メイン > 週刊エコノミスト書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年11月15日~11月22日
| 少子高齢化の死角―本当の危機とは何か | |
![]() | 高橋 伸彰 ミネルヴァ書房 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
郵政民営化を突破口に「小さな政府」の実現を掲げた小泉自民党が大勝した。国民の間では小泉内閣がこれから着手するであろう〓聖域なき改革〓の一層の推進に期待が高まっている。しかしその反面、改革の行方に漠然とした不安を多くの国民が抱えているのも事実であろう。「小さな政府」は結局のところ弱者の切り捨てになるのではないのか。小泉政権は世界最速とも言われる日本の少子高齢化の実態を本当に正しく理解できているのか。これが本書の問いかけである。
急速な高齢社会到来に備え、小泉内閣は高齢者にさらなる負担の増加や給付の削減を求めようとしている。背景には「高齢者は必ずしも弱者ではない」という考え方があるようだ。確かに、この認識は現時点においてはある程度当たっているかもしれない。高齢者の中でも比較的健康で有職率が高い前期高齢者(65~74歳)が全体の約6割を占めているからである。
ところが2030年になると話は全く正反対になる。後期高齢者(75歳以上)のほうが約6割と逆転してしまう。今後の社会保障制度の改革にあたっては、「高齢者の多くはむしろ弱者である」との発想に立つ必要があると本書は警鐘を鳴らす。
少子化についても、晩婚化・非婚化が真因とする従来の見方に疑問を投げかける。ましてや、女性の社会進出が原因とする説に関しては責任転嫁にすぎないと切り捨てる。実際、欧米諸国では女性の就業率が高い国ほど出生率も高いといった傾向が近年顕著である。出産・育児と女性の社会進出を両立できる社会制度が立ち遅れていることが大きな問題だと指摘する。
本書は福祉レジームをデンマークの社会学者エスピン・アンデルセンに従って三つに分類している。一つはアメリカ、カナダ等の「自由主義的な福祉国家」である。市場における個人の能力に応じた福祉が中心となる。二つ目は北欧諸国等の「社会主義的な福祉国家」である。高福祉・高負担の組み合わせで運営される。三つ目は日本等の「家族主義的な福祉国家」である。家族サービスに対する依存が強い保守的なレジームである。
このうち日本で見られるように家族依存型の福祉レジームが崩壊に瀕しているのは明らかだが、実はアメリカに代表される市場重視型も、北欧諸国に見られる社会民主主義型のレジームも、いずれも危機に直面している。諸外国を参考にすることが難しいという事情もあって、制度を土台から作り直す作業が求められていると本書は主張する。【評者 霧島和孝(城西大学現代政策学部設立準備室研究員)】
| 日露戦争 ―勝利のあとの誤算 文春新書 | |
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本書は、日露戦争の講和条件に不満を抱いた民衆が起こした日比谷焼打ち事件を丹念に追ったドキュメントである。まず登場人物が多彩だ。伊藤博文、桂太郎首相、小村寿太郎外相はもちろん、朝日新聞の池辺三山をはじめとする明治新聞界の大物、二葉亭四迷、竹久夢二、中里介山にいたる文人、対露強硬策を唱えた帝大七博士、桂首相の愛妾お鯉などの人物が、国家の一大事に何をしていたかを知るのは面白い。
当時の新聞の対外強硬論が指摘される。日本軍の武器弾薬が尽き、これ以上戦争を続ける能力がないことを知らない民衆は強硬論に煽られた。「十万の忠魂と二十億」の負担とを犠牲にして、得るものもなく講和してよいのかと、各地で講和反対の市民大会が開催され、多くが暴徒と化した。東京中の交番が焼打ちされた。無政府状態になった東京で人々は、立ち入りを禁じられていた日比谷公園の芝生に寝そべり、外濠で釣りを楽しんだという。
激高した人々は桂首相の愛妾を殺せと押しかけるが、お鯉は芝居がかった見事な立ち居振る舞いを見せる。一国の宰相の寵妾として恥ずかしくなく見せるという「型」が、確立しているところに明治の深さを感じる。
現実に戦った兵士たちも、勝っていたのか自信がなかった。兵士は、暴動を起こすような国民には代わりに満州で戦ってほしいと言っていた。遺族年金もなく、父や夫を失った遺族はたちまち困窮した。ロシア軍の捕虜は厚遇したが、日本軍で捕虜となった兵士には冷たかったなど、事実の発掘も価値がある。
