メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年6月10日~6月17日
| コミュナルなケータイ―モバイル・メディア社会を編みかえる | |
![]() | 水越 伸 岩波書店 2007-03 売り上げランキング : 1157 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| モバイル社会の現状と行方―利用実態にもとづく光と影 | |
![]() | 小林 哲生 天野 成昭 正高 信男 エヌティティ出版 2007-05-31 売り上げランキング : 1068 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| ケータイのある風景―テクノロジーの日常化を考える | |
![]() | 松田 美佐 伊藤 瑞子 岡部 大介 北大路書房 2006-10 売り上げランキング : 34324 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| Mobile2.0 ポストWeb2.0時代のケータイビジネス | |
![]() | 宮澤 弦 椎葉 宏 片岡 俊行 インプレスジャパン 2006-08-31 売り上げランキング : 1528 おすすめ平均 ![]() 【モバイル環境 未来に向けての本】 web2.0のはるかに上を。。。 現実よりも希望が強いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| ケータイの未来 | |
![]() | 夏野 剛 ダイヤモンド社 2006-11-17 売り上げランキング : 24639 おすすめ平均 ![]() Docomoの描く未来からケイタイの未来を想像できました iモードしかけ人が立ち上げた新サービスとは何か 3年以上をかけて書く内容だろうかAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 電話代、払いすぎていませんか? 10年後が見えるケータイ進化論 | |
![]() | 木暮 祐一 アスキー 2007-03-12 売り上げランキング : 1356 おすすめ平均 ![]() 日本ケータイ市場についての解説書 海外事情が興味深い なっとくお得Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「そろそろ反撃してもいいですか?」――。NTTドコモの新しい広告「DoCoMo2・0」が話題を呼んでいる。「意味不明」「ごう慢だ」。携帯電話番号継続制度で一人負けしたドコモの巻き返し策だが、広告の評判は芳しくない。裏返せば急成長を遂げてきたケータイ産業の苦悩が表れている。
日本の携帯電話の契約数はPHSを含めると、一月末で一億件を突破した。国民の八割近くが保有し、「メル友」など新しいコミュニケーションのスタイルが広がった。しかもカメラやテレビ、電子財布なども搭載され、「携帯電話は今や重要な生活インフラだ」とドコモの夏野剛執行役員は強調する。
一方、高速データ通信や定額料金制の導入により、ビジネスモデルにも変化が訪れた。典型がKDDI(au)によるグーグルの検索サービス搭載だ。従来は通信会社が公式サイトを定め、課金を代行したが、最近は非公式サイトの比重が高まった。高橋誠KDDI執行役員は「端末から情報まで通信会社が提供する垂直統合型モデルが崩れつつある」と指摘する。
●海外例と文化比較
最近増えたのがケータイ文化について書いた本だ。水越伸編著『コミュナルなケータイ』(岩波書店、二〇〇七年)は東大の携帯電話研究チームによる報告書で、海外の事例なども引用し、日本のケータイ文化の特徴を浮き彫りにした。
ユニークなのは世界最大の携帯端末メーカー、ノキアがあるフィンランドとの比較だ。携帯電話による通話やメールをバーチャルな情報交換、直接会って話すことをリアルな情報交換とすれば、日本の若者はバーチャルな情報交換のほうを優先する傾向があると指摘する。
喫茶店で友人同士が会話をしていても、日本の若者はしばらくすると皆が携帯で外部と通話やメールを始めるという。フィンランドの若者は喫茶店へ入る際に店内の友人に携帯電話で居場所を聞いても、後は直接の会話を楽しもうとする。
