メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年10月21日~10月28日
新・戦争論―積極的平和主義への提言
伊藤 憲一 (著)
冒頭に面白いエピソードがある。シンクタンクの会合で安全保障問題を議論したところ、あるエコノミストが「平均的日本人の最大の関心は経済だ」と言い放った。経済が最大の関心事なのは平和と安全が保障されてこそ、と著者は考える。それが気づかれていない日本の現状に対する憂いが本書を貫く。著者は外交官を経て若いころ大学教授に転じ、シンクタンクを主宰する国際政治学者である。立場は紛れもなくリアリストだ。
著者が青山学院大学教授の時代に講じたのは戦略論だった。おそらく日本で最初の講座だったろう。戦略論は軍事戦略ではない。もっと大きな国家戦略であり、軍事戦略が想起する技術的領域の議論とは異なる。本書を読めば、それがよくわかる。
戦略論を語るには世界中の地域情勢を知らなければならない。その意味で水平的な世界認識が要る。そのうえでそれぞれの地域の歴史を知らねばならない。世界を垂直的に知らなければならない。その意味で戦略論は哲学に近いようにも思える。
戦略という言葉は時に魔法の言葉のように使われる傾向がある。「要するに日本には戦略がないんだ。それが問題だ」と言えば、一応知的な感じがする。しかしそれは何の解決にもならない。だからこそ、世界を見る目を持つために本書は意味がある。短く読みやすい。が、内容は深く重い。
| 進化する企業のしくみ (PHPビジネス新書 40) | |
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ネット技術の新潮流を表す「Web2・0」が話題を呼んだが、経営にどう生かしたらいいかわからない、という疑問を持った人におすすめしたいのが本書だ。Web2・0時代のIT(情報技術)の活用法について、経営コンサルタントとNTTの経営者が平易な言葉で解説した。
本書には「異業種格闘技競争」や「消費者主権主義」といった様々なキーワードが登場する。インターネットの広がりに伴い、業界の垣根が崩れ、企業より消費者が主導権を握るという意味だが、それを加速しているのがWeb2・0の新技術だという。
音楽分野ではパソコンメーカーだったアップルが流通を牛耳り、金融分野ではセブン―イレブンが新たなプラットフォームを提供する。化粧品など消費財市場では購買者の口コミ情報が売れ筋を作り出す。ネット技術の進化に伴うシステム費用の低廉化や情報共有の仕組みが、そうした常識の変化をもたらした。
著者は多くの人がITなどの経営環境や競争ルールの変化に気づいていないという。企業が成長を続けていくには、社員一人ひとりが自発的に情報を発信し、それを共有できるオープンな経営環境を構築する必要があると説く。
著者が属するNTTの技術もさりげなく紹介されているが、新しいITの流れを知るには格好の一冊だ。ビジネスマンにもわかりやすい。
| ギターを抱いた渡り鳥―チカーノ詩礼賛 | |
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カリフォルニア州の南端、メキシコとの国境にある町、サンイシドロ。そこにある大規模なマーケットはメキシコ側からやってきた買い物客でにぎわっている。衣料品や日用品を持てるだけ買い込み、バスで再びメキシコに帰っていく人々――。本書はそんなグローバル時代の国境の町の描写から始まる。
現代におけるボーダー(境界)の文化について、著者が自らの足で米墨国境をフィールドワークしながら書いた本だ。ここでいうボーダーとは国境だけでなく、言語・民族・性別など様々な境界も意味している。それを渡り鳥のように越えていくとき、人はどんな言葉をつむぎだすのか。
不思議な本ではある。「ロベルト」と名乗り、おぼつかないスペイン語を使って旅をする著者の紀行文、チカーノ(メキシコ系アメリカ人)詩人を紹介する短い評論、日系メキシコ人の少女とアメリカ先住民の少年との旅を描くフィクション。この三つの文章が一冊の本の中で「ボーダーレス」に同居しているのだ。
経済のグローバル化に後押しされるようにして、世界レベルで文化の混交が急速に進んでいる。メキシコから遠く離れた島国に住む私たちもまた、「静的かつ固定的な主体ではなく、たえず意味を付け加え、意味を変えていくボーダーの人」たらざるをえないのだと、本書を読んで気づかされた。
