メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年11月18日~11月25日

脱炭素社会と排出量取引―国内排出量取引を中心としたポリシー・ミックス提案
脱炭素社会と排出量取引―国内排出量取引を中心としたポリシー・ミックス提案諸富 徹 鮎川 ゆりか

日本評論社 2007-10
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地球の温暖化防止には息の長い取り組みが必要だ。京都議定書の約束期間をしのげば終わりというわけではなく、「ポスト京都」と称される次の枠組みの期間、さらにその先も対策を求められる。目指すべきは温暖化ガスの排出を極力抑えた低炭素社会だが、誘導策なしに社会を変革させるのは難しいだろう。

本書はその有力手段と目される排出権取引を徹底分析し、日本政府に制度導入を働きかける提案書である。企業が排出削減すればするほど報われる排出権取引はすでに欧州で市場が整備され、米国でも一部の州政府などが導入に動き出している。日本は産業界などに反対が強く、政府も導入を決断していないが、本書は日本に向いた制度を詳細に検討し、提案している。

欧州の制度や米国の動向も詳しく紹介してあり、日本が置かれている状況もよく分かる。提案は海外の先例の引き写しではなく、問題点も踏まえている。さらに排出増の著しい運輸、民生、中小企業の対策も示し、体系だった政策提案を試みている。

「二〇五〇年までに世界の温暖化ガスの排出半減」という目標に向かうなら、日本も社会システムを再設計する必要があるだろう。大構えの制度を考えず小手先に終始していて目標への道筋をつけられるのか。本書は制度設計を軽んじる政府に、そんな疑問を投げかけている。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

財投改革の経済学
財投改革の経済学高橋 洋一

東洋経済新報社 2007-10
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郵政民営化は小泉改革の一丁目一番地であり、熱い政治の争点になった。本書は竹中平蔵氏の知恵袋だった異能の官僚が、郵政改革の意義を経済学的に論じたものだ。

財政投融資を担う公的金融は、入り口(郵便貯金)、中間(財務省)、出口(政策金融機関)を一体で改革すべし。バブル崩壊後、公的金融に集まり過ぎた資金を民間に戻し、経済の活力をよみがえらせよ。ミソは議論の展開。

快刀乱麻を断つごとく理詰めである。刀はALM(資産・負債管理)分析だ。せっせとお金を集める郵貯は民間金融機関からはガリバーに見えるが、内実は矛盾を抱えていた。財投から運用金利を上乗せしてもらえなくなったのを機に、商売は採算に合わなくなってしまったという。

運用対象を国債とする限り、公社のままでは郵便局などの経費をまかなえず、いずれ経営破綻したはず。一方、公社の経営形態で運用対象を民間金融機関並みに広げるのも、損失発生のリスクを負うだけに、責任体制のうえから難しい。従って経済合理的に見て民営化は不可避だった。以上、QED(証明終わり)。

特殊法人や政策金融の改革の議論も、同様にすっきりしている。著者は安倍前政権の公募人事で官邸入りしたものの、道半ばで挫折した。与野党ねじれ国会で妥協が日常化するなか、「理」の役割を再考させられる書である。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件
私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件フランク・ウイン 小林頼子/池田 みゆき

ランダムハウス講談社 2007-09-06
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おすすめ平均 star
starファン・メーヘレンという「作品」

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一九三七年、パリ。ある画家と法律家の間で、一点のオランダ絵画に関する情報が取り交わされた。作品名は「エマオの食事」。かのヨハネス・フェルメールの手になるものではないかという。その作品は、法律家を介して目にした美術評論家の認めるところとなり、五十万ギルダーを超える巨額でロッテルダムのボイマンス美術館に収まった。世に知られるフェルメール贋作(がんさく)事件の発端である。

ロンドンを拠点にジャーナリストとして活動している著者が、事件の主人公である贋作者、ハン・ファン・メーヘレンの生涯をたどりながらドキュメンタリー仕立てで書き起こしたのが本書だ。様々な書籍で取り上げられてきた事件だが、追い込まれる主人公の苦境やあせりを描き出す一方で、いかにして科学的な検査をすり抜けられる贋作を作ったのかなどが綿密に記されており、読みどころは多い。

