メイン > 朝日新聞日曜版『書評』 > 2007年4月29日~5月6日
| イラク占領―戦争と抵抗 | |
![]() | パトリック・コバーン 大沼 安史 緑風出版 2007-04 売り上げランキング : 30 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米の大失敗と深刻な無法状態を分析
4年前の5月1日、ブッシュ米大統領が能天気にイラク戦争に「終結」を宣言し、イラクに進軍した米兵が「解放されたイラク人が花を持って歓迎してくれる」と無邪気に信じていた頃、「本当にたいへんなのはこれからだ」と、正確に事態を予想し身構えていたのは、一部の中東専門のジャーナリストたちだった。英インディペンデント紙はパレスチナ報道の第一人者、ロバート・フィスクとともに、本書の著者パトリック・コバーンをイラクに投入していた。英ガーディアン紙は少し遅れて、戦争前からイラク国内からネット発信して超有名となったブロガー、サラーム・パックスのコラムを取り上げた。わが国各紙も、各社精鋭の中東記者をバグダッドに送り込んだ。
なかでもコバーンは、情報収集、分析力、表現力いずれも優れた、超一流のイラクウオッチャーである。湾岸戦争とその後を扱った前作「灰のなかから」は、筆者も愛読してあちこちで引用した。下手な米シンクタンクの中東研究者よりも、よっぽど信頼に足る。
その彼の新作たる本書は、ブッシュが「終結」宣言をしたときにはまだ「戦争は……始まっていなかった」と、のっけから看破する。いまだに「イラク戦争」を03年3月からの43日間のものとして表記しているのは、日本のメディアぐらいなものだろう。今年3~4月の米兵の死者数は、この43日間の死者数に迫るものとなっている。この状況を「戦後」ということが、いかにばかばかしいことか。
ということで、本書はその戦争と占領下の状況と米政権のイラク政策のとてつもない大失敗を、これでもかと述べ立てる。その手の本は、著者が危惧(きぐ)するように、つい悪いことばかりを選んで書いてあるのだろうと非難されがちだが、本書が緻密(ちみつ)な取材に基づく事実であるのは、一読すればわかるだろう。
そして楽観論を捨てきれない読者に、いかに事態の深刻さを理解させるかに腐心する。今のイラクが「完全な無法状態」だとの表現には、深く得心がいく。マスコミが多用する「イラクでまたテロ」という表現は、社会のなかで合法と違法が弁別されていることを前提としているが、事態はそれほど甘くない。イラクで放置されている法の不在状況こそが、問題なのだ。米軍の撤退、政権の不安定化などでしばしば懸念が指摘される「権力の真空」も、また然(しか)り。「戦後」この方、権力が真空でなかったことがあったか、と。
情報の精度だけではない。米政権がどう失敗していったか、なぜイラク人が反米化していったか、かつて存在しなかった宗派対立がいかに醸成されたか、政治分析の的確さも抜群だ。スンナ派のイラク精鋭部隊ですら、「戦争」中、フセインのために米軍と戦おうとしなかった、という著者の指摘は、常に思い出されるべき事実である。
イラク情勢理解に必読の書なだけに、誤植と誤記が多すぎるのが、残念。近年中東報道が増えたおかげで、アラビア語の固有名詞の邦語表記も定着しつつある。重版されるべき本なので、ぜひ見直してもらいたい。【評 酒井啓子 東京外国語大学教授・中東現代政治】
| 桂昌院藤原宗子 | |
![]() | 竹田 真砂子 集英社 2007-03 売り上げランキング : 609 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
女は氏なくて玉の輿。
この書き下ろし長篇(ちょうへん)のヒロイン桂昌院(けいしょういん)は、諺(ことわざ)通りの好運に恵まれ、徳川五代将軍綱吉の生母と仰がれて栄華の頂点を極めた女性である。
正伝では、父は二条関白公の家司本庄氏、母は鍋田氏と由緒ありげに書かれるが、実父は八百屋だった。母は本庄氏と再婚。その器量好(きりょうよ)しの連れ子が運命の輿に乗る。
公卿(くげ)社会のツテをたどって大奥に出仕。三代将軍家光のお手が付いて徳松(綱吉)を懐妊したのでお玉の方と敬われ、家光の死後は剃髪(ていはつ)して桂昌院と称する。側室としては破格の従一位を贈られ、その一族は大名や旗本に取り立てられて大いに繁栄した。
作者はあたかもヒロインの皮膚に埋め込まれたセンサーになったかのようだ。その心理と体感に密着して、少女時代から更年期までの人生を共に歩んでゆく。大人の情事から見覚える肉のうずき。男を支配する技巧の会得。公卿の姫君に向ける敵愾心(てきがいしん)。この女性に宿る猛烈な権勢欲は生来の情欲と分かちがたく、激しい上昇志向はリビドーの水位とひとしく高まる。
