メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年11月14日~11月21日

労働ダンピング―雇用の多様化の果てに
労働ダンピング―雇用の多様化の果てに中野 麻美

岩波書店 2006-10
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おすすめ平均 star
star何もしなければ悪くなるだけ

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商品化され、買い叩かれる労働の現実を告発

労働の買い叩きと投げ売りが凄まじい勢いで働き手を襲っている。「無料お試しキャンペーン実施中! 1週間無料、1カ月35%オフ、3カ月13%オフ」。派遣の売り込みにこうした宣伝が登場するまでになった現状を「労働ダンピング」として告発しているのが本書である。

著者は、NPO「派遣労働ネットワーク」の代表として、パート、派遣、請負、委託などの雇用形態の多様化の果てに、ダンピング攻勢にさらされ、液状化してきた雇用の現場を見てきた。取り上げている実態や訴えの多くは、各種の労働相談のホットラインに寄せられた生の声から拾われている。それだけにインパクトが強く、重みがある。

労働の商品化とダンピングは、1986年に労働者派遣法が施行され、職業安定法で禁止されてきた労働者供給事業が16業務に限って合法化された時から広がり始めた。今では製造現場への派遣を含め、ほとんど全面的に解禁されるに至っている。その結果、労働者の賃金や労働条件は、派遣先と派遣元の「商取引」に委ねられるようになった。当初は「やりたい仕事ができる」「残業がない」と言われた派遣も、今では、残業をしなければ仕事はない、残業をしても残業代を請求できない職場が増えている。雇用期間は最初は1年だったが、半年、3カ月、果ては1カ月に変更され、最後は解雇という例もある。正社員と同じ仕事をしていて賃金は3分の1、それさえ年々引き下げられているという訴えもある。

パート・派遣などの非正規による常用代替が進むなかで、正社員の側でも「値崩れ」が始まっている。労働相談には、「あなたの賃金の半分で働いてもらえる派遣がある」と言われて、正社員が退職や移籍を促されたといった苦情も寄せられる。

自治体でも国でも、正職員や臨時職員を派遣や委託に切り替える動きが強まっている。最も安価な料金を提示した業者と契約する競争入札制度が適用されることで、派遣料金や委託料金は急激な値崩れをきたし、最低賃金法や労働基準法さえ順守できない事態が生じている。

労働ダンピングのなかで広がる正規と非正規の処遇格差の拡大は、女性においてより深刻である。それゆえに著者は言う。家族的責任を女性に負担させ、男性は過労死するほど働くという労働スタイルを変えないかぎり、女性の低賃金と男性の長時間労働はなくならない、と。

労働の商品化を食い止め、人間らしい労働と生活を実現するためにぜひ一読を薦めたい。【評者 森岡孝二(関西大学経済学部教授)】

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

子どもが見ている背中―良心と抵抗の教育
子どもが見ている背中―良心と抵抗の教育野田 正彰

岩波書店 2006-10
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国旗・国家問題の現場で追いつめられる教師たち

東京都教育委員会は2003年10月23日、都立学校に対して通達を出した。「入学式や卒業式などでは、国旗に対して起立し、国歌を斉唱せよ」というものだ。そして「教職員が校長の職務命令に従わない場合は服務上の責任を問う」とした。都立学校に国旗掲揚と国歌斉唱を強制したのだ。

どうしても「君が代」を歌えない教職員たちは「国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟」を起こした。東京地裁は9月、都教委の通達は違憲であり、教育基本法にも反するとした。

ところが、判決にはもう一つ、重要な判断が含まれていた。判決は教職員の受けた精神的損害を認め、都にそれぞれ3万円の損害賠償を命じたのだ。違憲、違法とは別に、都教委は教職員の精神的損害に対する加害者と認定されたのである。

精神科医である著者は、原告弁護団に依頼され、精神医学的意見書を作成した。意見書は裁判で証拠として採用された。原告の精神的損害は、著者の意見書により証明されたのだ。本書は、その意見書の再編集を主要な内容として、追いつめられた教職員の現在を描く。

