メイン > 週刊エコノミスト書評 『ブックレビュー』 > 2006年10月17日~10月24日
| 都心回帰の経済学―集積の利益の実証分析 | |
![]() | 八田 達夫 日本経済新聞社 2006-06-01 売り上げランキング : 77306 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大都市への集中こそが経済成長を高めると分析
都市の存在理由は対面接触の容易さによる集積の利益にある。つまり、集積度の高いところほど生産性が高くなる。本書は、長らく日本の国土政策の基本であった「国土の均衡ある発展」政策が経済資源の非効率な分散をもたらし、成長を抑制してきたとし、都心回帰の政策により経済成長が高まることを実証分析に基づき論じている。
本書に収められた8つの論文はいずれも興味深い。第1章は、東京の高い生産性の理由を探る。推計では、各都市の生産性は集積度(就業密度)でほぼ説明され、東京の生産性の高さも、他の都市同様、就業密度で説明される。中央政府の存在というような東京の特殊性によるものではないのである。
第2章は、経済合理性に任せれば大都市に集中したはずの経済資源を「国土の均衡ある発展」政策により地方にとどめようとしたことが1970年代以降の成長鈍化を招いた、と論じている。70年代初頭までに、東京、大阪で大規模工場の新増設を制限する工場等立地制限法が制定されるなど、製造業の地域分散が図られた。本社機能の集積が進んだ東京では、法人向けサービスの拡大が製造業衰退の悪影響をカバーしたが、製造業への依存度の高かった大阪の被害は甚大だった。これが大阪の長期凋落の原因であり、法律が適用されなかった名古屋が漁夫の利を得て躍進する要因になったという主張は興味深い。2002年に同法は撤廃されたが、近年の大阪の復活はそれと無縁ではないだろう。
第4章では、都市機能の大きな制約である航空行政について具体的な提言が行われる。例えば、国際線の大半を羽田に移行し、国内線の一部を成田に移すことなどが提案されている。
都市への集積が進めば道路や通勤列車の混雑という費用が生じるが、3章及び5章以降では混雑に関する分析が示され、具体的な解決策が提示される。また、容積率規制の緩和で、大都市の集積をさらに進めた場合の便益と費用を推計したうえで、便益が勝るとしている。従来、混雑緩和を目的に採用された容積率規制は、集積の利益そのものを否定し生産性を低下させるので望ましくない、という。
このところ、大都市へ企業やヒトが再び集まり始めている。一方、地域経済では過疎化が一層進み、地域格差是正が頻繁に論じられる。しかし、本書の分析に従えば、都市への集積を否定することは成長を否定することにほかならない。成長路線を掲げる安倍政権はこのテーマにどう対応するか。【評者 河野龍太郎(BNPパリバ証券チーフエコノミスト)】
| 若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 | |
![]() | 城 繁幸 光文社 2006-09-15 売り上げランキング : 56 おすすめ平均 ![]() 違うよ 主張には共感するが、もう少し裏付けるデータを かつての若者も一読すべきAmazonで詳しく見る by G-Tools |
若者を取り巻く閉塞感の実態を年功序列制度の分析から描く
正社員になることが難しい時代でも(最近は少し楽になったようだが)、若者がせっかく採用された会社を3年で辞めてしまうのはなぜか。
日本社会では、年功序列のシステムに乗っていることが重要である。そのことで社会的信用が得られ、伴侶も得られ、親の期待にも応えられる。それほど日本社会に定着した年功序列制度の分析を通し、本書は若者の閉塞感を描き出している。
多くの人が、年功序列制度はよいものだと言う。それなら、なぜ若者は3年で会社を辞めるのかと著者は言う。
現実には、ごく限られた人しか年功制度に乗れないだろう。会社が成長しないからだ。管理職待望の中高年が長蛇の列を作っていることを見れば、若者には将来のキャリアビジョンが見えてこない。本来の年功序列制度であれば、下積みの後には必ずよいことがあるはずだ。しかし、そのようなことは期待できない。若者には、この現実が見えている。
