メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年11月28日~12月5日
| 「小さな政府」を問いなおす | |
![]() | 岩田 規久男 筑摩書房 2006-09 売り上げランキング : 36081 おすすめ平均 ![]() 日本の財政政策 処方箋 「新自由主義」への信条表明 期待はずれAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「機会の平等」の立場から「小さな政府」の光と影を論じる
「小さくて効率的な政府」を目指した小泉構造改革は、格差社会を招いたともいわれる。小沢氏率いる民主党は、これを「小泉改革の負の遺産」とし、小泉改革の継承を標榜する安倍政権との対決姿勢を鮮明にしている。
「小さな政府」の下で生じる「格差」をどのように考え、どのように対処すればよいか。本書は「小さな政府」の光と影(それは同時に戦後多くの先進国が採用した「大きな政府」の光と影でもある)を、歴史的かつ経済学的に問い直したものである。著者は、現在の行き過ぎた「結果の平等」を修正し「機会の平等」を重視すべきという立場で「小さな政府」のあり方を論じる。
日本の政府は、高度成長の終わりから1970年代にかけて急速に大きくなった。その背景には、73年までに採用された手厚い福祉政策に加えて、田中角栄氏による「知られざる日本の社会主義革命」があるという。弱者保護の観点から、衰退産業、中小企業が保護された。財政面で地方が優遇され、生産性の高い都市への経済集積は阻止された。この「結果平等主義」は日本経済の生産性向上を阻害した。
「大きな政府」から「小さな政府」への転換を考えるうえで、本書では日本に加えて英国とスウェーデンのケースを取り上げている。英国は戦後いち早く「大きな政府」を目指し、福祉国家の手本となったが、70年代に行き詰まり、80年代のサッチャー保守党政権下で「小さな政府」に転換した。人々の所得獲得能力には大きなバラツキがあるため、政府介入を取り除き、民間の経済活動の自由度を高めていけば、所得格差が広がる。サッチャー改革でも格差は拡大した。しかし、サッチャー政権の後期から絶対的貧困は大きく減少したのである。
それでは、「機会の平等」を重視する結果生じる格差に、英国ではどう対処したのか。97年に政権を奪取したブレアは、「結果の平等」を重視する昔の労働党に戻ることなく、「機会の平等」を重視する「第三の道」を採用した。そこでは、真に支援を必要とする人に対してのみ社会保障を施すために、ミーンズテスト(資力調査)が導入された。また、「福祉から雇用へ」として、従来の失業手当重視から職業訓練重視の政策に転換され、人的資本強化のための教育改革も行われた。
「小さな政府」の影に対する政策が、単純な政府部門の拡大ではないことが本書で示されている。今後、安倍政権が採るべき経済政策は、ほとんど語り尽くされているようである。【評者 河野龍太郎(BNPパリバ証券チーフエコノミスト)】
| 最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか | |
![]() | ジェームズ R・チャイルズ 高橋 健次 草思社 2006-10-19 売り上げランキング : 575 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現場の人間行動を詳細に描き失敗の本質を探る
近年、失敗学に対する理解が広まったことで、「大事故の裏側」や「失敗の真相」などと銘打った書籍が色々と出版された。しかし実際に読んでみると、細部に拘泥して事件全体の流れを見失っているもの、八方美人な表現で何を主張したいのかわからないものなど、失望させられるケースが少なくなかった。本書もその「いかにも」なタイトルに疑問を抱いたのだが、その予測は良い意味で裏切られた。
本書は、高度に発達した科学技術と人間のエラーが結びついた時にどのような災厄が発生するのかについて、スリーマイル原発事故やスペースシャトル事故などの事例を用いて解説したものである。 「そのような本はいくらでもある」と短絡しないでほしい。本書の大いなる特徴は、事件の関係者が固有名詞で登場し、現場で彼らがどのように考え、どのように行動したか、様々なエピソードがちりばめられている点だ。
その文章は簡潔であるが、予想外の事態に直面した人物が悪戦苦闘する様が浮かんでくるほどの臨場感がある。技術評論家である著者が長年積み重ねてきたインタビューの賜物だろう。導き出された教訓も単純明快でずぶりと胸に突き刺さるものばかりだ。