痛ましい記述が続く。最も追いつめられたのは音楽教師たちだった。入学式、卒業式で校長から「君が代」のピアノ伴奏を求められるからだ。ピアノ伴奏くらい、というように考えられるかもしれない。しかし、音楽教師がキリスト者であれば、神ではない君主をたたえる歌は歌えないし、伴奏することで子どもたちに斉唱を強要することもできない。訴訟で「国歌斉唱義務不存在確認」を求めたのは、そのためだ。

国旗国歌法は国旗や国歌に対する国民の対応を規程しない。規程すれば、思想・良心の自由を定めた憲法に違反する。ここから文部科学省の小役人らしい陰険な策謀が始まる。まずは広島県教委に、次には主戦場の都教委に通達を出させ、人事権を背に校長に通達順守を迫る。校長は都教委の圧力に屈して、人事権と職務命令を背景に教職員に隷従を迫る。隷従しない教職員はいじめ抜く。

いじめを苦にした子どもたちの自殺が問題になっている。しかし、いじめを防ぎ、子どもを守る教職員の世界がいじめの世界なのだ。表題の「子どもが見ている背中」とは、そうした抑圧の下で子どもたちへの教えを自ら裏切る教職員や、裏切りを強要する校長や役人の背中である。子どもはそうした背中を見ているが、教育行政組織は子どもをまったく見ていない。【評者 北村龍行(毎日新聞論説委員)】

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

奇謀―真田幸村の遺言
奇謀―真田幸村の遺言鳥羽 亮

祥伝社 2006-11
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剣豪小説のヒーローになった新井白石

新井白石といえば、文治主義に基づく「正徳の治」を行った儒学者として有名だ。ところが第1回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞した中路啓太『火ノ児の剣』は、白石を剣豪小説のヒーローにした異色の物語を作り上げている。

幼い頃の白石は気性が荒く、怒ると眉間に“火”の文字に似た皴が出たという。著者はこの史実を踏まえ、主君の堀田筑前守を暗殺された伝蔵(後の白石)が、犯人の轅半左衛門に仇討ちを挑むものの、眉間に毒針を打ち込まれて敗退。この時の傷痕が“火”の文字になったという設定を施している。史実の隙間にフィクションを織り込むことで、当初は意外にも思えた剣客=白石という図式にリアリティーを与えた手腕は、高く評価できる。

やがて伝蔵は、五代将軍綱吉の出生にからむ暗闘に巻き込まれるが、この時に暗躍するのが御駕籠之者や黒鍬之者など幕府に実在した役職ばかりなのも面白い。伝奇小説には怪しげな組織が登場することも珍しくないが、これに対して本書は、史実に忠実でありながら波乱万丈な剣豪小説を作っており、その離れ業も興味深かった。

鳥羽亮『奇謀』(祥伝社、1890円)は、後に八代将軍となる吉宗が、実は密かに落ち延びた豊臣秀頼の後裔であり、やはり大坂城から脱出していた真田大助の子孫と共に徳川家に戦いを挑むという奇想が描かれていく。

それだけにほぼ全編が、吉宗派と兄の頼職派が紀州藩主の座をめぐって繰り広げる壮絶な闘争に当てられている。

剣術を筆頭に、槍術、居合術、柔術、忍術など様々な武術の達人が秘術を繰り出すので、最後まで息をもつかせぬ興奮を楽しむことができる。【末國善己(文芸評論家)】

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

市民マラソンの輝き―ストリートパーティーに花を!
市民マラソンの輝き―ストリートパーティーに花を!大島 幸夫

岩波書店 2006-10
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著者インタビュー 大島幸夫(NPO法人・東京夢舞いマラソン実行委員会理事長)

ゆっくり無理なく続ければマラソンも完走できる

――市民マラソンを取り上げるきっかけは?

