メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年8月5日~8月12日

アレクサンドリア四重奏 1 ジュスティーヌ
アレクサンドリア四重奏 1 ジュスティーヌロレンス・ダレル 高松 雄一

河出書房新社 2007-03-17
売り上げランキング : 1533

おすすめ平均 star
star旧訳の方が今回の新訳よりも清新な息吹をもっていた
star幻想の場所で

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アレクサンドリア四重奏 2 バルタザール
アレクサンドリア四重奏 2 バルタザールロレンス・ダレル 高松 雄一

河出書房新社 2007-05-20
売り上げランキング : 1812


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アレクサンドリア四重奏 3 マウントオリーブ
アレクサンドリア四重奏 3 マウントオリーブロレンス・ダレル 高松 雄一

河出書房新社 2007-06-20
売り上げランキング : 33588


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アレクサンドリア四重奏 4 クレア
アレクサンドリア四重奏 4 クレアロレンス・ダレル 高松 雄一

河出書房新社 2007-07-20
売り上げランキング : 9412


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外国文学の新訳ブームは盛り上がる一方だ。作家、村上春樹氏の手によるサリンジャーの翻訳によって火がつき、亀山郁夫氏の『カラマーゾフの兄弟』もベストセラーになった。いずれも現代風の清新な翻訳で、若い読者を引きつけているという。だがこれらの訳文の口当たりのよさに接していると、これはどこまで原著の雰囲気を写しとっているのかと、ふと考えてしまう。

そんな折、河出書房新社から刊行が続いていたロレンス・ダレル(一九一二―九〇)の『アレクサンドリア四重奏』全四巻が完結した。ダレルは英国現代文学の巨匠。幻想的な都市アレクサンドリアを舞台にした恋と陰謀の物語で、訳書にして千四百ページ近い大作だ。三島由紀夫ら多くの作家を魅了した現代小説の金字塔の一つである。

この小説の翻訳は六〇年代に刊行されており、今回は復刊。旧訳の訳者である高松雄一氏が自ら全面改稿し、新しい訳文でよみがえった。こういうと流行に乗った企画のようだが、そうではない。

「徹底して原著に即した翻訳を目指した」と高松氏。旧訳は編集者の意向で、原文にない個所に改行を施すなど読者の読みやすさに配慮したものだった。だが今回は段落を原文通りに割り振り、何ページも改行がないまま文章が続くところも少なくない。

長い段落の中で会話や引用文が複雑に絡み合い、文意を取るのが難しいくだりもある。だが高松氏は「この小説が持つ暗い情念を表すという点では、旧訳より原著の雰囲気に近づいた」と語る。

ダレルの原文は詩的かつ奔放な美文で、いきおい翻訳も硬質になる。「テンペラ画の長い連続。レモン油に濾(こ)されてきた光。赤煉瓦(れんが)の粉をいっぱいに含んだ大気――あまく香る赤煉瓦の粉と、水で渇きを癒(いや)した熱い舗道の匂(にお)い」(第一巻「ジュスティーヌ」)。都市の描写は官能的で、辛抱強く読み進める読者は、陰影に富んだ言葉のアラベスクに陶然とすることだろう。

「時とともに翻訳が古びるのは事実」と高松氏は言う。古びたと感じたとき、翻訳者はどう作品に向き合えばいいのだろう。読みやすさばかりが喧伝(けんでん)される新訳ブームには、本質を見失う危うさも覚える。文学作品を読む楽しみは性急に物語を追うことだけではない。どこまでも手ごわいダレルの文章を読みながら、そんなことを思った。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)
職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)岸 宣仁

朝日新聞社出版局 2007-07-13
売り上げランキング : 1432

おすすめ平均 star
star新自由主義がもたらした、負の遺産を具体的に書かれている

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何かがおかしい。サラリーマンの多くがこんな思いを抱いているのではないか。生活は豊かになったのに心は満たされない。家族ともっと触れあいたいのに時間がない。出世したいと頑張っているわけでもないのに、同僚と傷つけ合っている。なぜなのか。

