メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年2月18日~2月25日

物語の役割
物語の役割小川 洋子

筑摩書房 2007-02
売り上げランキング : 1820

おすすめ平均 star
star本を読んで明日を生きよう
star新しい視点

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『博士の愛した数式』で知られる作家が物語を作ることと読むことの意義について語った。ホロコースト文学や幼い子供を飛行機事故で亡くした母親の事例などを挙げ、受け入れがたい現実をどうにか受容できる形に転換する心の働きこそが物語を紡ぐ源泉であり、そうした作用は他の多くの人にとっても生きていくうえで必要不可欠という。自身の読書遍歴も具体例を交え話す。読書の魅力を改めて教えられる。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

「アンアン」1970
「アンアン」1970赤木 洋一

平凡社 2007-01
売り上げランキング : 9701


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一九七〇年創刊の「アンアン」は女性誌を大きく変えた。オールグラビアの紙面に星占いの掲載など、従来にない雑誌としてファッションや文化を発信した。著者はその歴代編集長の一人。新雑誌誕生のエピソードなどを通して、新しいものを作りだそうという熱気と時代の節目が浮かびあがる。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

小説渋沢栄一 (上)
津本 陽 (著)

小説渋沢栄一 (下)(
津本 陽 (著)

日本経済の基礎を築いた渋沢栄一の史伝。武蔵国の農家に生まれた栄一は倒幕運動に身を投じるが、後に幕臣となる。転機は一八六七年の欧州滞在だった。官民が対等につきあう平等主義や最新の金融システムに触発され、国家繁栄のためにまい進する男の思想、人生観が伝わってくる。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

遠距離交際と近所づきあい 成功する組織ネットワーク戦略
遠距離交際と近所づきあい 成功する組織ネットワーク戦略西口 敏宏

NTT出版 2007-01-25
売り上げランキング : 235


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世紀の合併といわれて誕生したダイムラークライスラーなどの惨状を尻目に、世界一の座を確実にしたトヨタ自動車の強さは、「トヨタ方式」の生産システムとしてよく取り上げられる。カンバン、アンドンやジャスト・イン・タイムの概念は広く普及し、米企業の工場を見学しても、説明者が「ポケオキ(Pokayoke=ポカよけ)」「ハイジャンカ(heijunka=平準化)」などとトヨタ語を連発するので面食らうことがある。前工程はサプライヤー、後工程はカストマーという考えで個人や係・課などの単位集団が行動することも製造業・非製造業を問わず企業の中で定着してきた。

このトヨタ・システムのエキスをもっとスマートに抽出して体系化するとどうなるか。書名にある「遠距離交際と近所づきあい」だと著者はいう。企業の現場での職種や職位を超えた密接な情報交換や協力が近所づきあいであり、企業の枠を超えた遠くの人間、組織との交流が遠距離交際だ。重要なのは例えば定常的、功利的に遠距離交際が維持されるのではなく、何かの時に糸をたぐっていけば関係づけられる超組織的な間合いを形成していることである。

つまり近所づきあいと遠距離交際がネットワークとして構成され、必要なときに接続される関係にある。十年前に自動車部品の大手、アイシン精機で火災が発生したとき、驚くほど早くトヨタのサプライチェーンが復旧したのはこの遠近併存したネットが司令塔なしでも作動し、自己解決能力を発揮したからだという。

著者はこのネットワーク論をケンブリッジ大学を核にした産業・地域開発や官庁の資材調達など他の具体例にも応用を試み有効性を試している。トヨタ方式の解明ほどストンと腑(ふ)に落ちるわけではないが、間違いなく説明力の普遍性を感じさせる。

カタカナ言葉の頻出とその概念の生硬さが幾分わずらわしい。しかし、理解を助けるためのコラムや付注などが充実しており、知的なパズルを解いていく面白さがある。経済学と社会学や産業組織論などをつなぐ興味深い研究分野への優れた招待状になっている。

▼にしぐち・としひろ 52年生まれ。一橋大学教授。組織間関係論を研究。著書に『戦略的アウトソーシングの進化』、編著書に『中小企業ネットワーク』など。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