特に力が入っているのは、美術品の真贋を決める人々の心理描写だ。十七世紀の別の画家の作品から絵の具をそぎ落として古いカンバスだけを取り出し、フェルメールが特に好んだ顔料を要所で使うメーヘレンの手腕は見事だ。しかし、真作と思わせた決定要因は、初期作の新発見を待ちわびていた美術評論の権威たちの心のすきに付け入ったことだった。権威と美術の関係を問い直す一冊。小林頼子、池田みゆき訳。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

戦争―WAR DNA
戦争―WAR DNAQ.サカマキ

小学館 2007-10
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民族紛争が続くイスラエル、軍圧制下のハイチ。コソボにアフガニスタン、イラク。今ある「戦争」の現場を生々しく伝える報道写真集だ。殺りくと破壊と狂気をこれでもかと繰り返す世界。著者は、人間には「戦争の遺伝子」が存在する、とすらいう。ならば正面から戦争を見つめることが平和への一歩ではないかと。確かな取材と技術に支えられた作品が雄弁に「反戦」を語る。写真はリベリアの少年兵。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

規制改革の経済分析―電力自由化のケース・スタディ
規制改革の経済分析―電力自由化のケース・スタディ八田 達夫 田中 誠

日本経済新聞出版社 2007-10
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規制改革の課題は多岐にわたる。そのなかで、本書は副題にあるとおり電力自由化に焦点をあて、様々な角度から経済分析を試みた。経済産業研究所の研究プロジェクトに参加した学者が各章を分担執筆している。決定打を欠く電力の安定供給策についてコメントした終章で、プロジェクト主査の八田氏は大改革をしなくても供給の安定度を高める方策はあると説く。政府や自治体のエネルギー政策担当者、電力会社で実際に企画立案をしている人らには打って付けの専門書だろう。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

日韓企業戦争 国際市場で激突する宿命のライバル
日韓企業戦争 国際市場で激突する宿命のライバル林廣茂

阪急コミュニケーションズ 2007-11-01
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おすすめ平均 star
star提灯記事もいいとこだろ
star簡単な、最近の日韓企業に対する分析

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競争相手の正確な様子を知らずに有効な対策を立てるのは難しい。しかし、日本と韓国の産業界の場合、これまでお互いに望遠鏡のそれぞれ反対側から相手を眺めていたようなところがあったという。本書は両国のビジネス事情に通じた著者が、自動車とデジタル家電産業を中心に、両国企業の等身大の実力を比較・分析した。両国の産業の本当の実力を知りたい人にはうってつけの一冊。文章も読みやすい。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

自伝 じょうちゃん
自伝 じょうちゃん松谷 みよ子

朝日新聞社 2007-11-07
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『龍の子太郎』『いないいないばあ』などの児童文学や絵本で知られる著者の自伝。家族から「じょうちゃん」と呼ばれた穏やかな幼い日々の後、十一歳で代議士だった父を亡くす。戦争中の軍国少女の顔と戦後の厳しい生活、師と仰ぐ坪田譲治との出会いと交流、結婚、出産、離婚。一九五一年に出版された初の著作『貝になった子供』が児童文学者協会新人賞を受賞した際、坪田から送られた作家の心構えを説く手紙も興味深い。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

上野寛永寺将軍家の葬儀 (歴史文化ライブラリー 243)
上野寛永寺将軍家の葬儀 (歴史文化ライブラリー 243)浦井 正明

吉川弘文館 2007-10
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上野は江戸幕府の聖地だった。その中心は徳川家の菩提寺で祈願寺の役割も兼ねていた寛永寺。本書は、寛永寺の執事長で歴史研究でも知られる著者が、寛永寺建立の経緯を紹介しつつ、知られざる将軍葬儀の実態に迫った。例えば、五代将軍綱吉の場合、その死が公表されるよりかなり前に寛永寺の要職者は他界の事実を知っていたという。将軍葬儀は幕府の一大事。入念な準備が必要だった。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

なぜデザインなのか。
なぜデザインなのか。原 研哉/阿部 雅世

平凡社 2007-10-02
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「触覚」がテーマの展覧会を企画するなど、感覚を目覚めさせることをデザインの役割と考える原研哉。工夫して作る工作こそデザインと訴える阿部雅世。本書は日本とドイツ在住の二人の気鋭のデザイナーの対談集だ。学校の図工は創造性の時間。この教育が国語や算数と掛け合わせられることではじめてノーベル賞級の独創的な研究が生まれるという原の指摘は示唆に富んでいる。デザインの本質を実に分かりやすく楽しく伝える好著だ。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