本書は副題に「働きすぎの時代の悲劇」とあるように、グローバル化とIT化が進む職場で今、何が起きているかを明らかにし、背景に迫る。経済ジャーナリストの筆になるだけに、豊富な現場取材が説得力を増している。

「営業所長はなぜ自殺したのか」。冒頭の事例は、不条理な職場の実態を語る。優秀で部下にも人望があった営業所長を追いつめたのは執拗(しつよう)に繰り返された支店幹部のいじめだった。

夫を過労死で失った妻の訴えに耳を貸さなかった大手企業の幹部は、労基署に摘発されそうになった途端に「奥さん、一億円だす」と和解をもちかけた。“偽装請負”の長時間労働のために息子が自殺したある母親は、「息子を守ってくれるものは何もなかった」と訴える。

バブル崩壊後の不況で、企業はなりふりかまわず業績回復をめざした。そのひずみが職場の荒廃として表れているとしたら……。うるおいのある職場を取り戻すために企業、個人、労組が地道な努力を始めなければならないという著者の主張に耳を傾けたい。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

中国株式市場の真実―政府・金融機関・上場企業による闇の構造
中国株式市場の真実―政府・金融機関・上場企業による闇の構造張 志雄 高田 勝巳

ダイヤモンド社 2007-06-29
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中国が経営困難に陥った国営企業の救済を主目的として株式市場を設けたのは一九九〇年、天安門事件の翌年のこと。実はまだ十七年の歴史しかない。そのうえ人民元の資本取引が自由化されていないせいもあって、市場の構造や内幕、実態は外国の投資家らには十分に知られていない。いまでも「公営賭博場」と揶揄(やゆ)されることがある。

一方で上海総合株価指数はこの二年余りの間に四・五倍以上に跳ね上がっている。なぜなのか。海外のマネーの動きから遮断されたこの市場で一体何が起こっているのか。本書はそういった疑問に答えようと試みている。

著者はこの市場を観察し続けてきた中国名うての証券ジャーナリストと日本人の投資コンサルタント。中国の株式市場で横行するインサイダー取引や仕手戦、粉飾決算、横領、汚職などのスキャンダルを、具体例を挙げ紹介している。暗躍する上場企業や株成り金の実態も面白く読める。

今年二月末の世界同時株安は上海発だとする向きがある。中国と海外株式市場の間にマネー面のつながりは乏しいが、心理面でつながりがあったせいだろう。ただその後は、双方の動きにほとんど連動性が見られない。脱稿時期の事情もあって本書がそのあたりの分析にまで及んでいないのは残念だが、株式市場を通じて中国という国を見せている本ではある。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)
バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)ジョン・バンヴィル 佐藤 亜紀 岡崎 淳子

早川書房 2007-07
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アイルランドは欧州の西端に位置する小国だが、ジョイスやベケットら二十世紀を代表する作家を輩出した文学大国だ。本書の著者バンヴィルは、国際的に知られる文学賞であるブッカー賞を受賞したアイルランド人作家。先人の衣鉢を継ぐかのような、重厚で立体的な小説を構築してみせた。

前半は、バーチウッドと呼ばれる美しい屋敷に暮らすゴドキン家の物語が語られる。酷薄な父と心を病んだ母、呪詛(じゅそ)を吐き散らす祖母らと暮らす少年ガブリエル。この家族のもとに叔母とその息子がやってくることで屋敷にはいよいよ不穏な気配が漂いだす。

なぜこの家族はのろわれたようにいさかいを繰り返すのか。著者はその理由を一切伏せたまま、いささか唐突に、ガブリエルが「生き別れた双子の妹」を探す旅に出るという第二の物語を語り始める。サーカスの一座とともにアイルランド各地を巡るガブリエル。その旅の果てに明らかにされるゴドキン家のおぞましい過去に戦慄(せんりつ)を覚えながらも読者は暗い宿命から逃れられない人間の悲しみに心を強く揺さぶられることだろう。

