メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年5月27日~6月3日

新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか
新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか武者 陵司

東洋経済新報社 2007-04
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おすすめ平均 star
star武者陵司が書いた世界経済の見通し

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人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか
人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか水野 和夫

日本経済新聞出版社 2007-03
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おすすめ平均 star
starグローバリズムとは「国家」からの解放なのかと、ふと思う
star資産運用を行っている人に必読の書

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帝国論
帝国論山下 範久

講談社 2006-01-11
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来年のサミット(主要国首脳会議)の会場が洞爺湖を見下ろす山上のホテルに落ち着いたのは、警備上の理由が大きいという。警備の対象は、一にテロ、二に抗議デモだろう。

「反グローバリゼーション」デモは、シアトルの世界貿易機関(WTO)閣僚会議の際に暴動化し、ジェノバ・サミットでは死者も出たが、最近はやや下火である。産業革命期の「ラッダイト運動(機械打ち壊し)」が長続きしなかったように、動かしがたい現実に「反対」の声もかすれてきたようだ。

●通用しない常識

グローバル化は、確実に人々の生活を、企業の行動を、国家の役割を変えてきた。何がどう変わったのか。市場の一線で活躍するエコノミストが新しい世界経済像を相次いで示した。

ドイツ証券副会長兼チーフインベストメントオフィサーの武者陵司著『新帝国主義論』(東洋経済新報社、二〇〇七年)と、三菱UFJ証券チーフエコノミストの水野和夫著『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞出版社、二〇〇七年)の問題意識は、驚くほど似ている。

水野氏は「一九九五年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなった」と筆を起こし、武者氏は「なぜアメリカでは好況下で低金利が続くのか」に始まる二十個の「謎」――経済常識から逸脱した新現象を冒頭に並べて、謎解きを進める。

「帝国」がキーワードなのも同じだ。武者氏は地球が一つの経済圏「地球帝国」に統合されたと見なし、「(中国、インドなど)辺境である途上国での生産性の飛躍的上昇」と「労働力の不等価交換による先進国での超過利潤の発生」が、新たな価値創造メカニズムだとする。

水野氏も、米国の「金融帝国化」とBRICsの中国、インド、ロシアなど「旧帝国の復権」を指摘する。「資本」が中国やインドに荒稼ぎの場を見いだしたこと、「一国経済(国民国家)の時代は終わった」という認識でも、両者は一致する。

違いが際だつのは、新レジーム下の日本経済の位置づけだ。「米国に次ぐ受益者」と楽観的な武者氏に対し、水野氏は、中国並みの成長率で快走するグローバル部門(大企業・製造業)と、低迷したままのドメスティック部門(中小企業・非製造業)の二極分化に目を向ける。

それにしても、水野氏が歴史家のブローデルやウォーラーステインを再三引用し、武者氏がホブソンやレーニンの帝国主義論を援用するのはなぜか。

マーケット・エコノミストの仕事は、成長率や金利や株価の動向を予測し「当てる」ことである。ところが正統派経済学や、その前提とする世界観をもとに予測しても「当たらなくなった」。「当てる」には、世界史や文明論も駆使した大仕掛けのストーリーを構想せざるを得なくなったのだ。そのこと自体、現在進行形の世界経済の変化のスケールを物語る。

●文明論も駆使して

ところで「帝国論」は、前世紀末から“ブーム”が続いている。ソ連崩壊で、唯一の超大国となり単独行動主義に傾く米国を「帝国」とするおなじみの論から、A・ネグリ、M・ハートの地球を一つの帝国と見なす論まで多岐に及ぶ。

概観するには山下範久編『帝国論』(講談社、二〇〇六年)がコンパクトで便利だ。七人の学者が論文を寄せて各自の帝国論を展開し、「帝国論の中間決算」(編者)の役割を果たしている。

