メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年4月15日~4月22日

大衆の心に生きた昭和の画家たち
大衆の心に生きた昭和の画家たち中村 嘉人

PHP研究所 2007-02
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柴田錬三郎の「眠狂四郎無頼控」で鴨下晁湖が描いた血しぶき、獅子文六の「大番」で宮本三郎が描いた愛すべき人柄。テレビやネットのない時代から、新聞や雑誌の連載小説の挿絵は人々の想像を膨らませるかけがえのない手段だった。画家たちが思いを込めた昭和の挿絵史を回顧する。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

うなぎ丸の航海
うなぎ丸の航海阿井 渉介

講談社 2007-04-13
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日本の代表的な食文化ながら、いまだ生態に謎の多いウナギは多くの研究者をひき付ける。著者も謎解きに魅せられた一人だ。産卵場所を探索するための東京大学海洋研究所による研究航海に同行した際のルポ。研究者も舌を巻くほどの情熱が伝わる。ミステリーにひき付けられる推理作家の本能か。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

テレビは日本人を「バカ」にしたか?―大宅壮一と「一億総白痴化」の時代
テレビは日本人を「バカ」にしたか?―大宅壮一と「一億総白痴化」の時代北村 充史

平凡社 2007-02
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評論家の大宅壮一がテレビ番組の低俗さを評した言葉「一億総白痴化」を軸に、一九五〇年代後半のテレビ論を振り返った。大宅の言葉に乗った単純な批判も多いが、視聴者はテレビについて「表現の矛盾を看破しなければならない」とする法社会学者の指摘は、関西テレビ放送の「発掘!あるある大事典II」の捏造(ねつぞう)問題が発生した折もあり、視聴者への示唆に富む。著者は元NHKプロデューサー。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

新自由主義―その歴史的展開と現在
新自由主義―その歴史的展開と現在デヴィッド・ハーヴェイ 森田 成也

作品社 2007-02
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おすすめ平均 star
star「新自由主義とは何か」を改めて考えるうえで

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強力な私的所有権、自由市場、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの下で、個人の企業活動と能力を最大限に自由に発揮させることが富と福利を最も増大させる。こう考える新自由主義は一九七〇年代末から八〇年代のレーガン米大統領、サッチャー英首相の経済改革を経て現在、世界的な政治経済思潮の主流である。本書はハイエク、フリードマンらによる四七年のモンペルラン協会の設立にその淵源を求め、現在までの展開を批判的にとらえたものだ。

戦後のケインズ経済学を背景にした先進諸国での「大きな政府」が七〇年代初めからのスタグフレーションで行き詰まり、その打開策を探る中で台頭してきたという見方は「政府か市場か」をテーマにした新自由主義の類書と同じだ。しかし、グローバリゼーションをはじめ、それがもたらした結果や背景について、スティグリッツの『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』などとは異なる視角から、著者独自の刺激的な考察を加えている。

たとえば新自由主義の経済運営のパフォーマンスを、もくろみ通りの経済成長や資本主義の発展をもたらしていないと判定し、むしろ低成長の中で資本(支配層)が労働に対してその取り分を増やすメカニズムとして新自由主義が機能していると厳しく見る。そのためにはいわゆる市場原理主義というイデオロギーの導入だけでなく、グローバルな競争力強化に向けた政府の枠組みの変更という実践も含んでいると指摘する。

先進国にとどまらず、発展途上国や旧社会主義国も開発主義の行き詰まりなどの対応策として新自由主義を選んだ世界的な動きであるという。経済的に大躍進する一方、大規模な搾取と富の不平等化が急速に進む中国を新自由主義化のひとつの類型ととらえるのはきわめて新鮮だ。

用語に少し難しさが見られるところもあるが、新自由主義という「妖怪」をアンチ新古典派の立場から大きく歴史的に俯瞰(ふかん)できる好著だ。原著にはないが訳書に付け加えられた「日本の新自由主義」の一章も、新保守主義との関係も含めて興味深く整理されている。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

メディアと政治
メディアと政治蒲島 郁夫 竹下 俊郎 芹川 洋一

有斐閣 2007-03
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政治を動かすものは何なのだろうか。政治家と官僚、業界による持ちつ持たれつの関係のなかで、物事が決まっていくというのは、確かにひとつの考え方である。ところが、五年五カ月に及んだ小泉純一郎政権は、そうした見方をぶっ壊した。小泉劇場で有権者を味方につけた政治のやり方は、メディアの存在があって初めて可能になった。もはやメディアの役割を抜きにして、今日の政治は語れない。

