メイン > 週刊エコノミスト書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年11月29日~12月6日
| ナッシュは何を見たか -純粋数学とゲーム理論 | |
![]() | H.W. クーン S. ナサー 落合 卓四郎 シュプリンガー・フェアラーク東京 2005-10-22 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は、数学者ジョン・F・ナッシュの論文を、H・W・クーンとS・ナサーが編集し、解説を付けて収録したものである。ナッシュはナサーの原作による2年前のアカデミー賞受賞映画「ビューティフル・マインド」の主人公でもある。1949年、博士論文として「非協力ゲーム理論」を創造し、数年のうちにいくつかの数学の大論文を発表した後、統合失調症を発症し、長く学問の表舞台から姿を消していたナッシュであるが、病から回復して94年にノーベル経済学賞を獲得した。本書では、このナサーによる解説をはじめ、クーンやミルナー、ゲールなどプリンストン大学でのナッシュの友人や同僚、指導教授、さらにフォン・ノイマンやアインシュタインといった巨匠たちも写真付きで登場し、彼らのコメントやエピソードを通して、読者はジョン・ナッシュという天才の学問とその周辺に直接触れることができる。
ナッシュの業績は、その激しい半生と符合するかのように、革命的なものばかりである。最初の論文である「交渉問題」は、当時の経済学では未解決であった双方独占問題を特殊ケースとして含む一般的な問題に、効用の積を最大化するという独創的な解を与えたものである。次の「非協力ゲーム理論」は全く新しいゲーム理論であり、自分だけが行動を変更しても決して得にならないというナッシュ均衡の概念は、今では経済学の教科書に普通に現れるだけでなく、環境問題などの社会的行動を考察する際にも有益である。「2人協力ゲーム」では、協力行動も非協力ゲームの均衡として記述すべきであるという、学問上の方法論「ナッシュ・プログラム」を提唱しており、94年のノーベル賞は、経済学者達によるナッシュ・プログラムの推進が評価されたものと言うことができる。
数学の論文についても、訳者あとがきの解説を読めば、いずれも方法論的に斬新で重要な貢献であることがわかる。なお、「実代数的多様体」は、「非協力ゲーム理論」が博士論文として認められなかった場合のために備えて、同時に書いていた論文であることが知られている。
以上のように、本書は専門的な論文集でありながら一般の読者も楽しめるように編集された貴重な書物である。今年のノーベル経済学賞が、やはりゲーム理論の発展に貢献したロバート・アウマンとトーマス・シェリングに与えられたこともあり、ゲーム理論が本書とともに一般にもさらに普及していくことを期待したい。【評者 中山幹夫(慶応義塾大学教授)】
| 働く過剰 大人のための若者読本 | |
![]() | 玄田 有史 NTT出版 2005-10-25 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 経営者、人事こそ読むべきだと思う 多くの人に読んでほしい本 本書で問題提起をAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は現代若者仕事論について、すでに『仕事の中の曖昧な不安』『ニート』『14歳からの仕事道』の3冊の本を出している。いずれも大きな社会的反響を呼んだが、本書はこれまでの研究の集大成であり、企業経営者や政策担当者、学校やNPOなどの支援関係者、そして親などの「大人」への助言集を意識して書かれた所に特徴がある。
ニートやフリーター問題の背後には、現代の若者が共通に直面している「生きづらさ」があるという。若者に対する大人の即戦力志向や個性重視の風潮、コミュニケーション能力の要求といった「過剰」なプレッシャーが背後にあり、社会における育成の放棄が若者を追い込んでいる。その結果が、ニートのような将来に希望を失った若年無業者の増加と、一方で長時間労働などによる正社員の極度の疲弊であると指摘する。