グローバル経済の現状を把握するうえで、国際通貨基金(IMF)が四月に出した『World Economic Outlook』(IMF、二〇〇七年)も有用だ。

第四章は、米国経済と世界経済のデカップリング論――わかりやすく言えば「米国がくしゃみをしたら世界経済が風邪をひく」のか、そうでないのか、の分析にあてられている。第五章は「労働力のグローバル化」がテーマ。中国やインド、旧東欧圏の世界経済への統合で、過去二十年で世界の実効労働力が四倍になったとする。先進国共通の労働分配率の低下についても分析していて興味深い。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

太宰と井伏――ふたつの戦後
太宰と井伏――ふたつの戦後加藤 典洋

講談社 2007-04-24
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おすすめ平均 star
star批評しながらリスペクトすること

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今月十九日は桜桃忌。一九四八年六月、作家の太宰治は愛人の山崎富栄とともに東京・玉川上水に身を投げる。二人の遺体が見つかったのが十九日だった。なぜ太宰は死ぬことになったのか? 『敗戦後論』などで知られる文芸評論家がその問いに向き合ったのが本書だ。

太宰はそれまで四回の自殺未遂・心中未遂を起こしており、五回目もその流れのように見える。著者はそこに線を引く。四回目までは仕送りの打ち切りや妻の裏切りなど理由がはっきりしており、多くが生活上のものだった。しかし、四八年には『斜陽』がベストセラーになるなど小説家として「得意の絶頂」にあった太宰には、自殺しなければならない明確な理由はなかったはずだと指摘する。

それでは何が太宰を自死へと導いたのか。それは「戦争で死んだ『未帰還の友』への同情と文学者としての責任感と生き残ったものの『後ろめたさ』」だったと見る。太宰が抱えた戦争の死者との葛藤は、二十二年後に三島由紀夫によって繰り返されるとの指摘も興味深い。

世話になったはずの井伏鱒二を「悪人」と呼ぶに至った太宰の生涯を追うとともに、最晩年の心境を映した『人間失格』など作品を丁寧に読み込むことで、大胆ともいえる独自の見解を打ち出す。オーソドックスな手法の力を改めて感じさせる文芸評論である。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る
ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る梅森 直之

光文社 2007-05-17
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おすすめ平均 star
starベネディクト・アンダーソン、『想像の共同体』を越えて

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交通と通信の発達により地球規模でカネやモノの流通が活発化した状況を、我々は一般にグローバリゼーションと呼んでいる。だがそれは経済活動にとどまる話ではない。『想像の共同体』などの著書で知られる比較政治学者アンダーソンは本書の中で、世界各地で台頭するナショナリズムとグローバリゼーションの関係を論じている。

前半はアンダーソンが二〇〇五年に早稲田大学で行った講義の記録だ。短い講義の中でこのナショナリズム研究の泰斗は、読者の世界史観を一変させるほどの知の力業を披露してみせる。とりわけ十九世紀以降のナショナリズムの世界的流行の背後に、印刷物の迅速な輸送と電信システムの急激な発達があったというくだりには説得力がある。

人々が新聞などを通じ他国の状況を知ることが、自らのナショナリズムを養うことにつながった。「ナショナリズムは、高い結合力を持つ元素のようなもの」であり、さらにインターネットの普及はその結合を即時かつ過激にしていく。なぜ今なお世界中でナショナリズムと結びついた戦火やテロが絶えないのかという疑問に対し、本書はひとつの視座を提供している。

「アンダーソン事始」と題した編著者による解説も丁寧でわかりやすい。昨今のナショナリズムをめぐる言説を検証する際に、ぜひひもときたい一冊だ。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

内務省の社会史
内務省の社会史副田 義也

東京大学出版会 2007-03
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「役所のなかの役所」と評されることもあった旧内務省は、昨今の官庁とは比べようがないほどの権威を誇る有力な組織だった。中央での強大な権限に加え、東京府(当時)をはじめとする全国の知事ポストもすべて握っていたからである。本書は大久保利通によって設立された内務省の業務が、時代の要請に応じてどのように変わっていったのか、その過程でいかに大きな存在となっていったのかを丹念に検証した労作である。