しかも、不況で生じた正社員採用の厳選主義が、意識のミスマッチを生む。バブルの頃には何でもやりますという若者を採用してきた。ところが会社は、何ができるかという専門性を若者に求めるようになった。現実には、そのような専門性を生かせる仕事は、年功序列の組織では、何十年もたたなければ与えられない。仕事のマッチングをしようという試みが、むしろミスマッチを生むという。
若者に空手形を渡して働かせる制度が、よい制度のはずはない。空手形で働かされる重圧が若者を、結婚できない、子供を育てられない状況に追い詰め、この国の未来を失わせているという。
私は、人間は基本的には合理的で、多くの人があまりにも長い間、騙され続ける制度はありえないと思う。年功制度が続いてきたのは、それがある程度は事実であったからだろう。しかし、それが15年不況で空手形になっていたのなら、不況が終われば空手形の程度が縮小するだろう。それでも若者の不信は止まらないかもしれない。15年間の不況は社会を変えたのだろう。
そうであれば、年功序列の重石のない会社を新しく立ち上げれば、それは大きな利益をもたらすだろう。しかし、そのような動きが大きな流れになっているようには思えない。年功制度があまりにも社会に深く根ざしてしまい、多くの人が現実を見ることができないのか、それとも年功制度にはまだまだ人を引きつける力があるからなのだろうか。【評者 原田 泰(大和総研チーフエコノミスト)】
| 始皇帝 | |
![]() | 塚本 青史 毎日新聞社 2006-08 売り上げランキング : 32253 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
改革者・始皇帝が陥った視野狭窄の罠
焚書坑儒などの虐殺を行い、民衆を動員して多くの宮殿を造営したことで暴君とされてきた始皇帝。だが度量衡を統一し、反乱の温床となる封建制を廃止して中央集権国家を樹立。さらに法治主義を徹底することで犯罪を減らすなど、始皇帝は古い因習を破壊した改革者でもあった。
塚本青史『始皇帝』は、始皇帝を単なる悪役とするのではなく、清冽な指導者としての側面も丹念に掘り起こすことで、今までにない人物像を作り上げている。
「奇貨居くべし」の故事成語で有名な趙の豪商・呂不韋が壮絶な謀略戦を仕掛けたこともあり、政(後の始皇帝)は見事に秦の国王となる。だが中国統一までには、いくつもの政治的な課題を乗り越える必要があった。
秦は厳格な法治主義を採っていた。それでも汚職官僚が撲滅できないことを知った始皇帝は、さらなる厳罰化を進めるが、それは社会に閉塞感をもたらしてしまう。
また始皇帝は、咸陽を中心にした道路網を張り巡らせ、皇帝親政が容易に実行できるようインフラを整備する。だが強力な中央集権国家は、トップの失政を正すことが難しく、一気に崩壊する危険をはらんでいた。
始皇帝が直面した政治問題は、現代でも難問とされているので、すぐに結論は出せない。その時に参考になるのが過去の記録だが、始皇帝は自分を批判するため歴史上の英雄を研究する学者が増えていることを聞き、あらゆる歴史書を焼き捨てることを命じる。
焚書に象徴される視野狭窄に陥ったことで、始皇帝は没落した。この事実は、現代人に歴史と真摯に向き合うことの重要性を示唆しているように思えてならない。【末國善己 文芸評論家】
| 好かれる方法 戦略的PRの発想 | |
![]() | 矢島 尚 新潮社 2006-09-15 売り上げランキング : 1507 おすすめ平均 ![]() 踊らせる方が悪いのか踊らされる方が悪いのか 「そうだったのか」の連続 業務紹介Amazonで詳しく見る by G-Tools |
郵政総選挙を大勝させたPR力の本質とは何か
──昨年の郵政総選挙でプラップジャパンは小泉・自民党の大勝にどう貢献したのですか。