政府は戒厳令を敷き、新聞の発刊を停止する。その後、同盟国である英国艦隊の来日歓迎、日本軍の凱旋歓迎と立て続く式典の中で講和反対の声は消えていく。政府は、民衆感情をうまく操作したと言える。
本書全体の印象としては、政府当局は賢明で、在野の政治家、新聞人、特に帝大博士たちは滑稽に見える。ここに見られた、内に立憲、外に帝国主義という在野の路線が日本を誤らせたのは確かだろう。しかし、その誤りは、個人の能力よりも、日本が戦争を継続する力がないという情報へのアクセスの違いが大きかったのではないか。
新聞の最大の欠陥は、講和の前に民衆を煽ったことではなく、講和の後に日本の国力についての冷厳な事実を報道しなかったことではないか。小村外相の帝国主義を評価しているようにもみえるが、情報を独占する者を評価するに当たっては、より厳しい基準を適用しても良いのではないか。【評者 原田 泰(大和総研チーフエコノミスト)】
| 下流社会 新たな階層集団の出現 | |
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■著者インタビュー 三浦展 消費社会研究家、マーケティングアナリスト
――強烈なインパクトのタイトルですが、「下流社会」とは単に所得が低いことではなく、コミュニケーション能力や働く意欲、学習欲、消費欲など総じて人生への意欲が低い層が増えていることに対する造語だそうですね。
■ここで取り上げたのは30代前半の若者を中心とする団塊ジュニア層の「下流化」傾向です。彼らの価値観、生活、消費スタイルに何が起きているのか。
日本が豊かな国になったおかげで、食べるだけならそれほど困らない。欲しいものもそこそこ手に入るし、だらだら生きても生きられる。努力して働いて上流になっても、あまりいいことはなさそうだと感じているんです。
例えばホリエモンや村上ファンド、楽天などを見ても、買っているのは球団とかテレビ局。あり余るお金があっても豊かな使い方には思えない。普通の若者はそんなものは欲しいとは思わないわけですよ。
――冒頭のチェックリストで、自分は「下流」に当てはまると感じた人も多かったようです。
■僕は警告の意味をこめてこの本を書いたつもりなんですが、「そうか、俺は下流か」と、妙に安心されたようなところがある。つまり、中流の価値観で見れば落ちこぼれだけど、下流なんだからと言えば逃げられる。それでは困るんですけどね。
――わずかのホリエモンと、大量のフリーターの時代が進行していると。
■失業率5%、若年では10%以上の状態が恒常化し、毎年4万人が自殺して、それでも大衆はそこそこ楽しく生きているといえるのかということですよ。
少数のエリートが富を稼ぎ出し、大衆はそこそこ楽しく、歌ったり、踊ったりして暮らすことで内需を拡大してくれればよい、というのが小泉政権の経済政策です。アメリカ流の経営合理化を進めて、社員を競争させ、勝ち組には金をどんどん与えて、負け組はクビを切る。わずかな上流と大量の下流に分かれるのは必定です。
――自ら望まない非自発的フリーターの増加も問題になっています。
■少なくとも雇用情勢の悪化でそうなった人たちには職業生活訓練所みたいなものが必要だと思う。知識や技能だけでなく生活態度、まず「早寝、早起き、朝御飯」の習慣から身につけて、会社生活に適応できるようにする疑似職業生活体験システムです。
本来なら親が、無理にでもそうした生活態度を養うべきですが、それができていないのが「下流」の家庭に育った若者の特徴です。お客さんへの挨拶や電話の応対といった基本的なことが分からないと就職のスタートラインにすら立てない。
企業にできないなら行政やNPO、定年退職した人などを活用して、その訓練所での経験が職歴として認められるような仕組みをつくる。どこかでこの悪循環を絶たないと、下流はますます下流になるしかない悲惨な状況が待ち受けている。階層格差が固定されていく社会がよいとは、誰も思わないはずです。
| パラサイト・ミドルの衝撃 サラリーマン、45歳の憂鬱 | |
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パラサイト・ミドルとは、一定規模以上の企業の中間管理職で、意思決定権を握る立場にありながら、事なかれ主義に走りがちで機能を果たさず、若者の上げた稼ぎや社会に寄生している45歳以上の中高年層を指す。なぜ日本のサラリーマン・45歳は「傍観者」になってしまったのか。背景に潜む構造的問題を探る。
