メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2008年2月17日~2月24日

儲かる音楽損する音楽―人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ? (ソニー・マガジンズ新書 1)
儲かる音楽損する音楽―人気ラーメン屋のBGMは何でジャズ? (ソニー・マガジンズ新書 1)持田 騎一郎

ソニー・マガジンズ 2008-02
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モンペ襲来! (ソニー・マガジンズ新書 2)
モンペ襲来! (ソニー・マガジンズ新書 2)吉野 秀

ソニー・マガジンズ 2008-02-15
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三択でわかる親力―子育て練習帳 (ソニー・マガジンズ新書 3)
三択でわかる親力―子育て練習帳 (ソニー・マガジンズ新書 3)親野 智可等

ソニー・マガジンズ 2008-02
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子ども脳の大人になろう (ソニー・マガジンズ新書 4)
子ども脳の大人になろう (ソニー・マガジンズ新書 4)高畑 好秀

ソニー・マガジンズ 2008-02
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125歳まで、私は生きる!―「寿命の可能性」に挑戦する理由 (ソニー・マガジンズ新書 5)
125歳まで、私は生きる!―「寿命の可能性」に挑戦する理由 (ソニー・マガジンズ新書 5)渡辺 弥栄司

ソニー・マガジンズ 2008-02
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ソニー・マガジンズはエンターテインメントやビジネスをテーマにした「ソニー・マガジンズ新書」を発刊した。初回配本は持田騎一郎著『儲かる音楽 損する音楽』(写真)、吉野秀著『モンペ襲来!』など五点。カバーを裏返して使うことができ、持ち歩きに配慮したという。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

近代日本の植民地博覧会
近代日本の植民地博覧会山路 勝彦

風響社 2008-02
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博覧会は時代を鋭敏に映す。一九七〇年の大阪万博の主題は「人類の進歩と調和」、二〇〇五年の愛知万博は「自然の叡智」だった。本書は明治から昭和初期にかけて、台湾や満州など旧植民地で開かれた博覧会を扱う。いずれも国威発揚を主眼とし、展示にも植民地統治政策が色濃くあらわれた時代。博覧会の分析を通じて、植民地住民や日本人の精神構造に迫った貴重な論考だ。

一九三三年、大連市は「満州大博覧会」を開いた。著者は、現地住民に宗主国である日本の産業の発展ぶりを見せつける一方、日本本国に対しても資源供給国としてだけでなく、独立国家としての新しい満州を印象づける、という二つの意義があったと分析する。前者の狙いで、電気機械やオートバイなどが展示され、後者では満州各地から集めた民具などが出品された。

三五年に台湾で開かれた大規模な博覧会は台湾総督府による統治の成果、日本の東南アジア進出への中継点としての役割を強調する狙いがあった。結果として日本本国からの観光客も多く盛況だったことで、交通網整備など大きな経済効果をもたらす。

現在、台湾ではこの博覧会の意義を積極的に評価する見解が相次いで発表されているという。七十年以上前に開かれた博覧会が現代の対日感情にまで影響していることに驚かされた。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

TOKAGE 特殊遊撃捜査隊
TOKAGE 特殊遊撃捜査隊今野 敏

朝日新聞社 2008-01-11
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大手都市銀行「ひので銀行」の行員三人が何者かによって誘拐された。犯人は銀行に対して十億円という巨額の身代金を要求。三日以内に支払わなければ、人質を全員殺害するという。――冒頭からいきなりハイテンションで物語が走り出す。

犯行グループは知能犯だ。警察に逆探知をされぬようインターネット電話を駆使し、身代金の振り込みには「他店券小切手」を使うよう求めるなど金融知識も豊富。銀行の内部事情にも通じているふうで、警察の捜査は後手に回る一方だ。時間だけが刻々と過ぎゆく中、果たして人質は無事解放されるのか。

前半は警察と犯行グループの間の電話交渉が物語の軸で、密室劇ふうにサスペンスを醸成していく。後半は報道協定をかいくぐって取材を進める新聞記者と警察の駆け引きが読みどころ。事件の遠因に、金融機関の貸し渋りや銀行合併などバブル崩壊後の経済の動きがあったという点が面白い。ラストにはどんでん返しも用意され、至れり尽くせりのエンターテインメントに仕上がっている。

