メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年2月4日~2月11日
| 地域再生の条件 | |
![]() | 本間 義人 岩波書店 2007-01 売り上げランキング : 4488 おすすめ平均 ![]() 見聞事例をもっと出した方がよかった。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人口減、高齢化で地域の疲弊は深刻だ。公共事業頼みは期待できない。本書は三十を超える例を紹介しながら、再生の条件を探る。住民、首長らが知恵を絞り地域の個性や資源を生かすのが基本だ。成功例で漏れている所もあるし、書き込み不足も散見されるが、再生に苦闘する人たちへの手引きとなる。
| ぼくらが惚れた時代小説 | |
![]() | 山本 一力 朝日新聞社出版局 2007-01 売り上げランキング : 61874 おすすめ平均 ![]() 時代・歴史小説好き、時代劇好きなら読んで損は無いAmazonで詳しく見る by G-Tools |
作家の山本、評論家の縄田一男に加え、読書家として知られる俳優の児玉清という時代小説を愛する三人が、その魅力を縦横に語り合った。中里介山の『大菩薩峠』から司馬遼太郎、宮城谷昌光まで、時代小説には人生を生きるためのヒントがあり、日本人の心の原風景があるという。格好の読書案内だ。
| パラサイト・イヴ | |
![]() | 瀬名 秀明 新潮社 2007-01 売り上げランキング : 23161 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
大学の薬学部助手を務める主人公は、事故で死亡した妻の肝細胞をひそかにフラスコで培養する。細胞は異様な増殖の果てに未知の生命体へと変化し、予想外の行動を始める……。一九九五年に発表され話題となった著者のデビュー作。著者による文庫のための「あとがき」では、発表当時の新聞や雑誌に掲載された賛否両論の批評を振り返ってエンターテインメント小説と科学の関係を論じている。
| 王様と私―友人、時には敵そしてマネージャーだった私が栄光の王座に就いたパヴァロッティの私生活を修正なしで公開する | |
![]() | ハーバート ブレスリン アン ミジェット Herbert Breslin 集英社 2006-12 売り上げランキング : 40229 おすすめ平均 ![]() 長年のファンなのでAmazonで詳しく見る by G-Tools |
三大テノールの一角として世界的な知名度を手にしたルチアーノ・パヴァロッティ。本書は三十六年間にわたって彼の米国での活動のマネジメントや宣伝を担当した人物と音楽評論家による回顧だ。
暴露本といえそうなほど、語り口は率直だ。パヴァロッティの私生活や女性関係、そして有名になるにつれエスカレートする要求、出演料などが記される。ある公演では親せきや友人のみならず、シェフや食材、調理器具まで宿泊先に持ち込む。女性関係のもつれから急にオペラへの出演取りやめを宣言し、ニューヨークの路上を衣装を着けたまま女性を追いかけて走る。そのたびに有名歌劇場の総裁らが振り回される。こうした“スキャンダル”を通して、奔放で無邪気な一面や、それゆえのスター性も浮かび上がる。
ブレスリンは「アーティストを売り込むのは、本質的には石けんを売り込むのと同じ」との姿勢で、パヴァロッティを多くの人の目に触れさせる。オペラの仕事に固執せず、大きな会場でのコンサートやテレビ出演を増やす。その結果、「三大テノール」の公演が生まれ、小さなビジネスだったはずのオペラがビッグビジネスへと転換する。
そんなブレスリンとパヴァロッティのやり方の是非をどう判断するかは読者の自由だ。しかし、二人の人生は間違いなく、出演料も入場料も高騰した現代オペラ史の主軸部分を伝えている。相原真理子訳。
| 人口が変える世界―21世紀の紛争地図を読み解く | |