移民社会フランスの危機
移民社会フランスの危機宮島 喬

岩波書店 2006-11
売り上げランキング : 11513

おすすめ平均 star
star移民同化能力のない移民社会の矛盾

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フランスはどんな国からの移民であれ、「自由、平等、博愛」の国家理念に従い、民族・宗教的違い(エスニシティ)を捨てて「同化」さえすれば、フランス人と見なしてきた。だが、二〇〇五年秋にパリ郊外で起きた移民の若者たちの暴動は、大革命から二百年以上にわたって国を支えてきたこの国家モデルの限界を浮き彫りにした。

社会学者である著者はその最大の問題点として、人口の一割を占めるまで増えた北アフリカなどからの移民たちが就職や学業で差別されているにもかかわらず、国家理念の下ではみな「普遍的人間」であり、「常に平等」として扱われている矛盾を挙げる。これを変えるには、平等の概念を再定義したうえで、米国のアファーマティブ・アクション(差別是正措置)のような人種、民族の違いを前提にした競争政策をとらなければならないとの主張を展開する。

本書はフランス国家の理念や移民社会の分析を丹念に書いているだけに、問題解決への道をもっと読みたい面もあろう。しかし、欧州各国と比較するなど、広がりを持たせようと工夫をしている。

フランスの場合、市場原理による社会保障、雇用改革もなかなか進まない。その源流をたどると、その国家理念に行き着くように思える。移民社会という側面からも構造改革を断行しないと、フランスは過去の栄光、理念の国としてとどまってしまう恐れがある。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ジャパン・ハンド
ジャパン・ハンド春原 剛

文藝春秋 2006-11
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おすすめ平均 star
star日米同盟の現在を理解する

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戦後からこれまで、米国には対日関係に留意する知日派の面々が常にいた。それが「ジャパン・ハンド」だ。今で言えばアーミテージ元国務副長官、グリーン前大統領補佐官、ケリー前国務次官補、ナイ元国防次官補、キャンベル元国防副次官補らである。

著者は親交のある彼らを系譜別に三分類すると共に、「ジャクソン主義(対外威圧)派」といった思想・哲学・世界観に基づく四派閥への色分けも試み、北朝鮮危機や中国台頭、靖国問題へのそれぞれの対応ぶりを切れ味よく説明してみせている。

キャンベル氏によると一九九〇年代の日米関係は首脳同士が意思疎通を欠いても下の事務レベルで緊密な連携を保っているV字型。その後、ブッシュ政権誕生とアーミテージ氏ら多数の知日派の政権入りで関係はI字型になるが、政権二期目に入ると知日派は相次いで去り、小泉・ブッシュの首脳関係に依存した字型となる。そして安倍政権の今、上も少し離れたII字型になりつつあるのでは、とキャンベル氏らは懸念する。

アーミテージ氏ら超党派の知日派たちは今月十六日、日米が自由貿易協定(FTA)交渉を開始し、台頭する中国には共同で戦略的に対処すべきだと強調した報告書を発表した。昨年の自民党総裁選前に発表する予定だったが、安倍氏に必要以上に圧力をかけたくないとの配慮から発表延期になった、と本書が指摘している報告書のようである。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

岩石から読み取る地球の自叙伝
岩石から読み取る地球の自叙伝マーシャ・ビョーネルード 渡会 圭子

日経BP社 2007-01-06
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おすすめ平均 star
starラブロックのガイアを愛する気持ちをサイエンスから支える

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四十六億年の地球の歴史をたどる近道は、古い岩石を調べることだ。当時の大気の成分や温度、地殻変動や火山活動の様子、どんな生物が繁栄し、あるいは滅びたか。地質学者は岩との対話を通じ、古文書を読むように太古の様子を解き明かしていく。

米国の女性地質学者の手によるこの本は、こうした研究の第一線を分かりやすく解説する。同時に、昨今関心が高い地球環境問題に新たな視点を用意する。温暖化ガスの増加など、人類が引き起こしつつある変化は地球史上の大事件なのか、はたまたよくある出来事に過ぎないのか。

地球は過去、全球の凍結と、極端な酸素不足で多くの生物が死滅するという二度の「臨死状態」を経験したが、これを例外として、奇跡的というべき生命力を維持してきたという。それは他の惑星にはない、生物圏を含む極めて多様な調節作用を地球が持っているからだという。

今や人間活動の影響力は自然の力に匹敵し、二酸化炭素の排出規模は、火山が噴出する量の四倍に達している。こうしたけた違いの環境へのかく乱で、地球は従来のリズムを変えつつあり、いずれ新しいリズムに落ち着くだろうと著者はいう。ただ、その新しいリズムが人間の好みに合うものかどうかは分からないという。遠い未来の地質学者が、二十一世紀前後の岩石に大きな変動の痕跡を見いだすことを予見しているような書きぶりである。渡会圭子訳。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

