メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年3月4日~3月11日

癒しの島、沖縄の真実
癒しの島、沖縄の真実野里 洋

ソフトバンク クリエイティブ 2007-02-16
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本土復帰以前から、政治や歴史、文化など幅広く取材してきた元地元紙記者がまとめた「沖縄論」。米軍基地問題を中心に政治史に触れながら、「ナンクルナイサ(なんとかなるさ)」という方言が象徴する南国気質、独自の文化・風俗を紹介する。人々が明るさの裏に秘めた憂いにも迫った。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

すべてのいのちが愛おしい―生命科学者から孫へのメッセージ
すべてのいのちが愛おしい―生命科学者から孫へのメッセージ柳澤 桂子

集英社 2007-02
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難病と闘い続ける生命科学者が、幼い孫娘にあてた手紙の形で「生命と自然の不思議」を語る。宇宙の誕生、地球上での生命の出現から、生物の進化、人類の出現、DNAと生殖、人や生物の死まで。セミやミミズ、クラゲ、カゲロウといった小さな生命に向けられるまなざしの温かさが印象深い。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

首長
首長塩田 潮

講談社 2007-02-01
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自治体をどう変えるか
自治体をどう変えるか佐々木 信夫

筑摩書房 2006-10
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おすすめ平均 star
star知識が整理された
star新たな自治体、新たな「公」の実現法

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道州制ハンドブック
道州制ハンドブック地方自治制度研究会 松本 英昭

ぎょうせい 2006-09
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道州制は分権改革のゴール―「小さな自治」と併存(

人影が消えた集落、荒廃する農地、中心市街地のシャッター通り――。政府は国土の均衡ある発展を目指したはずだったが、都市と地方の格差は今や覆いようもない。そして残されたのは八百兆円もの借金だ。

中央省庁が決めた画一的な基準に基づく長年にわたる補助金のばらまきが地域の個性を奪った。その補助金に飛びつき、公共事業への依存体質を強めた自治体も共犯者である。

二十世紀の開発行政の失敗から学べば、地域に活力を取り戻す道筋は明らかだ。地方分権を進め、地域づくりを自己決定・自己責任型に変えるしかない。そのためには地方に十分な権限と財源を与える必要がある。

その地方分権の切り札といわれるのが昨今話題の道州制である。都道府県を再編して設ける道や州に国の出先機関を吸収し、産業政策、インフラ整備、環境対策などを全面的に委ねる。中央政府は外交や防衛、金融行政などに特化する。二十一世紀の新たな国家像だ。

●統治のゆがみ批判

分権改革に対する最大の抵抗勢力が中央省庁の官僚である。金子仁洋著『地方再興』(マネジメント社、二〇〇七年)は明治以降のわが国の歴史を官と政の攻防史として描いたうえで、一九九三年の衆参両院による地方分権推進決議を起点とする改革の歩みを独自の視点で分析している。筆者自身が官僚出身者であるだけに、官僚支配の統治メカニズムのゆがみを批判する部分は説得力がある。

ただし、昨年末の臨時国会で成立した道州制特区推進法が本格的な道州制への扉になるという金子氏の見解は楽観的すぎる。同法に基づく政府から北海道への権限移譲は極めて少なく、北海道開発局という国の機関も温存されたままだからだ。

分権改革が曲がりなりにも進み始めた背景には「改革派知事」と呼ばれたリーダーらの存在がある。塩田潮著『首長』(講談社、二〇〇七年)は「失われた十年」と呼ばれた閉塞(へいそく)感が覆う時代に登場した橋本大二郎、北川正恭、田中康夫の各氏ら十人の知事などの活躍を描いている。人物論としては物足りない面もあるが、情報公開や行財政改革、公共事業の見直しなどで地方から改革が始まったことがよくわかる。

多くの識者が地域を活性化するために集権国家から分権国家への転換を求めているが、それが国民の共通認識になっているわけではないだろう。むしろ、官製談合事件で昨年三人の知事が逮捕されたことで国民の地方行政への不信は強まり、自治体改革の必要性を改めて浮き彫りにしている。

●政策立案型官庁へ

佐々木信夫著『自治体をどう変えるか』(ちくま新書、二〇〇六年)は従来型の事業遂行型官庁から政策立案型官庁への自治体の脱皮を強く求めている。地方公務員を公務を担うビジネスマンととらえ直して官民の競争を促し、実力主義の人事管理、行政大学院を使う人材育成を提案している。

佐々木氏は併せて、政令市、中核市などを例外とする現在の市町村制度から、都市を軸に小規模町村を例外とする制度への転換を提言する。基礎自治体の側からみた国のかたちの将来像として新鮮だ。

分権改革は明治維新、戦後改革に次ぐ第三の改革ともいわれる割に国民の関心が低い。上から与えられる自治制度に慣れてしまったことが一因だろう。市町村数が四割減った「平成の大合併」も政府主導の改革だった。分権改革のゴールとして道州制を目指すことは妥当だとしても、コミュニティー単位の「小さな自治」の再生が伴わなければ地域の衰退は止まらない。「お任せ民主主義」といわれる国民の自治意識が変わるかどうかがカギだ。