大奥入りした玉は、春日局に美貌(びぼう)を認められて家光の側(そば)に仕える。男色が好きだった家光を女に振り向かせる苦肉の策であり、玉は進んで志願して夜の蓐(しとね)に入る。首尾よく徳松誕生。大奥は「玉の天下」になった。玉は人々を平伏させる喜びに酔いしれる。「くねらせた手を口元にあてて」笑う仕草(しぐさ)が春日局そっくりだと意地悪な観察も忘れないのが作者の愛情だ。
次代将軍では別腹の四代家綱に煮え湯を飲まされたが、三十年も待たされた揚句(あげく)、やっと愛児に運が廻(めぐ)ってくる。一心不乱に祈祷(きとう)した効験で綱吉将軍が実現したのである。男たちが表で働く幕府政治は桂昌院が吐き出す妖(あや)しい蜘蛛(くも)の網に絡め取られ、飽くなき満足感の栄養にされる。
綱吉はいつまでも仮想子宮に閉じ込められ、母子密着が生類憐(あわれ)みの令や忠臣蔵事件に連鎖する元禄文化が花開く。その最終章を急ぎ足にしたのが惜しまれるが、一読やっぱり《歴史は女で作られる》と信じたくなる一篇だ。【評 野口武彦(文芸評論家)】
| 編集者という病い | |
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編集者という仕事をこよなく愛しているのだろう。編集者を「人の精神という目に見えないものを商売にする、いかがわしいところがある商売」と語る見城氏だが、その編集姿勢は思いこんだら命がけ。書き手とは、とことん付き合うという見城氏の姿勢が、書き手たちの心をくすぐるのだろう。
若き編集者時代には、憧(あこが)れの石原慎太郎氏に初めて会うのに、40本の赤いバラを抱えて行ったという。そんな編集者ゆえに、幻冬舎の立ち上げ直後に、四谷の事務所を自ら訪れた石原氏をして、「何でもやるぞ」と言わしめるのだ。
出版不況といわれるなかにあって幻冬舎は、その設立早々から『ふたり』(唐沢寿明)、『弟』(石原慎太郎)、『ダディ』(郷ひろみ)と、ベストセラーを次々と世に出し、出版事業における編集者の力量の重要性を、改めて見せつけることになる。その後、幻冬舎は、文庫、新書にも進出。日本の出版界で確固たる地位を築いていったのは周知の通り。
著者は、本書を現役編集者の総決算と語るが、その編集者としての経験群は、編集者という職業の「病(やま)い」が持つ、快楽と切なさを存分に感じさせてくれる。【評 音好宏(上智大教授)】
| アイヌ民族の歴史 | |
![]() | 榎森 進 草風館 2007-03 売り上げランキング : 939 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書は、日本における先住民族としてのアイヌ民族を主体として書かれた、初の本格的な通史である。アイヌ史研究の大家渾身(こんしん)の作品は、その刊行自体がひとつの事件として画期的だ。
本書には傑出した三つの特色がある。第一は、アイヌ民族を日本における先住民族のひとつとして明確に位置づけたうえで、古代から現在までの歴史を一貫して叙述していることである。これは、アイヌ民族の固有の経験を、他の先住民族問題と共有・分有されるべき普遍的問題意識へと接続する重要な作業である。
第二は、アイヌ民族を主体として、その和人(および日本国家)との関係が描きなおされたことで、日本史の側にも新鮮な展望が与えられていることである。ロシアや中国をはじめ、極東の諸民族を含めた北東アジア関係史の構図が立体的に浮かび上がる叙述は見事である。
第三は、全編を貫く血の通った筆致の読みやすさである。読者はそこに、歴史家が史料を扱うたしかな手さばきを感じられるであろう。2段組みで600ページを超える大部ながら、本書には、読む者にページを繰る手を止めさせない力が宿っている。広く読まれるべき作品である。【評 山下範久(立命館大学准教授)】
| ナイトメア―心の迷路の物語 | |
![]() | 小倉 千加子 岩波書店 2007-03 売り上げランキング : 286 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ジェンダー心理学者としての小倉千加子はこれまでも、現代を生きる女性をリアルに描き続けてきた。とはいえ、それらは評論だったので、読者はどこか“他人事”として客観的に読むこともできた。
ところが、これは「小説家に若い女性読者からの手紙が届き続ける」という小説なのだ。「ナイトメア」と呼ばれるその女性は、兄だけを無条件に愛する母親を嫌悪する「母親恐怖」の状態にあるが、母親の否定と自分が女であることとの折り合いをうまくつけられないまま、徐々に精神のバランスを崩していく。
「母の前では、女でありながら、男の子に匹敵する業績を挙げ、決して兄を圧倒してはならず、父の前では、兄が与えられない女の子ならではの喜びを与えなければならない」といったフレーズは小倉ファンにとってはおなじみのものだが、それが小説となったとたん、読者は“自分のこと”として引き受けざるをえなくなる。