少し紹介しておこう。「各種惨事における人間の行動を研究した結果をみると、こうした『認知をロックして固定する』現象がしばしば起こっている。事態に直面した者が一つの行動を決定すると、それにしがみつき、どんなに相反する事実が出現しても変更しないのだ」
「ほとんどの人間は、統計に基づくのではなく、自分が実際に経験したことによって、自分の確率を決めている。(中略)これまでシステムや工場にそれほど悪いことが起こっていなければ、どんな作用がかかわっているにせよ、おそらく将来においても起こることはない、ということになる」 「多数の大惨事の事例から見て、内部からの警告メモは効果を発揮しないことがわかっている。(中略)お役所的解決方法は、警告メモを『未処理箱』に入れたまましばらく放置してから、本人に送り返してさらなる説明を求めることなのだ」
これで興味を覚えない人には本書をお奨めするつもりはない。失敗学の根幹は「気付き」である。胸中に問題意識という種子がなければ、いくら水を撒いても芽は出てこないからだ。【評者 樋口晴彦(警察大学校警察政策研究センター教授)】
| 藤沢周平未刊行初期短篇 | |
![]() | 藤沢 周平 文藝春秋 2006-11 売り上げランキング : 3077 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 藤沢周平 父の周辺 | |
![]() | 遠藤 展子 文藝春秋 2006-09 売り上げランキング : 2948 おすすめ平均 ![]() すら~っと読めた^o^Amazonで詳しく見る by G-Tools |
“幻の作品”と娘が語る藤沢文学の原点と素顔
藤沢周平は、没後10年たった今も高い人気を誇っている。2006年1月、藤沢周平が「オール讀物新人賞」を受賞してデビューする前に発表した作品が発見され話題となったが、『藤沢周平未刊行初期短篇』は、約40年ぶりに甦った“幻の作品”14篇をまとめた作品集である。
正直な話をすれば、本書の収録作はすべてが傑作とはいいがたい。例えば、幕府隠密が隠れキリシタンの内部抗争に巻き込まれていく「暗闇風の陣」は、誰と誰が敵対しているのか十分に説明されていないのに、次々と視点が変わるので、内容を把握するのが難しいほどである。
粗削りな作品もあるが、権力者に使い捨てにされる忍者の悲哀を描く「無用の隠密」は、下級武士が上役の命令で仕方なく決闘に臨む〈隠し剣〉シリーズを思い起こさせるし、著者が作った架空の国・海坂藩のモデルになった庄内藩を舞台にした作品が多いことも含め、藤沢文学の成立過程がうかがえるのは興味深い。
古代エジプトの老芸術家が、男と逃げた妻を見つけたために悲劇に見舞われる「老彫刻家の死」。アクションを丹念に描写した「忍者失格」。男を手玉に取る毒婦が主人公の「佐賀屋喜七」などの異色作は、後の作品には見られない過剰な表現に満ち溢れているが、同時にストーリーテラーとしての原点も兼ね備えているので、ファンならずとも驚きが大きいだろう。
遠藤展子『藤沢周平 父の周辺』(文藝春秋、1400円)は、長女の目から見た藤沢周平の素顔が綴られている。家族での会話や何気ない日常の一コマがまとめられているので、藤沢文学をより深く理解するのに役立つはずだ。【末國善己(文芸評論家)】
| 日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」 | |
![]() | 有馬 哲夫 新潮社 2006-10-17 売り上げランキング : 5673 おすすめ平均 ![]() 米国の反共活動の全貌を描く。 ジャパンロビーが面白い 小説より面白いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 有馬哲夫(早稲田大学教授・メディア論)
民間テレビ誕生の謎とアメリカの心理戦略
──読売新聞社主だった正力松太郎氏による日本テレビの創設に、米国はどうかかわっていたのか。この疑問に対する答えがこの本ですね。
■なぜ民間放送の概念がなかった日本に、いきなり民間テレビだったのか?その部分がないNHKや日本テレビの放送史は、素直に信じられなかった。
──4年にわたり生存する関係者に聞き取りし、資料を集められたとか。それで昨年、CIA文書の中から正力氏のファイルを発見されたんですね。
■CIA文書に、正力氏がポダムという暗号名を持っていたと、はっきり書かれていました。公開されているCIA文書は黒く塗りつぶしてあることが多いんですが、これは一部固有名詞や日付が消してあるだけで驚きました。複数の文書を付き合わせると、消された部分も読めてしまう。大変な作業でしたが、とても面白かったですよ。