道州制といっても、歴史的に見れば国の統治強化のための総合出先機関型から、憲法改正も必要な連邦型までいろいろある。政府の第二十八次地方制度調査会が答申した道州制に関する解説書である松本英昭監修『道州制ハンドブック』(ぎょうせい、二〇〇六年)は過去の議論や海外の自治制度も紹介しており、参考になる。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

子どもの治療決定権―ギリック判決とその後
子どもの治療決定権―ギリック判決とその後家永 登

日本評論社 2007-02
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未成年の子どもが重い病気や大きな事故に遭った際、その治療を決める権利(治療決定権)は誰にあるのだろう。本書の投げかける問いは、子どもの権利、子どもの人権の在り方を考える上で非常に重要な主題である。

もっとも意気込んで本書を手にした読者は、最初肩すかしを食った気分を味わうかもしれない。未成年者に対し、医師が親の同意なしに避妊処置を行えるか否かを巡って争われた著名な「ギリック事件」をはじめ、紹介されている事例の大半が欧米、特に英国の裁判例だからである。

しかし、それは決して著者が怠慢なせいではない。というのも、日本の場合、未成年者の治療や診療拒否は大概、医師と本人、あるいはその家族の間で内々に処理されてきたため、判例自体がほとんどないからである。もちろん裁判官が医師よりも絶えず適切な判断ができるという保証はどこにもない。ただ、そうした判断が医師を中心とした関係者の間、いわば密室の中で行われてきたという事実、そしてそれには野放しの人工妊娠中絶に見られるように負の側面も大きかったことを、真剣に重く受け止めなければいけないだろう。

子どもの治療決定権を甘く見なしがちな社会は当然ながら私たちの患者としての権利、人権をも軽視しかねない性格を持つことを私たちは看過すべきではない。法律書特有の取っつきにくさはあるものの、興味深い一冊である。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

冷戦と科学技術―旧ソ連邦1945~1955年
冷戦と科学技術―旧ソ連邦1945~1955年市川 浩

ミネルヴァ書房 2007-01
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戦後の科学技術の発展で、大国の軍事研究は強力な推進役だった。代表的な成果である核兵器、ミサイル、コンピューターは、今のハイテクにも深くつながる。米国は欧州からの亡命科学者を中核に戦時中から原爆開発のマンハッタン計画を推進し、ミサイル開発にはドイツの科学者を活用。弾道計算を目的にしたコンピューター「エニアック」の開発物語もよく知られる。

米国と比べ、旧ソ連の冷戦期の軍事研究の内情は断片的にしか伝えられていなかったが、ここ十年ほど関連の秘密文書などが次々に公開された。こうした資料に綿密に当たり、旧ソ連の科学技術の原点ともいえる一九四五―五五年の状況を生き生きと描き出したのがこの本だ。

そこに見られるのは、米国へのむき出しの対抗意識と研究者らの総動員の体制だ。スパイを使って米国の原爆開発の情報を入手し、成果を急ぐために放射線被曝(ひばく)などの人的な危険を顧みない。研究活動はまさに戦争の延長であり、科学が人類の幸福のためにあるといった言辞は空々しく感じられる。

巨大なウラン濃縮施設や初期のミサイルの写真など、画像資料も豊富に収録。この時代、人類はなぜその英知をかくも大規模に軍事研究に注ぎ込んだのか、というのが著者が投げかける問いだ。ここに描かれた米ソの生き残りをかけた競争という現実を見れば、そうした「狂気」も理解できる気がする。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

お金より名誉のモチベーション論 <承認欲求>を刺激して人を動かす
お金より名誉のモチベーション論  <承認欲求>を刺激して人を動かす太田 肇

東洋経済新報社 2007-01-04
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おすすめ平均 star
starものの見方、考え方を養える
star人事管理には欠かせない一冊!
star日本社会での認められ方がわかる!

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今国会では残業代の割増率を引き上げる法案が上程される。厚生労働省は長時間労働の是正を狙っているが、割増率が上がると本当に残業時間は減るのだろうか。残業手当を稼ぐために遅くまで居残る社員が増えると心配する経営者もいる。しかし著者は、社員が自主的に残業を減らすだろうと予想する。

社員が低い割増率であえて長時間残業をするのは、会社への忠誠心や貢献を認めてもらいたいからだという。これが「承認欲求」だ。人間、誰しも他者に認められたいとの欲求をもつ。ただ日本人は能力や業績など「表の承認」より、同僚との調和など「裏の承認」を重んじる。

こうした「出る杭(くい)は打つ」風土は、均質性が重要な工業化社会では有効に機能した。だが個々人の創造性が求められるポスト工業化社会では「表の承認」が不可欠になってくる。そこで長所を褒めて伸ばす人材育成法が注目されているが、褒められることに不慣れな日本人の場合、逆にプレッシャーになりやすいので注意が必要だという。