「ナイトメアの苦しみは、女性にとって不可避の、構造的な、底の深いもの」と語り手は言う。フェミニズムが取り組み続け、そしていまだ解決していない「女という生きづらさ」という問題が、この短い作品に凝縮されている。【評 香山リカ(精神科医)】
| 東京版アーカイブス―「あの頃のニュース」発掘 | |
![]() | 泉 麻人 朝日新聞社出版局 2007-03 売り上げランキング : 15761 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昭和27(1952)年から47年の主に本紙東京版からの70余りの記事をもとに、高度経済成長期の世相風俗を論評する。
女子銀行員の制服にデザイナーズブランドが採択されたこと、浅草のスペースタワーの出現、東京タワー斜塔説など、新しい風物に関(かか)わる記事が少なくない。対照的に、佃の渡しの廃止、灯が消えた恋文横丁のように、失われてゆく風情を愛惜する報道も選ばれている。いわゆるパ・リーグ党としては「懐かしの東京スタジアム」の話題に共感を覚えた。
ストリッパー嬢を客寄せにしたパチンコ店など、地方版ならではの面白い報道がある。いっぽうで漫画と現実が交錯した力石徹の葬儀、電話リクエストの流行、歩道橋の普及など、関西で育った私にとっても印象深い同時代の出来事も選ばれている。
複雑な気持ちで読んだのが「『肥満児時代』の幕開け」である。「君もスマートになれる」の見出しとともに、校庭で雲梯(うんてい)という遊具を使った特訓を受ける写真が掲載されている。当時、まさに肥満児であった自分の姿を想起した。雲梯は大の苦手で、惨めで嫌な思い出しかない。社会史と個人史とが偶然重なりあう時、記憶はもっとも鮮やかによみがえる。【評 橋爪紳也(大阪市立大教授)】
| ポスト・デモクラシー―格差拡大の政策を生む政治構造 | |
![]() | コリン・クラウチ 山口 二郎 近藤 隆文 青灯社 2007-03 売り上げランキング : 402 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
市場原理主義を超える処方箋も示す
人間が人間らしい生活をするために必要な公共サービスを提供する福祉政策。それを先進諸国では民主主義という政治を通じて獲得してきた。
しかし、イギリスの代表的経済社会学者である著者によれば、生産性の向上に伴い、60年代にブルーカラー層が減少、労働組合も衰退した。70年代には競争が世界規模で激化し、グローバル企業のオーナーは国外脱出を脅しにして法人税減税を政府に求めた。選挙を控えて個人への増税は求めにくく、法人税の減税で開いた穴は埋まらないままに政府債務が増大、80年代には公共サービスが低下したという。まるで日本について書かれているようである。
さらに大企業は、生産コスト削減のため、巨額の資金を背景にロビー活動を行い、非正規雇用の拡大を政府に認めさせた。こうして米国ではレーガン政権の下、貧富の差が第三世界並みに拡大する。
10年以上続いた英サッチャー&メージャー政権やレーガン&ブッシュ(父)政権などの保守政権は労働党(英)や民主党(米)に交代するが、それはかつての労働党や民主党政権と一線を画すものであった。例えば英首相ブレアの「ニューレーバー」政策は企業からの支持を求めるあまり民営化や外部委託で公共サービスを商品化し、質を劣化させた。雇用政策でも、やる気を見せない者を福祉の対象から容赦なく排除した。要するに資本の論理が幅をきかせる新自由主義政策である。
著者によれば、こうした状況がまさに「ポスト・デモクラシー」現象である。そこでは、政府と企業代表とによる市場原理主義への回帰が起こり、市民的権利を保証する再分配政策は衰退していく。
ただ、著者は現状を嘆くばかりではない。「税の一定部分を、市民が選ぶ政党に助成する」直接民主主義的手法や「国会における法案を無作為に選ばれた市民が吟味して、可否を決める」市民議会制度など、現状変革のための処方箋(せん)も紹介している。
市民であれば当然保持できる「権利としての公共サービス」という著者の考えは、日本でも十分傾聴に値する。【評 小林良彰(慶応大学教授)】
| ロンリー・ハーツ・キラー | |
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一国の象徴である「オカミ」の突然の死をきっかけに、虚脱状態に陥る人が続出。実家で暮らし、社会に生かされている「俺」はビデオカメラを回し、見るものすべてを録画する。3人の若者の手記を通して、生と死の問題を突き詰める。
赤塚不二夫のことを書いたのだ!!
