メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年5月13日~5月20日

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ
少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ山田 昌弘

岩波書店 2007-04
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おすすめ平均 star
star少子化はやっぱりここに
star少子化問題について、非常に説得力があり、分かりやすくまとまっている
starマスコミも日本国民もよってたかって隠蔽してきた「事実」を明らかにした名著

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少子化の原因については、女性の社会進出や高い教育費などさまざまな原因が指摘されている。だが、そうした視点だけでは不十分。経済格差の拡大が、結婚や出産をためらう社会を作り出しているというのが著者の主張だ。

主因としてあげるのが若者の不安定就業と親元へのパラサイト(寄生)。パートや派遣などで働く男性は雇用が不安定で収入も低い。男女雇用機会均等法が施行されて二十年がたつが、女性が結婚相手に望むのは相変わらず収入と将来性だ。

それでも欧米のように若者が独立して生きることを強いる社会なら、一人より二人のほうが生活費が安いので結婚意欲がかきたてられる。日本では親もとで暮らす男女が多く、あえて生活水準の下がる結婚に踏み切らない。

豊富なデータや独自の調査をもとに、現在の若者が直面する恋愛や経済の格差を分析。「できちゃった婚」が今や結婚の五分の一を占め、若者の経済力が低い地域の方が多いとの指摘は刺激的だ。

男性一人が働いて妻子を養うのは難しくなった。だが、子どもを持つ女性が働きやすい環境が整う前に、若者がまともな収入を得られる仕事自体が失われた。非正社員では子育てもままならない。普通の男女が、将来も安定した収入が見込める仕事につける社会を作ることが真の少子化対策との結論はまっとうだろう。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

表舞台 裏舞台──福本邦雄回顧録
表舞台 裏舞台──福本邦雄回顧録福本 邦雄

講談社 2007-04-10
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おすすめ平均 star
starいつもながら伊藤隆、御厨貴の「隆・貴コンビ」の本は面白すぎ

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東京大学の伊藤隆名誉教授と御厨貴教授が歴史の重要局面を知る人物の証言を聞き取るオーラルヒストリー・シリーズの新刊だ。

評価は分かれそうだ。今回の証言者は「最後のフィクサー」と呼ばれ、政界裏面史を飾った一人。起訴猶予になったが、中尾栄一元建設相の収賄事件に絡み、逮捕されたこともある。検証が必要と思われる証言がかなりある。

それでも椎名悦三郎官房長官の秘書官などの立場で実際に見聞きした豊富なエピソードはなかなか興味深い。予備知識がある読者が定説との食い違いに目配りしつつ読むのに向いている。

一九六〇年の安保騒動で、自衛隊の治安出動に反対した椎名氏は岸信介首相の不興を買い、距離ができた――。七四年の椎名裁定で三木武夫氏が自民党総裁に選ばれた背景には暫定政権を望んだ田中角栄氏の意向も影響していた――。これらの証言ははっきりとは語られずにきたものだ。

政界と財界のパイプ役を務めただけに、財界大物の人物批評も多く出てくる。こちらも特定の立場からの一つの見方と割り切ったうえで読むと、当時の「総資本」の構造を考える材料になりそうだ。

福本イズムを唱えた戦前共産党のカリスマ指導者の長男として生まれ、新聞記者、経営コンサルタント、画商へと次々に立ち位置を変化させた経歴を知るだけでも面白い。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

田中泯 海やまのあひだ Min Tanaka Between Mountain and Sea
田中泯 海やまのあひだ Min Tanaka Between Mountain and Sea岡田 正人 宇野 邦一 松岡 正剛

工作舎 2007-04
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「私は地を這(は)う前衛である」という舞踏家・田中泯と、写真家・岡田との30年にわたるコラボレーションの記録だ。東京の埋め立て地、夢の島のゴミに埋もれ、のたうち、海辺に打ち上げられて横たわる裸身。山梨県の山奥で、木々の霊と呼び合いながら泥にまみれ、土に同化していく姿。大地や大気の一部となって踊る肉体は、人間が小さなバクテリアだった原始地球の記憶を呼び覚ますようだ。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