はこだて記憶の街
熊谷 孝太郎 (著)

大正から昭和のはじめに北海道開発の拠点として栄えた函館。西洋料理軒やカフェが連なり、ロシア人が暮らす異国情緒あふれる街だった。その往来を手持ち暗箱カメラで撮影したアマチュア写真家が熊谷孝太郎だ。「はこだて写真図書館」が6年にわたり乾板を調査、成果をまとめた。芸者、軍人、毛皮のロシア婦人。歩く人々の姿に心をひかれる。共にモノクロの街をさまよう感覚を呼び覚ますスナップだ。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

H. ミンツバーグ経営論
H. ミンツバーグ経営論ヘンリー・ミンツバーグ DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー編集部

ダイヤモンド社 2007-01-13
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おすすめ平均 star
star優れた戦略の策定方法
starミンツバーグのエッセンス

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比較的翻訳が少なかったため日本での知名度はさほど高くないものの、経営学の分野ではドラッカーなどに次ぐ大家として世界的に著名なミンツバーグのほぼ三十年間にわたる、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された論文をまとめたアンソロジー。既存の理論や常識にとらわれない彼のユニークな発想、常に常識を疑う姿勢が全編を通じて伝わってくる。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳。(ダイヤモンド社・二、八〇〇円)

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

パクス・ブリタニカのイギリス外交―パーマストンと会議外交の時代
パクス・ブリタニカのイギリス外交―パーマストンと会議外交の時代君塚 直隆

有斐閣 2006-12
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外交史に通じたひとを除けば、パーマストンの名は日本ではあまり知られていない。十九世紀半ばの欧州に協調体制を築いたパクス・ブリタニカの絶頂期の英国外相である。「イギリスには永遠の同盟国もなければ、永遠の敵対国もない」と語るパーマストンの粘り強い交渉を描いた本書は、外交史が現代国際政治の生きた教材になっていると教える。専門的で必ずしも読みやすくはないが、イギリス貴族の生活を知ることができる点は楽しい。(有斐閣・四、五〇〇円)

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ヤンキース流広報術
ヤンキース流広報術広岡 勲

日本経済新聞社 2006-12
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おすすめ平均 star
starこれは、良い!

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「僕と一緒にアメリカへ行ってくれないか」。松井秀喜に請われ、著者は報知新聞記者からニューヨーク・ヤンキース球団広報に転じる。松井が毎日必ずテレビインタビューに答え、時に米国人記者を招き私的な食事会を開く裏にはイメージ向上への綿密な戦略があった。海を越え押し寄せる日本メディア、米メディア、球団、選手本人という四者の間に立ち、松井の「商品価値」をいかに高めたか、手の内を明かす。(日本経済新聞社・一、四〇〇円)

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

「がんをくすりで治す」とは?―役に立つ薬理学
「がんをくすりで治す」とは?―役に立つ薬理学丸 義朗

朝日新聞社出版局 2007-01
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がん治療では医薬品(抗がん薬)は補助的なものととらえられてきた。今でもそれは根強いが、抗がん薬が効く仕組みが明らかになるにつれて、効果の高い医薬品が増えていることも事実である。分子標的薬は代表的なものだ。最近では入院せずに抗がん薬治療をすることも当たり前になっている。本書はがんができる仕組みや転移、薬が生まれて医療の現場で使われるまでを解説した好著。抗がん薬使用にあたっての医師の苦悩にも触れている。(朝日新聞社・一、二〇〇円)

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

黄金の島ジパング伝説
黄金の島ジパング伝説宮崎 正勝

吉川弘文館 2007-01
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「海の世界史」に通暁した歴史学者が、「ジパング伝説」やその残像でもある「金銀島伝説」の変遷を追った。日本の金は、中国・唐代にはイスラム商人により黄金島伝説を生み、元の時代に入ると「黄金の国ジパング」として広まる。その後、金は枯渇するが、日本は銀産出国になり、ポルトガルやスペイン、オランダで金銀島伝説が生まれる。各国の思惑が入り乱れた金銀島探索の経緯から「世界史の中の日本」の一端が浮かぶ。(吉川弘文館・一、七〇〇円)