訳者の解説にあるように「べたな感動を期待なさる方にこの本は不向き」かもしれないが、歯ごたえのある小説を求める読者にはぜひおすすめしたい。陰鬱(いんうつ)な物語を端正な日本語に移した翻訳も見事。佐藤亜紀、岡崎淳子訳。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

昭和の肖像―齋藤康一写真集
昭和の肖像―齋藤康一写真集齋藤 康一

玉川大学出版部 2007-07
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45年にわたり人物写真を撮り続けてきた著者が、過去の作品から「昭和」を代表する100人を選んだ。森繁久彌、杉村春子、久世光彦、石井ふく子、藤子不二雄、江崎玲於奈、松下幸之助、青島幸男、司馬遼太郎、吉行淳之介――。昭和という時代が彼らを作った。同時に彼らこそ昭和という時代のにおいを作り出した主役だった。被写体の圧倒的な存在感にひきこまれる。写真は棟方志功。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

政界大変動―自民VS民主体制が日本を不幸にする
政界大変動―自民VS民主体制が日本を不幸にする篠原 文也

PHP研究所 2007-07
売り上げランキング : 9908

おすすめ平均 star
starタイムリーな一冊

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長年にわたり永田町の動きを取材してきた著者は、自民党を耐用年数切れの政党と断じ、政策がばらばらの民主党にも不満を隠さない。日本に二大政党制を根づかせるには、政界再編は避けて通れないという見立てである。小泉純一郎前首相や牛尾治朗ウシオ電機会長ら、幅広い取材先から得た秘話も紹介されている。政治家の質を高めるために、候補者公募だけではなく、英国のような予備選を導入するよう提言している。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ベンチャーキャピタリストの実務 決定版
ベンチャーキャピタリストの実務 決定版長谷川 博和

東洋経済新報社 2007-06
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おすすめ平均 star
star現場の“汗”と“知恵”の結晶・・・ベンチャー経営者もぜひ読むべし!
star日本代表の本格テキスト

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日本でグーグルのような革新的企業が生まれないのは、起業家を育てるリスクマネーの層が薄いからだといわれる。ベンチャー企業投資に精通する著者はその原因を低い運用成果に求め、成果を上げる方法を分析していく。他の実務家にも取材して豊富な事例を集めた。起業家を見守るのは組織ではなく、我慢強く相談に乗る力を備えた人間であるという意識を貫いている。専門的、かつ良い意味でマニュアル臭の薄い実務書。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

解説FTA・EPA交渉
解説FTA・EPA交渉外務省経済局EPA交渉チーム 渡邊頼純

日本経済評論社 2007-05-29
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おすすめ平均 star
star実務家・学生の必読書
star全面了解EPA/FTA的必要工具
starこの一冊でFTA・EPAについて全般的に把握できる!!!現場再現

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日本はシンガポールやメキシコなどと自由貿易協定(FTA)を軸とした経済連携協定(EPA)を結んでいる。だがこれらの国々への輸出に、FTAはまだ意外なほど利用されていない。EPAごとに異なる制度のわかりにくさが一因だ。本書はこうした問題意識から、実際に交渉に携わった外務省職員や民間企業からの出向者、弁護士らが執筆した解説書。所々に挟み込んであるコラムから、交渉現場の苦労も伝わってくる。渡邊頼純監修。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

古典いろは随想
尾崎 左永子 (著)

歌人である著者が日本の古典文学をテーマに書いたエッセー集。珍しい枕詞の話、紫式部の名の由来、連歌と連句の違いなど、様々な切り口で古典文学の魅力を語る。該博な知識に裏付けられた解釈は読み応えたっぷり。「見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮」という藤原定家の有名な歌がいかに技巧的な作品かを説いたくだりなど、なるほどとうならされる。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

