メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年3月18日~25日

ミサイル不拡散
ミサイル不拡散松本 太

文藝春秋 2007-01
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国際社会が直面するミサイルの拡散問題を外務省の元担当官が解説する。弾道ミサイルと巡航ミサイルの違いや燃料の種類といった基礎知識に始まり、北朝鮮やイランなどの「開発懸念国」の保有状況と協力関係、不拡散への国際社会の取り組みなどを詳述。日本の課題を含め、問題の全体像をつかむのに役立つ。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

志ん生の右手―落語は物語を捨てられるか
志ん生の右手―落語は物語を捨てられるか矢野 誠一

河出書房新社 2007-01-06
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一九七三年から九〇年にかけ新聞・雑誌に寄稿したエッセー集。今は亡き芸人たちの勇躍ぶりが目に浮かぶ。表題の話は、脳出血で右半身不随となった志ん生が高座を務められたのは「豊かな語り口の持ち主だったから」で、落語は「聞く芸」であると断じる。巻末の小三治の「解説」に落語家の自負がにじむ。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

郊外の社会学―現代を生きる形
郊外の社会学―現代を生きる形若林 幹夫

筑摩書房 2007-03
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社会学者が日本の郊外を分析する。かつては極端な人口増や事件の多発、近年は高齢化や人口減が指摘され、問題視されがちな「郊外」。だが、郊外で生まれ、現在もそうした地で暮らす著者は、自身の実感を生かしつつ、より多角的視点から、郊外を生み出す社会構造を見つめようと試みる。

実際に新旧のニュータウンを歩き回り、分譲住宅のチラシなどを引き合いに出すところがリアルだ。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ダイナスティ 企業の繁栄と衰亡の命運を分けるものとは
ダイナスティ 企業の繁栄と衰亡の命運を分けるものとはデビッド・S・ランデス 中谷 和男

PHP研究所 2006-12-21
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おすすめ平均 star
star経営の落とし穴を指摘
starファミリー企業の繁栄と衰退がよくわかる一冊
star「ダイナスティとは、革新である」 (面白く読めます)

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ファミリー企業、同族企業と聞けば前近代的な経営を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし著者は、世界の企業の大部分は今でもファミリー企業だと指摘する。瞬く間に世界最大の製鉄会社をつくり上げたインドのミタル家が、その成長力の好例だろう。本書はダイナスティ(王朝)の名にふさわしい繁栄を誇った一族を取り上げ、人間模様を描き出している。

創業一族が株式と経営を支配するファミリー企業。弱みは一族が社内外の意見や批判に耳を貸さず、「裸の王様」になりやすいことだろう。また初代が刻苦勉励して王朝の基盤を築いても、苦労知らずの二代目、三代目が経営に失敗したり、関心を失ったりすることもある。

一方、同族という求心力が働く強みもある。所有と経営が分離していないことも一概にマイナスとはいえない。むしろ企業業績が向上すれば一族の富が飛躍的に増えるのだから、雇われ経営者よりも真剣味が増すことも多い。

本書には有名なロスチャイルド家、ロックフェラー家をはじめ、様々な王朝が登場する。栄華だけでなく、没落の過程も描かれる。一族のあつれきの収め方や、一族以外の人材の生かし方で明暗を分けることが多いようだ。

王朝同士の比較も面白い。例えば仏プジョーと日本のトヨタ自動車は、一族と部外者の境界線があいまいになっている点が似ているという。中谷和男訳。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

科学技術文明再生論―社会との共進化関係を取り戻せ
科学技術文明再生論―社会との共進化関係を取り戻せ鳥井 弘之

日本経済新聞社出版局 2007-01
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おすすめ平均 star
star科学技術コミュニティーと市民の対話が科学技術文明再生の鍵

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科学や技術が社会に定着し文明を興す役割を果たすためには、科学者、技術者一人ひとりが「アカウンタビリティー」意識をもつことが重要である。この言葉は「説明責任」と訳されているが、「責任」を「義務」にまでもっていくことが必要ではないか。

科学技術上の問題が起きたとき、“専門家”と称する人が科学者、技術者の集団(コミュニティー)の考えであるかのように「個人的見解」を述べ、それが一人歩きするようになる。最近かまびすしくなった一般社会のリテラシー(理解力と訳されることが多い)の向上とともに、科学者、技術者のアカウンタビリティー意識は大切だ。