| 最終工場 (JAPAN DEATHTOPIA SERIES) | |
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元祖・廃虚写真家が、15年にわたり撮影した全国の工場跡。明治以降、日本の近代化、工業化を担った鉱山やセメント工場、製紙工場が、鉄とコンクリートのがれきとなって横たわる。植物に覆われ、土へと返っていく建物の中には、古代の神殿を思わせる姿もある。公害や戦争といったまがまがしい記憶も押し流す圧倒的な時の力を感じさせる。写真は熊本県八代市の日本セメント八代工場跡。
イスラーム政治と国民国家―エジプト・ヨルダンにおけるムスリム同胞団の戦略
吉川 卓郎 (著)
一九二〇年代にエジプトで生まれたムスリム同胞団はイスラム政治運動に大きな影響を及ぼしてきた。パレスチナのハマスも同胞団の流れをくむ。本書は弾圧を繰り返し受けてきたエジプトの同胞団と、その支部として生まれ政府との協調を基本としたヨルダンの同胞団の歩みを振り返り、イスラム政治運動と国家の関係を比較考察した論文集だ。湾岸戦争への対応や議会のあり方の違いなど、両国の政治情勢解説も興味深い。
| 90年代の証言 森善朗 自民党と政権交代 (90年代の証言) | |
![]() | 五百旗頭 真/伊藤 元重/薬師寺 克行 朝日新聞社 2007-10-05 売り上げランキング : 76854 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
元首相が語る過去約四十年間の政界裏話だ。要職を歴任し、自社さ連立政権の樹立などの政変にかかわってきただけに、エピソード満載だ。角福戦争以来の政敵である小沢一郎民主党代表の評価が低いのは当然として、五年間も支え続けた小泉純一郎元首相にも冷ややか。伝統的な自民党政治を体現する「最後の大物」であることを痛感させる。「まだ言えない」と言葉を濁すところが何カ所かあり、続編の登場が待たれる。
| 冷戦期中国外交の政策決定 | |
![]() | 牛軍 千倉書房 2007-09 売り上げランキング : 39722 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国建国の一九四九年から毛沢東が亡くなる七六年までに起こった紛争や外交案件で、中国の外交政策がどのようなやりとりを経て決定されたかを分析した。朝鮮戦争、中印国境紛争、ベトナム戦争での援越抗米、中ソ国境紛争など七つの事例を取り上げる。細かな史実の検証がしっかりしている。著者が新潟大学で行った一週間の集中講義録を整理、加筆してできあがったせいか、話を聞くように読み進むことができる。真水康樹訳。
| カラヴァッジョへの旅―天才画家の光と闇 (角川選書 416) | |
![]() | 宮下 規久朗 角川学芸出版 2007-09 売り上げランキング : 41882 おすすめ平均 ![]() お勧めです☆ 画家の生涯を旅する!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
殺人者でありながら教会のために多くの宗教画を描き、光の表現を効果的に使った迫真の描写で西洋美術史に新しい展開をもたらしたイタリアの画家、カラヴァッジョ。剣を持って賭場や酒場を遊び回る一方、いったん絵を描き始めると恐ろしいほど緊迫した集中力を見せたという。本書は、画家の生誕以来の足跡を丹念にたどった著者が、名声を得ながらも逃亡を続けざるをえなかった破天荒な人生を一望し、作品において成し遂げたリアリズムの神髄に迫る。
| メレクザーラ―ドイツ人の民話 | |
![]() | J.K.A.ムゼーウス 鈴木 満 国書刊行会 2007-09 売り上げランキング : 594931 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
十八世紀のドイツで民間伝承されていた昔話や伝説を再録したのが原著の『ドイツ人の民話』。本書で邦訳版の三冊が完結した。グリム童話のように民話を忠実に再現しようというよりも、フランスの詩人ペローのように伝承に時代考証を取り入れて、読みやすく書き直しているのがムゼーウスの特徴だ。お姫様が恋した伯爵には妻子がいた、といった大人向けの童話を四編収録する。原著にも収録された木版画の挿絵が味わいを深めている。鈴木満訳。
