メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年8月19日~8月26日

城山三郎が娘に語った戦争
城山三郎が娘に語った戦争井上紀子

朝日新聞社出版局 2007-08-07
売り上げランキング : 20305


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嬉しうて、そして…
嬉しうて、そして…城山 三郎

文藝春秋 2007-08
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日本人への遺言
日本人への遺言城山 三郎 高山 文彦

講談社 2007-07-13
売り上げランキング : 5340

おすすめ平均 star
star気骨と反骨に生きた作家の遺言

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城山三郎 命の旅
城山三郎 命の旅城山 三郎

講談社 2007-08-01
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城山三郎の遺志
城山三郎の遺志佐高 信

岩波書店 2007-08
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戦争体験が風化する中でこの夏は三月に死去した城山三郎さんをめぐる本やテレビ番組が相次いだ。晩年の城山さんは大義の名のもとに戦争が個人の自由と尊厳、命を奪ったことへの激しい怒りを語って戦争を知らない若い世代に伝えようとしていた。

娘の井上紀子さんの『城山三郎が娘に語った戦争』(朝日新聞社)やNHKのドキュメンタリー「城山三郎~“昭和”と格闘したサムライ」は城山さんが家族に戦争体験を語り始めたのが『指揮官たちの特攻』を書き始め、その途中で容子夫人が亡くなった二〇〇〇年ごろだと明かしている。今年初めに記者がお目にかかった時も、十七歳で海軍特別幹部練習生に志願入隊した体験を熱く語った。

「訓練ではなく、いじめられましたね。早朝から夜ふけまでバッターと呼ぶこん棒で殴られた」「いくら個人が頑張ろうと指導者が間違えば国は滅びます」。赤ワインを飲みながらこう話していた。

最後の随筆集『嬉しうて、そして…』(文芸春秋)には、本紙のために執筆した未完の絶筆「私の履歴書」など、未発表原稿を含む随想や発言を収録。うち「私をボケと罵った自民党議員へ」は個人情報保護法案に反対して気骨ある発言をしている。「治安維持法より悪いところもある」と断じ、拡大解釈された治安維持法が言論弾圧に利用されたという苦い歴史を振り返るべきだと説いている。

書評誌「本の旅人」に連載したエッセーを軸にした『仕事と人生』(角川書店)も興味深い。巻末で津本陽さんがこう書いている。「城山三郎氏は正義感のつよい人である。そうでなければ旧制商業学校を卒業後、海軍特別幹部練習生に志願していないはずである」。一学年下級生であった津本さんは城山さんが救国の情に駆られた純真な若者だったこと、その戦争体験は「歴史の空白を埋める貴重な史料である」と証言する。

対談集『日本人への遺言』(城山三郎・高山文彦著、講談社)、『城山三郎 命の旅』(内橋克人・佐高信編、同)、『城山三郎の遺志』(佐高信編、岩波書店)も硬骨の作家の素顔をよく伝える。「事実と真実は違うからね。作家は真実を見ないといけないと思う。だからこそ、安直にはできない仕事でもあるよね」(『日本人への遺言』)などの発言は、まことに誠実で信念の人らしい。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

モハメド・アリ―アイロニーの時代のトリックスター
モハメド・アリ―アイロニーの時代のトリックスターチャールズ・レマート 中野 恵津子

新曜社 2007-08
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ボクシング界の英雄、モハメド・アリを扱った本は数多い。本書は自由主義を掲げた米国社会や近代西欧の植民地主義へのアンチヒーロー(反英雄)として、アリを考察したところに特徴がある。公民権運動やベトナム戦争で米国が混迷した時代、既存の文化価値を混乱させ、社会を挑発する役割を担ったのがアリだったとみるのだ。

圧倒的な強さを誇ったヘビー級王者を番狂わせで破り、一年後、第一ラウンドで返り討ちにしたソニー・リストン戦。史上最高のハード・パンチャーといわれたジョージ・フォアマンをロープの反動を巧みに利用した戦法で倒した「キンシャサの奇跡」。ボクシングファンにはなじみ深い名勝負も登場する。