| 会社は株主のものではない | |
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いま「会社」が熱い注目を浴びている。ライブドア騒動、村上ファンドの阪神株取得、楽天対TBSなどの一連の騒動のなかで問われているのが、「会社は誰のものか」、そもそも「会社とは何か」「これから会社はどうなるのか」といった問題だ。経済学者やコンサルタント、経営者など8人の論客がそれぞれの会社論を語る。
| 日本語で書いた「経営」の教科書 | |
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経営用語の曖昧さが日本中の会社を機能不全にしている、と著者は指摘する。マネジメント、コントロールなどのカタカナ言葉をはじめ、上司は曖昧な言葉で曖昧な指示を出し、受け取る部下は勝手な解釈をする。業績回復には社内で使われる用語をきちんと定義づけ、徹底させることだという。社員がきちんと仕事ができるための経営のあり方を分かりやすく解説する。
| 新アジア金融アーキテクチャ―投資・ファイナンス・債券市場 | |
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東アジアの成長を担う企業はどのように資金を調達しているのかを分析。続いて、資金調達の場である、東アジア諸国の債券市場、中国の株式市場に焦点を当てている。また、韓国、タイ、インドネシアにおけるビジネス・グループの生産性を検証している。
| NHK世界遺産100〈第1巻〉ヨーロッパ1―ベネチアとその潟(イタリア)ほか | |
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NHKの人気シリーズ「世界遺産100」から、海上都市国家として栄えたベネチア、キリスト教第3の聖地、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼道などを紹介する。ヨーロッパ20編を収録したDVD付き。
| 本屋さんの仕事 太陽レクチャー・ブック005 | |
![]() | 江口 宏志 北尾トロ 永江 朗 平凡社 2005-11 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
新刊も古本も、たいがいの本がインターネットで買える時代のなかで、リアルな書店はどう変わっていくのか。本との出会い、空間の手触り、インターネットの活用など、お客の支持を集める人気書店の仕掛け人たちが、新しい書店像を語る。
| 職人力 | |
![]() | 小関 智弘 講談社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■著者インタビュー 小関智弘 作家
――小関さんはこれまで現役の旋盤工として働きながら、町工場の職人模様を描いてこられたわけですが、その旋盤工を引退されたそうですね。
■3年ほど前に69歳でやめました。本当は70歳まで続けたかったんですが、工場のほうがつぶれてしまいまして。
私の住んでいる東京都大田区は金属加工のメッカとして知られる町工場の集積地ですが、1990年代初めに8000ほどあった工場が廃業続きで5000くらいに激減しています。そんな厳しい状況の中でも知恵と技で活路を切り開いていこうとする職人さんたちが日本にはまだまだいる。「俺たちはこれで生きていくんだ」という、ものづくりから手を離さない力のようなものが伝わればと思ってこの本を書きました。
――たくさんの職人さんが登場しますが、一人ひとりの仕事人生が、現場の空気を吸ってきた小関さんならではの目線で描かれています。
■旋盤工を50年続け、今まで20冊ほど工場の話を本にしていますが、それでも現場を訪れるたびに新しい発見があります。テクニックだけではない、手で考えることのできる人たちに出会うたびに、ああ、まだ書くことはたくさんあると思わずにはいられません。
――熟練技能とは、単なる手技ではなく問題解決能力だと言っています。
■ 私はアメーバ形のネットワークと呼んでいるのですが、町工場界隈を自転車でひと回りすればいろんな知恵が集まってくる。「こんなものを作りたいんだけど」と投げかけた言葉が、「それなら俺のところで、これができるんじゃないか」と返ってくる。誰かが一石を投じたことで、自分たちも気がついていなかった自前の技術や才覚に新しい光が当たることもある。熟練技能が一つの形に固定されずに、進化していくところがすごいと思いますね。