内蔵カメラの利用は日本ではプリクラのように友人との記念撮影が多いが、フィンランドでは買い物の情報集めなど記録用に使う場合が多い。つまり日本人は交友関係をケータイというバーチャルな空間に維持しておこうとしているのに対し、フィンランド人はリアルな世界を補完する道具として携帯電話を使っているというわけだ。
こうした日本のケータイ文化についての書物としては、小林哲生・天野成昭・正高信男著『モバイル社会の現状と行方』(NTT出版、二〇〇七年)や、松田美佐・岡部大介・伊藤瑞子編『ケータイのある風景』(北大路書房、二〇〇六年)などにも興味深い考察がある。
ケータイ産業の構造変化を技術の視点から展望した本も登場した。携帯分野の若手経営者や研究家が執筆した『Mobile2・0』(インプレスジャパン、二〇〇六年)は、インターネット技術の新潮流「Web2・0」になぞらえ、携帯技術の新潮流と今後のビジネスモデルの方向性を占った。
Web2・0は「ネットの向こう側」と呼ばれるサーバー側の技術革新が重要な鍵を握った。一方、モバイル2・0は「ネットのこちら側」にあたる端末側の技術革新が仮想と現実との融合を促すという。すなわちGPS(全地球測位システム)や二次元バーコード機能などにより、ネット上の情報と現実空間とを結びつけることで、より利便性や安全性の高い情報社会を構築できると訴える。
●利用者が自由選択
新しい技術の動向についてはドコモの夏野氏も『ケータイの未来』(ダイヤモンド社、二〇〇六年)に同社の将来戦略を説明する。また木暮祐一著『電話代、払いすぎていませんか?』(アスキー新書、二〇〇七年)は「利用者が携帯端末や情報サイトを自由に選べる水平型モデルへの移行が今後のケータイ産業の成長を支える」と分析する。
飽和期を迎えた日本のケータイ市場。ソフトバンクやイー・モバイルの参入に続き、ドコモの反撃がどう市場を活性化できるか注目されている。
| 幽霊を捕まえようとした科学者たち | |
![]() | デボラ・ブラム 鈴木 恵 文藝春秋 2007-05 売り上げランキング : 10674 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
十九世紀から二十世紀初めは「科学技術文明」が隆盛を迎えた時代だ。無線通信や蓄音機、大型客船や自動車が登場、進化論が提唱され、神や霊を語る宗教は時代遅れと考える人が増えた。エジソンは「人間は細胞の集合にすぎず、脳はすばらしい機械にすぎない」とまで言い切った。
また不思議なことに、この時代、多くの知識人が霊に魅せられた。霊媒を招いて交霊会を催し、カーテンを閉めた部屋で、その口から漏れる死者の言葉に聞き入った。科学の光明と超自然へのあこがれが交錯する時代だった。
この本の主人公は十九世紀の欧米を代表する一流の科学者たちである。実験心理学者のウィリアム・ジェイムズ(作家ヘンリー・ジェイムズの兄)、物理学者のウィリアム・クルックス、血清療法の開発者のシャルル・リシェ。
彼らは霊の存在の科学的証明を試みた。霊媒の多くは詐欺師だが、本物がいるかもしれない。科学が未解明の力があるかもしれず、神や霊の全否定こそむしろ科学的ではないと考えた。霊媒をふるいにかけ「本物」に迫る悪戦苦闘の結末は、はなから見えている。挫折に至る人間ドラマに著者は共感したに違いない。
ゴーストハンターたちを使命感あるまじめな科学者とみるか、ロマンチックな幻想を抱いたドン・キホーテとみるか、どちらも読者次第だ。鈴木恵訳。
| 国民道徳とジェンダー―福沢諭吉・井上哲次郎・和辻哲郎 | |
![]() | 関口 すみ子 東京大学出版会 2007-04 売り上げランキング : 10290 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
政府の教育再生会議が「徳育」の強化を打ち出すなど、道徳をめぐる議論が活発だ。そこになにがしかの不安を感じるのは、教育勅語を頂点にした戦前の道徳教育を想起するからだろう。本書は『御一新とジェンダー』でサントリー学芸賞を受けた気鋭の学者による、明治から戦前までの国民道徳の思想史だ。
まず登場するのは福沢諭吉。明治維新という変革期を経て、彼は西洋のモラルの体系と従来の儒学的価値観を統合した新道徳を作ろうとした。基本に置いたのは個人だ。その集合体として家族があり、国がある。そして女性を徳の守り手と位置づけた。