著者は警察小説の人気作家。人物像の平板さや銀行組織についての紋切り型の理解は気になったが、そこは娯楽小説。タイトルにある

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B) (集英社新書 424B)
フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B) (集英社新書 424B)稲垣 太郎

集英社 2008-01-17
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おすすめ平均 star
starフリーペーパーの基本情報
starフリペ業界を概観できた
star日本のフリーペーパーの軌跡と展望

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無料で配布する「フリーペーパー」と呼ばれる新聞や雑誌は日本に約千二百紙誌、年間三億部近くあるという。欧州ではスウェーデンから始まった無料日刊紙「メトロ」が市民権を獲得、日本でもリクルートの「R25」などが定着しつつある。本書はそうした無料媒体の実態に迫った。

無料媒体は会報や案内など昔からあるが、著者の疑問は無料媒体が新聞などに代わるジャーナリズムの担い手になるのかという点だ。インターネットの普及や若者の活字離れで出版業界はジリ貧状態。その中で団塊ジュニアなどに浸透し始めているからだ。

テレビは初めから広告モデルだが、活字業界には購読料を重視する傾向がある。しかし無料媒体といえども、読者に情報を提供し、対価として読んでもらう時間をもらい、その時間を広告に換金していると考えれば、立派な出版業といえると指摘する。

団塊世代と団塊ジュニアを狙うのがマーケティングの基本だが、実は雑誌の担い手は独自性を求めるその間の層だったという。団塊世代はテレビで育ち、子供たちも同様。そうした層に訴えるには、無料で活字の少ない無料媒体が意外に有効というわけだ。

活字媒体はネットや携帯電話などとの時間獲得競争にさらされている。情報量を増やし、値上げをするのは逆効果の場合もある。出版関係者には一読の価値がある新書だ。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

BIRTH
BIRTH澁谷 征司

赤々舎 2008-01-01
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著者はミュージシャンの撮影などで知られる写真家。初の本格的作品集は、そうした日ごろの仕事から離れ、旅先の風景と人物の肖像で構成している。より印象に残るのは肖像だ。米国の山林で働く男たちの誇らしげな表情。車いすで音楽活動を続ける英国人ミュージシャン、ロバート・ワイアットの親しみあふれる笑顔。何でもない毎日、穏やかに過ぎる日常をいとおしく見つめる著者の目を感じる。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

CEO vs. 取締役会―株主主権時代の権力闘争の行方
CEO vs. 取締役会―株主主権時代の権力闘争の行方アラン・マレー 山崎 康司

ダイヤモンド社 2008-01-19
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ヒューレット・パッカード、保険会社のAIG、航空機メーカーのボーイングで、二〇〇五年に起きた最高経営責任者(CEO)の解任劇から本書は始まる。

米国の大企業を経営するCEOの多くは、事実上の独裁者として君臨し、破格の処遇を享受してきた。その権力構造が変わりつつある内幕と背景を活写している。

米国の大企業では、社外取締役中心の自立した取締役会がCEOを監視するというのは多分に建前だ。CEOは社外取締役に仲良しを招いて厚遇し、自ら会長を兼務することで取締役会を取り仕切る。巨大企業のCEOは「偉大な君主の地位と権力に匹敵する」との表現はあながち誇張ではない。

しかし取締役会はもはや、業績低迷や企業の私物化、不祥事などの問題を抱えるCEOに、寛容ではいられなくなったという。投資家などから訴えられる恐れが高まってきたからだ。取締役会の義務は「単なる厄介な責任というものから金銭的リスクを伴うものになった」と指摘する。

取締役を突き動かしCEOの地位を脅かす「新しいパワー・プレーヤー」の登場に、著者は注目する。年金ファンド、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、株主助言サービス、社会派アクティビスト、非政府組織(NGO)などだ。株主として、あるいは環境や社会問題などの解決を迫る運動として、大企業に注文を突きつける様々な勢力の台頭である。