| ユーロへの挑戦 | |
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ユーロは国際金融の世界でドルに次ぐ地歩を固めつつある。ドイツ、フランスなどが欧州単一通貨ユーロを発足させたのが一九九九年。欧州は第二次大戦後の半世紀余りを通貨統合に費やした。
著者は八〇年代に西独の大蔵次官、九〇年代にドイツ連銀の総裁を務めた生き証人だ。欧州経済の知識が乏しい人が読むと退屈なところもあろう。にもかかわらず、何度も戦火を交えたドイツとフランスが軸となり、通貨統合を実現していく過程はひとつのドラマである。ユーロを生んだのは、何にも増して政治的な意思である。その当事者でなければ記せない貴重な証言が、本書の価値なのである。
八七年十一月二十五日、シラク仏首相はコール西独首相との個人的会談で切り出した。独仏金融経済評議会を創設しよう。大蔵次官としてコール首相から話を聞いた著者の驚きは大きかった。ドイツ連銀と連邦議会は最初、連銀の独立性を脅かされると反発した。後から振り返ると、フランスはドイツをアンカー(いかり)役に自らの経済安定を図ろうとしたのだ。
独仏の蜜月に嫉妬(しっと)したのはサッチャー、メージャー首相時代の英国だ。シュレジンガー独連銀総裁の会見記事の解禁日破りを引き金にした九二年九月の欧州通貨危機で、英国ポンドは欧州の為替相場メカニズム(ERM)離脱を余儀なくされる。その間の英独の角逐の厳しさは控えめな記述からも伝わってくる。
欧州中央銀行(ECB)の初代総裁人事を巡る逸話も面白い。独連銀総裁である著者を含め各国はオランダ中央銀行のドイゼンベルグ総裁を推した。フランス銀行のトリシェ総裁だけは本国政府の了解を得られないという。やがて仏政府がトリシェ氏をECB総裁候補として発表した。
シラク大統領は両候補が八年の総裁任期を折半することを提案する。妥協案はドイゼンベルグ氏が「総裁個人の決定」で八年の任期に固執しないと宣言することだった。トリシェ氏もさぞバツが悪かったろうが、今やECBの名総裁とされる。人間絵巻こそがアジアの通貨統合への指南となる。
| 渥美清―浅草・話芸・寅さん | |
![]() | 堀切 直人 晶文社 2007-09 売り上げランキング : 117271 おすすめ平均 ![]() 新たな取材が含まれていれば・・・。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国民的な人気俳優の渥美清が亡くなってから十一年。映画「男はつらいよ」の関連本をはじめ数多くの本が出版されてきたが、「引用」をモザイクのように組み合わせた本書はその中でも異彩を放つ。「しゃべりのおもしろさをそのまま伝えたかった」との狙い通り、渥美自身の言葉と、友人や知人が書き留めた語りで「下町文化の語り部」の人生を生き生きとつづる。
幻想文学に造詣が深い文芸評論家の著者と渥美は一見意外な取り合わせだ。実際、縁といえばバラエティー「夢であいましょう」、ドラマ「男はつらいよ」など子供時代から断片的に見たテレビのみだという。
きっかけは二年前に完結した「浅草」四部作。浅草は両親が戦時中に住んだ町で、横浜の鶴見での子供時代には、東京大空襲を浅草で生きのびたことなどを母親に繰り返し聞かされていた。母親はトビ職人の家の出身。奉公先では芸者上がりの老女に連れられ、歌舞伎や寄席に通ったそうだ。「山の手や権威主義が嫌いで、常に庶民の目線があった。ものの考え方や価値判断、下町的なこだわりを、この母から受け継いだのかもしれない」と気付いた。
渥美は「下町のはずれ」の出身だ。「下町のブランド、日本橋や神田がだんな衆の世界なのに対して、浅草は娯楽地、流民の町」。そこで流れ着いてくる露天商やばくち打ちにあこがれ、たんか売や落語で話芸を身につけた。市井の人々に心を寄せ庶民文化を体現した希代の俳優といえる。
その渥美と「自分の中にあるものが共感した」ことに最も驚いたのは「(自分は)人間の心が分からないと思っていた」と語る著者自身なのかもしれない。「熱狂的なファンが書いたのでもなく、自分のライフワークとも違う本なので、読者にとっては読みやすい本になったと思います」と最後に少し照れて語った。
(ほりきり・なおと)1948年神奈川県生まれ。79年『日本夢文学志』でデビュー。大正から昭和10年代の文芸評論を主に手掛ける。著書に『愚者の飛行術』『浅草』。