これがどう「なんじ臣民父母に孝…」の教育勅語につながり、その解釈を通じて国家に忠誠を強いる近代の国民道徳に変貌(へんぼう)していったのか。妻は夫に従い家を守ることが最大の使命とされ、貞操が至上の価値と判断されるようになったのか。著者は膨大な資料を分析しながら、時代の中で思想がどのように生まれ、変質していったかを克明にたどっていく。
大きな役割を担った思想家として俎上(そじょう)に載るのが、井上哲次郎であり、和辻哲郎だ。特に和辻に関しては本人の書き込みが残る蔵書をもとに新たな顔を発掘。井上が国民道徳論の主唱者であり、和辻はそれに反発していたという丸山真男の見方に異を唱えている。
| メタボラ | |
![]() | 桐野 夏生 朝日新聞社 2007-05 売り上げランキング : 972 おすすめ平均 ![]() ワーキングプアー 男 21世紀初頭を代表する「恋愛小説」の一冊となるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「希望格差社会」といった言葉があるように、現代日本は若者にとって生きにくい社会といわれる。その現実を目の前に突きつけてくるのがこの長編小説だ。「メタボリズム」からの造語で「新陳代謝」を意味するタイトルは、若者の意識だけでなく社会全体が大きな変革期にあることを示唆しているのだろう。
記憶喪失になって沖縄本島の森をふらついていた二十代の「僕」は、宮古島出身のハンサムで調子の良い少年「伊良部昭光(アキンツ)」と出会って、「ギンジ」という名前をもらう。対照的な性格だが、意気投合する二人。しかし、ある事件をきっかけに別れ別れになってしまう。
転がり込んだドミトリーホテルで働くうちに、オーナーに気に入られ、その選挙運動を手伝うようになるギンジ。やがて自分が記憶喪失に至るまでの悲惨な過去がよみがえる。一方、ホストクラブで働き始めたアキンツは巨額の借金を背負い、ヤクザから追われる身となる。最後に二人が再会するシーンは胸を打つ。
アキンツの転がり落ちる人生もきついが、それ以上に壮絶なのがギンジの過去だ。デフォルメもあるだろうが、そこには時代が抱える宿痾(しゅくあ)とでもいうべき問題が盛り込まれている。魅力的な人物、ハラハラさせる展開、そして時代を打つ批評性と、三拍子そろった社会派エンターテインメント小説である。
| 猫・大通り―武田花写真集 | |
![]() | 武田 花 現代書館 2007-06 売り上げランキング : 15647 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
路地裏や塀の上、軒先や屋根、外階段や駐車場。武田花さんの撮る猫は古ぼけた町のそんなところにいる。道は狭いし、猫は気まぐれだから、追いかけるのもずいぶん暇がいりそうだ。
迷路のような町で帰り道がわからなくなったり、ぶらぶらしているうちに日が暮れたり、「あんた、保険の人? 違うよね」と金つぼ眼の女に話しかけられたり。そんな風に書く花さんの足音までが聞こえてきそうな写真集。
| 若者の労働と生活世界―彼らはどんな現実を生きているか | |
![]() | 本田 由紀 大月書店 2007-05 売り上げランキング : 6257 おすすめ平均 ![]() 学問の誠実さAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「彼らをめぐるくだらないおしゃべりは、いい加減にやめよう」。現代の若者について積極的に発言してきた編者は冒頭にこう書く。現実を知ることが大事だと。本書は二十、三十代の若手社会学者十数人が自らの関心に従い若者の生活をあぶりだす。コンビニエンスストアで疑似店長として長時間働く若者から若年ホームレス、援助交際までテーマは多様だ。拡散しすぎの感はあるが、若者を取り巻く状況や考えを知る参考になる。
| 国連の限界/国連の未来 | |
![]() | ジャン=マルク・クワコウ 池村 俊郎 駒木 克彦 藤原書店 2007-05 売り上げランキング : 2533 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者はニューヨークの国連大学事務所長で、ブトロス・ガリ元国連事務総長のスピーチライターも務めた人物。内側から見た国連の欠陥や問題点などを仮借なく指摘する。「日本外交と国連」と題した最後の一章は日本語版のための書き下ろし。日本がこれまで実績を積み上げてきたODA(政府開発援助)などの分野を強化することが、最も効率的な国際貢献につながると説く。池村俊郎、駒木克彦訳。