臥竜の天 上 (1)
臥竜の天 上 (1)火坂 雅志

祥伝社 2007-11
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臥竜の天―長編歴史小説 (下)
臥竜の天―長編歴史小説 (下)火坂 雅志

祥伝社 2007-11
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戦国から江戸初期にかけての武将、直江兼続を主人公とする『天地人』が、二〇〇九年のNHK大河ドラマの原作に決まるなど、注目を集める歴史小説作家。『臥竜(がりょう)の天』では、天下をとった武将に匹敵するほどの強い印象を残した伊達政宗の生涯を描いている。

「政宗に注目したのは『天地人』を書いたとき。上杉謙信譲りの『義』を重視した兼続を、現実主義者の政宗は皮肉るような言葉を残している。自分が生まれた出羽米沢を、兼続が居城としていることを面白くない気持ちもあったのだろうが、そうした北のライバル関係に興味を覚えた」

政宗の魅力は「大臣ポストを狙わず、ずっと自分で政権をとることを目指した点にある」と見る。政宗は徳川政権成立後も、海外との交易による自主財源の確保をもくろんだ。「病床の家康から『江戸の将軍を頼む』と言われるまで、天下をあきらめなかった」

政宗の美意識にも注目する。「金の世界を愛した豊臣秀吉と、黒の世界を好んだ千利休が最後に対立したことはよく知られている。政宗は両方を理解していたのではないか」と話す。その振幅の大きさも政宗の面白さの一つという。

司馬遼太郎にあこがれて歴史小説の道へ。一九九九年、秀吉の参謀だった医師を描いた『全宗』で戦国時代を初めて舞台に選んだ。「戦国は書き尽くされていて、ペンペン草も生えていないと思っていた。でも、武将の近くにいた医師、僧侶、商人などの知恵者を通じて武将を描く手法に気づいたら、戦国は豊かな森に変わった」と振り返る。

「歴史小説は茶の湯のような総合芸術。歴史を切り取り、そこにアクションや恋愛といった要素が入ってくる。二十年、三十年続けないと納得する作品は生まれない」ときっぱり。趣味の骨董(こっとう)・書画集めも創作につながっている。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

贈答のうた (講談社文芸文庫 たD 7)
贈答のうた (講談社文芸文庫 たD 7)竹西 寛子

講談社 2007-11-09
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人に贈るうたと返しのうたを示す贈答歌は、独詠歌に比べて注目されてこなかった。しかし、作家・文芸評論家の著者は「独詠独吟よりも更に日本人の心の動きの事実に近づき易い」と述べ、勅撰(ちょくせん)和歌集、私家集、物語、日記文学の贈答歌を取り上げて読み解く。二〇〇三年の野間文芸賞受賞作。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

統一コリア―東アジアの新秩序を展望する (光文社新書 317)
統一コリア―東アジアの新秩序を展望する (光文社新書 317)玄 武岩

光文社 2007-09
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おすすめ平均 star
star太陽政策への不安を感じる
star著者は三八六世代で、韓国の市民派、民族主義
star隣家で進む大きな変化

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二〇〇〇年六月の南北首脳会談によって、韓国と北朝鮮はそれまでの「敵対の時代」から「和解・協力の時代」へと移行した、と韓国出身の北海道大学准教授である著者は指摘する。政治、経済、軍事、芸術、スポーツなど、あらゆる分野で人的な交流が進む朝鮮半島の現状を明らかにする。

■2007/11/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

レバレッジ・リーディング
レバレッジ・リーディング本田 直之

東洋経済新報社 2006-12-01
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おすすめ平均 star
star非常に分かりやすい
starあのメモ欲しい!
starビジネスのための読書術

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キラー・リーディング 「仕事脳」が劇的に回り出す最強の読書法 (JBシリーズ)
キラー・リーディング  「仕事脳」が劇的に回り出す最強の読書法 (JBシリーズ)中島 孝志

実業之日本社 2007-09-19
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おすすめ平均 star
star「究極の情報処理技術」に驚嘆
star「意外にいいわよ!」
starこれをキラーリーディングすると

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無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法
無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法勝間 和代

ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007-04-05
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おすすめ平均 star
starタイトルがいいよね…
star収入アップをモチベーションとした勉強
star良書だとは思うが

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仕事に活かす!本200%活用ブック
仕事に活かす!本200%活用ブック日本能率協会マネジメントセンター

日本能率協会マネジメント 出版情報事業 2007-09-24
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おすすめ平均 star
star読書家になろうとしている人向け。
star読書について
star問題解決型・読書術!!!