人口減少社会の人づくり―「人の総合力」向上を目指して
人口減少社会の人づくり―「人の総合力」向上を目指して小峰 隆夫 総合研究開発機構

日本経済評論社 2007-04
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人口減少社会で経済活力を維持するには、市民の「人」としての力を高めて「量」の減少を「質」の向上で補うことが必要となる。本書はそうした問題意識のもとに、「経済価値創造力」「市民生活向上力」の二つの側面から「人の総合力」を高めるための戦略を提示する。約六千人を対象に実施した暮らしや労働に関するアンケート調査の結果などを踏まえ、「多様性の容認」が今後の社会のキーワードになると指摘する。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

60億を投資できるMLBのからくり
60億を投資できるMLBのからくりアンドリュー・ジンバリスト 鈴木 友也

ベースボール・マガジン社 2007-03
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おすすめ平均 star
star内容自体は良い、だがタイトルと中身が全く全く合っていない

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二〇〇六年、米大リーグのレッドソックスは松坂選手に六十億円を超す入札金を提示し、日本の野球ファンを驚かせた。今から十年余り前、大リーグ球団の平均年商は日本のプロ野球チームを下回っていたという。現在、大リーグ市場は当時の三・六倍に拡大し、停滞する日本の球団経営に差をつける。大リーグビジネスの舞台裏を米国のスポーツ経済学者が分析する。鈴木友也訳。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

旧約聖書を美術で読む
旧約聖書を美術で読む秦 剛平

青土社 2007-04
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旧約聖書を美術で読み解くと違った側面が見えてくる。著者はヘブライ語、ギリシャ語文献、ユダヤ教、初期キリスト教を長年研究している。モーセの十戒では「神の似姿を描いてはいけない」とされたが、神、キリスト、聖霊の三位一体説の教えを機にキリスト教美術が花開いていったという。旧約外典に登場する人物たちの話も面白い。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか
「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか仲俣 暁生 舞城 王太郎 愛媛川 十三

バジリコ 2007-03
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おすすめ平均 star
star舞城王太郎好きな方はどうぞ
star舞城のミニ評論と小説だけで

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小説、音楽、インターネット文化など幅広い分野を論じている文芸評論家による評論集。小説は「ポップカルチャー」になった結果、評価軸は専門家ではなく読み手によって作られるようになったと述べる。そうした見方は賛否両論招きそうだが、現代の小説は既存のジャンル分けとは無縁の形で、相互に影響しあって豊かな作品群を生み出しているとの指摘には説得力がある。舞城王太郎と愛媛川十三の小説・評論もサブテキストとして収録している。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

日本自動車産業の地域集積
日本自動車産業の地域集積藤原 貞雄

東洋経済新報社 2007-03
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大企業の主要な生産拠点の周囲にはおのずと関連企業が集積されやすかった。特に自動車のように、すそ野が広い産業ほどその傾向が強かった。そうした集積は大企業の海外進出、海外現地生産の動きが加速するなか、どう変わっていったのだろうか。それによって地域はどのような影響を受けたのだろうか――。著者は自動車産業を題材に、集積を五つに分類、そのうえで危惧された「空洞化」が起こらなかった背景を分析している。専門書だが、図表も豊富で比較的読みやすい。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

越境の時―一九六〇年代と在日
越境の時―一九六〇年代と在日鈴木 道彦

集英社 2007-04
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おすすめ平均 star
star失われた時を刻む最重要現代史の力作

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二十世紀仏の小説家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の翻訳で知られる仏文学者には、一九六〇年代に在日韓国・朝鮮人の人権運動にかかわったもう一つの顔がある。五八年に在日の少年が女子学生を殺害した小松川事件に触発され、六八年の金嬉老事件ではその後の裁判で八年半にわたり被告を支援した。記憶をたどり直し、当時の思索と行動を赤裸々につづった骨太の回想記だ。

仏に留学していた五〇年代、アルジェリアの独立問題に対して哲学者のサルトルら知識人が積極的に発言するのを目の当たりにした。帰国して向き合ったのが在日問題。「日本人である以上、誰もが在日問題に対して責任がある」との認識が本書を貫いている。

