メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年10月31日~11月7日

MITチームの調査研究によるグローバル企業の成功戦略
MITチームの調査研究によるグローバル企業の成功戦略スザンヌ バーガー MIT産業生産性センター 楡井 浩一

草思社 2006-09-23
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おすすめ平均 star
star「多種多様」な「成功モデル」から読者は何を学び得るのか?

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500社の調査から見えてきたグローバル戦略の多様性

グローバル化が進む経済のもとで企業を成功に導く戦略とはどういうものか。成功企業の戦略には唯一最善の型があるのだろうか。こうした問題の解明のために、マサチューセッツ工科大学(MIT)産業生産性センター(IPC)に属する研究チームが、5年の歳月をかけ、世界500社を訪問する大規模な調査を実施した。IPCは1990年に『メイド・イン・アメリカ』を発表し、話題を呼んだセンターだ。

調査を進めるに当たって、彼らは出来合いの理論よりも現場の実務家の声を重視するボトムアップの探求方法を採用した。13人の研究者が手分けして世界中を飛び回り、ヒヤリングしたのだ。興味の中心は、業務の流れを構成する研究、開発、製造、販売等のどれを社内にとどめ、どれを外部調達するかにあった。バリューチェーンの細分化が可能になり、各々を切り離して別の企業・世界中の国々へ移転できるようになったからだ。

グローバル企業を成功に導く単一の戦略があるとよくいわれる。いわゆる収斂モデルだ。しかし調査の結果、収斂モデルは正しくないとMITチームは結論する。資本主義には国や地域の違いに対応した多様なモデルが並存している。各企業が歴史的な経緯で醸成し、伝承してきた遺産の影響も大きい。それらの違いを反映し、成功したグローバル戦略は多様なのだ。

例えばアパレル分野では、アメリカの大手アパレル企業の多くは製造をほぼ完全にアウトソーシングかオフショアリングしているが、成長著しいスペインの衣料品小売業ZARAは半分以上の商品を国内で製造している。米企業にも国内生産にこだわり、高成果を上げているアパレル企業が少数ながらある。

こうした多様性はあるものの、グローバル化への取り組みという点で大きく見ると、日米は対照的だ。この点は中国への対応に明確である。アメリカの経営者は国内での生産を減らし、中国へどんどんアウトソーシングしている。対照的に日本の経営者は、生産をできるだけ国内に残すか、中国で生産する場合でも関係子会社に託す取り組みで成果を上げている。

このような対応の違いは、各企業が歩んできた歴史や、人的・技術的資源の構築の仕方、母国の違いによる面が大きい。

本書はグローバル化をめぐる複雑な現象に正面から切り込んだ好著である。議論のバランスがよく、事例も豊富だ。現時点で日本企業がどう見られているかを、世界的視野で知るうえでも格好の書物である。【評者 榊原清則(慶応義塾大学総合政策学部教授)】

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

超・格差社会アメリカの真実
超・格差社会アメリカの真実小林 由美

日経BP社 2006-09-21
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おすすめ平均 star
star明確な視点
star告発物ではなく、優れたれた経済史本である。
starアメリカの臓腑を知るには

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中産階級が消え失せたアメリカの富の偏在を描き出す

アメリカの富の偏在がこれほど凄まじいとは。在米26年になる、経営戦略コンサルタントの著者によれば、この超大国は4つの階層から成っており、人口比で5%にも満たない「特権階級」と「プロフェッショナル階級」に富の60%を集中させている。

中産階級など消え失せた。もはやサラリーマンや工場従業員に安定はあり得ない。彼らは絶えず馘首に怯える「貧困層」に追いやられ、転落すれば酒か麻薬に溺れるしかない「落ちこぼれ」の生活が待っている。

著者は問いかけるのだ。〈この人たちは、中世封建制度下の異教徒、ジプシーやユダヤ人、あるいはチャールズ・ディケンズが描いた、産業革命さなかのロンドン貧民街の住人たちと、どこが違うのだろうか?〉と。

階層間の格差は、レーガン政権以降の恣意的な税制や金融政策で一気に拡大した。貧困以下の層の不満は外に向けられ、“強いアメリカ”のせめて一員であることに誇りを見いださせて、富裕層の利益のための戦争を下支えする機能にされていく。