今やCEOには、社会からの多様な要求にも応えられる「良き政治家の手腕と努力と行動が必要」だという。CEOをチェックする制度も強化された。この流れは、経済的繁栄をもたらす株式会社本来の役割を損ねないだろうか。かえって業績を高めるとの主張もあるが、著者は安直に結論を出さず問題提起にとどめている。

ジャーナリストらしく具体的な事例を織り交ぜて臨場感ある描写で読ませる。加えて資本と経営が分離した大企業の本質的な問題にも歴史的な視点から言及し、奥行きのある読み物になっている。グローバル化により、本書が描く地殻変動は日本の経営者にもひとごとでは済まないだろう。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ソフトパワー・コミュニケーション―フランスからみえる新しい日本
ソフトパワー・コミュニケーション―フランスからみえる新しい日本綿貫 健治

学文社 2007-12
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おすすめ平均 star
star非常に有益

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海外での多くのビジネス経験をもとにしたコミュニケーション論。類書と異なるのは、人をひきつける、いわゆるソフトパワーの活用を説いている点である。手本はフランスという。同様に文化や伝統を持ちながら、なぜ日本はフランスのように一流の外交を展開できないのか、世界的な存在感が薄いのか。著者の結論は、日本が固有のソフトパワーを大事にしつつ、それを世界に発信する力を付けることである。読者は明確なメッセージを感じ取れるであろう。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

路地の記憶
路地の記憶阿久 悠 佐藤 秀明

小学館 2008-01-31
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路地を撮り続ける写真家、佐藤の写真に、阿久悠が二十編の詞を書いた。阿久の絶筆となったそれらの詞と、佐藤の二百五十五点におよぶ写真、エッセーを収める。「痩(や)せた街灯が/痩せた光をヨワヨワ落す/痩せた娘が下にいて/シワクチャの手紙をのばしのばし/涙目で読む」(「痩せた街灯」より)。時代に取り残されたような街角の情景に、昭和を象徴する作詞家の言葉が重なって、メロディーまで聞こえてきそうだ。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ビエンナーレの現在―美術をめぐるコミュニティの可能性
ビエンナーレの現在―美術をめぐるコミュニティの可能性暮沢 剛巳 難波 祐子

青弓社 2008-01
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おすすめ平均 star
star 国際展とコミュニティ、国際展と言説

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横浜、釜山、上海、シンガポール……。「ビエンナーレ」や「トリエンナーレ」などの呼称をつけた国際美術展が世界中で増えている。権威と化したベネチア・ビエンナーレへの追随と見えつつも、地域活性化のカンフル剤の役割を担うケースも。本書では、作家がディレクターを務め独自色の際だった横浜、農村に現代美術を持ち込んだ越後妻有などの事例の検証を核に、国際美術展のあり方を問う。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

産める国フランスの子育て事情―出生率はなぜ高いのか
産める国フランスの子育て事情―出生率はなぜ高いのか牧 陽子

明石書店 2008-02
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欧州でトップクラスの出生率を誇るフランス。日本での子育てをめぐる環境に息苦しさを感じていたジャーナリストの著者が、三十四人のフランス女性へのインタビューをもとに同国の状況を伝える。著者自身がフランスで出産と子育てを経験し、「家族に優しい社会」であることを実感したという。女性も働き男性も育児・家事をするカップルの変化、子どもの自立を重視する子育て文化など、日本との違いが浮き彫りになる。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

イスラム金融―仕組みと動向
イスラム金融―仕組みと動向イスラム金融検討会

日本経済新聞出版社 2008-01
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イスラムの教義にのっとった金融取引であるイスラム金融が存在感を増している。本書はその歴史や基本的な仕組み、市場の動向、実務に従事する金融機関の活動状況などを包括的に解説する。金利が不労所得と見なされて禁止され、豚肉や酒などの禁制品にかかわる取引が認められないといった特性をどう理解し、かかわっていくか。日本の金融機関の実務者にとって、イスラム金融の概要をとらえるのに役立つだろう。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

新世界より 上
新世界より 上貴志 祐介

講談社 2008-01-24
売り上げランキング : 683

おすすめ平均 star
star評価は分かれると思いますが・・・。
star選ばれませんでした
star未完の完成形

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新世界より 下
新世界より 下貴志 祐介

講談社 2008-01-24
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おすすめ平均 star
star貴志作品の、ひとつの到達点
star先が読めないだけに怖かったです!!