戦前は政権交代の度(たび)に地方官の異動が実施されるのが慣行だった。地方の行政を総括する知事は、政治的にも枢要な官職だったからである。本書によれば、こうした慣行が定着したのは、第二次桂内閣時代で、地方から原敬内務相色を払拭(ふっしょく)するのを目的に実施されたのがその嚆矢(こうし)だった。

このように、本書には戦前の官僚制度を知るうえで興味深い、重要な事実が数多く盛り込まれている。

もっとも、著者が通史を目指したこともあって、内務省のすべてが過不足なく本書に描かれているわけではない。例えば、陸軍との間の一大権力闘争として有名な「ゴーストップ事件(天六事件)」に関する記述は六百七十七頁(ページ)中、わずか十二行にすぎない。もう少しメリハリがあったほうが読みやすくなったのは確かだろう。しかし、数少ない通史として著者の労を高く評価したい。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

東京―忘却の昭和三〇年代
東京―忘却の昭和三〇年代金子 桂三

河出書房新社 2007-05
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著者は昭和8年(1933年)東京・羽田生まれ。落語、文楽など古典芸能の撮影で知られるが、傍ら失われゆく東京の情景をとどめようと羽田や銀座、浅草を私的に撮り続けてきた。未発表のそれらスナップを収めた。映画看板と人がひしめく浅草、アサリをとる羽田の漁師、神田青果市、佃の渡し。今は消えた東京という町固有の体臭が立ち上る。写真は昭和32年8月31日、千住お化け煙突(足立区)。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

知ってトクする職場の法律―リーガル3分間ゼミ
知ってトクする職場の法律―リーガル3分間ゼミ日本経済新聞社

日本経済新聞出版社 2007-04
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法律知識がなくても日常生活には支障がない場合も多い。しかし、職場ではちょっとした知識があれば、気持ちよく働けることにつながる。「仮眠中は労働時間?」「転勤辞令は拒否できる?」。会社で直面する身近な疑問に弁護士らが法的解釈を示した。ホワイトカラーに労働時間などの規制の適用を除外する「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入議論など、働き方をめぐるルールが揺れ動く中、将来を読み解く基礎的な考え方が身に付く。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

父のトランク―ノーベル文学賞受賞講演
父のトランク―ノーベル文学賞受賞講演オルハン・パムク 和久井 路子

藤原書店 2007-05
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二〇〇六年度ノーベル文学賞を受賞したトルコ人作家のエッセーとインタビューをまとめた。表題作は受賞講演。イスタンブールという「世界の中心ではない場所」にいるとの認識から出発し、洋の東西を結びつける壮大な作品世界を生み出した作家の創造の秘密が明かされる。欧州を舞台にした歴史小説を書き継いでいる作家・佐藤亜紀との対談も興味深い。ただ翻訳がやや生硬なのは残念。和久井路子訳。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

江戸の温泉学
江戸の温泉学松田 忠徳

新潮社 2007-05
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「温泉教授」の愛称で知られる大学教授が、江戸時代の温泉事情を紹介する。徳川家康が熱海で湯治をしたことをきっかけに、大名らに広く温泉が注目されるようになった。湯治、ガイド本の刊行など現代の温泉文化の起源は江戸時代にあるという。印象深いのは温泉について研究する学者たちの姿だ。実践的な温泉療法や入浴法など、当時の研究は今でも参考になるという。宇田川榕菴の先取的な温泉分析など、知られざる研究にも光をあてる。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか
小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか内山 融

中央公論新社 2007-04
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おすすめ平均 star
star小泉政権とは何だったのか
star政治「学」的小泉ドキュメント

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戦後三番目の長期政権となった小泉純一郎前首相の政治手法や政権の歴史的位置づけについて論じる。「抵抗勢力」との対決姿勢を世論に印象づけ、ワンフレーズで国民の情念に訴える「パトスの首相」。郵政民営化をはじめとする改革や、中国・韓国との関係の混迷など、五年五カ月の政権の功罪を整理するのに役立つ。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

河口慧海日記 ヒマラヤ・チベットの旅
河口慧海日記 ヒマラヤ・チベットの旅河口 慧海 奥山 直司

講談社 2007-05-11
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おすすめ平均 star
star求道者の道

