メイン > 週刊エコノミスト書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年12月27日

メディチ・インパクト
メディチ・インパクトフランス・ヨハンソン 幾島 幸子

ランダムハウス講談社 2005-11-26
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面白ーい! これが素直な感想である。題名の『メディチ・インパクト』だけでは、中世ルネッサンス関係の本を連想されるかもしれない。しかし、本書はイノベーティブなアイデアはいかに生まれ出るのかについて、様々な事例をもとに解説した愉快な著作なのである。読書中のワクワク感は、かつて『エクセレント・カンパニー』を読んだときに似ているから、おすすめである。

書名の由来は、15世紀のイタリア・フィレンツェ、銀行業で栄えたメディチ家が文化人や芸術家を保護したことに始まる。

「フィレンツェには彫刻家や画家、詩人、哲学者、科学者、金融業者、建築家など多種多様な人びとが集結した。彼らはそこで出会って互いに学び合い、互いを隔てる文化や学問の障壁を取り払って交流した」

すなわち本書のポイントは、イノベーティブなアイデアとは、異質な文化やバックグラウンドが出会うことによって爆発的に生まれ出るということである。そして、その知の交差点(原文ではintersection)こそがイノベーションのためのベストチャンスだと著者は説く。

本書の魅力はこの主張を実に様々な事例で裏付けている点にある。例えば「アイデアの質ともっとも強力な相関関係にあるのは、驚くなかれ、アイデアの量である」といった後に、「パブロ・ピカソはおよそ二万点の作品を創作し、アインシュタインは二四〇本の論文を書いた。バッハは毎週カンタータを作曲し、トーマス・エジソンは一〇三九件という記録的な特許を申請した。現代にもそれは当てはまる。歌手のプリンスは秘密の『金庫室』に一〇〇〇以上の曲を保管しているといわれるし、ヴァージン・グループの会長リチャード・ブランソンは二五〇を超す会社を興した」と続ける。

また、「アリは目的地への最短ルートをうまく見つけ出すのに対して、人間はしばしば遠回りをしてしまう。アリはなぜそれをうまくやってのけるのか?」という昆虫生態学者の発見が、コンピュータエンジニアによって「工場のスケジューリングや各種制御システム、通信網のルーティングなどの大規模な問題に応用」されている。

こうしたイノベーションに関する逸話が次々に出てくるのだから、思わず惹き込まれて読み進んでしまうのだ。同時に、自分の固くなってしまった連想力にも愕然とするのである。最後にもう一度、面白い。【評者 米倉誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター教授)】

■2005/12/27 毎日エコノミスト

ディープ・スロート 大統領を葬った男
ディープ・スロート 大統領を葬った男ボブ・ウッドワード 伏見 威蕃

文藝春秋 2005-10-25
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先ごろ、米『バニティ・フェア』誌が、ディープ・スロートはマーク・フェルト元FBI副長官だと伝え、本人も認めた。

本書は、唯一ディープ・スロートと接触し続けた著名なジャーナリストが、フェルト氏の公表決断に向けて準備していた著書を一気に完成させた。

本書には目次がない。主な登場人物の紹介を経て、いきなり本文が始まる。本文は16に分かれているが、各パーツには数字だけが記され、見出しはない。そこで本書の流れを、最低限の範囲で紹介する。

導入では、FBI本部でのウォーター・ゲート事件の捜査記録の閲覧と本書執筆の動機が記される。次に、著者とフェルト氏との最初の出会い。何と、著者はまだ新聞記者ではない。

ようやく『ワシントン・ポスト』(W・P)紙記者となり、いきなりウォーターゲート事件に遭遇する。著者はFBI高官のフェルト氏に助言を求め、ディープ・スロートが誕生する。

フェルト氏の助言と方向付けで、W・P紙は事件とホワイトハウスのかかわりを追及する。ニクソン政権は権力を使って執拗にFBIの捜査を妨害し、事件はコソドロの犯行として公判を終える。ところが事件の主犯格の一人が担当判事にニクソン政権の事件もみけし工作を申し立て、事件は大統領の犯罪として本格的に爆発、大統領の辞任に至る。

