メイン > 週刊エコノミスト書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年8月30日~9月6日

韓国のデジタル・デモクラシー
4087203018玄 武岩

集英社 2005-07
売り上げランキング : 10,840

おすすめ平均 star
star陳腐、の一言。
star韓国の「今」がよくわかった
starノムヒョン大統領のファンが書いたインターネット選挙の経緯

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

隣の国、韓国のブロードバンド普及率は世界一である。そして、韓国の人々がネットを使って激しい政治を繰り広げていることを、われわれは知っている。総選挙で「落選運動」と呼ばれる、半ば中傷合戦がネット掲示板で繰り広げられたり、ネット世代の強い支持を受けた盧武鉉大統領が当選したりしている。

しかし、その背後にある地域差別や反米感情、政治対立にまでは、なかなか目が向かない。本書は、朴正〓政権や全斗煥政権時代に端を発する韓国民主主義の問題、建国と冷戦にまでさかのぼる反米主義の問題を歴史から説き起こしてくれている。

そうした問題の数々を、時に深め、時に覆い隠していたのが、政権と癒着したメディアである。〈朝中東〉と呼ばれる『朝鮮日報』『中央日報』『東亜日報』のような大新聞が主導する世論に対抗する形で、インターネット新聞や政治コラムサイトが出てきている。「すべての市民が記者」という『オーマイニュース』では、登録さえすれば誰でも記事を書くことができるそうだ。

インターネットが普及するようになると、人々は何が本当なのかという情報を自らかき集め、そして自ら発信しはじめた。もはや、大手メディアが届けてくれる情報だけでは満足できなくなってきたのだ。

そして、そうした情報の拡散は、運動の組織化へとつながっていく。インターネットのない時代から、韓国の人々は大規模なデモを組織化してきたようだ。インターネットは、そうした韓国の政治風土とうまく合致し、人々の行動を左右するツールとなってきている。

インターネットが流行しはじめた当初、流通システムの「中抜き」ということがいわれた。しかし、インターネットが可能にしたのは、政治的中抜き、偏ったメディアの中抜きであり、その結果としての、民主化の進展とメディアの成長だったのだろう。

韓国が民主主義に熱狂し、インターネットを活用しようとするのは、単なるブームではない。民主主義を求める韓国の人々の切実な思いがネットへと注ぎ込まれているようだ。

日本では、候補者が選挙運動にインターネットを活用することが、公職選挙法によって制限されている。しかし、まもなく行われる総選挙は、初めての「ブログ選挙」になるだろう。有権者たちは選挙と政治について、おそらく書きまくるだろう。ネットを使って政治に何ができるのかを考える素材として、本書は興味深い。【評者 土屋大洋 慶応義塾大学助教授】

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

ごめん!
4478703272中村 修二

ダイヤモンド社 2005-07-15
売り上げランキング : 66,615

おすすめ平均 star
star日本の司法はおかしい
starええっ!?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「投資できるだけの資金を持った理糸の人間の少ない日本では、投資家の中心がいつまでも知的財産の中身の技術についてわけのわからない文系の人間のままだということです」中村修二の主張は、この言葉に集約されている。

周知のように青色発光ダイオードの発明をめぐる裁判で、東京地裁での第1審は、中村に対して「808億円の対価」を支払うよう日亜化学に命じたが、高裁での第2審では、わずか8億円の〓和解金〓になってしまった。日本という国が技術立国、知財立国として生きていくための将来を占う裁判は、古い概念が沈殿している過去の判例により、〓和をもって貴しとなす〓という結果に終わってしまった。開発や研究にたずさわる理系の人々の希望は、暗転したにちがいない。「ごめん」とは、かれらへの謝罪である。

物理が嫌いだから、数学が嫌いだからという消去法の文系人間が多い日本では、「中村裁判」の本質は理解されにくいだろう。しかし、銀行の連中は技術の中身なんか理解できない文系だから、という愚痴は、全国各地の中小企業で耳にする日本の現実である。中小企業が日本の技術を支えているというにもかかわらず、である。

中村は、「政財界や役人は、技術者や研究者が意識や見聞を高め、率直で強い意見を表すのが怖いんだと思います」ともいう。まさかと思うかもしれないが、これもまた現実である。旧科学技術庁の文系官僚は、国立機関の研究員たちが声を上げるのを嫌っていた。勉強ができる理系のお坊ちゃん、とからかいながら、である。