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本を読む本 (講談社学術文庫)
本を読む本 (講談社学術文庫)モーティマー・J. アドラー C.V. ドーレン Mortimer J. Adler

講談社 1997-10
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おすすめ平均 star
star本を読むことは
star原著も読むべき本
starまさに、、、『本』を読む本

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本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)
本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)平野 啓一郎

PHP研究所 2006-08-17
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おすすめ平均 star
star充実感!!
star純粋に文学を楽しむための一冊
star内容はごもっともなんだけど・・・。

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「読書術」を指南する本の出版が盛んだ。本田直之著『レバレッジ・リーディング』(東洋経済新報社)などベストセラーも少なくない。本という比較的安価な投資で、大きなリターンを得ることを説く同書と同様、内容は極めて実用的だ。

中島孝志著『キラー・リーディング』(実業之日本社)のニュアンスは「究極の読書法」。業務上の資料などで、年間三千冊を読むコンサルタントが、ビジネスマン向けに、読書を仕事に活用して成果を生みだす手法を著した。  要点は、いかに有用な情報を見いだし、消化した上で知的生産に結びつけるかということ。「方法論とは(中略)、読んだからといって、それで発想力がつくわけでもアイデアがひらめくわけでもない」との指摘は、「とにかく読め」というメッセージだろうか。

十二万部以上売れた勝間和代著『年収10倍アップ勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、問題意識を持った乱読を勧めた上で、「乱読というのは、質のよい情報の中から自分の問題意識にあったものをスキャンする能力」と指摘する。『キラー・リーディング』にも通底する読み方といっていい。

『本200%活用ブック』(日本能率協会マネジメントセンター編、発行)は、様々な「成功者」の読書術の要点をまとめた。『レバレッジ・リーディング』では、同じジャンルの本を徹底的に読むことを推奨する。「同じことが書いてあれば、それは誰もが認める重要なポイント」だからで、それを実践した一冊といえる。

読書術の古典、M・J・アドラー、C・V・ドーレン著『本を読む本』(外山滋比古・槇未知子訳、講談社学術文庫)にも、目次を読む、拾い読み、その上での著者の議論の検討という各書と同じことが書かれている。訳者あとがきでの「求道的、人生的」な読書から、「実際的、知的」な読書への転換という指摘が、三十年経た今も有効だ。

即効的な読書と一見反対の「スロー・リーディング」を説く平野啓一郎著『本の読み方』(PHP新書)も、読書術について「それを誰からも教わってはこなかった」というように読書術への渇望はつきない。意匠、立場は異なっても、「どう読むか」は、普遍的なテーマであり、読者もなかなか確信が持てない。それこそが読書の面白さの由縁だ。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

貨幣と銀行―貨幣理論の再検討
貨幣と銀行―貨幣理論の再検討服部 茂幸

日本経済評論社 2007-10
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不況が続きデフレが深刻だったころ、「日銀は資金をじゃぶじゃぶに供給すべきだ」という主張がエコノミストの間で盛り上がった。金融の量的緩和論である。日銀も二〇〇一年から〇六年まで五年間、この政策を採用した。

日銀にとっては、金利をゼロ%より下に下げられないなかでの苦肉の策だったが、論者が期待した効果はあったのか。本書は全くなかったと言い切る。一向に貸し出しは増えず、銀行が無利息で日銀に預ける超過準備が積み上がっただけだったというのだ。

貸し出しが増加しなくても、証券の保有が増えれば良いではないかとの主張もあった。ポートフォリオ・リバランス(資産の組み替え)論だが、これもダメ。日銀が銀行から国債を買い上げてしまうと、その分むしろ銀行の保有額は減るとの分析を示す。

企業などの資金需要がなく、銀行のリスク許容力が落ちた局面では、日銀がいくら資金を供給しても、銀行信用は拡張しない。量的緩和論者にはこの当たり前のことが見えていない。彼らが好んで引く戦前の高橋財政も、その実体は拡張財政にあり、金融緩和にはないとも主張する。

