メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年7月4日~7月11日

戦後戦記 中内ダイエーと高度経済成長の時代
戦後戦記 中内ダイエーと高度経済成長の時代佐野 眞一

平凡社 2006-06-13
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『カリスマ』のその後を追い中内ダイエーを振り返る

編著者の佐野には、中内功とダイエーの盛衰を通して戦後日本における欲望のゆくえを描いた名著『カリスマ』(新潮文庫)がある。本書はその補遺、もしくは資料集に当たっている。

1998年の『カリスマ』出版後、ダイエーは2004年10月に2兆6000億円の有利子負債を抱えて産業再生機構入りし、中内は05年9月、他界した。中内ダイエーに引導を渡したのは小泉=竹中の不良債権処理政策だったが、それは同時に昨今の格差社会をも生み落とした。こうした「その後」を踏まえ、中内ダイエーを振り返ったのが本書である。

構成は、第(1)部が佐野の筆による総括、第(2)部は小田光雄・山田昌弘・中村うさぎ・吉本隆明らによる評論とエッセイ、第(3)部が西武百貨店の経営者として栄光と挫折を体験した堤清二と佐野の対談。ダイエーの折り込みチラシやダイエー関連史などの資料が付せられて、便利だ。

佐野の主張はシンプルであり、かつ、いささか混乱してもいる。冒頭、佐野は、ダイエーの産業再生機構入りをめぐる報道は小さかったが、それは中内の仕事を日本国との暗闘という視点から見ない近視眼ゆえだ、と述べる。

中内はルソン島に「棄民」されるようにして派兵され、損耗率7割という地獄から奇跡の生還を果たした。そのエネルギーを「暗黒大陸」と呼ばれた流通機構の革命に注いだものの、晩年は我執と統合失調気味の経営によってダイエーを崩壊させた。それは中内の運命だが、では日本国は何をしたのか。阪神淡路大震災に際し、ダイエーは目覚ましい活躍を見せたのに、国家は住民を見殺しにし、今また格差社会を容認しているだけじゃないか。中内ダイエーの軌跡は国家批判として語り継ぐべきだ、これが佐野の見方である。

評者としては、国家が戦争や震災に際して国民生活を見殺しにしたという指摘には賛成する。しかし中内が消費者の役に立てたのは一体どれほどの期間だったのか、とも思う。すでに70年代から、ダイエーには「何でもあるが欲しいものはない」という酷評が、味方であるはずの消費者自身から寄せられていた。にもかかわらず中内はその後に2兆円を超える負債を溜め込み、国民に押しつけて逝ったのである。

ダイエーの品揃えは、終戦後や震災時のような乱世にしか通用しなかった。「欲しいものをより安く」という平時の流通の課題に応えなかったことが、中内の歴史的評価を下げた理由であろう。【評者 松原隆一郎(東京大学大学院総合文化研究科教授)】

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

朴正煕、最後の一日―韓国の歴史を変えた銃声
朴正煕、最後の一日―韓国の歴史を変えた銃声趙 甲済 〓 淵弘

草思社 2006-05
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おすすめ平均 star
star他人事ではない。

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暗殺事件当日に的を絞り複雑な人間模様と謎に迫る

最近、韓国保守層のなかで、「第2の朴正煕を!」の声が高まっている。5月の地方選での野党ハンナラ党の圧勝が背景にあるが、その最大功労者が朴槿恵・ハンナラ党前代表で、遊説中に暴漢に襲われたことも手伝って保守総結集の核となった。多くの韓国人は、彼女の姿に1979年10月26日に暗殺された父親の朴正煕・元大統領を重ねる。韓国保守派の精神的支柱であり、今なお現実政治に影響力を与え続ける本書の主人公を知ることは、歴史認識問題でギクシャクしている隣国を内面から理解する機会となろう。

焦点は権力の絶頂にあった朴正煕が側近の金載圭・中央情報部長の凶弾に倒れた「最後の一日」に絞られ、「韓国の歴史を変えた銃声」の真実が、複雑に絡んだ人間模様を解きほぐしながら明らかにされていく。朴正煕研究の第一人者が著したものだけに、綿密な取材は資料的にも価値が高い。