著者は日本人に合ったモチベーションの高め方として、「仕事のプロセスを公開する」「徒弟制を復活させる」といった方法を提示する。日本人の特異性をやや強調しすぎた印象もあるが、カネより名誉の方が人を動かすという指摘には説得力がある。企業など組織の人事評価・賃金制度を見直すうえで重要な論点を示している。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ドイツ・1936年―名取洋之助写真集
ドイツ・1936年―名取洋之助写真集名取 洋之助

岩波書店 2006-12
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日本における報道写真の先駆者、名取洋之助は1936年、ナチス政権下のベルリンオリンピックを取材した。その後、ドイツ国内をベンツで周遊。本書は大会と旅行時の写真を合わせて収めた初の作品集だ。水泳女子200メートルで前畑秀子が金メダルに輝いた瞬間も記録されている。写真はドライブ中のもの。戦争の影が忍び寄る大会とは対照的に旅の光景はのどかだ。解説は日本カメラ博物館の白山真理。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

バブルアゲイン
バブルアゲイン伊藤 洋介

アクセス・パブリッシング 2007-02
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おすすめ平均 star
star懐かしきバブル

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バブルの肖像
バブルの肖像都築 響一

アスペクト 2006-08-09
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おすすめ平均 star
starなぜか、バブル期に惹かれてしまう自分がいます。
starピンドンコンとは何?
starなつかし、はずかし、複雑な……

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気まぐれコンセプト クロニクル
気まぐれコンセプト クロニクルホイチョイ・プロダクションズ

小学館 2007-01-20
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おすすめ平均 star
star読んでも読んでも終わらない厚さ
starこれこそ日本のカルチャーを語る教科書
starバブル回帰は勘弁

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バブルへGO!!―タイムマシンはドラム式
バブルへGO!!―タイムマシンはドラム式君塚 良一 泡江 剛

角川書店 2007-01
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おすすめ平均 star
star映画を見た後で読むのもアリ!
star面白い!ですが…
star映画を見る予定のある方は、あとで読んだ方が良いかも

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「バブル回顧本」泡立つ、知らない若い世代が興味

実感には乏しいが、景気拡大が続いている。中には現在の日本経済には「ミニバブル」が訪れているという見方もある。そんな中、一九八〇年代後半から九〇年代初頭までのバブル期を振り返った本が泡立つように相次ぎ登場している。

旧山一証券勤務のかたわら、男性デュオ「シャインズ」として活躍したバブル期のエピソードをつづっているのが、伊藤洋介著『バブルアゲイン』(アクセス・パブリッシング)。「会社説明会の名目で集めた出席者全員に内定を出す」社もあったという超売り手市場の就職活動や、「目黒に3LDKの別宅をかまえ、週末になると、まるで箱根や軽井沢に行く感覚で、グアム、サイパンに出かけていた」という入社まもない証券マン生活を回顧する。

都築響一著『バブルの肖像』(アスペクト)は、お立ち台で知られたディスコ「ジュリアナ東京」や、クリスマスプレゼントの定番だったネックレス「ティファニーのオープンハート」など、バブル期を象徴するモノやヒトを、写真と文章で紹介している。「思い返せばかならずしも不愉快な日々では、冷や汗にまみれた悪夢ではなかったのかもしれない」と著者のバブル経済期を見つめる視線は冷たくないが、数々の写真は浮かれきった時代を見事に映し出している。

広告業界を舞台にした四コマ漫画、ホイチョイ・プロダクションズ著『気まぐれコンセプトクロニクル』(小学館)も、バブル期を見つめるには格好の一冊。週刊漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」に八一年から連載中の漫画で、本書は八四年から現在までの二十三年分から作品を選んで構成した。タクシーをつかまえるのに一万円札をちらつかせる場面が八九年の作品にあるが、それはホイチョイ企画の映画「バブルへGO!!」にも登場する。

出版界に詳しいフリーライターの永江朗氏は「一定期間が過ぎたことで、バブルを経験した世代が苦笑い気味であっても、やっと過去を回顧できるようになったのではないか。バブルを知らない若い世代が興味を持っている面もある」と分析する。懐かしくも恥ずかしい過去としてみるのか、それとも一種のあこがれの時代ととらえるのか、二つの読まれ方があるようだ。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

日本の企業統治―神話と実態
日本の企業統治―神話と実態吉村 典久

NTT出版 2007-02
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ライブドアや村上ファンド事件の反動で、株主を重視する米国流の企業統治に対する批判が一種の流行だ。本書もその一つ。市場原理と相いれない日本流と言われてきた「親子上場」「同族経営」「株式持ち合い」などを積極的に評価し、今後の企業統治のモデルとしては「従業員による統治」を挙げている。新聞などからの引用が多いのが気になるが、「後進的」と指摘されがちな日本流の良さを再確認するための一助になる。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

よき経営者の姿
よき経営者の姿伊丹 敬之

日本経済新聞社出版局 2007-01
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おすすめ平均 star
starこれから経営者になる人は読むべき本
star経営学者も‘ごっこ’が多い
star旧来型経営者にノスタルジーを覚える世代に贈る

