メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2008年3月16日~3月23日

大阪万博―Instant FUTURE (アスペクトライトボックス・シリーズ) (アスペクトライトボックス・シリーズ)
大阪万博―Instant FUTURE (アスペクトライトボックス・シリーズ) (アスペクトライトボックス・シリーズ)都築 響一 アルフレッド・バーンバウム

アスペクト 2008-03-17
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ラブホテル―Satellite of LOVE (アスペクトライトボックス・シリーズ) (アスペクトライトボックス・シリーズ)
ラブホテル―Satellite of LOVE (アスペクトライトボックス・シリーズ) (アスペクトライトボックス・シリーズ)都築 響一 アルフレッド・バーンバウム

アスペクト 2008-03-17
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A5変型判という小ぶりの判型の写真集「アスペクトライトボックス・シリーズ」(アスペクト)が刊行された。第一弾は都築響一著『大阪万博』(千九百円、写真)と同『ラブホテル』(二千円)で、いずれも自社から大判で刊行したものの新装版。今後撮り下ろしなども含め、三カ月に二冊のペースで刊行する。写真集を品ぞろえしにくい小さな書店でも扱えるシリーズに育てたい考えだ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

政策革新の理論 (政治空間の変容と政策革新 1)
城山 英明 (編さん), 大串 和雄 (編さん)

メディアが変える政治 (政治空間の変容と政策革新 5)
サミュエル・ポプキン (編さん)

新しいアプローチで政治の世界の変動をとらえようというシリーズ「政治空間の変容と政策革新」(東京大学出版会、全六巻)の刊行が始まった。

シリーズ全体の編者は高橋進、大串和雄、城山英明の三氏。東京大学が二〇〇三年度から五年間かけて実施してきた研究プロジェクト「先進国における《政策システム》の創出」の成果をまとめる内容。プロジェクトのねらいは、二十一世紀初頭の政治の世界は何か深部で大きな変動が起きており、その変動をとらえたいということだ。

刊行済みの第一巻『政策革新の理論』は理論的見取り図の提示を試みている。政策の決定・転換に影響を与える、様々な主体の相互作用システムを「政策システム」という用語でとらえ、この概念を分析の道具として使う枠組みだ。合わせて刊行された第五巻『メディアが変える政治』はこの概念を使ってメディアの変化が政治に与える影響を多角的に分析している。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

アメリカの経済政策―強さは持続できるのか (中公新書 1932)
アメリカの経済政策―強さは持続できるのか (中公新書 1932)中尾 武彦

中央公論新社 2008-02
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おすすめ平均 star
star金融政策中枢のメッセージ

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米経済はどこに向かうのか。サブプライムローン問題が深刻になって以来、こんな問いが多く発せられるようになった。米経済の全体像をつかむための本が欲しいのに意外に見当たらない。本書はそんな渇きを癒やしてくれる。

著者は財務省国際局次長。昨年七月まで二年間、ワシントンで日本大使館の公使を務めていた。米国には日本を、日本には米国を分かりやすく説明することが、公使の大きな仕事だった。そんな知的格闘の成果が本書である。

一九九〇年代後半以降の高成長の見取り図を示した後、グローバル化と技術革新を論じ、マクロ経済政策と対外政策について記す。標準的な経済理論を踏まえつつ、最新の出来事をまんべんなく取り上げている。おおむねバランスの取れた記述で、コラムが初学者の理解を助ける。

本書の付加価値を高めているのは、米国の金融セクターを論じた第五章だ。「金融は規制が不可欠な分野」と位置づけたうえで、金融自由化の動きをフォローする。国境をまたいだ米欧の巨大複合金融機関(LCFI)の合従連衡を活写。ロンドンなど欧州の挑戦を踏まえた、米資本市場の強化策にも触れている。

サブプライム問題発生後の出来事も取り上げているが、なにぶん事態進展のピッチは速い。米経済の強さは維持されると判断する著者による、新たな分析が期待される。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京(上)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京(上)楡 周平

講談社 2008-02-29
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おすすめ平均 star
star微妙です。
star大蔵省キャリア・・・知らない世界が分かる

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京(下)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京(下)楡 周平

講談社 2008-02-29
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おすすめ平均 star
star政治家や官僚の異常さが生々しく書かれている

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権力に執着する家族 赤裸々に

一九九九年一月一日、東京・広尾の高級マンションで豪華なお節料理を囲む家族。そこでは出世と結婚に関する話が交わされている。この長編小説の幕開けは、昨年テレビドラマ化されて話題になった山崎豊子著『華麗なる一族』を思い起こさせる。スケールの大きな経済小説・犯罪小説で知られる著者は、ひたすら権力に執着する富裕な家族の姿を、息もつかせぬ展開で描ききっている。

全国に五十以上の病院を持つ有力医療法人の理事長を務める有川三奈。大蔵省キャリアの長男・崇はワシントンへの赴任が内定している。崇に次の総裁候補ともうわさされる民自党政調会長の白井眞一郎の娘・尚子との縁談が持ち上がる。当初は息子の政治家転身の道が開けたと喜ぶ三奈だったが、眞一郎の過去を知って衝撃を受ける。三十年前の全共闘運動にかかわっていたときに関係を持った男であり、崇の父親の可能性があったからだ。

かつては「世の中を変えたい」との強い思いを持っていた眞一郎と三奈。しかし、三十年の時をへて、その志と理想はすっかり失われている。金に頼り、一段と高い地位を目指すばかり。それは次の世代である崇と尚子も変わらない。崇のかつての恋人が二人の成功を邪魔しようとする動きには、金の力で対抗する。権力の魔力を赤裸々につづった力作である。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

「通信と放送の融合」のこれから コンテンツ本位の時代を迎えて法制度が変わる
「通信と放送の融合」のこれから コンテンツ本位の時代を迎えて法制度が変わる中村 伊知哉

翔泳社 2008-01-24
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おすすめ平均 star
starいろんな顔が満載
starこの本を買うより、無料の報告書を読んだ方が・・・