しかし、より多くのページがさかれるのは、アフリカ系アメリカ人のイスラム運動組織「ネーション・オブ・イスラム」への参加や、兵役拒否を通じて、黒人差別を温存する米国、西欧社会と対決し続けたアリの姿だ。フォアマン戦で、かつてベルギー国王レオポルド二世の搾取にあえいだザイール(現コンゴ民主共和国)をアリが訪れ、熱狂させたのはその象徴だったとみている。

著者は米ウェスリアン大学の社会学教授。アリの行動や思想を改めて探った背景には、同時テロ後の米国社会が抱える危機感、苦悩がのぞく。中野恵津子訳。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

平成男子図鑑 リスペクト男子としらふ男子
平成男子図鑑 リスペクト男子としらふ男子深澤 真紀

日経BP社 2007-06-21
売り上げランキング : 2337

おすすめ平均 star
star裏づけは何もないが「あるある」と楽しく読める。
star男子が見える
starおじさんが好きそうですね

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いまどきの若い男性を二十三タイプに分類し、その生態をイラスト入りで分類・紹介する。内容と題名から想像するとおり軽く読める本ではあるが、著者が提起する問題は重い。

表題に「男子」とあるが分析対象は二十代半ばから三十代前半まで。昔なら「青年」と呼ばれた年齢だ。酒にもタバコにも関心のない「しらふ男子」。母親と仲のいい「オカン男子」。恋愛にがっつかない「草食男子」、という具合。総じて自分や家族が大好きで、ギラギラせず、決して荒野は目ざさない。かつての「青年実業家」からは、しばしば屈折した上昇志向が香った。今の「ベンチャー男子」は屈託なくカネを稼ぎ、それをあっさり環境系NPOに投じたりすると著者はいう。

彼らは母親に続き父親も戦後生まれが多数派となった初の世代。バブルを知らず「失われた十年」に青年期を過ごした。同世代にフリーターも多く、年金問題など「将来や希望の見えない日本」で生きていく。だからこそ防衛的な気質を持ち、自分や家族、地元を好きになる。すべては「彼らなりのサバイバルの方法」なのだと著者は読む。

八〇年代、働く人々をマル金、マルビに分類し、冗談めかしつつ時代の節目をとらえた『金魂巻』という本が出版された。同様に本書もいずれ消費社会を語る際の「基礎文献」になるかもしれない。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪 (中公新書 1900)
「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪 (中公新書 1900)大沼 保昭

中央公論新社 2007-06
売り上げランキング : 1913

おすすめ平均 star
star現実的な解に共感
starリベラル派・左派への貴重な教訓
starアジア女性基金にも多少のメリット

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いわゆる従軍慰安婦問題について、さきに米下院本会議が日本政府の公式謝罪を求める決議を採択した。「なぜ今」と感じた人は多いだろう。こうした疑問にもこたえたタイムリーな一冊である。

日本政府は一九九三年に河野洋平官房長官の談話で元慰安婦の女性たちに謝罪し、民間からの募金も含めて設立したアジア女性基金を通じて「償い金」を届けたり、福祉事業を手がけたりしてきた。

本書の著者は、その基金の創設と運営に深くかかわってきた国際法学者である。基金によって達成できたことと乗り越えられなかったことを述懐し、国民参加によってこの問題の道義的責任を果たす道を探るべきだと訴える。

一貫しているのは、現実的な視点である。慰安婦問題というと法的責任に固執する声がある一方で、一切の責任はないと主張する考え方もあって混迷が甚だしい。著者はそのいずれにもくみしない。

もっとも、そうした立場はかえって各方面の反発も招き、基金は必ずしも十分な成果を上げられずに解散した。著者はこれをあえて「失敗」と言うが、今後もこの問題を考えるうえで本書が貴重な参考となるのは間違いない。

著者は基金の歩みを振り返りつつ、政府が事業の意義を世界に発信してこなかったことなどを「無為無策」「不作為」と憂える。米下院の決議はそれを如実に示している。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