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経営者の劣化が、一九九〇年代以降に生じた日本経済の停滞の背景にあるとみて、「経営者」はどうあるべきかを論じる。まず顔つきにその器量の大小が表れると説き、よき経営者は高いエネルギー、決断力、情と理への深い理解の三つの資質を備えているという。育つ条件は、高い志を持ち、仕事と思索について恵まれた「場」を得ることだと分析する。引き際を誤らないためには美学が要ると、一貫して理想形を追い求める。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

借りまくる人々―クレジット依存症社会の真実
借りまくる人々―クレジット依存症社会の真実ジェイムズ D.スカーロック 中谷 和男

朝日新聞社出版局 2007-02
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なぜ米国の中産階級の多くが「普通の生活」を維持しようとして借金地獄のわなに陥り、貧困層に転落していくのか。リベラル派のドキュメンタリー映画監督である著者は、豊富な実例とともにそのメカニズムを解き明かす。各地の映画祭で高く評価された映像作品を自らの手で活字化した。自己破産への壁を高くした破産法改正の経緯も分かりやすく解説しており参考になる。米大統領選の行方を占ううえでも有益な一冊。中谷和男訳。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

モノと子どもの戦後史
モノと子どもの戦後史天野 正子

吉川弘文館 2007-02
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子供の世界を取り巻く「モノ」から戦後の日本社会の姿を浮かび上がらせようとした一冊。学習机、マンガ、学校給食など、様々な切り口で当時の子供たちの姿を活写する。「社会や時代に流布する子どものイメージから抜け出」すことを目指し、徹底して実証的に子供と「モノ」の関係を探究していく手つきが鮮やかだ。著者らが自らの子供時代の記憶に言及するくだりもあり、親密な語り口に引き込まれる。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

氷上の光と影 知られざるフィギュアスケート
氷上の光と影 知られざるフィギュアスケート田村 明子

新潮社 2007-02-24
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おすすめ平均 star
starファン必読本

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安藤美姫、浅田真央らの活躍で人気が高まっているフィギュアスケート。一九九三年から取材を続けているフリーライターが華やかに見える競技の内側を描く。九四年に米国で起きたナンシー・ケリガン襲撃事件が遠因となって国際スケート連盟の賞金制度が創設され、それが新世代の選手の育成につながったという。選手を支えるコーチや振付師にも焦点をあて、二〇〇四年から導入された新採点方式も詳しく分析するなど、競技の全体像を伝えようとしている。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

物語のはじまり―短歌でつづる日常
物語のはじまり―短歌でつづる日常松村 由利子

中央公論新社 2007-01
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おすすめ平均 star
star短歌を手がかりに日常の思いを切り取る

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食べる、恋する、住まう、老いる。日常生活の様々な出来事をうたった現代短歌の佳品を、エッセーに織り込んで紹介した。「短歌には口ずさめば心が明るくなるような作品がたくさんある。一首が短いから小説ほど読むのにも時間は要らないし、忙しい人にこそ親しんでほしいと思った」。執筆のきっかけを語る。

「働く」から始まる章立てがおもしろい。「襟飾(ネクタイ)の色もて威嚇しあふごとき企業動物らと昼餉(ひるげ)食(を)す」(大塚寅彦)、「もし豚をかくの如(ごと)くに詰め込みて電車走らば非難起こるべし」(奥村晃作)。ふつうなら労働のつらさや苦しみに直結しがちな情景を、本書に登場する短歌はユーモアあふれる表現でとらえる。

「自分も歌を読むことでずいぶん慰められ、はげまされたから」。新聞社に記者として勤めた経験が、短歌と仕事という関係に目を向けさせた。「働く」の章は「少しでも時間が惜しくて、パソコンを枕元に置いて書いた」もの。それだけに「働く現実に寄り添った歌を選べた」と話す。

後に続く「ともに暮らす」「育てる」といった章でも、日常生活や取材での出会いなどから紡いだ経験談が短歌をやわらかく包みこむ。例えば「もろともに冬幾たびを籠(こも)りつつきみこそもつと知りたきひとり」(今野寿美)を引きつつ、好きな相手の読んだ本を知りたくて図書館の貸し出しカードを片端からチェックした思い出を語るくだり。「こんなに自分をさらけ出すなんて、みっともない」と笑うが、そこが本書の魅力の源泉でもある。

昨年夏、二十年間勤めた会社を退職した。短歌を作る時間は増えたが、「歌を詠むのは自分の心の地下室に下りていくこと。いい点悪い点含めていろんな面が見えるので、つらいこともある」。短歌とは苦楽あわせ持つ存在、つまり人生そのものなのだろう。(中央公論新社・一、八〇〇円)

(まつむら・ゆりこ)歌人。1960年福岡県生まれ。毎日新聞社入社後、生活家庭部、科学環境部などを経て2006年退社。歌集に『鳥女』(現代短歌新人賞)など。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

歴史考古学大辞典
歴史考古学大辞典小野 正敏 佐藤 信 舘野 和己

吉川弘文館 2007-02
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文献や遺跡、絵画など多様な資料から歴史像を多角的・立体的に描く『歴史考古学大辞典』(吉川弘文館)が刊行された。中国で発見された「井真成墓誌」など最新の研究成果も踏まえ、典籍、城郭、建築など三千二百七十項目を収録。正倉院宝物、木簡など八つのテーマについてカラーの別刷り図版を収めた。小野正敏、佐藤信ほか編。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