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約百年前、経典を求めて鎖国状態のチベットに潜入した慧海。彼の旅行日記がめいの自宅で発見され、研究が進められてきた。その全貌(ぜんぼう)をまとめた。日記や日記に基づく旅行の再現、めいによる慧海の思い出などから、謎だった国境越えの行程や慧海の人物像が浮かび上がる。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

王朝貴族の悪だくみ―清少納言、危機一髪
王朝貴族の悪だくみ―清少納言、危機一髪繁田 信一

柏書房 2007-04
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王朝貴族といえば源氏物語に代表されるみやびな世界が想起されるが、「今の人は平安時代を勝手な思いこみだけで理解している」と言い切る。

平安時代を専門とする気鋭の歴史研究者は本書で、これでもかこれでもかと王朝貴族が犯した悪事を列挙した。公金横領や経歴詐称、はては殺人事件の捏造(ねつぞう)や隠蔽(いんぺい)、告発者の親族皆殺しまであった。

「源氏物語は『夢の日本』で、どこにも存在しなかった平安時代。ご先祖の不都合な話や見苦しい話に目を覆ったり、耳をふさいだりしてもしようがない」

暴力ざたを起こした王朝貴族を紹介した『殴り合う貴族たち』の続編に当たる本書では、経済事件に多くのページを割いた。「王朝貴族社会の豊かさは、実のところ、悪徳受領(ずりょう)たちが地方諸国において不正行為を用いて築き上げた汚れた富によって支えられたものだった」からだ。

中央から任地に赴いた国司の中でも最上席の受領国司は貪欲だといわれるが、「悪徳受領を時代劇の悪代官と同じだと思うと、単なる悪役で終わってしまう。あくまでも、犯罪として見たらどうなるか、という視点で書き進めた」。

大学では、哲学科で日本宗教史を専攻し、ブームになる前に、平安時代の陰陽(おんみょう)師(じ)を研究した。祈祷(きとう)に頼ろうとした当時の人々の意識に関心があったからだ。大学院で修士号を得た後、出版社に就職したが、大学院に入り直して博士号を取得した。貴族の日記だけでなく、宗教的な説話集も積極的に利用し、平安時代の人々の意識を解き明かそうとしている。

現在執筆中の著書のテーマは平安時代の「おまじない」。王朝貴族の日記にはまじないに関する記述が頻出し、当時の人々には身近だった。「これからもリアルな平安時代を追究したい」と力を込めた。

■2007/06/03, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

明香ちゃんの心臓―〈検証〉東京女子医大病院事件
明香ちゃんの心臓―〈検証〉東京女子医大病院事件鈴木 敦秋

講談社 2007-04
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おすすめ平均 star
star医療を真剣に考える本。

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心臓手術でそこは「日本一の病院」のはずだった。

東京女子医科大学の心臓血圧研究所といえば、高度成長期以降、常に心臓手術の最先端にあった。生きている心臓にメスを入れることが「神業」とか「医療の奇跡」と受け止められた時代。海外からいち早く技術を導入し、あるいは独自の工夫を編み出し、医師たちが互いに手術手技の進歩を競い合った。

その病院で二〇〇一年三月に小学六年の少女が亡くなった。手術中に心臓と肺の働きを肩代わりさせる人工心肺装置の操作ミスが原因。病院側はカルテを改ざんし医療事故であることを隠そうとした。

高度な手術が日常化する中での慣れと責任感の低下、非を認めるには高すぎる名門のプライドと事なかれ主義。亡くなった明香ちゃんの両親は当初、刑事告発の意思はなかったというが、結果的には医師の逮捕、裁判、有罪判決に至る。

読売新聞の医療担当記者が遺族と病院の取材をもとに、その日に手術室の中で起きたことから病院再生への取り組みまでを再現する。それは両親の迷いと闘いの記録であると同時に、高い能力と士気を誇った先端医療機関の転落の軌跡でもある。

それにしても遺族も医師をも傷つけずにはおかない裁判の後味は苦い。論議が盛んな医療版の事故調査委員会について考える材料でもある。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