「銀行危機にともなう取りつけ騒ぎは一九九〇年代以降の日本には生じていない」。こんな指摘も散見されるものの、全体の主張はすっきりしている。大いに論争が巻き起こるのを期待したい。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

アルファドッグ・カンパニー (講談社BIZ)
アルファドッグ・カンパニー (講談社BIZ)D. フェン 宮本 喜一

講談社 2007-09-26
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star小企業(店)ほど差がつく
star夢とパワーを与えてくれる良書
star中小企業経営者に勇気を与えてくれます

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本書によると、米国では「創業から六年のうちに、六〇%が消えてしまう」という。激烈な競争の中で、どのような企業が小なりとはいえ、同業の中で抜きんでた存在になれるのか。七社の具体的なケースでまとめている。

題名の「アルファドッグ」とは、群れの先頭に立つ犬という意味だそうだ。本書の面白さはIT(情報技術)系の企業を避けて、どこにでもありそうなローテク企業を取り上げている点である。

自転車販売店や食料品店、アイスクリーム店、靴下メーカー、オートバイ販売店などで、業種をみるといかにも地味である。大企業や外国製品の攻勢の前にひとたまりもなさそうだが、それぞれ独創的な経営を誇っている。

コネティカット州の自転車販売店のゼインズ・サイクルズは、巨大なウォルマートなどを寄せ付けない。鍵は、顧客の期待する以上のサービスである。販売した自転車に「生涯無料サービス」を保証するのは最たるものだ。同業者は「頭がおかしいのではないか」と思ったそうである。

地域に根を張り、従業員を尊重しているのも共通する。最も大事なのは「ここで働いている人たち」と明言する経営者もいる。一見、変わった経営のようだが、手品ではない。日本にも似た企業はある。筋が通っており、やればできるのではないかとの思いがわいてくる。宮本喜一訳。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢
パソコン創世「第3の神話」―カウンターカルチャーが育んだ夢ジョン・マルコフ 服部 桂

エヌティティ出版 2007-10
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グーグルの成功や「iPod」の登場など、パソコンやインターネットの技術革新はとどまるところを知らない。その多くの技術が実は米シリコンバレーから生まれている。本書は様々な技術革新がなぜ西海岸を中心に起きたのか、そのルーツを探った。

著者は情報分野に詳しい米ニューヨーク・タイムズの記者で、舞台はパソコン誕生前の一九六〇年代にさかのぼる。パソコンの原型を開発したのは米ゼロックスのパロアルト研究所(PARC)で、そのまねをして成功したのが米アップルだというのが定説だ。しかし基本的なパソコンの技術は本当はその前に存在していたと本書は指摘する。

『第3の神話』と訳したのは定説を覆す話という意味だが、原題はもっとしゃれている。直訳すれば「ヤマネの言ったこと」。「不思議の国のアリス」に登場する小動物が語った話になぞらえ、さりげなく定説に異論を唱える。

その物語の主役がスタンフォード研究所(SRI)の研究者、ダグラス・エンゲルバート氏だ。マウスの開発者として知られる彼は六八年にパソコンの基本構想を発表。二年後に設立されたPARCにも大きな影響を与えた。

パソコンが西海岸で成功したのは東部に対するカウンターカルチャー(反体制文化)にも起因すると本書は分析。技術論より文化論として読んでも面白い。服部桂訳。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

市場と法 いま何が起きているのか
市場と法 いま何が起きているのか三宅 伸吾

日経BP社 2007-10-25
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社会のなかで市場機構が働く空間が大きな割合を占める「市場国家」。日本もその一つだが、その正当性は「規律の包囲網」がなければ失われる、と経済法制を専門とする著者はいう。インサイダー取引や粉飾決算、敵対的企業買収、談合などを取り上げ、ライブドア事件や村上ファンド事件などの具体例を交えながら、市場国家を支える「法と担い手」の現状と課題を探る。検事や弁護士のあり方にも言及している。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