本でも紹介しましたが、パイプをつなぐ小さな部品の新工夫で第2回新機械振興賞・中小企業庁長官賞を受賞したトキワ精機の例などは、町工場の人たちを勇気づけるものだと思います。中国の安価な製品に対抗して生き残るには、30%もコストダウンをしなければならないという苦境の中から、知恵を絞りきって生まれたものでした。
――受賞のエピソードも面白いです。
■ 提出する書類の中に、どういう部署の人が開発したのか書けという欄があったのですが、社長の木村洋一さんはお世話になったプレス工場の人や金型屋さんたちの名前を書いた。「うちのような町工場に開発部なんて部署はありませんからね」と。お役所の人からは「そんなのは前例がない」と言われたそうです。
――中心はやはり、人の知恵と技だということですね。
■ 人間の持っている能力をもう一度、捉え直さないと。最近、熟練工の技をマニュアル化しようという試みがあります。それはそれで大事なことですが、逆に言えば、現場の持っている暗黙知、技能をそこで固定化することでもあるのです。技能は発達し、成長していくものだということを忘れてはいけないと思います。
| みどりの窓口を支える「マルス」の謎―世界最大の座席予約システムの誕生と進化 | |
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1日に200万枚以上の発券が可能な世界最大の座席予約システム「マルス」。民営化された国鉄が企業として再生する鍵は、このマルスと改札の自動化が握っていたという。開発の歴史から旅の未来まで、システムの全容を描く。今では新幹線のためのシステムのような印象があるが、当初は新幹線は対象外だったというのも驚きだ。
| ビジネス弁護士ロースクール講義~法律が変わる、社会が変わる | |
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最近のライブドア対ニッポン放送事件などを見ても分かるように、これまで想像もできなかった紛争が裁判所に持ち込まれるようになっている。ビジネス弁護士が注目を集める所以だが、彼らはどのような活動をしているのか。実力派弁護士たちが大宮法科大学院大学でゲストとして行った講義を紹介する。第一線で活躍する弁護士の本音や、学生との質疑応答も面白い。
| 絶対に失敗しない家づくり | |
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日本の住宅の耐用年数はわずか30年とも言われる。なぜこんなに寿命が短いのか。欠陥住宅問題も聞こえてくる昨今、長持ちする家、安心して暮らせる家を建てるにはどうすればよいか。不動産コンサルタントの著者が、家づくりの基礎知識から契約、設計・工事段階でのチェックポイント、メンテナンス、リフォームまでを指南する。
| 憤青 中国の若者たちの本音 | |
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「私たちは左派でも右派でもなく、憤青なんです」――。憤青とは憤怒青年を略した流行語。怒れる中国の若者たちの矛先はいま日本に向かっている。戦争体験を持たない彼らが、なぜこれほどまでに反日感情をむき出しにするのか。在日の中国人作家である著者は反日運動がピークを迎えていた4月、里帰りした北京で多くの若者たちと出会う。憤懣をぶつけることで自我を確認し、連帯を求めようとする若者たち。日中双方の事情を知る著者が、一連の騒動のなかで見たもの、聞いたもの、感じたことをありのままにつづった。
| デフレから復活へ―「出口」は近いのか | |
![]() | 伊藤 隆敏 東洋経済新報社 2005-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
景気は踊り場にあると言われる。1990年代から階段を転げ落ちるように失速した日本経済。過去2回の景気回復のチャンスは、橋本政権の「早すぎた財政引き締め」や日銀の時期尚早の「ゼロ金利解除」などで不発に終わった。「3度目の正直」はあるのか。本書では鈍足の景気回復とデフレの関係を改めて見直し、経済政策を検証。待ち受ける少子高齢化時代に向けた持続的成長のための構造改革を論じる。



日露戦争から学ぶことは多い
幅広く掘り下げた労作