凶行に走る金載圭を一喝、身じろぎもしなかった朴正煕が最後に発した言葉は、「私は大丈夫だ」だった。「自主独立した韓国創建が私の希望のすべてだ」と非凡なリーダーシップを発揮し、質朴で表裏がなかった孤高の人間像を凝縮したような一言だ。他方の金載圭だが、絶対的権力者の側近はスポイルされてしまうものらしく、実直だが思い込みが強く、周囲に利用されやすいところがあったという。

金載圭はわずか数時間後に逮捕され、軍事裁判で「内乱目的」と断罪されたが、著者は、全斗煥・国軍保安司令官ら新軍部による軍縮クーデターを正当化するものと疑問視し、車智・大統領府警護室長との忠誠心競争のなかで突発的に起きた「単純殺人」の可能性が高いとする。

しかし、戒厳司令官となる鄭昇和・陸軍参謀総長が待機していたこと、金載圭が駐韓米大使らと頻繁に密談し、韓国軍の統帥権を握る米韓連合軍司令官が帰国、韓国軍が動きやすかったなどの疑問が残る。米国は「自主国防」を標榜し、核ミサイル開発に突き進む朴正煕に手を焼いていたが、全斗煥新体制下で「緩和された維新体制」へと微調整された。政変劇の真相解明には、なお米機密文書の全面公開を待たねばならないだろう。

「漢江の奇跡」の立役者である朴正熙を「韓国近代化の父」とする評価は定着しつつあるが、保守有数の論客である著者は、彼を「時代を飲み込んだ超人」と称える。独裁者偶像化の批判もありえようが、韓国保守主義が慶尚道地域主義から脱皮し、汎国民的理念を構築する試みの一つと解釈することも可能である。【評者 河 信基(評論家)】

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅
テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅野田 隆

光文社 2006-04-14
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おすすめ平均 star
starテツでなくても楽しめます
star私も「テツ」です。
star鉄分が高い人

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著者インタビュー 野田隆(旅行作家・高校教師)

『テツはこう乗る』――鉄ちゃん気分の鉄道旅

記録派ではなく旅情派。「テツ」はほどほどがいい。

――「鉄ちゃん」というと、オタクの暗いイメージがまず浮かびます。実は私もこの本にあるように、路線図に見入ってしまうとか、行きと帰りにわざと別ルートを通るとか、駅や鉄道工事に興味津々とか全部当てはまる。突き放した文体に笑って読みましたが、ちょっと怖い思いもしました。

■あなたも「鉄ちゃん=テツ」の素質は十分のようですね。ちょっと極端なことを書いていますけど、鉄道マニアが変に見られるのは、その心理が分からないから、という面もあると思います。だから、それを非テツ(一般の人)にも分かりやすく書いたんです。

――前文にありましたが、誰でも子どものころ、列車が走るのを見てワクワクした経験があるはずと。鉄道旅行が好き、車窓からの風景も好き、駅弁も好き、それならテツの資格があるとも書かれています。

■みなさん認めたがらないですが、テツ分(鉄道好きの遺伝子)はかなり多くの人が持ってると思うんです。子どものころは好きだったのに、子どもから進歩していないと思われるのがイヤなんでしょうか。カミングアウトした方が楽なんですがねえ。

――ところで、テツには大きな四つのジャンルがあるといいますが、すべてを全うしたんですか。

■「乗りテツ」「撮りテツ」「収集テツ」「模型テツ」が4大ジャンル。全部に首を突っ込みました。文字通り「金を失う道」と言われている模型テツは、20年ぐらい続けましたが、今は運休中です。

基本的には乗りテツですが、全線完乗も最長片道切符の旅もしていませんから、記録派ではなく旅情派ですね。高校教師なので今は印税分でまかなえることしかしません。生活費にまで食い込んじゃあ、さすがに妻に怒られます。ほどほどのテツがいいんですよ。

――ドイツの鉄道旅行の本も書かれていますが、海外の鉄道旅行は難しくないですか。

■自分で時刻表を見ながら旅を組み立てるのは楽しいですよ。海外の時刻表も、基本さえ押さえればテツには何の問題もなく読めます。JRしか興味がないというテツは多いですが、もったいない。子どものころ、ドイツ、イタリア、スイスなどヨーロッパの鉄道写真を見てあこがれていました。そんな夢もテツだから実現できました。

