メイン > 週刊エコノミスト書評『ブックレビュー』(2005年) > 2005年10月4日~10月11日
■著者インタビュー 門田隆将(ジャーナリスト)
| 甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯 | |
![]() | 門田 隆将 講談社 2005-06 売り上げランキング : 388 おすすめ平均 ![]() 日本の「善」へのオマージュ 琴線に響く生涯 プロとアマの我々の違いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
――かなりのプロ野球ファンじゃないと高畠導宏という打撃コーチのことは知らないでしょう。その高畠さんの生涯を読んで、伝説のコーチという以上に素晴らしい人間性を感じました。
■ 埋もれた人間や事柄を掘り起こすことは、ノンフィクションの役割の一つだと思います。高畠さんは現役時代はケガで、大した記録を残したわけでなく、スター選手ではありません。しかし29歳の若さで南海の打撃コーチになって以来、七つの球団でコーチを務め、延べ30人以上のタイトルホルダーを育てた。そして50代半ばから5年かかって教員免許を取り、甲子園を目指します。その矢先、昨年7月に60歳でガンに倒れてしまう。自慢も広言もせず、夢半ばで壮絶な最期を遂げた、すさまじい人生を書かねばと思ったのです。
――高畠さんは自分の目標を「あらゆる角度から相手を分析し、コーチの力で各打者に打たせる打撃コーチ」と言っていたそうですね。押しつけでなくその人に合ったスタイルを考え出した。文中にもロッテ時代に西村徳文、高沢秀昭の2人に首位打者を取らせたり、いろいろな小道具を使ったユニークな練習法が紹介されています。
■「才能とはあきらめないこと」と言った努力する人間が好きな人ですからね。カージナルスの田口壮選手は「野球の父」と呼んでいます。巨人の小久保裕紀選手も「最大の教えは人間力」と言うほど高畠さんの生き方に心酔しています。他にも球界には恩師と慕う選手は多いですよ。修業時代のことを語らない中日の落合博満監督も、選手時代に強く影響を受けたと思います。
――それにしても、昭和30年代以降の南海が、こんな面白い野球をやっていたなんて驚きです。なかでも高畠さんが得意だったのが、投手のクセから投球の瞬間に球種を見破ること。そんなところは、すごいと思いましたね。
■野球好きには、裏にこんなことがあったなんて、たまらなく面白いと思います。高畠さんがコーチとして仕えたロッテの山内一弘監督が「もう一つの野球を教えてくれてありがとう」と言ったといいますから。
――そこまで功成り名を遂げたのに、それをなげうって高校教師の道を選んだんですね。
■ 誰もが夢を諦めかける50代半ばに、コーチ稼業の合間に通信教育で教師になる勉強を始めた。普通ではできません。しかも教師になっても一流で、野球部は当然としても、一般の生徒にも慕われます。ただ残念だったのは、プロ出身者なので2年間の禁止期間があり、高校野球の指導ができる前に亡くなってしまった。1度でいいから甲子園での指揮を見たかったですね。
――本当に残念です。でも野球と関係ない人も共感する点は多いのでは。
■高畠さんは、夢を真っ正面からとらえ、努力した正面突破の人でした。それは忘れかけていた日本人特有の生きざまではないでしょうか。だから誰にも勇気を与えてくれるんだと思います。
| 財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済 | |
![]() | 黒田 東彦 日本評論社 2005-07 売り上げランキング : 13,277 おすすめ平均 ![]() 著者の意志は伝わるが・・・ 歴史から学ぼうとする筆者の真摯な姿勢に共感!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1971年のニクソンショックから現在までの日本の財政金融政策を総括した。振り返れば、石油危機と狂乱物価、プラザ合意、バブル崩壊、90年代後半の超円高、ゼロ金利政策など激動の三十数年だった。著者はこの間、旧大蔵省(財務省)に在籍し政策決定にかかわってきた。「政策には多くの失敗もあった」と実例を述べているところが本書の説得力を強固にしている。
| 20代 仕事筋の鍛え方 | |
![]() | 山本 真司 ダイヤモンド社 2005-08-20 売り上げランキング : 4,376 おすすめ平均 ![]() バランスの取れたビジネススキル入門書 自分の甘さを気づかされた本 三十にして立つ前にAmazonで詳しく見る by G-Tools |
20代の若者が今後成功するには仕事のための基礎体力ともいうべき「仕事筋」を身につけることが重要だ――。『40歳からの仕事術』(新潮新書)などのヒット作で知られるベイン・アンド・カンパニー・ジャパンのパートナーが、経営コンサルタントのキャリアを生かし、今度は悩める20代のビジネスパーソンにメッセージを送る。
| 多神教と一神教―古代地中海世界の宗教ドラマ | |
![]() | 本村 凌二 岩波書店 2005-09 売り上げランキング : 43,427 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人類の文明史5000年のなかで、メソポタミアに始まる地中海の古代文明は、実に4000年もの歴史を持つという。その古代世界には、人々の暮らしの至るところに何とも人間くさい神々の姿があふれていた。メソポタミアからエジプト、シリア、ギリシア、ローマへ、多神教から一神教へ、変貌を遂げる古代文明の時空を旅する。