| 秘密結社の日本史 (平凡社新書 389) | |
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日本史上存在しないとされてきた裏の組織とはどんなものか、古代から近代までを視野に探った。中世には宗教集団、近世は職人や芸能民と結びついた例が多く、定住的な農耕民の世界から離れた異端の集団が息づいていたことが指摘される。著者は「人の集まりがあれば、そこに秘密結社の芽がある」と説く。
| 麻薬書簡 再現版 (河出文庫 ハ 5-4) | |
![]() | ウィリアム・バロウズ アレン・ギンズバーグ 山形 浩生 河出書房新社 2007-09-04 売り上げランキング : 71196 おすすめ平均 ![]() ついにきたね!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米国ビートニク文学の旗手二人が究極のドラッグ「ヤーヘ」を巡って南米を旅し、体験記を互いに書き送った。社会規範から逸脱した内容も含むが、南米社会に対する冷徹な描写は一読の価値あり。現代米国文化の先鋭的な側面を読み解く上でも参考になる。山形浩生訳。
| 人間を守る読書 (文春新書 592) | |
![]() | 四方田 犬彦 文藝春秋 2007-09 売り上げランキング : 19880 おすすめ平均 ![]() 罰せられざる悪癖<読書> 大衆文化論者のなれの果て グーグル時代の読書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 大好きな本 川上弘美書評集 | |
![]() | 川上 弘美 朝日新聞社 2007-09-07 売り上げランキング : 51487 おすすめ平均 ![]() 「向き合った」感じが、ない。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 小説作法 | |
![]() | スティーヴン・キング Stephen King 池 央耿 アーティストハウス 2001-10-26 売り上げランキング : 57273 おすすめ平均 ![]() プロの作家の感性や生き方がわかる。 本としては面白いがキングと私の才能の差は埋め難い。 On Writing ; by Stephen KingAmazonで詳しく見る by G-Tools |
| 鹿島茂の書評大全 洋物篇 | |
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| 鹿島茂の書評大全 和物篇 | |
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読書の秋に合わせて、作家、評論家の書評集が相次いで刊行された。ブログに本の内容や感想を載せる一般読者が増え、ネット書評が影響力を増す。そんな中、本の紹介だけでなく、プロの読み手=書き手として文章そのものの面白さ、巧みさで読者を引き付けようという意欲が高まっているようだ。
四方田犬彦著『人間を守る読書』(文春新書)は古典から漫画まで幅広いジャンルの百五十五冊を扱う。ダンテの『神曲』など、全体に新刊よりも古典、全集などの比重が高い。「読書とは量の問題ではなく、質の問題」という四方田氏の持論がにじむ。
書評だけでなく、折口信夫、種村季弘など、著作を切り口にした人物評があるのが興味深い。書き下ろしで収録された漫画家、岡崎京子の項目が胸を打つ。四方田氏はゴダール映画の主演女優アンナ・カリーナが来日した際、岡崎作品を手渡し、「この漫画によって日本の若い女性の間であなたが神格化された」と伝え、喜ばれる。交通事故で長期間執筆から遠ざかっている岡崎氏への愛情と敬意が伝わる温かみのある評だ。
川上弘美著『大好きな本』(朝日新聞社)は文芸作品中心に百四十四冊を収録した。内容紹介や感想が簡潔に盛り込まれているが、エッセーとして読める部分も少なくない。ときに、作家としての本音が漏れてくる個所があって魅力の一つになっている。
例えば、スティーヴン・キング著『小説作法』。「キングでさえ、不安のあまり不必要な副詞をふんだんに使ってしまうのだという告白を読んで、どれだけわたしは安心したことか」と吐露する。宮本輝著『にぎやかな天地』では、芥川賞の選評で宮本氏から低い評価をされたことをきっかけに、一時期、宮本氏の作品を読めなくなった、と打ち明ける。