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日本ホラー小説大賞を受賞した『黒い家』、日本推理作家協会賞を受賞した『硝子(がらす)のハンマー』など常に話題作を生み出してきたエンターテインメント作家。超能力に似た「呪力(じゅりょく)」を手にした千年後の人類の世界を描いた本書は、作家になって初めてSFに挑んだ作品である。

「若いころによく読んでいたのはSF小説で、最初の投稿作もSF。この作品の構想も二十年以上前からあった」と振り返る。直接のきっかけは国際年鑑でハダカデバネズミの生態を知ったこと。「哺乳類(ほにゅうるい)でありながら、(女王のもとで集団で生活する)ハチやアリのような社会構造を持っているのを知って、いつか小説に使いたいと思った」

主人公の早季ら子どもたちは学校で呪力を学んでいた。そこは一見のどかだったが、規則を破った者はいつの間にか姿を消すなど厳しく管理されていた。早季は仲間とともに出かけた先で、人類とは別の社会を作っている「バケネズミ」と出会い、悪夢のような戦いに巻き込まれていく。

「呪力とは一人ひとりが核兵器のボタンを持つようなもの。人間がこれ以上の力を持ったらどうなるかを考えてみたかった。徳が伴わなければ、力はけっして利益にならない」。SFという形を通じて、人間の業をあぶり出している。

「読者が登場人物に感情移入して、読みふけってしまうような小説」を理想とする。次はどうなるのかという楽しみが、小説を読んでもらう上での推進力になると考えている。今回も「事前に考えていた詳細な設計図を超えて人物たちが動き出した」という。

上下巻合計で千ページを超える大作だったこともあり、新著は三年ぶり。「書きたいことはたくさんあって、たまる一方。今後はもっとペースを上げたい」。今年は久しぶりにホラー作品を中心に執筆する。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書 1930)
ジャガイモの世界史―歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書 1930)伊藤 章治

中央公論新社 2008-01
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おすすめ平均 star
star仕事は楽しく
star少し国内の政治事情がうるさい
starジャガイモにまつわる興味深い歴史

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戦争、革命、飢饉(ききん)といった世界の大事件に、ジャガイモは深くかかわってきた。その歴史を振り返る。「貧者のパン」として南米で、欧州各地で、北海道で、多くの人を救ったイモ。それでいてその伝搬ルートなどにはまだ謎もあり、元新聞記者である著者がゆかりの地を歩きながら探る。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

モーツァルトの息子 史実に埋もれた愛すべき人たち (知恵の森文庫)
モーツァルトの息子   史実に埋もれた愛すべき人たち (知恵の森文庫)池内 紀

光文社 2008-02-07
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おすすめ平均 star
star歴史の裏通りに名を残す、風変わりな30の人生

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モーツァルトの六人の子供のうち、音楽家になったのは四男。子供時代は父に劣らぬ才能をうたわれたが、長じては凡庸な一作曲家として五十一年の生涯を閉じた。歴史の表に一瞬顔を見せ、姿を消した三十人の横顔を描くエッセー集。無名人たちの運命を鮮やかによみがえらせる。

■2008/02/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

江戸時代全大名家事典
江戸時代全大名家事典工藤 寛正

東京堂出版 2008-01
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東京堂出版は関ケ原の戦い以降に存在した大名四百三十四家を網羅した工藤寛正編『江戸時代 全大名家事典』を刊行した。お家騒動などで廃絶になった百四十七家も収録する。各藩の由来や発祥地、半生、複雑な入転封などの歴史を総括的にまとめた。収録した大名は三千四百八十九人にのぼり、生年月日や父母、正室などに加え、人物像も紹介した。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

親と子の百年自分史聞き取りハンドブック
親と子の百年自分史聞き取りハンドブック野村 拓 垣田 さち子

かもがわ出版 2007-11
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親と子の百年自分史聞き取りハンドブックセット(全2冊)
野村 拓 (著), 垣田 さち子 (著)