著者は既存統計や自らの調査結果、さらには関係者から送られてきたメールを整理し、社会の根底にある問題を解き明かす。そのうえで若者支援関係者の体験に基づく貴重な教訓が紹介され、数多くの対応策が提案される。その一つは若者の自立を強調するよりも、他の人に頼ってもよいとする社会風潮を作り、それを許容できるよう関係者の連携を強化していくことだという。随所に若者への心温まる思いがにじみ出ており、次々に飛び出してくる説得力ある発言に共感を覚える。
本書の内容は著者の専門である経済学の領域にとどまらない。教育心理学の知見や体験談など幅広い分野に及び、それらを結集しない限り、問題を解決できないとの著者の思いが伝わってくる。ただそれだけにもう一度経済学の視点に立ち戻り、確認しておきたいことがある。著者は、景気の良し悪しに関係なしに毎年一定の人数を採用し、先輩から後輩への技能の伝承や人材育成に力を注ぎ、多くの人件費を投じる企業のほうが売上額も増え、利潤も上がると主張する。しかし一方で、1990年代の景気低迷の中で倒産の危機に立たされた企業の中には、人件費削減によって苦境を乗り越え、少なくても短期的には業績の回復したところが数多くあったのも事実である。どんな経営者であろうと、好んでリストラを実施する人はいない。しかし経済成長が低下し、グローバル化で競争が激化してくると、著者の主張するような奇麗ごとだけでは片付けられない問題が現実には存在するのではないか。この点に関して、企業責任だけで大丈夫なのかどうか、著者の考えを聞いてみたいところである。【評者 樋口美雄(慶応義塾大学商学部教授)】
| 蝶舞う館 | |
![]() | 船戸 与一 講談社 2005-10 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() 運命に翻弄される人々・・・Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者インタビュー 船戸与一 (作家)
――ベトナム戦争終結から今年で30年。その記念番組撮影のため現地入りした日本人テレビクルーが、少数民族の反乱に巻き込まれる、という筋立て。反乱の背後に日本人の扇動者あり、ベトナム人のドロドロとした人間模様あり。エンターテインメントとして面白く読みました。と同時に世界最強の「米帝国主義」を追い出したベトナムという国家も実は一枚岩にあらず。内部に少数民族問題という病を抱えている、ということがわかりました。
■取材のためベトナムには1カ月半滞在、ハノイから南下してくる途中、べトコンが掘ったトンネルとか、戦争の痕跡をあちこち見て回りました。今回私が描いた、中部高原地帯に住むモンタニャールと呼ばれる少数民族が、多数派・キン族に対して激しい抵抗運動を展開、ベトナム共産党が手を焼いているという事実もその時に知りました。
――このことは日本ではあまり報道されていませんね。
■中部高原に外国人が入れるようになったのは、1年半前からです。ベトナムとしては、あまりこの問題を外部の世界に知られたくなかった。しかし、閉じたままでいると資本が呼び込めない。そこで、許可制の枠をはめながらも一部門戸を開いたのです。
ベトナム戦争当時の報道は、ベトナム人民の米帝に対する闘争という構図、米軍の残虐性を告発するようなものが主流でしたが、実はベトナム共産党、べトコン側にも酷薄極まりない体質があった。それを描くことで初めてベトナム報道のバランスが取れる。
――それにしても、ベトナム戦争を振り返ると、現在のイラク戦争と完全にダブってきますね。
■マクナマラ元米国防長官は、回想録の中で、ベトナム戦争の敗因を20以上挙げているが、そのほとんどが今度のイラクに重なっています。
――なぜ、アメリカという国は何度も同じ過ちを繰り返すのか。なぜ懲りないんですかね?