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コンテンツ大国の方策提言

ライブドアのニッポン放送株の買収などで、お茶の間の話題にもなった「通信と放送の融合」。あれから三年たつが、結果はどうなったのか。欧米や韓国ではテレビ番組のネット配信が花盛りだが、日本では地上デジタル放送の再送信がようやく始まる。本書は郵政省出身の研究者がこの問題に鋭く切り込んだ。

著者は学生時代、ロックバンドに所属した経験もあり、日本のポップカルチャーに強い関心を持つ。自動車や機械と並び、日本の競争力は海外の若者に人気の高いアニメやゲームにあるとみる。ところがハリウッドなどに比べると、日本の産業基盤や政府支援はお粗末だと嘆く。

原因の一つは番組と設備を両方持つ日本の放送局の仕組みにあると指摘する。さらに強固な著作権制度が加わり、テレビ番組の二次利用が大きく制限されている。海外では放送局がネット配信事業を真剣に考えており、このままでは日本は「コンテンツ(情報の内容)大国」になり損ねてしまうと警鐘を鳴らす。

アナログ放送が終了し、NTTの次世代ネットワークが普及する二〇一〇―一一年を日本では「完全デジタル元年」と呼ぶ。日本のソフトパワーを強めるには、通信と放送という縦割り行政をやめ、コンテンツ本位の法制度作りが必要だと著者は主張する。放送関係者には耳の痛い話もあるが、お勧めしたい本だ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

評伝菊田一夫
評伝菊田一夫小幡 欣治

岩波書店 2008-01
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菊田一夫自身、自伝的なことはいろいろなところで書いているだけに、「物語とも評伝ともつかないこの本を書くときに思ったのは、菊田一夫の一生というのは、結局は演劇界におけるサクセス・ストーリーではないか、ということだった」という著者の言葉には特別な感慨がこめられている。

幼い頃に実母に捨てられ、まったくの他人の夫婦に育てられ、しかも養母は無類の男好きで、彼女にとって七度目の夫金森養之助に二重売りされたり、萩原朔太郎に憧(あこが)れ、詩人になろうと東京の発行所「黒船」に向うが、出迎えた二人の編集者に有り金のほとんどを騙(だま)しとられる。「幼児から少年期にかけて辛酸をなめつくした彼は晩年まで依怙地(いこじ)なほど、おのれ独りにこだわった」と著者は述べている。

だから学歴もバックもなく、ペン一本で東宝の重役までのぼりつめたのは、才能や強運にめぐまれた奇跡に近いサクセス・ストーリーだといっているのではない。誰も真似のできない直感的な創造力や大衆の嗜好(しこう)に対する貪欲(どんよく)な探求心をもった人間が演劇界に登場し、やるべきことをやりきったのが菊田一夫だといっているのだと思う。

本書を読んで私はあらためて多くのことを学んだ。なかでも、菊田一夫の葬儀に演劇協会を代表して出席した北條秀司の弔詞。本人の意思とは関係なく菊田一夫の仕事の本質と不退転の決意を物語っている。北條は菊田は演劇人であったが劇作家ではなかった、と。これは「格づけ」というか、どちらが偉いかなどという話ではない。菊田にあって自分になかったものが何であったかを北條はいわずにはいられなかったのである。

観客を楽しませることが芝居の不変的な使命なら、劇作家や演出や俳優にとって、批評家が舞台をどんなにけなそうと、観客が喜び劇場に足を運んでくれるほうが重要なのだ。菊田一夫の生涯がサクセス・ストーリーといえるとすれば、彼がつねに観客のために芝居をつくりつづけたことをおいてない。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

風の馬[ルンタ]
風の馬[ルンタ]渡辺 一枝

本の雑誌社 2008-02-14
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チベットは今、騒乱に揺れている。が、この写真集がとらえたチベットの人々は誰もが柔らかな笑みをたたえている。収穫祭の興奮に包まれた子供たち。牛に似たヤクに農具を引かせて大麦をまく家族。著者は1987年から現地に通い、経済開発のうねりの中で生きる人々の姿を見つめてきた。「風の馬」は天駆ける馬を描いた旗や紙切れのこと。午後になると必ず吹くという風に乗せて、数々の祈りを運ぶ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)
美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)西田 宗千佳

講談社 2008-02-22
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おすすめ平均 star
star任天堂の記述は少ない「久夛良木健」史なれど、その業績は「もう一つのソニー」と評価できると思います
starプレステの歴史がこの1冊に

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ソニーでゲーム機、プレイステーション事業をけん引した久多良木健の十五年間を追った。「美学」とは、ゲーム機を超え、日本独自のコンピューター開発を目指した技術者・久多良木のロマンであり、「実利」は、ゲームの枠内で発想の転換を果たした任天堂の立場を指す。「美学」はある時期まで快進撃を続けたが、保守的な市場の反撃を食らう。技術と市場をめぐる普遍的テーマを臨場感たっぷりに描くのだが、ほぼ「美学」側の記述に終始している点に不満が残る。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

未完のロシア―10世紀から今日まで
未完のロシア―10世紀から今日までエレーヌ・カレール・ダンコース 谷口 侑

藤原書店 2008-02
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著者はかつてソ連崩壊を予言した著名なロシア専門家。「ロシアは未完成である」というプーシキンの格言を主題に、十世紀以降のロシア史を丹念に追い、西欧化を目指しつつも挫折を繰り返した経緯を浮き彫りにした。執筆は二〇〇〇年で、プーチン政権が本格始動する前。共産主義体制崩壊後、民主化したロシアがなぜ混乱してしまったのかが執筆の動機だ。今の「強いロシア」をどう分析するのかも読みたかった。谷口侑訳。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

リーダーシップの本質―失意から成功への回帰 (神奈川大学経済貿易研究叢書 第 23号)
リーダーシップの本質―失意から成功への回帰 (神奈川大学経済貿易研究叢書 第 23号)小山 和伸