水俣病50年―報道写真集
熊本日日新聞社編集局 (著)

一九五六年の公式確認から五十年。水俣病の被害者が歩んできた道程を追った『報道写真集 水俣病50年』(熊本日日新聞社)が刊行された。原因となった高濃度の有機水銀を含むヘドロの海。チッソや国、熊本県を相手に長期間の裁判を戦った被害者の横顔。この半世紀、一貫して水俣病問題を記録してきた地元新聞社の報道写真を中心に、三百五十点を掲載する。

■2007/03/11, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

いじめの記号論
いじめの記号論山口 昌男

岩波書店 2007-02
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いじめにあった青年の手記などを手掛かりに、いじめる者や被害者、傍観者の心理を分析する。著者もいじめや迫害の対象となった挫折経験があり、自らの経験などを踏まえ、ヴァルネラビリティ(被害者になりやすい特性)などの概念を提起、援用しながらいじめや迫害を生む深層構造に迫る。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

藤沢周平という生き方
藤沢周平という生き方高橋 敏夫

PHP研究所 2007-01-16
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おすすめ平均 star
star著者の思いに共感し、目からウロコの連続
star鬱屈の交感

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藤沢周平の初期から晩年までの作品を「鬱屈の交感」というキーワードで読み解く。苦しみや悲しみを静かに分かち合うことで再び生と向き合う主人公らの生き方を作家自身の人生をまじえて分析。「蝉しぐれ」も単行本化で文四郎の“再生”を加筆し、代表作になった。藤沢小説の魅力を明快に伝える。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ゴッホは欺く 上巻 (1)
ゴッホは欺く 上巻 (1)ジェフリー・アーチャー 永井 淳

新潮社 2007-01
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おすすめ平均 star
star臨場感が凄い!
star如何せん、古い・・・。
star名画のカップアンドボール

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ゴッホは欺く 下巻 (3)
ゴッホは欺く 下巻 (3)ジェフリー・アーチャー 永井 淳

新潮社 2007-01
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おすすめ平均 star
star9.11テロ
star徹夜しました。

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殺し屋を使って数々の名画を手に入れてきた金融会社会長が、次に狙ったのは英国の伯爵家が持つゴッホの自画像。9・11テロ前夜、その伯爵家の女主人が首を切られて命を落とす。金融会社会長の美術コンサルタントだった主人公の女性は、彼の悪事を知り、名画を守るために米国、英国、ルーマニア、そして日本を駆けめぐる。息をつかせぬ展開と刺激に満ちたサスペンスだ。永井淳訳。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

獄中記
獄中記佐藤 優

岩波書店 2006-12
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おすすめ平均 star
star国家の罠と比較すると面白みにかける
star深き自己沈潜は真理への近道となる
star500日以上の

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著者はかつて「外務省のラスプーチン」とも呼ばれた元主任分析官。背任容疑で逮捕され、二〇〇三年秋まで、転向することなく五百十二日間にわたって拘置された。背任、偽計業務妨害の罪に問われ懲役二年六月、執行猶予四年の判決を受け現在、上告中。

二年前、『国家の罠』(新潮社)で国策捜査の言葉を流行(はや)らせた著者が独房でつけた読書ノートや書簡を今回、五分の一ほどに圧縮、編集した。汝(なんじ)の敵を愛せというキリスト教徒でロシア問題の専門家として、ヘーゲル『精神現象学』から『太平記』などの様々な古典、『監獄の誕生』まで幅広い書物を読みこなしながら、人間の尊厳を保つ著者。その内省の軌跡が刻まれる。

「敵意を知性的に克服することにより、見えてくるものがある。政治闘争には敗れても、僕にとっては貴重なものなのである」。独房の中で、さらに研ぎ澄まされた精神が日和見主義に走る人間の性(さが)にはじまり、司法制度や日本の政治・外交を淡々とした筆致で分析する。

弁護団への書簡も多く収録。そのなかからは自己の訴訟戦略だけでなく一般にも通じる説得術、PR戦略も垣間見られる。例えば「一級の宣伝工作の場合、受け手が自ら組み立てたシナリオがわれわれのシナリオに『偶然』一致するという方向にうまく誘導することが適切です」。逮捕後のぶれない著者の行動はすべてシナリオなのかと一瞬、とまどってしまった。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

「健全な市場社会」への戦略―カナダ型を目指して
「健全な市場社会」への戦略―カナダ型を目指して八代 尚宏

東洋経済新報社 2006-12
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「ミスター構造改革」の異名を取る八代尚宏氏は規制改革・民間開放推進会議の委員を長年務め、二〇〇六年秋の安倍政権発足にともない経済財政諮問会議議員に転じた。構造改革特区や官業を民間開放するための市場化テスト法の生みの親であり、両会議はともに首相官邸が主導する構造改革のエンジンだ。