今井信子 憧れ ヴィオラとともに
今井信子 憧れ ヴィオラとともに今井 信子

春秋社 2007-05-15
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おすすめ平均 star
star第一人者ならではの圧倒的な迫力
starヴィオラの魅力を伝えるということ

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半世紀前の日本では、ビオラは華やかなバイオリンの陰に隠れ、ソリストの一人もいない地味な存在だった。その雄弁で深みのある音色に夢中になり、世界的な奏者になったビオリストが自ら半生をつづった。名奏者を訪ねてはおぼつかない英語で弟子入りを頼む。ステップアップのために、安定収入のある音大教師もやめてしまう。その強さが指揮者のジュリーニら様々な音楽家との出会いを呼んだ。「ヴィオラと恋に落ちる」という言葉に、切なる思いがにじむ。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

勝手に生きろ! (河出文庫 フ 3-5)
勝手に生きろ! (河出文庫 フ 3-5)チャールズ・ブコウスキー 都甲 幸治

河出書房新社 2007-07
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チナスキーは酒に浸り、各地を放浪しながら職を渡り歩く男。気まぐれに仕事を辞め、飲んだくれては騒動を起こし、女たちと気ままな関係を結ぶ生活が続く。どこまでも自堕落な人間を描きつつも、その筆致は奇妙に明るい。脱力するようなユーモアがあふれる自伝的小説。都甲幸治訳。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ロック・フェスティバル (新潮新書 (222))
ロック・フェスティバル (新潮新書 (222))西田 浩

新潮社 2007-07
売り上げランキング : 22197

おすすめ平均 star
star確実にロック・フェスティバルに行きたくなる

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夏の風物詩となったロックフェスだが、先駆けとなった十年前の第一回フジ・ロックは台風の直撃を受け混乱の中でスタートした。本書はその第一回フジからほぼすべてのフェスを取材してきた著者のフェス文化論。出演者などの証言を交えながらフェスがロック文化のすそ野を広げた功績を説く。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

草の根の軍国主義
草の根の軍国主義佐藤 忠男

平凡社 2007-07
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「戦後すぐからずっと考え、自分なりに勉強してきたことのすべてを注いで執筆した」と語る通り、切れば血が出るほどの熱い思いが詰まった本だ。多くの人に読んでもらおうと「です・ます」調の語りかける文体でつづっているが、太平洋戦争下の軍国主義を個人的記憶をからめて考察する硬派の内容。映画評論家・大衆文化研究家としての視点も取り入れ、独自の思考を展開している。

一見奇妙なタイトルは、当時の軍国主義が一方的に押しつけられたものではなく、国民が草の根的に支持していたという意味だ。「軍部の抑圧で息詰まる雰囲気だったというのは少し違う。あのころは『鬼畜米英』に打ち勝つという目標に向かって、社会が和気あいあいとすらしていた」

敗戦を迎えたのは十四歳の時。それまでの軍国主義がすぐさま平和主義に反転したことへの違和感が今も残る。「戦争を始めることも、終えることも、本気で考えていたのだろうか」。あいまいな「気分」がその時どきの判断を左右してしまう国民性、そして「途方もないほどの従順さ」が軍国主義を押し広げていったという指摘は重い。

理屈では説明しきれない戦時下の社会の空気を、映画をもとに分析する後半はますます筆がさえる。真珠湾攻撃を松の廊下の刃傷事件に重ねる「忠臣蔵史観」はこの著者の真骨頂だろう。「意地悪な相手に一太刀浴びせたという気分が明らかに国民の間にあった」

映画評論家としての仕事のかたわら、アジア映画を日本の観客に橋渡しする活動に情熱を注いできた。その根底には、軍国少年が映画青年へと“転向”したときの思いが生きている。「かつての日本人がアジアをばかにしたことが大きな誤りだった。欧米以外の国の多様で優れた映画を見れば、私たちは世界を偏りなく見ることを学べるはずだ」。