小松川事件で逮捕された少年の書簡を読んだのが問題にかかわり始めたきっかけだ。そんな著者に周囲は冷ややかだった。「なぜ仏文学者が首を突っ込むんだと言われた。だが日本人と在日の壁を越えて他者を理解することは、まさしく文学の問題でもあった」

在日二世の金嬉老が銃を持って旅館に立てこもった事件の裁判では弁護側に回り、弁論の執筆にも携わった。金嬉老本人との間のすれ違いなどもあったが、七六年まで支援活動を続けた。在日問題を考え抜いた経験はプルーストの訳業につながったという。「『失われた時』の中にナショナリズム批判の重要性などを再発見した」からだ。

「最近は映画や小説で在日問題が軽やかに扱われている。もはや自分の出る幕ではないと思った」が、六〇年代の論文を読んだ社会学者、上野千鶴子氏の熱心な勧めで筆を執った。「『失われた時』の翻訳では、敷居が高いと言われてきたプルーストを誰もが面白く読めるようにしたつもり。同じように、この本が読者が在日問題に関心を持つきっかけになれば」

(すずき・みちひこ)1929年生まれ。東大文学部卒。仏文学者。『失われた時を求めて』の翻訳で日本翻訳文化賞と読売文学賞を受賞。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

伝説のプラモ屋―田宮模型をつくった人々
伝説のプラモ屋―田宮模型をつくった人々田宮 俊作

文藝春秋 2007-05
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おすすめ平均 star
starわかる人にはわかる

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田宮模型をつくった人々』田宮俊作著 プラモデルメーカーにとって頭の痛い問題は昔も今も金型製造のための先行投資だという。日本の機械メーカーにも共通する事情だ。世界最大の模型メーカー社長が語る製作裏話の数々。模型ファンだけでなく、広くものづくりを手掛ける企業の経営者、社員にとって示唆に富む。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

鉄道ひとつばなし 2
鉄道ひとつばなし 2原 武史

講談社 2007-04-19
売り上げランキング : 1275

おすすめ平均 star
star鉄道ファンの酒飲み話(いい意味で)
star鉄道から懐古する古きよき「昭和」

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気鋭の大学教授による鉄道についてのエッセー集で、四年前の好評作の第二弾。鉄道のマニアックな楽しみ方を開陳するだけではなく、近現代史と結びつけて、分かりやすく届ける。JR福知山線の脱線事故や東京の東急田園都市線の混雑など、近年の問題もうまくユーモアのセンスを交えながら切る。

■2007/05/20, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

「殺陣」という文化―チャンバラ時代劇映画を探る
「殺陣」という文化―チャンバラ時代劇映画を探る小川 順子

世界思想社教学社 2007-04
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映画や舞台、テレビの時代劇でおなじみの「殺陣」。明治期から現代までのチャンバラ映画を題材に、その歴史的変遷や文化的背景を三十代の日本文化研究者が追った。時代劇映画の歴史をたどった本はほかにもあるが、映画の一部である殺陣に絞った研究はあまり例がないらしい。

著者は十年以上前、市川雷蔵の映画を偶然見てチャンバラ映画の魅力を知り、それ以来リバイバル上映を探しては見て回ったという。チャンバラを語るには武術を知らなくてはと思い、居合道を習い始めたという。

殺陣という言葉が成立した経緯から論を起こし、日本に映画が入ってきた十九世紀末から現在に至るまでの歴史的展開を詳細に検証。その上で、殺陣について語る際にしばしば「リアル」という言葉が使われてきた点に着目し、殺陣のリアリズムとは何かを掘り下げていく。

殺陣を構成するものとして「映像効果的要素」「コレオグラフィー的要素(「踊る」技法)」「スプラッター的要素(人体の一部が飛ぶなどの映像表現)」「武術的要素」の四つを挙げ、その組み合わせや強弱によって歴史的な変化を説明できるという。

市川右太衛門の「旗本退屈男」シリーズ全三十作のうち二十作を見て自説を検証する著者の視点が面白い。巻末には殺陣師や映画監督らのインタビューも収録している。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ジャパニーズ・マフィア―ヤクザと法と国家
ジャパニーズ・マフィア―ヤクザと法と国家ピーター B.E.ヒル 田口 未和