![]() | 日本経済新聞社 日経= 日本経済新聞= 日本経済新聞社 2006-12 売り上げランキング : 7569 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人口問題というと、日本では少子高齢化と人口減ばかりに関心が集まる。だが、世界全体では空前の勢いで人口が増え、一九六〇年に三十億人だった世界人口は今や六十五億人を超え、二十年後には八十億人以上にもなる。
人口の減少も急増も経済や政治の情勢に大きな影響を及ぼす。本書は世界の様々な地域の問題を、背景にある人口の増減や人の移動などと重ね合わせて説明している。
イスラム圏では人口爆発が続く。既に世界人口の五分の一以上を占めるイスラム教徒の比率は、二十―三十年後には三分の一に達しそうだ。中東の「多子若齢化」は若年層の失業増に伴う既存の政治体制への不満を広げ、イスラム原理主義の台頭も招いた。
出生率が低く死亡率が高いロシアでは、過去十年間に人口が五百万人も減った。旧ソ連の自殺率の高さは、貧富の格差の急拡大と関係があるかもしれない。移民流入で活力を維持する米国は、一方で貧困層の増大に伴う「社会の分裂」も抱え込んでいる。
中国では一人っ子政策のひずみで、男子が女子よりかなり多い不自然な人口構成、労働力の先細り、年金への不安などの問題が浮上。いずれ人口で中国を抜くインドでは、インフラ整備の遅れが将来の発展の制約になりかねない。
やや不正確な記述も散見されるが、中東政治からBRICs経済まで、国際情勢を構造的に理解する際のヒントが随所にある本だ。
| 台湾における一党独裁体制の成立 | |
![]() | 松田 康博 慶應義塾大学出版会 2006-11 売り上げランキング : 319960 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九四九年に台湾に逃れた国民党がいかに独裁体制を確立したのか。世界に散在する膨大な参考文献をもとに、「時空を超えた」視点で中国大陸での国民党体制や日本による台湾の植民地統治から、五〇年代の台湾での領袖独裁型統治の確立までの変化を追っている。淡々とした論文の筆致ながら、蒋介石総統のしたたかな権力掌握過程をドラマチックに浮かび上がらせた。
多くの新鮮な視点を提示している。一例は「蒋介石は本来負け戦であった台湾への撤退作戦を強みに変えていった」点。独裁体制が台湾で存続し得た最大の要因は、朝鮮戦争を機にした米国の反共政策であるのは事実だが、蒋介石は対立していた地方派閥を排除する機会として撤退を活用したとの記述は興味深い。
独裁体制への評価でも特務を通じた恐怖政治、「本省人」の冷遇など「罪」の部分を改めてきちんと指摘しつつ、「功」の面にも光を当てている。たとえば蒋介石が少なくとも形式面では「中華民国憲法」に基づいたことが後年の「憲法に依拠した民主化」を可能にしたと評価。またテクノクラート主導の政策決定が可能だったとの分析も目を引く。この点は後年の経済近代化の土壌にもなった。
台湾は八〇年代の民主化を機に、抑圧されていた蒋介石体制への批判論噴出へ一気に振れた。それから二十年を経てようやく冷静に功罪を見つめ直した文献が出てきた。
| moriyama daido t‐82 | |
![]() | 森山 大道 パワーショベル 2006-10 売り上げランキング : 38935 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
裏通りを歩くカップル、駐車場の片隅に捨てられたソファ、電車を待つ駅……。一こま一こまに、街の素顔が見える。書名の「t-82」とは、トイカメラのHOLGAがポラロイドになるキットのこと。森山はこのおもちゃで荻窪、恵比寿、池袋の街角を4年にわたって写し続けた。粒子のアレや被写体のブレを持ち味にする森山の手に、トイカメラがいかになじんだかがわかる。
| ITとカーストインド・成長の秘密と苦悩 | |
![]() | 伊藤 洋一 日本経済新聞社出版局 2007-01 売り上げランキング : 12813 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