──それにしても門外漢には驚く話ばかりです。従来のテレビ創成期の伝説が、このCIA文書を通すと、また別の筋書きが見えてくる。
■一言で言えば、米国の反共戦略に、ちょうど正力氏が計画していたテレビ開設が組み込まれたということです。米国は朝鮮にまで進出した共産勢力におびえ、レーダーや通信に使える軍事目的のマイクロ波通信網を日本に早く作りたかった。テレビは通信網の付け足しだった。CIAは反共作戦の一環で正力氏を極秘に支援していた。
──正力氏と、独自のテレビ方式を研究していたNHK、電電公社の主導権争いに、CIA、GHQ、上院議員、ジャパン・ロビー、さらに吉田茂、岸信介、鳩山一郎の3人の首相はじめ多彩な登場人物が絡み、裏面史としてとても楽しく読めました。
■米国の狙いは、日本のメディアをコントロールして親米的な国民を育て、安定した保守政権を作り、共産主義に対する防波堤にすることだった。心理的再占領です。結局、戦後の日本は米国の望み通りになった。
──本来なら反共の宣伝放送をするはずだったが、そうはならなかった。
■あまりプロパガンダ臭い番組より、米国製のドラマや娯楽番組を流す方が何倍も効果的だと米国側は気づいた。日本のテレビ局も番組ソフトが不足していたので飛びついた。米国製ドラマが結果的に親米的な国民を作ったんでしょうね。テレビは立派に米国の役に立った。心理的再占領は今も続いていると思います。今の日本の政治を担っているのが当時の政治家の孫たちというのは何やら暗示的と思いませんか。
──「日本のテレビの父」正力氏は、米国に操られていたのですか?
■それは違います。正力氏と米国は共通の利益を持って、互いに利用し合う関係だったと思います。当時、正力氏以外にテレビをやれる日本人はいなかったでしょう。この本でぼくは誰も責めるつもりはありません。あの時代があったからこそ、今日の日本の経済的繁栄につながっている部分もあるのですから。
| 日本近代技術の形成―“伝統”と“近代”のダイナミクス | |
![]() | 中岡 哲郎 朝日新聞社 2006-11 売り上げランキング : 1087 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
明治以降、西欧工業経済の波に襲われた日本はなぜ植民地化への道を歩むことなく近代化を邁進できたのか。幕藩体制下で成熟した手工業的産業が存亡の危機に立たされた時、西欧の工業製品を素材や道具と捉え、日本人の消費にあった製品や、輸入機械を作り替えて在来の生産過程に取り込むなどの創造がなされたという。紡績、製鉄、造船の技術史から日本の近代を見る。
| 千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン | |
![]() | 野村 進 角川書店 2006-11 売り上げランキング : 2780 おすすめ平均 ![]() 想像以上! 実取材によって裏打ちされた文明論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本には創業100年を超える会社が10万社以上あり、なかには飛鳥時代から続いている老舗の“千年企業”もあるという。世界最古の会社は、なんと日本にあったのだ。例えばケータイ一つをとっても、元々は金箔屋だった京都の老舗の技術が生きていたり……。老舗企業大国ニッポンの、ものづくりの現場を旅する。
| 大奥の奥 | |
![]() | 鈴木 由紀子 新潮社 2006-11-16 売り上げランキング : 11061 おすすめ平均 ![]() 「本当の」大奥を知りたい人の入門書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大奥といえば閉じられた女の園のイメージが強いが、冒頭から、幕末期に大奥見学ツアーに出かけた村の庄屋たちがいたという話が出てきて驚かされる。女たちの巨大な官僚機構であり、表の政治にも密接にかかわっていたという大奥とはどんな場所だったのか。その成立から実際の仕事、給料、日常生活、引退後などまでを解説する。
| 中国自動車タウンの形成―広東省広州市花都区の発展戦略 | |
![]() | 関 満博 新評論 2006-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国華南地方・珠江デルタ地帯の北、広州市郊外の花都区に「花都汽車城」という50平方キロメートルに及ぶ巨大自動車タウンが出現している。東風汽車と日産の合弁会社、東風日産が進出するエリアだ。花都区には北京、上海に次ぐ第3の大型空港もオープンしており、自動車関連の技術者を養成する「汽車学院」の設立など、新たな自動車産業都市としての発展が注目されている。この花都区を中心に、世界に向けた産業集積地としての広州の発展戦略を探る。