■ロバート・ケーガンというネオコンによると、世界には歴史を作る国と、歴史の終わった国の2種類しかない。ヨーロッパの歴史は終わり、今まさに米国が歴史を作っている、というのです。
要するに、米国はベトナムではいったん撤退したものの、余力を蓄えてアフガン、イラクと展開してきた。石油利権のため、ということではなく、一幕劇では終わらない仕組みになっています。アフガン侵攻という軍事行動があり、その第2幕としてのイラク戦争と見るべきでしょう。今、満州事変について書いているのですが、資料を読んでいると共通点がある。
――小説では弾圧する側とされる側、権力闘争とその中に展開される人間模様、ベトナム人たちの生活や会話が、実に生き生きと描かれています。
■権力側からの視点があって、初めて事態を立体的に描ける。つぶす側の論理がないと、逆につぶされる側の背景もよくわからなくなるんです。
| 現場力―企業を変える真の力 | |
![]() | 永井 隆 PHP研究所 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「ゲンバリョク」という言葉が、最近では海外でも通用するようになっているという。日本企業の強さは現場力にあり。V字回復を遂げた日産自動車やプラズマテレビで復活した松下電器産業などの実例を通して、現場力とは何かに迫る。ものづくりの現場だけではなく、営業の現場として、競争熾烈なビール業界も取り上げる。
| コーヒー、カカオ、米、綿花、コショウの暗黒物語―生産者を死に追いやるグローバル経済 | |
![]() | ジャン=ピエール ボリス Jean‐Pierre Boris 林 昌宏 作品社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アフリカや中南米、アジア各国の1次産品が危機に瀕している。世界的な民営化・規制緩和推進の結果、国際相場が生産コストを大幅に下回り、途上国の農民たちは極度の貧困に陥っているというのだ。多国籍企業の暗躍や原産国の政府機関等の腐敗・汚職、投機ファンドによる相場変動の助長など、グローバル経済の裏側で何が起こっているのかを詳細に暴き出す。
| 湾岸アラブと民主主義―イラク戦争後の眺望 | |
![]() | 日本国際問題研究所 日本評論社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
石油価格の高騰が世界的な問題となっているが、産油国である湾岸諸国の状況はいま、どうなっているのか。イラク戦争後の世界情勢を踏まえ、サウジアラビア、クウェート、バハレーン、カタル、アラブ首長国連邦、オマーンの湾岸協力会議(GCC)6カ国とイラクの政治体制と民主化の動きを、各国ごとに分析する。
| 中・高校生のための中国の歴史 | |
![]() | 鈴木 亮 鬼頭 明成 二谷 貞夫 平凡社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
なぜそこまで日本は嫌われるのか。最近、中国各地で巻き起こった反日行動に、少なからぬとまどいを覚えた若い世代も多かったのではないだろうか。この本は単純に中国の歴史をたどるのではなく、広大な領土を有する多民族国家中国の成り立ちから、繁栄の時代と人々の誇り、アヘン戦争以降の侵略の歴史、革命運動、やがて抗日運動へとつながっていく流れを分かりやすく解説し、悠久の歴史の視点から日中相互理解の道を探る。
| 日露戦争に投資した男―ユダヤ人銀行家の日記 | |
![]() | 田畑 則重 新潮社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1904年、欧米列強の思惑が絡み合うなか、ロシアとの開戦に踏み切った日本にとって、最大の悩みは軍費の調達だった。当時、日銀副総裁だった高橋是清は、外債公募の特命を受けて訪れたロンドンで一人の男に出会う。ドイツ系ユダヤ人でウォール街を代表する投資銀行家、ジェイコブ・シフ。彼はなぜ、戦費の4割にのぼる日本公債を引き受けたのか。受勲のため日本を訪れたシフの滞在日記を日本に初めて紹介し、その背景を探る。
| 萌え経済学 | |
![]() | 森永 卓郎 講談社 2005-10-30 売り上げランキング : 80,066 おすすめ平均 ![]() 新しい経済学の登場 「頭」で「萌え」を理解したい人にも最適 時代の転換期には、講談社が萌えという名の書籍を。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者インタビュー 森永卓郎 (経済アナリスト)
――ほんの1年前まで、我が編集部でも「萌え」という言葉を知らない人が多かった。念のため本書での定義を紹介すれば、オタクが「アニメなどのキャラクターをこよなく愛すること」ですね。一般に認知されたのは、春先の株式市場で「萌え銘柄」が話題になったあたりからでしょうか。
それより「電車男」のヒットが大きかった。それ以前は「萌え経済学」なんて言うと、犯罪の片棒をかついでいるように言われたものです(笑)。「電車男」のおかげで、オタクのイメージも劇的に改善しましたね。ただ、あんな話はあり得ないというのも、アキバ(秋葉原)系のオタクたち自身は分かっている。あんなふうにオタクの恋が成就することは絶対にあり得ない!
――それも本書を読めばよく分かります。オタクとは、現実の恋愛活動から「解脱」した男たちなんですね。
基本的事実は、経済における構造改革、すなわち弱肉強食化が、男女間の恋愛にも起こっているということです。終身雇用制の崩壊とともに「終身結婚制」も崩壊しました。女たちから見れば、もはや一生頼れるような男は少ない。どうせそうなら、イケメンかヒルズ族のような金持ちしか相手にしない、ということなり、モテる男たちによる女の独占が始まった。これは、もう半端じゃない独占なんですよ!