アメリカ社会はグローバル・スタンダードなどではない。にもかかわらず、人間の最もシンプルな部分を剥き出しにした、きわめて特殊かつ極端な価値体系へと、嬉々として自らを染め上げんとしている国がある。

日本だ。アメリカとの関係は植民地と宗主国のそれにほかならないとまで断定しながら、ただし著者はアメリカ社会を否定しない。マネーが絶対の基準であるゆえに、それでも階層の上方移動の可能性が高いらしいのと、常に新しいものが生まれてくる風土に加えて、明確な棲み分けが下層にも快適な「心地よ」さをもたらしたとも指摘する。

この間の日本の構造改革、格差拡大の“張本人”であり続けた規制改革・民間開放推進会議の宮内義彦・前座長(オリックス会長)の最近の発言(『朝日新聞』9月13日付)を思い出した。 「パイが大きくなるのを止めるような平等はいけないと思う。『日本の社会にとって心地良い格差』をつくるべきだ」

自らの改革路線が引きずり下ろした人々の暮らし向きを「心地よい」と形容できる人と著者とを一括りにするわけにはいかない。いわゆる一億総中流だって実は女性を埒外に置いた(その他の差別や偏見も含めて)男性社会でしか通じない与太にすぎなかったのだが、著者が渡米する前の日本社会への恩讐を、著者は無理にも超えようとしてくれている。

結論部分にさほどの新味はない。だからこそ誠実な処方箋たり得るのではないかとも思う。【評者 斎藤貴男(ジャーナリスト)】

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

経済指標はこう読む わかる・使える45項
経済指標はこう読む わかる・使える45項永濱 利廣

平凡社 2006-09-12
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著者インタビュー 永濱利廣(第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト)

プロの視点とポイントを現実に即して解説

── 一般のビジネスマンや主婦までが株式や投資信託を手軽に購入する時代です。経済統計や指標を、とっつきにくいと敬遠していられませんね。

■これまで縁遠かった主婦や、いまさら大きな声では聞けないというビジネスマンに、必要に応じて読んでもらおうと考えて執筆しました。もちろん大学生のテキストにもなるように、全体としては体系だてて解説しています。

──数ある統計や指標を45に絞り込み、必要最低限の指標の読み方を解説するなどの工夫をしています。

■例えば車の免許を取ろうとする人には、車のメカニズムより縦列駐車や車線変更などの具体的な練習が有効なように、経済指標も実際に疑問が生じた段階で仕組みを調べるほうが効率的です。すぐに実際の数字で確認できるようにインターネットで入手できる指標を取り上げ、アドレスも明記しました。

──数字好きのマニアックな解説本でもありません。

■それはかなり注意したつもりです。ただ、数字を読み込むプロの視点は盛り込みました。例えば経済成長のカギを握る指標として重要な設備投資。なかでも機械受注という指標が重要ですが、この指標にも「確定した数値」と「見通し調査」が示されます。見通しがやがて確定していくわけですが、そこに生じる数字の乖離は「見通し達成率」として公表されます。達成率が低ければ当初の見通しより需要が弱いことを意味し、高ければ逆に強い。見通し調査は数百にのぼる企業経営者からの聞き取りが基礎で、経営者の心理状態が垣間見える重要な指標です。こうした指標を読み込み、エコノミストは景気判断や予測を行っているのです。

──景気動向を知るうえで重要な指標に有効求人倍率がありますが、規制緩和などで、この統計が必ずしも実態を反映しなくなっているようですね。

■有効求人倍率は月間の有効求職者数に対する有効求人数の比率、つまり仕事を求めている人1人当たりの求人数を示しています。厚生労働省が全国約600カ所の職業安定所(ハローワーク)で取り扱われる求職や求人、就職などの件数を集計して調査月の翌月末に公表します。景気が上向き人手不足なると求人が増え、数値は上がるので、景気動向を知るのに重要視されます。

しかし最近は人材派遣会社や企業が直接、新聞や雑誌の求人広告で採用するケースが急増し、ハローワークを経由しない就職活動が目立つようになりました。仕事を求める人が複数のハローワークに登録するので実態よりかさ上げされているという指摘もあり、注意が必要です。

──読み解くポイントは?

