メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年12月12日~12月19日
| 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す | |
![]() | ジョセフ・E. スティグリッツ Joseph E. Stiglitz 楡井 浩一 徳間書店 2006-11 売り上げランキング : 574 おすすめ平均 ![]() 割り引いて読むならば 市場原理主義の虚妄、小泉政治の清算をAmazonで詳しく見る by G-Tools |
米国中心の市場原理主義的改革を批判し、「第三の道」を探る
スティグリッツは小泉政権時代に『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』を世に問い、世界的な潮流であった構造改革やデフレ偏向の中央銀行のスタンスを批判することで日本でも大きな反響を呼んだ。
本書でもスティグリッツの舌鋒は実に鋭く、時に過激だ。米国財務省とIMFを中心とする市場原理中心の改革を「ワシントン・コンセンサス」と表現し、もっぱら効率性の追求に邁進し、過度に公平性を犠牲にしていると批判する。特に貿易の自由化と資本市場の自由化を強制することで開発途上国の人々を苦境に陥らせている。ワシントン・コンセンサスに基づく不公平なグローバリズムの進展は、アメリカの利益にこそなれ、開発途上国にとっては自国の経済発展に貢献することは少ないと著者は断定している。
そして本書のワシントン・コンセンサス批判の独自性は、このような開発戦略の担い手であるIMFなどの国際的機関のコーポレートガバナンスに注目していることである。
貿易自由化・資本市場自由化あるいは地球温暖化などにかかわる国際的な取り決めを行う仕組みが、はなはだしく非民主的であり、開発途上国の意見が反映されず、米国中心であることに著者は厳しい。
ワシントン・コンセンサスのような市場原理主義的な政策スキームに代わって、スティグリッツは「第三の道」を提案している。開発戦略において、政府が中心になり物的・制度的なインフラを構築し、市場が円滑に機能できる諸ルールを整備すること、また独占・寡占の弊害を防ぐために競争政策を採用することが「第三の道」の中核である。さらには産業間の調整が進む過程で、失業が深刻になれば政府が適切なマクロ経済政策で対応することも強調している。
だが、多くの国ではマクロ経済政策は、うまく実行されていない。すなわち、経済的停滞のなかで効率性だけを追求する市場原理主義的政策が進んでしまうと、失業がさらに悪化してしまう。そして中央銀行は、その性格から物価の安定に重きを置いて、雇用の確保をおろそかにしている。この点でスティグリッツは、日本語版序文で書いているように今日の日本銀行の政策にもきわめて批判的であり、早急な利上げではなく雇用の十分な改善を促す金融緩和の必要を強く説いている。
本書の主張を一言でいえば、資本主義の行き過ぎを民主化で抑制することであり、スティグリッツの「第三の道」はポスト構造改革を考える際のよい指針となるにちがいない。【評者 田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部助教授)】
| パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間 | |
![]() | 四方田 犬彦 作品社 2006-11 売り上げランキング : 81736 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
映画を通して浮かび上がる複雑で切ないパレスチナの日常
パレスチナ問題は、死者の数や英雄の戦い、それに無垢の犠牲者で語られがちである。しかし、パレスチナとは日常の現実であり、フライパンのなかで炒められる玉葱や女たちが声に出す猥歌でもあるという。
著者は、消滅と持続の双方を眺めるとき、「パレスチナとは、さまざまな形態をとった待機の姿勢なのだ」と、映画評論家らしく語る。書斎に閉じこもらずに、自分の見た場所のことだけを書くのを信条としてきたと自負する著者らしい。
本書では、パレスチナやイスラエルを素材に、最新のスピルバーグの映画『ミュンヘン』から日本赤軍を扱った映画にいたるまで、多彩な評論が繰り広げられる。