学生用テキストの形をとっているが、「メディアと政治」というテーマに、政治学者、社会学者、ジャーナリストが共同作業で踏み入った、初の本格的な解説書である。

全体を貫く基本的な考え方は、著者のひとりである蒲島郁夫・東大教授が提起している「メディア多元主義モデル」だ。メディアが大きな影響力を持ち、政治的に中立であることを前提に、権力の外にある集団の意向をメディアがすくいあげ、多元主義を政治の世界に注ぎ込んでいるというものである。

それを踏まえて、メディアの影響や世論形成への作用などの主な理論を紹介する。政治取材の現場やニュース制作の過程を通じて、モデルが有効であることを明らかにしているのもユニークだ。さらには、政治報道の娯楽化など、メディアが変われば政治も変わる現実を浮き彫りにする。

日本の政治を理解するうえで助けになるのはもちろんだが、メディア志望者にとっても一読に値する。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

オープンソースの成功―政治学者が分析するコミュニティの可能性
オープンソースの成功―政治学者が分析するコミュニティの可能性スティーブン・ウェバー 山形 浩生 守岡 桜

毎日コミュニケーションズ 2007-02
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ネット革命の第二幕にあたる「Web2・0」が注目されるが、その新たな技術革新を支えたのが「オープンソース」と呼ばれる公開仕様のソフトだ。無償配布の基本ソフト「リナックス」が有名だが、ほかにも閲覧ソフトなど多くの無償ソフトがある。本書は米国の政治学者がオープンソースの生い立ちや効用を組織論の視点から分析した。

オープンソースの源流は米AT&Tのベル研究所が一九六〇年代に開発した基本ソフト「UNIX」にさかのぼる。独禁法の圧力からAT&Tはこの成果を全米の大学などに公開、研究目的なら誰もが無償で使えるようにした。それをカリフォルニア大学などが発展させ、いわば公共のソフトとして広がった。

一方、対照的なのがマイクロソフトである。ビル・ゲイツ会長はソフトは知的財産であると主張、「ウィンドウズ王国」を築き上げた。ところが「ソフトは有料」という概念はインターネットの普及で一変する。利用者は様々なソフトをネットから自由に取り込み、世界中の技術者たちがネットで協業してソフトを開発するようになった。

本書はなぜ技術者が好んで協業に参加するのか、皆が勝手に開発しても統一がとれているのはなぜか、といったオープンソースの疑問に答えている。政治学者ながら技術にも詳しく、ソフト開発者のみならず、ビジネスマンが読んでも興味深い。山形浩生、守岡桜訳。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋
円の足枷―日本経済「完全復活」への道筋安達 誠司

東洋経済新報社 2007-02
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おすすめ平均 star
star日本経済をすっきりとさせない「強い円」へのこだわり

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本書はデフレ脱却の重要性を訴えてきたエコノミストによる、国際的側面に力点を置いた経済分析である。タイトルの「円の足枷(あしかせ)」とは円高問題にほかならない。

クリントン政権は米経常赤字を減らす手段として円高カードを切り、中長期的な円高が日本経済の長期停滞とデフレをもたらした。しかもこうした流れが、円は強くなければならないとする「強い円」思想と結びつき、デフレ下の円高をもたらしたという。

グローバル経済の進展が、ワナから脱却するきっかけになった。米国が過剰な消費で需要を増やす。アジア新興国は対米輸出を増やし、原油をはじめ商品の高騰で産油国なども大いに潤う。一方、アジア新興国や産油国のマネーは米国の経常赤字を埋める。

「新ブレトンウッズ体制」である。日本は新興国に資本財を供給し、米国の経常赤字を埋め合わせることで、この体制に組み込まれている。

デフレ克服を目指すリフレーション政策は、こんなレジーム(枠組み)の中でこそ有効に働いた。大量の円売り・ドル買い介入と、日銀による金融の量的緩和。この組み合わせが「デフレを克服するぞ」という当局の意気込みを浸透させ、円の足枷を解いた。

次の一手は、四%前後の名目成長率を目指す成長レジームへの転換であるという。一つの提案であるが、具体策がやや物足りない。症状診断の雄弁さに比べ、処方せん不足の感じは否めない。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

タウトが撮ったニッポン
タウトが撮ったニッポン酒井 道夫 沢 良子

武蔵野美術大学出版局 2007-02
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おすすめ平均 star
star意外なタウト!