■2007/08/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

女王陛下の影法師
女王陛下の影法師君塚 直隆

筑摩書房 2007-07
売り上げランキング : 4310


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今春公開された映画「クィーン」はダイアナ妃の事故死で苦悩する英国女王エリザベス二世の姿を描いた。女王は当初声明を出さず、国民の怒りを買うが、BBC(英国放送協会)でのスピーチなどで危機は収まった。実はその黒子役が映画には登場しない女王秘書官のフェローズだった。本書は英国王室を側面から支えてきた歴代君主らの秘書官にスポットを当てた。

女王はもともとダイアナ妃を快く思っていなかったこともあって、葬儀は当初、質素に執り行われる予定だった。これに対し、ブレア首相が反発。映画では両者の確執が描かれるが、裏でフェローズらによる「オーバーロード(大君主)作戦」がひそかに進行していた。故人への花束がうずたかく積まれたバッキンガム宮殿の正門に女王が姿をあらわし、少女から花を受け取って英国民を感動させたのは「演出」だったのだ。

逆に、君主との関係がうまくいかず、王室の悲劇を招いた例も示される。エドワード八世は秘書官ハーディングとの確執もあって、人妻との不倫問題により、わずか十一カ月で退位することになった。

王室秘書官は表舞台には登場しない。しかし、節目節目で政策運営に大きな影響を与えた人物が少なくない。英国近現代史の基本理解がないと読み進めるのはややつらいが、人間ドラマとしても興味深い。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

みんな力―ウェブを味方にする技術
みんな力―ウェブを味方にする技術新井 範子

東洋経済新報社 2007-06-15
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おすすめ平均 star
starWEB2.0以降
star書き込む、ということ
starweb2.0以降の企業から消費者へのアプローチフレームを簡易に説明

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ネットマーケティング論の本は多いが、聞き慣れないカタカナ語や略語の羅列になりがちだ。本書は「みんな力」「つながる化」などなじみやすい新語を用いつつ、平易な言葉と明快な論理で、ネットが消費市場や人々のコミュニケーションに与えた変化と、今後の企業に求められる姿勢を解説している。

著者によれば、かつて市場は「敵」の陣地を奪う「戦場」だった。消費者はオセロのコマのようなもので、互いに意思疎通することなく、企業の手で黒から白へとひっくり返された。今は違う。消費者はネット上で評価を発信し合い、情報を共有する。市場は戦場ではなく、「みんな」で力を合わせ、問題を解決する場となったのだ。

そうした集合知を著者は「みんな力」と呼ぶ。「みんな」に仲間と認められ、支持された企業や商品こそが強いと著者はいう。具体的な商品を例に、言及したブログ相互にどうリンクが張られたかを解析した図は、「みんな力」とは何かを雄弁に物語る。

「みんな」が力を持つ背景には情報偏在の是正、選択ではなく参加で自己愛を満たそうとする心理の台頭など社会の変容があり、現代の「富」は所有ではなく関係性の中に見いだされる。こうした著者の指摘も面白い。優れたマーケティング書は必ず生きた社会論、人間論になっている。本書も例外ではない。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

いじめが終わるとき
いじめが終わるとき芹沢 俊介

彩流社 2007-07-20
売り上げランキング : 10824


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いま一般に使われている形で「いじめ」という言葉が最初に新聞に載ったのは、一九八二年五月だったと著者はいう。それから二十五年がたつが、いまだに有効な解決策は見つかっていない。なぜか。社会にいじめを「理解しようとする意欲がないから」というのが著者の主張である。

ある問題を解決するためには、その問題の全体像を十分に理解しなければならない。そうした前提のもと、著者はいじめという言葉の再定義に取り組む。文部科学省や警察庁などによるいくつかの定義を詳細に検討し、問題点をあぶりだす。その過程で、これまでの対応に欠落していたものが浮かび上がってくる。