白桃書房 2008-01
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リーダーシップとは、家庭や企業、学校などで人が他人を意図する方向に動かそうとするときに必ず表れる社会現象。著者は経営管理論や組織論を駆使し、一般性を持つリーダーシップ論の構築を試みている。副題の「失意から成功への回帰」が示すように、集団が高い目標を目指した結果の失敗・失意の中にこそ飛躍への起爆剤が潜んでおり、それにうまく点火できる影響プロセスにこそリーダーシップの本質があると指摘する。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

新・装幀談義
新・装幀談義菊地 信義

白水社 2008-03
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文芸書中心に活躍する装丁の第一人者による装丁論。実用書なら中身を一目で伝えるものがよい装丁だが、文芸書はそれだけではない。まず手にとってもらうために未来の読者に歩み寄る必要があるものの、そこから「読む」という行為に結びつけるにはさらに「謎」を仕掛ける必要があると説く。謎解きこそが読むという行為だからだ。具体的な作品を例示した解説には説得力がある。デザインの機能を考える際のヒントに満ちた一冊だ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

談志狂時代―落語家談幸七番勝負
談志狂時代―落語家談幸七番勝負立川 談幸

うなぎ書房 2008-02
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おすすめ平均 star
star談幸師匠らしさが感じられる1冊

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高校生からの追っかけで、価値観を共有し、その美学にほれ込んで入門して三十年。師匠談志に「談幸は師弟の生活において完璧(かんぺき)であった」と言わしめた唯一の内弟子が、希代の落語家の素顔に迫る。理不尽極まりなくも繊細で優しく、「大馬鹿野郎」と「ありがとう」が口癖で、メモ魔で倹約家、料理好きで懐メロオタク。舌鋒(ぜっぽう)鋭い高座とは少々趣の異なる家元が垣間見え、何ともうれしい。まさに師匠談志への感謝と愛惜を込めたラブレターだ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌
流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌原 克

紀伊國屋書店 2008-02-06
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おすすめ平均 star
star結局、日本特殊論

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軽いようでいて軽くない。何よりも目の付け所がにくい、良質の文化記号論だ。流線形という言葉なら、誰もが知っている。だが、それがいつ頃(ごろ)どんな風に出現したのかとなると、よくは知らない人が大部分だろう。それが流体力学的な文脈で出現したというのは、なんとなく見当がつく。だが、問題はその先だ。

この本は、流線形という、もともとは空気抵抗を少なくするための形という科学的意味をきちんともっていた言葉が、ほとんどあっという間に雰囲気的に使われるようになり、意味もどんどん拡散していくという様を巧みに跡づけている。名づけて「流線形シンドローム」。それが病気かどうかは分からないが、とにかく、著者の調査と一緒に当時の使われ方を追っていけば、苦笑したくもなる。

鯨やイルカは流線形だろうというのはいい。その通りであり、水中で高速で泳げるという機能性の高さとその言葉はごく自然に結びつく。水ではなくても空中でも同じだろうから、飛行機も流線形にする。この辺りは工学的知性がきらめくだけで、なんの問題もない。

でも、言葉はすぐにふくれあがる。人間というものは、「いかした言葉」を使おうとする習性があるらしい。ゴルフクラブやマイクが流線形になると聞いて、おや少し変かなと思うという気持ちは、流線形の配膳台辺りまでくると、確信に近づく。

要するに、当初の工学的な意味はあっという間に霧散してしまい、高機能性や現代性という、それなりに正の価値を含んだものをそう呼んでいるだけということだ。だが、そうなると流線形という切り口が若干ぼやけてしまうきらいもある。

ともあれ、著者は、その「ぼやけ方」の違いをアメリカ、ナチス時代のドイツ、日本という三つのケースで分析している。優生学に直結するアメリカ、反近代主義の中で逆の光を当てるナチス、そしてほとんど何でもありの日本。しかし、たくさんの図をただ見ているだけで十分楽しめることは確実だ。知的な縦糸が織りこまれた優れた風俗史にもなっている。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

海外日本企業の人材形成
海外日本企業の人材形成小池 和男

東洋経済新報社 2008-02
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中堅層とそのやや下の人材を大量に育成して活用する日本の仕事方式は、海外に移転できるのか。著者はトヨタ自動車のタイ、米国、英国の三工場を調べた。それこそが海外で日本の製造業の優位を保つ強みになっているというのが結論である。

日本の海外直接投資は収益性が低い。現場の創意工夫に頼る仕事のやり方が、現地の文化の壁に妨げられて通用しないからだ。こんな俗説を著者は覆す。統計を改めて調べると海外事業活動は思いのほか果実を生んでいる。その鍵を人材形成に求める。これまで著者は内外の企業を訪ねて生産労働者からホワイトカラーまで仕事の進め方を調査してきた。技能がどのように培われるのかなど、数々の興味深い実証的研究で知られる。

日本企業の競争力を支えるのは、生産ラインの新増設や日々の作業などで時々刻々生じる問題の解決に、一部の専門家だけでなく現場の中堅技術者や技能労働者が参加する点だという。このため時間をかけて様々な領域の仕事を担当させて、豊富な実務経験によって人材の問題処理能力を高める。

トヨタの海外三工場も、程度の差はあるが、中堅層以下が主体的に活躍している。中でも最も歴史の古いタイ工場が進んでいる。日本の仕事方式になじむ人材が育つまで、時間がかかるためだ。難しいのは、魅力的な仕事に就いて良い処遇を得るまで、どう納得させて働き続けてもらうかである。

労働組合との関係や賃金制度についてはそれぞれ現地に合わせて、日本方式を移植していない。多国籍企業は二つに分けていると著者はみる。「移転しないと国際競争力を保てない、とその企業が考える要素」と、各国ごとで構わないと割り切る要素である。