話題作『ミュンヘン』に対する評価は厳しい。何よりもスピルバーグがユダヤ人とパレスチナ人の双方に公平であるかのように振る舞うのが偽善だと言いたいのかもしれない。
たしかに、ミュンヘン五輪のイスラエル選手殺害の報復を選手村の事件から説き起こすのは、イスラエルの報復殺人を欧米世論で自然に受け入れさせる装置なのかもしれない。もしイスラエル建国直後に起きたディール・ヤースィーン村のパレスチナ人虐殺から説き起こすなら、パレスチナ人の「テロ」も諸悪の根源とは見なされないのでは、と語りたいのだろう。
いずれにせよ、映画では、モンタージュによって編集されたパレスチナ人の最初の一撃こそ、シオニズムに免罪符を与えたという見方をとっている。
著者は、作中でいく度か出てくるイスラエル人とパレスチナ人との出会いや会話にも否定的なようだ。著者の言をそのまま受けとめるなら、作られるべき映画は、どうあっても救いのない映画になりがちではないのか。これも素材の重たさからすれば、致し方もないということなのだろう。
占領と離散を描いているパレスチナ映画の個性も興味深い。狭く閉ざされた空間を素材にしながら、家族と民族をアナロジーとして位置づける。そこに道徳化がほどこされるのは当然なのかもしれない。
深刻なのは、パレスチナ人を主な観客とし、「国内」での配給と消費を目的とするローカル映画がパレスチナに存在しないことだ。市民はむしろ香港のクンフー映画やハリウッドを好んで観るあたり、パレスチナ人の映画監督にも厳しい状況が存在するのだ。
読むほどにパレスチナの置かれた切ない状況が浮かび上がる本である。【評者 山内昌之(東京大学教授)】
| ええ加減にしなはれ!アメリカはん | |
![]() | 米谷 ふみ子 岩波書店 2006-11 売り上げランキング : 86452 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 米谷ふみ子(作家) 『ええ加減にしなはれ!アメリカはん』
米国が保守化したこの3年何がどう変わったのか
──米国がいかに保守化したか、ここ3年ほどの変わりようを、怒りをこめて書いたエッセー集ですね。
■ブッシュ大統領が再選されて以降、状況はさらに悪化しました。中央政府だけでなく、全米が保守化した。例えば私が住むカリフォルニア州でも、反戦、反核のステッカーが車からはがされたり。帰還兵、家族など反戦の声も出てきていますが、この本を書いた時点では、国民の中ではまだ大勢にはなっていなかったようです。
──戦争が暗い影を落としているわけですね。
■イラク戦争は第2次大戦より長くなり、泥沼化し、ベトナム戦争と比べる世論も出ています。それが兵力撤退を支持する意見につながっている。米軍の存在そのものがテロを招いているとの懸念も強いです。
──本書のなかで、『ロサンゼルス・タイムズ』紙などリベラルな新聞が右よりの論客を使っているとの一節がありますが、メディアも保守化しているのですか。
■メディアの経営者ばかりでなく、広告主が共和党よりで、テレビが最もその影響を受けました。しかし最近は変化がみられます。例えば、これまでほとんど見せなかったイラク側の死傷者の映像なども出てくるようになった。戦死者数が増え、戦費がかさんで大学の学費や福祉関係の予算が削られているといった戦争の実態に、人々が目を開かされたといえます。
──カリフォルニア州は民主党の牙城といわれていますが。
■シュワルツェネッガー州知事は共和党ですけどね。しかし、今選挙を前にした数カ月の変わり身には驚きました。京都議定書の精神を遵守すべきだと宣言したり、ブッシュ政権と反対の路線を取りはじめた。共和党候補も政権と距離を置かないと選挙に勝てないということです。
──今回の米中間選挙の結果はどうご覧になりますか。
■予想を上回る民主党の大勝、嬉しい誤算でした。選挙前にキリスト教指導者や政権内の偽善的行為が明るみに出たことも投票に影響したでしょう。個人的な感想ですが、例えば、「今回の選挙を前に思い出すべき100項目」といった民主党を応援するメールが、膨大な数の人々の間で行き交ったことも無視できないと思いました。30人が30人にメールを出せば、900人に伝わるわけですから。メーリングという伝達方法は非常に威力がありました。
──米谷さんが書いておられたような保守化が続いても、揺り戻す力が米国にあったということを、中間選挙は教えているのでは。