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建築家ブルーノ・タウトはナチスを逃れ、1933年から36年まで日本で過ごした。その間の遺品や資料は岩波書店が所蔵し、近年、整理が進む。本書はそこから新たに見つかったアルバムより130点の写真を収めた。日記の記述を添え、タウトの足と目両方の行方をたどれるのが面白い。民家、祭り、市井の暮らしへの親しみをこめた視線が伝わる。写真は33年撮影の「神戸・住宅再開発現場」。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

復讐するは我にあり 改訂新版
復讐するは我にあり 改訂新版佐木 隆三

弦書房 2007-03
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実際に起きた事件を作家の取材と想像力で描くノンフィクションノベル。その草分けといえる直木賞受賞作『復讐するは我にあり』を著者の佐木隆三氏が刊行から三十二年ぶりに書き直し、弦書房(福岡市)から「改訂新版」として出した。初版本と読み比べると、過去の作品に再び生命を吹き込もうとする作家の執念が感じられて面白い。

初版が講談社から刊行されたのは一九七五年十一月。福岡、静岡、東京で五人を殺害し死刑となった男の事件を、関係者への取材と捜査資料、公判記録から詳細に再現してみせた。当時、文芸評論家の秋山駿氏は「犯罪という一つの生きものが描かれて」おり「いままで、日本の文学にはなかった形」と評している。

改訂版で目を引くのは、最初の殺人事件が起き、男の住所でもあった場所を架空の「筑橋市」から本来の「行橋市」としたこと。また死刑執行日を現実より一年早い「昭和四十四年十二月十一日」としていたのを実際の「昭和四十五年十二月十一日」に改めた点だ。

男は最初の事件の直後に犯人と断定され全国に指名手配されながら、逮捕までの二カ月余り、各地で強盗殺人や詐欺、窃盗などの犯行を重ねた。改訂版では、実際の事件で警察庁が作製した男の足どりを示す地図を巻頭に掲載している。

こうした改訂の意図について佐木氏は「初版の刊行当時はまだ事件の記憶が生々しく、関係者に迷惑をかけないよう配慮した。三十年以上が過ぎた今は、むしろ日本の犯罪史上、非常に珍しいとされる事件をしっかり記録しておく必要があると思った」と話す。

事件の発生は六三年、男の逮捕は六四年、死刑執行は七〇年。実際の事件を題材とするノンフィクションノベルにとって、モデルとなった事件についての社会の記憶の風化は作品の生命を左右する問題だろう。佐木氏は記録性を高めることで作品に新たな力を与えようとしているのだ。

「前々から気掛かりな点を直したかった」という出世作の改訂に踏み切ったのは二年前、水上勉著『飢餓海峡』の「改訂決定版」を読んだことがきっかけ。講談社版は現在、単行本、文庫とも入手困難な状態だけに、新たな読者の獲得につながることを期待したい。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

トヨタ製品開発システム
トヨタ製品開発システムジェームズ・M・モーガン ジェフリー・K・ライカー 稲垣 公夫

日経BP社 2007-02-15
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『ザ・トヨタウェイ』の著書として知られるライカー教授が自動車の製品開発・品質管理の専門家と組んでトヨタの製品開発システムを詳しく分析。それをビッグスリーと対比することでトヨタの優位性がどの点にあって、何に根ざしているのかに迫った。本書を読むと、トヨタの生産方式の導入がかなり進みつつある米国でも、トヨタの製品開発システムの導入がかなり遅れていることがよく分かる。稲垣公夫訳。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ベケット巡礼
ベケット巡礼堀 真理子

三省堂 2007-03
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アイルランド出身のノーベル賞作家、劇作家であるサミュエル・ベケットをめぐるルポルタージュ風の研究書。特異な不条理劇をいかに日本の演劇人が受容したか、極力舞台の成果まで踏み込んで詳述する。能からの影響はつとに知られるが、シテの曲舞(くせまい)や霊を呼ぶ間との関連を述べるくだりに説得力がある。小さな教会に残る洗礼帳の発見や作家の癖、著作権継承の問題などベケット・ファンの心をくすぐる話題も収められている。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

希望の書店論
希望の書店論福嶋 聡

人文書院 2007-03
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著者はジュンク堂大阪本店店長。インターネット上のコラムの単行本化で、出版をめぐる様々な問題を縦横に論じる。書店へのPOS(販売時点情報管理)システムの普及やネット書店の台頭、本に代わるデジタルデータ方式の広がりなど、本をめぐる環境変化の中で、それでも「書物を販売する書店人という職業は魅力的」と語る著者の情熱が伝わってくる。「戦場」に例えられる大型書店の舞台裏をのぞけて興味深い。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

蹴る群れ
蹴る群れ木村 元彦

講談社 2007-02-16
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おすすめ平均 star
star旧ユーゴ問題を追い続ける「町のニイちゃん」世界に目を向ける。著者は日本が誇るルポライターだ。
star「悪者見参」に並ぶ素晴らしい1冊
starフットボール大好き!