今後、日本の海外企業は「中堅層を大いに活用し高次の段階へ国をとわず進みつつある」という。だが「日本自身が日本のよさを失わないかぎり、という制約つきである。残念ながらそれを失う可能性はたえずあり、しかもその可能性が高まる危険がある」と警告する。グローバル化の中で企業は、何を強みとして、どう維持すべきか、重い問いを投げかける。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ヒトラーを支持したドイツ国民
ヒトラーを支持したドイツ国民ロバート・ジェラテリー 根岸 隆夫

みすず書房 2008-02-19
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「下からのファシズム」細密に示す

ヒトラーを頂点とするナチス「第三帝国」の残虐行為、とりわけ悪名高い強制収容所の現実を、一般国民は知らされていなかった――というのは、戦後ドイツで形成された神話にすぎず、多くのドイツ人は知っていたばかりか、それを承知でナチス体制を支持したのだった。

この事実は、戦後生まれのドイツの歴史家たちが成果を発表し始めた一九九〇年代以降、次々と明らかにされてきた。ナチス体制は強制とテロによって維持されたのではなく、国民が積極的にヒトラーを支持したのだ、という本書の論旨自体は、それゆえ、いまでは新しい視点ではない。しかし、公文書館や図書館に保存される膨大な原資料と体験者の証言を精査し、とりわけ警察関係の記録に即して、ドイツ国民のヒトラー支持が具体的にどのようなものだったのかを、本書は、細密に、しかも生きいきと示している。いわゆる「下からのファシズム」を考えるうえでも、示唆に富んだ一冊である。

従来の研究がナチズム独裁成立の時期に関心を寄せがちであることを批判する著者は、社会的少数者や異分子に対する迫害と殺戮(さつりく)が戦時体制とともに激化することに着目し、その状況のなかで国民の合意が強化されるありさまを描き出していく。ナチスは、「強制収容所」の恐怖を「囁(ささや)き声の宣伝」で流布させ、威嚇の手段とした。

一方、あらゆる「非社会的分子」の摘発と抹殺に貢献したのが、凶悪犯罪を憎み極刑を是認する国民感情だった。死刑につながる摘発の圧倒的多数が隣人たちの密告に基づいていたというデータには、寒気を覚えずにいられない。ヒトラーという独裁者が国民を意のままに操作したのではなく、「普通のドイツ人やイタリア人が自分たちの利益になるように制度を操作した」と著者は指摘する。

国民の能動性に依拠して戦争と大量虐殺に突き進み、敗戦に至るまで国民に支えられつづけたヒトラー体制の日常を、本書によって見つめなおすとき、凶悪犯罪を激しく憎む私たちの世論と、近く始まる「裁判員制度」の行く末にも、思いを致さずにはいられない。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

永遠の故郷-夜
永遠の故郷-夜吉田 秀和

集英社 2008-02-05
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日本を代表する音楽評論家のエッセー集。歌曲における詩と音楽とのかかわりを手書きの楽譜入りで細やかに分析している。例えば最初の章では、著者が高校時代にフランス語の手ほどきをしてもらった中原中也の思い出から、ヴェルレーヌの詩「月の光」、さらにその詩につけたフォーレの歌曲へと話題は広がる。

「女房(日本文学研究者のバルバラさん)を亡くしたとき、ドイツ人の友人が詩を書いてくれた。その詩に関するエッセーを文芸誌に書いたところ、反響が大きかったので、(詩について考える)今回の仕事を始めようと思った」と振り返る。「Bに――」との献辞があるように、亡き妻にささげる本でもある。

中原中也だけでなく、吉田一穂(いっすい)、大岡昇平ら様々な文学者との交遊もつづられる。「僕は中原に言われて仏文科に進んだようなもので、詩人の友人も多い。これまでは音楽は音楽の中だけで語りたいと思っていたので、文学には深入りしないようにしてきた。でも言葉に近づきたいという思いもどこかにあり、今回は素直に従ってみた」。詩という言葉を通じて、歌曲の「心」に迫っている。

「音楽に姿を現してもらうためには、こちらも裸にならないといけない」と考え、私的な体験も数多く盛り込んだ。例えば「メリー・ウイドゥのワルツ」という章。若いころに仲間と作った『青春の歌曲集』という本を見つけ、高校時代における年上の女性との淡い恋を思い出す。「フィクションかもしれないので、事実かどうかの判断は読者にお任せします」と笑う。

二〇〇三年に妻を亡くして、しばらく書けない時期もあったが、九十四歳の今は完全復活。「夜」で始まった本書のシリーズは、「薄明」「昼」「黄昏(たそがれ)」と全四冊になる予定だ。暗闇から始まった執筆活動には朝の光が差し込んでいる。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

禁じられた歌―朝鮮半島音楽百年史 (中公新書ラクレ (269))
禁じられた歌―朝鮮半島音楽百年史 (中公新書ラクレ (269))田 月仙

中央公論新社 2008-02
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おすすめ平均 star
star音楽を通じた半島史

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朝鮮半島には約百年の間、歌うことを禁じられた多くのメロディーがある。日本統治下では民族意識を高揚させる歌、南北分断後には親北的と見なされた歌など。声楽家で在日朝鮮人の著者はそれらを発掘し、歌い継ぐ活動を続けてきた。その軌跡を振り返り、半島の埋もれた音楽史に光をあてる。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

大相撲の経済学
中島 隆信 (著)

力士の報酬は、完全な能力給ではなく年功賃金的要素も加味されている。著者はこうしたシステムにも合理性はあるという。本書では年寄株や部屋の役割、チケット販売制度など、大相撲の仕組みを経済学的見地から分析した。不祥事に言及した章を文庫版に加え、相撲文化の継承のための提言も盛り込んだ。

■2008/03/23, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス 1074)
東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム (NHKブックス 1074)東 浩紀 北田 暁大

日本放送出版協会 2007-01
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おすすめ平均 star
star人間工学をめぐる世代論
star日和見ではなく問題意識を
starそこそこの情報量があって面白いですが、、、

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郊外の社会学―現代を生きる形 (ちくま新書 649)
郊外の社会学―現代を生きる形 (ちくま新書 649)若林 幹夫

筑摩書房 2007-03
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おすすめ平均 star
star建築様式を超えたポストモダニズム
star比較分析を!