改革路線は小泉政権から引き継がれたが、現状は突破口を開いた段階にすぎない。改革深耕はこれからが本番。そうした状況で、改革がなぜ消費者主権をたしかにするのか、それを成し遂げたあとにはどういう経済社会が形づくられるのかを解説している。

論じている分野は幅広い。労働契約法、社会保障、少子化対策、外国人労働者、教育、農業――。照準は経済規制より社会規制に向く。どの分野も政府の関与が過度に強いことが、ふつうの消費者の利益を損なっている。国民から既得権益者への「見えざる利益移転」の可視化である。

もうひとつ、力を注いでいるのが格差論議への警鐘だ。構造改革が所得や資産の格差を広げたという説への反論は説得力がある。改革で損をするのは常に既得権勢力であり、安倍政権の旗印である再チャレンジ支援や成長力底上げも改革との合わせ技でこそ意味があると説く。

副題は「カナダ型を目指して」。米国モデルへの反発を気にしたのかもしれないが、カナダを持ち出す必然性は小さいように感じた。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

史上最悪のウイルス 上―そいつは、中国奥地から世界に広がる
史上最悪のウイルス 上―そいつは、中国奥地から世界に広がるカール・タロウ・グリーンフェルド 山田 耕介

文藝春秋 2007-01
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おすすめ平均 star
star中国こそ最悪の病原菌
star明日からマスク!!

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史上最悪のウイルス 下―そいつは、中国奥地から世界に広がる
史上最悪のウイルス 下―そいつは、中国奥地から世界に広がるカール・タロウ・グリーンフェルド 山田 耕介

文藝春秋 2007-01
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二〇〇二―〇三年にかけて流行し、二十九の国・地域で約八千五百人に感染し、死者が八百七十六人になった重症急性呼吸器症候群(SARS)を追ったルポである。感染経路と病気との闘いの記録としても貴重である。

高病原性鳥インフルエンザが話題になっている今、SARSがどのように社会で広がり、いかにすれば押さえ込めるかを改めて見ることは、感染症に関するリスク管理の点からも大切なことである。

米国の劇作家を父に、芥川賞作家を母(日本人)にもつ著者は、当時は米国のタイム誌アジア版の編集長だった。それだけに取材は緻密(ちみつ)であり、関係者の聞き取りも万全である。

原題の『CHINA SYNDROME』は二つのことにかけてある。一つはSARSについての文字通りのSyndrome(症候群)である。第一部の「それはなにか?」から、第四部の「それをどう殺すのか?」に分けて書かれている。

もう一つは中国の隠ぺい体質である。そのためにSARSの発見や対策がどれほど阻害されたか……。今も残っているこの体質は中国に内在するSyndromeである。

本書を読んでおやっと思うことがある。それは日本の関与が非常に少ないことだ。医療先進国でありながら、海外の感染症などに手を出さない(出せない?)のはなぜだろうか。医師の意識、国内の体制などいろんな問題がありそうだ。山田耕介訳。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

沸騰時代の肖像 PORTRAITS OF THE 60s
沸騰時代の肖像 PORTRAITS OF THE 60s石黒 健治

文遊社 2006-11-30
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副題は「ポートレーツ・オブ・ザ60s」。三里塚闘争や東大安田講堂占拠、3億円強奪事件などが起きた1968年を頂点として、「その前後の沸騰の時代を背負った、抱え込んだ、戦った、傷ついた若き獅子たちの肖像」と著者は語る。安部公房、寺山修司、渋沢龍彦、大島渚、野坂昭如、原田芳雄、菅原文太、加藤登紀子――。当時の熱気と混乱を濃厚に伝えるドキュメントだ。写真は1967年撮影の加賀まりこ。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム
東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム東 浩紀 北田 暁大

日本放送出版協会 2007-01
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star白熱の対話
star若手のスター学者とスター批評家(自称)の自堕落な自分語り
star「ジャスコ化」の果てに

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東京番外地
東京番外地森 達也

新潮社 2006-11-16
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おすすめ平均 star
starメガロポリス東京のエアポケット
star 影の部分に焦点をあわせたエッセイ
star読んでみると意外と重い・・・

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約三万人が参加した初の「東京マラソン」が終わり、都知事選の投票日まで一カ月余り。一九六四年以来の開催を目指す夏季五輪の東京への招致問題も正念場を迎える。批判も含めて様々な形で首都に注目が集まるなか、批評家や学者、作家らが東京を題材に自らの思考をまとめた本が相次いで登場している。

批評家で東京工業大特任教授の東浩紀と東大助教授の北田暁大による対談を収めた『東京から考える』(NHK出版)。同じ一九七一年生まれの二人はともに首都の近郊で育ち、同時期に東大で学んだ。「同じテレビを見、同じ事件に接し」てきた気鋭同士が、渋谷や秋葉原、池袋などの風景を通じて現代社会の諸問題を活発に議論している。

二人が幼少期からの転居の歴史や中学・高校時代の行動範囲などを明かしながら、お互いが東京に対して抱いているイメージをつかもうと探り合うところから議論を始めているのが面白い。特定の街について突っ込んで語ろうとすると、個人的な体験や育った環境に根ざした話にならざるを得ないことが分かる。