――大陸横断鉄道とか、海外の鉄道旅行って今でもあこがれです。でも若い世代は、車社会で育ち、テツ分の少ない人が多いのではないですか。

■そうですね。逆に団塊の世代は、テツ分の多い人が多いと思います。よく定年後に趣味を探さねば、と言う人がいますが、鉄道旅行なんて定年後にちょうどいいですから、テツ分のある人はわざわざ趣味を作る必要がない。テツ分を自覚さえすれば、通勤電車でも楽しめる。最近はテツ子さん(女性のテツ)もいますが、テツには男のロマンがあります。テツになれば人生が広がりますよ。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

ネットがテレビを飲み込む日―Sinking of TV
ネットがテレビを飲み込む日―Sinking of TV池田 信夫 林 紘一郎 山田 肇

洋泉社 2006-06
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ブロードバンド大国と言われる日本で、なぜネットからテレビを見ることができないのか。電波利権を守ることに汲々とする業界体質、縦割りになったままの制度……。通信と放送の未来に横たわる様々な問題を、技術革新の側面や、コンテンツ、著作権問題、マスメディアとジャーナリズムなど、多面的に分析する。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

都心回帰の経済学―集積の利益の実証分析
都心回帰の経済学―集積の利益の実証分析八田 達夫

日本経済新聞社 2006-06-01
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都心への人口回帰が顕著となり、東京や大阪などの大都市でオフィスビルやマンションの建設が進んでいる。本書では、その背景に都市再生特別措置法などの法整備、政策転換があったことを検証していく。また、そうした都心回帰に際しての、交通機関の問題、流通、空港・港湾機能、都市再開発のメリット、デメリットを論じる。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学
ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学ゲーリー・S. ベッカー リチャード・A. ポズナー Gary S. Becker

東洋経済新報社 2006-06
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ノーベル賞経済学者のベッカー教授と著名な法律家のポズナー判事が二人で運営するウェブ上のブログを下敷きに、中国経済、欧州のテロと移民問題、年金制度、子育てからセックス革命などまで、縦横無尽に語り尽くす。中国経済の将来については、ベッカー教授は日本の高度経済成長も例に挙げ、必ずしもバラ色ではないという。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

クレジット投資のすべて
クレジット投資のすべて大橋 英敏

金融財政事情研究会 2006-06
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1990年代以降、日本でもクレジット(社債、ローン、証券化商品等)投資は盛んに行われるようになった。基本的なクレジット・ストラテジー、個別銘柄の分析手法、リスク管理、規制への対応などを、ていねいに解説していく。エクスポージャー(投資資産)に対するリスクはどう計算されるのか、分散投資は効率的なのかなど、ケーススタディーも交え、理解を深める工夫がされている。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

泥の文明
泥の文明松本 健一

新潮社 2006-06-15
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西欧文明を「石の文明」、イスラム文化圏の文明を「砂の文明」とするならば、アジアに広がるのは「泥の文明」であり、その本質は「内に蓄積する力」である、と著者は説く。競争に敗れた者や弱者をも社会の内にかかえて共生していく力が、自然に大きく依存したアジアの農業・定住型の社会にはあり、そのアジア文明こそが、ポスト・グローバリズムの時代に求められるのだという。「泥の文明」の本質に立ったうえで、日本の「もの作り」文化を考える。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

フラット化する世界(上)
フラット化する世界(上)トーマス・フリードマン 伏見 威蕃

日本経済新聞社 2006-05-25
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おすすめ平均 star
star今の日本ではまだ実感がないかもしれないが・・・。
star知ってた? 地球って平らなんだって
starそろそろ覚悟が必要

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フラット化する世界(下)
フラット化する世界(下)トーマス・フリードマン 伏見 威蕃

日本経済新聞社 2006-05-25
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おすすめ平均 star
star今の子供達が大人になったらの話
star残念ながら
star全てがグローバル競争

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レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈下〉
レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈下〉トーマス フリードマン Thomas L. Friedman 東江 一紀

草思社 2000-02
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おすすめ平均 star
star今や古典か?
star911以前に書かれた牧歌的な本。批判的に読むと「一粒で2度おいしい」
starジャーナリストの書く本

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黄金の人生設計図―人生九〇年をどう生きるか
黄金の人生設計図―人生九〇年をどう生きるか榊原 英資

中央公論新社 2006-06
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榊原英資の通説を疑え

『フラット化する世界(上・下)』(日本経済新聞社、各1995円)は、『レクサスとオリーブの木』で情報革命によって劇的に変化する世界経済の姿をビビッドに描いたトーマス・フリードマンの、知価革命についての第2作。かつて、インドを目指したコロンブスは地球が丸いことを証明したが、インド・バンガロールのゴルフ場から始まる本書のなかで、フリードマンは「世界は平らなんだ」と語りかける。