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新・都市論TOKYO (集英社新書 426B) (集英社新書 426B)
新・都市論TOKYO (集英社新書 426B) (集英社新書 426B)隈 研吾 清野 由美

集英社 2008-01-17
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おすすめ平均 star
starシャープに、アイロニカルに、東京論
star都市開発の謎と課題に迫る一冊
star東京の現在、未来を語る興味深い本

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アジアの都市間競争―東京は生き残れるか
アジアの都市間競争―東京は生き残れるか小森 正彦

日本評論社 2008-01
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東京はいま史上何度目かにあたる大きな変化の中にある。都心部には新顔の複合再開発ビルが毎年のように生まれ、郊外には巨大なショッピングセンター(SC)が続々開業。一方で昔ながらの街並みや路地、商店街が消えていく。この変化をどうみるか。さまざまな世代の論客による問題提起が始まった。

郊外に広がる「画一的な」住宅地や「没個性的な」幹線道路沿いの看板は都市の病理。そんな見方が一九九〇年代半ばから広まった。少年犯罪と郊外のありようを指摘する議論が相次いだことも背景にある。「職住遊の近接」をうたう都心マンションの人気もこうした「郊外=不毛の地」論が潜在的な原動力になったことは否定できない。

●郊外否定論に異論

そんな「都心礼賛・郊外否定論」への異論が最近、目立つ。「二十一世紀の街に『個性』は本当に必要か」。東浩紀氏は同じ七一年生まれ、東京郊外育ちの北田暁大氏との対談『東京から考える』(NHK出版、二〇〇七年)で疑問を投げかける。買い物も会話もネットで可能となった今、人やモノと出会い、交流する機会を提供してくれる場としての街は役割を終えたという立場だ。

北田氏は自らの幼少期の体験から「ニュータウンが均質な空間で子どもを窒息させる場であるという言説には違和感を覚える」とし、東氏も「裂け目がないがゆえに快適」であり「うまく作られている」と擁護する。

都心再開発も、二人にとっては巨大な郊外型SCと同類だ。批判ではない。監視カメラが囲む安全、清潔な「ジャスコ的(=巨大SC的)」人工空間があらゆる場所を覆うのは自然な流れとみるからだ。郊外育ちの感受性が読み取れる。

やはりニュータウン的郊外を肯定したのが若林幹夫著『郊外の社会学』(ちくま新書、二〇〇七年)。論拠は二つ。一つは、われわれにはもともと匿名で無臭の存在になりたい気持ちがあること。この願望を無視してコミュニティー再生や地縁復活を掲げても、実効性はない。

ただし、東氏や北田氏より九歳年長の若林氏は、浮草的な場であった郊外も、住む人々が愛着を持ち、長く暮らすことで「歴史、風土、伝統に根ざさない『底の浅さ』や『薄っぺらさ』もまた固有の条件として織り込みながら」街としての厚みを持ちつつあることに可能性を見いだす。生産から切り離され、消費に特化した場が郊外。各戸が華やかさを競うクリスマスの電飾やバザーの出品物の多様さが示すように、「地域の個性」ではなく「地域の住民の個性」がカギになるとみる。

都心の再開発はどうみるべきか。印象の似たもっともらしく没個性的なビルに、郊外SCでなじみのファッションや飲食の店。いまの複合開発が「都心文化の創造」ではなく「都心の郊外化」だ、と批判される理由だ。

●町田がおもしろい

隈研吾、清野由美の共著『新・都市論TOKYO』(集英社新書、二〇〇八年)は一九五四年生まれの隈氏が汐留、丸の内、六本木ヒルズなどを歩き、倦(う)んだ後、郊外の「町田」を「東京という都市の中で一番面白い街」だと興奮するくだりが示唆に富む。大型店、古い商店街、闇市跡の混在に加え、ラブホテルと結婚式場とマンションと売春街跡が駅の近所に並ぶ。「六本木ヒルズのような『優等生的』面白さではなく、二〇世紀的手法の限界を露呈している面白さ」を発見したのだ。

ニュータウンから都心再開発まで、「優等生」が幅を効かせる東京は真の国際競争力を持つのか。小森正彦著『アジアの都市間競争』(日本評論社、二〇〇八年)は東京が香港、シンガポール、上海などアジアの華人都市による追い上げを受ける現状を指摘し、多様な人間、文化を受け入れ、共存する「トレランス(寛容さ)」がコンテンツ産業や生活文化産業の振興には不可欠だと提言する。

隈氏と対談した清野氏は「東京全体を超高層化しても、もう北京には勝てない」とし、東京は「ひ弱さ、繊細さ」で勝負を、という。「リスク管理最優先の再開発が続く東京は、実はもっとも有効なリスク管理を根本のところで見逃しているのではないか」との指摘にはうなずかされる。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

知っておきたい日本史の名場面事典
知っておきたい日本史の名場面事典大隅 和雄

吉川弘文館 2008-02
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好太王碑文から東京オリンピックまで日本史の名場面七十八を選び出し解説した『知っておきたい日本史の名場面事典』(吉川弘文館)が刊行された。選ばれた場面は壬申の乱、壇浦の戦いといった合戦から、芭蕉のおくのほそ道への旅立ちなど文化史の場面まで幅広く、親しみやすい物語的な歴史を図版や資料、解説とともに知ることができる。執筆者は中世史の大隅和雄氏ら六人。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

走ることについて語るときに僕の語ること
走ることについて語るときに僕の語ること村上 春樹

文藝春秋 2007-10-12
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おすすめ平均 star
star身体の言葉を聴く、村上氏の創作の源泉
starムラハル教の書
star小説のようなエッセイ

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ヨム マラソン 42.195kmの脳内活劇
ヨム マラソン 42.195kmの脳内活劇吉田 誠一