『鹿島茂の書評大全』(毎日新聞社)は洋物篇と和物篇の二冊でボリューム満点。各百編を収める。書評としてはオーソドックスなものが多いが、語り口が爽快(そうかい)で、思わず本を手に取りたくなる。「書評家には、あえて自分の楽しみのために、書評に取り上げない本というのがある」とあり、気にかかって仕方がない。
書評集を読むことで、評者の個性が明確になり、関心の移ろいが見えてくる楽しみもある。紙媒体の書評は輝きを失ってはいない。
| 伊谷純一郎著作集 第1巻 (1) | |
![]() | 伊谷 純一郎 平凡社 2007-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の霊長類学の開拓者として知られる伊谷純一郎(一九二六―二〇〇一年)の主要な著作を収める「伊谷純一郎著作集」(全六巻)の刊行が平凡社から始まった。既刊の第一巻『日本霊長類学の誕生』に続き、第二巻『類人猿を追って』を二〇〇八年一月に、その後はほぼ三カ月ごとに刊行する。霊長類学者の河合雅雄氏らによる解題も収録。各一万二千円。
| 私は逃げない ある女性弁護士のイスラム革命 | |
![]() | シリン エバディ 竹林卓 ランダムハウス講談社 2007-09-13 売り上げランキング : 1201 おすすめ平均 ![]() Theresa イランで女に生まれると 簡単な言葉ではない「私は逃げない」Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九七九年のイラン革命は、現代史の大きな転換点といえる出来事である。「イスラム革命」とも呼ばれるが、当初は自由主義者もマルクス主義者も加わる広範な抵抗運動だった。しかし王制が倒れると、すぐに変質した。聖職者による統治、王制下の「被抑圧者」を救済するという旗印。イスラムの名による社会主義的な革命といえるかもしれない。
この革命体制にも歴史上の他の革命と同様な病弊があった。反革命や反イスラムのレッテルをはって批判者を弾圧、処刑する動きが続き、暗殺など闇の活動も広がったからだ。
本書は二〇〇三年にノーベル平和賞を受賞したイランの弁護士、シリン・エバディさんの回顧録である。自分や家族の体験を政治状況の変化と重ね合わせ、現代イランの表裏を人間のドラマとして伝えている。
裁判官となり、民主化を願って革命を支持したが、革命後に女性であるがゆえに判事職から追われ、さらにイラクとの戦争下での生活を送り、近親者の処刑も経験する。この前半部分は、革命後の「異様な時代」を様々なエピソードで描き出す。
九二年に弁護士開業が認められてからノーベル賞受賞に至る後半部分は、自ら弁護を手がけた事件を踏まえて、より巧妙な手段で不安感と恐怖心を植え付け、批判勢力を抑え込もうとする政権の暗部に鋭く迫る。そして革命後のイスラム法制度の矛盾もわかりやすく指摘している。
どうして米国への不信感が強いのか。なぜ九〇年代後半にハタミ大統領が登場し、自由化現象が起きたのか。その改革の流れが暗転したのはなぜなのか。イランの内側から見続けた著者の記述を読み進むうちに、いろんな背景がわかってくる。
革命のあと今日までに、多くのイラン人が故国を去っていった。だが、自分自身が暗殺対象になったこともある著者は「イランを決して見捨てない」と言う。そして、イスラムの教えを積極的に解釈すれば、イスラム法の枠内でも女性や人権を守る闘いを平和裏に進めることはできるはずだとの信念を示す。単なるイスラム体制批判ではなく、読者の心に迫るノンフィクションだ。
著者はイランの女性弁護士。判事となったが、イスラム革命で失職。法曹界に復帰後は人権問題などを手がける。二〇〇三年ノーベル平和賞受賞。
| 旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記[全集 日本の歴史] | |
![]() | 松木 武彦 小学館 2007-11-09 売り上げランキング : 4464 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
小学館は十一月九日、日本の歴史を古代から近現代まで叙述する全十六巻のシリーズ「全集 日本の歴史」の刊行を始める。最新の研究成果をもとに、新解釈による通史の再構成を目指す。編集委員は国立歴史民俗博物館館長の平川南氏、放送大学教授の五味文彦氏、岡山大学教授の倉地克直氏、イリノイ大学教授のロナルド・トビ氏、横浜国立大学教授の大門正克氏。