■ええ、この6年間、もう良心はなくなってしまったと思っていました。時間はかかったけれど、自浄作用を発揮したということですね。同じことは日本では永遠に起きない。すぐ大勢に従ってしまい、独立して考えないのです。イラク戦争はよその国の戦争だと思って、わがこととして引きつけて検証しようとしない。新聞メディアにも責任があります。
| 「ウォール・ストリート・ジャーナル」マネー&投資完全ガイド | |
![]() | デイブ・キャンザス 中島 早苗 アスペクト 2006-11-27 売り上げランキング : 270669 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
お金と投資に関する様々なミステリーを解くカギを提供しよう、と著者は語りかける。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の名物エディターが、ウォール・ストリートの文化、歴史、特徴から、株式、債券、デリバティブ、不動産投資、老後資金の投資、最新の経済・金融事情まで幅広い話題を取り上げ、分かりやすく解説する。
| 選ばれる企業の条件―優秀企業のリスクマネジメント | |
![]() | 峰 如之介 すばる舎 2006-11 売り上げランキング : 132839 おすすめ平均 ![]() 目に見えないところにこそ、企業の実力が現れるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
成長を続ける企業には、積極的なリスクマネジメントがある。キヤノンの次世代リーダー育成、資生堂の女性が活躍できる職場、ソフトバンクテレコムのワークスタイル改革、セブン-イレブン・ジャパンの緊急時対応ライフライン、アサヒビールの環境保全、キヤノンマーケティングジャパンの顧客対応の事例から成長の秘訣を探る。
| 世界標準で考える!~僕がインテルでやってきたこと~ | |
![]() | 傳田 信行 あさ出版 2006-10-19 売り上げランキング : 52002 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は元インテル・ジャパンの社長。社員10人以下だった会社を年商3000億円にまで育て上げた。その体験を踏まえた経営論と人生観、世界観を語る。自分の意見はハッキリ言った方がよく、時には「No」も言うが、そのときは「Because」が必要だ。グローバリゼーション時代の思考法を身につけるための1冊。
| 日本経済の明日を読む〈2007〉 | |
![]() | みずほ総合研究所 東洋経済新報社 2006-12 売り上げランキング : 33210 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「いざなぎ超え」が言われる景気拡大の一方で、実感がわかない、格差は拡大しているとの声も多い。失業率の高さや地域間格差の拡大など、景気の2面性が進行するなか、岐路に立たされている日本経済はどこへ向かうのか。原油高騰の行方、米国経済、EU、中国をはじめとするアジア経済など世界経済の影響から、景気の行方、企業動向、雇用、消費、不動産市場、ゼロ金利解除、マーケットの今後の展開など、2007年の日本経済を占う。
| 成功する!「地方発ビジネス」の進め方 わが町ににぎわいを取り戻せ! | |
![]() | 島田 晴雄 NTTデータ経営研究所 かんき出版 2006-11-21 売り上げランキング : 1267 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人口減時代が進行するなか、大都市に比べて人口減少幅の大きい地方経済の深刻化が予想されている。著者らは地域活性化の鍵は団塊世代の熟年退職者が生活者として地域に移住・定着することが重要だとして、団塊世代の退職が始まる2007年問題は絶好のチャンスと捉える。その戦略的役割を担うのが「観光産業」と「生活産業」であり、地方発ビジネスのお手本となる全国各地の例を挙げながら、地域が元気になる手法を解説する。
| 格差社会―何が問題なのか | |