「インターネットの普及と、接続の新時代」「共同作業を可能にした新しいソフトウェア」「アップローディング」「アウトソーシング」など、世界をフラット化した10の要因を列挙し、それが集束し、ビジネスがその集束を利用し、インドや中国などがそこに参加したことによってフラット化が急速に展開し始めたと分析する。一つひとつはすでに認識されていることだが、それをインタビューなどによって検証し、大きな流れを叙述していく筆力は見事なものだ。

本書が面白いのは、ただフラット化の現状を分析するだけではなく、企業や個人がそれにどう対応すべきかを示していることだ。実は評者も新著『黄金の人生設計図――人生九〇年をどう生きるか』(中央公論新社、2006年)で似たような問題を分析したが、フリードマンの結論と評者の結論が重なるところが少なくなく、興味深い。

フリードマンは子どもたちがテレビ、コンピュータ、テレビゲームなどに熱中するあまり読書時間が減少していることを嘆き、ハイスクールの教師の投書を引用して次のように述べている。

「……猛勉強は教育に付き物だし、学校の成績はとても大事だという意識は家庭で育ちます」

また、丸暗記が重要だと、ビル・ゲイツの次のような言葉を引用している。

「……掛け算ができなくてソフトウェアを作れるなどという人間に会ったことはない……」

創造力のベースは、実は子どもの頃からの丸暗記なのだという、この厳粛な事実を、日本の教育者や親たちにぜひ理解してほしいものである。フリードマンはアメリカの現状を憂えているが、実は日本の現状はもっと深刻である。

■2006/07/11, 毎日エコノミスト

ゴールデン・サイクル―「いざなぎ超え」の先にあるもの
ゴールデン・サイクル―「いざなぎ超え」の先にあるもの嶋中 雄二

東洋経済新報社 2006-05
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循環論の第一人者が予測する2006年日本経済の上昇気流

著者の嶋中氏は、日本を代表する景気予測者である。その基本的手法は「循環論」である。世の中の多くの人は「今後の景気の行方を知りたい」と願っており、さらに「経済には隠された法則があり、それさえ分かれば将来を見通せるはずだ」と考えている人が多いから、著者の循環論に基づく景気予測は人気がある。

その嶋中氏が、循環論に基づいて、「日本経済は新たな勃興期に入る」という明るい展望を示したのが本書である。その主張は極めて明快である。すなわち、景気には「キッチン(短期)」「ジュグラー(中期)」「クズネッツ(長期)」「コンドラチェフ(超長期)」という四つの波動があるが、2006年はこの四つの波動のベクトルが上向く年の始まりになるというのである。これが本のタイトルでもある「ゴールデン・サイクル」である。

著者はこれら四つのサイクルの動きを詳しく説明したうえで、さらにダメ押し的に議論を補強していく。例えば、「複合循環の命題」というものがある。これは、「より長いサイクルが短いサイクルに作用し、好・不況の程度を増幅ないし安定化する」というものだ。これが正しければ、現在の景気上昇が終わったとしても、より長期のサイクルが上昇局面にあるので、景気後退は軽微ですむことになる。

著者が発見した「前半・後半の法則」というのもある。これは、「西暦の10年間(ディケード)の前半5年間よりも後半の5年間のほうが景気拡張期間が長い」という法則だ。これが正しければ2006~10年にはより長期の景気拡大が現れやすいということになる。

本書は言うまでもなく、これからの日本経済を予測したものだが、経済をいかに観測し、その将来をどうやって予測するかについての入門書として読むこともできる。本書では、景気循環、景気観測、景気予測についての基礎的な解説が分かりやすく述べられているからだ。

私自身は循環論者ではないが、日本経済の今後を明るい目で見ようとする著者の基本的なスタンスには賛成である。私も、05~06という年は、バブル後の不良債権処理、デフレから脱却し、日本経済が普通の経済(名目成長率が実質成長率より高く、物価、金利がある程度のプラス)へと回帰し始めた最初の年として位置づけられると考えているからだ。

長く続いた低迷の後で「しっかりした裏づけを持った明るい展望に接したい」と望む方にはぜひお勧めしたい本である。【評者 小峰隆夫(法政大学大学院政策科学研究科教授)】