いじめは多数者集団によって反復継続される特定の標的への身体的・精神的暴力であり、学校のように毎日行かなければならない場で起きる。そして、いじめる側の目的は多数者集団への帰属感を得ることにこそある、という著者の分析には説得力がある。

そこから導かれる処方せんは、子供も大人も集団への帰属性を求めず「ひとり」になる力を持つこと、というもの。抽象的に聞こえるが、その場しのぎの対症療法では問題は何も解決しない、との強い危機感が背景にある。

文部科学省や教育再生会議の議論に対して著者は徹底して批判的だ。その理由も明快に論じられており、いじめ問題を考える上で参考になる。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

種を蒔く/Semear
種を蒔く/Semear川内倫子

フォイル 2007-07-11
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9月までサンパウロ近代美術館で開かれている展覧会のため、ブラジルで撮影した作品を収めている。赤い鳥居やラジオ体操といった日本人街の風景と、カーニバル、ジャングル、アルマジロなどいかにもラテン特有の風物が、難なく一つの世界を作る。あらゆるものを私的なまなざしで包み、差し出す川内の写真は、被写体の国籍や民族の違いを際だたせない。どこか懐かしい親しい風景が広がっている。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト
日本のM&A―企業統治・組織効率・企業価値へのインパクト宮島 英昭

東洋経済新報社 2007-06
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M&A(合併・買収)といってもその形態は様々だし、本当に期待通りの成果を収めているかどうかは定かではない。本書は最近M&Aがなぜ増えてきたのか、その増加は企業経営や企業統治にどのような影響を及ぼすのか――等々を経済産業研究所の研究会のメンバーが実証分析を踏まえながらまとめた。本書によると、日本のM&Aはこれまでのところ総じて組織の効率化など構造調整にプラスに働き、マイナス面は目立っていないという。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

中国に生きる―興竜の実像
中国に生きる―興竜の実像共同通信取材班

共同通信社 2007-06
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「論をぶたず、あらゆる先入観を排して」中国社会のさまざまな現場に分け入ったルポ。百円ショップの商品の生産現場から、不動産で財をなした富豪、「インターネット中毒」の人々の療養風景、詰め込み教育にあえぐ子供たちまでを活写した。特異さを強調した中国ルポが多い中、普通の価値観を持つ人々の苦悩などにも目を配っており、愛憎にからめとられがちな隣国を正しく理解する材料を提供しようという意図が伝わってくる。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ボケてたまるか!
伊東 四朗 (著)

円周率の小数点以下千ケタまで覚える、東京二十三区・四十七都道府県・アメリカ合衆国五十州を暗記し一気に言う、などユニークな脳トレ法を開陳。膨大なセリフを操り爆笑を巻き起こした先月の生誕七十周年記念公演での怪優ぶりも納得だ。日本に活を入れる小言を絡めた芸歴四十九年のエピソードの数々は読む者に元気と勇気を与える。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

わざの伝承―ビジネス技術 (日外選書Fontana)
わざの伝承―ビジネス技術 (日外選書Fontana)柴田 亮介

日外アソシエーツ 2007-05
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おすすめ平均 star
starソフト系スキルをどう伝承するか
star温故知新
starわざを磨こう!と再決心

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団塊の世代が定年を迎え、技術の伝承が大きな課題になっている。定年延長などに踏み切る企業も少なくない。しかし、マーケティングや企画立案の分野ではノウハウ伝承の話をあまりきかない。広告会社で長年、企画立案に携わってきた著者は、「どのように見せるか」という点でマーケティングや企画の仕事は古典芸能に通じている点に着目。いずれも「型」と「わざ」があり、「わざ」を会得するにはどのような準備と手順が大事かを具体例を使って示した。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち
タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たちジェニー・ランドルズ 伊藤 文英

日経BP社 2007-07-19
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おすすめ平均 star
star物理と物語のはざまを浮遊する心地よさ