編集委員を含む計十六人の研究者が一巻ずつ執筆する。旧石器時代から古墳時代までを扱う第一巻『列島創世記』を皮切りに、古代・中世・近世・近現代をそれぞれテーマとする四巻ずつで構成する。
現在栽培されている稲の品種が通説より古い千二百年前に作られたとの説を打ち出す第二巻『日本の原像』、外国人研究者の目で江戸幕府の外交政策をとらえ直す第九巻『「鎖国」という外交』など、新しい視点を盛り込む。グラフィックデザイナーの原研哉氏が装丁を担当。毎月一巻ずつ刊行、第一巻のみ千九百円(二〇〇八年五月まで)、第二巻以降は二千四百円。
清水芳郎編集長は「著者のメッセージが伝わる、役に立つ歴史書にしたい」と話している。
| なんにもないところから芸術がはじまる | |
![]() | 椹木 野衣 新潮社 2007-07 売り上げランキング : 12440 おすすめ平均 ![]() 僕らも「なんにもないところ」へAmazonで詳しく見る by G-Tools |
六本木のギャラリーで開かれたある個展で、オープニングの日に、作品を出品した美術家の姿が消えた。文字の一部が消えた解説板や、乗車する部分が切断除去された自動車が並ぶ、「消失」をテーマにした展示の一環だった。
実際には、美術家はただ消えたわけではなかった。ギャラリー内に仮設した百八十センチ角の暗室に栄養剤や水を持ち込み、二十四日間の会期中一歩も外へ出ずに闇に閉じこもるという、すさまじい実験をしていたのだ。この行為を美術だろうか演劇だろうかなどと考えることに意味はあるのかと本書は問いかける。
現代美術の気鋭の評論家である著者は、「ジャンルとは自明のものではなく、歴史や資本によって囲い込まれた属領域」と言い、美術、音楽、演劇といったジャンルでくくれないものや、通常の価値基準では芸術とは思われていなかったものに積極的に目を向けてきた。そして、頑丈で壊れないためにウィーンで今も不気味な威容を構えるナチス・ドイツ時代の高射砲台「フラクトゥルム」や、昭和新山誕生の現場を観察した郵便局員三松正夫のすごみのある記録画など、本書では数々の事例を丹念に検証し、芸術の成り立ちが意外なところにあることを明らかにした。
芸術とはこういうものだと決めつけないことの大切さや新たな芸術を掘り起こす楽しみをも教えてくれる一冊だ。
| 生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い (DOJIN選書 11) | |
![]() | 針山 孝彦 化学同人 2007-09 売り上げランキング : 12719 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
カメムシの一種、ベニツチカメムシは巣から出て植物の実を探し当てると、その地点から一直線に帰巣する。巣からの距離と方向を把握する高度なナビゲーションシステムを持っているからだ。本書がいう情報戦略とは視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)など、様々な感覚を駆使して外界を感知すること。生物はそれによって「食うか食われるか」の食物連鎖の中で、生存の確率を高めてきた。
五億五千万年前のカンブリア紀は生物進化にとって画期的だった。三葉虫のように外骨格、内骨格の原形が完成し、生物の多様化が爆発的に進んだからだ。骨格の形成で速く移動できるようになり、視覚や嗅覚、味覚などの感覚器が発達、情報処理のための脳が出現した。
著者は生物は同じ空間、時間を生きていても、各種がそれを異なるものとして知覚しているという環世界の考え方が重要だと説く。ヒトにとっての世界と、他の動物が知覚する世界は異なるというわけだ。ヒトが他の動物と違うのは過去の蓄積である「文化」を取り込んで、知覚するシステムを変えてきたところにあるという。
生物の知覚システムに照準を合わせながら、現代のヒトが抱える思考や行動様式の問題点を鋭く指摘した。専門用語も出てくるが、南極やケニア、イタリアなどの研究紀行が随所に織り交ぜられ、取っ付きやすくなっている。
| 国際援助行政 (行政学叢書 7) | |
![]() | 城山 英明 東京大学出版会 2007-09 売り上げランキング : 73907 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