■指標や統計が持つ意味やくせ、比較には「前年」「前月」のどちらがいいのか、特性をしっかり把握する必要があります。関連しあう指標も多く、失業率が物価動向、さらには金融政策に影響を及ぼしたりします。第1章で経済の仕組みと指標の関係をフローチャートにしましたが、これが頭に入ると理解しやすいかもしれません。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

ニッポン、ほんとに格差社会?
ニッポン、ほんとに格差社会?池上 彰

小学館 2006-10-11
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おすすめ平均 star
star日本人は貯蓄好きじゃなかったんですね
star私にとっての今年のベスト3作品

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「大きな政府」から「小さな政府」へと言われるが、現在の日本は「大きな政府」なのか。郵政民営化は他の先進国では常識か。日本の年金制度は世界ではどの程度のレベルなのか。日本ほど公共事業に巨額の資金をつぎ込む国はない? 女性の社会進出は進んでいないのか、など、30の項目に分けて日本の「常識」を検証する。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか
間違いだらけの公務員制度改革―なぜ成果主義が貫けないのか中野 雅至

日本経済新聞社 2006-09
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人員削減ばかりが目立ち、生産性の高い政府をつくるという大目的を見失っている公務員制度改革。著者は公務員制度の現状を改めて分析し、官の守備範囲、あるべき公務員像とは何か、中央と地方の役割分担などを明確にしたうえで、人事評価や給与制度、権限移譲、マネジメントなど具体的な方策を提言する。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」
日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」有馬 哲夫

新潮社 2006-10-17
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おすすめ平均 star
starジャパンロビーが面白い
star小説より面白い
star濃厚な力作

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1953年8月、NHKに次いで日本初の民放テレビ放送を開始した日本テレビ放送網。日本へのテレビ導入は、実はアメリカの外交、軍事、政治、情報における世界戦略のパーツのひとつだった……。著者がアメリカ公文書館で発見した「CIA正力ファイル」をもとに、CIAやジャパンロビー、政治家、官僚、諜報関係者たちの暗躍を探る。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか
最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのかジェームズ R・チャイルズ 高橋 健次

草思社 2006-10-19
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チェルノブイリ原発事故やスペースシャトル・チャレンジャー墜落といった巨大事故、大惨事から、テキサス州の小学校で起きた爆発事故などの知られざる惨事まで、50あまりの事故やニアミスの事例を取り上げ、「最悪の事故」を引き起こす人的要因に迫る。事故の現場で人々は何を考え、どう行動したのか。失敗だけではなく未然に防ぐことができた物語など、人間ドラマで読ませる。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

夢と魅惑の全体主義
夢と魅惑の全体主義井上 章一

文藝春秋 2006-09
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おすすめ平均 star
starしょせん流行をめぐる内輪もめ
star建築史からみたファシズム
star都市計画にたくすファシズム

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古代ローマの栄光を自らに重ね合わせ、古代遺跡や歴史的建造物を政治的空間に利用しようとしたムッソリーニ、ヒトラーのベルリン南北軸構想、スターリン・アールデコと呼ばれるモスクワの超高層建築群、そして1930年代末の戦時下の日本に出現した、急ごしらえのバラックのような官庁建築群……。独裁者たちは建築や都市計画に何を求めようとしたのか。「建築」という視点からファシズムの側面を浮き彫りにする。

■2006/11/07, 毎日エコノミスト

トライアングル資本主義
トライアングル資本主義中尾 茂夫

東洋経済新報社 2006-09
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おすすめ平均 star
star通貨を巡る初学者向けの概説書

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日本はアジアの孤児となるのか世界経済の構造と未来を問う

本書は世界経済で重みを増すアジア資本主義経済に対し、過小評価を続ける日本に向け「覚醒せよ!」とのメッセージを発し、21世紀の世界経済は米国・アジア・日本からなる水平的なトライアングル資本主義の構造になると強調する。