| 路地裏の社会史―大阪毎日新聞記者村嶋歸之の軌跡 | |
![]() | 木村 和世 昭和堂 2007-06 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大正、昭和期に大阪、神戸の労働運動をけん引した大阪毎日新聞記者、村嶋歸之の足跡を追った。村嶋ら同時代のリベラリストの理想に燃える姿と挫折が描かれる。関西労働界についての記述が中心だが、村嶋が活写した当時の庶民の暮らしぶりが興味をそそる。題材は貸本屋、落語や浪曲などの娯楽、道頓堀のカフェの発展など幅広い。綿密に調べたデータに、数字では表せない路地裏のにおいや手触りまで織り交ぜたルポルタージュ手法には学ぶべきところも多い。
| ダーティ・ワーク | |
![]() | 絲山 秋子 集英社 2007-04 売り上げランキング : 34273 おすすめ平均 ![]() 無機質だけど、関係があるんだよね。 社会の小説 連なり繋ぐ連作短編集Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「沖で待つ」で芥川賞を受賞した作家の連作短編集。二十八歳のギタリスト、熊井望は時折入るレコーディングやライブの仕事で食いつないでいる。彼女には学生時代に仲たがいした男友達がいて、今も淡い思いを抱き続けていた。その熊井を出発点に、都会に暮らす人々の七つの物語が展開される。惰性、打算、勘違い、未練。それぞれの人物をつなぐ様々な糸の中から、やがて作品全体の骨格をなす一つの糸が見えてくる。語り口の巧みさにうなる。
| 日本財政破綻回避への戦略 | |
![]() | 貝塚 啓明 アン O.クルーガー 日本経済新聞出版社 2007-05 売り上げランキング : 95526 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
長期にわたる経済の停滞から日本経済はようやく脱したが、依然として膨大な公的債務を抱え込み、年金などの制度改革とともに、いかに債務を抑え、財政健全化に道筋をつけるかが大きな政策課題になっている。本書は財務省財務総合政策研究所と国際通貨基金(IMF)が一昨年に開いたシンポジウムで発表された論文を中心にまとめた。日米の第一線研究者によって、日本の抱える財政上の数々の問題が様々な角度から論じられている。
| 一身上の都合 | |
![]() | 永井 隆 ソフトバンククリエイティブ 2007-05-24 売り上げランキング : 912 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
サラリーマンが会社を辞める時、退職届に理由として記す「一身上の都合」の六文字。その背後には人それぞれの動機や葛藤、決断がある。退職の経験をもつ二十代から五十代の男女八人について、各人が定型の六文字に込めた思いを追ったノンフィクションだ。
「サラリーマンが会社に自分の意思を表明して通せるのは出処進退だけ。一人ひとりの物語を年齢、性別のバランスよく積み重ねた本にしようと取材を始めた」。知り合いに聞いたり、インターネットのブログを読んだりして、取材に応じてくれる人を探した。
昨年八月からの半年間で十五人ほどに会った。取材を受けるのは初めてという人ばかりだったが、みんな熱っぽく自分の思いを語った。本書に掲載した八人のうち、四人は実名、写真付きで登場してくれた。
彼らの話が人ごとでないのは、自身にも失業の経験があるからだ。「東京タイムズ」紙の経済記者をしていた一九九二年、同紙が突然休刊し、三十四歳で職を失った。新聞広告を見て履歴書を送るが一向に再就職できない。一年後、フリージャーナリストとして再出発する覚悟を決めた。
「失業すると外に出たくなくなる。だがそういう時こそ積極的に行動すべきだ」。自身の体験に根ざした思いを強くしたのは、五十代で早期退職した男性を取材した時だった。再就職できずに焦っていた男性は、出席をためらっていた大学時代の友人との忘年会に思い切って出たことがきっかけとなり、母校の大学に広報職員として採用された。