| 日本の所得分配―格差拡大と政策の役割 | |
![]() | 小塩 隆士 府川 哲夫 田近 栄治 東京大学出版会 2006-11 売り上げランキング : 155030 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
格差社会が言われ、所得格差の拡大傾向が問題視されているが、この格差拡大に再分配政策は十分に機能しているのだろうか。高齢化の影響や年齢階層内格差、社会保障、税制の問題、貧困率上昇の要因、家族・世帯構成の変化の影響など、現行制度の問題点を踏まえながら検証する。ニートやフリーターなど非正規就業の成人単身者が単身の高齢者となることや、高学歴夫婦の増加と格差拡大との関係のシミュレーションなども。
| 国を誤りたもうことなかれ | |
![]() | 近藤 道生 角川学芸出版 2006-10 売り上げランキング : 16262 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本のアイデンティティーと原理主義
一昔前は、本物のエリートたちが第一線で活躍していた。宮澤喜一元総理などとともに、『国を誤りたもうことなかれ』(角川oneテーマ21、740円)の著者である近藤道生も、そうした人たちの1人であろう。
近藤は全盛期の大蔵省(現・財務省)で銀行局長、国税庁長官を務めた卓絶した行政官であったと同時に、民間にあっても博報堂を見事に再生し、その現在の繁栄をもたらした名経営者でもあった。しかし、そうした政治・行政・経営能力以上に評者が指摘したいのは、彼が超一流の知識人であり、文化人であるという点である。有能だが教養のない政治家や経営者が増えた昨今、見習うべき大切な先達であろう。
本書は著者の戦争体験を軸に「日本のこころ」を語った風格あるエッセイだが、各所に著者の幅広い情報ネットワークと鋭い情報感覚を背景にした、はっとするような指摘がある。
一つは、国際共産主義とその諜報活動が日本の軍事・外交に与えた影響。 「……日本陸軍の中枢にいたと信じられている国際共産党員やそのシンパの氏名などは、いまだに全貌がはっきりしていない。ゾルゲ・尾崎事件の検事調書などに記されていたと伝えられるが、その部分だけは軍の圧力ですぐ削除」されたという。
著者も言うように、左翼と右翼の差は紙一重である。特に1930~40年代の社会主義思想の強い影響力を考えると、近藤の指摘は興味深い。著者が高く評価する近衛文麿も、尾崎秀実などと通じて、その影響を受けていた。石原莞爾なども、見方によっては、かなり「左翼的」だった。
著者が戦争の体験や反省を通じて日本のナショナル・アイデンティティーが原理主義を排した汎神論的信仰心であると結論づけるのに、評者は100%賛成である。長い歴史のなかで、原理主義に大きく傾いた時、日本は失敗している。昨今、また右よりの原理主義者が増えているように思える。山崎正和が「政治における保守主義などありえない。保守主義というのは文化を軸にした考え方である」と言うのと、近藤の立場はどこかで通じているようにも思えるのだが……。【榊原英資 早稲田大学教授】
| 組織自律力―マネジメント像の転換 | |
![]() | 佐藤 剛 慶應義塾大学出版会 2006-10 売り上げランキング : 172557 おすすめ平均 ![]() どこがマネジメント論の転換なのか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
個人の自律的行動と組織の相関をマネジメントの視点から考察
マネジメントという言葉には、どこかで人の自律性を抑制するような響きがある。また、組織というのも、キーワードが秩序やシステムやルールであるとするならば、自律的個人には住みにくいところのように響く。
実際には、組織のなかで自律した個人が柔軟に相互依存しているシステムのほうが適応力で優れている。いったん、ある状況にうまく適応でき、その状況に変化がなければ、秩序や予測可能性を鍵に組織が作られることもあろう。しかし、適応過剰が恒常的になれば、適応が適応力を阻害するという状況が生まれる。このような問題を直視し、組織における自律性の力を探求したい人には、本書の考え方に触れてみるのもいい。