武居 俊樹 (著)
「おそ松くん」6代目担当になって以来35年間の、天才マンガ家との日々を振り返る。「天才バカボン」引き抜き事件、チビ太やニャロメのモデル、破天荒な遊びなどなど。病院で眠り続けるマンガ家への痛切な思いがそくそくと伝わる。
| ヨモギ・アイス | |
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アメリカでジミーと新婚生活を送るヨモギは、日々、人種的偏見を始めとする差異、違和感を経験する。威勢良く受け止め、切り返し合うジミーとヨモギの応酬をポップな文章で描く著者のデビュー作と「アンダーソン家のヨメ」の、初期秀作2編を収録。
| 生きるなんて | |
![]() | 丸山 健二 朝日新聞社出版局 2007-04 売り上げランキング : 7389 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
冒頭、「生きるなんて、実にたやすいものです」の第1章から「死ぬなんて、そう過剰に意識するほどのことではありません」の11章まで、学校、親、不安など人生の段階ごとに直面する出来事への心構えを辛口で語る。要は、いかに自身を虚飾なしに認識できるか。それを自立という。
| ロンドンで本を読む 最高の書評による読書案内 | |
![]() | 丸谷 才一 光文社 2007-04-05 売り上げランキング : 13632 おすすめ平均 ![]() 最高の書評による文学案内Amazonで詳しく見る by G-Tools |
イギリスでは、「書評といふジャーナリズムこそ社会と文学とを具体的に結びつけるもの」として独自の批評文化が形成されてきた。プルーストやジョイスなどの古典的名作から辞典類、『源氏物語』や日本文学の英訳からマドンナの写真集まで、気鋭の作家や文学者たちによる「書評」選集。
| 霊魂の民俗学―日本人の霊的世界 | |
![]() | 宮田 登 洋泉社 2007-04 売り上げランキング : 2268 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
小さい頃からお化けが大好きだったという著者の講演録。出産、初詣で、葬儀などの生活儀礼に見られる日本人と霊魂のかかわりを、各地に残る民俗資料や柳田国男ら先人の学説を交えて説く。科学が発達した現代にも続く霊的世界への関心を検証する。
| 差別原論―〈わたし〉のなかの権力とつきあう | |
![]() | 好井 裕明 平凡社 2007-04 売り上げランキング : 6014 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「差別はいけない」という道徳的メッセージが反復されることで、図式的な構えた姿勢ができる半面、日常的には「失言」「冗談」として差別が生き延びる。「あたりまえ」を疑う柔軟な想像力を鍛える術として、自分のなかにある差別と向き合う方法を探る。
| メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 | |
![]() | 松永 和紀 光文社 2007-04-17 売り上げランキング : 110 おすすめ平均 ![]() 読む価値の大いにある良本 疑問だったことが・・ 意外な側面がAmazonで詳しく見る by G-Tools |
食の安全や健康など関心が高い事柄について、なぜ真偽の疑わしい情報が流通するのか。「危険」は報じやすく是正はしにくいマスコミから、「素人の言うこと」とトンデモ学説を見過ごす学界まで、センセーショナリズムの構造を科学ライターが検証。
| 中国外交の新思考 | |
![]() | 王 逸舟 天児 慧 青山 瑠妙 東京大学出版会 2007-03 売り上げランキング : 2529 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
先般、中国の温家宝首相が「氷を融(と)かす旅」と称して訪日した。盛大な拍手で迎えられて国会で演説したほか、朝の公園では太極拳を披露した。大学生とは野球に興じ、「国際電話でお母さんに演説をほめられた」ことを紹介するなど、親しみやすくソフトなイメージを振りまく温首相のテクニックに多くの日本人は引きつけられた。
しかしその一方で、東シナ海のエネルギー共同開発をめぐる妥協点は未(いま)だに見出(みいだ)せず、経済成長とともに国防費を高い伸び率で増やしていく中国の方針に変更はない。また、3年前には中国の原潜が日本の領海を侵犯したが、その際には明確な謝罪がなく、「遺憾だ」という一言で済まされたことは記憶に新しい。硬軟両面を見せる中国外交の素顔とは、一体どのようなものだろう?