IT(情報技術)産業の急伸で注目されるインドの経済・社会の光と影を、現地取材を基に分析する。法的には廃止をうたいながらも、社会の底流に脈々と息づくカースト制度に焦点を当て、IT産業がけん引する成長戦略の限界を指摘した文脈には、ジャーナリスト出身でエコノミストでもある著者ならではの視点が光る。インドの「光」の部分だけをとり上げがちだった従来のインド紹介本とは一線を画している。
| 国家を築いたしなやかな日本知 | |
![]() | 中西 進 ウェッジ 2006-12 売り上げランキング : 29342 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本には数々の知恵で国づくりに寄与してきた賢者たちがいた。彼らを生んだ時代や集団、風土全体から見えてくる知性を著者は「しなやかな日本知」と呼ぶ。「和」の憲法を掲げた聖徳太子、南蛮文化を導入した織田信長、オランダの文化を国益にむすびつけようとした「日本のダ・ヴィンチ」平賀源内など時代の開拓者たちの創意工夫の足跡をたどることで、歴史を新たな視点でとらえ直すことができる。
| フィッシュストーリー | |
![]() | 伊坂 幸太郎 新潮社 2007-01-30 売り上げランキング : 306 おすすめ平均 ![]() これでいいんだろうか? これはいい。 つながっているという思いを意識することAmazonで詳しく見る by G-Tools |
スタイリッシュな会話と凝った構成で人気を集める作家の四つの中編・短編を収める。表題作は「二十数年前」のカップルの出会いと「現在」のハイジャック事件、「三十数年前」のロックバンドのレコーディング、そして「十年後」のネットテロ事件という一見関係なさそうな四つの出来事が、「フィッシュストーリー」という小説で結びつく。「サクリファイス」は民俗学的な要素を持っていて興味深い。
| スキャンダリズムの明治 | |
![]() | 朝倉 喬司 洋泉社 2007-01 売り上げランキング : 58657 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
初の国政選挙など日本が近代化の道を歩み始めた明治期に、新聞の部数も飛躍的に伸びた。本書はこの時代の三面記事の意気盛んな姿を振り返る。地方紙に目配りすると、驚くような悪口が乱れ飛んでいる。政治家や作家をこきおろし、ライバル紙同士もののしり合う。権力による紙面への介入があっても、めげないバイタリティー。「一場の笑劇に仕立てられれば」と思って書いたという著者の明るい文体も手伝って、血気盛んな明治人の生き様が浮かび上がる。
| 解体―国際協力銀行の政治学 | |
![]() | 草野 厚 東洋経済新報社 2006-12 売り上げランキング : 40282 おすすめ平均 ![]() 政策と政治の間がよくわかるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
小泉前政権にとって政府系金融機関を再編する政策金融改革は郵政民営化と対を成す大事業であり、その実行は安倍政権が引き継いだ。経済財政諮問会議などを舞台にした政策金融改革の柱の一つ、国際協力銀行の解体論が醸成されてゆく過程をドキュメント風にまとめたのが本書だ。首相官邸、自民党、経済界、そして関係省――。四者入り乱れての駆け引きやロビー活動の実態が描写されている。ただ、ふつうの国民には縁遠い国際協力銀行を身近に感じさせる工夫がもう少しあってもよかった。
| トンボとエダマメ論―何が夢をかなえるのか | |
![]() | 猪口 孝 西村書店 2007-02 売り上げランキング : 900 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
論客として知られる政治学者が自らの半生を振り返りつつ、若者に向けて「失敗を恐れない」生き方を説いた。これまでは堅い学術書ばかり手掛けてきたが、本書では一転、くだけた文章で、若いころの苦労話や米国留学中に身につけた勉強法も紹介した。
「トンボ」と「エダマメ」は自身にとってのキーワード。由来は新潟で過ごした少年時代にさかのぼる。「小学生のころ、トンボ捕りが大好きだった。大人になってからもトンボを追いかけるように、夢を持って好きなものを追い求めた」