■PR会社との契約を考えた自民党から2004年9月にコンペの誘いを受け、当社が選ばれました。守秘義務契約があり、詳細はお話しできませんが、選挙中は党のコミュニケーション戦略チームに広報本部、幹事長室などの職員と我々が入って、毎朝会議を持ちました。前日のテレビから朝の新聞、雑誌のすべての論調について、我々が分析した結果に基づき、「次からこう発言した方がいい」という作戦を練りました。党代表のテレビ出演でも、司会、野党議員ら出演者との相性を第一に考慮し、「普通Aさんが出るところをBさんに」とキャスティングを決めました。一番効果的だったのは、党本部の職員が横断的に一つにまとまってアイデアを出しあったことです。
──「小泉劇場」の主演・小泉純一郎さんという存在を振り返りますと。
■ある種の天才でしょうね。例えるなら、長嶋茂雄さんが理屈でなくカンでゲームを作るように、小泉さんにも質問に対する素早い応答力など、大変なものがある。安倍晋三さんでも、小沢一郎さんでも、全然まねできないと思う。僕らも会社社長などを対象に記者会見やインタビューに備えてメディアトレーニングをするなかで、小泉さんのように「短いフレーズで」と指導しますが、本番ではそう言えず説明調になってしまいますね。会見はぶつかり合う場で、記者をどう説得するかは難しい技術。短く語り、「なぜそうか」を具体的な例で説明することです。
──小泉さんの話は具体例が豊富でしたか?
■あの人は例が豊富なんじゃなくて断定型ですよ。だれがどう言ってもこうなんだという頑固さで、そこにつけ入らせないところがあった。
──本来、くろこの立場ですが、本を書くきっかけは。
■「パブリックリレーションズ」という言葉は進駐軍が持ち込み、PRと訳されましたが、「宣伝する」という意味にしか使われず、なかなか一般に浸透しません。40年この仕事をやってじくじたる思いでしたが、少しでもPRに対する社会的認知度を上げたいという思いで出版の話をお受けしました。
──安倍首相は昨年の選挙広報戦略の中心人物、世耕弘成参議院議員を広報担当の首相補佐官に抜擢しました。
■日本の広報史のなかで画期的なことで、官邸がホワイトハウス型の広報に移る象徴的な出来事です。ただ、世耕さんの下には公募で来た官僚が1人と聞いています。広報は第三者の目で見る仕組みが大事で、官邸に広報スタッフができても、専門家を置いて常にチェックしないと独り善がりのメッセージになりかねません。
──国のPRを手がけることが究極的な夢だそうですね。
■日本という国を企業に例えれば、日本はあまりにも中国や韓国といった市場に伝わっていません。どうやったら日本が好かれるかから始めたいです。
| スウェーデン―自律社会を生きる人びと | |
![]() | 岡沢 憲芙 中間 真一 早稲田大学出版部 2006-08 売り上げランキング : 90699 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「スウェーデン・モデル」で注目されるこの国の人々は、どのような生活実感を持って暮らしているのか。フィールドワークを中心に自律社会を目指すスウェーデンの社会システムを探る。出産・育児、教育、保健・医療事情から、働き方のバランス、高齢者福祉、障害者と納税、在住外国人の生き方などまで、多彩な視点から見つめる。
| 株のからくり | |
![]() | 奥村 宏 平凡社 2006-10-11 売り上げランキング : 38132 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ライブドア事件や村上ファンドの阪神電鉄株買い占めなど、株の買い占めが社会の注目を浴びている。一般投資家の株熱も高まる一方だが、株とは何か、株式会社とは何かといった株式市場の仕組みや実態を知ることの重要性が置き去りにされている実情に、著者は警鐘を鳴らす。本書では、株式会社の本質と歴史に立ち返りながら、株と株価をめぐる「現実」を解き明かす。
| 中国・アジア・日本―大国化する「巨龍」は脅威か | |
![]() | 天児 慧 筑摩書房 2006-10 売り上げランキング : 6586 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