著者によれば、日本では米国を頂点、アジアを底辺に、日本がその中間に位置する垂直的なピラミッド資本主義の構造が想定されてきた。

たしかに、福沢論吉の「脱亜・入欧論」が日本資本主義の出発点だった。それが第2次大戦後には「入米化」に傾斜し、行き過ぎた「日米同盟」や「日本の対米従属化」をもたらしてきた。しかも、グローバリゼーションはアメリカニズムとして展開され、公的ガバナンスの欠如や資本市場一辺倒が主調になった。

著者はいう。中国などアジア資本主義は公的ガバナンスや市場一辺倒の限界を理解するから、アジアには真のグローバリゼーションの可能性がある。アジア諸国には元々、欧米との太いパイプがあり、欧米のアジア認識も日本のアジア認識に優っている面もあるから、今後日本を除外して米国〓アジアのリンケージが強まる可能性すらある。日本の長い「脱亜思考」のツケがいよいよ顕在化してくるというわけだ。

以上の論理はわかりやすく、その通りだ。日本はアジアの孤児になり、頼みの米国からも見放されかねない。著者が「戦略なき日本」と嘆息するのは理解できる。それではデフレ脱却後の21世紀の日本は米〓アジアの強い連携下で自己証明が不可能か。ここで、評者は著者の見解と異なる。安全保障上、憲法9条の規定から、日本には「日米べったり同盟」しか選択肢はなかった。だが、経済文法では日本は驚くほど対米従属ではなく、むしろ超アメリカニズムだ。ライブドア事件や村上ファンドのケースは日本資本主義進化の道程の「若気の過ち」でしかない。

日本はアジア諸国の急ごしらえの資本主義と異なり、本家の欧米資本主義を超える人間的な21世紀型資本主義に着々と向かう可能性を秘める。ただ、1980年代後半に米国を抜き有頂天になり、「15年デフレ」の停滞に追い込まれただけだ。

1党独裁の中国、階層制が残るインド、なお民主化途上のタイ、インドネシア、小国(地域)の韓国、シンガポール、台湾などに比し、日本は防衛上、対米従属ではあるが、戦後60年間、民主主義一本で歩んできた唯一のアジアの国だ。無論、傲慢はいけない。だが、自らの100年以上の苦い経験と教訓を日本人は決して卑下してはならない。【評者 斎藤精一郎(千葉商科大学大学院教授)】

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

ブランドの条件
ブランドの条件山田 登世子

岩波書店 2006-09
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ブランドの起源をたどる旅と国家政策としてのブランド

世界に名だたるブランドとなっているルイ・ヴィトン、エルメス、そしてシャネルが、どのようにしてブランドとなりえたのかが探られる。著者の描くその歴史自体が興味を引き、評者も読んで面白いと思った点が、2つあった。

一つは、なぜそれがブランドたりえるのかを明らかにするために、著者はブランドの起源を確かめるのだが、それぞれの起源が思う以上に異なっていたことだ。ルイ・ヴィトンは皇室御用達の旅行用木箱製造業者として、エルメスは馬具製造業者として、そしてシャネルはココ・シャネルという出身もはっきりしない1人の女性によって作られた。とりわけココ・シャネルの話は面白い。彼女はいわば徒手空拳で一つのブランドを創り出し、それまでの貴族向けとは違い大衆向けのブランドを創り出した、ブランドビジネスの革命家でもあったのだ。

そうした三つのブランドの起源を読んだ印象は、ブランドがブランドとして確立されるうえで、実のところ起源は何であってもかまわないのではないかということだ。

何かのきっかけで商品に人気が出る、人気が出るとそれを欲しくなる、欲しくなるとさらに人気が出るというサイクルがあるが、価値があってサイクルが生まれるのではなく、サイクルのなかで価値が生まれる。つまり、価値があって交換されるのではなく、交換があって価値が生まれるという逆説がここにある。このなかにあって、ブランドの起源は価値を生み出す源泉というより、動き出したサイクルをさらに強化すべく構成され神話化された記号でしかない。これはしかし、著者の意見とは少し違っているかもしれない。

