンフィクション作家が訪ねる。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

所有と国家のゆくえ
所有と国家のゆくえ稲葉 振一郎 立岩 真也

日本放送出版協会 2006-08
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おすすめ平均 star
star道徳と人間の本性

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社会倫理学、社会学の気鋭の研究者ふたりが、「希望の国家論」を語り合う。社会の基礎にある「所有」とは何かという根源の問題を基軸に、不平等はなぜ起きるのか、「市場」が構造的に貧困を生むカラクリ、政府の市場への介入や「分配」の理論的根拠、国家の仕組みと人々の権利、マルクス主義や権力論など、幅広い視点から社会と国家、資本主義の未来を論じる。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

mixiと第二世代ネット革命―無料モデルの新潮流
mixiと第二世代ネット革命―無料モデルの新潮流早稲田大学IT戦略研究所 根来 龍之

東洋経済新報社 2006-08
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会員制ネットサービスのSNSが人気を呼んでいる。会員が友人や知人のリアルな人間関係で成り立っているところがミソだが、なかでもmixiは会員数400万人、1日のページビュー1億8000万と、他のSNSを圧倒する。その収益モデルは? 参加者の行動パターンは? mixiを中心に第二世代ネット革命の本質を探る。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

池上彰のこれでわかった!政治のニュース
池上彰のこれでわかった!政治のニュース池上 彰

実業之日本社 2006-08-31
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小泉内閣退陣、新内閣の成立を目前に、今さら聞けない政治の仕組みをわかりやすく解説する。総理大臣の仕事と内閣の仕組み、国会の仕組み、国会議員の仕事、選挙の仕組みから、憲法改正論を軸にした憲法の問題点まで。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

「9.11」の謎―世界はだまされた!?
「9.11」の謎―世界はだまされた!?成澤 宗男

金曜日 2006-09
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首謀者とされるオサマ・ビンラディンは実は「9・11」に関して正式に起訴されたり告発されたりしていない、犯人とされた自爆テロリストは生きていた、消えた「ビル崩壊の証拠」など、事件には不可解な点が多い。「9・11」の謎とアメリカ政府の動きを追う。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

大相撲大変
大相撲大変松田 忠徳

祥伝社 2006-08
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モンゴル出身の横綱・朝青龍をはじめ外国人力士が大人気だが、本書はモンゴル研究家である著者が、モンゴル出身力士に取材し、モンゴルという国と精神風土、モンゴル相撲との違い、日本相撲へのアドバイスなどを語る。

■2006/09/19, 毎日エコノミスト

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