講談社 2008-02-08
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おすすめ平均 star
star市民ランナーのフルマラソン記

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東京マラソンの舞台裏―東京を3万人が走るまで
東京マラソンの舞台裏―東京を3万人が走るまで川端 康生

エイ出版社 2008-02
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おすすめ平均 star
star年に一度の舞台裏
star主に「東京マラソン」の立ち上げにかかわった方々の、

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東京マラソン (ベースボール・マガジン社新書 (008))
東京マラソン (ベースボール・マガジン社新書 (008))遠藤 雅彦

ベースボール・マガジン社 2008-01
売り上げランキング : 9706

おすすめ平均 star
star成功例に学ぶ謙虚な姿勢
starストレートに感じたスポーツイベントの素晴らしさ。
star「ありがとう!」、が溢れた都心の祭り。~みんな人間の顔をしていた~

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先週、北京五輪のマラソン出場選手が決定、人気の高橋尚子選手が外れて話題になった。二月の第二回東京マラソンには昨年より五十万人多い約二百二十六万人が沿道に詰めかけた。一九七〇年代以来のランニングブームといわれる中、マラソンの魅力を語った本が相次いでいる。

村上春樹著『走ることについて語るときに僕の語ること』(文芸春秋)は八三年からマラソンを走り続けてきた著者の回想記。自分自身を初めて正面から語ったことでも注目された。最初に走ったマラソンゆかりの地、ギリシャでは「達成感なんてものはどこにもない」と吐露。ところが、二十数年間、毎年走る中で「でも走り終えて少し経つと、(中略)『次はもっとうまく走るぞ』と決意を固めている」と心境が変わっていく。

興味深いのは「真に不健康なものを扱うためには、人はできるだけ健康でなくてはならない」との主張。文学=不健全といった通念を覆して、マラソンで培った肉体が小説の創作行為を支えている、と打ち明けるくだりだ。この禁欲的な姿勢は、現在のマラソンブームをけん引する中高年男性の心理を代弁している。

本紙運動部の記者が書いた『ヨムマラソン』(吉田誠一著、講談社)も四十五歳の著者が求道者のように、記録短縮にのめり込んでいく体験記。ベルリンマラソンを完走した一週間後、スコットランドで別のレースに出場。日ごろの練習や体調管理、当日のスタートからゴールまでを延々と再現し、読者にマラソンを追体験させる。

市民ランナーの拡大に一役買ったのが、昨年から始まった東京マラソンだ。川端康生著『東京マラソンの舞台裏』(エイ出版社)と遠藤雅彦著『東京マラソン』(ベースボール・マガジン社新書)はいずれも主催者側からレースの魅力を語った。「見る」競技から、誰でも参加できる競技へのイメージ転換を果たした功績は大きいだろう。

『ヨムマラソン』の編集を担当した講談社の伊藤亮氏は「これまでのマラソン本はハウツーものや有名ランナーの体験記が中心だったが、市民ランナーが共感できる本をつくりたかった」と語る。球技などに比べて情景描写や劇的な展開が難しいため、スポーツノンフィクションの分野では目立たなかったマラソンだが、今後はにぎわっていく可能性もある。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

日本の中小企業―CRDデータにみる経営と財務の実像
日本の中小企業―CRDデータにみる経営と財務の実像鹿野 嘉昭

東洋経済新報社 2008-02
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一九九〇年代から二〇〇〇年代初頭にかけての深刻な金融危機のさなか、中小企業は「貸し渋り」や「貸し剥(は)がし」(金融機関からの融資の突然の打ち切り)に直面した。金融機関が融資先の選別を強めるなか、中小企業の経営や財務に関し、信頼に足るデータの蓄積がなかったことが原因だった。

そうした反省と教訓に基づき設立されたのが、有限責任中間法人、CRD協会である。本書は協会が保有する中小企業信用リスク情報データベース(CRD)の情報、約五十六万社分をフル活用して、中小企業の経営と財務の実態に迫った。

規模の大きい企業のほうが比較的良好な業績をおさめていること、経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)さの背景には人件費を中心に割高な経費構造が存在することなどが、データ分析から導き出されるという。出てきた結論自体にさほど驚きはないものの、豊富なデータの裏付けを背景に、これまではあくまでも推論どまりだった数多くの仮説が、事実として確認されていく意義は小さくないといえよう。

また、中小企業の抱える課題や問題点を洗い出すだけでは終わらせず、今後の処方せんや必要な取り組みについて具体的に言及しているのも本書の大きな特徴になっている。中小企業研究の新たな地平を切り開く一冊として評価したい。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

全集 日本の歴史 2 日本の原像
全集 日本の歴史 2 日本の原像平川 南

小学館 2008-01-26
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おすすめ平均 star
star歴史好きの虚を突く好著・・・期待に応える新シリーズに期待
star日本列島をありのままに見つめる

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文字は日々の生活と切っても切れない関係にある。だから、その変遷、来歴をたどることによって古代以来の歴史が垣間見える。本書は、漆紙文書の研究で名をなした著者が、「日本の歴史」第二巻として文字とのかかわりから日本古代史を読み解いた。

主に用いたのは文献ではなく鉄刀、墨書土器、木簡などの出土文字資料である。様々な遺跡から出土した断片のような資料をつなぎ合わせ、得た知見を少しずつ積み重ね歴史の断層を見いだそうとした。

二〇〇四年に中国・西安で見つかった遣唐使の墓誌によって中国は八世紀前半、「日本」という国号を正式に認めていたと分かる。著者はまた、「天皇」号を道教思想や則天武后時代の王号に関連し、中国の強力な影響下で創成された号であったと説く。ともに中国の承認を必要とした。

千二百年前の木簡からは、「畔越(あぜこし)」「酒流女(するめ)」などの名を持つ二十品種以上のイネが存在し、期日をずらして種まき、刈り取りをしていた事実が明らかになった。それら資料はいずれも都や地方の有力者の拠点跡の遺跡に限られる点から、稲作がいかに深く権力と結びついていたかが分かる。