もう一つ興味深かった点は、ある時代のある地域にまとまって現代の有名ブランドが誕生しているという指摘である。ルイ・ヴィトンに加え、カルティエ、ゲラン、ワースは、いずれもパリのラ・ペ通りに本店を構え、そろってナポレオン3世のウジェニー皇后の御用商人であったという。この第2帝政時代にモダン都市パリが誕生し、現在に及ぶ消費文化が花開いた。その後1889年のパリ万博を経て、国際的なブランドとして育っていくのだが、そこにはフランスの国を挙げてのブランドづくりがあった。

わが国には、ブランドを支える細かい手工業技術、神話化が容易な伝統文化、そしてブランドの良さを十分に理解できる消費者がそろっている。「フランスが試みたようなことは、わが国においてこそ」と、本書を読みながら教えられた。【評者 石井淳蔵(神戸大学大学院経営学研究科教授)】

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

裁判長!ここは懲役4年でどうすか
裁判長!ここは懲役4年でどうすか北尾 トロ

文藝春秋 2006-07
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おすすめ平均 star
star裁判に人生を見に行く
star裁判員制度の導入賛成
star裁判傍聴初心者は一読をお勧めします。

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著者インタビュー 北尾トロ(フリーライター)

ナマのドラマは迫力満点人間模様の裁判傍聴記

──楽しい裁判傍聴記です。初心者向けの「傍聴の極意教えます」というコラムもあるし、著者の「こいつ、やってるわ」「やるよ、また」などの勝手な独白が笑えます。7月の発売以来、15万部を超す売れ行きだそうですね。

■2003年に出した単行本の時は売れなかったんですが、09年5月までに裁判員制度がスタートするからか、裁判への関心が高いみたいですね。

──本の中では、傍聴マニアと知り合ってずいぶん教えられています。写真入りの裁判官リストまで作ってる人がいるとは驚きます。

■僕もリストをもらいましたよ。傍聴マニアは好みがはっきりしていて、裁判長のファンとか、やたら人事に詳しい人とか、いろいろです。「裁判は追っていくものだ」と、初公判から判決まで聴き続けるのが王道のようです。でも僕は、有名な大事件より、名前と罪状だけで行き当たりバッタリで傍聴してる。だからハズレも多いし、ムダなことやってるって言われてるんですよ。

──どういう事件が好きですか。

■被告人の人生が浮き彫りになるような事件ですね。裁判の楽しみは、メディアを通じて入ってくる事件とはまったく違うドラマが見える点です。傍聴しながら、いろいろ妄想しています。自分に置き換えてみたりすることも多いですよ。同じ年代とか、故郷が同じとか、ちょっとでも自分と関係があると気持ちが入りやすいですね。

──否認したり、無罪主張も面白いんじゃないですか。

■もう1000件近く見ているので分かってきましたが、最初のうちは否認すると「これは冤罪じゃないか」といちいち信じてました。でもそのうちに「やっぱりやってる」って分かってくる。痴漢事件は開き直る場合が多いですが、無罪主張は面白くなります。奥さんの証人出廷が多いんですが、取り乱して号泣したり、しぶしぶ出てきているのがバレバレだったり……。

──被告人以外も観察されてます。

■弁護士が日当狙いで引き延ばしてるな、などは分かるようになりました。僕ならこの弁護士に頼みたいとかね。被告をエキセントリックに叱りつけ、自信を持って責める検察官らしい検察官は好きですね。キリッとした美人検察官が、わいせつ事件の被告を追いつめる時なんかは「そこまで言わなくても」と思いますよ。粋な計らいを見せる裁判官もいて、それには心温まります。でも裁判官も人の子、傍聴人、特に見学の学生が多いと張り切っちゃって、それも面白いです。一度でいいから優秀な弁護士と検察官が、無罪主張でやりあうエース対決を見たいと思っているんですよ。

──傍聴を続けていて自分自身が変わった点はありますか?