著者はかつて新聞社に在籍し、今は大学で研究生活に入っているが、長く科学技術と社会の関係について考えてきた。その集大成ともいえる。五章から成り、科学技術への不信や不安、社会との関係、それにタイトルにもなっている科学技術文明再生について言及している。人口増をはじめ地球の限界を示す第一章は、第二章の前触れともいえるが、少し唐突感があるのは惜しまれる。

人々は科学技術に対して過剰な期待をもっている。期待通りにならないと、ときとして科学技術悪者論が広がる。「科学技術ってそんなこともできないの?」との言葉がそれを代表しているようだ。そうしたことに陥ることなく、社会を支える科学と技術を考える好著である。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

共産主義が見た夢
共産主義が見た夢リチャード・パイプス 飯島 貴子

ランダムハウス講談社 2007-02-08
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おすすめ平均 star
star結局、共産主義とはなんだったのか?
starアメリカ人が旧ソ連を書くとこうなるのは当たり前

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二十一世紀に入り、共産主義を体制の基本に据える国家は中国、ベトナムなどわずかになった。こうした国々でも市場経済の浸透は着々と進んでいる。本書はソ連史の専門家の著者が前書きで述べているとおり、「『共産主義』の入門書であると同時に、その追悼の書でもある」。

完全な社会的平等を追求する思想としてマルクスとエンゲルスが打ち立てた共産主義の綱領が、二十世紀初めにレーニンがソビエト連邦という現実の体制に適用させた際、非効率的な官僚制と人間の自由を抑圧するシステムを生み出した過程に注目。毛沢東やカンボジアのポル・ポト政権など、発展途上国の独裁的な権力者が政治の実権を握る上で共産主義を巧妙に利用した経緯にも目を配る。

米国の保守リベラル知識人の立場を反映する著者にとって、共産主義とは結局失敗に終わった歴史上の実験である。例えば階級間の差別や搾取関係の元凶としてマルクス主義が廃止を唱えた私有財産制度を見ても、共産主義国家では、廃止に向けた強制的な施策がときに膨大な人命を奪う結果に至った。

ただ、共産主義が掲げた「平等」の理念までが過去の遺物となったわけではない。日本を例にとっても雇用、教育、様々な平等の実現を求める声が大きくなり始めた。だからこそ、かつての共産主義が陥った失敗の本質を探る本書の作業にも意義があるのだろう。飯嶋貴子訳。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

東京夢譚―labyrinthos
東京夢譚―labyrinthos鬼海 弘雄

草思社 2007-02-24
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下町の窓という窓に干した布団やシャツ。電線が切り裂く空にぽっかり浮かんだ飛行船。見慣れた町の片隅に、異空間へとつながる場所があるようだ。『PERSONA(ペルソナ)』で人物の圧倒的な存在感を写した著者が、30年撮りためた東京の風景。「暮らすひとびとの日々の営為の影や匂いをとおして『場所の肖像』のようなもの」を撮りたかったと言う。無人の景色にもむせるほど人の気配が漂う。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力
世界を変える人たち―社会起業家たちの勇気とアイデアの力デービッド・ボーンスタイン 井上英之 有賀 裕子

ダイヤモンド社 2007-02-17
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貧困や医療などの様々な問題に事業として取り組む「社会起業家」がテーマである。小口無担保融資によって貧しい自営業者を助けるバングラデシュのグラミン銀行の創立者が昨年、ノーベル平和賞を受けて話題になった。その取材から筆者は、社会起業家の支援組織を運営するビル・ドレイトン氏を知り、同氏が支援する起業家を世界各地に訪ねて本書をまとめた。こうした人たちの一端がわかる。井上英之監訳、有賀裕子訳。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

南原繁の言葉―8月15日・憲法・学問の自由
南原繁の言葉―8月15日・憲法・学問の自由石坂 公成 立花 隆

東京大学出版会 2007-02
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立花隆は戦前に日本が急速にファシズム化したドラマが「天皇機関説問題」と見る。東大で天皇主権説の上杉慎吉と天皇機関説の美濃部達吉が対立、美濃部は反国体思想の元凶とされ、天皇機関説は大学から追放された。学問の自由は死ぬ。旧制東大最後の総長で新制東大最初の総長だった南原繁はこの反省に立ち、平和と民主主義、学問の自由を守るために闘う。本書は南原の言葉を紹介し、政治学者の佐々木毅や作家の大江健三郎らがその意義を考える。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