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世界的なスポーツといわれるサッカーには、どんな地にもプレーヤーがおり、彼らの活動は時に現代史を語る。本書は戦時下のイラク、恐怖政治下のアルバニア、独裁者のいたルーマニア、民族紛争ぼっ発時の旧ユーゴスラビアなど、厳しい時代を生きた選手たちに取材したインタビュー集だ。東北や、在日コリアンの暮らす東京・枝川でサッカーをけん引した人物など日本からも登場する。通して読むと、著者の言葉でもあるが、サッカーに辺境など存在しないことを実感する。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

手塚治虫とボク
手塚治虫とボクうしお そうじ

草思社 2007-03-21
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手塚治虫より七歳年上の児童マンガ家が一九五〇年代から親交があった手塚の素顔を活写する。何度もホテルの同室に缶詰めになった体験から、たった一本のペンを駆使した天才的な早業の仕事ぶりを紹介。昆虫博士と呼ばれる一方、クモを怖がって悲鳴を上げたエピソードも。後半は戦前と戦後まもなくのアニメーション史として読める。セル画を何度も洗って使い回すような苦労を重ねた先人の仕事を丁寧に紹介している。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

モタさんの世界のりもの狂走曲
モタさんの世界のりもの狂走曲斎藤 茂太

角川学芸出版 2007-03
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日本怪魚伝
日本怪魚伝柴田 哲孝

角川学芸出版 2007-03
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日本旅行作家協会と角川学芸出版が協力し、旅に関するエッセーや体験記などを収めるシリーズ「角川地球人BOOKS」の刊行が始まった。既刊は同協会創立者の斎藤茂太氏による旅行記『モタさんの世界のりもの狂走曲』と、作家の柴田哲孝氏による魚をめぐる短編集『日本怪魚伝』。いずれも千五百円。今後、作家の下重暁子氏や登山家の田部井淳子氏、今井通子氏らの著作を刊行する。

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ポル・ポトの掌
ポル・ポトの掌三輪 太郎

日本経済新聞出版社 2007-02
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おすすめ平均 star
starもう少しで大作か!
star自分の視野の狭さを痛感できました

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評論家の登竜門である群像新人文学賞(評論部門)を受賞した気鋭が長編小説に挑戦した。日経小説大賞の佳作になった『ポル・ポトの掌(て)』である。

哲学的な問いを盛り込んだ知的でスケールの大きな小説に仕上がった。相反するように見える二つの世界を鏡のように組み合わせて魅力的に描いた。

最初に登場するのは資本主義の象徴である株のディーラー。主人公の早大生、ぼくは幼友達の東大生を見習って株式投資にのめり込んでいく。古来の「罫(けい)線法」をマスターして百戦錬磨の強者(つわもの)に。しかし三十一歳で相場から足を洗い、死んだ幼友達の影を追って、内戦で荒廃したカンボジアの奥地へと飛ぶ。

森の闇(やみ)でポル・ポトらしき老人と出会う。完全な平等という極端な社会主義を信じて自己否定を続けたポル・ポト派は百五十万人から三百万人も殺したという。しかし森の老人は優しかった。「ひとりも搾取されることのない社会の実現」を諄々(じゅんじゅん)と説いていく。話に感動する主人公……。

オウム事件がこの小説を書くきっかけだった。「仏教系の新興宗教が人殺しをするはずはないとそれまで信じきっていた。カンボジアに行き、内戦のつめ跡を見て、オウムこそが小さなポル・ポトだと思った」

「優勝劣敗や『質より量』の原理を信じこんでいる点でグローバル社会の戦士もポル・ポトの鏡。堀江貴文被告の座右の銘は『諸行無常』という。絶えざる世界の変化からうまく利を刈り取っていくのがディーラー。しかし、グローバル化を拒否したいという人も多数いる。それは日本の外に出ないとわからない」

村上春樹を読んで影響された世代。「もう村上さんの次をめざすべきです。あらゆる面で限界がみえる今の世界を、もう少し哲学的、宗教的に深く見つめていきたい」

■2007/04/22, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

百年前の私たち――雑書から見る男と女
百年前の私たち――雑書から見る男と女石原 千秋

講談社 2007-03-16
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明治期に大衆に読まれた「雑書」から、当時の風潮を探った書。能力アップの方法や男女交際術を指南した本など、ベストセラーは今も昔もそう変わらないことが分かる。またこれらの書が示す当時の風俗、思想から、著者の専門である夏目漱石を中心に近代文学も読み解いていく。その手際が鮮やか。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