中村は、発明の対価としての額にこだわる。その額こそが評価であり、技術立国・知財立国としては必要不可欠の規範だからだ。中村は、このままでは、「日本の土台を形成してきたモノ作りの考え方が根底からくつがえされることになりかねない」と、〓和解〓がもたらす弊害を憂えている。

文系の、とくに金融関係の人々の目には、納得できない内容かもしれない。しかし、すぐれた発明者、研究者を評価しない社会の経済は、共産圏ブロックが弱体化したように、きっと活力を失ってゆく。科学技術創造立国を目指すということは、行きすぎた平等主義を排除することでもある。

高裁の判決に、企業は胸を撫でおろしながらも、ずっしりとした不安を抱えたことだろう。技術力の重要さを一番よく知っているのは、かれらなのだから。【評者 中野不二男 ノンフィクション作家】

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

■著者インタビュー 佐藤正明(ノンフィクション作家)

ザ・ハウス・オブ・トヨタ 自動車王 豊田一族の150年
4163670408佐藤 正明

文藝春秋 2005-05-10
売り上げランキング : 9,495


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

――副題に「自動車王 豊田一族の百五十年」とある通り、発明王と呼ばれた佐吉と、トヨタ自動車を創業した喜一郎を中心とした豊田一族と、トヨタの歴史を描いた本ですね。小説と思われることが多いようですが。

「私」を排した文体を用い、徹底的に取材し文献を当たり、昔の話を再現する、という手法のノンフィクションです。この方法を取得したのは、93年に「トヨタ・GM 巨人たちの握手」を出版した時です。現役記者時代にトヨタとGMの提携に一枚かんでいて、提携の内輪話を逐一知っていたことがありましたが、新聞記事には生々しくて書けなかった。それをまとめたことが原点ですね。 

―― その記事とは、82年に新聞協会賞を受賞した「トヨタ・GMの提携交渉」ですね。『日本経済新聞』の記者時代は、合わせて6年も自動車担当として活躍されました。トヨタをはじめ、多くの自動車業界関係者から直接取材した経験が生きたわけですね。

その通りです。佐吉はもちろん、喜一郎にも会ったことはありませんが、彼らを直接知っている石田退三、豊田英二、花井正八といった人たちから、取材の合間に話を聞くことができた。当時は雑談だと思ったけど、今になって貴重な話になったわけです。

―― トヨタだけでなく、松下やホンダなどの面白い逸話も載っています。なかでもトヨタの社史にもあるという「喜一郎、おまえは自動車をやれ」という佐吉の遺言が、実は喜一郎の創作だという件は、興味深かったですね。

佐吉は「お国のために発明をした」という人物ですが、発明家の苦労もよく知っていた。財は成したが、いつもだまされて「借金王」と呼ばれたくらい金に縁のない人生でした。だから息子は紡績の事業家として歩かせたかった。しかし発明家の血だったんでしょう。喜一郎は自動車をやろうとした。これに豊田家の家業を守ろうと、義兄の利三郎が強硬に反対した。そこで一番効く佐吉の遺言を言い出した。佐吉を持ち出されては、誰も反対ができないことを知っていたからでしょう。

―― 年間1兆円を超す純益を生み出すようになったトヨタ。この時期、トヨタの歴史を書いたのは、どういう狙いがあったのですか。

企業が繁栄する時期は30年程度という説があるんですよ。トヨタもいい時期ばかりではなかった。戦後の混乱期にはいつ倒産してもおかしくないぐらいの困難があった。しかし今やトヨタの繁栄は50年を超え、そういう意味では、まれな企業といえるでしょう。そのいい見本であるトヨタの、企業としての遺伝子とは何なんだろう。日本の企業が元気のない今、それを提示してみたわけです。

しかし構想のまだ半分しかできていない。カンバン方式の復活も書いてないし、三河の田舎大名と言われていた企業が、いかにして国際企業になっていくか、その発展史を、いずれ書こうと思っています。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