――はい、分かります。知っています。無念ですよ(笑)。
我々被害者側のモテない男たちは、それでも女にモテようと一生懸命努力する。でも努力しても振られ、尽くしても捨てられ、ボロボロになって……それでついに「解脱」する。2次元(アニメ)の女でもいいじゃないか、と。
――よく分かりますが、そのモテない男たちによる「萌え」の世界をいかにビジネス化するか、というのも本書のテーマですね。
萌え市場は二つあります。一つはコアなオタク同士の市場で、これは各シンクタンクの推計よりはるかに大きな規模だと思う。ただし、この市場にはオタクしか参加できません。
そのコアな世界の周辺に、一般社会と接点を持つもう一つの市場がある。コーエーネット、まんだらけ、ブロッコリーなど、春の萌え株バブルの対象になった会社はここに存在します。本当のマニアには少し食い足りない「商業主義」の世界で、コアな市場に比べれば成長性は低いでしょうが、ビジネスの論理が通じるこの市場に注目すべきでしょう。
――なぜこの市場が重要かと言えば、本書によれば、この「恋愛」市場における需要は飽和しないから、ですね。
それだけではなく、その需要を確実に増加させる社会構造の変化がある。恋愛の弱肉強食化がますます強まるということです。おそらく東京都で30代前半男性の非婚率はすでに6割に達している。要するにもう過半数が現実の女に相手にされない男です。それでも人間である限り恋愛はしたい。萌え市場が栄えるのは必然ではないですか。
| ITvs放送 次世代メディアビジネスの攻防―変わる放送、ネット連携の行方 | |
![]() | 西 正 日経BP社 2005-10 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() ベストタイミング ベストタイミングAmazonで詳しく見る by G-Tools |
ライブドアのニッポン放送買収騒動、楽天によるTBS経営統合提案など、「通信と放送の融合」が話題となっている。双方の文化の違いなどで、簡単に「融合」する状況ではないにしろ、将来的に進展する可能性は高い。長年にわたって放送業界をウオッチしてきた著者が、次世代メディアビジネスの行方を見通した格好の1冊。
| 『国富論』を読む―ヴィジョンと現実 | |
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経済学の創始者、アダム・スミス。主著『国富論』を単に理論の解析ではなく、思想と関連づけて読むとどうなるか。「文明社会に到達した国々の国民は、その国の最も恵まれない人たちでも豊かになりうる」。これがスミスが描いた経済学におけるビジョンであった。現代経済学が数理的分析に重きが置かれる傾向にあるなかで、現代社会と対比して考える意味も大きい。
| 子どもを狙え! キッズ・マーケットの危険な罠 | |
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『働きすぎのアメリカ人』などで知られる著者が、アメリカの広告業界が狙うキッズ・マーケットの罠に警鐘を鳴らす。「考える前に買え」と幼い頃から消費に慣らされてしまう子どもたち。ブランドイメージの刷り込みは将来的に絶大な広告効果を生むという。子どもたちの欲望がコントロールされていく危険性に鋭くメスを入れる。
| 日本のニート・世界のフリーター―欧米の経験に学ぶ | |
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20年以上も前から若年雇用問題に直面してきた欧米先進国では、どのような対策が採られてきたのか。ニューディールの英国、パート労働対策のオランダをはじめ、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカの成功・失敗例を取り上げ、日本の方策を探っている。
| 「作る」キヤノンを支える「売る」キヤノン―キヤノン販売に学ぶ「本物の営業マーケティング」 | |
![]() | 大河原 克行 宝島社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
勝ち組企業キヤノンを支えているのは、物づくりの強さだけではなかった。ブランド力を飛躍的に押し上げてきたマーケティング手法とはどのようなものなのか。基本哲学の「顧客主語」をはじめ、キヤノン販売の現場の取り組みから強さの秘密を探る。
| お世継ぎ 世界の王室・日本の皇室 | |
![]() | 八幡 和郎 平凡社 2005-10-14 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本では女性天皇の問題がにぎやかだが、世界の王室もまた、危機的状況を抱えているという。英国をはじめ、古今東西、世界の王室をめぐるスキャンダルをあえて取り上げ、歴史的視点も交えて問題解決の知恵を探る。











新しい経済学の登場