かもがわ出版(京都市)は七十―九十歳の高齢者から、子どもや介護施設の職員らが人生の歩みを聞き取って、自分史としてまとめるための手引き『親と子の百年自分史』(野村拓、垣田さち子著)を刊行した。「学徒出陣」「東京オリンピック」など、戦前から戦後までの主な出来事を時代を追って六十項目に分け、設問に沿って聞き取っていく仕組みだ。

各項目ごとに具体的な設問内容を示し、聞き手が高齢者の話を引き出しやすいように工夫した。例えば、学徒出陣の項目は「壮行会や送別会の様子はどうだったか」などを例示した。

聞き手に必要な予備知識も説明し、若い人や歴史に詳しくない人でも当時の情勢を理解しやすい。高齢者が記憶を引き出しやすいように各時代の史料や写真も豊富に収録した。

かもがわ出版では「高齢者が記憶をたどって、自分史を語っていくことで、認知症の防止などが期待できるほか、聞き手の子どもも自分の過去を見つめ直すことができる」とみている。手引きが二千二百円、聞き取った話を書き込むための聞き取りノートが六百円。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

強くて品のある敬語のレッスン―美意識のあることばを身につける
強くて品のある敬語のレッスン―美意識のあることばを身につける大嶋 利佳

アスペクト 2008-01
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大人の敬語コミュニケーション (ちくま新書 694)
大人の敬語コミュニケーション (ちくま新書 694)蒲谷 宏

筑摩書房 2007-12
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おすすめ平均 star
starこの敬語、正しいの? と思っている人へ

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すべらない敬語 (新潮新書 (245))
すべらない敬語 (新潮新書 (245))梶原 しげる

新潮社 2008-01
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おすすめ平均 star
star読んでよかった!
starすべらない程度に勉強させていただきます
star空気を読む人の話し方

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「ファミコン敬語」という言葉がある。よくやり玉に挙がる「よろしかったでしょうか」に代表されるファミレス、コンビニのマニュアル敬語だ。メールでの言葉遣いや、友人のような親子関係を見ても、コミュニケーションのフラット化が進んでいる。職場にも「タメ口」が広がる。

そんな中、敬語をとらえ直す書物が相次いで出た。ファミコン敬語には違和感を覚えるが、自分の敬語にも自信が持てない。そんな読者の疑問に答えるとともに、ブームになった「品格」を日常で実践する技術という意味でも、時宜を得た出版といえる。

大嶋利佳著『強くて品のある敬語のレッスン』(アスペクト)は、具体的な場面を想定し、敬語を解説する。たとえば、成人式で晴れ着をほめるなら「チョーかっこいい!」より、「よくお似合いですね」がふさわしいといった具合だ。本書でいう「強さ」は、「他人に流されることなく、美意識をもって品格のある生き方を選ぶ強さ」だという。

著者は「着こなし敬語」を提案する。ドレスアップ、ドレスダウンで個性を発揮しようというものだ。単に言葉を丁寧にすればいいというのではないという指摘は、各種敬語本に共通している。

蒲谷宏著『大人の敬語コミュニケーション』(ちくま新書)もそうだ。日本語学者の著者は、敬語を十一分類にまでふ分けしたうえ、行為のベクトルも踏まえて、細かく分析する。鮮やかな手法だが、最終的には敬語にとどまらず、コミュニケーション全般に踏みこまざるをえない。

たとえば、「ご苦労様」「お疲れ様」といったねぎらう言葉は丁寧にしても目上にはそぐわないから、感謝の言葉に言い換える必要がある。名前を尋ねる際、「お名前は……」で済ませるように、言わないことの効用もある。

一歩踏みこみ、梶原しげる著『すべらない敬語』(新潮新書)は、一見誰とでも「タメ口」をきくキムタクこと木村拓哉こそ敬語の達人という仮説を提示する。「上下、親疎を使い分ける話術」であり、敬語を「あえて使わない知恵」でもある。「着こなし敬語」に通じる指摘だろう。

各書は敬語の使い方を説きながら、それだけでは不十分と結論付ける。日常の場面でいかに知恵を働かせられるか。マニュアルのような“解答”ではなく、考えるヒントの提示こそ敬語本の眼目だ。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