経済ニュースの読み方
4022598816小林 慶一郎

朝日新聞社 2005-08-05
売り上げランキング : 39,528

おすすめ平均 star
star読みやすく,最近の日本経済の動きのベースがわかる

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

インフレターゲット、国債バブル、デフレ脱却、年金改革、会社は誰のもの? など、最近2~3年の日本経済を賑わせたニュースを俎上に載せる。そのニュースが持つ意味にまで踏み込んで、一般の人にも分かりやすく解説したところがポイント。混迷する経済論争、経済と思想の関係も、すっきり整理してくれる。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

1985年
4106101300吉崎 達彦

新潮社 2005-08
売り上げランキング : 7,917

おすすめ平均 star
star今思えば全てがまとも・普通だった1985年を軽いタッチで縦横に描く
star元気で、若くて、緩かったあの頃
star貴重なデータベース

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

20年前の1985年。振り返ればこの年は、戦後日本の転換点だった。経済的にはプラザ合意があり、消費は爛熟。その後歯止めがきかないバブル経済へと突入していく。日航機墜落、阪神21年ぶり優勝と「事件」も多かった。普通、歴史はタテに読むが、85年をくし刺しにしてヨコに読むとどうなるか。あらゆる面で、戦後日本が40年かけてたどり着いた象徴的な年だった。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

図説地方財政データブック (平成17年度版)
4313120459出井 信夫 参議院総務委員会調査室

学陽書房 2005-08
売り上げランキング : 32,259

おすすめ平均 star
starこんな本が欲しかった!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

地方分権が言われ、三位一体の改革、国から地方への税源移譲などの制度改革が進んでいるが、そうした「変化の時代」を80のキーワードで読む。公民連携のPPP、PFIといった手法、エコマネー、地域通貨の試み、地方交付税、国庫補助負担金など、ポイントをついた項目を豊富な図解で分かりやすく解説している。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

働きすぎの時代 岩波新書
森岡 孝二

いまや世界の労働時間は減少から増加へと転じ、日本人顔負けのモーレツな働きぶりの欧米人など、新たな「働きすぎの時代」に入っているという。著者はこの現象を、グローバル資本主義、情報資本主義、消費資本主義、フリーター資本主義という、現代の高度資本主義の四つの特徴から分析する。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

ニッポンのモノづくり学~全国優秀中小企業から学べ!
4822244601関 満博

日経BP社 2005-08-05
売り上げランキング : 1,540


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本列島北から南まで、47都道府県から1社ずつ元気なモノづくり中小企業を取り上げる。隠れた世界的企業や、それなしでは産業が成立しない技術など、モノづくりの現場取材を通して日本経済と中小企業の未来をさぐる。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
4047915017V・S・ラマチャンドラン 山下 篤子

角川書店 2005-07-30
売り上げランキング : 970

おすすめ平均 star
star共感覚から言語の起源、芸術の意味へ

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ベストセラー『脳のなかの幽霊』第2弾。電話では母親を認識できるのに実際に母親が目の前に現れると偽物としか思えない患者など、様々な患者と向き合い、脳の謎に迫る。本書では「芸術とは何か」の大命題にも挑む。

■2005/09/06, 毎日エコノミスト

水煮三国志
4820716395成君憶 呉常春 泉京鹿

日本能率協会マネジメントセンター 2005-07-26
売り上げランキング : 1,866

おすすめ平均 star
star経営のバイブル
star110万部を超える大ベストセラーにはそれなりの理由がある
starあまりのくだらなさに愕然。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

奇妙な題なので私などどこか〓お豆さん〓のメーカーの宣伝本ではないかと思ったくらいだ。表題の水煮とは四川料理の人気メニューで、川魚を主材料としてピリッと辛い料理らしい。本書もピリッとした機知に富んだものだ。

中身は、我々も周知の中国の魏・呉・蜀の「三国志」、そのリメーク版だ。舞台は現代中国の電機業界。戦争は競争に、戦場は市場に、軍は会社に、弾丸は製品や広告に置き換えられる。もちろん、劉備、諸葛孔明、曹操、関羽、張飛といった三国志の英雄が、その名で登場する。市場を支配する魏の曹操、独自に市場を確保する呉の孫権、そしてそれらに挑むベンチャーの蜀の劉備と孔明という構図。三国志さながらだ。劉備・関羽・張飛の桃園の誓い、劉備の諸葛孔明に対する三顧の礼、曹操との赤壁の戦いもなかに見事に納められている。それだけでも三国志ファンには堪えられない。