三交社 2007-04
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日本人でもその存在を不可思議、理不尽に思うのだから、英国人研究者にとってはなおさらだっただろう。空手を学ぶため来日した著者が東北地方のバーで「日本の行動習慣にこれ見よがしに逆らう態度」に圧倒されて興味を抱き、東大客員研究員となって「ヤクザの何たるかを明らかにした」のが本書である。

東西の文献はもちろん、ヤクザ組織の構成員、犯罪学者、弁護士、警察官などから幅広く話を聴き、ヤクザの発祥・進化、現状、資金源などを硬軟取り混ぜたエピソードとともに語る。自ら「二〇世紀の最後の十年間のヤクザとヤクザ対策の流れを包括的にまとめた英語の文献」と意義付けるだけの労作といえる。

終戦直後「共生」に近かったヤクザと警察の関係は、六〇年代の頂上作戦以降、悪化。バブル経済崩壊と九二年の暴力団対策法施行を経て決定的な対立関係となり、ヤクザ犯罪の巧妙化、多様化が進んだ――とする見立て自体は定説通りだが、諸外国の犯罪組織の分析を下敷きにしてヤクザの行動様式や国家との関係に迫る手法は興味深い。

警察当局にとっては、暴対法を「警察が戦前の行政権限を取り戻そうとするプロセスの一部」と断じるなど異議申し立てしたい部分もあるだろうが、「警察庁のキャリア官僚と一線の捜査員らの間に大きな溝がある」などの指摘は耳が痛いはずだ。田口未和訳。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

物語で読み解くファイナンス入門
物語で読み解くファイナンス入門森平 爽一郎

日本経済新聞出版社 2007-03
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物語(エピソード)で読み解くデリバティブ入門
物語(エピソード)で読み解くデリバティブ入門森平 爽一郎

日本経済新聞出版社 2007-03
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小難しい数式を用いる金融論は、一般の人には取っつきにくい。でも金融の世界の底に流れる発想はとても常識的だし、日常生活にも役立つ。こんな考えに基づき、ファイナンス理論を様々なエピソード(物語)を交え、初学者に説いたのが本書である。

まず、金融の世界で必ず出てくるポートフォリオ。株式、債券、預金など金融商品の組み合わせの妙が、ポートフォリオ理論の要点である。

いつ投資し、収益を上げるか。どんなリスクをとり、どれだけの収益を稼ぐか。お金を運用するには、タイミングとリスク・リターンの関係がカギを握る。これが第一章。

「時は金なり」と題した第二章では貨幣の時間的価値を論じる。お金が生み出す金利の世界と言ってもよい。一万ドルのクルマを売るのに、一万ドルの国債をオマケに付けた話のカラクリ(五十二ページ以下)を読めば、時間の持つ経済的価値がピンと来るだろう。

リスクとリターンを論じる第三章は、ファイナンス理論の本丸である。大切なお金はひとつの金融商品に集中せず、いくつもの商品に分散するのが得策であるという分散投資の考え方を、分かりやすく紹介している。最後の第四章では証券化を取り上げる。

姉妹編『物語で読み解くデリバティブ入門』とともに、休みの日に寝転がって読むのに最適な金融入門書である。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

世界の医薬品産業
世界の医薬品産業吉森 賢

東京大学出版会 2007-04
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米英独仏にスイス、日本の計六カ国の医薬品産業について、産業構造や市場構造、研究開発、産業政策などの視点から分析する。各企業間では共同研究開発やライセンス契約、共同販売といった提携や合併・買収が国境を越えて進む。米国に次ぐ世界第二位の医薬品生産額を誇る日本では、一九九〇年代に市場、技術、産業組織の変化と国際競争の激化があったにもかかわらず、少数の例外的企業を除いて対応ができていないと指摘する。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

メビウスの帯
メビウスの帯クリフォード・A・ピックオーバー 吉田 三知世

日経BP社 2007-04-12
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おすすめ平均 star
star万華鏡のような幾何学の世界
starあれやこれや平面では思いもよらない位相幾何学的事実の数々