行政学の視点から、国際援助の仕組みと運用実態を分析することを目的に書かれた「行政学叢書」(全十二巻)の一冊である。開発学、経済学とは異なるアプローチで、国際行政における政策手段としての援助を包括的に論じているのが特徴だ。これまで、ひとつひとつの援助プロジェクトについての本は多かったが、様々な資源を管理運営する国際援助行政について、本書のように現場を押さえつつ、しかも全体を俯瞰(ふかん)するものは少なかったといえる。
焦点を当てているのは、システムとしての国際援助行政、国際援助と国内財政とのインターフェース、現場で実効性を規程する要因、アカウンタビリティー確保のメカニズム――の四点。
例えば、国際援助行政の構造的特質として、六十の援助主体が六百件のプロジェクトを実施していたと一九八〇年代のケニアを例にあげ、「援助主体の調整・連携が課題になってきた」と指摘、「近年、米国、中国は独自色が強いものの、グローバルなレベルでは、国連ミレニアム開発目標(MDGs)など共通目標をもちいて援助調整する試みが出てきた」と新潮流を紹介している。グローバル化の進展や地球環境問題が深刻化する中で、国際援助の枠組みのあり方を考える際、国際援助をひとつのシステムとして認識する視点が重要だという指摘には説得力がある。
| スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学 | |
![]() | 吉本 佳生 ダイヤモンド社 2007-09-14 売り上げランキング : 27 おすすめ平均 ![]() 信頼というコストは高い 経済学入門 タイトルとテーマ設定がうまいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
コーヒーチェーンの「スターバックス」では「グランデ」と呼ばれる大きなサイズを注文する方が、店にも客にも得になると著者はいう。その理由を解説する中で、コーヒーの原価構造や商売における「取引コスト」とは何かを読者に理解させていく。ペットボトルのお茶、デジタルカメラ、DVD、携帯電話など身近な商品の「価格」を切り口に、ビジネスの仕組みと消費者の心理がいかに密接に関連しているかを解き明かす。
| トヨタ式ホワイトカラー革新 | |
![]() | 金田 秀治 近藤 哲夫 日本経済新聞出版社 2007-09 売り上げランキング : 270 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本企業の経営部門(本社機能)の生産性は大して高くないというのがこれまでの常識だった。それを改善する方策を論じた一冊。トヨタ系の関東自動車工業でトヨタ生産方式の構築・展開などに携わった経験のある著者がトヨタの哲学を経営部門に応用するには具体的にどうしたらよいのか、その際、何が課題となるのか――等々をホワイトカラーの業務革新に取り組んでいる岩手県などの実例とともに紹介している。
| 中心市街地の成功方程式―新しい公共の視点で考える“まちづくり” | |
![]() | 細野 助博 時事通信出版局 2007-09 売り上げランキング : 2853 おすすめ平均 ![]() 街づくり関係者にとって必読の書 「自分の頭で考える人」のための羅針盤Amazonで詳しく見る by G-Tools |
まちづくりに理論と実践の両面から取り組んだ経験を生かした指南書といえる。実例が豊富であり分かりやすい。五つの「成功方程式」のひとつがナンバーワンよりオンリーワンである。物まねではなく、独自性を大事にせよというメッセージであろう。まちを魅力的な空間に変えるためのヒントが随所に盛り込まれており、まちづくりにたずさわる人はもちろん、地域のあり方を考える人に勧めたい。著者は日本公共政策学会の前会長。
| 木下順二対話集 ドラマの根源 | |
![]() | 未来社 2007-10 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「夕鶴」「子午線の祀り(まつ)り」などで知られた劇作家、木下順二が死去して一年になる。本書は一九六〇―七〇年代に発行した作品集の「解説対談」をまとめたものだ。政治学者の丸山真男、作家の野間宏ら同世代の知識人らと作品論を展開する。民話劇を巡っては「戦争体制の中で郷愁というものが持っていた歴史的なとらえかたが(自分は)弱かった」と吐露。戦後日本を鋭く見つめた端正な創作者の核心に触れることができる