ピカソと愛犬ランプ あるダックスフントの冒険
ピカソと愛犬ランプ あるダックスフントの冒険デイヴィッド・ダグラス・ダンカン 菊池 由美

ランダムハウス講談社 2007-07-28
売り上げランキング : 65290

おすすめ平均 star
star芸術家に影響を与えた犬

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著者のダンカンは1957年のある日、親友ピカソの南仏の別荘に1歳になるダックスフントを連れて行った。それがランプだ。以来、ピカソ夫妻に愛され、ともに暮らしたランプは、しばしばインスピレーションの源となり絵画に姿をとどめた。ピカソとの出会いから別荘での日々を、ダンカン自身が記録している。私生活と創作を自在に行き来したランプを通して、芸術家の素顔が見える。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 26ページ

アジア産業クラスター論―フローチャート・アプローチの可能性
朽木 昭文 (著)

産業クラスターとは特定分野の企業やサービス提供者、関連機関が地理的に集中し、競争しつつ協力し合っている状態を指す。著者はアジアの国々が一九九七年のアジア通貨危機でそれまでの産業政策の誤りを知り、「産業クラスター政策」に転換したと分析する。その結果できたのが、バンコク近郊や中国・広州の自動車産業クラスターなど。産業政策に優先順位を付ける手立てとして、フローチャートを描くやり方を示している。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

一瞬でいい
一瞬でいい唯川 恵

毎日新聞社 2007-07-20
売り上げランキング : 3780

おすすめ平均 star
starすがすがしい登場人物の人生
star浅間山が見ていた4人の物語
star本の中の世界と時間軸を感じる

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直木賞作家の最新長編。一九七三年、高校卒業を前に浅間山に登った幼なじみの男女四人は不注意から一人を事故で失う。残された三人は罪の意識を抱えながら就職、留学、放浪と別々の道を歩む。バブル景気、不況、思わぬ再会、病。時代に振り回され、生きる意味を自問し、やがて人生を受け入れていく。著者の本領である巧みな恋愛描写は健在だが、それ以上に成熟した静かな語り口が印象的だ。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

文学問答
文学問答河野 多惠子 山田 詠美

文藝春秋 2007-07
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大庭みな子とともに芥川賞選考委員を女性で初めて務めた河野と、現選考委員である山田の対談を収める。「書くというのは身体全体をつかった反射神経なんですね。(略)やっぱりペンを使わないと私はダメですね」(山田)といった手書きへのこだわり、「狭義の本当の文壇は、純文学作家と評論家と文学のわかる編集者ぐるみのものなんです」(河野)と語る純文学への愛情で二人は共鳴する。意気軒高なやりとりは、女性作家の元気な時代を示している。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

カブール・ビューティー・スクール―デビーとアフガニスタン女性たちのおしゃれ奮闘記
カブール・ビューティー・スクール―デビーとアフガニスタン女性たちのおしゃれ奮闘記デボラ・ロドリゲス 仁木 めぐみ

早川書房 2007-07-20
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米国人美容師がボランティア活動でアフガニスタンを訪れた。女性の自立を助けるため美容学校を設立、現地男性と結婚し運営する。真っ赤な髪を振り乱しての奮闘ぶりも興味深いが、読み応えがあるのは内部に入らなければわからない現地女性の実態。処女が絶対的価値をもち、結婚は娘をいかに高く売るか。夫は妻をなぐって従わせる――。学校は閉鎖を余儀なくされたが、平和と女性を取り巻く環境の改善を願わずにいられない。仁木めぐみ訳。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人
中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人関 志雄

東洋経済新報社 2007-07
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中国では、経済学者の提言が現実の政策に反映されることがままある。例えば一九九四年に税収分配を地方よりも中央に厚くし中央の財政再配分機能を強める改革が実施されたが、それを指導部に積極的に働きかけてきたのは経済学者の胡鞍鋼、王紹光らだった。

なぜ中国の経済学者らは、政策提言に熱意を傾けその影響力を競い合うのか。著者はその背景が彼らの生い立ちにあるとみる。今の有力経済学者の多くは五〇年代生まれ。文化大革命で農村に送り込まれ、むなしい青春時代を過ごした。それゆえ、約十年間の文革が終わった後に彼らが大学に進んで経済学を志した背景には「社会を変革するのだ」という明確な目的意識があったというのである。