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一本の帯をたどっていくと、いつの間にか表から裏になっている。誰でも知っている図形を取っ掛かりに、クラインの壺(つぼ)、結び目理論、ペンローズ・タイルなど関連の数学の話題を取り上げた。難しい幾何学を理解している必要はない。宇宙論から始まって、ゲームや音楽、映画といった身近で、興味のわきやすい切り口のエピソードが楽しい。ふんだんに盛り込まれた図表も親切だ。吉田三知世訳。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

コップとコッペパンとペン
コップとコッペパンとペン福永 信

河出書房新社 2007-04
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姿をくらました父の捜索を担当した刑事を追い、東北の温泉を訪ねる娘。刑事との要領を得ないやり取りを経て帰京した娘は、都内の銭湯の前で父とおぼしき人物を見かける。独特の作風を持つ作家の知的なたくらみに満ちた短編集。予想を次々に裏切る展開で、読者を白昼夢にも似た世界へいざなう。丁寧な筆致で読み応えたっぷり。物語を追うだけでは飽き足らないという読者におすすめの一冊だ。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

「美しい」ってなんだろう?―美術のすすめ
「美しい」ってなんだろう?―美術のすすめ森村 泰昌

理論社 2007-04
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著者の美術家としての生き方と考え方が凝縮された一冊。「芸術vs芸能」「おおきさ」などのテーマで美術の本質に迫る。何が魅力なのか分からない美術作品に接したとき、理解への糸口を得るために著者がとった行動は美術作品に「なる」ことだった。ゴッホの自画像に著者が扮(ふん)した写真作品を制作する過程では、ゴッホが感じていた痛々しい気持ちを悟ったという。子ども向けの語り口だが、常識にまみれ、美への感覚が鈍化したおとなが気づかされることも多い。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

トヨタアズナンバーワン―米国トヨタ大学が教える発想力
トヨタアズナンバーワン―米国トヨタ大学が教える発想力マシュー E.メイ 中島 早苗

株)アスペクト 2007-03
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自動車生産で世界トップの座も視野に入れ始めたトヨタ自動車。生産ラインの現場でトヨタ方式を学習・研究し、その後世界のトヨタで実践されている「トヨタウェイ」教育プログラムを構築するなど、トヨタ精神の伝道者の役割を果たしている人物が著者だけに、トヨタ方式を支える「哲学」が分かりやすく説かれている。著者のトヨタ愛が強すぎるのが難点だが、トヨタの生産現場の強さやその秘密について少しだけ知りたいという読者には手ごろな一冊だろう。中島早苗訳。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

iPodは何を変えたのか?
iPodは何を変えたのか?スティーブン・レヴィ 上浦 倫人

ソフトバンク クリエイティブ 2007-03-29
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star功績

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アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」の世界の累計販売台数が先月で一億台を超えた。二〇〇一年の発売から五年半でこれほど売れた家電製品は珍しく、さらに音楽ソフトの流通市場まで変えてしまった。本書は米ニューズウィーク誌のハイテク記者がiPodの誕生秘話から音楽産業への影響までを丹念にまとめたものだ。著者は「ハッカー」という言葉を広めたことでも知られ、旧知のスティーブ・ジョブズ氏にも何度もインタビューした。

ヘッドホンで音楽を聴く携帯端末はソニーの「ウォークマン」が最初だが、iPodは楽曲をインターネットから簡単に取り込めるようにして成功した。デジタル音楽配信は実はソニーの方が先行したが、著作権保護を強調する社内音楽部門の抵抗もあり、アップルに市場を奪われてしまった。

デジタル音楽配信が注目されたのは「MP3」という音声圧縮技術やファイル交換ソフト「ナップスター」の登場がきっかけだ。当初は課金できず、違法コピーの温床にもなっていたが、低単価で簡単に音楽が入手できるようになれば、ビジネスとしても成り立つとジョブズ氏は判断した。

iPodはデザインや操作性、それに容量の大きさで人気を呼んだが、一方で楽曲を得るには各レコード会社の承諾が必要だった。アニメ制作会社、ピクサーのトップでもあったジョブズ氏は、レコード各社を口説き落とし、音楽配信事業モデルを確立した。