ビジネスの分野で「一年に一冊」を目標に取材を続ける。次回作のテーマは「出世の構図」。企業が幹部となる社員をどのように決め、処遇しているのかを描くつもりだ。「作品には必ず現場の個人を登場させる。それが私のやり方です」
(ながい・たかし)1958年群馬県生まれ。フリージャーナリスト。著書に『ビール最終戦争』『敗れざるサラリーマンたち』など。
| 高層難民 | |
![]() | 渡辺 実 新潮社 2007-04 売り上げランキング : 27260 おすすめ平均 ![]() 地上から遠く離れた「難民」生活Amazonで詳しく見る by G-Tools |
超高層住宅の人気が高まっている。だが著者によると、この手の建築に必須のエレベーターは、巨大地震時には十分に機能しない恐れが強いという。高層階の住民が地上から隔離され「難民」化する恐れを説く。一週間の難民生活は覚悟せよ、地震に備えて五階ごとに食料を備蓄するように、など助言も具体的だ。
| 小津安二郎先生の思い出 | |
![]() | 笠 智衆 朝日新聞社出版局 2007-05 売り上げランキング : 60931 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九九三年に亡くなった名優が、死の二年前に出した書。生前の素朴な語り口調そのままに、自らが俳優になったいきさつや、小津監督をはじめとする監督や俳優たちの思い出などを振り返る。昭和初期の映画撮影所についての貴重な証言。巻末に追加された、長男による回想も読み落とせない面白さ。
| たったひとつの命だから | |
![]() | ワンライフプロジェクト 地湧社 2007-04 売り上げランキング : 53624 おすすめ平均 ![]() こころが揺さぶられますAmazonで詳しく見る by G-Tools |
福岡県久留米市のFM局に寄せられた命の大切さをテーマにしたメッセージを集めたワンライフプロジェクト編『たったひとつの命だから』(地湧社)が刊行された。価格は千円。一人の少女の言葉に共鳴した幅広い世代のメッセージを集めた。九月三十日に「なかのZERO小ホール」(東京・中野)でFM番組のパーソナリティー、岩坂浩子さんの朗読会が開かれる。
| 拡大するユーロ経済圏―その強さとひずみを検証する | |
![]() | 田中 素香 日本経済新聞出版社 2007-04 売り上げランキング : 32543 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二十七カ国、人口四億九千万人を抱える欧州連合(EU)の元気さが目立っている。経済は二%台後半で伸び、失業率も下がり、単一通貨ユーロも対円、対ドルで最高値を更新している。減速する米経済に代わって、EUが世界経済を支える主役の一つになっている。ポスト京都議定書の温暖化防止で主導権を握ろうとする姿勢も、EUの自信の表れといえる。
本書はEUの成長の源泉を「三つの統合」の成果と説く。一つは一九九〇年代の市場統合、二つ目は九九年の単一通貨ユーロ導入、そして二〇〇四年の中・東欧諸国のEU加盟(東方拡大)である。中でも域内の生産ネットワークを中・東欧に広げたことがここ数年の原動力になった。
本書は教科書的ではあるが、EUが東へ経済圏を広げたことで、米国のグローバリズムに対抗できる「リージョナリズム(地域主義)」を構築したと論じるところに、EUを過去三十年間研究してきた著者の独自の視点がある。
もちろん、EU拡大で移民流入や生産拠点の移転といったひずみがあり、〇五年には仏とオランダが国民投票でEU憲法を否決した。しかし、拡大がEUの成長を保証する限り、リージョナリズム・モデルには未来がある。著者の考えに従えば、EUは今後、バルカン半島やロシア周辺の国を加盟させる必要があるのだろう。
| バイアウト―企業買収 | |
![]() | 幸田 真音 文藝春秋 2007-05 売り上げランキング : 431 おすすめ平均 ![]() 金儲けは悪い事ですか?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
M&A(企業の合併・買収)が珍しくなくなった日本の企業社会。最新の経済動向を巧みに反映させた作品を生み出してきた著者が、企業買収をめぐって交錯する投資ファンド社長や外資系証券会社の営業担当者らの姿を生々しく描いた経済小説だ。