本書の原題は『全球政治と中国外交』。グローバル化の時代の中国外交が如何(いか)にあるべきかを正面から問う、気合のこもった力作だ。著者は57年生まれ。文革後、大学入試が復活した77年に入学した秀才である。80年代には国内の政治改革について論陣を張り、89年の天安門事件後は開明派の国際政治学者として第一線で活躍している。
本書では、対話と協力による協調的な安全保障の実現、そして金融やエネルギー、環境なども含めた総合的な安全保障観の重要性が強調される。さらに、グローバル化の条件下で国内政治を安定させるためには、権力に対する監督と制約が必要だと繰り返し主張されるのが印象的だ。
また、中国外交に対する率直な批判にも目を見開かされる。人口の多さや発展の速さ、また安保理常任理事国であり核保有国であることに鑑(かんが)みれば、国際平和の維持と発展への貢献が不十分だという。著者によれば、中国外交の課題は国内の発展に有利な外部環境の構築と主権の保全のみならず、地域や世界で影響力を発揮し、建設的な役割が果たせる責任ある大国として公認されることなのだ。
本書でもう一つ印象的な点は、米国の「覇権的な思考と単独行動主義」への警戒の強さだ。米国の圧力に対しては、米中2国間の関係強化と同時に、中国が多国間外交を展開し活動空間を開拓する必要性が訴えられる。
しかし、ここで一つの問題が浮かび上がる。グローバル化の時代に新しい安全保障観が重要となり、「国際政治=国家間政治」から「世界政治」への発展が語られながら、唯一の超大国は相変わらず権力を追求し、中国が影響力の拡大を求めるのも現実だ。著者は市民共同体的な政治文化の普及に期待するが、その困難さも認めている。だとすると、中国は強大になっても絶対に覇権を求めないと著者が断言する根拠は何なのだろう。
中国にはリアリストが多く、著者のリベラルな国際政治論は主流だとは言えない。しかし、胡錦濤政権への影響力は決して小さくない。訳者による大胆な再編集により、本書の議論の展開はかなりすっきりした。中国外交の新思考について知ると同時に、日本外交についても深く考えさせられる好著である。【評 高原明生(東京大学教授・東アジア政治)】
| みずうみ | |
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月に一度、水があふれるみずうみがある。体が膨張して水があふれるタクシードライバーがいる。母の胎内で羊水に漂いながら、誰に知られることもなく鼓動を止めてしまった胎児がいる。
三章構成の物語は、全編にわたって水に濡(ぬ)れそぼっている。いしいしんじさんの最新長編小説は、水の物語-「器」や「輪郭」を超える〈あふれる〉水の物語だった。
不思議なみずうみを描いた第一章の神話的な広がりは、第二章では一転、世界各地のニュースを集めるタクシードライバーの日常と身体の中に封じ込められる。時空のくびきから放たれていた物語に、新聞記事の日付と客の指示する行き先とが、いわば外から張りつく。さらに〈慎二〉という名の作家が登場する第三章では、日付も地名も主体的に、明確に示される。章が進むにつれて時空の焦点が引き絞られていくわけだ。
ならば、本作は「幻想から現実へ」という物語なのだろうか? 確かに、いしいさん自身が取材に応えて語っているとおり、第三章での〈慎二〉夫妻が死産でわが子を亡くすエピソードは、氏が現実に体験したことでもある。それを踏まえるなら、物語が現実の側に引き寄せられていったのも納得できるし、光に包まれた美しいラストシーンが作家自身の「再生」にも重なり合って、感動をさらに深めてもくれるだろう。
しかし、いしいさんは、喪失と再生のドラマを「循環」させる。ラストシーンでも水はあふれているのだ。その水は一組の夫婦の再生という「輪郭」を超えて広がり、引き絞られた時空もまた死と誕生という極限まで至って解き放たれて、読者を物語の冒頭へと運んでいく。
読者は、再び湖畔にたたずむだろう。そこには口から水と物語を吐き出す〈眠りつづけるひと〉がいる。〈眠りつづけるひとの話には、はじまり、おわり、というものがなかった。それはこの世を流れる水にはじまりもおわりもないのと同じことだ〉――その物語を繰り返し聞いていると、「水」はやがて「命」に呼び名を変えるはずである。【評 重松清(作家)】
| 排出する都市パリ―泥・ごみ・汚臭と疫病の時代 | |
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泥や汚物にまみれた花の都の環境史
これまで訪れたなかで、もっとも印象深いミュージアムのひとつが、セーヌ河畔の地下にある下水道博物館である。ここでは実際に供用している下水に鉄網製のデッキを張り、そのまま展示室として使用しているのだ。汚水が流れる音が室内に響き、足の下から異臭が漂ってくる。ビクトル・ユーゴーの作品にも登場する環状大下水道網をはじめ、華の都パリの地の底に水路のネットワークが完成するまでの歴史を、鼻をつまみながら学ぶことができる。