著者は、組織には二重の不確実性があるという。外部環境の不確実性と、組織の全体の動きを見渡せないという不確実性だ。これに対応するには従来のピラミッド組織とは異なる組織が望まれる。著者は日産のクロスファンクショナルチーム、前川製作所の独立法人制、レックの特命プロジェクトないしチーム制、花王の開発体制に注目する。しかし、これらの事例は著者独自の調査でなく、2次的資料に基づく傍証にすぎない。独自のフィールド調査の結果が報告されるのは第5章だが、ここでも記述は濃密ではないのが少し残念だ。
さて自律とは、(1)他に依存しないこと、(2)自ら行動ルールを持っていること、(3)ある目的を達成する、という要素からなると著者はいう。組織における自律的行動がどのように生まれ、そのプロセスで創造的会話がいかに大切な意味を持つか。自律的行動に基づきながら、組織のまとまりはどのように生まれるのか、が大きなテーマとなる。A電気、B工業(この両社は匿名)とリンク・アンド・モティべーション社の著者のフィールド調査から、組織自律力という著者の考え方が描かれる。
組織自律力という言葉がやや曖昧に思えるかもしれないが、実践家と話し込むと、適応力の高い組織はそういう方向に向かっているという主張に出会うことは多い。ラグビーの平尾誠二さんによれば、自分で考え状況判断できる個人が、自律しながらも相互依存しているのが、これからの組織を考える鍵だと示唆した。私自身、「ニューウェーブ・マネジメント」という言葉や「ピア・ディスカッションを通じての『気づき』の共有」という方法(同名の本や論文がある)を模索しており、こういう流れの研究に新しい追加があったことを喜びたい。【評者 金井壽宏(神戸大学大学院経営学研究科教授)】
| テポドンを抱いた金正日 | |
![]() | 鈴木 琢磨 文藝春秋 2006-10 売り上げランキング : 8366 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
金正日の最大のアキレス腱、「後継者問題」を読み解く
不可思議なものを理解しようとするとき、ふたつの仕方がある。外側から冷静で客観的な分析のメスを加えるか。あるいは不可思議さの内実に分け入って呼吸をともにするか。本書は後者をとる。テレビのコメンテーターとしても異彩を放つ著者だが、本業は今や絶滅した「探訪記者」の生き残りであり、また筋金入りの朝鮮ウオッチャーである。この異才だからこそ、北朝鮮の秘められた内部に肉迫し、その生理と論理を味わいつくすように書き記すことができた。
まず著者は、2002年から北朝鮮を一色で塗り固めた「先軍」という軍事優先のキーワード政治が、実は後継者問題に直結したキャンペーンなのだと指摘する。後継者問題こそ、金正日の最大のアキレス腱なのだ。
1994年7月に金日成主席が死亡するや、金正日は翌1995年1月1日に人民軍第214軍部隊が駐屯していたタバクソルという場所を訪問し、その後そこを「先軍の聖地」として大河ドラマよろしき壮大な神話をつくりあげてゆく。ただしこの先軍神話は、実に周到に緻密に準備され、2002年にようやく発表される。その間の北朝鮮は、粛清につぐ粛清、飢餓と脱北、テポドン(北朝鮮の発表は人工衛星)の発射というように激動する。そして先軍の神話発表とともに、「未来を愛せ」「代を継いで」戦いを続けよというメッセージを通して、軍事優先政治と後継者問題をリンクさせ国民に浸透させてきたのだという。
この先軍キャンペーンと強くかかわっているのが、大阪生まれの在日朝鮮人であり美人の舞姫だった高英姫である。金正日に見初められ、その妻になった彼女が、平壌の中枢で絶大な力を持ち後継者問題のキーパーソンとなったことについては、この著者がかつて初めて新聞で報道し、また本も出した。在日のプロレスラーを父に持つ高英姫が、家族とともに北朝鮮に渡り、金正日との間に3人の子をもうけ、後に「尊敬するオモニム(母上)」として神話化されてゆく物語は、フィクションのドラマよりもずっとおもしろい。
金正日という人間がわからなくては、北朝鮮は絶対にわからない。その核心は「映画」であると著者は断定する。父のようなカリスマを持っていないことや軍歴の欠如というコンプレックスが、彼を映画狂に育てていく過程も、本書では豊富な資料によって生き生きと描かれる。 「平壌ウオッチは神話のウオッチ」であるという信念のもとに、入手困難な文献を渉猟して書き上げられた本書は、金正日と北朝鮮の生々しい鼓動を感じるのに最適の書といえる。【評者 小倉紀蔵(京都大学人間・環境学研究科助教授)】
| 世界同時中継!朝まで生テロリスト? | |
![]() | ボリス ジョンソン Boris Johnson 高月 園子 扶桑社 2006-10 売り上げランキング : 180388 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 獣どもの街 | |