![]() | 橘木 俊詔 岩波書店 2006-09 売り上げランキング : 295 おすすめ平均 ![]() 格差問題の論点と分析が分かりやすい 統計をもとにしっかりと分析 将来の日本の社会システムを問うAmazonで詳しく見る by G-Tools |
格差社会の根本が問われている
格差問題がいよいよ内政の表舞台に登場してきた。学校、家庭、地域等の現場で格差問題に根を持つと思われる様々な社会・経済問題が噴出してきたからだ。 『格差社会 何が問題なのか』(岩波新書。735円)の著者である橘木俊詔氏は、この問題に様々な角度から長年取り組んできた専門家だが、本書は新書版ということもあって、今までの成果をコンパクトに分かりやすく整理している。
まず、格差拡大は本当に進行しているのか。内閣府が2006年1月に公式見解として述べたように「統計上の見かけ」にすぎないのか。著者の解答は明確である。たしかに少子高齢化や単身者の増大は格差拡大の原因にはなっているが、それは現実問題として格差が拡大していることを否定することにはならない。
そして、著者が格差拡大の原因として最も重要視するのが、企業における雇用形態の変化である。この十数年の財務体質の改善・構造改革のなかで、企業は人件費削減のために非正規労働者の数を大きく増大させてきた。ここ10年ほどで(1995~05年)正規労働者は約400万人減り、非正規労働者が約630万人増えたのである。
富裕層の分析もなかなか興味深い。要するに、六本木ヒルズ族型のマネーゲーマーや中堅オーナー経営者たちが富裕層に台頭してくるなかで、大企業の経営者や地道に研究を続ける技術者の所得は、それほど上がっていない。医学部人気の裏でも、小児科や産婦人科は敬遠され、美容整形、形成外科の志望者が多い。派手な拝金主義者たちが注目されるという富裕層の光景も、あまり「美しい」ものではない。
小泉前首相や竹中前総務大臣をはじめ、「格差がなぜ悪い」と居直る人たちが増えてきているのが、最近の特色だ。レーガン、サッチャー流の福祉国家否定の原理主義だが、極端な福祉拡大は問題であるとしても、「何でも民営化」「官は悪だ」という発想も、そろそろ行き詰まってきているのだろう。
著者は、日本がアメリカ、イギリスと並んで格差の大きい、小さな政府にすでになっているという。このまま、アメリカ化を進めていいのだろうかという疑問に、政府も答える必要があるだろう。【榊原英資(早稲田大学教授)】
| 2010年の企業通貨―グーグルゾン時代のポイントエコノミー | |
![]() | 野村総合研究所情報通信コンサルティング一部企業通貨プロジェクトチーム 東洋経済新報社 2006-09 売り上げランキング : 25647 おすすめ平均 ![]() 誰をターゲットにした本なのだろう? 今やホットトピックのポイント・電子マネーをよくまとめているAmazonで詳しく見る by G-Tools |
資金の流れ変える「企業通貨」状況を整理する手引き書
「企業通貨」とは、電子マネーや航空会社が提供するマイレージやポイントなど、発行企業以外でも使うことができる電子的価値媒体を指す。「企業通貨」の外見は、日本銀行が発行するお札とは違って、ICが組み込まれたプラスティックのカードなのだが、それによってものを買ったり、代金を決済することが可能だ。まさに通貨の機能の一部を備えている。最近、我々の周りには、企業が発行するプリペイド型の電子マネーや、一定の割引などを受けられるポイントカードが、財布の中に収納できないくらい氾濫している。
本書は、そうした状況を整理するための手引き書と考えればよいだろう。コンサルタント諸氏が図表などを使って、読者に対してプレゼンテーションを行っている。プレゼンの範囲は、主なプレーヤーの勢力図、海外の事情、電子マネーを取り巻く法制度など多岐にわたっており、「企業通貨」に関する概要を理解するには十分だろう。
「企業通貨」の理解を深めるためにこの通貨が組成されるプロセスを頭に入れておく必要がある。まずプリペイド型電子マネーでは手持ちの現金を当該カードに入金するため、支払い手段が、通常の現金から電子マネーに代わったことになる。現金通貨が「企業通貨」に置き換わったという構図だ。
一方、マイレージやポイントなど、消費者向けインセンティブとして発行される「企業通貨」のケースでは、そのプロセスは異なる。消費者が行う消費活動に基づいて、企業が、その金額の一定の割合を、ポイントなどで新たな購買力を消費者に付与する。その背景には、当該企業が、宣伝広告費、販売促進費の一部で、ポイント保有者に対して支払いを保証する仕組みが存在する。つまり、企業が販売促進策の一環として「企業通貨」の信用を保証しているのである。