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

2015年アジアの未来―混迷か、持続的発展か
2015年アジアの未来―混迷か、持続的発展か日本貿易会「2015年アジア」特別研究会

東洋経済新報社 2006-06-01
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商社マンの現場を見る目からアジア経済のリスクを占う

インド経済は難しい。なにしろ相手は巨象だ。中国経済も難しい。こちらは巨龍だ。人知を超えた難しさがあるのか、最近のインド・中国経済の関連書籍の質は劣化している。能天気な礼賛本、我田引水型の文明論などがあふれている。

本書の執筆メンバーは総合商社の調査マン。その昔、総合商社の調査能力で日本が救われたことがある。日露戦争の際、日本へ接近するバルチック艦隊の動向を打電したのは三井物産上海支店であった。

現代でも商社の調査マンの仕事は重要だ。総合商社の商売にリスクはつきものだが、開発途上国では現地政府の腐敗や社会の暗部に直面し、時にはその渦中に引き込まれることもある。調査マンも統計数字を眺めるだけでは済まされず、現場感覚のリスク判断を要求される。

中国経済に対しては願望を込めた悲観論、インド経済に対しては空想的な楽観論が横行するなかで、調査マンたちは地に足の付いた議論を展開している。

少子・老齢化を扱った第2章「膨張する中国 その光と影」はテーマ選択がいい。日本経済から学ぶものは何もないが、少子・高齢化だけは他山の石としたいと、皮肉屋の中国人学者は言う。日本の年金の崩壊は時間の問題だが、中国ではセーフティーネット自体がまだ整っていない。善くも悪くも人民公社は究極のセーフティーネットであった。しかし、現代の中国人はリスクの海を一人で泳がなければならない。そのうえ、一人っ子政策で人口構成のバランスが崩れたまま急スピードで高齢化社会に突入中である。その深刻さは日本を上回る。「老後の年金としての養老保険や医療保険を享受できない老齢者が国民のかなりの部分を占めることになれば、富者と貧者という社会階層の乖離はますます激しくなっていく」との予想に同意したい。

第3章「インド 経済大国への挑戦」では、あえてITやソフトウエアサービスには触れていない。そのかわりに、貧困、農業、インフラ、政治リスクを論じたところに選球眼の良さが光る。インドはIT大国と同時に世界最大の貧困国という二つの顔がある。どちらの顔を見るかによって風景は別世界になる。世界最大の民主主義国家という評価もあれば、中世的な人権状況への批判もある。「多様性の中の統一」が政府のスローガンだが、実態は「混沌の中の分裂」に近い。貧困層・農民の投票行動の変化による中央政府の政策変更リスクにも正しく目を向けるべきだという指摘は妥当である。【評者 高橋克秀(神戸大学大学院経済学研究科助教授)】

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

首相支配-日本政治の変貌
首相支配-日本政治の変貌竹中 治堅

中央公論新社 2006-05-24
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著者インタビュー 竹中治堅(政策研究大学院大学助教授)
『首相支配』 ――日本政治の変貌

小泉政治の権力集中を生んだ 「2001年体制」

――小泉政治の総括本が多いなか、「小泉個人が強いわけではない。強大な権力を首相に集中させた制度の問題だ」とのご指摘です。つまり個人ではなく制度としての小泉政権論ですね。

■小泉政治を説明するのに「劇場政治」「ポピュリズム」「テレポリティクス」といった手法分析だけでは足りないと感じました。パワーアップの真の理由は1990年代以降、日本の政治の仕組みが大きく変わったことにあるのです。

――首相の地位、権限そのものが変わった?

■権限強化には三つの側面があります。第一に、首相が自民党総裁として保有する権限、すなわち公認権と政治資金配分権です。これは94年の選挙制度改革、つまり小選挙区比例代表制と公的助成制度の導入により首相(自民党総裁)への権限集中が極端に進んだ。第二に、法律によって強化された首相権限。このなかには1府12省庁への再編など行革、特に経済財政諮問会議の新設があります。第三に世論です。政策断行の大きな支えになっています。

――細川政権の政治改革から小泉政権の郵政民営化法案成立まで、12年に及ぶ政治過程を、学者論文というより政治ドキュメントとして振り返っています。本を書くきっかけは?