徹底した収益最優先主義を掲げ、情け容赦のない株の買い占めで世間の注目を集める「相馬ファンド」社長、相馬顕良。相馬との取引に情熱を注ぐ外資系証券会社の営業担当、広田美潮。二人を軸に物語は早いテンポで進む。
美潮が相馬から買い付けを依頼された銘柄は、幼いころ自分を捨てた父親が幹部の音楽関連会社だった。内部情報を引き出そうと美潮は父親に近づく。深夜営業の安売り店を展開する小売業者が音楽関連会社にTOB(株式公開買い付け)を仕掛けた日、IT(情報技術)業界の旗手「アクティブ・ゲート」に東京地検特捜部の強制捜査が入る。
実在の企業や経営者を思い起こさせる登場人物たち。株式市場の動きをにらみながら一刻一秒を争って行動する彼らの緊張感が印象的だ。TOB合戦が激しさを増す一方、美潮の出生をめぐる意外な事実も明らかにされていく。
スキのない展開で最後まで一気に読ませる。そして、終盤で美潮が抱く「株価とはなにを意味するのだろう」「会社という存在はなんなのだ」との問いが重く響いてくる。
| 市場を創る―バザールからネット取引まで | |
![]() | ジョン・マクミラン 瀧澤 弘和 木村 友二 エヌティティ出版 2007-03 売り上げランキング : 630 おすすめ平均 ![]() 経済学にとって重要なことは何だろうか、それがわかった。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
電波周波数帯のオークション制度の立案者としても知られる著者が、「市場」について真っ正面から取り上げた。原著はニューヨーク・タイムズ紙が毎年クリスマス前に選ぶ「その年もっとも注目すべき本」にも選ばれている。
今日、私たちの生活にとってなくてならない市場とは、具体的にどういう機能を持ったもので、どのように設計されるべきかを、実例に即して丁寧に解説している。市場を扱った本というと、とかく市場主義への熱烈な信仰や、逆にアンチ市場主義を告白したり、喧伝(けんでん)したりする本が少なくないが、本書はそうした本とは大きく異なっている。
効果が期待されながら、特許権が妨げとなり、発展途上国では抗エイズ薬品がしばらく使用されず、多くの人々が犠牲となった。そうした市場ルールに対し、インドや南アフリカなどが特許権を無効にするため立ち上がった。その後自らの知的財産権を守ろうとする多国籍医薬品会社との間で激しい争いが展開された。
著者は市場は不完全で、時折再設計されなくてはならないことなど、私たちが市場に対してともすると抱きがちな、市場は完全であるというような先入観や迷妄を取り払う。その手際は実に鮮やかで、ため息が漏れるほど。社会科学の「良書」とはまさにこういう本を指すのだろう。瀧澤弘和、木村友二訳。
| シブヤ、シブヤ | |
![]() | 石元 泰博 平凡社 2007-06 売り上げランキング : 152748 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
場所は東京・渋谷駅前のスクランブル交差点ただ一カ所。そこにたたずみ、行き交う人々の後ろ姿を撮るというシンプルな方法で、見事に街の熱気をとらえた写真集だ。精いっぱいの自己表現か、安っぽい思想の受け売りか、ただのファッションか、若者のTシャツの柄を見ているだけで面白い。日本の、東京の、という枠に収まらない、わい雑で強欲で少し物騒な街「シブヤ」の体温が伝わってくる。
| 日本に「民主主義」を起業する―自伝的シンクタンク論 | |
![]() | 鈴木 崇弘 第一書林 2007-05 売り上げランキング : 9582 おすすめ平均 ![]() 若年層への期待Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は日本のさまざまなシンクタンクの活動にかかわり、現在は自民党が創設したシンクタンクの理事を務める。自らの体験を踏まえた日本のシンクタンク史であり、なじみの薄いアジア諸国を含め、世界のシンクタンク事情もていねいに紹介している。複数のシンクタンクなどが政策を競い合うことで、民主主義の質を高めたいというのが、題名に込められた問題意識だ。資金集めの難しさなど、当事者ならではの苦労話も興味深い。
| 終生ヒトのオスは飼わず | |