農業ブランドはこうして創る地域資源活用促進と農業マーケティングのコツ
農業ブランドはこうして創る地域資源活用促進と農業マーケティングのコツ後久 博

ぎょうせい 2007-10-24
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地域の衰退がいわれて久しい。地域産業の形成・強化を支援する中小企業地域資源活用促進法の施行を追い風に、農林水産品などの「ブランド化」の重要性が増している、とまちづくりのコンサルティングに携わる著者は指摘する。本書は農業ブランドの構成要素や効果、マーケティングのコツ、開発と広告の戦略などを総括的に解説。コメや青果物、牛肉、水産物などの具体的なブランドの事例を豊富に織り交ぜており興味深い。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く
スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解くジョセフ・E・スティグリッツ 藪下 史郎 藤井 清美

ダイヤモンド社 2007-10-19
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おすすめ平均 star
star忙しい方はの第1章「21世紀初めの日本と世界」だけでも
star投資効率は高い

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世界銀行のチーフエコノミストをつとめ、二〇〇一年に情報の経済学でノーベル経済学賞を受賞した著者が毎月一回、雑誌向けに執筆した寄稿原稿をもとに、一部書き下ろしを加えて読みやすくまとめた。一つ一つの文章が短いため、十分論が尽くされておらず、ともすると「言いっ放し」になっているのが難点だが、海外有識者の一つの見方として真摯(しんし)に受け止めたい。藪下史郎監訳、藤井清美訳。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

TOKYO YEAR ZERO
TOKYO YEAR ZEROデイヴィッド ピース 酒井武志

文藝春秋 2007-10-11
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おすすめ平均 star
star自称通りの人間は誰もいない・・・
star文体が散文的
star幻惑的な探偵小説

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終戦直後の日本を揺るがした小平義雄による連続婦女暴行殺人事件を東京在住の英国人作家が小説化した。GHQ(連合国軍総司令部)や外国人アウトロー、露天商らがうごめく東京の闇社会を舞台に、ミステリーが展開していく。占領期の日本の暗部を描く三部作の第一弾。このあとには帝銀事件と下山事件が予定されている。日本側の企画によるシリーズで、欧米でも刊行が予定されている話題作だ。酒井武志訳。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アメリカにいる、きみ (Modern&Classic)
アメリカにいる、きみ (Modern&Classic)C・N・アディーチェ くぼた のぞみ

河出書房新社 2007-09
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おすすめ平均 star
starナイジェリアからアメリカへ~心震わせる珠玉の作品集。

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ナイジェリア人の女性作家の短編集。表題作は同国を逃れて米国に渡った若い女性移民の戸惑いと決意を描く佳作。「きみ」と二人称で呼びかけられる主人公はやがて米国人男性と恋に落ちるが、父の死の知らせを受けて再び母国に戻る。「アメリカ大使館」は政府の兵士に息子を殺された母親の悲痛な心を描き、胸を締め付けられるような読後感が残る。過酷な政治的現実がテーマだが、その筆致は不思議にみずみずしい。くぼたのぞみ訳。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アラビアのバフェット“世界第5位の富豪”アルワリード王子の投資手法 [ウィザードブック125](DVD付) (ウィザードブックシリーズ 125)
アラビアのバフェット“世界第5位の富豪”アルワリード王子の投資手法 [ウィザードブック125](DVD付) (ウィザードブックシリーズ 125)リズ・カーン 塩野未佳

パンローリング 2007-08-09
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starなぜこの分厚い本がかくも廉価なのか?
starすごく分厚いのに1800円で仰天!
starこんな人だったんだ!

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アラブの王族というと、「石油成金」「浪費家」といったステレオタイプなイメージを抱く人が多いかもしれない。だが、現実に政治やビジネスでリーダーシップを発揮している王族と接してみると、合理的な発想や戦略的な意思決定に感銘を受けることが少なくない。部族社会の色濃い国々で指導的地位に就いている人たちは、若いころから能力と資質を問われ、鍛えられてきた人たちである。

本書は、世界的な投資家として知られるサウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子の生い立ちと投資の歩み、世界をまたにかけた行動を詳細につづった本だ。「公認の伝記」だから好意的な記述が多いが、その点を割り引いても、王子がどのような人物かよく理解できる読み物といえる。

アルワリード王子は一九五五年生まれ。父はサウジの王家の中で飛び抜けたリベラル派として「自由プリンス」と呼ばれたこともあるタラール王子、母はレバノン独立後の初代首相の娘だ。開放的なベイルートで幼少時を過ごし、米国の大学に留学した経験が、米欧の企業トップとの互いに違和感のない人脈形成に生きている。