このままいけば2015年には中国の経済力は日本と肩を並べるとも言われる。東アジアに日本と中国という2大パワーが誕生する時、日中関係はいかにあるべきなのか。歴史認識をめぐるぎくしゃくとした日中関係の展望は? 反日・反中感情の構造から、米中関係の実態、東アジア共同体の可能性などまでを冷静な視線で論じる。
| はじめての女性代議士たち―新しき明日の来るを信ず | |
![]() | 岩尾 光代 新風舎 2006-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
敗戦の焦土からいち早く立ち上がったのは女性たちだった。1945年12月には女性参政権が実現、翌46年4月の総選挙で日本初の女性代議士39人が誕生した。山口シヅエをはじめ日本の新しい未来を信じて国会の赤絨毯を踏んだ女性たちの生き方を現代に問う。
| Web 2.0 ツールのつかいかた まだ、Googleだけですか? | |
![]() | 橋本 大也 技術評論社 2006-10-06 売り上げランキング : 686 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「お気に入り」機能を共有できるソーシャル・ブックマークや、動画共有検索「You Tube」など、話題のツールを分かりやすく紹介する。『ウェブ進化論』の梅田望夫氏と元ライブドア最高技術責任者の小飼弾氏による「Web2・0をめぐる往復書簡」も掲載。
| おじさん通信簿 | |
![]() | 秋元 康 角川書店 2006-10 売り上げランキング : 42606 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
趣味は健康で、若者には昔話を繰り返し、時には「ちょいワル」を気取ってみる……。おじさんとはそも何者か。秋元康が語る「おじさん講座」。“おじさん”の時代を楽しむことができる者は、歳をとることが楽しくなる?
| まっとうな経済学 | |
![]() | ティム・ハーフォード 遠藤 真美 ランダムハウス講談社 2006-09-14 売り上げランキング : 24860 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1杯のカプチーノから見えてくる経済学の本質
「まっとうな……」というタイトルからの邪推をはるかに上回る1冊である。通勤駅のコーヒーバーで買う1杯のカプチーノから物語は始まる。コーヒー豆、牛乳、紙コップ、エスプレッソマシンやそれを動かす電気。そしてコーヒーを淹れてくれる愛らしい店員や彼女の働く店舗……。目の前のカプチーノがいかに気の遠くなるような複雑な共同作業の産物であるか、しかもその共同作業には誰も責任を負っていないことまでも明らかにされていく。
「ふつうの人」が「経済学者の視点に立って世界を見つめる手助け」をすることが本書の目的である。1杯のカプチーノを出発点とする「覆面経済学者の視線」は、「限界費用」「独占レント」「情報の非対称性」といった難解な用語を心地よく受け入れさせてくれるだけでなく、交通渋滞、中古車市場、医療などの身近な問題から、貧困、貿易、世界経済、地球環境といった問題までに及び、平易な文章で、しかもきわめて経済学的にその謎を解き明かすのである。「市場システム」と「非市場システム」の長所・短所を比較し、「効率性と公平性」の葛藤を論じ、規制や保護がいかに市場を歪めるかを例示することで、「完全競争市場よりも効率的な市場は存在しえない」ということを誰にでも理解できるように証明する。
一方で、ナイキなどの多国籍企業が発展途上国の労働者に劣悪な環境下での労働を強いているとしたSweat Shops(搾取工場)キャンペーンには、「搾取工場は衝撃を与える世界の貧困の症状であって、原因ではない」「不買運動をしても解決されない」と断じる。貧困の程度が搾取工場の劣悪さより深刻なときには、キャンペーンはその仕事場を奪うだけでなく「ゆっくりとだが確実に豊かになる」機会をも奪うのだと看破する。