本書は、そのような都市基盤が充実する以前、12世紀から18世紀までに時代を限定して、一次資料を読みこむかたちでパリの劣悪な都市環境を紹介するものだ。1890年に刊行された研究書である。原題を直訳すれば「衛生」となる。副題に「街路の状態、下水、ごみ捨て場、便所、墓地」とある。
どれほど酷(ひど)かったのか。パリは古く、ラテン語の「泥」に由来するルテティアと呼ばれていた。それほど泥だらけで汚れた町であったという。中世以降、人口が集中し都市化を果たしても、「悪臭を放つ不健康なごみ溜(ため)」のような「泥の町」であったという。時に流行する疫病は瞬時に都市を汚染し、数千数万人の生命を奪うことも稀(まれ)ではない。
17世紀にあっても、この都市には満足な便所は普及していなかった。四つ辻、教会の周囲、人々で賑(にぎ)わう界隈(かいわい)でさえ、人や動物の糞便(ふんべん)であふれ、腐った生ゴミも散乱していた。ルーブル宮でさえ、中庭、階段、バルコニーなどで訪問者たちは用を足し、宮廷の住人も気にかけはしない。食肉処理された牛や豚の臓物や血液も下水道に流れこみ、街は異臭で満ちていた。街路を歩いていると、階上からぶちまけられる汚物がふりかかる可能性があり、安全に歩くことができる街路もなかった。
権力が都市衛生という都市問題にいかに対処してきたのか。本書を環境行政史として読むことも可能だ。公害や環境問題との戦いは、産業革命以前にさかのぼる普遍的な都市問題であったことを、改めて学ぶことができる。【評 橋爪紳也(大阪市立大学教授)】
| 世界を変えた6つの飲み物―ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史 | |
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コーヒー→万有引力、ラム→米独立…
世界の最新情報や、面白い噂(うわさ)ばなしを仕入れたいと思ったら、現代人はどうするか。もちろんインターネットをのぞく。では、17世紀イギリスの人々はどうしたか。コーヒーハウスに出かけたのである。そこには多数の新聞や雑誌、政治パンフレットが置かれていて、自由に読めた。さらにはそこに集まる職業も身分も異なる人々と、数杯のコーヒーを飲みながら議論を交わせたのである。かのニュートンが万有引力の理論を世に出せたのは、コーヒーハウスでの科学討論がきっかけだった。アラビアから輸入されたコーヒーが大英帝国の知のあり方を変えたのである。
このコーヒーをヨーロッパにもたらした大航海時代の船乗りたちの飲み物がラム酒であった。砂糖を精製する際の余剰物である糖蜜から作られたラム酒は、新大陸への入植者たちにとり、厳しい冬を乗り切るための必需品だった。彼らは大量にラムを消費し、安いフランス領の糖蜜の輸入を拡大した。これに難色を示した英本国は他国の植民地からの糖蜜輸入に税をかけた。これに対する入植者たちの不満が、やがて独立戦争へとアメリカを導いていく。
その他、本書にはビール、茶、コカコーラなど、飲み物が世界の歴史に果たした意外な役割が多数記載されている……とはいえ、本書は単なる飲み物トリビア本ではない。鵜呑(うの)みは危険な部分もあるものの、人類の歴史が普段気にも留めない日常の嗜好(しこう)にいかに動かされてきたかという、脱常識の視点の切り口を示す知的興奮の書でもある。
高邁(こうまい)な現代思想の本を読むと、パラダイムの変換だのポストモダニズムだのといった用語があふれ、われわれ一般人の手の届かないところで世界が変革されつつあるのではないか、という不安感にさいなまれる。しかし、この本は人間の世界はそんな大仰なものでなく、日常から変化していくのだという、英国人特有の皮肉かつ実際的な歴史観が披露され、奇妙にリラックスした気分になれる。一杯の清涼飲料水のような本なのだ。ちょっと苦味(にがみ)のあるところもまた英国風味であるが。【評 唐沢俊一(作家)】
| 日本人の老後 | |
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「老後」より「今」が問題。私の「老後」のことなどほっといて、と言いたい団塊世代の一人だけれど、著者は言う。〈団塊の世代が四十年前後の「順応期間」を終えて、自己解放に向かっていく時代の可能性を検討したい〉と。
なるほど。タイトルは地味だが、内容は前向きだ。
今、老後中の人、もうじき迎える人、さらにずっと昔の人、それぞれの事情が書かれていて、随所でそうだったのか、と目からウロコのデータに出会う。
たとえば、高齢になるほど「孤独不安」は低下する。高齢女性は自分の子どもとの付き合いは「たまに会話をする程度でよい」と思っている。目下、東京では単身世帯が増加中だが、お江戸の時代はもっとすごくて一人暮らしが二分の一だったとか。