議論が進むにつれ二人の考え方の違いが浮き彫りになるのだが、それが特に明確になるのが下北沢の再開発問題。「若者の街」という下北沢の「個性」を今後どうしていくかをめぐり二人の立場は分かれる。大型店やファストフード店の林立による日本全体の街の均質化が指摘されるなかで、二人の議論は興味深い。

過ぎ去った昭和の時代の東京の変化を写真で振り返るのが評論家、川本三郎の『名作写真と歩く、昭和の東京』(平凡社)。関東大震災からの復興、戦中戦後、高度成長と五輪、バブル経済と続く激動の首都の表情を伝える。本文中の随所で川本はそこに自らの思い出も重ねてみせる。

ドキュメンタリー作家、森達也の『東京番外地』(新潮社)は著者が都内の様々な場所を歩いてつづった随筆。東京拘置所や新宿歌舞伎町、東京タワー、都慰霊堂、多磨霊園などを舞台に著者独特の視線で切り取られた風景が描かれる。

時間の経過とともに激しく移り変わり、同時代でも人によって見え方が大きく異なる大都市東京。だからこそ批評家や作家らの想像力を刺激し続けるのだろう。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

幣原喜重郎と二十世紀の日本―外交と民主主義
幣原喜重郎と二十世紀の日本―外交と民主主義服部 龍二

有斐閣 2006-12
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幣原喜重郎に関する書物は、おびただしい数に及ぶ。それらと本書はどこが違うのか。外交史研究者ではない評者には判断できない。日本語、英語だけでなく、中国語、ロシア語の文献にも目を通して書かれ、細部に発見があり、新たな解釈もあるのだろうが、研究者ではない読書人にとって本書の新鮮さは題名に表された視野の広さである。

第二次世界大戦以前に、外務次官や駐米大使、外相を務めただけであれば、幣原の足跡は、これほどの書物にはならない。英米派外交官としての活動だけでなく、占領下には首相として憲法制定にかかわった。亡くなった時は衆院議長だった。首相と衆院議長を経験した政治家はほかにはいない。

本書は外交官としてだけではない幣原の総合的な伝記であり、その背景にある二十世紀前半の日本が何であったかを掘り起こすが、それにとどまらない。若い研究者である著者が挑むのは、外交と民主主義の緊張関係という重いテーマである。偶然の要素もあるのかもしれないが、本書は日本がいま直面する課題と強い関連性を持つ内容にもなっている。

東アジア共同体をめぐる議論が象徴するように、アジアに向かう空気が強まるいま、戦前の英米派外交官が何を考えたかは考察の価値がある。一時期の日本外交の基礎だった日英同盟を廃棄させたのは米国だったが、当時、幣原は駐米大使であり、対米関係を考え、それを受け入れる。幣原が直面したジレンマが本書には的確に書かれているが、当時、どれほどの日本人がそれに気づいていたか。

もうひとつの今日的意味は、憲法制定時の幣原の動きである。憲法改正を争点として示し、参院選を戦おうとする安倍晋三首相の登場によって改憲は、かなたにあるテーマではなくなった。であれば、現憲法の制定過程を知る必要がある。戦争放棄論の幣原の動きはマッカーサーとの間でどのような意味を持ったか、本書はわかりやすく説く。

外交官としてはともかく、政治家としての幣原の歴史のうえでの知名度は、吉田茂にはるかに及ばない。だからこそ、本書は読む価値があるのだろう。(編集委員 伊奈久喜)

▼はっとり・りゅうじ 68年生まれ。中央大学助教授。著書に『国際政治史の道標――実践的入門』など。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

経済成長の世界史
経済成長の世界史E.L.ジョーンズ 天野 雅敏

名古屋大学出版会 2007-01
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「経済成長」は英国で産業革命以降に始まったものであり、イコール工業化であるとつい私たちはイメージしがちである。しかし、著者によれば、十八―十九世紀に欧州でたまたまそういう形態をとったにすぎない。経済成長の概念を広げ、工業化以前や欧州以外の地域にも目を向けることで、経済成長を阻害する要因を検証、そうした要因を取り除きさえすれば、実は成長はどこでも可能だったことを明らかにする。天野雅敏ほか訳。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

明るい病院改革―誰も泣かせない新しい経営
明るい病院改革―誰も泣かせない新しい経営麻生 泰

日本経済新聞社出版局 2007-01
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著者は麻生ラファージュセメントの社長。経営者としての経験を生かし、麻生グループの飯塚病院の経営に携わってきた。本書ではTQM(総合的品質管理)などを導入した飯塚病院の改革や、麻生グループが移譲を受けた旧国立療養所再建などの事例を紹介。民間経営手法の導入による病院改革を提言している。具体的な経営改善の記録に基づくだけに、医療改革に携わる人たちには大いに参考になりそうだ。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

安全な血液を求めて―危ない血液はもういらない
安全な血液を求めて―危ない血液はもういらない青木 繁之

アドスリー 2007-02
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よく知られているように日本の血液事業は献血で成り立っている。血液は人の臓器であり、その売買は許されないとの立場からだ。加えて(というより当たり前の結論だが)、すべて国内での供給に委ねられている。