写楽―江戸人としての実像
写楽―江戸人としての実像中野 三敏

中央公論新社 2007-02
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おすすめ平均 star
starお騒がせの「写楽は誰?」にピリオド。

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わずか十カ月ほどの活動期間に百点以上の役者絵などを残して、突然姿を消した東洲斎写楽。謎めいた正体に心ひかれる人がいまもやまない。これまでも様々な謎解きが試みられてきたが、筆者は様々な考証をもとに、阿波藩士、斎藤十郎兵衛との説を改めて解き明かす。歴史・文献研究の方法論としても優れている。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

幻夜
幻夜東野 圭吾

集英社 2007-03
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おすすめ平均 star
star続編としての価値。
star白夜行の方が、、、
star完結編を読みたい。

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著者のベストセラー小説『白夜行』の姉妹編ともいえる作品で、阪神大震災直後の被災地で運命的に出会った男女を軸にした犯罪サスペンスである。過去を断ち切るように上京した二人の関係は光と影のようだった。女は野望を実現するため男を翻弄(ほんろう)し、男は女の指示のまま悪事に手を染めていく。女の過去に疑問を抱きながらも手を貸し続ける男の葛藤を丹念に掘り下げ、骨太の人間ドラマにもなっている。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー
マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワーエリザベス・イーダスハイム 村井 章子

ダイヤモンド社 2007-03-02
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米IBMを立て直したルイス・ガースナー元会長をはじめ、多くの最高経営責任者を輩出してきたマッキンゼー。本書は同社の基盤を固め、経営コンサルティングという業態の確立に貢献した人物の評伝である。

「マッキンゼーをつくった男」という副題を見て、難解な経営理論で武装したエリートを思い浮かべた。だが読み進めていくと、職人気質の熱血漢という印象に変わっていく。保守的と思えるほど、経営コンサルの職業倫理にこだわっているからだ。

例えば顧客企業に役員ポストの新設を提案し、自分を売り込んだ部下を即刻、解雇した。「顧客企業に尽くす」という理念に反し、私利私欲を満たそうとしたからだ。マッキンゼーが利益目標を設けることにも反対し続けた。

創設者のジェームズ・O・マッキンゼーにも「会計監査とコンサルティングを同一事務所が行えば必ず利益相反をもたらす」と進言した。一九三五年のことだ。二〇〇一年に米国で起きたエンロン事件では、会計事務所のアンダーセンがまさにこの問題で批判され、消滅に追い込まれた。その約二十年前、同じことを指摘されていた別の会計事務所は「マービンは千里眼だったのか」と驚いたという。

著者もマッキンゼー出身で礼賛が目立つのは否めない。だが様々なエピソードは、信頼の確立が長期的な利益の土台になることを教えてくれる。村井章子訳。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

働くパパのための「幸福な家族」のつくり方
働くパパのための「幸福な家族」のつくり方あいはらひろゆき 読売広告社ネオパパ研究プロジェクト

日経BP社 2007-02-15
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新タイプの教育・子育て雑誌が相次ぎ創刊され売り上げを伸ばしていると著者らは語り始める。従来の類誌が母親を読者に想定したのに対し、新興勢力が狙うのは父親。若い父親と息子が一緒に遊ぶ写真が表紙を飾る。「家族」に好かれるための高級男性ファッション誌も登場した。

男たちの「家族」や「子育て」に対する意識の変化が新市場を生みつつある。終身雇用の崩壊。米国流の「終わりなき競争社会」の到来。これまで男性の多くが生きがいにしてきた「仕事」を巡る環境が激変した結果、「多くのビジネスマンたちは過酷な競争から次第に距離を置きつつあり」「残されたコミュニティとしての『家族』に居場所を見出しはじめている」からだと著者らは分析する。

本書は家族志向の強い「ネオ(新しい)パパ」と、会社人間である「オールドパパ」を比較し、消費の傾向や休日の過ごし方、価値観、ライフスタイルがどれほど違うかを、大規模な調査をもとに具体的に描き出している。積極的に子育てにかかわり、子どもと街を歩き、いろいろなことを一緒に体験したい。子どもには高いレベルの教育を受けさせたい。本やスポーツ用品、ブランド物の服も買い与えたい。そんな欲求が旺盛なのがネオパパだという。