にっぽん入門
柴門 ふみ (著)

仏像探訪をまとめた著書『ぶつぞう入門』を持つ漫画家が、次に取り組んだのが「日本文化を探る旅」。(1)雪国の「かまくら」でモチを食う(2)長良川で「鵜(う)飼い」を体験する(3)佐渡で「たらい舟」に乗る、という「三大野望」をほぼ達成した(鵜飼いは岩国で実施)ほか、岩手黒石寺の裸踊り、大阪・枚方パークの菊人形など、北海道から九州まで全国十七カ所を訪れた。鋭くも優しい視点とユーモアを込めた筆致が楽しい旅エッセーだ。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

トオサンの桜 散りゆく台湾の中の日本
トオサンの桜 散りゆく台湾の中の日本平野 久美子

小学館 2007-01-30
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おすすめ平均 star
star世代を超えて、是非読んでいただきたい!
star今でも尊敬されている多くの日本人教師がいるという事実

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日本統治時代に教育を受け、日本語を話せる人々を台湾では「トオサン」という。日本の象徴だった桜の木を黙々と育て守る人。日本の軍隊で鍛えた精神をよりどころに生きてきたと話す人。著者は日本を心の母国と考えるトオサンたちの姿を丹念に追った。過去の礼賛に終わらず、植民地期に受けた差別の苦い思い出、国民党時代の弾圧のトラウマ、現在の日本社会への幻滅など、彼らの複雑な心情を細やかにすくい取る筆がさえる。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

数をめぐる50のミステリー―数学夜話
数をめぐる50のミステリー―数学夜話ジョージ G.スピロ 寺嶋 英志

青土社 2007-02
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取っつきにくい数学の世界を日常の親しみやすい話題にからめて平易に解説する――。よくある教養書のパターンだが、本書の特徴は話題がどれも新しいことだ。株式相場の変動を探る理論や、絶対に解読できない量子暗号技術への挑戦、あるいはギャンブルへの科学的考察。ベルヌーイやオイラーを生み、アインシュタインも学んだスイスの新聞に連載した読み切りの五十話を通じ、数学の最新理論の見どころを味わえる。寺嶋英志訳。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ニッポン・サバイバル―不確かな時代を生き抜く10のヒント
ニッポン・サバイバル―不確かな時代を生き抜く10のヒント姜 尚中

集英社 2007-02
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おすすめ平均 star
star私から公へ
starあえて「あいまい」にしてきたことを現実的に考える

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静かな語り口の論客として知られる政治学者が、「『お金』を持っている人が勝ちですか?」「『自由』なのに息苦しいのはなぜですか?」など十テーマに即して、自らの考えを示している。インターネットの女性誌サイトでの連載をまとめたもので、読者の声を受けとめた上で「生きるヒント」を提示する内容だ。

「大学教授にとって専門分野を特定の層に向かって訴えるのは大切だが、それにとどまることなく、もう少し多くの人々と接近したいと考えた」。その上で「政治、宗教、民族など硬派な話題に、普通の人々が興味をもつきっかけになれば」と期待する。

解決法というよりは、考えるきっかけを示すことを重視した。「最近はスピリチュアル(精神的)な世界に興味をもつ人が多い。もちろん有効な場合もあるのだろうが、命令待ち、指示待ちの人が増えていることの表れだとすれば、必ずしも良い傾向ではない」と思うからだ。自分自身で考えること、それが飛び交う膨大な情報に立ち向かう「メディアリテラシー」につながると見る。

「どうしたらいい『友人関係』が作れますか?」という章では、大学生で出会い、著者が五十歳のときに病気で亡くなった親友の思い出をつづり、「永遠に仲むつまじいライバル」こそ親友とする。ほかにも幼いころに故郷の熊本で一緒に遊んでいた「鍛冶屋のケンちゃん」が登場するなど、著者自身の人生も描かれている。「等身大の自分を出すことで身近に感じてもらいたかった」

本書の端々にもうかがえるように「理想主義者」である。「もちろん現実と切り離された理想であっては意味がない。でも、現実を批判できるのは理想しかない」と強調する。これからも生きにくい世の中で、強くしなやかに生きていく方法を探っていく。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

変われる国・日本へ イノベート・ニッポン
変われる国・日本へ イノベート・ニッポン坂村 健

アスキー 2007-03-12
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おすすめ平均 star
star制度のイノベーション
star発想の仕方を変えようよ!!