北京炎上
北京炎上水木 楊

文藝春秋 2007-04
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おすすめ平均 star
starあり得るかもしれない中国の近未来像

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市場経済が進展する中国はこの先どうなるのか。「政冷経熱」の先に民主化が訪れるのか。近未来シミュレーション小説を次々とものしてきた著者は、本書で二〇一四年に第二の天安門事件が起こる未来を描き出してみせる。

腐敗した政治局員の粛清を直訴しようとした軍人が特急列車で憲兵隊を前にして自決する印象的なオープニング。民主化を求める垂れ幕が一瞬天安門に翻った瞬間。そんな客観描写のシーンを交えながら、主人公の北京駐在の日本人新聞記者は「革命」に巻き込まれていく。

中国人妻の失踪(しっそう)事件、重慶郊外での暴動、北京でうごめく「革命」勢力の動向、中南海のエリートたちの対応……。多彩な登場人物が様々に動きながら、やがて一本の糸へとより合わさる。その果てに第二の天安門事件が起こり、「革命」は成就する。

実際こうなったら恐ろしい限りだが、経済発展の陰での格差の広がり、腐敗官僚の横行など、現在も存在する中国社会の負の側面は、「革命」の芽を育てかねないと考えさせられる。

小説で主要な役割を演じるのは一九八九年の「天安門事件」世代の人々だ。いずれも事件の傷を心に抱え、そこが行動の原点になる。この世代の社会観、政治観、経済観が今後のカギになるとの視点が著者からの隠れたメッセージとも見えてくる。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ゼミナール企業価値評価
ゼミナール企業価値評価伊藤 邦雄

日本経済新聞出版社 2007-03
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おすすめ平均 star
star経営戦略のための会計
star三角合併解禁に合わせて
star分り易くまとまっていて良書。

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ここ数年、企業社会で「企業価値」ほど流行し、また物議を醸した言葉はあまりない。M&A(企業の合併・買収)時代本番を迎え、上場企業の経営者は企業価値を上げておかないと、敵対的買収の標的になるからだ。

本書は企業の価値を測り、評価するための知識を解説する。内容は貸借対照表といった基本からファイナンス理論などの学術的なものに及ぶ。その上で価値を算定するさまざまなモデルを紹介する。

モデルの使い方次第で企業の評価は変わる。著者が評価を「アート」と呼ぶゆえんだ。「カルロス・ゴーン氏が日産自動車の再建で、なぜ有利子負債の削減を優先したのか」など実例がわかりやすい。

もっとも、本書の目的は知識の解説ではなく、あくまで経営への応用だ。最後の百ページは小説仕立て。敵対的買収を仕掛けられた経営者が企業価値の重要性に目覚め、評価モデルを価値の向上に使い、その限界にも気づいていく。

「測定できないものはコントロールできない」。何度か登場する一言だ。完全な評価モデルはない。だからといって企業価値を測定しようともせずに漫然と経営するほうがよほど危険だというのが本書を貫く考え方だ。

学生向けだが、株主として今やM&Aに評価を下さなければならない個人投資家にも挑戦のしがいがある。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

熱帯雨林の世界
熱帯雨林の世界トーマス・マレント

緑書房 2007-04-25
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おすすめ平均 star
starとにかく写真が素晴らしい!

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熱帯雨林が地球の陸地に占める割合はわずか6%、そこに生物の半分が生息するという。豊かというより、息苦しさを覚えるほど濃密で多様な生命の世界を本書はよく伝えている。レモン色の大蛇、ワニの血を吸う蚊、クロザルの群れ、のたうつ巨樹や虫を食う花。野性を失った人間には戻ることのできない楽園を、全カラーで眺められる。写真はアカコブサイチョウ。熱帯雨林の音を収めたCD付き。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

北朝鮮「偉大な愛」の幻 上巻
北朝鮮「偉大な愛」の幻 上巻ブラッドレー・マーティン 朝倉 和子

青灯社 2007-04-02
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おすすめ平均 star
star必読の本