1990年代以降、ノーベル経済学賞は、歴史、法律や心理学、ゲーム理論や情報の非対称性に関する研究といった「ふつうの人」の周囲にある謎にまで授賞の対象を拡げてきた。現実の生活により近づいてきた経済学の新知見を、多くの人たちに身近に理解してもらうことも経済学者の仕事の一つだと考えたとき、残念なことに私たち学者は本書ほどわかりやすく、親しみやすく伝えてこなかったのではないかと反省しきりである。
著者は『フィナンシャル・タイムズ』紙の記者出身、現役のコラムニストである。「ジャーナリスト恐るべし!」と思った。「経済学者の調査ツールの使い方」まで、わかりやすく教えてくれているのである。【評者 米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)】
| カザフスタン | |
![]() | カトリーヌ プジョル Catherine Poujol 宇山 智彦 白水社 2006-09 売り上げランキング : 138537 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
豊かな地下資源に恵まれた「ユーラシアの十字路」の国
小泉純一郎前首相は退任の直前にカザフスタンとウズベキスタンを訪れた。カザフスタンをはじめ中央アジアは、日本にとって距離的に近い国でありながら、精神的には遠い国であった。
ロシア革命後に人工国家としてつくられたカザフスタンは、現在その国土の広がりによって人びとに恩恵をもたらしている。石油や天然ガスなど豊かな地下資源の恩恵で、旧ソ連のなかでも将来を約束された国へ成長しているからだ。ここにはメンデレーエフの周期表に載っている元素がすべて埋蔵されているという。
128の民族から成るこの国は、もともとトルコ系の大部族連合から出発した「壮大な政治的・社会的機構」の遺産を今も受け継いでいる。ソ連解体の危機を乗り越え、現在の安定をもたらしたのは、良きにつけ悪しきにつけ、大統領のナザルバエフに負うところが多い。
著者のプジョルは、安定の要因を「建設中の国家の揺るぎない調停者の役を自身に課す」大統領のパーソナリティーに求めている。もともと冶金技術者あがりの共産党エリートだったナザルバエフは、極端なナショナリズムやイスラムに連なる政党を抑え、共産党の復活も妨げながら、新しい公的イスラムを管理する現実的な路線を採用することで国際的な信用を博するようになった。
2030年に向けられた政策のリズムは、「ユーラシアの十字路」「20億人市場を結ぶ橋」「地球化の焦点の一つ」「中央アジア第一の雪豹」というものであった。しかし、ロシア人の「頭脳」流出、民主化の遅れなど、カザフ人優先の政策は良いことずくめだけではないだろう。
注目すべきはカザフスタンの外交と安全保障である。著者はロシアとのCIS(独立国家共同体)だけでなく、トルコなど「テュルク世界」のつながり、アラブやイランとのイスラム・ブロック、イランを牽制する「ムスリム」パートナーとして重視するイスラエルとの関係などを多角的に論じている。それでも、「いまだに供給の回路と通信網の大半が向かう先」のロシアとの対話の重要性は揺らいでいない。
他方、この本では新たなパートナーとして米国と中国の役割も指摘されている。もっとも、米国の役割は欧州の支援より宣伝が上手であるにすぎず、中国にいたっては正負いずれとも見極められないと慎重な評価に終始している。EUの立場やフランス人の目から分析する本書は、日本にとっても大事なパートナーの性格を考えるうえで示唆に富んでいるだろう。【評者 山内昌之(東京大学大学院総合文化研究科教授)】
| 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? | |
![]() | 池谷 裕二 祥伝社 2006-09 売り上げランキング : 331 おすすめ平均 ![]() 最新の脳科学に関するエッセイ、まさに脳科楽! 一般向けのサーベイ論文(分かりやすい解説つき) 最新科学と科学的な妄想Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者インタビュー 池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科講師)
人は幸せになるようにできていた!?