![]() | ジェイムズ エルロイ James Ellroy 田村 義進 文藝春秋 2006-10 売り上げランキング : 27489 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現職の英国国会議員が書いた迫真&ドタバタの国会襲撃テロ
テロリスト狩りの季節。サスペンス小説もまた率先してハントの状況をエンターテインメントする。「聖戦」の跡も生々しい2冊を。
ボリス・ジョンソン『世界同時中継! 朝まで生テロリスト?』(扶桑社ミステリー文庫、1050円)。このタイトル! また「陽気なテロリストたちが地球を回す?」なる腰巻きのコピー! のけぞってはいけない。これは正直、内容そのままだ。自爆テロリスト(もちろんアラブ系)が英国国会議事堂に潜入し、演説中のアメリカ大統領(隠語はポータス)を人質にとって議場を制圧する。アメリカの軍事政策の是非を問う要求が全世界にテレビ中継される。その3時間半の顛末を描いたタイムリミット・サスペンスなのだ。「そんなバカな」と思われそうな設定だが、様々の僥倖や偶然から超杜撰な計画が次つぎと実現していく前半の進行は気味が悪いほど本当っぽい。全編カール・ハイアセン風の狂騒的スラプスティック、主役脇役すべてオバカでとびきり面白い。
しかも作者はイギリスの野党国会議員(現職)。マルチタレントであるらしく、ミステリ作家としても頂点を狙えそうだ。原タイトル「72人のヴァージン」も相当ふざけているが、その意味は後半に明らかになる。
一方、ジェイムズ・エルロイ『獣どもの街』(文春文庫、820円)はいう。「九月十一日のあとにアラブ人と寝る女はいない」。あるいはそのアラブ人に向かって、「アメリカ人はよき密告者だ。わが身を守るために、権力に媚びへつらい、平気で友人を裏切る」と。こちらが描くテロ計画の標的は、アメリカで最もユダヤ資本の集中するというハリウッドだ。
中編3篇を集めた薄い1冊だが、エルロイの毒も悪臭もどうやら健在。『アメリカン・タブロイド』の作者の現在は、騒々しいレクイエムに溢れる。むしろ作者自身に向けられているようにも。【野崎六助 (作家・評論家)】
| ホワイトハウスの職人たち | |
![]() | マイケル・ユー 新潮社 2006-10-14 売り上げランキング : 6919 おすすめ平均 ![]() ホワイトハウスを味わえるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー マイケル・ユー(米国在勤の韓国人コンサルタント)
裏で支える職人たちから見たホワイトハウスの素顔
──今年6月の小泉純一郎前首相の訪米前、ホワイトハウスの菓子職人・メスニエさん(フランス出身)からアドバイスを求められたそうですね。
■訪米の約2カ月前、「盆栽をテーマにデザートを作りたいから教えてほしい」というメールが着たので、雪に囲まれた盆栽、ブッシュ大統領が昨年訪問した金閣寺の写真などを送りました。実は当初「日本で盆栽といえばお年寄りの好み。しかも小泉さんは離婚して1人なので盆栽はそぐわない」と伝えたのですが、よほど日本と盆栽のイメージが強かったんですね。晩餐会でチョコレートや果物などを使ったデザートは「ボンサイガーデン」と紹介されました。それは薄く雪をかぶった松と金閣寺を模した建物が並ぶ庭のかたちをしており、芸術作品でした。
──ホワイトハウスの内情を本に書くきっかけは。
■ホワイトハウスは世界中のVIPや食べ物が集まり、「21世紀のローマ」のような雰囲気です。とは言え人間が住んでいる所だから、硬い話でなく、ソフトな面で米国を分かりやすく説明しようと、そこで働く菓子職人、学芸員、理髪師、料理人、仕立屋、フローリストにアプローチしました。
──「デザート作りに命を懸けてきた」というメスニエさんが菓子作りのため指紋を失った話には驚きました。
■9歳から始め、擦れて消えてしまったそうです。仕事の情熱やロイヤルティーは強い。本で紹介した職人さんは個人で世界に魅せるというプライドと責任感を持っていますね。
──大統領も共和党と民主党でタイプが分かれますね。
■理髪師はブッシュとクリントンのヘアスタイルの差を引き合いに、「共和党大統領は短めのコンサバティブな髪型で、民主党は長めでカジュアルな雰囲気を好む」と言います。共和党は代々同じ職人をひいきにするが、民主党は新しい人を連れて来たがります。共和党の方がお金持ちで子沢山が多いから、伝統を大切するんですね。
──ホワイトハウスの運営に「金をかけ過ぎ」との批判もあります。