こうした組成プロセスの違いを考えると、両者の経済的な意味は異なる。また、発行量についても、プリペイド型では、現金との交換が増えるに従い、通貨の発行量は、ほとんど制約なく拡大する。一方、企業のインセンティブ型では、宣伝広告費などの総額以上に、発行量が増えることは考えにくい。
今後、情報・通信技術の一段の進歩によって、「企業通貨」の流通量は増加することが予想され、資金の流れなどを大きく変えることも考えられる。金融政策の運営に関しても無視できない要素になるのではないか。そうした点は本書では扱われていないが、検討することが必要になるかもしれない。【評者 真壁昭夫(信州大学経済学部教授)】
| グーテンベルクの時代―印刷術が変えた世界 | |
![]() | ジョン マン John Man 田村 勝省 原書房 2006-10 売り上げランキング : 49982 おすすめ平均 ![]() 焦点が定まっていない印象Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「冒険と術」をキーワードに西洋史に新たな光を当てる
過去5000年の西洋の歴史において、コミュニケーションに関して、四つの革命があったという。第1は「書く」という行為の発明、第2はアルファベットの発明、第3は活版印刷術の発明、第4は現代のインターネットの発明である。それによって人々のつながりの環が一気に拡大したのは事実だろう。
本書は、1400年代に第3の革命である活版印刷術を発明したと伝えられるグーテンベルクの足跡をたどったものである。といっても、本人の肖像画は一切残っておらず、生死の日付さえ定かではない。グーテンベルクの名は高名だが資料は無きに等しい状況なのである。
そこで著者が採用した方針は、さまざまな古文書館に残されている訴訟や行政文書を徹底して洗い出すこと(断片的だが借金に関わる文書が残されていた)、これまでの説を列挙して最も合理的であると考えられるものを編み直すこと(グーテンベルクの伝記は山ほどある)、そしてグーテンベルクが採ったであろう行動を著者の仮説をもとに想像力によって再構成すること(著者が抱いた仮説とは「冒険と術」、つまり知的な飛躍と技術的な応用の2点)であった。
当時、活字、インク、紙、プレス機など機械印刷のための部分的な技術は既に整っていた。誰でもがいずれ印刷術を発明するであろう状況にあったのだ。
しかし、誰あろうグーテンベルクがそれを成し遂げられたのは、技術の一つ一つを吟味して組み合わせ一体化する才能があり(「術」)、その心中に大儲けしたいという資本主義的な野心が満ち満ちていたことがあった(「冒険」)ためである。部分の技術に関してそれぞれの専門家を雇いながら自ら技術を連結する工夫を加える一方、初期投資のために膨大な借金をして工場生産とすることに腐心したのだ。いずれにおいても中世終末期において、新しい時代の息吹を先取りしたかの感がある。
聖書を印刷して目論見どおりの成功を収めたが、借金のいざこざから財産一切を奪われてあえなく姿を消したことも産業資本家勃興期にふさわしい結末とも言える。ともあれ、グーテンベルクの活版印刷術は宗教改革を導く一大根源となった。聖書と免罪符の大量印刷によって。
本書の目的は、グーテンベルクの業績を「冒険と術」と捉えることにより、技術史と産業資本史を結びつけて西洋史に新たな光を当てようとしたことにある。その意味でユニークな伝記と言えるだろう。【評者 池内了(総合研究大学院大学教授)】
| 出生地 | |
![]() | ドン リー Don Lee 池田 真紀子 早川書房 2006-10 売り上げランキング : 183296 おすすめ平均 ![]() 米経由韓流ノベルAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 天を映す早瀬 | |
![]() | S・J・ローザン 直良 和美 東京創元社 2006-11-18 売り上げランキング : 39458 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米国発アジアン・ハードボイルドを2冊。