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北朝鮮「偉大な愛」の幻 下巻
北朝鮮「偉大な愛」の幻 下巻ブラッドレー・マーティン 朝倉 和子

青灯社 2007-04-03
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北朝鮮・平壌の中心部に位置する外務省ビルの中央階段には各階ごとに大きな踊り場がある。その壁一面には「偉大なる指導者」、金日成主席とその長男・金正日総書記が、春夏秋冬の移り変わりを連想させるかのような自然美を背景に並び立つ巨大な肖像画がいくつも描かれている。それは自らを偶像化することで保身を図る、この親子の体質を端的に表している。

本書は一九七九年の初訪朝以来、米国人ジャーナリストとして東京を拠点にその北朝鮮の観察を続けている著者が丹念にまとめあげた、この親子二代にわたる独裁者に関する非公認の伝記である。

スターリン主義と儒教思想、そしてアジア特有の個人崇拝主義が折り重なって出来上がった独裁国家・北朝鮮。その礎を築いた金日成がどのようにして「理想に燃える若き革命家」から「独善的な指導者」へと変わったのか。その息子である金正日がいかにして陰湿な権力闘争に勝ち抜き、現在の地位を手にしたのか。通算五度にわたる訪朝経験や、数多くの北朝鮮亡命者へのインタビューなどをもとに筆者はそのプロセスを克明、かつリアルに描き出す。

北朝鮮による核開発計画に手こずる米国では、金正日政権内で「体制転換」が起こらなければ、核・ミサイル問題の全面解決はあり得ないとする空気が依然根強い。だが、北朝鮮軍部の旧ソ連留学組を中心とした、いくつかのクーデター計画があえなく頓挫した逸話などを読めば、そうした見方がいかに希望的観測に基づいているかを思い知らされる。

「今日の北朝鮮を巡る懸念は、戦前戦中の日本に瓜二つではないだろうか。(中略)北朝鮮の国家と国民が壁際に追いつめられて、非合理な決断を下すかもしれないと懸念するが、それはかつての真珠湾攻撃の決断そのものではあるまいか」

在日経験も長い筆者が冒頭の「日本の読者へ」の中で訴える言葉は我々日本人に重く響く。核・ミサイルに加え、日本人の拉致という固有の問題を抱える日本にとって、この近くて遠い国との付き合い方ほど難しいものはない。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

屋久島の山守 千年の仕事
屋久島の山守 千年の仕事高田 久夫

草思社 2007-04-24
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樹齢七千年ともいわれる縄文杉が観光客を引き付ける鹿児島県屋久島。著者は一九五一年から山の仕事に従事してきた。最高峰で標高二千メートル近い山が切り立つ狭い島では、重機や牛馬が使えない。五―六トンもある巨木を人力で運び出すのは命懸けの作業だ。もっとも、現在では、立木の伐採がほぼ全面的に禁止されたため、長年培われた技術や知恵の継承が危ぶまれている。職人技を後世に残したいという著者の経験と思いは産業界全般の手本となる。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

元東大病院分院長が見たこの国の医療のかたち
元東大病院分院長が見たこの国の医療のかたち大原 毅

人間と歴史社 2007-04
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いま一番解決してほしいことの第一に常にあがるのが「医療」の問題だ。経営の効率化と医療費の患者負担増がある一方、医療過誤も顕在化している。東大教授、東大分院長を務めた著者が経験を生かして医療訴訟、医療保険制度、教育、救急医療、病院経営など現在の医療が抱える課題の所在をえぐり出している。表現も平易で読みやすい。惜しむらくは、解決策をもう少し示してほしかった。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

再会の手帖―また逢いたい男たち
再会の手帖―また逢いたい男たち関 容子

幻戯書房 2007-03
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十三人へのインタビューによる耳寄りな話。先日亡くなった文学座の北村和夫は四十二歳で再婚したが、その披露パーティーに遅刻してきた杉村春子の衝撃の心情とは。吉行淳之介を敬愛する黒鉄ヒロシと、吉行の本の挿絵を描いた和田誠、正岡容門下の桂米朝と小沢昭一、八十九歳になる池部良と九十八歳で逝った島田正吾等々。味があって品があり温かい、著者ごのみの男たちのステキな生き方が活写される。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ジャック・ウェルチの「私なら、こうする!」
ジャック・ウェルチの「私なら、こうする!」ジャック ウェルチ スージー ウェルチ 斎藤 聖美