「家族」や「父親」の新しい形を模索する男たちの現在を、人々の本心が表れやすい「消費」という切り口から鮮やかに見せた。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

開発の思想と行動―「責任ある豊かさ」のために
開発の思想と行動―「責任ある豊かさ」のためにロバート・チェンバース

明石書店 2007-02
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著者は、農民や貧しい人々を主体にした「参加型」の農村開発を七〇年代から提唱、実践してきた先駆者としてつとに知られる研究者である。専門のRRA(簡易農村調査法)、PRA(参加型農村調査法)、PLA(住民主体による学習と行動の開発)といった手法、アプローチを活用した住民参加によるエンパワーメントは、世界の非政府組織(NGO)や各国政府の間でも高く評価され、政府開発援助(ODA)などで活用されてきている。

本書は『Ideas for development』(二〇〇五)の邦訳で、既刊の『第三世界の農村開発』『参加型開発と国際協力』の流れの中に位置づけられる。参加型開発の具体的な手法について解説しているわけではないが、訳者あとがきに「チェンバースが開発ワーカーとしての自分の人生を振り返り、そして未来を見据えた本」と説明されている通り、これまでに働いたサハラ砂漠以南のアフリカやアジアの現場での話をもとに、なおざりにしてきたテーマ、理解されないテーマを選んで論じ、まとめようとしている。

各章の前半は過去に書いたもの、後半はそれ以降に起きたことを現代の視点から振り返り、未来に向けアイデアを提供するというユニークな構成だ。内容が専門的で入門書には必ずしも向いていないが、読む側に十分な知識があれば、著者の思想の根幹に触れることができる骨太の書である。野田直人監訳。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

Aus den Fugen
Aus den Fugen古屋 誠一

赤々舎 2007-03-01
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いつもの風景がまるで違って目に映る日がある。かけがえのない人を失った夜、重い病から解放され目覚めた朝。空気が澄んで透明になり、物との距離が近くなる。普段気にしたこともない細部がくっきりと見える。生きている実感が視覚を研ぎ澄ますのだろう。本書を貫くのは、そんな澄みわたった視線だ。在りし日の妻と家庭の日常風景に過去をいとおしむ思いがあふれる。写真は「Wien1983」。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

瞽女と瞽女唄の研究(全2冊)
瞽女と瞽女唄の研究(全2冊)ジェラルド・グローマー

名古屋大学出版会 2007-03
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労作という言葉はこの本のためにあるのではないか。ジェラルド・グローマー著『瞽女と瞽女唄の研究』(名古屋大学出版会)にはこんな感慨を抱かざるを得ない。「研究篇」「史料篇」の二分冊で合計約千七百ページ。一人の米国人研究者が二十年かけて書き上げた。

瞽女(ごぜ)は、映画化された水上勉の小説『はなれ瞽女おりん』をきっかけに、一九七〇年代には一種のブームにもなった三味線を弾きうたう女性の旅芸人である。視覚障害をもち、歌に生活の糧を求めた人たちだ。「最後の瞽女」といわれた小林ハルさんも二〇〇五年、百五歳で亡くなった。

グローマー氏は山梨大教授を務める音楽学者。八五年に来日し、レコードを聴き衝撃を受けた。津軽三味線や、江戸のはやり歌の研究を手がけるかたわら、コツコツと史料や資料を収集する中で、「瞽女が日本の音楽に果たした貢献が無視されている」と痛感した。

先行研究がないわけではない。だが、これまでは民俗学者らによる一種の地域研究であったり、個別の瞽女へ聞き書きであったりと、全体像をつかむには十分ではなかった。記述も「ロマンチックに美化したものが多かった」という。

なぜ、それほど瞽女にひかれたのか。「幾重にも差別されていた彼女たちが、いかに生き抜いてきたかに強い興味があった」。組織を作って団結し、芸能の力で生きた歴史、瞽女が移動することで日本で音楽の流通市場が立ち上がる姿を生き生きと描く。音楽学、歴史学、女性学、障害学と、その射程は実に広い。

宗門御改帳の閲覧など、プライバシーへの配慮に加え、「アウトサイダーへの壁」に阻まれて史料収集の困難にも直面した。それでも、画期的な発見がいくつもあった。たとえば、村の財政を記録した「入用帳」に瞽女への支出を見つけた。これは社会的に認知されていた証左である。

出版にも曲折があった。別の出版社との計画は頓挫し「一時はインターネットによる公開も考えた」。今回の出版も、日本学術振興会科学研究費補助金の交付が決まったことで、ようやく実現した。確かに売れる本ではないだろう。だが、この本の成立自体「百年前の資料にも助けられた」のと同様、後世に残る本である。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