■小泉政治を眺めていて、政治改革に加え、首相の力を支えるのに橋本行革が威力を発揮していると感じたんです。小難しい論文より、できるだけたくさんの人に読んでもらえるわかりやすい本を書きたい、と思いました。書き方も政治家個人に注目、橋本内閣というよりも橋本龍太郎元首相を主語にするとか、すべての項目の導入部分に情景描写を入れるなど、いろいろ工夫したつもりです。

――この日本政治の変貌を2001年体制と命名してますね。

■1955年に誕生した自民党と社会党の2大政党制を政治学者の升味準之輔が「55年体制」と呼びましたが、「2001年体制」はそれに匹敵する政治体制だと思います。

――具体的には?

■制度的に五つの変化がありました。選挙制度の変更により自民、民主が競い合い、参院で法案の成否を握る公明党が影響力を持つようになった。次に首相の地位を獲得・維持する条件が「派閥の支持」から「選挙の顔」になった。さらに首相権力は、首相と自民総裁の二重の権限強化に支えられ強くなった。これに加え行政機構の再編があります。

――参院議員の影響力強化もその一つに挙げています。

■89年、98年の参院選での自民敗北や派閥弱体化がきっかけになって90年代、自民参院議員は政治過程における影響力を高めました。

――この新体制をどう評価しますか。

■55年体制に比べると、責任の所在と権力の所在が一致、「闇将軍」や「二重権力」が生じる余地がなくなり、国民の目から見て政治がわかりやすくなった。その意味で日本の民主主義の質は深化を遂げたといえます。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

粉飾資本主義―エンロンとライブドア
粉飾資本主義―エンロンとライブドア奥村 宏

東洋経済新報社 2006-06
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エンロン事件とライブドア事件、アメリカと日本で起こった「金万能主義」を象徴するような事件の背景には、現在の株式会社のあり方が危機に陥っていることがある、と著者は語る。二つの事件を株式会社の問題として捉え直し、株式会社とは何かの根本問題から、日本の経営者、そして日本はどこへ行こうとしているのかを探る。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

金融データに強くなる 投資スキルアップ講座
金融データに強くなる 投資スキルアップ講座角川 総一

日本経済新聞社 2006-05
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金利は長期のほうが高い、インフレで預金は目減りする、といった常識が必ずしもそうではないことを指摘し、投資信託のコスト構造をはじめ、データの読み方、経済・金融データにリアリティを感じる方法など、もう一段上の投資スキルを手に入れるためのノウハウを、実証データと共に分かりやすく解説する。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

祝!中古良品―アカセガワ版養生訓
祝!中古良品―アカセガワ版養生訓赤瀬川 原平

ベストセラーズ 2006-05
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「夜ふかし」について。「若いころは、日常生活を軽蔑していて……真実は夜にある」とこだわっていたが、それを卒業したいまは「まだ夜やってるの?」と言ったりする。「まだ左翼やってるの?」とニュアンスが似ているのだとか――。そんな著者の自伝と、貝原益軒の『養生訓』についてのエッセー。まさに「脱力系」の面目躍如。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

怪盗ジゴマと活動写真の時代
怪盗ジゴマと活動写真の時代永嶺 重敏

新潮社 2006-06-16
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明治44(1911)年11月、東京は浅草の金龍館で上映されたフランス映画が空前のブームを引き起こした。神出鬼没の怪盗ジゴマの大活劇を描いた無声映画である。時代をまたいで大正元年10月に上映禁止となるまでの1年間、日本に吹き荒れたジゴマ旋風と、その時代を描く。和製ジゴマ映画やジゴマ探偵小説の氾濫、江戸川乱歩の『怪人二十面相』にも影響を与えたと言われるブームの背景には、知られざるメディア戦術があった……。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

社長の椅子が泣いている
社長の椅子が泣いている加藤 仁

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46歳の若さでヤマハの社長に抜擢されながら、その後のビジネス人生は決して順風満帆とはいかなかった悲運のサラリーマン経営者、河島博氏の半生を描く。ヤマハ会長・川上源一氏の嫉妬を買った突然の解任劇、その後、中内功氏に請われてダイエー副社長となり、リッカー再建に奔走するが……。河島をめぐる、志半ばで倒れた無数の人々、権力にすがる人たち、様々な群像劇を描きながら、著者はそこに、会社が変わるに変われない一因を見る。

■2006/07/04, 毎日エコノミスト

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