「エダマメ」は「ニッチ(すき間)を狙え」という意味。昔は田んぼのあぜ道で片手間に栽培されていたエダマメに目をつけた人がいて、専門的に作り始めたところ大当たりした。この例にならい、「自分も研究者として人がやっていないことをやるようにした」。政治を数量的に見る「計量国際政治学」の手法を採った日ソ漁業交渉の分析や、議員の行動記録を基にした自民党「族議員」の実証的研究が代表例だ。
経歴からは順風満帆の半生に思えるが、「翻ると失敗ばかりだった」と控えめに語る。小六の時、新潟大火で自宅が全焼。中一の時には腸の大病で手術を六回も受けた。こうした体験から「失敗してもあまり気にしない性格になった」と自己分析する。
夫人は国際政治学者で、衆院議員の邦子氏。ジュネーブ軍縮会議代表部大使や小泉内閣の少子化担当相として国内外を飛び回る夫人をいつも笑顔でサポートしてきた。
「自分はマイペースな極楽トンボ。ビールを飲みながら、エダマメを食べているのが幸せ」と書名に引っかけて気さくに話す。「この本も『能天気のススメ』のつもりで書いた。若い人には『めげない、あきらめない』で前向きに生きてほしい」とエールをおくる。(西村書店・九五二円)
(いのぐち・たかし)1944年新潟市生まれ。東大卒。米マサチューセッツ工科大で政治学博士。国連大学上級副学長などを歴任。現在、中央大教授・東大名誉教授。
| スッタニパータさわやかに、生きる、死ぬ | |
![]() | 羽矢 辰夫 日本放送出版協会 2007-01 売り上げランキング : 68848 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| テーラガーター真の心の安らぎとは何なのか | |
![]() | 服部 育郎 日本放送出版協会 2007-01 売り上げランキング : 67814 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ブッダの語った言葉に最も近いとされる最古の経典群「原始仏典」の要点を紹介する「シリーズ 仏典のエッセンス」(NHK出版)の刊行が始まった。既刊は羽矢辰夫著『スッタニパータ さわやかに、生きる、死ぬ』(千円)と、服部育郎著『テーラガーター 真の心の安らぎとは何なのか』(同)。シリーズの責任編集は前田専学・東大名誉教授。
| 貫徹の志 トーマス・ワトソン・シニア―IBMを発明した男 | |
![]() | ケビン・メイニー 有賀 裕子 ダイヤモンド社 2006-12-01 売り上げランキング : 70535 おすすめ平均 ![]() 成功法則は楽観主義Amazonで詳しく見る by G-Tools |
長らく尊重されている会社、歴史に名を残した経営者の素晴らしい点も、息苦しい点もともに照射してくれるすごい本が出た。
産業社会には希望も憂鬱(ゆううつ)もある。その縮図である企業の中にも希望と憂鬱がある。希望は発展と繁栄、働く喜び・共同する喜び、夢のあるリーダーシップなどに、憂鬱は衰退と躓(つまず)き、働く辛さ・対立の辛さ、堕落するリーダーシップなどに代表される。IBMはその存在の大きさ故に、米国産業社会の縮図を見事に示す。同時に反トラスト法がらみではいつも問題を孕(はら)んできた。初代CEO(最高経営責任者)も二世の二代目もともにとてつもない人だったので、その確執はすさまじい。そういう話なら聞いたことがあるという人も、本書で明らかにされていく新資料に目を見張るだろう。
IBMは内部資料の自由な利用を制限してきたので、とりわけ同社にネガティブな記述は、公表資料を中心になされてきた。今回初めて内部の視点から描く試みが可能となった。一九九〇年代の危機も生き抜いたIBMの勃興(ぼっこう)期(プラスその前夜)の興奮と不安、危機を乗り越えての繁栄とそれを支えた企業文化、人を中心に捉(とら)える経営、決して一筋縄にはいかない創業者からジュニアへの経営の継承などが見事に描かれている。
リーダーシップがいかに誇らしいことであり、他方で、強力すぎるリーダーシップがいかに犠牲を強いるものかが随所で読み取れる。強力すぎるスタイルが強みであり、同時に犠牲も招来する。