確率の科学史―「パスカルの賭け」から気象予報まで
確率の科学史―「パスカルの賭け」から気象予報までマイケル・カプラン エレン・カプラン 対馬 妙

朝日新聞社出版局 2007-03
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「確率」の考え方は賭け事のたぐいから、天気予報、保険、医療、軍事に至るまで、あらゆる分野で応用されている。本書は小難しい数学を語るのでなく、様々な分野で確率論が取り入れられていった経緯をやさしく解説している。統計に強かったナイチンゲール、二十世紀初頭にノルウェーで天気予報が発展した理由、計算機科学で有名なノイマンと原爆投下の関係など、知られざるエピソードでつづる歴史書である。対馬妙訳。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

平凡パンチの三島由紀夫
平凡パンチの三島由紀夫椎根 和

新潮社 2007-03
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おすすめ平均 star
star活気ある時代だった。
star三島由紀夫の本が読みたくなった。
star今 行くる あの時代 

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雑誌「平凡パンチ」で三島由紀夫の担当を自裁の前の三年間、務めた編集者による回顧。一九六〇年代後半、作家の枠を超えたスーパースターだった三島は、雑誌メディアにも頻繁に登場した。氏の悪口もよく記事にした著者は、しかられることもなく、逆に三島から剣道を習った。学生運動などで騒然とした当時の社会と三島がどうかかわったか。プライベートでの三島のふとした言葉や行動を丁寧にすくいながら探る。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

焼肉小説 プルコギ
焼肉小説 プルコギ具 光然

小学館 2007-03-31
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五月に公開予定の焼き肉をテーマにした映画の原作。北九州の名店「プルコギ食堂」を舞台に、大手焼き肉チェーン「トラ王」の御曹司トラオと、「プルコギ食堂」継承者のタツジが対決する。主役はむしろ焼き肉そのものだ。作中に随時挟まれる肉の描写が食欲をそそる。例えば、韓国語で牛の小腸を意味する「コプチャン」。ぷりぷりの脂がついていて最高にうまい、という。映像的な描写は味覚や嗅覚(きゅうかく)など五感で堪能できる。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略
大企業のウェブはなぜつまらないのか―顧客との対話に取り組む時機と戦略本荘修二

ダイヤモンド社 2007-02-17
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おすすめ平均 star
star大企業とのビジネスを仕掛けようとする人向き
star詰まるところは骨太な組織論
starもうWeb2.0はいいのでは?

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日本で企業がホームページを持ち始めてから十年以上がたち、話題に上らなくなった分、お仕着せのサイトも増えた。本書はホームページが企業にどういう価値をもたらすかという原点に帰り、その効用を分析した。特に最近は「Web2・0」と呼ばれる消費者参加型のサイトが増えているが、大企業のサイトは顧客との対話意識が欠けていると手厳しい。ホームページの運営責任者には必見の書だ。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで
アイルランドの文学精神―7世紀から20世紀まで松岡 利次

岩波書店 2007-03
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スウィフト、ジョイス、ベケットなど多くの世界的作家を生んだアイルランド。その文学世界はいかにしてはぐくまれたのか。著者は七世紀から近代までの作品を俯瞰(ふかん)しながら、アイルランド文学の特色である「異界感」と「パロディー性」を軸に解き明かす。死者が時空を超えて語り手になる時間のパラドクス、他民族の侵略と、支配による異文化との衝突、その緩衝材として発達した風刺。その歩みは複雑で悲劇的だ。苦しみを知る者が持つ優しさがアイルランド文学にはあると著者は指摘する。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

新たな疫病「医療過誤」
新たな疫病「医療過誤」ロバート M.ワクター ケイヴェ G.ショジャニア 原田 裕子

朝日新聞社出版局 2007-03
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米国で医療過誤によって亡くなる患者は年間で少なくとも四万四千人、最大で九万八千人に達する――。米科学アカデミーの姉妹組織である医学研究所が一九九九年に公表した医療過誤についての報告書は米国だけでなく日本にも大きな衝撃を与えた。折から同年一月に横浜市立大学病院で患者を取り違えて手術する事件が起き、この問題への関心が急速に広まった時期でもある。

薬のラベルの見間違いや伝言ミス、ベテラン医師の思い込みといった実にささいにみえる事で人命が失われる。この本は医療過誤の実例を臨場感たっぷりに描き出すとともに問題解決への道として「システム思考」によるアプローチを提唱する。医療現場には悪質な医師も少数ながら確かにいる。しかし「腐ったリンゴ」を取り除くだけでは過誤はなくせない。有能で善良な医師や看護師がベストを尽くしていても防げない場合があると著者は主張する。