三国志の話を縦糸に、三国志や中国の諺や寓話に基づいた経営の知恵や競争勝利の定石が明らかにされていく。組織作り、人材開発、ブランド構築、チャネル管理。企業買収等々……。ベンチャー企業の経営者やそうなりたいと思っている人が読めば、そのまま自分の経営計画に使えそうだ。

しかも、著者の成君憶氏は若手の経営学者だということもあって、理論的背景も鮮明だ。経営学をおおよそマスターしたという人でも、「なるほど、この理論はこういうところで役に立つのか」と目から鱗が落ちる個所は少なくない。

電機業界に例をとった筋書きは、松下電器産業やソニーや東芝が群雄割拠した当時の家電事業と相通ずるところがある。その意味で、現代の企業間競争から見ると少し古い時代のことのように思えるが、学べることは多い。2点だけ述べたい。

一つ。「会社は誰のものか」とか「経営者をマネジメントする」という問題が劉備や孔明によって提起される。現代中国において、「会社は、株主あるいは国家のもの」と思われそうだが、「会社は従業員のためのものでもある」と劉備は言う。経営者と従業員の間には互いに触発し合う関係が必要だと、孔明も言う。「後継者を、社長の勝手で選んでよいものではない」と劉備が言うのを聞いて、耳の痛い経営者もいそうだ。

もう一つは本書の形式、小説的教科書という性格だ。経営学のありきたりの話でも、三国志リメーク版では深い知見に見えてくるのはなぜだろう。著者の手際の良さと言ってしまえばそれまでだが、不思議なものだ。【評者 石井淳蔵 神戸大学大学院経営学研究科教授】

■2005/08/30, 毎日エコノミスト

破産する未来 少子高齢化と米国経済
4532351588ローレンス・コトリコフ スコット・バーンズ 中川 治子

日本経済新聞社 2005-07-23
売り上げランキング : 17,885


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本と比べれば出生率ははるかに高い米国でも、高齢化社会の負担は恐るべきものになる。これを数量的に明らかにしたものが、個人の生年別の社会保障制度を通じた収支を生涯にわたって明らかにする「世代会計」の第一人者であるコトリコフ教授が、金融ジャーナリストのスコット・バーンズと共に、米国経済の暗澹たる未来像を描いた本書である。

米国の公的債務残高は4・4兆ドル(GDPの40%)に達しているが、米国政府の隠れた将来債務は、その10倍以上の51兆ドルにも達している。これは7700万人のベビーブーム世代が完全に引退する2030年までに、年金・医療費の負担が膨れ上がるためだ。

著者は、これに対して考えられる様々な即効薬に対する反論も用意している。例えば、生産性の上昇は、賃金スライドを通じて年金給付に反映される、国家資産の売却は、将来の賃貸料負担の現在価値と相殺される、労働者の引退で生じる資本の深化のプラス効果は増税で相殺される、退職時期の先延ばしは貯蓄率を引き下げる、移民の増加による負担増は、将来給付の増加と相殺される、等である。

それでは米国の社会保障制度を破産から救うための具体的な提案とは何か。これは、第一に、米国が深刻な経済危機に直面していることを、政治的な配慮から隠さず、国民に知らせることである。

第二に、社会保障税に基づく公的年金を、強制加入の民間貯蓄である「個人保障制度(PSS)」に置き換え、株式・債券・不動産等からなるグローバル・インデックス・ファンドに投資させることで、社会保障資産の収益率を高めることである。

第三に、生産性上昇率の3倍以上の速度で増える高齢者医療費を、民間保険と同様に「健康維持機構(HMO)」の活用で抑制することである。

本書に書かれている米国経済の「破産する未来」は、そのまま日本の将来にも当てはまる。違いは、日本の方が現実の赤字額の規模がはるかに大きく、しかもそれが米国以上の速度で拡大していくことである。

それにもかかわらず、日本では世代会計の概念すら十分に確立しておらず、後代に負担を回すことは家族内扶養と同じというような認識が蔓延している。また、高齢者医療制度の抜本改革には医師会の抵抗が大きい。本書は、日本の深刻な現状を考えながら読めば、いっそう興味深いものといえる。【評者 八代尚宏 国際基督教大学客員教授】

■2005/08/30, 毎日エコノミスト

Edit

 
Copyright (C) 2004-2006 Ambitious Kanda, All Rights Reserved.