ダークサイドも含め、企業経営者のリーダーシップのパワーについて、企業経営者が自らを鍛え上げていくキャリア上での一皮むけた経験の連鎖について深く豊かに知りたい人にとって、本書は必読書のひとつとなるであろう。
読み方はいろいろだが、企業が成功して巨大になるなかで高い倫理観を保つことの困難さなど、それ以外にもいろいろなテーマが濃厚な好著なので、そうしたテーマに興味をもたれる方は、大著だけれど手にしてほしい。【評 神戸大学教授 金井壽宏】
▼著者は数々の受賞経験を持つ有力コラムニスト。現在は「USAトゥデー」のコラムニストとして活躍している。著者に『メガ・メディアの衝撃』がある。
| 情報探索術 | |
![]() | 関口 和一 日本経済新聞社 2006-12 売り上げランキング : 52564 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
長年IT業界の取材に携わり、情報機器マニアでもある著者が、効率的な情報の集め方、整理法を説く。検索サービス「グーグル」の使いこなし方を細かく解説。名刺やメモ、雑誌記事などかさばりやすい紙資料は、いつでも検索できるようにスキャンしてデジタルデータで保存することを勧める。無償のインターネット通話ソフト、パソコンでファクスを受信できるサービスなど、知っておくと便利な道具の使い方も紹介する。
| タイアップの歌謡史 | |
![]() | 速水 健朗 洋泉社 2007-01 売り上げランキング : 11111 おすすめ平均 ![]() ありそうでなかったCMソングの歴史の本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
映画やドラマ、CMと歌謡界が日本でどう結びついてきたかを検証する。映画やドラマの「主題歌」や「CMソング」が多く作られた時代から、「イメージソング」に代わり、さらに完全な「タイアップソング」が作られる現在へ。多くのスターがドラマやCMとの連携で誕生した事実に改めて驚かされる。
| となり町戦争 | |
![]() | 三崎 亜記 集英社 2006-12 売り上げランキング : 1540 おすすめ平均 ![]() 「戦争」の真の残酷さを訴える現代の”寓話” これで終章が化ければ傑作なんだが・・ 別章Amazonで詳しく見る by G-Tools |
町の広報の片隅にでていた「となり町との戦争のお知らせ」。平穏にみえる町で進行する戦争に「僕」は巻きこまれていく……。安部公房を思わせる不条理な設定が面白い。官僚言葉の羅列から現代社会の空虚さを照射しながら、「リアル」に飢えた若者の愛の物語を絡めるところは当世風。文庫のための別章つき。
| 人口減少 新しい日本をつくる | |
![]() | 日本経済新聞社 日経= 日本経済新聞= 日本経済新聞社 2006-11 売り上げランキング : 56827 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本は世界の先陣を切って人口減少の時代に足を踏み入れた。すでに高齢者の比率は世界各国を上回り、このまま他に比べる国のない超高齢化社会へと突き進む。
人口減少という問題のとらえ方は二つに分かれる。ひとつは人口減を楽観的にとらえ、ゆとりと安定の社会づくりを展望するもの。もうひとつは人口減という構造変化を逆風ととらえ、厳しい未来への備えを提起するもの。この本ははっきりと後者の立場をとり、日本が豊かな社会であり続けるために何をすべきかという点に徹底的にこだわった。総勢二十人の記者による現場取材だけでなく、学者や評論家、経営者、閣僚による対論なども盛り込み、人口減の未来を描き出している。
戦後日本の人口は山を登るように右肩上がりの軌道を描いて増えてきた。今を頂点に、これからはその軌道を逆になぞるように減る。国も地域も会社も、上り坂を前提に組み上げてきた政策や制度を保つのが難しい。社会保障制度や公共サービスだけでなく、ものづくりや教育のあり方、地域社会、住宅、家族など、あらゆる場面で日本は変化に直面し、変革を迫られる。
今のさざ波は二十年後、三十年後の激流になる。それを傍観するというのはおそらく最悪の選択だろう。各編に共通するのは、まず未来への想像力と健全な危機感をもつことが重要という考え方。そのための材料をふんだんに示している。