だが、著者と同僚のバーンスタイン記者が、フェルト氏がディープ・スロートとして登場する『大統領の陰謀』を出版することで、著者とフェルト氏の関係にひびが入る。著者は事件が一段落した後、フェルト氏はなぜ、情報を提供し続けてくれたのかと疑問をもつ。さらにフェルト氏をいつまで秘匿すべきなのか葛藤が続く。

その後も1970年代後半から80年にかけて著者とフェルト氏の接触はあったが、はかばかしいものではなかった。2000年2月に著者は意を決して、娘ジョーンの家に住むフェルト氏を訪ねる。フェルト氏はすでに認知症だった。事件の記憶はない。秘匿の約束は守られるべきなのか。新たな葛藤が生まれる。

そして、フェルト氏自身の公表で情勢は一変し、本書の誕生となる。ジャーナリズムと情報源の秘匿という問題の古典的成功例と考えられたディープ・スロートは、ジャーナリストと情報源の双方に精神的負担を強いていた。しかし著者は、最後をフェルト氏への感謝で締めくくる。【評者 北村龍行(毎日新聞論説委員)】

■2005/12/27 毎日エコノミスト

経済論戦―いま何が問われているのか
経済論戦―いま何が問われているのか川北 隆雄

岩波書店 2005-10
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おすすめ平均 star
star丹念な対応には頭がさがる

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著者インタビュー 川北隆雄(東京新聞・中日新聞論説委員)

――郵政民営化や構造改革、金融緩和といった言葉は新聞や雑誌、テレビでお馴染みですが、意外に、そもそもの目的や意味が曖昧で、解釈もさまざまです。今さら聞けない旬のテーマをめぐる論争をコンパクトに取り上げた本書は、ビジネスマンや学生のいいテキストになりますね。

■構想を立てたのは約3年前でした。当時はインフレターゲットをめぐる論争が盛んで、テーマの一つにしたのですが、その後、郵政民営化のほうがより大きなテーマとなり、章立てを修正しました。書いていてとても楽しく、知的好奇心を刺激されましたが、一方で、苦しい作業でもありました。巻末をご覧いただければわかりますが、錚々たる学者陣の論争を中立の立場で評価し、まとめる作業だったからです。

――郵政民営化は、郵便貯金と簡易保険で集められた300兆円を超える巨額の資金の運用、つまり「出口」である財政投融資の無駄遣いをなくそうとしたものでしたが、いつの間にか論点がずれていったように思います。

■郵貯資金が自動的に国の資金運用部資金特別会計に一括して預託され、これが財投資金として特殊法人などに流れこみ、無駄な公共事業などにも使われる、特殊法人の肥大化――といった流れを資金面で絶とうとしたのが、小泉首相が唱えた郵政改革であり、そのための郵政民営化でした。民営化すれば市場原理が働き、効率的な資金運用が行われると考えたのです。

ところが、2001年度に資金運用部を廃止し、代わりに財政融資資金特別会計を設けて、政府が財投債を発行して金融市場から資金調達したり、特殊法人などの財投機関自らが財投機関債を発行するようになりました。郵貯資金が財投債に流れているため、実態はあまり変わっていない。さらには、いつの間にか、民営化すれば過疎地の郵便局がなくなるとか、職員の待遇問題などが論争の中心となり、そこに政治家までが加わった。結局、郵政民営化の是非を問う総選挙まで実施される政治問題に発展しました。