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快適デジタルライフ グーグル最新検索術
快適デジタルライフ グーグル最新検索術アスキー・ドットPC編集部

アスキー 2007-03-12
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おすすめ平均 star
star中高年者にもわかりやすい
star2色で図版説明も多い

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三十―五十代男性向けの新書「アスキー新書」(アスキー)の刊行が始まった。三月の既刊は坂村健著『変われる国・日本へ』(七百二十円)、アスキー・ドットPC編集部編『グーグル最新検索術』(同)など七点。アスキーの創立三十周年を記念した出版で、今後はビジネスや情報技術を中心に、歴史や科学など幅広いテーマの本を出していく。四月以降は毎月十日に三点程度ずつ刊行する。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

タイムカプセル
タイムカプセル折原 一

理論社 2007-03
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雨の恐竜
雨の恐竜山田 正紀

理論社 2007-03
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王国は星空の下
王国は星空の下篠田 真由美

理論社 2007-03
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人気作家の書き下ろし作品で構成するミステリー、ホラー、SF、ファンタジーなどのシリーズ「ミステリーYA!」(理論社)の刊行が始まった。既刊の初回は折原一著『タイムカプセル』(千四百円)、山田正紀著『雨の恐竜』(同)、篠田真由美著『王国は星空の下』(千三百円)の三冊。今後は芦原すなお、田中芳樹らの作品を毎月一、二冊ずつ刊行する。

■2007/03/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ太田 直子

光文社 2007-02-16
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おすすめ平均 star
star翻訳者の苦労と喜び

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第一線の映画字幕翻訳者が明かす字幕制作の裏話。よくある職業ガイドかと思いきやさにあらず、ユニークな日本語論、現代コミュニケーション論になっていて面白い。限られた字数で最大限に趣旨を伝える技術、映像から文脈を読み取る力の衰え、情報化時代の「常識」をどこに置くか……。「泣かせ」操作が顕著な最近の映画配給会社の心なき商業主義も痛快に一刺しし、大いに留飲が下がる。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く山田 昌弘

筑摩書房 2007-03
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「格差社会」論議の火付け役となった本。著者はリスク社会となった日本で、将来に希望が持てる人たちと絶望している人が分裂している様子を「希望格差社会」と名付けた。文庫化のための解題で著者は、格差をめぐる議論は広がりつつあるものの、こうした構造問題への対策は進んでいないと指摘する。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

牛丼焼き鳥アガリクス
牛丼焼き鳥アガリクス中村 靖彦

文藝春秋 2007-01
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おすすめ平均 star
starとにかく現状を知るには最適の本

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政府の食品安全委員会の委員を務めた著者が、国際化、簡便さ、健康志向という三つのキーワードで日本の食の現在を読み解く。BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザのニュースに一喜一憂する半面、食生活のバランスや自給率については無頓着。「現代の食は混乱時代」との警鐘が耳に痛い。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

なぜ日本の政治経済は混迷するのか
なぜ日本の政治経済は混迷するのか小島 祥一

岩波書店 2007-02
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日本で経済問題が生じると、決まって四つの段階を踏むという。著者が「四幕劇」と呼ぶものの第一幕は当局が「何の問題もない」と政策を拒む。第二に問題の深刻さを否定できなくなり、その一部を認め政策をとりやすい日銀にボールを投げる。

第三に外国からの批判が強くなる。最後に問題を全面的に認め本格的政策をとる。事態が小康を得ると「政策はやり過ぎだった」という声が高まり逆コースをたどり、ドラマは振り出しに戻る。