「日本」「天皇」の号、稲作など国家構造の中心を占めてきたもののほかに、自然観、宗教観など多様な要素を文字という視点から見つめ直し、日本の「基層」がどのように形成されてきたかを探っている。(小学館・二、四〇〇円)

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛

ダイヤモンド社 2008-02-01
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おすすめ平均 star
star言葉がわかりにくいが独自の視点は興味深い
starこの人おもしろい
star確率論からポストモダンまで幅広い領域を網羅している

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「私事のエッセイ」と著者は断っているが、それほどくつろいで読めるものではない。しかし確かな数理的学識をもとに市場や日常生活の中の「偶然」を切り取った快著だ。正統な経済学のいう合理的行動に首をひねり、確率の嘘(うそ)、データの嘘、一見もっともな理論の嘘をいかにも楽しみながらあげつらう。

ウォール街などで活躍するトレーダーは実力で高給をはむ現代の花形職種と見られがちだが、相場や変化が当たるのは偶然に恵まれたから、と一蹴(いっしゅう)。金融工学の権威でノーベル賞受賞のR・マートンなどをこき下ろし、G・ソロスが投資家として成功しているのは確かな定見というより環境に応じて機敏に自説を変えるからと手厳しい。

確率・統計論はもちろん経済学や心理学、歴史学、進化論さらには古今の文明論など、目を配る領域が学際的で地域的にも広範なのは著者の経歴にも起因しそう。レバノンの名門家族の出身でフランス、米国の有名大学で高等教育。現在は国際的な辣腕(らつわん)トレーダー兼大学教授。この二世紀で最も影響力のある経済思想を生んだのはマーシャルやケインズ、サミュエルソン、フリードマンでなく行動経済学のカーネマンと断定する。「投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」という副題にとどまらず、米国社会の断面を心憎い筆致でスケッチしている。望月衛訳。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

感性のバケモノになりたい―十文字美信写真
感性のバケモノになりたい―十文字美信写真十文字 美信

求龍堂 2007-12
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おすすめ平均 star
star芸術
star写真、装丁、印刷ともに最高!
star衝撃の写真集!!

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広告写真の巨匠という評価では語りきれない創造性の広がりに舌を巻く。ハワイ日系1世の肖像を刻んだ「蘭の舟」、神々しい日本の滝を見つめた近作など、270点あまりで40年間の軌跡をたどる。バイクで疾走する友人の姿をとらえた20代の実験作や「暴力写真家」の異名をとったヌード表現からは、誰も撮ったことのない光景を追い求める狩人の体臭がにおい立つ。写真は「殺しの場面」(1971年)より。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

戦後日本経済史 (新潮選書)
戦後日本経済史 (新潮選書)野口 悠紀雄

新潮社 2008-01
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おすすめ平均 star
star大蔵官僚からみた戦後経済
star「自分史」と重ね合わせた「1940年体制」の歴史
star戦後からバブル崩壊までを、、、この方は元大蔵官僚

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高度経済成長を実現し、石油ショックの荒波も耐え抜いた日本経済だが、一九九〇年代のバブル崩壊以降は、その存在感は希薄になる一方。最近は「経済も一流とは言えない」と公然と語られるようにさえなってきた。その真因は何か。著者によると日本の戦後が戦時経済体制の上に築かれたことに原因があるという。最近増えてきている見方でそれ自体に斬新さはないが、著者の論に沿って読みやすく経済史が語られている。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

日本企業のコーポレートファイナンス
日本企業のコーポレートファイナンス砂川 伸幸

日本経済新聞出版社 2008-02
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おすすめ平均 star
starケーススタディ・テキスト

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以前なら「資本コスト」といわれてもピンと来ない人のほうが圧倒的だった。経営指標として資本コストを取り入れている企業など、ほぼ皆無だったからだ。しかし、M&Aブームや株主重視の経営の浸透などによって、企業もビジネスマンの意識も変わってきた。本書は先駆的な取り組みをしている企業の実例から、背後にある理論と現場がどう結びつくのかを丁寧に読み解こうとしている。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

JRはなぜ変われたか
JRはなぜ変われたか山之内 秀一郎

毎日新聞社 2008-02-16
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おすすめ平均 star
starJR東日本の自己評価が把握できます。

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小泉元首相が主導した郵政の民営化まで、政府の「改革」といえば、すなわち、中曽根内閣時代の電電公社の民営化であり、国鉄の分割民営化だった。最近当時の改革の経緯や思い出をつづった本が相次いで出版されているが、本書もそうした一冊。一九八七年の国鉄分割民営化に際して旧国鉄の常務理事からJR東日本の副社長に転じた著者が「民営化とは何だったのか」、JRの二十年間の歩みとともに振り返っている。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

オリンピック全大会 人と時代と夢の物語 (朝日選書 838) (朝日選書 838)
オリンピック全大会 人と時代と夢の物語 (朝日選書 838) (朝日選書 838)武田 薫

朝日新聞社 2008-02-08
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第一回アテネ大会は参加者の八割以上がギリシャ人、マラソンの四十二・一九五キロの原点はロンドン大会だった。うんちくだけではない。人間ドラマもある。十回大会、馬術のバロン西が「我々は勝った」と叫んだ時、当時「日本」と訳された「我々」は自分と愛馬のことだった。歴代会長もくせ者ぞろいだ。夏の全大会を丹念に跡づけた本書は、アマチュアリズムやドーピングなど現在の問題にも目配りする。北京大会を前に、オリンピックを概観する格好の一冊。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

ベストセラーだって面白い
ベストセラーだって面白い岡崎 武志

中央公論新社 2008-02
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『バカの壁』のヒットの秘密は「離乳食のように口に入れやすくしておいて、『バカ』という過激な香辛料をふりかけて大人の嗜好(しこう)に合うようにした」点にある――。古本好きの書評家がベストセラー本の批評に挑んだのが本書。ベストセラーの地域差を探った「診察室篇(へん)」や、『生協の白石さん』を『中島らもの明るい悩み相談室』と比較するなど過去の話題作と比べた「温故知新篇」が楽しい。辛口の評価の中にも本への愛情が伝わってくる。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