本書が特に焦点を当てているのは胡鞍鋼、〓以寧、呉敬〓、林毅夫、樊綱ら現代中国を代表する十二人の経済学者。その生い立ち、研究成果、政策提言、論争などを詳しく紹介しており、日本には今までにはなかった類の書だといっていいだろう。彼らが今どんな考えを持ち、どんな主張をしているのか。それを知ることは、中国の先を読むことにもつながる。

中国の経済学界、論壇でいま主流派の地位を占めているのは、公平よりも効率を重視し、市場化の徹底を説く「新自由主義者」と呼ばれる人たち。彼らこそが中国の改革開放の水先案内人であった。しかし急激な市場経済の浸透で貧富の格差が拡大し、中国社会ではさまざまな矛盾が表面化して改革疲れの様相もうかがえる。

近年、効率よりも公平性を重視する「新左派」の声が庶民の人気を集めている背景には、そんな事情がある。胡錦濤・温家宝政権は立ち遅れた農業、疲弊した農村、貧しい農民の「三農問題」の解決に力を注いでいるが、それも新左派の支えになっている。

ただ著者も指摘するように、両派の間に新しい共通認識も形成されつつある。新自由主義者らが追求するのは法治と公平を前提とする良い市場経済。新左派が批判するのは、そういう前提からほど遠い悪い市場経済だからだ。中国が目指す社会主義市場経済とは何かも、おぼろげに見えてくる。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

正面を向いた鳥の絵が描けますか? (講談社+α新書)
正面を向いた鳥の絵が描けますか? (講談社+α新書)山口 真美

講談社 2007-07-20
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絵は、眼前の風景をすべて克明に写すよりも対象物にめりはりをつけたほうがうまく描ける。人間が見ているのは見たいところだけで、実際の風景とは異なるからだ。視覚を研究する著者は、絵と目と脳の関係をやさしく説明しながら、審美眼や形を把握する能力を明らかにした。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

日本の酒
坂口 謹一郎 (著)

日本酒をめぐる文化史や社会史、酒造りの方法と技術的な特徴などを、東大応用微生物研究所の初代所長を務めた著者がつづった。日本の酒造りには日本人古来の独創的な創意工夫がこらされており、近代の微生物学や生態学の視点からも優れた点を説明できるという。一九六四年刊行の岩波新書を文庫化した。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅
あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅城戸 久枝

情報センター出版局 2007-08-21
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おすすめ平均 star
star気持ちの良い読後感

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父は中国残留孤児。幼いころ、目をそらしてきた現実と向き合い、現地取材や父本人からの聞き取りなど十年間かけて、足跡をたどった。

そこで初めて知ったのは日中戦争、文化大革命に翻弄(ほんろう)された苛烈(かれつ)な半生。父娘の物語を通じて、日中の戦後史と現在の課題が見えてくる骨太かつ、さわやかなノンフィクションだ。

父、幹氏は政府による訪日調査が始まる十年以上前の一九七〇年、自力で日本人としての身元を探り当て、ほぼ独力で帰国にこぎ着けた希有(けう)な人物。帰国後、日本人女性と結婚して家族をもうけた。

娘にとっては、ときおり中国語を話すが、「普通の父親と何も変わらないと思っていた」。しかし、小学校の同級生に「久枝ちゃんのお父さんは中国人なの」と聞かれてショックを受ける。それからは意図的に父と中国の関係について尋ねたり、考えたりするのを避けてきた。

転機は大学三年生になった九六年。中国・大連にホームステイし、旧満鉄本社のマンホールを踏みしめたとき、「父がかつてこの地にいた」と実感。翌年から吉林大学に二年間留学し、父が暮らした牡丹江市周辺で「親せき」や友人を訪ね歩いた。