一九八〇年代の日米経済摩擦や九〇年代の不況、不良債権など様々な経済問題を振り返り、それぞれの「四幕」を跡づける。小泉改革も例外ではないというところがユニークだ。また著者が旧経済企画庁で月例経済報告を担当していた九一年ごろの不況問題に関して旧大蔵省の介入などが詳細に語られ、迫力がある。 本書のもう一つの特徴は、いかにも日本的な問題先送りや総論賛成・各論反対が、実は民主主義に内在する矛盾に由来することを、経済学の成果なども用いながら解き明かしていることだろう。そして混迷の繰り返しから脱するためには、人々がマインドを変えて「公益」あるいは「総論」の議論を強め、かつ鍛える必要があると説く。

実際に政策立案に携わった当事者が経験も踏まえて分析した政治経済論。この二十年あまりのできごとを普通の経済書とはひと味違う角度から切ってみせている。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

証券詐欺師―ウォール街を震撼させた男
証券詐欺師―ウォール街を震撼させた男ゲーリー・ワイス 青木 純子

集英社 2007-01
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おすすめ平均 star
starなかなかですね。

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年金生活の高齢者などに狙いを定め、資産をだまし取る証券詐欺は洋の東西を問わず昔からある話だ。だが本書で描かれる証券詐欺は少し違う。ウォール街とマフィアの癒着が背後にあるからだ。

本書の主人公はルイス・パシュートという証券ブローカー。十八歳でウォール街入りし、一年足らずで月に十万ドル(一千万円以上)も荒稼ぎするようになった男だ。著者は、三年間にわたってパシュートのほか彼の妻や両親らにも密着取材し、迫真のノンフィクションに仕上げた。

投資の知識もほとんどない若造がなぜこんなに稼げたのか。パシュートは一九九〇年代、「チョップハウス」と呼ばれる悪徳証券ブローカーに勤め、超低位株を一般投資家へ売りつけていた。たとえば一株五ドルで仕入れた銘柄を八ドルで転売し、差額の三ドルを売買益とした。実態は売買益ではなく、投資家をだまして六〇%もの法外な手数料をかすめ取っていたのだ。

そんなチョップハウスを支配下に置いていたのがマフィアだった。マフィアはチョップハウスから収入の一部を得る代わりに、紛争解決などで力を貸していた。

著者はベテランジャーナリストで、人物描写もカラフルで読みやすい。米国では映画化も決定しているようだ。軽薄さ丸出しのパシュートの発言はどこまで信用できるのかやや気になるが、個人投資家にとって警告の書であるのは間違いない。青木純子訳。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

中国の赤い富豪
中国の赤い富豪ルパート・フーゲワーフ 漆嶋 稔

日経BP社 2006-12-14
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中国が目指しているのは社会主義市場経済体制だ。しかし一九七八年に経済の改革開放に踏み出してから、この国はどう見ても原始資本主義の様相を強めている。国有企業に代わって私営企業が台頭し、チャンスと努力次第では巨万の富を築くことも可能になった。中国各地にそんな成功物語があり、「赤い富豪」が続々と誕生している。

こうしたチャイナ・リッチを資産額でランキングしたものとして「フーゲワーフ富豪番付」と「フォーブス誌の富豪番付」の二つが毎年発表されている。実はいずれも、創始者はこの本の著者のルパート・フーゲワーフ氏。九九年から二〇〇二年まではフォーブス誌と組んで、その後は同誌とたもとを分かって番付を発表し続けている。

フーゲワーフ氏の強みは、番付に出てくる富豪の大半に何度もインタビューしていることだ。この本にも富豪たちの成功体験談や人物評、金もうけ哲学が生き生きと描かれている。中には途中でつまずく者も出てくるが、「問題富豪」という章でそういう人たちも取り上げている。

著者は会計士。その知識を駆使した推計や分析が番付の信頼性を高めている。番付作りを思いついた経緯、富豪の探し出し方、資産額の推計方法、フォーブス誌との決別の理由なども明かしており、その苦労話自体も面白い。本全体から、私営企業の台頭という中国の大きなうねりと活気が伝わってくる。漆嶋稔訳。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

SIGHTSEEING
SIGHTSEEING瀧本 幹也

リトルモア 2007-01-17
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目をみはる歴史的建造物も、雄大な渓谷や美しい砂浜も、派手な観光バスとカメラを提げた観光客が視界に現れた途端、なぜか俗っぽく変質して見えることがある。その“化学変化”を逆手にとって、著者はユーモラスな「観光地写真」を撮ってみせた。ピラミッドの階段を彩るツアー客、皇居やナイアガラの滝の前で記念撮影する団体さん。いささかこっけい、でも幸せ。そんな人々の笑顔に心ひかれる。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