本書の面白さはそうした端末の開発現場や提携交渉の様子などの舞台裏を描いたところだ。ビートルズの楽曲提供が最後になったのは、レコード会社名が同じアップルだったため、「音楽事業には進出しない」という昔の誓約書が制約になったという。

iPodは楽曲の順番を並び替えて聴く「シャッフル」や、ネット経由で放送を視聴する「ポッドキャスト」といった視聴スタイルも生み出した。著者も熱狂的な音楽ファンで、それが若者文化や音楽文化にどう影響しているかについても検証した。iPodの利用者にはもちろん、これから使おうという人にも興味深い本だ。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

フューチャリスト宣言
フューチャリスト宣言梅田 望夫 茂木 健一郎

筑摩書房 2007-05-08
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書名のフューチャリストとは、専門領域の枠を超え、未来のビジョンを提示する者たちというほどの意味。この対談集で掘り下げるのは、インターネットの出現で革命的な変容を遂げつつある知の風景だ。知識を囲い込む旧来型ではなく、ネットに自身を開きながら未来へ向かい疾走する新たな知識人像を提示する。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

贋世捨人
贋世捨人車谷 長吉

文藝春秋 2007-04
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おすすめ平均 star
star出家できない理由

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自らの恥部を仮借なく描く私小説作家の長編。広告代理店でのサラリーマン生活に嫌気がさし、料理屋の下働きや下足番などの仕事を転々としながら、反時代的に生きようとする主人公。己の弱さ・醜さと向き合いつつ、小説家という「贋世捨人」になることを決心するまでを描く。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

甦る海上の道・日本と琉球
甦る海上の道・日本と琉球谷川 健一

文藝春秋 2007-03
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おすすめ平均 star
star色々と問題アリ
star注意だらけの感想

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在野民俗学の泰斗が八十五歳を迎えて、ライフワークの沖縄を改めて俎上(そじょう)に載せた。近年の考古学上の発見が、「本土との交わりが沖縄文化を飛躍させた」との持論をさらに前進させたからだ。九州の倭寇が琉球にくだり、王になったと大胆に推察。躍動的な海洋民の姿を浮き彫りにする。

琉球弧を形成する奄美諸島喜界島の城久(ぐすく)集落では二〇〇三年からの発掘で、奄美では例の無い大型建物跡が発見された。九州・太宰府の出先機関があったと推定されている。

沖縄が海洋民によって「千年間も続いた長い眠りから目を覚ました」のが十一―十二世紀だという。長崎で作られた石鍋が商人らによってもたらされ、土器を持たない「原琉球」が石鍋を模倣した土器を持つ「古琉球」に変貌(へんぼう)を遂げた。

十五世紀には、九州にいた氏族の残党が海賊になり、琉球王国の初期王権、第一尚氏になったという説を提示した。「それは国家レベルでなく、国境のない庶民同士の交流だった」

これまで沖縄の地元歴史家は、本土からの独立性にこだわり、琉球が内発的な文化発展を遂げた、と唱えてきた。これに対し、「自主性は否定しない。外部からの刺激が文化を発展させたと言いたかった」と強調する。

柳田国男、折口信夫の南島研究に触発され、一九六九年に初めて訪れて以来、沖縄来訪は百回を超えた。出身の熊本県水俣市に「源為朝が琉球に渡った伝承が残る」縁もある。本土復帰後、リゾート地として開発され、画一化が進んだ経過を嘆く。宮古島に多く足を向けるのは「今でも本土との緊張関係がある」から。

探求心はなお旺盛だ。柳田が大著『海上の道』で着目した稲作文化の伝承を次のテーマに思い描く。「沖縄の在来種はインドネシアと酷似している」と目を光らせた。(文春新書・七五〇円)

(たにがわ・けんいち)1921年生まれ。東大文学部卒。民俗学者。日本地名研究所所長。著書に『南島文学発生論』など。

■2007/05/13, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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