過去について口を閉ざしていた父も新聞スクラップや、六〇年から書き続けていた日記などを見せてくれるようになった。日記には帰国後、日本になじめず中国の養母を慕って泣いた様子がつづられていた。「涙で青いインクがにじんだページを見て、胸が締め付けられた」

本が刷られて真っ先に父に送った。「良く書けている」とほめられ、肩の荷が下りた気がした。「読んでくれた人が歴史を自分自身につながるものとしてとらえ、世代を超えて語り継いでいってほしい」と訴える。

■2007/08/26, 日本経済新聞 朝刊, 27ページ

父子消費
父子消費山岡 拓

日本経済新聞出版社 2007-07
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おすすめ平均 star
starお父さんとこども~

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三歳から小学六年生までの子供は休日、誰と遊んでいるか(いたか)。本人ではなく親に聞いた結果を本書は紹介する。五十―六十代の親はわが子が幼かったころ「同学年の友達」と最も多く遊んでいたと振り返る。一方、今この年齢の子を持つ二十―三十代の親の答えは全く違う。同学年の友は二割未満に減り、かわって一位となったのは母親の七九%。次いで父親が七八%と小差で二位につけた。

子どもと積極的に遊ぶ若いパパたち。同じアニメを見て、模型づくりに精を出し、一緒に昆虫を採集する。本書はそんな彼らの消費、生活、人生観を調査と実例、関連ビジネスの動きまで盛り込み詳しく解き明かす。一時、流通業界などが注目した母娘市場は大人の女の二人組だった。父子市場は父親が自分の趣味を息子に教え込もうとする色合いが強いと著者は指摘する。企業は「母娘」と異なる戦略を求められよう。教育、文化、住宅などにも父子消費の流れがみられるという。

女性に続き男性の生きがいも多様化してきた。職場仲間とのつきあいより、家庭という場で子どもとの消費を楽しむ男たちの出現。底流には、同世代が水平的に消費文化を共有する時代から、家庭を舞台に垂直的に伝達・継承する時代への転換があると著者は読み解く。父子消費の広がりと奥深さを同時に理解できる本。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

8月15日の特攻隊員
8月15日の特攻隊員吉田 紗知

新潮社 2007-07
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おすすめ平均 star
star著者は目的は達成したのか?
star共感しました
star良質のドキュメンタリー

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戦後六十余年がたち、従軍したり銃後を守ったりした八十歳前後の戦争体験者が次々と亡くなり、戦争の悲惨を次代に語り継ぐことができなくなる懸念が生まれている。しかも家族や友を失った人たちにとって戦争を語ることはとてもつらく、本当は話したくないことなのだ。それでも二度と戦争を起こしたくない思いから、必死の思いで泣きながら口を開く。戦争を知らない世代はこの思いにどう応えたらいいのだろうか。

本書は祖父の死をきっかけに、曽祖父の弟、大木正夫が一九四五年八月十五日正午の玉音放送のあと九州の大分基地を飛び立ち沖縄で戦死した最後の特攻隊員の一人だったことを知り、その足跡を追った二十代女性によるノンフィクションである。様々な戦時記録を調べ様々な人に会うが、会うどころか手紙をこれ以上送るのを拒否する人もいる。そういうとき著者は相手のつらさに思いをはせ「人の痛みに鈍感」になっていることを反省する。

しかし相手を傷つけることに臆病になっては戦死者の生きた証しを残すことなどできない。著者は気持ちを奮い立たせる。出撃前に書いた遺書を読んでは涙を流し、無残な遺体の写真をみてはまた涙を流す。最後は勤め先を辞めてまで本書の執筆に専念した。

若い女性らしい健康で爽やかな、人を気遣う心のやさしさがあふれた良書である。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

アリスの服が着たい―ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生
アリスの服が着たい―ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生坂井 妙子

勁草書房 2007-07-27
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子供のために考案された子供専用の服が本格的に西洋に登場したのは、十九世紀後半の英国においてだった。その誕生と普及は、児童文学作品や絵本の登場人物の服装を商品化した「キャラクター子供服」の発展と密接に関連していた。現代の子供服にも通じる当時の子供服の変遷を豊富な図版とともにたどる。