| 満鉄調査部―「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊 | |
![]() | 小林 英夫 平凡社 2005-09 売り上げランキング : 39,731 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日露戦争後の1907年に誕生した満鉄調査部は、東アジア進出の各段階で日本の国策決定に重要な役割を演じてきた。満鉄調査部とは、どのような組織だったのか。40年の軌跡をたどり、調査部解体の引き金となった「満鉄調査部事件」の真相に迫る。
| 170のkeywordによる ものづくり経営講義 | |
![]() | 東京大学ものづくり経営研究センター 高橋 伸夫 日経BP社 2005-09-02 売り上げランキング : 533 おすすめ平均 ![]() 自由闊達な「補講」が面白い 良書。。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ジャスト・イン・タイム方式、品質管理、アウトソーシング、製品アーキテクチャ、モジュラー化といった経営用語から、ワンランク上の「ものづくり経営」を考える。日本の経営史における「イエ」という組織形態、近代日本の経営者列伝などにも目配りする。
| ヒルズではたらく社員の告白―ネット企業って、実際どうよ? | |
![]() | 洋泉社 2005-09 売り上げランキング : 1,970 おすすめ平均 ![]() IT現場社員の声を掬ったおもしろさ ■■広告収益モデルのメディアには書けないことが書かれています■■ ネガティブなことが書かれていると感じてもそれが現実。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ライブドアをはじめ、花形ネット企業の牙城、六本木ヒルズ。トップの人々はいざ知らず、人気ネット企業で働く平社員たちは日々どのような思いで仕事をこなしているのか。現役社員や元社員たちが語る夢と現実の多重奏。
| 失礼ながら、その売り方ではモノは売れません | |
![]() | 林 文子 亜紀書房 2005-07-01 売り上げランキング : 642 おすすめ平均 ![]() 一冊の本になると・・・・。 仕事に疲れたときにもお勧め モノを売ることができる人は、「ナニ」が違うのか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
9月から改善プロジェクトを始動させたダイエー。このトップ(会長兼CEO)に就いているのが著者の林文子氏である。
本書には氏の長年の経験に基づく営業の極意が満載されている。例えば顧客志向の発想。自動車のセールスをしていた折、ショールームの外に客の姿が見えた時にはすでに頭が下がっており、自動ドアが開く前に満面の笑みで迎えたという。
手厚く扱われて悪い気がする人はいない。氏は接する人の心理に常に配慮し、心を動かすことの重要性を説く。そのための基本的な手段はコミュニケーションである。本書では、多様な場面でのコミュニケーションの仕方を伝授する。
非常に興味深かったのは「子供に高級車を売る?」という節で、ここには小さい子供だけでショールームに入ってきてキャッキャッと騒いでいた場面が描かれている。このような場合、通常は見て見ぬふりをするか、場合によっては外につまみ出すそうだ。しかし彼女のとった行動は、子供たちにジュースを与え、「大きくなったら車を買ってね」とセールスをする。その2カ月後に1000万円以上の車を買いにくる夫婦が登場するが、それがこの子たちの両親だったというのだ。分け隔てのない対応とコミュニケーションの凄みを語るエピソードといえる。
経営者としての才を感じさせるのが従業員への思いと対応である。氏によれば、CS(顧客満足)の背後にはES(従業員満足)がなければならないという。働き手が幸福でなくてどうしてお客様を満足させられるのかというのである。この幸福を実現するために、例えば部下が建設的な意見を発したり、人知れず努力をしていたならば積極的にそれを褒める。廊下ですれ違ったら必ず何か言葉をかける。悩んでいる部下がいたなら一緒に悩んで相手に共感する。
本書ではこのように一見些細なことでありながら、実際にはできていない重要な従業員対応のカンどころも明確にする。
しかし残念だったのは、今後のダイエーの経営についてまったく触れられていなかった点だ。評者は、困難を極めたこの大型店の経営を異分野の方がどのような新機軸をもって運営しようとしているのか、大変興味があった。だが、本書は、氏が就任したての時期に書かれたという事情もあってか、明確なビジョンや具体的な改善の方策は盛り込まれていない。大方の関心もおそらく、営業一般論よりダイエーの趨勢である。この点に関して、せめて1節でも割いてほしかった。【評者 野口智雄(早稲田大学大学院教授)】
| アルジャジーラ 報道の戦争すべてを敵に回したテレビ局の果てしなき闘い | |
![]() | ヒュー・マイルズ 河野 純治 光文社 2005-08-24 売り上げランキング : 975 おすすめ平均 ![]() 面白いと思います 珠玉の訳文!! アラブメディア中枢をさらけだす具体的な読本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
24時間ニュース放送の、中東カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、アメリカのCNNなどと違ってコマーシャルも少なく、イラク戦争のときにはアラブの視聴者だけでなく、世界中の人びとに欧米とは違う視点を提供したものだ。
他方、アルカイダの声明や人質虐殺について詳しく報道するなど、報道の中立性から、その姿勢が問題視されることもあった。