“手”をめぐる四百字―文字は人なり、手は人生なり
“手”をめぐる四百字―文字は人なり、手は人生なり白洲 正子 季刊「銀花」編集部

文化出版局 2007-01
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おすすめ平均 star
star文字は目で読むものだと、あらためて思った。
star肉筆原稿の妙味
star今年最初の良書

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図説 江戸文字入門
図説 江戸文字入門橘 右橘

河出書房新社 2007-02-21
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失われた書をめて
失われた書をめて石川 九楊

岩波書店 2006-11
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おすすめ平均 star
star書とは何かに答えられる人が言語とは、に答えられるか?

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えんぴつで奥の細道
えんぴつで奥の細道大迫 閑歩 伊藤 洋

ポプラ社 2006-01
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おすすめ平均 star
star鉛筆で奥の細道
star傷ついた心を救ってくれた
star良いアイデアの本であり、お薦めです

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手書き文字の魅力、意義を扱った本が続々と刊行されている。文字には筆者の個性や感情が表れるが、ワープロ、パソコンの普及で手書きの機会はめっきり減った。本の扱うテーマや体裁は異なっても、共通するのは失われる文化への危機意識だ。

『“手”をめぐる四百字』(文化出版局)は季刊誌「銀花」に連載されたエッセー集。柳美里、浅田次郎ら作家のほか、岸田今日子ら幅広いジャンルから著名な五十人が原稿を寄せた。最大の特徴は肉筆の原稿用紙をそのまま掲載したことだ。

端正なペン字、豪放な毛筆など、様々な字体は個性にあふれ、文字そのものが魅力を放つ。「銀花」の山本千恵子編集長は「均一なパソコン文字が並ぶことがあたりまえになって、しかし肉筆文字はその存在感を増し、一段と強い光を宿しはじめた」と指摘する。

日本古来の手書き文字を紹介したのが橘右橘著『図説江戸文字入門』(河出書房新社)。千社札などに使われる「江戸文字」を歴史背景とともに、豊富なカラー図版で解説した。終章では、実際に「相撲字」や「寄席文字」などの書き方を指導する。

著者は江戸文字がレタリングの一種として輪郭をなぞるだけで、安直に継承されることへの懸念を隠さない。「各々(おのおの)の文字が生きる世界の息吹の中でこそ、その味わいが表現できる」とし、歴史の理解や先人への敬いが必要と強調する。

書家の石川九楊著『失われた書を求めて』(岩波書店)は手書き文字の根源的な意味を解き明かす。「書くことつまり筆蝕(ひっしょく)するとは、人間の暗部に眠っている意識を、いっきに言語の世界に引き上げる行為」だとし、書く行為そのものが思考につながると説く。

昨年から続く書写本ブームも手書き復権の流れといえるだろう。昨年一月に出版された『えんぴつで奥の細道』(ポプラ社)は九十五万部、シリーズ四冊の累計で百二十五万部に達した。「当初の五十代以上から十代まで読者層が広がってきた」(ポプラ社一般書編集部の浅井四葉氏)

あふれんばかりの活字の中で出合う手書き文字はどこか新鮮で、ぬくもりをたたえる。その良さを失ってはならないと、読者も感じ始めたのではないか。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

その「記者会見」間違ってます!―「危機管理広報」の実際
その「記者会見」間違ってます!―「危機管理広報」の実際中島 茂

日本経済新聞出版社 2007-02
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企業が不祥事や事故などを起こしたとき、最初の記者会見でどのように対応するかが、その後の展開に大きく影響する。危機管理広報は単なるテクニックではなく、そこに企業の体質がよく表れる。筆者は実務に精通している弁護士だけに、記述は具体的で記者会見場のレイアウトにまでふれている。しかし広報マンだけに参考になる本ではない。経営トップも裸の王様にならないために読めば、何か気づくことがあるだろう。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