本書で紹介される「キャラクター子供服」のモデルとなった作品は、キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』、バーネットの『小公子』など。セーラー服のもととなった英国海軍の水兵の制服についても、詳細な考察がなされる。

一八六五年刊行の『不思議の国のアリス』の挿絵に描かれた主人公アリスは、当時の英国ミドルクラスの少女の普段着を身に着けていた。これはミドルクラスの成人女性の服装をそのまま縮小したものだったが、やがて大人が理想化された子供時代を振り返る際の象徴となり、子供専用の服として定着したという。

当時の英国社会では、工業化と都市化の進行を背景に、他者との親密性が急速に失われつつあった。子供服には、共通の「子供らしさ」によって人々を組織化する働きがあった、とする本書の指摘は重要だ。現代の日本でも、アニメなどの登場人物をもとにした「キャラクター子供服」が花盛りである。日本の現状を考える上でも示唆に富む。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

DECOTORA
DECOTORA田附 勝

リトル・モア 2007-08-06
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メッキパーツや極彩色のマーカーランプが車体を覆い、フロントグラス越しにシャンデリアが輝く。ど派手な飾りで闇夜を切り裂くデコレーショントラック、略して「デコトラ」。アートトラックともいう。著者はこの走る芸術に魅せられ10年近く追っている。確かに日本独自の路上アートだと、写真を見れば納得する。過剰な装飾への情熱と細部への執着には、日本文化の伝統すら感じられる。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

アクティブ・デリバティブ戦略―企業価値を高める新しい経営手法
アクティブ・デリバティブ戦略―企業価値を高める新しい経営手法福島 良治

日本経済新聞出版社 2007-07
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おすすめ平均 star
star脳の神経細胞が繋がる本でした
star企業経営者・実務家の方は必読です。

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デリバティブ(金融派生商品)は単に金融機関にいるトレーダーの売買対象ではなく、経営者が向き合わざるを得ないものだ。経営者の視点からデリバティブの戦略を解きほぐす本書は企業価値の向上にどう役立てるかを主眼に分析する。金融リスクをどうヘッジするかといった従来の解説書の問題意識を超え、自己資本利益率(ROE)を高める方法や内部統制にどう応用するかなど、企業統治時代も意識している。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

イラク戦争の深淵―権力が崩壊するとき、2002~2004年
イラク戦争の深淵―権力が崩壊するとき、2002~2004年国末 憲人

草思社 2007-06-26
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おすすめ平均 star
star著者の特派員報告

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欧州を拠点に中東を取材してきた朝日新聞パリ特派員によるイラク戦争の記録。著者は戦争前後のイラクを五度にわたって訪れ、フセイン政権の実態とその崩壊の軌跡を目の当たりにした。現地市民の暮らしぶりを通して、独裁政権の求心力低下、権力構造の空虚さを暴く。フランス、スペイン、モロッコなど欧州や北アフリカ各地の取材も重ね、イスラム対米国の対立だけでなく、多様な視点からイラク戦争後の世界構造をとらえているのが興味深い。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

メトロ誕生―地下鉄を拓いた早川徳次と五島慶太の攻防
中村 建治 (著) br />

日本初の地下鉄が浅草―上野間で開業したのは八十年前の一九二七年十二月だった。この「東京地下鉄道」が新橋まで延伸した後の三九年一月、渋谷―新橋間の地下鉄「東京高速鉄道」が全線開通する。だが両鉄道の新橋での相互乗り入れが実現し、現在の東京メトロ銀座線の原型となったのは八カ月後の同年九月だった。相互乗り入れをめぐる攻防を、早川徳次、五島慶太という二人の鉄道人の対決を軸に、臨場感たっぷりに描く。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

串田戯場―歌舞伎を演出する
串田戯場―歌舞伎を演出する串田 和美

ブロンズ新社 2007-06
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若者の街、東京・渋谷で一九九四年から続く「コクーン歌舞伎」は、江戸時代の芝居小屋のような仕掛けでファンのすそ野を広げてきた。この公演に携わってきた演出家が歩みを振り返った。現代劇を手がけてきた著者にとって歌舞伎は異世界。中村勘九郎(現・勘三郎)という強力な相棒を得て、斬新な舞台を作り上げていく。「若者向けの分かりやすい歌舞伎ではなく、超歌舞伎」という著者の思いに歌舞伎の将来像が見える。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