一九四二年生まれの著者は学生の時から血液にかかわってきた。それだけに、日本の事業の歴史を語る重みがある。ただ、内容が二〇〇三年の血液新法までにとどまっており、最近の事業を巡る変化の記述に乏しいのは悔やまれる。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

からだのままに
からだのままに南木 佳士

文藝春秋 2007-02
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現役の医師でもある芥川賞作家のエッセー二十編を収める。五十歳の時に「残りは儲(もう)けものの人生なのだから、前半生でやらなかったことに挑んでみよう」と思って始めた山登りの楽しみ、三歳の時に亡くなった母の代わりに著者を育てた祖母の思い出、勤務先の佐久総合病院の元院長で昨年亡くなった若月俊一氏への追悼……。生と死に真摯(しんし)に向き合う姿勢が全編に横溢(おういつ)し、しみじみとした感慨にとらわれる。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

芸術(アート)のグランドデザイン
芸術(アート)のグランドデザイン山口 裕美

弘文堂 2006-12-25
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starアートの未来は日本の未来。

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金沢21世紀美術館が都市の顔となり、青森県の倉庫で開かれた美術イベントが数万人を集めるなど、現代美術が日本各地で盛り上がっているという。本書は、そんな今こそ日本には一歩先を見据えた「芸術(アート)のグランドデザイン」が必要と考える著者による対談集だ。登場するのは美術家の奈良美智、建築家の隈研吾、東京大学大学院教授の浜野保樹ら十五人。美術館の規模、NPO(非営利組織)の運営、学芸員のあり方など様々な視点による考え方が分かる。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

家縁-大阪おんな三代
家縁-大阪おんな三代今井 美沙子

作品社 2007-01
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働き者で「肝っ玉かあさんタイプ」の大しゅうとめと、家事が苦手な「良家の奥さまタイプ」のしゅうとめ。著者が二十三歳で嫁いだ大阪の今井家では、価値観の全く異なる二人による一代前の“嫁しゅうとめ戦争”が継続中だった。今は亡き二人の思い出を中心に、著者を含めた三世代にわたる家族の生活を描くノンフィクションだ。

ことあるごとに反発しあう二人とその間で右往左往する著者。その姿を「いつかは書いておきたいと思っていた」。「超」のつく倹約家だったしゅうとを描いた前著『もったいない じいさん』が好評だったこともあり、執筆を決めた。

大しゅうとめのトクは明治二十四年(一八九一年)に大阪の商家に生まれ、幼いころ両親が他界。十七歳で奉公に出た後、実業家に嫁ぐが、四人の子供と夫を相次いで亡くす。呉服の行商をしながら苦労の末に絶家寸前だった今井家を再興させた「中興の祖」だ。

一方のしゅうとめ、すまは大正三年(一九一四年)生まれ。京都の良家の娘で茶道、華道、琴、書、和歌、日本画をたしなむ趣味人。掃除や後片付けなどは「下々の人間のすること」と思っていたらしく大の苦手で、大阪弁を「下品」と決めつけて使わなかった。

何もかも対照的な二人だったが、共通していたのは、ことわざをよく口にしていたこと。「明治・大正の人がよく言っていた、生活の中から生まれてきた良き言葉を残したかった」。その結果「習うより慣れよ」「親しき仲にも礼儀あり」といった二人の口癖だったことわざがそのまま、各章のタイトルになった。

メモと記憶をもとに書き終え、「みんな一生懸命に生きていたんだな、と家族への愛情が強くなった。今井家に嫁いで前著とこの本の二冊が書けて、本当に良かった」。ひときわ実感のこもった笑顔を浮かべた。(作品社・一、八〇〇円)

(いまい・みさこ)1946年長崎県生まれ。ノンフィクション作家。著書に『めだかの列島』、『わたしの仕事』(産経児童出版文化賞)、『心はみえるんよ』など。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

だめんず症候群
だめんず症候群倉田 真由美

扶桑社 2007-02
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偽装国家―日本を覆う利権談合共産主義
偽装国家―日本を覆う利権談合共産主義勝谷 誠彦

扶桑社 2007-02
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大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか―カンニング竹山と考える
大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか―カンニング竹山と考える竹山 隆範

扶桑社 2007-02
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親より稼ぐネオニート―「脱・雇用」時代の若者たち
親より稼ぐネオニート―「脱・雇用」時代の若者たち今 一生

扶桑社 2007-02
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扶桑社が新書を創刊した。「国家論から恋愛事情まで」をうたい文句に現代社会の諸問題を幅広く扱う。第一弾は倉田真由美著『だめんず症候群(シンドローム)』、勝谷誠彦著『偽装国家』、竹山隆範著『大阪人はなぜ振り込め詐欺に引っかからないのか』、今一生著『親より稼ぐネオニート』など七点。六百八十― 七百四十円。三月中にさらに三点を出し、その後は不定期で刊行する。

■2007/03/04, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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