日本経済新聞出版社 2007-04-20
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おすすめ平均 star
starウェルチならではのパワーが今ひとつ...
star素晴らしい内容ですが、ちょっと対象がぼやけているような

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GEの元最高経営責任者(CEO)のジャック・ウェルチ氏と夫人が、経営や仕事にからむ様々な質問に答えるコラムを中心にまとめた。一問一答形式で、会社が買収されて辞めようかとの質問には、経験に基づき「会社は必ず、抵抗者よりも賛同者を手元に残し昇進させる」。「過去に別れを告げること」を勧め、無理なら「会社でのあなたの余命はいくばくもない」と明快だ。歯切れよく迷いをかき消す。斎藤聖美訳。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

時の潮
時の潮高井 有一

講談社 2007-05-11
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一九六六年に少年時代の疎開経験を描いた第一作で芥川賞を受賞した作家の長編小説。元新聞記者の主人公は十歳年下の女性と、葉山の御用邸近くに暮らしている。昭和天皇の崩御をきっかけに、戦時下に生まれた自らの人生を振り返る。二人の穏やかな生活と時折生じるさざなみを静謐(せいひつ)な筆致で描いている。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アマチュアスポーツも金次第
アマチュアスポーツも金次第生島 淳

朝日新聞社出版局 2007-05
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おすすめ平均 star
starあくまでも一般論では・・・?

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プロ野球・西武球団の裏金に端を発したスポーツ界とお金の問題は学生野球を巻き込み、関係者やファンに大きな衝撃を与えた。アマ界でも競技力にお金が直結する現実。フィギュアスケート、冬季五輪と北海道経済などを題材に、スポーツと経済の関係を解説した。表題のように下世話ではない。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

タータンチェックの文化史
タータンチェックの文化史奥田 実紀

白水社 2007-05
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百貨店の紙袋から制服のスカートにまであふれるタータンチェック。日本人になじみ深いデザインの一つだが、その歴史を紹介する日本語の書籍はこれまでほとんどなかった。十六年前にタータンと運命的な出合いを果たした著者が英語の文献にあたり、スコットランドに足を運んでまとめたのが本書だ。

「赤毛のアン」にあこがれて一年余り暮らしたカナダのプリンス・エドワード島。土産物屋で目にした緑と赤茶色のタータンが「プリンス・エドワード島タータン」と名づけられていることに興味を持った。数千種もあるタータンには氏族、国や土地の名前のほか、元英国王妃を追悼する「ダイアナ・メモリアル」など由来を表す名前が一つ一つに付いている。本場スコットランドには柄を公認し登録する組織が存在することも分かった。「タータンを知れば知るほど、驚きの連続だった」と振り返る。

タータンの歴史は三世紀ころにまでさかのぼる。スコットランドで着用されていたチェック柄がやがて地区や氏族を表すものとして発展。イングランドによって使用を禁じられた苦難の時代も経て、代々受け継がれてきた一族の誇りの象徴だ。日本ではタータンの名前が明示されることもなく、単なるファッションとして流通するだけ。「歴史を知り、敬意を持って使ってほしい」と訴える。

日本人でも気軽に楽しめる柄としてディストリクト・タータンを勧める。地域が公認しているデザインで、たとえば米国ではコロラドやニューヨークなど多くの州が独自のタータンを持っている。思い出深い土地や応援するスポーツチームの本拠地のものを身につけるのもいい。「色がいいというだけでなく、自分だけのストーリーを語れる柄をいくつも持てる。タータンを選ぶ楽しみが増えるでしょう?」と目を輝かせた。

(おくだ・みき)1966年生まれ。編集者などを経てフリーに。著書に『赤毛のアンの庭で プリンス・エドワード島の15か月』など。

■2007/05/27, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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