寡黙なる巨人
寡黙なる巨人多田 富雄

集英社 2007-07
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おすすめ平均 star
star人間であることの驚異

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二〇〇一年五月に脳梗塞(こうそく)で倒れ、半身不随の障害を負った免疫学者の随筆集。言葉を発したり歩いたりすることはもとより、水を飲み込むことさえ至難の業となった苦難とリハビリの日々を細密につづった前半と、退院後の日々を書いた短い随筆集からなる。一時は自死まで考えながら、新たに前を向くまでの壮絶な葛藤に、著者のもう一つの得意分野である能や詩の世界が寄り添う。リハビリ医学を中心に、現代日本の医療の問題点も数多く指摘する。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

六〇歳で夢を叶えよう―仕事、趣味、家族、お金 (角川oneテーマ21 A 70)
六〇歳で夢を叶えよう―仕事、趣味、家族、お金 (角川oneテーマ21 A 70)河村 幹夫

角川書店 2007-07
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将来の夢を実現させるために定年までにしておくべきことは何か。総合商社に長く勤め、六十歳前で大学教授に転身した著者が、四十代以降の人生設計について体験を踏まえて語る。人から後ろ指を指されないだけの仕事をしながら、一方で夢の実現に向けて進む「複線人生」を歩むよう説く。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

下山事件最後の証言 完全版
柴田 哲孝 (著)

陸軍やGHQ(連合国軍総司令部)の特務機関員だった祖父が戦後史最大の謎とされる事件の真犯人では、との疑念を抱いた著者が、親族や特務機関長らの証言を基に謎解きを試みる。当時の政財界人や日米のスパイがうごめき、吉田茂や白洲次郎が登場する展開に引き付けられる。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

恋するフェルメール―36作品への旅
恋するフェルメール―36作品への旅有吉 玉青

白水社 2007-07
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そよ風が吹き込む窓辺で、静かに手紙を読む女性。ほほ笑みながらリュートをつま弾く女性――。十七世紀オランダの市民生活を描いた画家、フェルメールに心を奪われた。現存作品は三十五点あまり。まるで「あこがれの人を追いかけるように」訪ね歩いた旅の記録を、一冊の本にした。

一九九〇年代初め、留学先のニューヨーク、メトロポリタン美術館で「窓辺で水差しを持つ女」に魅せられた。「日常を描いているのに、なぜか崇高さが漂ってくる。思わず絵に引き寄せられると、今度は水盤やテーブルクロス、細部のきらめきが気になる。いつまでも目が離せなかった」

フェルメールには「はるばる本物に会いに行く楽しみを教えてもらった」という。画集でおなじみの絵もじかに接すると、色彩や構図が「押し寄せてくる感じがする」。アムステルダムで見た傑作「牛乳を注ぐ女」は視界に入った瞬間、「固く焼き締まったような存在感に、ガツンと頭をたたかれた」。その感動をまた味わいたいという思いが、次の旅につながった。

「恋人って、会っているときだけじゃなく、会うまでのプロセスも大切なもの。絵画も同じ」と振り返る。欧州の美術鑑賞ツアーに参加した時のこと。同好の仲間とフェルメール談議に花を咲かせ、土地の料理に舌鼓を打ちながらあこがれの作品に近づいていった。「絵は独りで静かに見にいくものだと勝手に決めつけていたけれど、にぎやかで楽しくしていいんだと思うようになった」

恋にときめき悩む男女の姿を描いてきた小説家。だが、自らの「フェルメールとの恋」を本格的に書いたのはこれが初めて。「募る思いを一気に告白した感じ」と笑う。

旅は続く。「フェルメールは何度会っても新しい発見がある存在」。名画との恋に、終わりはないようだ。

■2007/08/19, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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