■30年ほど前にカナダのバンクーバーで市民マラソンを間近に見て、日本のマラソン文化との違いに衝撃を受けたことが始まりです。それ以来、ニューヨークやロンドン、パリなど、市民も参加できる国際的な大会に参加したり、関係者の話を取材して、『ランナーズ』というランニングを楽しむ人のための雑誌に掲載してきました。それに加筆してまとめたのがこの本です。

日本ではチャンピオン・スポーツばかりが注目され、一般のランナーはどこか格下に見られています。なぜ海外ではこんなに開放的な市民が主体のマラソン大会ができて、日本では実現しないのか、それを考えながら書きました。

――マラソンといっても、それぞれに目標も、楽しみ方も違うんですね。

■ええ、どんどん多様化してきています。以前は市民マラソンといっても、みんな記録を狙って一生懸命だった。そこに女性が参加し、また障害者も入るようになって、「何も順位を競うだけがすべてじゃない」という考えが大きくなったんです。完走どころか、5 キロまで走れば満足といった人もいる。それぞれが、競争原理から外れて、それぞれの物差しによって楽しむスタイルになってきました。

――42歳で本格的に走り始めたそうですが、ほとんど運動もしていない中年でもマラソンに挑戦できますか。

■ええ、できます。長く走っている人のなかには、「学生時代は体育が苦手だった」とか「体を動かすのはおっくうだった」といった人が意外と多いんです。歩ける人なら走れるし、人と競ったり記録を気にしなければ、走れる人ならレースに出場できます。走っている間に距離が伸びてくるものなんです。一念発起はだめです。

「さあ、やるぞ」と最初から肩に力を入れると、ほとんどの人が途中で挫折する。気ままに、500メートルでもいいから、行けるところまで行ってみる。最初は汗もかくし、ビールもうまい。そうやって結果の楽しさを感じながら、時間のあるときに、自分なりにやっていくのがいい。

――年齢制限は?

■何歳でもできます。ただ、中年の初心者が無理をすると関節やアキレス腱を痛めることがある。大切なことは、自分の身体に耳を傾けるということですね。

――ランニングの効用をあげると。

■まず酒がうまい。原稿のアイデアが浮かぶ。季節感を肌で感じ、感受性を磨いてくれる。体重も減る。

これはぼくの自論ですが、走ることは日常からの離脱でもあるわけですから、おしゃれをしてほしい。特に中年の男性は。

――来年2月、東京で大規模なマラソンが計画されていますね。

■ええ。「東京マラソン2007」は首都で行われる初のビッグマラソン。東京でもボストンのような市民マラソンの開催を、と働きかけてきた者としては、「ようやく」という思いです。

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

P.F. ドラッカー経営論
P.F. ドラッカー経営論P.F. ドラッカー P.F. ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-09-08
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おすすめ平均 star
starドラッカー殊玉の補完集
star今世紀でも通用するマネジメント原則
starドラッカー好きには「便利な、楽しい、重宝する本」である

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昨年11月に亡くなったドラッカー教授が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した全論文を収める。1950年の「経営者の使命」から2004年の「プロフェッショナル・マネジャーの行動原理」まで。組織とマネジメントの本質を追い続け、「いかなる組織体においても、真の資源は人間である」とした信念と、先見性のある分析が光る。02年の論文では「組織と働き手との関係の希薄化は、あまりに重大な危険である」としてアウトソーシングの陥穽に警鐘を鳴らしている。

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

協同組合の軌跡とビジョン
協同組合の軌跡とビジョン鈴木 俊彦

農林統計協会 2006-09
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昨年11月に亡くなったドラッカー教授が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した全論文を収める。1950年の「経営者の使命」から2004年の「プロフェッショナル・マネジャーの行動原理」まで。組織とマネジメントの本質を追い続け、「いかなる組織体においても、真の資源は人間である」とした信念と、先見性のある分析が光る。02年の論文では「組織と働き手との関係の希薄化は、あまりに重大な危険である」としてアウトソーシングの陥穽に警鐘を鳴らしている。

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

池上彰の新聞勉強術
池上彰の新聞勉強術池上 彰

ダイヤモンド社 2006-09-15
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おすすめ平均 star
star新聞週間に読んだ一冊
star情報を知識に高める
star情報整理術にも

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ニュースのツボを押さえ、分かりやすく解説してくれることで定評のある著者が新聞の活用法を伝授する。新聞の紙面構成や記事の書かれ方の基本から、時間がないときの新聞速読術、仕事への活用術、さらには「スクラップで自分探し」など幅広く解説する。

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

ガイアの復讐
ガイアの復讐ジェームズ ラブロック James Lovelock 竹村 健一

中央公論新社 2006-10
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著名な英国の生物物理学者による地球の“臨床診断書”。地球温暖化対策は地球を「ガイア」という自己調整能力を持つ生命体として包括的にとらえる一方、正しい科学情報に対する冷静な判断が必要であり、そこから導き出される唯一の方法は「持続可能な撤退」、すなわち人間の生活を自然のサイクルから切り離し、エネルギー源としては原発のみが有効と主張する。そうしないと人類は「ガイア」の復讐を受けるだろう、と。原発反対派はどう読む?