病院の人手不足や長時間労働、急速に進歩し専門分野ごとに細分化する医療技術、医師のコミュニケーション能力不足。こうした医療提供システムに内在する問題に目を向け仕組みを直していくことが、過誤を犯した医療従事者を責めることより大切だという。

考え方自体は航空安全などの分野では以前から取り入れられているもので、医療でも今や目新しいものではない。ただシステムに深く根付いた制度や習慣を変えるのは容易ではない。また「事故はだれのせいでもなくシステムが悪かったのだ」と説明されても遺族の気持ちは収まらないだろう。

改善への道は険しく「即効薬」がないことを承知の上での呼びかけといえる。なかなか変わらないシステムの中で患者自身が身を守るにはどうすべきか。著者らは患者が医師らに問いかける質問集も巻末につけている。

原題は「インターナル・ブリーディング(内出血)」。システム内部の「傷」が医療体制そのものを危機にさらしているとの現状認識に基づく。伝染性の病を意味する「疫病」という邦題は著者の意図を正しく伝えていない。(編集委員 滝順一)

▼著者のワクター氏は米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授であり同大医療センター医療サービス部長。共著のショジャニア氏は同大学助教授(准教授)。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

SPACE GUIDE宇宙年鑑 2007―宇宙開発・科学調査の最新情報と成果、将来計画を網羅 (2007)
SPACE GUIDE宇宙年鑑 2007―宇宙開発・科学調査の最新情報と成果、将来計画を網羅 (2007)アストロアーツ 日本宇宙少年団

アストロアーツ 2007-04
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日本と世界の宇宙開発にまつわる二〇〇六年から〇七年にかけての話題を紹介する『スペースガイド 宇宙年鑑2007』(アストロアーツ)が刊行された。アポロ計画以後で最大規模の月探査となる日本のセレーネ計画や、人類初の人工衛星スプートニク一号の打ち上げから五十年となるロシアの宇宙開発の道のり、日本の固体ロケットの開発史などを特集する。的川泰宣、毛利衛監修。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ブリキ男
ブリキ男秋山 祐徳太子

晶文社 2007-02
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ブリキの彫刻や笑いを誘うパフォーマンスで知られる美術家が、自伝をつづった。「詩人マラルメについて書け」という美術学校の入試の解答欄にそら豆の絵を描いて合格し、会社勤めの時代にはグリコのパッケージで両手をV字型に上げて走る少年のキャラクターに扮(ふん)して通勤電車に乗った。珍奇な行動に満ちた七十年の履歴を読み通すと、生き方そのものがアートであったと合点がいく。

「今回の都知事選には出馬しないのか」。この三月には、昔年を知る多くの人からこう聞かれた。一九七五年、美濃部亮吉と石原慎太郎の一騎打ちといわれた東京都知事選に立候補。「泡沫(ほうまつ)候補」と呼ばれつつ、美術家の久里洋二が「推セン反対者」としてポスターに名を連ねたり、やはり候補者だった大日本愛国党総裁(当時)の赤尾敏とチョコレートパフェを食べたりと、本書にはユーモラスな逸話が並ぶ。「落選はしたがポスターはその後国立国際美術館などの収蔵品になった。これぞ政治を乗り越えたポップ・アートだと思うのだが」と著者は言う。

笑いに満ちた本書の中で重石(おもし)の役割を果たしているのが全編にちりばめられた母の言葉だ。独身を通す著者は、母が九十一歳で亡くなる直前まで一緒に暮らした。やくざが「顔を貸せ」と脅せば、母は「顔はとりはずしできないから、貸すわけにはいかないよ」と追い返す。度が過ぎたパフォーマンスで著者が警察から隠れたときは、「堂々と捕まりなさいよ」と言い放つ。八十歳のときガンを克服、回復力のすごさに担当医は母を「怪物」と呼んだ。「この母あってこそ自分の人生は成り立った」

書名に使った「ブリキ」は、その薄っぺらなイメージが軽妙洒脱(しゃだつ)を旨(むね)とする生き方をも象徴する。「安価な材料で芸術の高みを極めることに意義がある。死ぬまでブリキ男を続けたい」

(あきやま・ゆうとくたいし) 1935年生まれ。武蔵野美術学校卒。86年パリ、ポンピドゥー・センター「前衛の日本展」に出品。94年池田20世紀美術館で回顧展。

■2007/04/15, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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