■裁判になれば、被告って、人生を丸裸にされるわけですよ。僕はモラリストじゃないので正義漢ぶるつもりはまったくないのですが、傍聴されたくないので、バカなことで捕まりたくないと思うようになりましたね(笑)。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

ピーク・オイル・パニック―迫る石油危機と代替エネルギーの可能性
ピーク・オイル・パニック―迫る石油危機と代替エネルギーの可能性ジェレミー レゲット Jeremy Leggett 益岡 賢

作品社 2006-09
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おすすめ平均 star
starピークオイル問題の全体像を分かりやすく述べた良書

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問題は、数十年で石油産出量がピークに達し、枯渇していくこと以前に、石油需要に供給が追いつかなくなる経済パニックだった。英国の地質学者であり、巨大石油企業のコンサルタントとして石油探査をしてきた著者が、巨大石油企業のトップの本音や石油探査の専門家たちの意見などをもとに、ピーク・オイルの真実を明らかにする。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

戦場でメシを食う
戦場でメシを食う佐藤 和孝

新潮社 2006-10-14
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アフガニスタンで、サラエボで、チェチェンで、イラクで、死と隣り合わせの戦場でも、人々はメシを食う。雪のハジガック峠でアフガン・ゲリラと分け合ったナンの味、瓦礫と化したサラエボの町で1杯のコーヒーに心を配る人々、スマトラのジャングルで食べた“闇ナベ”カレー……。紛争地からの報道を続けるジャーナリストが、戦場での食と生きることの意味を問う。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

知的ストレッチ入門―すいすい読める書けるアイデアが出る
知的ストレッチ入門―すいすい読める書けるアイデアが出る日垣 隆

大和書房 2006-09
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おすすめ平均 star
star端々にほほぅということが書いてあるけど
starアウトプットしてナンボの世界

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本を読む、調べる、文章を書く。こうした知的生産のスピードが、以前より圧倒的に速くなった、と著者はいう。その理由は、身体同様、知のストレッチにも効率的な方法や技術があるからだ。付箋の使い方から、情報整理術、アイデアの出し方、アウトプットの方法まで、本誌連載「敢闘言」の筆者が送る「21世紀版・知的生産の技術」。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

BRICs富裕層―爆発する巨大市場を攻略せよ
BRICs富裕層―爆発する巨大市場を攻略せよ門倉 貴史

東洋経済新報社 2006-10
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豊富な天然資源と安価で優秀な若い労働力を背景に、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs諸国が注目を浴びているが、域内では富裕層やニューリッチ層と呼ばれる新たな階層集団が登場してきている。100万ドル以上の金融資産を持つ「億万長者」は域内で65万人超の規模に達するという。この富裕層をターゲットに、どのようなマーケティング戦略が可能なのか。彼らのライフスタイル、消費市場を分析し、対BRICs戦略を探る。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

天皇と政治―近代日本のダイナミズム
天皇と政治―近代日本のダイナミズム御厨 貴

藤原書店 2006-09
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著者は冒頭から「天皇と皇室・皇族の存在を抜きにして、近代日本の政治を語ることはできない」と語る。小泉政権下で注目を浴びた憲法改正、女帝論、戦争責任等の問題だが、近代日本のダイナミズムと天皇の存在をどう捉えるのか。北村透谷が捉えた明治国家の精神をめぐる対談を皮切りに、明治天皇、大正天皇、昭和天皇と戦前、占領期とその延長としての戦後、戦争責任に苦悩し続けた昭和天皇と現代の歴史問題など、多彩な視点から探る。

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

自殺予防
自殺予防高橋 祥友

岩波書店 2006-07
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おすすめ平均 star
starこの本を読めば、自殺志願者が踏みとどまるだろう。
starなるほど
star自殺に至る過程と周囲の対応

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いちばん緊急なのは自殺予防対策だ

飲酒運転へのバッシングが激しく行われている。もちろん飲酒運転は法律違反であり、ほめられたことではないが、公共交通も乏しく、娯楽も少なく、代行運転なども手痛い出費になる地方の人たちに、東京の感覚で徹底的にやりこめるのにも違和感を感じる。

飲酒運転による死亡事故は意外に少なく、昨年1年では707件だったそうだ。数の問題ではないだろうが、実は、はるかに多くの人の命を奪っている問題に自殺がある。昨年1年間の自殺者数は3万2552人。交通事故死者数6871人の5倍近い数である。そして、この自殺者の数は1988年から97年までの10年間の平均より1万人以上多い。自殺防止の対策に取り組むことが、はるかに多くの人の命を救えることだけは確かだ。