さらに、ほほう、そうきますかあ、と著者の切り口に唸(うな)ったりもする。
なにかにつけ家族や地域共同体の「再生」が大事といって事済ましがちだけれど、実はそれはどこにもなかった過去かもしれない。あるべき老後の形は、当事者が常に「創造」するしかないと気づかされる。
近々、「老後」を生きようとする人には、読むとすごく役に立ってしまう本だ。【評 久田恵(ノンフィクション作家)】
| 老醜の記 | |
![]() | 勝目 梓 文藝春秋 2007-01 売り上げランキング : 371 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
男と女の関係とは何か、性愛を超えた男女の精神的な愛は存在するのかを、真摯(しんし)に見つめた秀作。小説現代新人賞をとる以前、純文学を志していた勝目梓の初の純文学である。
主人公はセックスとバイオレンスを売り物にしている作家と銀座のホステス。二人の恋物語である。恋物語といっても甘いものではなく、精神と肉体が軋(きし)みをあげる。二人が親しくなったとき、作家は五十九歳、ホステスは二十一歳。年齢差三十八歳の男女の交情に、妻子ある別の男を介在させて、作家が嫉妬(しっと)と恥辱で苦しみぬくからだ。
勝目だから性的場面も多く、性愛とプラトニックな愛の葛藤(かっとう)がメインになる。愛情の安らぎと肉体の快楽は別だという、昔の同人仲間の人妻(六十二歳)も登場させて、老境に入りつつある心と体の関係を、ゆったりと濃密な情事を通して描くところもいいし、“老いの生理の静穏”を見据えながら、性的執着が薄れていく過程も読ませる。
小説では作家とホステスの十三年間を追う。二人の愛の変容が淡々と、時に切々と、最後は実にしみじみと綴(つづ)られていて静かな感動を覚えるほど。昨年の『小説家』に続く勝目梓の円熟の新境地。見逃すな!【評 池上冬樹(文芸評論家)】
| 陸軍特攻・振武寮―生還者の収容施設 | |
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一度出撃しながら、基地に引き返した陸軍特攻隊員の秘密の収容施設が、福岡に置かれた振武寮であった。振武寮に関する著者の取材は、昨年NHKの番組でも取り上げられた。出撃時には「生きている神」と讃(たた)えられた特攻隊員は、帰還後はあってはならない卑怯(ひきょう)者として隔離・虐待されることになる。負い目を感じて生き残った彼らが重たい口を開いたのは、その晩年になってからである。
引き返した理由は、さまざまであった。搭乗する機体が古く整備不良で、目的地に着く前にトラブルを起こしたとか、中継基地が米軍の空襲を受けて搭乗機が破壊されたなどの原因も多かった。戻ってきた特攻隊員の数は、沖縄戦の中でどんどん増加していく。陸軍特攻を担当した第六航空軍は、この予想もしない事態にうろたえて、それを隊員個人の責任にしたのである。
本書からすると、第六航空軍の幹部は徳之島の前線基地まで視察に赴き、特攻機がまともに飛べず、特攻作戦が破綻(はたん)している事実を知っていたと思われる。しかし今さら、特攻実施の決定を覆せないと考えていたようだ。今日にもある官僚的思考の無責任さを暴く、ドキュメンタリーともいえよう。【評 赤澤史朗(立命館大教授)】
| アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで | |
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古代から近代に至るアイルランド語の専門家の手で著された本書は、様々な意味で知的刺激に富んでいる。例えばここでは早くも7世紀つまりラテン語がキリスト教圏の共通言語となっていた時代に、この支配的言語を解体し、いわば「読めないラテン語」を用いて綴(つづ)られたテキストのあったことが紹介されている。
いうまでもなくこれは近代アイルランド文学の巨匠ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を連想させる。この作品は英語に似て英語たりえない独自の文体で書かれているという意味で読めない傑作として有名だからだ。
支配的言語を解体することで支配―非支配の関係性に揺さぶりをかけようとするこうした姿勢はモダニスト・ジョイスの独創と評すべきか、あるいは歴史的にアイルランド民族の心性に根ざすものかの議論はひとまず措(お)こう。劣位に立たされた民族が言語的優越性にどう対峙(たいじ)すべきか、実はこれは現代日本が共有すべき問題だ。初等教育から英語を導入すべきかとの昨今盛んな議論も、母語を喪失するまでに支配的言語の圧迫にさらされたアイルランド文学の歴史をこのような良書から学ぶことで、何らかの指標が見えてくるかもしれない。【評 赤井敏夫(神戸学院大教授)】