| 日曜農園 | |
![]() | 松井 雪子 講談社 2007-10-04 売り上げランキング : 147886 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
女子高生の萌は失踪(しっそう)した父が残していった荒れ果てた日曜農園の手入れをするようになる。農園の様子をつづったホームページも開いていたことを知り、次第に父の世界に浸っていく。扱うテーマや文体が一作ごとに変わっていく著者だが、リアルな描写、作品中に漂う空気感は一貫している。実際の地名が登場し、身近で素朴な世界を扱っていながら、どこか幻想性を帯びているのも魅力の一つだ。第百三十一回芥川賞候補作を単行本化した。
| 近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ) | |
![]() | 片山 杜秀 講談社 2007-09-11 売り上げランキング : 2916 おすすめ平均 ![]() 目次に全てが集約されている 右翼思想の全体像へ 皮肉なまでにアクチュアルAmazonで詳しく見る by G-Tools |
日本のクラシック音楽を中心とした評論活動で知られるが、本来の専門分野は本書が扱う近代日本の政治思想史だ。「一冊の本にすることで、心の底でずっとたまってきた関心事を整理したかった」と話す。
大正から昭和にかけ、日本人の考え方に大きな影響を与えた右翼思想に光を当てた。だが、国家社会主義革命を構想した北一輝、「一人一殺」を唱えて要人暗殺のテロリズムを指導した井上日召といったカリスマの影は薄い。むしろ現在では傍流とされている存在への関心がみなぎる。
革命の主体を天皇に限定した結果、社会変革への道を封じてしまった安岡正篤(まさひろ)の「錦旗革命」論、現在を絶対的に肯定する「中今(なかいま)」の思想。当時は広い影響力を誇ったにもかかわらず忘れ去られた思想を掘り起こすと、何が出てきたか。「世の中を変えようとしてもうまくいかないので、現実の自分や社会状況をあるがままに受け入れたくなり、ついには頭でものを考えず、体だけが残るという道筋が見えてきた」
だが、こうした近代日本の右翼の思想遍歴も決して歴史のかなたに葬り去る対象ではなく、「現代社会を相対的に見る切り口を与えてくれる」という。例えば戦争に至る時代に右翼が重視した家族、農業、アジアという三つの論点は、今の日本でも大きな課題だ。
小学生のころ、映画「ゴジラ」の音楽を担当した伊福部昭に夢中になった。だが、クラシック作曲家としての伊福部は目立たない存在だったという。東京都心の大型レコード店にも在庫がなく、「とてもがっかりした。それ以来、世の中で注目されていなくても、角度を変えて見れば面白いということを他人に伝えていきたいと思い始めた」。この人の心うちには音楽や思想などのジャンルにこだわらず、隅へ押しやられたものへの愛着がある。
(かたやま・もりひで)1963年宮城県生まれ。慶大大学院などを経て、現在は主に音楽評論を手掛ける。共著書に『日本主義的教養の時代』『日本戦後音楽史』など。
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昭和の名人・六代目三遊亭圓生のレコード「圓生百席」をプロデュースした著者が、その濃密な制作過程を描いた佳品。「リアリズムを徹底的に追究した様式主義者」だった老大家の「最上のものを残したい」という芸へのすさまじいまでの執念と、生活観や金銭の考え方など意外な素顔が垣間見られる。
ニッポン最古巡礼
高田 京子 (著), 清澤 謙一 (著)
旅行ライターと旅行写真家が日本各地に残る「最古」の建造物や道具、食べ物、施設など五十件を訪ね、文章と地図、写真で紹介する。京都市にある寛延年間創業の古書店や札幌市の洋式ホテル、宮城県石巻市の教会、長崎市の舗装道路など。これまで日本が歩んできた道のりが見えてくる。


がんばれマイノリティ
技術と無縁の金融会社勤務ですが・・
作者に会ってみたいかも。

















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信頼というコストは高い