| 技術の創造と設計 | |
![]() | 畑村 洋太郎 岩波書店 2006-11 売り上げランキング : 74445 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は機械工学が専門の東大名誉教授で「失敗学」の提唱者だ。鉄道事故や大型プラントのヒューマンエラー、機械の設計ミスなど様々な失敗事例を放置せず、科学的に体系化・知識化しようという学問。だが著者が本当にやりたかったことは、この本で全面展開した「創造設計学」と言うべきものだという。
設計とは「こんなものが欲しい」と頭に描くものを、ゼロから過不足なく作り上げるという知的作業だ。完成品に要求される機能を要素に分解し、取捨選択を通じて全体をくみ上げる。この本ではそうした思考過程を図示して望ましい手順を示す。
設計者にとっての当然の作法のようだが、この基本ができていないことが日本のエンジニアの弱点と著者の目には映る。明治期以来、日本の工学教育は欧米の手本をなぞることに力を注いだ。そうした流儀の設計にはすきが生まれる。設計偽装などは論外として、設計ミスなどによるトラブルの背後にはこうした問題が潜んでいるのではないか。
失敗学が「失点」を防ぐための守りの学であるとすると、創造設計学は得点を稼ぐための攻めの学。オリジナリティーのあるもの作りを追求する有力な手段になる。著者はその極意は工学的な設計だけでなく、人生の様々な問題解決の局面で応用が可能と説く。創造性という抽象的な概念の具体像を青写真を広げるようにして示す、盛りだくさんのテキストである。
| 美のバロキスム―芸術学講義 | |
![]() | 谷川 渥 武蔵野美術大学出版局 2006-12 売り上げランキング : 10143 おすすめ平均 ![]() 感想としてAmazonで詳しく見る by G-Tools |
美術様式は自分の父親に反発して祖父に似てしまうという。二十世紀のドイツの美術史家、ヴァルター・フリートレンダーはそれを「祖父の法則」と名づけた。
例えば、ゴシックからルネサンスになるとプロポーション(比例)が短くなり、その後のマニエリスム(模範的手法に従った絵画表現)は一種のゴシック返りでひょろ長く伸び、反マニエリスムとして起きたバロックは、プロポーションが縮むというのだ。
様式を並べて対比する美術史が最初に登場したのは十八世紀といわれるが、美学者それぞれが展開した美学論は難解な学術語が頻出し、その術語同士の関係がよくわからないことが多い。混在する美学論を整理し、核心となる美の問題をギリシャから現代まで歴史的に位置づけて解説しているのが本書だ。気鋭の美学研究で知られる著者の本格的な芸術論となっている。
美とは、形と形ならざるものとの微妙な関係のうちに顕現する現象であり、西洋の絵画史では、線と色の二元論の問題としてずっと議論されてきた。プラトンらギリシャ哲学の時代は、形式と質料の関係で現れるが、ルネサンス期には線的な絵画がフィレンツェ派、色彩が過剰な絵画がヴェネツィア派という形で議論が継承されてきた。現代美術に関しては芸術終焉(しゅうえん)論を軸に議論を展開させる。参照として七十点以上の作品図版を掲載し、語りかける文体で読みやすい。
| 東京下町1930 | |
![]() | 桑原 甲子雄 河出書房新社 2006-11-21 売り上げランキング : 53770 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
都市写真の先駆者ともいうべき写真家が、東京・下町の1930年代の風景を撮影した作品を集めた。映画館や地下鉄の駅がモダンな雰囲気を感じさせる一方で、小学校の防空訓練や千人針を縫う女性の姿は迫りくる戦争の重苦しさを映している。冒頭の「ライカC型を持つ自写像」は若々しく、これらの写真がまさに原点であることが伝わってくる。写真は「昭和10年代 浅草区浅草公園六区(台東区)」。
| 景気変動と時間―循環・成長・長期波動 | |