交通事故はなぜなくならないか―リスク行動の心理学
交通事故はなぜなくならないか―リスク行動の心理学ジェラルド J.S.ワイルド 芳賀 繁

新曜社 2007-02
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クルマに搭載する安全装置を改良しても事故は減らないと交通心理学者の著者は主張する。装置を当てにした運転者は以前より危険な運転を試み、結局は同じ確率で事故を起こすからだ。道路拡幅や取り締まり強化も同様。健康維持など他の分野でもこの法則は成り立つという。一人ひとりが将来に希望を持ち、未来に高い価値を感じることによってのみ、行動は慎重になり事故は減るとの提言は実感として納得できる。芳賀繁訳。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ファミリービジネス論―後発工業化の担い手
ファミリービジネス論―後発工業化の担い手末廣 昭

名古屋大学出版会 2007-01
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ファミリービジネスは歴史的に衰退していく存在、あるいは企業法制の整備に伴って改組すべきものとして議論されがちだ。しかしアジアやラテンアメリカの後発工業国では、この企業組織が工業化の担い手として重要な役割を果たしながら存続し、発展を続けている。それはなぜなのか。タイの経済や財閥の研究で定評のある著者は、タイの具体的事例を取り上げて縦横の分析を加え、この問いにこたえようとしている。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アフリカにょろり旅
アフリカにょろり旅青山 潤

講談社 2007-02-10
売り上げランキング : 731

おすすめ平均 star
starワイルドすぎます。すごくいいっ!

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ウナギの産卵地を突き止める研究で知られる東京大学海洋研究所の塚本勝巳教授のグループ。地球上に生息する全十八種類のウナギのうち十七種類を採集したが、アフリカのラビアータという種類だけが手に入らない。“謎の熱帯ウナギ”を捕獲すべく、研究所助手の著者は仲間と二人でマラウイ、モザンビーク、ジンバブエをめぐる二カ月間の旅に出る。猛暑などに苦しみながらウナギを探す壮絶な道中記。研究者の執念が伝わる。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

編集者という病い
編集者という病い見城 徹

太田出版 2007-02
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おすすめ平均 star
star引き込まれた
star読み応えある「プロ論」だが、ダブりが多いのが難
starただの交友関係録・ビジネス成功本

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著者は最も個性的な現役編集者の一人。角川書店時代、尾崎豊、松任谷由実らが書いた本が次々にベストセラーとなり、その後設立した幻冬舎でも、五木寛之、石原慎太郎、村上龍らの話題作を自ら手がけてきた。その編集術を初めて本格的に明かしたのが本書だ。「顰蹙(ひんしゅく)は金を出してでも買え」「書き手の心の傷に塩を塗り込む」など刺激的な物言いの根底にあるのは劣等感だという。負の感情に通じているからこそ、書き手を刺激的な言葉で挑発できると説く。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略
シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略一條 和生 徳岡 晃一郎

東洋経済新報社 2007-02
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おすすめ平均 star
star中高年よ、読め!
starアイデアの具体例が参考になりそう

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本書で言う「シャドーワーク」とは、会社員が社内外で自主的、非公式に取り組む勉強や活動を指す。目的は会社への貢献だが、公式な職務や業務命令から一歩離れているのが特徴だ。

実例を見てみよう。日産自動車では三十歳代の女性をターゲットにした新車を開発するため、「女性研究会」という非公式なグループを結成。社外の商品開発担当者をゲストに招いた。米グーグルは、全社員に「二〇%は業務以外のことをする」という独自の二〇%ルールを適用している。

なぜ日本企業にとってシャドーワークが重要なのか。規格品の大量生産で欧米に追いつくことを目標にした時代は終わり、既存製品のコスト競争では新興国に追い上げられている。成長のためには技術やビジネスモデルの革新が欠かせないが、それらはシャドーワークという「目に見えない世界」から生まれると著者は説く。

命じられた業務を慣例に従ってこなすだけで、社外はもとより社内の他部門とも没交渉――。そんな社員ばかりの会社を想像してみれば本書の説得力は増すだろう。業績好調な会社なら心配ないとも言い切れない。売り上げが伸びている会社では往々にして効率化のために組織が細分化され、社員は目先の仕事に追われる。こうして「やらされ感」が強まると社員の自主性が失われ、新しいアイデアが生まれにくくなる。