| 巨船ベラス・レトラス | |
![]() | 筒井 康隆 文藝春秋 2007-03 売り上げランキング : 11690 おすすめ平均 ![]() メタフィクションの秀作 筒井康隆が初めての人にはきついかも 文学とは何か。文学の存在意義は・・・。筒井康隆は文学に希望に対する希望をまだ捨てていないのか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ある日突然、文学系イベントを行っている最中のカフェ「ペッティロッソ」で爆発騒ぎが起こり、犯人は、地方同人誌で活躍しプロ作家に恨みをもつ29歳の工員・鮪勝矢(しびかつや)と判明する。彼は「文学は終わった」「文学は遊びである」と多寡(たか)をくくる最近の作家たちや、ひたすら「売れる作品」で一発当てようと画策し未成年の書き手を優遇する出版関係者たちに憎悪を抱き、あくまで「文学は魂の叫びである」という主張を貫こうとする青年だった。
国内外を問わず、いまもなお物騒なテロが頻発するご時世で、仮に文字どおりの文学テロリストが出現したら、いったいどうなるか。悪くすれば、文学者そのものへの風当たりが、ひいては差別意識が強まりかねない。
かくして翌日の某ホテルにおける文学新人賞受賞パーティは大盛況。だが出席者たちは酒が回ってきたのか、やがてパーティ会場と巨船ベラス・レトラス(「純文学」の意)の船上との区別がつかなくなるばかりか、現実世界と作品世界の区分も不明となり、ついに生身の作家たちのあいだに、彼らの創(つく)り出した登場人物たちがまぎれこんだかと思えば、まさに本書を書いているホンモノの「筒井康隆」本人が降臨してしまう。
往年の筒井ファンなら、ここにかつての文学賞小説『大いなる助走』(1979年)における文壇批判や超虚構小説『虚航船団』(1984年)およびそれに引き続く『虚航船団の逆襲』(同年)における批評家罵倒(ばとう)などの影を、見て取るだろうか。
しかし文句なくスリリングな虚実混濁の果てに浮上してくるのは、現在文学において前衛と通俗のみならず、原典と海賊版の境界線すら曖昧(あいまい)化させていくテロリズムを相手に、作家自身が著作権を賭けて挑む戦いである。
目下、笙野頼子が売り上げ文学論批判を基礎にした論争小説を展開しているいっぽう、論争小説のご本尊である筒井康隆自身も、いま新たなかたちの闘争小説を開始した。文学テロとの戦いは文学自体によってしかなしえないことの記録が、ここにある。【評 巽孝之(慶応大学教授)】
| 世界を壊す金融資本主義 | |
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「儲け」一辺倒を脱するには「政治」を
就職を間近に控えた学生に「企業はだれのものか」と質問すると、10年ほど前までは従業員とか取引先あるいは消費者や経営者および銀行など多様な答えが返ってきた。しかし、最近ではほとんどの学生が株主と答えるようになった。確かに、株主は役員の選任や配当の決定に関し総会で一株一票の投票権を行使できる。過半数の株式を取得すれば実質的な経営権の獲得も可能だ。こうした株主の「権力」はアメリカにおいては頻繁に発揮されてきたが、日本やヨーロッパでもグループ企業による株式持ち合いの解消などに伴い急速に強まりはじめているという。
背景には、個人投資家から資金の運用を委託されたファンドマネジャー(年金基金などの資産運用者)によるアメリカ的な企業統治の拡大がある。経営者は「株主全員のために働く熱心な奉仕人」に徹し、高い配当と株価の値上げに務めるべきだと迫る一方で、「金融の権力」に従えば経営者もストックオプション(株の値上がり益を得られる権利)によって株主と利益を共有できると誘惑するのだ。
本書の原題である「トータル・キャピタリズム」とは、儲(もう)けることを唯一の目的にしたアメリカ的な企業統治が、企業経営だけでなく、「教育や医療といった公共部門にまで」浸透していることを表している。ただ、株主本位の企業統治には批判的な著者も、経済システムとしての資本主義の評価については「人類全体に経済成長の恩恵をもたらしてきた」と肯定的だ。その意味で、著者は資本主義が地球規模で蔓延(まんえん)することに反対を唱える反グローバリズムや反市場主義とは一線を画している。
現在はフランスの投資銀行家として活躍している著者は、金融資本主義の世界的普及が深刻な環境破壊や格差拡大を引き起こす前に、どうすれば市民社会と共存できるシステムに変革できるかと問う。著者の示す解決策は「政治の領域に市場を再び含有させ」ることだ。かつてフランス社会党政権下で官房副長官を務めた経験もあるだけに説得的な主張である。【評 高橋伸彰(立命館大学教授)】




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