イギリス炭鉱写真絵はがき
イギリス炭鉱写真絵はがき乾 由紀子

京都大学学術出版会 2008-02
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絵や写真を表に、あて名と私信の欄を裏に配した現在の一般的な絵はがきの形が考案されたのは、一九〇二年の英国でだった。その後の約二十年間、英国では大量の絵はがきが作られ流通する「黄金時代」を迎える。くしくもそれは、同国での石炭産業の全盛期と重なっていた。

この時期に英国で発行された炭鉱を主題とする絵はがきを取り上げ、制作や消費のあり方を詳細に検証するのが本書である。著者が収集したものを含む絵はがきの図版を豊富に掲載しており、図柄や私信の文章から、二十世紀初頭の炭鉱労働者の姿が浮かび上がってくるのが面白い。

当時の炭鉱写真を使った絵はがきには、石炭会社が宣伝のために鉱内の労働者を撮影して制作したものや、炭鉱事故の模様を写真業者が取材して作ったものなどがある。宣伝用のはがきには会社や中産階級にとっての「理想の労働者像」が投影され、事故のはがきは死亡した労働者への追悼のよすがとして機能した、と著者は指摘する。

労働者が自分の働く炭鉱の風景の絵はがきを人に送ることも多かったようだ。「きれいな絵はがきだと思いませんか。あんなに汚い所なのに」という私信からは、実際の風景とのずれを目にした労働者の困惑が伝わってくる。

従来あまり光が当てられなかった分野に挑んだ興味深い書である。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)
こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書 701)大竹 文雄

筑摩書房 2008-01
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おすすめ平均 star
starまあ豆知識としてなら
star日本での身近な経済社会現象から経済学の有用性を示した好著

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たくさんおいしいものを食べたい。でも将来太って健康を害する可能性がある。食事制限の必要が出てくるかもしれない。今を楽しむか、将来のことを考えて節制するかは二律背反である。

ならば、美食による肥満は個人の問題か。どうもそうではなさそうだ。肥満が病気を増やし、社会全体の医療費が増えると、みんなに負担が回ってくるからだ。ここで経済学の出番となる。まず、肥満になりがちな人の意思決定のあり方を調べる。次に、肥満を防ぐようなインセンティブ(意欲刺激)を与える仕組みを、どう作るのかを考える。

インセンティブをうまく設定して、社会全体が豊かになる方法を考える学問。それが経済学だ。序章の最初の三ページで全体の内容を要約するあたり、本書は実に経済的だ。

全体で六章、二十七の設問に経済学の回答を用意しているが、それぞれのテーマごとに割り当てられているのは六―七ページずつ。文章もこなれており、数分あれば読めるので、時間の面でも経済的だ。

女性の容姿による賃金格差を論じ、「容姿による差だけを解消しようとするのは冷静な議論とはいえない」と主張するなど、論争誘発的な文章も目立つ。『ヤバい経済学』など先行する類書と似た筆致だが、本書がどこまで付加価値を加えているか。多数の著者による合作の相乗効果は読者の判断に委ねられよう。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

コンパクトシティの計画とデザイン
海道 清信 (著)

「コンパクトシティー」という言葉がここ数年、にわかに注目を集めている。郊外へと拡大を続けた都市のサイズを意図的に小型化し、住宅、商業、医療機関や公共施設を徒歩や公共交通で簡単に移動できるようにする。そんなまちづくりの発想を指す。

クルマ移動を前提にした生活は高齢者に厳しい。人口減と財政難に悩む自治体も人々が集まって住めばインフラ整備のコストなどで助かる。人やモノの移動が減れば二酸化炭素(CO2)の排出も減る。シャッター街となった旧中心街を放置していいのか。少子高齢化、財政難、環境、コミュニティー再生や景観保護などいくつもの要因が重なった結果、拡散から凝縮へと都市開発の思想が大きく反転し始めたのだ。この傾向は欧米など先進国で共通する。