ドン・リー『出生地』(ハヤカワ文庫、798円)は骨太のデビュー作。いささか太すぎるところが困るが。
舞台は1980年の東京。1人のアメリカ人女性の失踪から物語は始まる。捜査にあたるのはアメリカ大使館の職員、そして所轄署の刑事。この2人の個人生活も並行して過剰なほどに描かれるので、中心線が2つあるようで落ち着かない。失踪した女の話も途中から割れてくる。お世辞にも達者な展開とはいいがたい。いわゆる「外人の書いた日本物」にありがちな妙な「発見」もあり、なぜ韓国系アメリカ人のこの作家が日本を舞台にこうした犯罪読み物を書くのか(その理由が明らかにされるのはほとんど結末の部分だが)理解できず苛立たされたりもする。白人女性(小説ではマイノリティーの混血)の失踪といえば、似たような事件は現実にあり、その意味で、真相への興味はそれほど強まらない。
力余った失敗作という評価になるが、読まれるべき理由はじつのところ、そこにある。人はどんな生を享けようと、出生の地を必要とするのだ。〈アメリカ・日本・韓国〉のトライアングルはいまだに、引き裂かれた「カントリー・オブ・オリジン」(小説の原タイトル)でありつづけるようだ。
S・J・ローザン『天を映す早瀬』(創元推理文庫、1218円)は、人気の女性私立探偵シリーズ7作目。この種の主人公が故郷への「一時的滞在」をはたすのは、よくある設定だ。本作においては香港がその舞台。中国系アメリカ人のヒロインにとって、そこは父祖の地ではあるが異貌の土地だ。
誘拐事件に端を発するストーリーはオーソドックス。都市風景を活写する細やかな筆致は相変わらず危なげない。ごった煮の香港風俗とサモ・ハン・キンボー似の香港刑事との掛け合いが愉しい。【野崎六助 (作家・評論家)】
| 時間意識の近代―「時は金なり」の社会史 | |
![]() | 西本 郁子 法政大学出版局 2006-10 売り上げランキング : 2623 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 西本郁子 (明治学院大学国際学部非常勤講師)
スピード化する社会の出現を人々はどう見たのか
──明治以降、近代産業が発展していく過程で、日本人の時間に対する意識がどのように変化していったかを追った1冊です。執筆のきっかけは?
■一つは「過労死」という言葉です。この言葉を聞いたときはショックを受けました。それが日本語として存在していることに、強い違和感を覚えました。その違和感の正体を、歴史を遡って見極めたかったのです。
二つ目は『全体主義の起源』『人間の条件』等の著書で知られるユダヤ系アメリカ人の思想家ハンナ・アーレントでした。古代ギリシャやローマの政治思想から解き起こすヨーロッパのパースペクティブの時間の長さには驚きました。
三つ目は、フィリピンを訪れたときに、時間の概念が私たち日本人とはずいぶん違うと感じたことです。分刻みで時間に追われる生活ではなく、大ざっぱな時間でもいいのかもしれないなと思ったときに、時間というものに急速に興味が湧いてきました。
──日本の近代に着目したのはどういう点からですか。
■まず、私たちが使っている今日の時刻制度がいつ始まったのか。そして、スピードに追われる現代人の生活の直接の起源が、明治以降の近代化にあるのではないかというところからです。
19世紀半ばに入って、電信・電話・鉄道などが登場したことは、私たちが想像する以上に衝撃的な出来事だったと思います。ベンジャミン・フランクリンの「時は金なり」という格言に象徴される経済と時間の関係はこの時代にいっそう大きな原理となって、社会が動いていく。ドイツの経済史家ヴェルナー・ゾンバルトは、そうしたスピード化する社会の加速の度合いを資本主義の発達を示す尺度と見ていました。
改めて100年以上前の時代を調べてみると、そこには新しい時代のエネルギッシュな回転が進む一方で、スピードにあえぎ、疲弊していく人たちがいた。そのスピードと濃度がさらに凝縮されていったのが、現在の私たちの時代なのではないでしょうか。
──当時の人々が加速化する時間をどのように捉えていたのか。文学やジャーナリズムの世界から、面白いエピソードがたくさん紹介されています。
■猛烈な勢いで加速する社会に強い危機感を抱いていた夏目漱石。一方で都市部とは無関係に独自の時間を刻み続ける農山村の風景。全国の農山村を歩き回った民俗学者の宮本常一の、人を見る眼差しの温かさは素敵ですね。