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

フランス資本主義―戦間期の研究
フランス資本主義―戦間期の研究玉田 美治 戸原 四郎 工藤 章

桜井書店 2006-09
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1980年に48歳で病死した信州大学経済学部教授の遺稿論文。著者はマルクス経済学の宇野派の立場から執筆にあたったが、未完のまま友人の戸原四郎元東大教授に引き継がれた。ところが戸原氏も2005年に病死したため、両氏の関係者の尽力で30年ぶりに世に送り出されたもの。内容は両大戦間のフランス資本主義の特徴分析で、日本ではなじみのない分野だが、両氏の“DNA”が今も受け継がれている事実は感動的だ。

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

検証 戦争責任〈1〉
検証 戦争責任〈1〉読売新聞戦争責任検証委員会

中央公論新社 2006-07
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おすすめ平均 star
star裸の王様
star概要を掴むための教科書的なものとして・・・
star責任というもの

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検証 戦争責任〈2〉
検証 戦争責任〈2〉読売新聞戦争責任検証委員会

中央公論新社 2006-10
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おすすめ平均 star
star裸の王様
star大新聞が、あぁ
star新聞社の態度表明

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父と娘の満州―満鉄理事犬塚信太郎の生涯
父と娘の満州―満鉄理事犬塚信太郎の生涯小川 薫 小川 忠彦

新風舎 2006-09
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おすすめ平均 star
star歴史の証人に耳を傾けよう

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「昭和戦争」と過ちのコスト

『検証 戦争責任1』に続いて再び『検証 戦争責任2』(中央公論新社、1575円)を取り上げたい。評者は今、特に安倍政権が成立した時点でこの問題を徹底的に議論することが大切だと思っている。というのは、安倍首相をはじめ、この戦争を全く知らない人たちが政治や経済の中枢に登場してきた今こそ、過去をしっかりと分析し、その責任の所在を明確にすることが重要だと思うからだ。

著者である読売新聞戦争責任検証委員会は、満州事変から始まった一連の戦争を「昭和戦争」と呼ぶ。大東亜戦争、太平洋戦争など様々な呼び方があるが、極めて適切な命名である。1941年、米国との戦争が始まった時、中国に投入されていた日本陸軍の兵士は138万人で、総兵力の65%だった。敗戦の45年には、中国へ配備された兵力は198万人にのぼり、米国との戦争につぎ込まれた164万人を上回っている。つまり、この戦争は対中戦争であり、米国との戦争は、その延長線上で日本が引きずり込まれた戦争だったというわけだ。

このように考えていくと、本書が指摘しているように、満州事変を引き起こした関東軍参謀の板垣征四郎、石原莞爾らの罪は極めて重い。歴史家の秦郁彦が言うように、「石原、板垣、本庄(繁・関東軍司令官)、林(銑十郎・朝鮮軍司令官)は陸軍刑法違反で死刑相当」というのは全く正しい。しかも、石原は本書が「石原モデル」と呼ぶ参謀が指揮官と日本の政治を思いのままに動かす参謀・官僚の「暴走」の基本型をつくり、それをその後の参謀たちが踏襲して戦争が拡大していったのだ。

まさに満州での過ちが日本を「昭和戦争」の泥沼に引きずり込んだのだが、この満州を庶民の側から見た『父と娘の満州』(小川薫著、小川忠彦編、新風舎、1575円)を併せて読むと面白い。

庶民といっても、満鉄初代総裁・後藤新平のもとで満鉄理事を務めた犬塚信太郎の娘、薫の手記を編集したものだが、命からがら日本に逃れた人たちにシベリア抑留60万人を重ね合わせると、いかに石原たちの過ちのコストが高かったかが実感できる。後藤新平から石原莞爾へ、日本の外交は明治から大正を経て、昭和に入って大きく曲がってしまったのだ。【早稲田大学教授 榊原英資】