──脳のなかではいったい何が起きているのか。恋愛やダイエット、ストレスといった話題から、最新の知見までを盛り込んだエッセイです。それにしても、言い訳したり、ウソをついたり、思いこんでみたり。脳というのは実に、人間っぽい存在なんですね。
■そういう人間っぽいのが、メカニカルにつくられているのが脳なんです。例えば記憶をコントロールするのは海馬、意欲は前頭葉というように、機能ごとに場所がきちんと分かれています。だからある部分が壊れると特定の症状が出てくる。海馬は記憶をつくるのに重要な役割を担っていますが、記憶を蓄える場所ではないので、海馬にダメージを受けた人は、新しいことは記憶できないけれど、別の場所に保存された古い記憶は残っているんです。
──ご専門は薬学ですが、なぜ海馬の研究をされているのですか。
■最終目標はアルツハイマーなど脳の病気の薬をつくることですが、その前段階で、なぜ記憶が消えるのかが分からない。そもそも脳はなぜ記憶できるのかと考えた時に自然と海馬に行き着きました。まだスタート地点ですが、将来、自分の脳が老化する頃までにはなんとか間に合わせたいですね(笑)。
──脳の機能には、未解明の部分もまだまだ多いのでしょうね。
■新しい発見もあります。例えば頭頂葉の一部を刺激すると、自分を天井から眺めているような幽体離脱の感覚に襲われることが分かっていますが、それはおそらく人間が何かを模倣するために発達させた機能なんです。小さい子が物事を覚える時は、まず人の真似をするでしょう。それには相手の動作を認識し、自分の動きと相手の動きを同じにしなくてはならない。その同一化の回路が頭頂葉にあって、そこを刺激されると、自分が動いているのに他人が動いているように感じるのです。
──味や色の判断などで先入観に惑わされたり、脳の反応自体がブランド志向だというのも面白いです。
■ブランド性の高いものに、脳はより大きく反応するという実験結果があるんです。市場調査だけでなく、脳の反応そのものが指標になるというので、神経細胞(ニューロン)の反応に着目したニューロマーケティングなども注目されているようです。
──「メカニカルなのに曖昧」が脳のキーワードのようですね。
■脳とコンピュータの違いは、脳には曖昧性というか「ゆらぎ」があるということです。神経細胞膜の電気が、ノイズとして、とくに理由なくゆらぐのです。コンピュータに同じ指令を出せば同じ答えが返ってきますが、脳の場合はその時々で答えが違う。刺激が来た時の神経細胞の状態で行動が決まってくるのです。
同じドラマを見ても、心にゆとりがある時、怒っている時、悲しい時では印象が違うでしょう。コンピュータには交渉という作業は必要ないですが、人が相手だと戦略を立てて交渉しなくてはいけない。それが面倒くさくもあり、面白いところではないでしょうか。
| 企業戦略白書〈5〉日本企業の戦略分析:2005 | |
![]() | 伊丹 敬之 一橋MBA戦略ワークショップ 東洋経済新報社 2006-09 売り上げランキング : 4953 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本企業の戦略の概況と特徴を分析するシリーズの5冊目。回復から成長へと向かう日本経済のなかで、企業パフォーマンスはどのように変化しているのか。経営努力を計る「頑張りマトリクス」や「戦略的打ち手」など独自の手法で分析する。ケーススタディーとして、松下電器産業、TOTO、NOVA、キヤノン、ミスミのビジネスシステム分析を挙げる。
| 倒産社長、復活列伝 | |
![]() | 三浦 紀夫 草思社 2006-09-20 売り上げランキング : 25049 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
自らも編集制作会社を倒産させ、どん底からはい上がった経験を持つ著者が12人の倒産社長の生き方を追い、復活へのプロセスを描き出す。板金塗装会社の倒産から立ち上がり東証1部上場企業を作り上げたガリバーインターナショナルの羽鳥兼市社長をはじめ、タクシー運転手に転身した倒産社長など、逆境をはね返す元気の源を探る。
| ユビキタスでつくる情報社会基盤 | |