──その宮本が戦後、講演旅行先で当時実施されていた「サンマー・タイム」つまり夏時間に合わせて出かけたが、会場には誰もいない。苛立つ宮本に地元の人が、「ここはサンマでなくてイワシタイムです」と応酬、さらに「このあたりの人はサバも読みますので」とダメ押しする独特のユーモアも楽しいですね。
■この本を読んだからといって休みが増えるわけでも、過労死しなくてもすむ世界になるわけでもないでしょうが、時間というものを、もう一度捉え直すきっかけになればと思っています。
| 希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン | |
![]() | 神野 直彦 井手 英策 岩波書店 2006-11 売り上げランキング : 3123 おすすめ平均 ![]() 希望を宿し続けるために 当然のことが斬新に聞こえる,それが日本の問題? 待望の書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
正しい問題の提起に失敗した小泉改革のビジョンなき破壊に代わる、トータルとしての財政改革論を提示する。地方分権、年金・医療、税制改革において、それぞれ地方政府、社会保障基金政府、中央政府の三つの政府を有機的に関連づけるチャンネルの改革、さらには財政再建至上主義に陥らない資産・負債管理の方法を探る。
| なぜあの人は「イキイキ」としているのか―働く仲間と考えた「モチベーション」「ストレス」の正体 | |
![]() | 人と組織の活性化研究会 プレジデント社 2006-11 売り上げランキング : 425 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
リストラによる職場共同体の崩壊、性急な成果主義導入の失敗、非正社員の増加などで失われつつある現場の活力を取り戻すにはどうすればよいか。「イキイキにはアップダウンがある」という基本命題がまず示される。落ち込むときはきちんと落ち込めなど、モチベーションとストレスの正体が分かりやすく解説される。
| 育て上げ―ワカモノの自立を支援する | |
![]() | 工藤 啓 駿河台出版社 2006-11 売り上げランキング : 37293 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
自信を失っていたり、他人とかかわることが不得意であったり、働き方(やりたい仕事)を真面目に考えすぎて立ち止まってしまったり……意欲はあってもうまく働き続けられない若者を支援するのが僕の団体、と著者の工藤啓は言う。NPO法人「育て上げ」ネットを設立した工藤が、28年生きてきた人生を下敷きに、夢や職場、異文化、結婚、上司などを語る。
| 犯罪商社.Com ネットと金融システムを駆使する、新しい“密売業者” | |
![]() | モイセス・ナイム 河野 純治 光文社 2006-11-21 売り上げランキング : 29155 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
麻薬や武器の密輸、臓器売買、核開発関連の物資や技術の闇取引、放射性廃棄物売買、電信送金やネットバンクでテロ資金のマネーロンダリング……。グローバル化、IT革命の陰で、世界規模で拡大する違法ビジネス、「闇の流通経済」の実態を暴く。
Seven Powers
建築紛争―行政・司法の崩壊現場
五十嵐 敬喜 (著), 小川 明雄 (著)
耐震強度偽装問題の背景を探っていくと、住宅地にそびえる高層マンションと住環境の破壊、民営化の実態、違法建築の監視にあたるべき官の責任を問うシステムの欠如など様々な問題が浮かび上がってくる。建築紛争の現場取材を通して負の構図を描き出す。
| 環境問題の杞憂 | |
![]() | 藤倉 良 新潮社 2006-11-16 売り上げランキング : 15371 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
地球温暖化、環境ホルモン、電磁波、ガン、アトピー、狂牛病、リサイクル都市・江戸の真実など、環境をめぐる過剰な反応を避け、冷静に見直してみれば、意外に悪くない日本の姿が見えてくる。











統計をもとにしっかりと分析