本書はシャドーワークを阻むものの分析や対応策、促進するためのマネジメントにも言及。管理志向の強い上司が壁になる例も指摘している。ちなみに三菱商事の小島順彦社長は最近、本紙のインタビューに登場。過去の成功体験にとらわれ、トップと現場の情報流通を遮断する人たちを「粘土層」と呼んだ。彼らには「他の企業と交流して異なる文化や発想を吸収してもらう必要がある」などと語っており、本書と問題意識が重なっているようだ。

公式の任務から逃避する口実でなければ、シャドーワークは会社に欠けているものを自ら生み出そうとする活動と言える。本書は経営者や管理職の自己診断にも役立つ。

▼いちじょう・かずお 一橋大学教授。専門は組織論。とくおか・こういちろう フライシュマン・ヒラード・ジャパン上席副社長。人事コンサルティングなどを手がける。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語
五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語小林 登志子

新潮社 2007-02-22
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二〇〇四年のアテネ五輪に、戦乱の中から参加したイラク選手団。入場行進の先頭を歩く女性が身につけていたのは、くさび形文字をあしらったドレスと花の文様の髪飾りだった。古代メソポタミアのシュメル人ゆかりのものだ。「現代のイラク人もシュメル人を誇りにしている」と感慨深く思うと同時に、それが日本で全く話題にならなかったことにがくぜんとした。

「古代エジプトに比べると、あまりにも知られていない。研究者から近づいていかなければ」。そんな思いから、本書で王族ら実在人物に焦点を当てながら、シュメル人について分かりやすく解き明かした。

紀元前三五〇〇―二〇〇〇年ごろに活躍したシュメル人は、どこからやって来たのか分からず、「謎の民族」といわれる。言語は日本語の「てにをは」のような助詞を持つ膠着(こうちゃく)語に属し、周囲の民族とは異質のものだった。文字を発明し、都市国家を築いたが、異民族の侵入で歴史の表舞台から姿を消した。それなのに彼らを「現代につながる存在」ととらえる。なぜか。

「物質文明、科学技術、教育など、現代の社会の仕組みの多くが当時のシュメル人社会にもあった」という。そして「『やられたら、やり返す』のではなく、お金で償うという進歩的な考えを持っていた賢い人たち」だからだ。教育パパ、家庭内暴力から逃れる妻、自らを賛美する独裁者など、描かれた人々は今もどこかにいる。こうした生活は膨大な粘土板に刻んだ詳細な記録からわかった。

子どものころから歴史が好きで、シュメル人に興味を持ったのは大学時代から。「古代エジプトや日本は特異に平和。むしろ他民族との共存や戦いなどを経験したシュメル人のような社会の方が普遍的では。国際社会に生きる日本人だからこそ、シュメル人を知ってほしい」と語る。(新潮社・一、三〇〇円)

(こばやし・としこ)1949年千葉県生まれ。中央大学大学院修士課程修了。NHK学園「古代オリエント史」講師。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

江戸の出版事情
江戸の出版事情内田 啓一

青幻舎 2007-03
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新発見・洛中洛外図屏風
新発見・洛中洛外図屏風狩野 博幸

青幻舎 2007-03
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江戸文化を身近な視点から解説した「大江戸カルチャーブックス」(青幻舎)が創刊された。全ページカラーで、豊富な資料と絵図で構成した。一巻一テーマに絞り詳しく分析する。第一巻は役者絵や美人画、仮名草紙などを紹介した内田啓一著『江戸の出版事情』、第二巻は約四百年前の都の様子を描いた狩野博幸著『新発見 洛中洛外図屏風』。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

観光
観光ラッタウット・ラープチャルーンサップ 古屋 美登里

早川書房 2007-02
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カブールの燕たち
カブールの燕たちヤスミナ・カドラ 香川 由利子

早川書房 2007-02
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翻訳文学の新シリーズ「ハヤカワepi〈ブック・プラネット〉」が早川書房から刊行され始めた。世界文学の潮流となりつつある「移民作家」の作品を中心に紹介する。初回はタイ系作家ラッタウット・ラープチャルーンサップ著『観光』(千八百円)、アルジェリア系作家ヤスミナ・カドラ著『カブールの燕たち』(千六百円)を二月に刊行。三月以降は奇数月に刊行する。

■2007/03/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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