――日銀が来春にも実施しようとしている金融の量的緩和解除も政治問題化しそうです。

■消費者物価上昇率が安定的にゼロ以上になるなど、日銀は解除の条件を具体的に挙げているわけですから、条件を満たせば粛々と実施すればいいと思うのですが……。世界的にも異例のゼロ金利や量的緩和を7年近くも続けた事実は今後、しっかり検証する必要があります。個人的評価では、大手金融機関の破綻による金融危機への対応だったのではないでしょうか。1997年11月の三洋証券破綻は、戦後初めてコール(金融機関同士の取引)市場でデフォルト(債務不履行)が起きましたが、ゼロ金利や量的緩和状態ならば、そうしたことも回避できたと思います。「現在の日本のようなデフレに陥った前例がない」として、インフレを人為的に引き起こすインフレターゲット導入の議論もありましたが、これは少し乱暴すぎます。

■2005/12/27 毎日エコノミスト

朝鮮半島を見る眼―「親日と反日」「親米と反米」の構図
朝鮮半島を見る眼―「親日と反日」「親米と反米」の構図朴 一

藤原書店 2005-11
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著者は大阪市立大学教授。在日3世であり、1997年から客員教授として高麗大学に留学した経験を持つ。その著者が、戦後処理、竹島(独島)問題、教科書問題などをめぐる日韓の対立、北朝鮮の拉致問題、軽水炉建設など、揺れ動く朝鮮半島の政治・経済を分析する。反米と親米、反日と親日のパワーゲームを、どのように理解し、対処すべきなのかを論じる。

■2005/12/27 毎日エコノミスト

手にとるようにわかるインド―経済・産業から社会・文化まで超大国のすべてがここに
手にとるようにわかるインド―経済・産業から社会・文化まで超大国のすべてがここに門倉 貴史

かんき出版 2005-12
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2005年度のインドの実質経済成長率は、8%前後の高成長を達成しそうな勢いだという。その好調な経済を背景に、世界の注目がインドに集まっている。なぜいまインドなのか。ITをはじめとする国内産業や、今後の成長を左右する政治や外交の現状、社会・文化など、インドのすべてを豊富なデータと図解で紹介する。

■2005/12/27 毎日エコノミスト

法律家のためのキャリア論 変わりはじめた弁護士・役人・学者の世界
法律家のためのキャリア論 変わりはじめた弁護士・役人・学者の世界村上 政博

PHP研究所 2005-11-16
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法科大学院制度の創設で2004年に法科大学院が開校し、これからは法曹人口の量産時代が到来するという。国民が裁判に直接参加する裁判員制度の導入など、司法の世界が身近な存在になりつつある。本書は弁護士、役人、学者(現・一橋大学大学院教授)の経験を持つ著者が、体験的職業論と人材流動化時代のキャリア設計を描く。

■2005/12/27 毎日エコノミスト

ヘッジファンドで増やす時代―全天候型投資で儲ける
ヘッジファンドで増やす時代―全天候型投資で儲ける今井 澂 大井 幸子

東洋経済新報社 2005-12
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日本でもヘッジファンドに対する認識が変わってきた。一部の富裕層の投資手段という考え方から、資産運用の主流の一部として位置づけられるようになり、年金をはじめとする機関投資家や個人投資家の裾野が広がってきているのだ。積極的にリスクを分析し、リスクに挑むのがヘッジファンドという金融商品だが、新しい金融ハイテク技術を駆使するヘッジファンドの全天候型オルタナティブ投資とは何か。その誕生から分かりやすく解説する。

■2005/12/27 毎日エコノミスト

人口減少社会は怖くない
人口減少社会は怖くない原田 泰 鈴木 準

日本評論社 2005-12
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少子高齢化、年金、医療・介護、若者の負担増など人口減少時代への不安が言われる。しかし著者らは、必要な改革さえ行えば、「人口減少社会は怖くない」という。人口減少が危機となるのは、払い込んでいない年金を受け取ろうと考えるからであり、年金を減額すれば危機は消滅すると主張する。年金の世代間不公平の是正や医療・介護費の適正化など、高齢社会のコスト削減策を提唱し、楽しく豊かな人口減少社会を考える

■2005/12/27 毎日エコノミスト

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