![]() | 加藤 雅 岩波書店 2006-12 売り上げランキング : 54435 おすすめ平均 ![]() 好著ですAmazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は「経済白書」などの執筆経験もある元官庁エコノミスト。二〇〇五年に急逝、本書が遺著となった。景気変動論のなかでも、長期波動として知られるコンドラチェフ波などを中心に、これまでの先行研究をあらためて再考するとともに、社会や制度、国際関係の変化が時間軸のなかで実際の景気循環に対しどのような影響を及ぼしてきたのかを多角的な視点から分析、相互の関連性を探っている。
| このブランドに、いくらまで払うのか―「価格の力」と消費者心理 | |
![]() | 白井 美由里 日本経済新聞社 2006-11 売り上げランキング : 17352 おすすめ平均 ![]() 価格理論を学問的に理解するにはかなりいい本 タイトルと内容の距離Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人はブランドの何に価値を感じ、高い支出をいとわないのか。この問題に消費者行動研究の専門家が「価格」という切り口から迫った意欲作。品質保証、自己表現、社会的満足などブランドに求められる価値を多面的に分析し、あるブランドがどんな欲求をどの程度満たしているのか、調査をもとに解析していく。一部のブランドが、多くの消費者に普及してもなお「特別感」を保つ理由の一端が理解できる。
平安京のニオイ
安田 政彦 (著)
整然と区画された平安京は、美しく清潔な都市という印象だが、本当はどうだったのか。歴史学者の著者は、“におい”をキーワードに、平安京の実像に迫る。人間や家畜の排せつ物、路傍の死体から発する死臭など、平安京は多くのにおいに満ちていた。一方、広い邸宅に住み、香をたく生活をしていた貴族はこうした悪臭とは一定の距離があったという。「源氏物語」などに見られる貴族の精神性はこうした環境下ではぐくまれた、と著者は指摘する。
| ブッシュのイラク戦争とは何だったのか―大義も正当性もない戦争の背景とコスト・ベネフィット | |
![]() | 野崎 久和 梓出版社 2006-12-19 売り上げランキング : 198673 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米国のブッシュ大統領は一月、米軍の一時増派などを含むイラク新政策を発表したが、イラク情勢が泥沼化しつつあることは隠しようがない。副題に「大義も正当性もない戦争の背景とコスト・ベネフィット」と掲げた本書は、米国がイラク開戦に突き進んだ事情から、想定外の結果まで、詳細なデータをもとに批判的に概括する。「第二のベトナム」となる可能性にも言及しており、現代米国論としても読める。
| 宮沢賢治はなぜ石が好きになったのか | |
![]() | 堀 秀道 どうぶつ社 2006-12 売り上げランキング : 76264 おすすめ平均 ![]() 少し違うAmazonで詳しく見る by G-Tools |
「銀河鉄道の夜」などの作品の中に鉱物や岩石をしばしば登場させている宮沢賢治の石好きの理由を追った表題作など、鉱物学者である著者がつづったエッセー集。モーツァルトと石とのかかわり、旧ソ連でエメラルドの結晶が切手になった背景、砂漠の中に咲く石の花「砂漠のバラ」の秘密など、石を巡る話題の豊富さに驚く。専門家としての知見が分かりやすく織り込まれており、石をこよなく愛する著者の心が全編ににじむ。
| 人間を考える経済学 持続可能な社会をつくる | |
![]() | 正村 公宏 NTT出版 2006-11-29 売り上げランキング : 2927 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現在主流の新古典派経済学に依拠しようとケインズ経済学であろうと、経済学の教科書や入門書に不満を覚えることがしばしばある。新古典派であれば、理性的で利己的、首尾一貫した行動などの合理的人間を出発点にして個人や企業のミクロの経済行動、マクロの経済活動を説明するが、それが易しく述べられていても、数式で整然と体系立てられていても、読了してどこかに大きな忘れ物があるような気分が残る。