![]() | 米原 万里 文藝春秋 2007-05 売り上げランキング : 2490 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ロシア語通訳、作家として活躍し昨年五月に死去した著者の生前のエッセー。十匹に近い愛犬や愛猫に囲まれた“毛深い家族”との暮らしや、共産党の活動家だった父や母をつづった作品などが集められた。動物たちとの出合いや別れには、いつも強い感情があらわになる。正義感が強く真っすぐで、行動力にあふれる著者の人柄が伝わる。
| NASAを築いた人と技術―巨大システム開発の技術文化 | |
![]() | 佐藤 靖 東京大学出版会 2007-05 売り上げランキング : 47851 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アポロ計画のころの米航空宇宙局(NASA)は、外からは技術的英知の固まりに見えた。内側の現実は、技術開発への異なる価値観を持つ技術者、軍人、大学教授、官僚らの寄せ集めだった。例えばロケット開発の中核を担ったフォン・ブラウンらドイツ人技術者は米国流の管理手法に抵抗し続けた。月面着陸の国家目標実現に向けて、対立と妥協を繰り返した技術者群像を描く。近年のNASAの低迷ぶりやこれからの宇宙探査を考えるうえで示唆に富む。
| 街場の中国論 | |
![]() | 内田 樹 ミシマ社 2007-06-02 売り上げランキング : 106 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
フランス現代思想を専門とする哲学者が、専門外の中国問題をテーマに、大学院の演習で院生らとともに一年間積み重ねた議論をまとめた。著者の中国に関する知識は学校で習った中国史と古典、中国人の知人から聞いた話、百科事典やインターネットで調べたことと新聞記事だけという。だが文化大革命のころ高校生だった著者は当時の専門家がいかにいい加減だったかを振り返り、「街場のふつうの人」の感覚で議論を進める。同じ手法による『街場のアメリカ論』に続く一冊。
| スーフィズムイスラムの心 | |
![]() | シャイフ・ハーレド・ベントゥネス 中村 廣治郎 岩波書店 2007-04 売り上げランキング : 227933 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
アルジェリアに本部を置くイスラム神秘主義(スーフィズム)教団のシャイフ(導師)が、自らの半生と教団の伝統、弟子との関係、修行のあり方などを明らかにする。「革命」「ジハード」といった政治的なイメージとは一線を画し、心の問題の解決を目指して導師のもとで修行を積むスーフィズムの内側を知ることができる貴重な書。東洋も西洋も自分たちの文化が唯一のものであるという考えをやめなければならない、との主張には説得力がある。中村廣治郎訳。
| 中国経済論―高度成長のメカニズムと課題 | |
![]() | 周 牧之 日本経済評論社 2007-04 売り上げランキング : 14547 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国はなぜ「世界の工場」になりえたのか。高成長を続ける中国経済はこれからどこへ向かうのか――。本書は「グローバルサプライチェーン」「メガロポリス」などのキーワードを使って経済発展のメカニズムを構造的に解き明かし、これらの疑問に答えている。
「サプライチェーン」は、原材料を部品、製品へと完成させるプロセス。これらは元々一つの企業の中に内包されてきたが、スピード競争を強いられる情報化時代を迎えて、複数企業が効率よく過程を分担し合う「モジュール化」が進む。同時にインターネットの普及などで、世界各地がモジュールの開発と生産を競う時代に入る。
改革開放期に入っていた中国はこの変化をうまくとらえ、急速な産業集積を進めた。集積地は広州、香港、マカオ一帯の「珠江デルタ」、上海を核とする「長江デルタ」、北京と天津を中心とする「京津冀地域」だ。この三大メガロポリスは二〇〇五年、中国の国内総生産(GDP)の四二%、輸出の七七%を担うまでになり、豊かさを求める農村部からの出稼ぎ労働者たちの活力を吸収し続けている。