馬雲のアリババと中国の知恵
馬雲のアリババと中国の知恵鄭作時 漆嶋 稔

日経BP社 2008-02-06
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おすすめ平均 star
star個人的には意見が異なります。

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検索サイト「百度」が日本語サービスを始めたこともあり、日本でも次第に中国のIT企業に注目が集まっている。中でも「アリババ」は必ず名前が挙がる企業だが、一体何をする会社か、自信を持って説明できる人は少ないだろう。これは同社が企業間取引のサポートという比較的地味な分野で成功を収めてきたのに加え、中国の市場取引の仕組み自体がかなり「分かりにくい」ということも大きい。だから、創業者の馬雲氏の歩んだ道のりを辿(たど)りながらその事業を分かりやすく解説した本書は、そのまま中国の市場取引に関する入門書ともなっている。

中国の企業間取引はマルクスの言うような「命がけの飛躍」に満ちた世界だ。何しろ市場に参入してくる企業数が多く、価格競争が激しい分、安いだけの粗悪品を掴(つか)まされるリスクも高い。また手形などの決済システムが整備されていないため、サプライヤー側にも代金回収の問題が常について回る。アリババはこのような取引の「信用」「信頼」の欠如にビジネスチャンスを見いだしていった。

まず、サプライヤーがネット上で自社製品のPRを行うシステムを作り、そこにアマゾンなどでおなじみの顧客評価のシステムを取り入れた。企業の入れ替わりが激しく、「情報の非対称性」を解消するのが難しい中国に、このようなシステムはまさにうってつけだった。さらに現在では多くの商品をオンラインで直接購入できる独自の決済システムも実用化されている。「クレジット」に対する信頼性がまだまだ低い中国でどのようにしてそれを成功させたのか、それは本書を読んでのお楽しみだ。

通常、「顔の見えない」ネット取引はその分リスクも高いというイメージがある。しかし、中国ではむしろアリババのシステムを通じてお墨付きを与えられた企業の方が、下手に「顔の見える」相手よりも信用できるという状況が生まれつつあるようだ。これも同社が市場の欠陥も含めた中国の現状をつぶさに観察した上で経営戦略を練るという、「中国の知恵」に基づく行動を取ってきたからだろう。それは中国市場に何らかの形でかかわる人々にとっても有益な「知恵」となるはずだ。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

夏の名残りの薔薇 (文春文庫 お 42-2)
夏の名残りの薔薇 (文春文庫 お 42-2)恩田 陸

文藝春秋 2008-03-07
売り上げランキング : 508

おすすめ平均 star
star人の記憶、妄想と現実

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山奥のホテルで毎年パーティーを開く三姉妹は、招待客に奇妙な思い出話を始める。森の白い塊は死体だった、いとこの家は床に新聞を敷き詰め窓を新聞で覆う「新聞屋敷」だった、彼女は不意打ちで殺されたいという願いがかなった――。現実とも虚構とも知れぬ空間に読者の心をさまよわせるミステリー小説。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

イカの哲学 (集英社新書 (0430)) (集英社新書 (0430))
イカの哲学 (集英社新書 (0430)) (集英社新書 (0430))中沢 新一 波多野 一郎

集英社 2008-02-15
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おすすめ平均 star
star波多野の哲学が9条維持に繋がるのか
star音楽家たちの集まり
starエロティシズムに生と死を感じる

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特攻隊の生き残りで在野の哲学者だった波多野の同名の小著に、中沢が今日的な読みを加えた。漁港で出会う無数のイカに対し、個々の実存が無視される特攻隊員だった自身を重ね合わせる波多野。あらゆる生命は実存する。「イカになる」思考に可能性を見いだすユニークな平和論。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

セ・シ・ボン
セ・シ・ボン平 安寿子

筑摩書房 2008-01
売り上げランキング : 3120

おすすめ平均 star
starパリはやはりセ・シ・ボンなのだ
starこれ、fiction or not?

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二十七年前、会社を辞めてパリに留学した。そのとき出会った「忘れえぬ人々」の横顔をスケッチするようにつづったのが本書だ。異文化で暮らした経験を書いた本は多いが、そこは辛口のエスプリとしみじみとした哀感が同居する物語を書き継いできた作家の筆。読むほどに味わいが増す上質な短編小説の趣だ。

それにしても、なぜ四半世紀も昔の話を今? 「近い過去の出来事は自分の感情に覆われていて正しく見られないでしょ。三十年近い時間がたって初めて、パリで経験したことの意味がわかった気がしたから」

剛毅(ごうき)な「大人の女」っぷりで「私」を圧倒する下宿先の女主人、堅物だが同性愛者でもある英国出身の同居人、どこまでも空気が読めないノルウェー人のクラスメート……いきいきとした人物描写が楽しい。「私は『観察する人間』。記憶しようと努力しなくても、そのときのことをありありと覚えているんです」

わずか三カ月の滞仏で、「何も見つけられなかった」と泣いたあのころの自分。だがこの回り道が、のちに作家になる自分の原点だった。「現代はすぐに結果を求める時代。でも時間をかけて何かに到達することも大切」。早く一人前になりたいのに、カッコ悪くもがいていた二十代の自分の姿をさらけだすことで、今の若い人にエールを送りたいとの思いもある。

米作家アン・タイラーのように書きたいと一念発起し、四十六歳でデビュー。その後、普通の人々の人生の泣き笑いを描く作品を発表し、大人の読者を引きつけてきた。「デビューは遅かったけど、それまでの間に小説に書く人間の素材を集めていたのだと思う」

故郷の広島に暮らし、こつこつと書いている。「自分も年をとってきたので、次はおじいさんやおばあさんを主人公に、笑える作品が書きたいな」。

■2008/03/16, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

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