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時間とは何か。アインシュタインやホーキングら古今の物理学者が知恵を絞ってきた時間と宇宙の構造についての仮説や理論、観測結果などを紹介する。それらを「タイムマシン実現のためにどんな意味を持つのか」という一本の軸に沿って語り継ぐところがユニークだ。SF小説からのイメージの借用も豊富で科学解説ともSF解説ともつかないところも楽しい。エジソンを超えた発明家とされるニコラ・テスラの狂気じみた実験など読み応えがある。伊藤文英訳。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

となりの神さま
となりの神さま裴 昭

扶桑社 2007-06-30
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人の動くところ神さまあり。今、この国には多くの移民とともに世界の神々が降り立っている。イスラム教、ユダヤ教、チベット仏教、ヒンズー教――。各地に誕生する礼拝所や教会を巡り、信仰の姿をとらえたフォトルポルタージュだ。

こんなところに、と驚く身近な場所に祈りの空間は広がっていた。雑居ビルの扉を開ければそこはモスク。マンションの地下はシク寺院に早変わり、路地裏の木造アパートには道教の神像が鎮座する。

どれも出稼ぎ労働者たちが豊かではない懐から金を出し合って築いたものだ。同じ神の名のもとに言葉の違う者が集い、異国での苦労を慰め、助け合う。その姿を通し「果たして日本自体は豊かになったのかと問いかけたかった」と話す。

我が身を振り返っても「祈るのは世俗的な願い事の時だけ」。世間に金と物はあふれるほどあるが、隣人にも知られず孤独に死ぬお年寄りがいる。友人のネパール人は、日本で死ぬのが怖いとこぼす。自国なら隣近所が葬式を出し、僧侶もただで来てくれるが、日本では大金がかかるからだ。「現代の日本人は死ぬってことを忘れているように見える」

自らは日本で生まれ育った日系コリアン二世。在日外国人の先輩として、一九八〇年代から移民の世界に深く分け入ってきた。近年は地方公務員のお気楽な仕事ぶりをとらえた「役人天国」の週刊誌連載で話題を呼んだが「あくまでお仕事」。日本における移民「ディアスポラ(離散)」の問題がライフワークだ。

「二十一世紀になって人の動きはますます激しくなっている。定住を基本とする国家の根幹が揺らいでいる」。人波が寄せる日本の最前線にカメラを据えれば、その実態に迫れると考える。「外国に出て行く必要はない。この国で世界のすべては撮れるんだから」。(扶桑社・一、四〇〇円)

(ペ・ソ)1956年福岡県生まれ。フォトジャーナリスト。著書に『鎖国ニッポンが他民族国家になる日』『不滅の役人天国』。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

反社会学講座 (ちくま文庫 ま 33-1)
反社会学講座 (ちくま文庫 ま 33-1)パオロ・マッツァリーノ

筑摩書房 2007-07
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おすすめ平均 star
star「正論」をうっちゃる「ふまじめ」
star「三年目の補講」も必読
star文庫版きたー

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少年の凶悪犯罪は増えているのか、日本人は勤勉だというのはいつからの話なのか、少子化で日本社会は崩壊するのか――。現代社会に広く流布する言説に対し根拠を示しながら異議を唱え、「社会学」の危うさを説く。二〇〇四年刊行の単行本に「三年目の補講」と題する補足を随所に加筆した。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

肖像写真―時代のまなざし (岩波新書 新赤版 1086)
肖像写真―時代のまなざし (岩波新書 新赤版 1086)多木 浩二

岩波書店 2007-07
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おすすめ平均 star
star視線の果てに向う三人の写真家

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周囲の知識人を撮影した十九世紀のナダール、二十世紀の全体像を映し出そうとしたザンダー、被写体に演じさせた現代写真家アヴェドン。視覚芸術の評論で知られる著者が三人の肖像写真を比較し、人間の顔に注がれるまなざしの変遷を探った。写真は時に書かれた歴史を超え、時代の雰囲気を伝えることが分かる。

■2007/08/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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