著者は英国人であるが、アラビア語にも堪能なジャーナリストとして、アルジャジーラの英語放送開始を期待するなど、公正な立場でカタールの特異な放送局の性格を追跡している。
著者は本書のなかで、アルジャジーラのワシントン支局長アル・ミラジに対する、CNNのポーラ・ザーンの興味深いインタビユーを紹介している。
このライバル社の女性は、アルジャジーラをしきりにテロリスト美化の局としたがる一方、ミラジは「米国のメディアは政府の外交をろくに批判もしない」と反論している。
ミラジがパレスチナ人に辛辣なCNNの姿勢を批判すると、ザーンも「言いがかりはよせ」と切り返すなど、かなりの真剣勝負なのである。
こうした迫力は、本書の随所に見られるが、著者は、米国で180万人のアラブ系市民がアラビア語放送を視聴できることが、かえって彼らの米国社会への統合を妨げているのでは、という疑問も紹介している。
しかしアルジャジーラは、中東にニュースがつきないかぎり、必ず世界中で注目されつづける。こう述べた著者は、アルジャジーラは将来的には国際的な巨大メディア企業に買収されるだろうとも予測する。メディアの世界は、厳しい競争世界なのだ。
また、次のような評価も基本的に正しいだろう。
「アルジャジーラは、数百年来、西から東へと流れていた情報の流れを、はじめて、東から西へと逆流させた。その功績は大きい。いまアラブ世界では、テレビ番組の内容を決定するのは、制作者ではなく視聴者である。この根本的変化をもたらしたのも、アルジャジーラだ」
たとえ、その報道のなかに「扇情的なタブロイド紙」と変わらない要素があるにしても、それは米国の放送局にも、まま見られることではないか。
国家でなく、市民が意見を述べられる局が、アラブ世界に誕生した意味を強調する著者の見方は重要であろう。【評者 山内昌之(東京大学大学院教授)】
| 陰謀と幻想の大アジア | |
![]() | 海野 弘 平凡社 2005-09 売り上げランキング : 186,823 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
時には滑稽に見える「陰謀説」も、その背景をたどっていくと意外な真実が見えてくることもある。かつて、ヒトラーに追われたユダヤ人を満州に受け入れる計画があったという説から、著者は近代日本史における陰謀史観の中心ともいえる「満州」に注目する。大アジア主義、イスラムとのコネクション、シルクロード、大東亜共栄圏など10のキーワードから、近代日本とアジアの関係を見つめ直す。
| 下流社会 新たな階層集団の出現 | |
![]() | 三浦 展 光文社 2005-09-20 売り上げランキング : 362 おすすめ平均 ![]() そうかもしれないな いまいち焦点の甘い分析 他の階層格差論と何ら変わらぬ問題煽動と問題解決の欠如Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ここで言う「下流」とは所得が低いことではない。コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲など総じて人生への意欲の低い人々を著者は「下流」と位置づける。食うや食わずではないが、何となく生きても生きられる。そんな団塊ジュニア世代の価値観、生活、消費行動を、マーケティングアナリストである著者が分析する。これからの時代は少数のホリエモンと大量のフリーターの世界。下降する者はどんどん下降していく厳しい環境が待ち受けている。
| 東アジアの国際分業と日本企業―新たな企業成長への展望 | |
![]() | 天野 倫文 有斐閣 2005-09 売り上げランキング : 58,060 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本企業の東アジア進出に拍車がかかる一方で、日本国内での空洞化が問題視されている。アジア全体の産業発展の視点から見た場合、日本企業はどのように向き合っていけばよいのか。国際分業の展開と産業構造の調整、国際化戦略などを、企業の事例を挙げながら検証する。発展めざましい中国の家電産業にも1章を割いている。
| 事例・日本型成果主義―人事・賃金制度の設計から運用まで | |
![]() | 社会経済生産性本部 生産性出版 2005-09 売り上げランキング : 152,421 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
成果主義の導入について賛否両論、様々な意見が飛び交っている。日本の企業風土、短期的な成果志向、地道な努力やプロセス軽視への不満、従業員同士の連帯感の希薄化などの問題点をどうするのか。本書では従業員200~500人規模の中堅企業5社を取り上げ、人事制度など改革への取り組みを紹介しながら、新たな日本型成果主義のあり方を模索する。
| 阿片の中国史 | |
![]() | 譚 【ルゥ】美 新潮社 2005-09 売り上げランキング : 4,624 おすすめ平均 ![]() 阿片を切り口にした中国現代史Amazonで詳しく見る by G-Tools |
超大国・清がなぜ一国まるごと阿片漬けにされてしまったのか。その阿片を根絶できたのは毛沢東率いる中国共産党の偉業だったといわれるが、果たしてそうなのか。阿片に翻弄された中国という国と阿片の歴史を、中国人の父と日本人の母を持つノンフィクション作家の著者がひもとく。阿片の雑学から政治まで、幅広い視点が新鮮だ。


日本の「善」へのオマージュ
プロとアマの我々の違い

著者の意志は伝わるが・・・









他の階層格差論と何ら変わらぬ問題煽動と問題解決の欠如