著者は二〇〇一年に出版した前著でコンパクトシティーという概念をいち早く紹介した。続編にあたる本書では、海外はもちろん、日本でのコンパクトシティーの先行事例も詳しく紹介する。モノクロながら写真や地図もふんだんに掲載しており、コンパクトシティーという発想がどんなまちづくりを目指すのか、専門家以外にも分かりやすい。日米欧の基本条件の違いを整理し、「日本型」コンパクトシティーとはどういうものになるかも提示した。まちづくりや住宅、商業などの関係者には得るものが多い。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

知床残された原始―水越武写真集
知床残された原始―水越武写真集水越 武

岩波書店 2008-01
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北海道・知床は日本の、というより地球の原初の自然が残る土地だ。著者は約20年前に北海道に居を移し、春夏秋冬を記録してきた。流氷が去った春、干潮の時間だけ姿を現す海藻の大草原。産卵後、河口に横たわるカラフトマスの死骸、流氷に乗るゴマフアザラシ。自然を単なる「風景」としてでなく、有機物も無機物も絡み合い、均衡する生態系としてとらえる著者の目が、ダイナミックな写真を生む。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

CODE VERSION 2.0
CODE VERSION 2.0Lawrence Lessig ローレンス・レッシグ 山形 浩生

翔泳社 2007-12-20
売り上げランキング : 1076

おすすめ平均 star
star読むに耐えない酷い訳

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インターネット技術の新潮流を表す「Web2・0」の広がりや仮想都市「セカンドライフ」の台頭など、ネットを取り巻く環境はこの数年で大きく変わった。本書は新進気鋭の米法律学者がネット社会の規制について論じ話題を呼んだ一九九九年の著作『CODE(コード)』の改訂版にあたる。バージョン2・0としたのはWeb2・0にあやかったためだ。

題名の「コード」は英語で「符号、暗号、規則」などを表す言葉だが、本書ではネット上のサイバースペース(電脳空間)を規律するものとして定義される。社会には法律、規範、市場、コードの四つの規律があり、中でもネット社会ではコードが果たす役割が大きいという。体系だった法律に対し、技術の仕様を定めたコードは変化していく。それをどう定義するかがネット社会の将来を左右する重要なカギになると指摘する。

序文で著者が断っているように本書の構成は九年前と比べ大きく変わっていない。サイバー空間のさらなる発展としてセカンドライフなどの新しい事例が紹介されているが、「ネット社会にも規律が必要だ」という著者の主張は前著から一貫している。それならなぜ改訂版をことさら大きく発表する必要があったのだろうか。

ひとつは九九年と今とではネット社会への見方が大きく変わった点が挙げられる。ネットバブルの当時は「サイバー空間は政府のコントロールが及ばない世界」というネット自由主義がまん延した。ところが、その後のバブル崩壊と米同時テロ事件の影響で、「ネット社会にも政府規制が必要」という論調が受け入れられるようになった。迷惑メールや有害サイトが社会問題化している今、その傾向はさらに加速している。

電話のように本人を特定したり、位置情報や交信内容を確認できないインターネットへの技術的な反省もある。NTTが始めた次世代ネットワーク(NGN)の取り組みも、ネット社会の規律をどう担保するかという疑問から始まった。その意味では著者の主張は今こそ吟味し直す価値がある。改訂版の発売は格好の機会を与えてくれたものだといえよう。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ヒトラーとは何者だったのか?―厳選220冊から読み解く (学研M文庫 あ 16-1)
ヒトラーとは何者だったのか?―厳選220冊から読み解く (学研M文庫 あ 16-1)阿部 良男

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ナチスに関連する書籍の収集と分類をライフワークとする著者が二百二十冊を選び出し、解説する。文献目録であると同時に、ヒトラーの全体像を考える読み物ともなっている。全否定して思考停止するのでなく、その問題性を見すえる必要があるというのが著者の問題意識だ。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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日本人は寺に行くとなぜ庭ばかり見ているのか。謎解きを始めると、縄文のストーンサークルに始まる日本の庭文化史を縦断する思考の旅となった。庭は神が降り立つハレの出入り口であり、白砂は清浄の象徴という。枯(かれ)山水が禅とは関係のない平安期の寝殿造りの系譜にあるなど目を見開かされる記述に満ちている。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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ジャズの巨人たちスタッズ・ターケル 諸岡 敏行