時間の感覚がルーズなアラブでは珍しい徹底した時間厳守、事業展開の際の詳細なリサーチ、ブランド力を持つ企業の株価下落時に果断に投資し長期的リターンを追求する戦略……。この本を読み進むうちに人物像と投資家としての「ファイナンシャル・インテリジェンス」が克明に伝わってくる。

シティバンク、フォーシーズンズ・ホテル、ロンドンのカナリーウォーフ開発など、よく知られた国際投資だけでなく、サウジで初めての敵対的買収などを通じて国内に金融・流通・不動産・メディアのコングロマリットを構築していくプロセスも興味深い。

九・一一後のアラブと米国のきしみの中で橋渡しの役割を担おうとしながら、政治的な反発や誤解を受けるエピソード。自国について「欧米化はあり得ないが、近代化は絶対に必要」「変革は避けられない」と言い切る自負。本書に出てくる王子の言動や周辺人物のコメントは、近年のサウジの社会の変化と葛藤を知る手掛かりにもなるだろう。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

山上宗二記入門―茶の湯秘伝書と茶人宗二
山上宗二記入門―茶の湯秘伝書と茶人宗二神津 朝夫

角川学芸出版 2007-09
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人なつっこい笑顔からは想像しにくいが、従来の茶道史研究のあり方を疑問視し、独自の学の確立を目指す反骨の人だ。本書の執筆動機を尋ねると、「茶道界におもねらず、客観的な研究をしたかった」と厳しい表情になった。

本書で取り上げたのは千利休の高弟、山上宗二(やまのうえのそうじ)。秀吉に仕えるが、歯にきぬ着せぬ批判が怒りを招き、最後は惨殺された悲運の茶人だ。「宗二は茶道を通して世の中を変えようという理想を持った男。その生涯には謎も多いが、私には実に魅力的な人物」と語る。

本書の中心は宗二が当時の茶会の様子を記録した『山上宗二記』を読みやすく再構成した部分。複雑な構成の全文をパソコンで打ち込んで整理し、わかりやすい文章と体裁に仕立て直した労作だ。「一見、記録はごちゃごちゃしているが、宗二の頭の中では整然とした茶道の体系があったことがわかった」

もともとの専門は経済。ドイツ留学中に岡倉天心の『茶の本』を読み、帰国後、研究の道へ進んだ。だが「先行論文には首をかしげる記述が多い。研究者が茶道界に遠慮し、きちんとした研究がなされていないと思った」。利休の「わび」の本質に迫った前著は、学界の主流派からは異端視されたが、若手研究者らの熱い支持を受けている。

現在は茶の湯の通史の執筆に取り組む。「単なる茶人列伝でなく、きちんと資料を読み込み、日本史理解の参考にもなる内容にしたい」。一年後をメドに本にまとめ刊行する予定だ。

自らも茶道をたしなむ。「利休や宗二の時代と同じ状況を再現できるのが茶道のいいところ。自分でお茶をたてることで初めて浮かんでくる発見や疑問がある。茶の湯の実践なくして研究はありえない」。静寂を愛する茶人と、闘う研究者がこの人の心の中に住んでいる。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

日本の色を歩く (平凡社新書 396)
日本の色を歩く (平凡社新書 396)吉岡 幸雄

平凡社 2007-10
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京都の染色家である著者が、伝統色探訪の旅に出た。和歌山県の根来寺に漆器の赤のルーツを訪ねると、丸柱の周りに鮮やかな赤の彩りがあった。明礬(みょうばん)の白の探求のために大分県別府市に出かけると、江戸時代の明礬製造の名残であるわらぶきの小屋が点在していた。日本の色への認識を新たにする一冊。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

パレード
川上 弘美 (著), 吉富 貴子 (イラスト)

ベストセラーとなった「センセイの鞄」の番外編のような小説で、ヒロインのツキコさんが、センセイに子供のころの不思議な体験を語る。吉富の絵を伴走者に、童話のような風合いを漂わせながら、天狗(てんぐ)のような奇妙なモノと少女との出会いがつづられる。巻末にある哲学者の鶴見俊輔による解説もぜいたく。

■2007/11/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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