根本にある人間と社会とのかかわりや、なぜ経済学を学ぶ必要があるのかが、なかなか伝わってこないのだ。それぞれの著者が、経済学者である自らも経済史の中の人間であるという側面を抑えて、敢(あ)えて蒸留水のような経済理論を叙述するのに徹することが多いからだろう。
その意味では本書は、従来の教科書などの標準的な内容にとらわれずに、経済を学びたい読者に、著者がぜひとも注ぎ込みたい経済学の論点や経済発展の見方を、集約して示した刺激的な著作である。「人間を考える」という形容句が「経済学」にかかっている書名が示すように、数学的で工学的な経済活動の解明よりも、歴史や文明の中の人間行動の理解や社会正義の探求に重点を置いている。章立てにも著者の熱い思いが感じられる。
当然でもあろうが、「教科書の模型の相当部分は経済学者が経済学は科学であることを自分に納得させる道具でしかない」、「分配問題についての判断を停止すれば、経済研究者は社会の切実な関心に応えられなくなる」など、随所に既成の主流経済学への厳しい批判も盛り込まれている。裏返せば新たな学徒へ寄せる期待のメッセージであろう。
著者は経済政策論や日本経済論の大家でありそれらの分野で多くの著作を発表しているが、他方で『戦後史』『現代史』などの歴史書も著している。本書は両方の関心が合体した著者ならではの好著であり、分析道具としての経済学をいくらか踏まえた上で読み込むと良い。入門書や教科書を卒業したサラリーマンも改めて手にとってもらいたい。
| 乾杯!ごきげん映画人生 | |
![]() | 瀬川 昌治 清流出版 2007-01 売り上げランキング : 121788 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
フランキー堺、渥美清、伴淳三郎ら名喜劇俳優と仕事をしてきた映画監督による自伝風エッセー集だ。きら星のごとく並ぶ名前の中には、いかりや長介ら近年亡くなった者も多く、執筆中には丹波哲郎の訃報(ふほう)にも接した。今書いておかなければ、と改めて心に誓ったが、エピソードに事欠かない面々だけに「書きたいことの十分の一も書けなかった」という。
「喜劇は人間のドラマ。ここで手を抜いてギャグばかりやるのは、ただのショーにすぎない」と持論を語る。「アジャパー」で知られる伴淳も「突拍子もないアチャラカから突然人情芝居に変わっても、観客は何の違和感もなく涙を流すことができる」。浅草の舞台出身の渥美清も、シュールなギャグを放つ一方で、女性と会話するだけで、声もかすれる男の純情を演じきった。「いい喜劇役者がいなくなった」と惜しむ。
お笑いブーム再来とはやされる昨今も「役者とも芸人ともいえない連中が、学生食堂のノリで騒いでるだけ」と手厳しい。若手コメディアンが腕試しする繁華街の舞台にも通ったが、若い女性が一斉に携帯電話で写真を撮り、つまずくだけでドッと笑う様に「情けなくなった」。「今の若い人たちは生活自体がやせていて、発想に広がりがない。だからこそもっと勉強してほしいのに、あれでは人が育たない」と残念がる。
黒澤明、小津安二郎ら他社の巨匠も行き来した自由な雰囲気の新東宝で、監督のイロハを身につけた。「ビリー・ワイルダー監督のようなハリウッドのコメディーは好きだったが、まさか自分が喜劇をやるとは思わなかった」と笑う。「喜劇は、役者としても脂ののった頂点にいる時期でないとできない。一九七〇年代にそんな俳優と出会い、監督冥利(みょうり)につきる幸せでした」とご機嫌な映画人生を振り返った。
| 金融CSR総覧 | |
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不二家の消費期限切れ問題、パロマ工業の中毒事故などの不祥事が多発、企業の社会的責任(CSR)への関心が高まっている。この分野の総合事典として、経済法令研究会が『金融CSR総覧』(九千円)を刊行した。実務に欠かせない金融機関とのかかわりに重点を置いたのが特徴。欧米での歴史から会計実務などCSRに関する五十のテーマを選び、専門家約七十人が解説している。












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