ただ中国は建国以来、厳しい戸籍制度を敷いて、農村住民が都市に流入するのを阻止し続けてきた。著者の言う「アンチ都市化政策」である。その結果、いま中国では「農民工」と呼ばれる億単位の出稼ぎ労働者が都市と農村の間をさまよっている。アンチ都市化政策は結果的に国を分断し、地域間格差を拡大してきたのである。
中国の十三億人のうち七億―八億人は今なお、発展から取り残された農村部に暮らす。立ち遅れた農業、疲弊した農村、貧しい農民の「三農問題」をどう解決するかは、現政権の最重要課題だ。
著者は今後取り組むべき改革として(1)都市と農村を分断している戸籍制度の撤廃(2)中央主導の義務教育制度や社会保障体制の確立(3)そのための行財政改革――などを提唱する。〇六年からの第十一次五カ年計画にはすでに、著者が唱え続けてきたアンチ都市化政策の見直しなどが採用された。
全体に学術書の色彩が濃い本ではあるが、読んでみてクールヘッドとウオームハートを感じる。
| 憑神 | |
![]() | 浅田 次郎 新潮社 2007-04 売り上げランキング : 179 おすすめ平均 ![]() 全うすべき己の人生とは何か? 秀作。大傑作ではないが、なかなか。 生きる事の意味を問う感動作Amazonで詳しく見る by G-Tools |
幕末、武家の次男坊として生まれた別所彦四郎は婿入り先から離縁され、出戻りの貧乏暮らしを続けていた。ある日たまたま見つけた稲荷の祠(ほこら)で出世の願をかけて手を合わせたら、現れたのは貧乏神だった――。悲運の下級武士の生き様に人間の真の幸福とは何かを問う、ユーモアとペーソスに満ちた長編。
| 誰も語らなかった中原中也 | |
![]() | 福島 泰樹 PHP研究所 2007-05 売り上げランキング : 94990 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九九八年に亡くなった詩人の高森文夫は、生誕百年を迎えた中原中也の年少の友人だった。中也を敬愛する歌人の著者は、生前の高森から聞いた話を基に知られざる中也の一面に迫る。中也が宮本武蔵の辞世の書「独行道」を常々口にしていたという証言からは「詩道」を追究した中也の姿が浮かぶ。
| あやつられ文楽鑑賞 | |
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昨年直木賞を受賞した人気作家が、ここ三年ほど熱中している文楽について書いた。といっても難解な解説書ではない。「しろうとが何となく見に行ったらこんなに楽しかった、というスタンスで書いた」という本書では冒頭から、文楽の演者に会って「ウキャー!」などと興奮する著者の姿が登場する。演者に初心者の感覚で質問をぶつけながら、文楽の世界を親しみやすく解き明かしていく。
文楽にひかれた理由のひとつに、著者が「文楽マジック」と呼ぶ特別な感動の瞬間がある。「基本的に一人の大夫による語り物であることと関係していると思うが、義太夫が神の声のように響き、劇場全体が一つになることがある」
その時を求めて劇場通いを続けるうち、作品についても考察し始める。「仮名手本忠臣蔵」をダイナミックで、人物の心理を巧みな比喩で描いた傑作と認めつつも「(主役の)由良助は嫌い。いつも登場が遅くて、人を試してばかり」ときっぱり。若者の無軌道な殺人を描いた「女殺油地獄」は、作者の近松門左衛門が殺人に至る心理を説明しないこと、人形が演じることによって、「純度の高い殺意」が現れると見る。
二百数十年前に作られた文楽の登場人物たちの思考や習慣には、もちろん「今と大きなギャップがある」。一方で「国も時代も関係ない、人間の本質が残っていて、そこが楽しい」。
文楽の作者にも関心がわいた。特に「三好松洛が気になってしようがない」。多くの名作に合作者の一人として名を連ねるが、あまり創作の中心になった形跡がないのだ。「才能はあまりないけれど、皆の調整役だったのかな。飲んだくれで、でも浄瑠璃が好きで離れられない人だったのでは? この人で一本物語が作れるくらい、想像は膨らみます」と、作家としての顔をのぞかせた。(ポプラ社・一、六〇〇円)
(みうら・しをん)1976年東京生まれ。早大卒。作家。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞。近作に『風が強く吹いている』など。





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