■日本の政治家は庶民性をアピールするため「清貧競争」をしているように見えます。ブッシュ大統領のスーツは最低50万円ぐらいのものですが、費用は彼の財布からです。国のトップは自国民だけでなく世界のトップを相手にするから、生活に相当な金をかけるのは当然で、それを隠さなくてもいい。
──安倍晋三首相の官邸は、昭恵夫人の外交活動を補佐するポストを新設するなど、ホワイトハウスを意識した態勢になってきました。
■日本のファーストレディーは「内助の功」の役割が中心でしたが、安倍夫人は欧米のファーストレディーのように政治的なサポートを積極的にやるべきでしょう。「官邸の主婦」として仕切り、スタッフを公募してもいい。無駄遣いと言われるなら、ホワイトハウスのように資金を集めるための基金を作り、パーティーを開くなどして活動するのも一案です。
| BRICs―持続的成長の可能性と課題 | |
![]() | みずほ総合研究所 東洋経済新報社 2006-11 売り上げランキング : 24136 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界の成長センターとしてBRICsが注目されている。本書ではまず、なぜBRICsが注目されるに至ったのか、その現在位置と成長の過程を各国ごとに解説する。さらに世界の貿易や投資、エネルギー、環境、国際金融に与える影響を分析し、BRICs経済の長期展望と成長持続の条件、日本企業の対BRICs戦略が語られる。
| 平和政策 | |
![]() | 大芝 亮 山田 哲也 藤原 帰一 有斐閣 2006-10 売り上げランキング : 31974 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国際紛争はなぜ起こるのか。現代の戦争に対してどのような対応ができるのか。「平和の実現」を政策目標として捉え、軍事介入ではない平和構築を体系的に論じる。国際紛争の実態や核抑止力の問題、国際政治、法制度、紛争後の選挙、開発協力、ジェンダー、NGOと市民社会など、多彩な視点からそれぞれの専門家たちが考察する。
| 日本経済の新局面 | |
![]() | 小峰 隆夫 中央公論新社 2006-11 売り上げランキング : 95872 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本経済は「失われた10年」を抜け出したと言われる。新局面を迎えたこの節目に、改めて日本経済が直面する問題を洗い直す。景気、デフレ、公的機関をはじめとする構造改革の行方、少子高齢化、人口問題など、短期、長期の多彩な視点から分析する。「なぜ『いざなぎ超え』を実感できないのか」「『地域振興券』はなぜ効果がなかったのか」などの分析も興味深い。
| 言語都市・ベルリン 1861‐1945 | |
![]() | 和田 博文 西村 将洋 和田 桂子 藤原書店 2006-10 売り上げランキング : 285292 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の近代化の過程で、ドイツは日本にとってのモデルとして重要なポジションを占めてきた。ドイツに学ぶべく、明治・大正・昭和の戦前期にベルリンを訪れた日本人は膨大な数にのぼるが、彼らの目に映ったベルリンとは、いかなる都市だったのか。森鴎外、寺田寅彦、山田耕筰、村山知義、阿部次郎、千田是也、和辻哲郎など25人のベルリン体験や、現地で発行された日本人発行の雑誌などから、日本人の「ベルリン」と近代日本を俯瞰する。
| パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間 | |
![]() | 四方田 犬彦 作品社 2006-11 売り上げランキング : 23919 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
映画史研究家の著者が、映画という表現のなかに捉えられたパレスチナを自らのパレスチナ体験と共に語る。「人種としてのユダヤ人などどこにも存在しない」と著者は言う。アラブからインドからモロッコからロシアから、世界中から様々な出自を背負ってイスラエルに集結した人々の、多元化する社会の実相が描き出される。そこにはアラブ対ユダヤという構図では計り知れない矛盾が渦巻き、その矛盾を生きるしかない人々の現実がある。
| 頭がいい人の早わかり現代の論点 | |
![]() | 樋口 裕一 草思社 2005-10-29 売り上げランキング : 155465 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