自殺予防の問題に長らく取り組んでこられた名医に、防衛医科大学校の高橋祥友教授がいる。そして、その決定版とも言える名著が先ごろ出版された。『自殺予防』(岩波新書、777円)である。

この本のいいところは、自殺予防のために知っておきたい10の危険因子(うつ病の症状に気をつけよう、原因不明の身体の不調が長引く、酒量が増す、安全や健康が保てない、仕事の負担が急に増える・大きな失敗をする・職を失う、職場や家族のサポートが得られない、本人にとって価値のあるものを失う、重症の身体の病気にかかる、自殺を口にする、自殺未遂に及ぶ)など、説明が具体的であることだ。具体的なケースも何例か挙げられていて、自殺に及ぶ危険な流れが実感しやすい。自殺したいと打ち明けられた際のガイドラインも、実践しやすいように丁寧に解説してある。

特筆したいのは、うつ病についての解説である。聞いたことはあっても、なじみのないこの心の病について、具体的にどんな症状が出るのか、どんなふうに治療するのか、どんなふうに医者に連れて行けばいいのかなどの記述が実用的だ。

また、国を挙げての取り組みで10年間で3割も自殺を減らしたフィンランドの例を紹介しながら、自殺が単一の理由で起こるのでなく、複合要因で起こるから、その一つひとつを少しでも改善するという姿勢は傾聴に値する。

とにかく、自殺予防は知ることから始まると痛感した。【和田英樹 精神科医】

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

丸山眞男回顧談〈上〉
丸山眞男回顧談〈上〉松沢 弘陽 植手 通有

岩波書店 2006-08
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帰還せず 残留日本兵 六〇年目の証言
帰還せず 残留日本兵 六〇年目の証言青沼 陽一郎

新潮社 2006-07-28
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オーラルヒストリーで読み解く20世紀日本

団塊世代以上の読書好きなら面白くてたまらないだろう。松沢弘陽・植手通有編『丸山眞男回顧談(上下)』(岩波書店、各2625円)は、20世紀日本を代表する思想家の知の秘密と、古き良き時代の学府の姿が余すところなく語られる。絶対お買い得だ。

1988年から7年間の聞き取りというから、丸山晩年の記録である。聞き手が資料を準備したとはいえ、驚異の記憶力だ。中学・高校・大学の一つ一つの授業の品評が出てくる。ノートを読むだけ、脱線が多いと辛辣な批評もあれば、講義でのたとえ話をそっくり覚えていたりする。大正教養主義後の世代なのに、スポーツ、文学、映画から得意の音楽まで、いつどんな作品をどう見たか、好きな小説の構成から女優の演技まで生き生きと再現する。

無論、マルクス主義への距離からナチズムの評価まで、丸山政治学の秘密も明かされる。丸山にとって8月15日は、広島での被爆体験のみならず、母の立ち会えぬ命日だった。それが「復初」の原点で、自らの生涯を終える日となる意味も、痛切に読み取れる。

だが丸山の生きた時代のそうした感性は、安倍晋三首相を含む戦無世代に継承できるだろうか。村上春樹の小説を読んで、丸山眞男の著作に正面から向き合う若者は出てくるだろうか。

そんな問いに、青沼陽一郎『帰還せず─残留日本兵60年目の証言』(新潮社、1785円)は、一つの希望を与える。率直に言って読みやすくはない。1968年生まれの著者が、「大東亜戦争」敗戦後もタイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマーに残り、そこで家族を持ち生涯を終えようとする「祖国を棄てた」14人を訪ね歩くオーラルヒストリーで、戦場の悲惨や飢えのリアルな描写には限界がある。

だが「なぜ日本に帰らなかったか」の疑問を率直にぶつける青年のひたむきさは、次第に老人たちの心を開く。理由は故郷の貧しさ、脱走、現地女性との出会い、家族・戦友との人間関係や生計手段等々と様々だが、彼らが国家を裏切ったのではなく、日本こそ彼らを裏切ったという若き著者の「発見」は、「美しい国」を唱える政治家の言説より、はるかに重く深い。【加藤哲郎 一橋大学大学院社会学研究科教授】

■2006/10/31, 毎日エコノミスト

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