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『よい戦争』でピューリツァー賞を受賞したジャーナリストの最初の単行本の邦訳。ジョー・オリヴァーから、ジョン・コルトレーンに至る十三人の評伝をコンパクトにまとめた。貧困の中音楽に生きるすべを見いだした少女時代のビリー・ホリデイ、破滅型の人生を送った「バード」ことチャーリー・パーカーなど、よく知られたエピソードもあるが、本書を特徴づけているのは対象へのあたたかなまなざしと、音楽が聞こえてくるような文章のリズムだ。諸岡敏行訳。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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ニートピア2010中原 昌也

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■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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経済的な地盤沈下が指摘される関西だが、歴史と伝統に根ざした文化に目を向けると、東京にはない地力と奥深さがある。そんな関西文化の今を第一線の記者たちが追った。上方落語や関西歌舞伎、文楽、舞などの伝統芸能をめぐる最新の動きや、宝塚歌劇をはじめとする大正・昭和戦前期に花開いた「大大阪」文化、京都・奈良の伝統文化などに光を当てる。日本経済新聞夕刊関西版に長期連載した企画記事をまとめた。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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十月に社名を「パナソニック」に変更する松下電器産業。二〇〇〇年からの六年間、当時の中村邦夫社長(現会長)が推し進めた経営改革の内容を詳細に分析する。雇用、事業構造、家電営業、管理会計、IT(情報技術)、テレビ事業などの分野ごとに、中村氏をはじめ同社幹部へのインタビューや各種データをもとに検証する。一橋大学が〇四年に設置した日本企業研究センターのスタッフによる研究プロジェクトの成果をまとめた。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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グローバル化と環境破壊という二つの大問題に直面した状況で日本は今後どのような道を進むべきなのか。六十代から八十代までの七人の論客が「目指すべき国のかたち」を語る。顔ぶれは編著者二人のほか石原信雄、尾崎護、安斎隆、岡本行夫、佐藤幸治の各氏。テーマは政治と経済、行政改革、道州制、地方自治体の財政力格差、金融、国際社会の中の日本、憲法改正と多岐にわたる。現状に対する執筆者の危機感が伝わる。

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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現代詩の旗手が初の短編小説集を発表した。「詩と小説の違いは何かと随分考えて、当たり前のようだけれど言葉の容量の違いに思い当たった」。言葉を削り、ときには沈黙で宇宙をとらえる詩に対し、言葉を尽くして事物の関係性や時間をつむぐ小説。その「容量」を生かし「人間関係を描くこと」に挑んだ。

恋人だが性的に合わない男と女。嫁ぎ先の家族になじめない身重の妻。引きこもりの姉と、そんな姉に依存する妹。「自分の全く知らない人物を出現させて、彼や彼女の背中にできるだけぴったり寄り添い、後ろから起こる出来事を見ていくように書いた」

ユニークなのは、人のドラマを語る文章の中に、ふいに人間以外の生き物や物の視線、時間が飛び込む描写だ。金魚やサル、クラゲ、あるいは石。人の生活のすぐ隣に、それらの営みもあることが、どうしても無視できないという。

「人間が知覚できる世界はほんの一部に過ぎない。私たちが見ているかどうかに関係なく、それぞれの存在に時間は流れている。そうした人間以外の存在に埋まっている人間の悲喜こもごもを描くことで、見えてくるリアリティーがあると思う」。これまでは詩で表してきた感覚。「小説でももう少し考えてみたい」

幼稚園の絵日記以来、言葉に触れる喜びを覚えた。「言葉で何かを書きたい、ではなく言葉そのものを書きたいという欲求」に、必然的に詩の世界へと導かれた。小説の分野に踏み込むことも、詩を書くために必要と考えている。

「日本の詩は韻文ではない。にもかかわらず散文と区別されている。形式が違わないなら何が違うのか。常に散文とせめぎ合い続ける運命にある」。小説を書いてより深く詩を考え、詩を書くことで小説を考える。「相互関係の中で見えてくる世界に触っていたい」

■2008/02/17, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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