賢そうに見せる話術
年功序列が崩れた今、頭が悪そうに見えるのは損であるし、逆に賢そうに見える人のチャンスが高まっている。このコラムも「頭を良くする本」というテーマで書き続けているが、今は単に頭を良くするだけでなく、「良く見せる技術」も大切なのだろう。
そのために『頭がいい人、悪い人の話し方』という本が空前のベストセラーとなったのだろうが、著者の樋口裕一氏が2005年11月に出した『頭がいい人の早わかり現代の論点』(草思社、1365円)は、その意味で相当使える本だ。
樋口氏は、予備校の小論文プロ講師として長年、受験生に、きちんと小論文のネタを持っていることの大切さを説いていたが、人に話をする場合でも、ネタを持っているだけで相当賢そうに見える。
近代精神はもう時代遅れなのかという普遍的、哲学的テーマや、知的会話に欠かせない純文学論(樋口氏はもともとフランス文学の専門家でもある)や哲学論から、グローバル化は進んだほうがいいのか、市場経済を欲望に任せてもよいのか、裁判員制度は実施すべきか、「ゆとり教育」は方向転換すべきか、など多様な現代の問題点を取り上げ、どう会話のネタに盛り込むかをコーチしてくれる。1年前に出された本なのに古さを感じさせないところをみると、しばらくは使えるネタが並んでいるといえる。
基本的には、本書ではたとえばグローバリズムについて論じる際に、グローバリズムはどうして生まれたか、その問題点は何か、さらに樋口氏の考え方を示すという構成になっており、スムーズに理解できるので、会話に使いやすい。
時事問題から教養レベルの話まで、本書を通じて話のネタを増やしていくことはもちろん大切なことだが、それ以上に見習うべきは、樋口氏の論理の展開のパターンを身につけることだ。 「はじめに」で本書の正しい使い方が紹介されているが、覚えたネタをどう料理するかのテクニックが秀逸だ。まず問題提起をし、次に意見提示、さらにその根拠をいくつか挙げて展開し、最後に結論を話す。これは実は小論文のパターンと同じなのだが、普段から練習しておくかどうかで話術のパターンが違ってくる。
ちょっとした習慣で知的に見えることは、私も請け合いたい。【和田英樹 精神科医】
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テレビ誕生、日中関係にもアメリカ情報戦の影
日本経済は「失われた十年」をようやく脱したようだが、破竹の成長を遂げる中国にも「失われた十年」があった。1966年からの文化大革命である。杉本信行『大地の咆哮──元上海総領事が見た中国』(PHP研究所、1785円)は、著者の外務省語学研修生としての文革体験から始まる。末期ガンのなかで執筆し、刊行直後に逝った。最後は上海総領事だった外交官で、足で稼いだ農村見聞録は貴重。水不足と農業に中国の主要な矛盾を見いだす。中国を愛するがゆえに苦言を呈する、そんな気概が伝わる。
だが外務省チャイナスクール出身者の遺著は日中2国間関係に絞られる。72年の国交回復に直接かかわらず、78年の平和友好条約以後の勤務体験が中心なため、アメリカはあまり出てこない。田中内閣時の国交回復は米中接近の後追いで、北朝鮮核実験後の6者協議も米中秘密提携で再開されたのに。
当事者能力を制限された日本外交は敗戦・占領期に始まる。この期になぜか、戦前警察官僚、戦犯容疑者だった正力松太郎は復権し、日本プロ野球の父、テレビの父、原子力の父となる。読売新聞再建ばかりでなく、日本テレビの開局に奔走したが、その戦犯解除、テレビ進出のいきさつには、かねてから噂があった。安倍首相の尊敬する祖父岸信介とよく似た、黒い噂が。
有馬哲夫『日本テレビとCIA──発掘された「正力ファイル」』(新潮社、1575円)は、その噂を学問の王道から実証した好著。確かに推理小説以上に奇々怪々で、日本のテレビ誕生の陰で米情報機関、国務省、軍部、政治家が暗躍し、冷戦軍事戦略と心理戦略が重なる。親日外交官上がりのジャパン・ロビーであるドゥマンは、戦後日本の反共スキームを象徴天皇制、財閥復権、強力な保守政党、メディアコントロールに置いた。関係者の自慢話に惑わされず、機密解除公文書とドル資金の流れから筋立てた戦後電波通信網誕生の深層は説得力がある。
正力がCIAから「ポダム」の暗号名まで与えられていたのにも驚くが、確実な史料と抑制された筆致で再現された経済復興、自衛隊発足、保守合同の「逆コース」を貫く情報戦に戦慄。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】


日本の財政政策 処方箋
期待はずれ






