■2006/11/21, 毎日エコノミスト

ビジュアルNippon 江戸時代
ビジュアルNippon 江戸時代山本 博文

小学館 2006-10-17
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著者インタビュー 山本博文(東京大学史料編纂所教授)

「原寸大」だから見えてくる江戸の細部に宿るリアリティー

――絵巻物や屏風絵などの絵画史料で江戸時代を読み解く、という本です。今年始まった「江戸文化歴史検定」受験者必読の副読本、ともオビに書いてあります。山本さんは監修者ということですが、具体的にはどのようなことをなさったのでしょうか。

■版元の編集者と使いたい絵を集め、テーマや執筆者を考えました。江戸時代270年間の流れが通史として分かるような30項目を立て、見開きカラーの絵を中心に、解説やコラムなどで構成しています。

売り物は何といっても、絵を原寸大で見せているところです。教科書などに載っている絵画史料は添え物的で、細部がよく分からないでしょう。もともとこうした絵は細密に描かれているものが多いですから、原寸大で見て初めて、人の表情や仕草が生き生きと伝わるんです。

――本邦初公開という「佐渡国金堀之図」が、私は特に面白かったです。鉱山のいろんな場所で、人々が何をしているのかが、つぶさに分かる。こういうのは本当に細部が見えないと意味がないですね。

■細部が見えることで、歴史の見方も変わると思います。

鉱山の例で言うと、江戸時代のそれは「過酷な重労働」というイメージがあるでしょう。しかし、この絵を見れば、子供から女性、老人までが役割分担し、一つの活気ある共同体を成していたことが分かります。絵とともに、そういう新しい視点を提供するのも本書の狙いです。

――江戸の街を描いたものは、一人一人の楽しげな表情がよく分かるせいか、賑わいが聞こえてきそうですね。

■そうですね。しかし一方、「江戸大地震図巻」や「禁門の変図屏風」では流血の凄惨な場面が細かく描かれている。とにかくリアルなんですよ。

――そもそも、こうした絵はどのような目的で描かれたのでしょう。

■いまの写真と同じで、記録として残すためです。屏風などに描かれたものは装飾品でもあります。民間のお金持ちが発注したものもありますが、史料として価値があるのは、藩のお抱え絵師が公の目的で描いた絵に多いですね。なかには、殿様に下々の生活を知ってもらう、という教育目的で描かれたものもあったようです。

――美術品としての価値は様々でしょうが、どれも保存状態がよく、色鮮やかなのに驚きました。

■大事に保管されていたんですね。ちなみに、従来の写真では細部が分からないものが多いので、本書のために、ほとんど撮り直しています。

例えばニシン漁で賑わう北海道松前藩の港を描いた「江差松前屏風」の海の色を見てください。この青の鮮やかさ。

明治から昭和初期の資料集を作ろうとすると、なまじモノクロ写真が残っているものだから、色のない、あるいはセピア一色の世界になってしまう。写真のない江戸時代のほうが、かえってこんなに華麗できらびやかになるのが面白いと思うんですね。

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

組織自律力―マネジメント像の転換
組織自律力―マネジメント像の転換佐藤 剛

慶應義塾大学出版会 2006-10
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おすすめ平均 star
starどこがマネジメント論の転換なのか?

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強烈なリーダーシップで企業を引っ張るカリスマ経営者の物語はよく語られるが、実際の組織は果たしてそれだけで動いているのだろうか。個人がそれぞれの個性や能力を発揮し、一見バラバラに行動しているようにしか見えなくても、ある時点でまとまった一つの目標に向かって進んでいく「組織自律力」のメカニズムを解析する。

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

図解入門ビジネス 金融商品取引法の基本と仕組みがよーくわかる本
図解入門ビジネス 金融商品取引法の基本と仕組みがよーくわかる本野澤 澄人

秀和システム 2006-09
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金融市場の活性化を狙った日本版ビッグバンから10年。金融商品が多様化し複雑化する一方で、隙間を狙う金融事件も相次いだ。急増する事件をきっかけに登場したのが、金融商品取引法だ。本書はその背景から説き起こし、規制対象となる金融商品、株式公開買い付け(TOB)制度はどうなるのか、日本版企業改革(SOX)法、金融機関はどう変わるのかなどまで分かりやすく解説する。