![]() | 坂村 健 東京大学出版会 2006-09 売り上げランキング : 9339 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ユビキタス社会という言葉が定着してきている。私たちが暮らす現実世界で、誰もが、どこでも、意識せずに、状況に応じた快適なコンピュータ情報システムをどれだけ利用できるか。それは新技術開発の問題だけでなく、サービスの原資をいかに確保するか、デメリット発生の責任をどうするか、といった問題をクリアしていく必要がある。本書ではそのようなユビキタス情報社会の未来を、理系文系を超えた多角的な視点から捉え、検証していく。
| 無形資産価値経営―コンテクスト・イノベーションの原理と実践 | |
![]() | 寺本 義也 原田 保 生産性出版 2006-09 売り上げランキング : 76401 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ブランド価値や優れた人材、組織のマネジメント能力、販売チャネルや顧客との関係といった目に見えない無形資産が、企業にとって重要な資産であることが広く認識されるようになってきた。有形の資産に意味や価値を与える無形資産価値経営を創り上げていくには、どのような改革が必要なのか。JR東日本の「エキナカ」、東京電力の「オール電化」、松下電器産業など多数の実践事例を分析しながら、企業の競争力の源泉を探る。
| 史料が語るビザンツ世界 | |
![]() | 和田 廣 山川出版社 2006-03 売り上げランキング : 205255 おすすめ平均 ![]() 日本ビザンツ書籍出版第2段階の開幕Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 皇帝の閑暇 | |
![]() | ティルベリのゲルウァシウス Gervasii Tilberiensis 池上 俊一 青土社 1997-03 売り上げランキング : 509200 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
歴史家はなかなか史料の呪縛から抜け出せないもの。というのも、史料に拘泥することは甘美でもあるからだ。和田廣『史料が語るビザンツ世界』(山川出版社、3675円)はその芳しい風味をよく伝えてくれる。
キリスト教のなかでも、西方のカトリック教会と東方のギリシア正教会はどう違うのか。それがはっきりするのは、カトリック世界には宦官がいないのに、ビザンツ世界では宦官が活躍したことだという。もっとも、新約聖書からして「母の胎内から宦官に生まれついている者があり、また他人から宦官にされた者もあり、また天国のために自ら進んで宦官となった者もある」(「マタイ伝」19-12)と指摘している。禁欲をよしとする宗教ならば、宦官は聖なる人々としてあがめられてもいいわけだ。キリスト教を公認したコンスタンティヌス大帝以後、いく人もの皇帝は去勢手術を死罪をもって禁止した。にもかかわらず宦官志願者も宦官需要者も後を絶たなかったらしい。
西方と東方の差異はともかく、第4次十字軍ほど不可解きわまりないものはない。同じキリスト教徒である十字軍の騎士たちがコンスタンティノープルを攻撃し陥落させたのである。この悲惨な運命は、大帝以来900年間、主キリストの加護を確信していたビザンツ人には堪えがたかったにちがいない。「十字軍の騎士たちは詐欺師の集まりである」と知識人の一人は悲痛な叫びをあげる。
史料に拘泥した書をひもとくなら、史料そのものを読むにしくはない。ティルベリのゲルウァシウス作(池上俊一訳)『皇帝の閑暇』(青土社、2730円)は13世紀初頭にラテン語で書かれた驚異の不思議逸話集。たとえば、古代の大詩人ヴェルギリウスが魔術師として登場する。現代の読者には奇想天外な話でも中世の人々はまことしやかに語っていたのだろうか。また、月の満ち欠けに応じて姿をあらわす狼男は名高い。不安でありながら覗かずにはいられない幻想の怪物である。
本書は一般にはまだ馴染みがないが、欧米の中世史家の間では目下、人気急上昇中とか。民間伝承のなかに庶民の心性が反映するからだ。【本村凌二 東京大学大学教授】



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