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

平和に暮らす、戦争しない経済学
平和に暮らす、戦争しない経済学森永 卓郎

アスペクト 2006-10-24
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「戦争すると、損します」と著者は言う。短期的には軍需景気が起きることはあっても、終わってみれば、より大きな経済損失が生まれているのだと。戦争と経済の関係、アメリカが戦争好きな理由、日本が戦争を好きになりつつある現状など、いま日本の社会が置かれている構造変化の実相を見つめ、経済アナリストの視点から分析する。

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

短篇小説集 軍師の死にざま
短篇小説集 軍師の死にざま末國 善己

作品社 2006-10
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戦国大名の陰に軍師あり! 武田信玄に仕えた「陰の軍師」山本勘助、竹中半兵衛、黒田如水、真田幸村、山中鹿之助など、名参謀を描いた11編を収める。書き手は池波正太郎、山本周五郎、司馬遼太郎、坂口安吾、松本清張など、これまた強者ぞろいだ。

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

アマゾンのロングテールは、二度笑う 「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略
アマゾンのロングテールは、二度笑う  「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略鈴木 貴博

講談社 2006-10-19
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starキャッチーなテーマが並ぶ戦略論入門書

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「ウェブ2・0」を原動力に、普通の書店が在庫を持たない商品で売り上げを伸ばしたアマゾンをはじめ、トヨタやコカ・コーラの「同質化戦略」、スターバックスの「ドミナント戦略」、マイクロソフトの「不完全戦略」など、勝ち残る企業の戦略を解説する

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

エイジフリー社会を生きる NTT出版ライブラリーレゾナント021
エイジフリー社会を生きる    NTT出版ライブラリーレゾナント021清家 篤

NTT出版 2006-02-15
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生涯現役型のエイジフリー社会

少子高齢化というと、日本の最大の問題のように言われる。例えば2007年問題なるものがあるが、これは団塊の世代が定年時期を迎え、労働力不足が深刻になりはじめる年という意味である。

私も本業が老人医療なので痛感することだが、今の高齢者は昔と比べ物にならないくらい若返っている。実は『課長 島耕作』シリーズの島耕作は著者の弘兼憲史氏と同じ1947年生まれの設定で、2007年に定年を迎える年代。中高年の間、思い切り若返らせておいて、定年だけは変わらないというのは、むしろ残酷と言えるかもしれない。

そういうなかで、小手先の制度改革より、団塊の世代による生涯現役型社会を提唱するのが、清家篤著『エイジフリー社会を生きる』(NTT出版、1680円)だ。著書の清家氏は高齢者の雇用問題を研究する労働経済学者で、多彩なデータを駆使し、現実的な観点からも高齢社会への様々な提言を行っている。

現実には、高齢者の就労率が高いほど老人医療費が安いことが知られており、生涯現役型社会は老年医学の立場からも支持できる。04年の高齢者雇用安定法改正で、47年生まれの人は64歳まで年齢を理由に退職を強制してはならないことも紹介される。一方で法改正を伝えながら、一方で2007年問題を煽るマスメディアとは一線を画した冷静な視点である。

最も共感するのは、年齢差別禁止法導入の提言である。清家氏によると、アメリカの数ある労働規制のなかで雇用主に最も不満の少ない規制だそうだ。日本の場合、高齢者の労働力率が高いため有利なのだが、現行の年功賃金体系のままでは、導入は無理というのもうなずける。

高齢者には、長年培ってきた仕事に対する高い能力があり、新技術についていけないなどという嘘を喝破する。高齢になると習得するまでの時間コストの回収期間が短くなるという不利はあるが、技術革新のスピードが速くなっているこの時代、若い人でも次々と生まれる新技術の前では条件が変わらなくなるという発想は雇用者側が肝に銘じるべきだろう。

そのほか、高齢者の日本型モデルの提言も説得力があるが、いちばん大切なのは高齢者の定義を変えるという著者の提言だろう。これがいちばん確実に高齢者を減らす方法なのである。【和田英樹(精神科医)】

■2006/11/14, 毎日エコノミスト

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