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

三井越後屋奉公人の研究
三井越後屋奉公人の研究西坂 靖

東京大学出版会 2006-12
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本書は、未利用の第一次史料を駆使して、江戸期屈指の豪商・三井越後屋の奉公人制度の仕組みと運用の実際を、個々の奉公人レベルにまで踏み込んで解明した文字通りの労作である。実証密度の極めて高い書物だが、大胆に整理すれば、あらすじは次のようである。

越後屋は最盛時には奉公人数が千百人を超えるほどの巨大店舗であり、その経営を維持するためには組織化され、規律化された奉公人制度が必要であった。例えば、ホワイトカラーというべき手代については、十三歳で「子供」として入店、十七歳で元服して「平手代」……三十六歳で「支配」、三十九歳で「別宅」といった「標準昇進モデル」や、年功逓増的報酬プロファイル(年功とともに報酬上昇カーブが急になること)が江戸中期以来精緻(せいち)化され、制度化された。

また、奉公人の欠勤状況や規律違反を記録する「改勤帳」や「批言帳」などが設けられ、奉公人の規律化も進展した。

奉公人を組織化し、店の規律へ服従させるという越後屋のこの努力は、大きな流れとしては、実を結んだが、一方、奉公人たちは、この店の意向に完全には包摂されない存在であった。

なぜなら、江戸期においては「小経営」こそが本位であり、奉公人たちにとって越後屋のような大店(おおだな)での奉公は、願いとする自分商売の小経営の元手資金を得る手段に過ぎなかった。したがって、自発的な中途退職が多く(入店した子供のうち別宅手代まで残るのは四%未満)、使い込みや欠勤などの規律違反も少なくなかった。年功逓増的報酬制度や、規律違反に寛容な昇進制度が導入されたのも、熟練の奉公人を引き留めるための妥協的な方策だったのである。

越後屋の奉公人制度は、巨大店舗が要求する経営の論理と、小経営を基本とする近世社会の論理のせめぎ合いの歴史の所産と捉(とら)える、このような著者の主張には異論も寄せられるかもしれない。しかし、著者が長年にわたって一次史料に沈潜して発見した新事実の意味は重い。商家経営史にとってはむろん、日本労務管理史の研究史に残ること確実の一冊である。(東京大学出版会・七、五〇〇円)【関西学院大学教授 宮本又郎】

▼にしざか・やすし 57年生まれ。埼玉大学教授。専門は日本近世史。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学
成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学斎藤 誠

勁草書房 2006-12-08
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おすすめ平均 star
star動学の発想が分かる好著
star真っ当なマクロ経済学のエッセイ

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本書の内容は、『成長信仰の桎梏(しっこく)』といういささか重々しいタイトルとは裏腹に、最近のマクロ経済学における主流な議論の一つを、一般読者にわかりやすく説明しようとした啓蒙(けいもう)書である。マクロ経済学の考え方は、過去四半世紀の間に大きく変化した。しかし、世間一般に流布している考え方は、旧態依然たるものがある。著者の論調からは、このギャップを埋められないことに対する苛立(いらだ)ちがひしひしと感じられる。

評者個人は、いわゆるエコノミストの「マクロ経済学」に共感を覚えるところもある。特に、本書ではあまり重視されていない景気循環の問題は、マクロ経済学の古くて新しい最大のテーマの一つであると思っている。最近のマクロ経済学では、過度に合理的な経済人を前提とした経済分析に対する見直しも進んでいる。マクロ経済学の考え方は、これからもダイナミックに変わっていくことは読者も留意する必要があろう。

本書では、背後にある難しい理論をできるだけ平易に解説しているが、内容が内容だけにマクロ経済学を学んだことがない読者には専門的な記述が多いかもしれない。消費を重視した政策が重要であることは、マクロ経済学に限らず、多くの人々が総論では同意するであろう。しかし、往々にして、各論になると合意を得ることが難しい。

特に、われわれが重視しなければならないものが、現在の消費だけでなく、将来世代にわたる消費となれば、現在どのような政策が望ましいかは簡単ではなくなる。経済厚生という観点からは、消費だけでなく労働時間も考慮する必要がでてくる。消費の重要性を強調する本書で、いま日本でどのような政策が必要なのかに関する具体的に踏み込んだ提言が少なかったのは残念であった。

もっとも、本書を通じて、多くの読者が「マクロ経済学とはどんな学問なのか?」と漠然とでも関心を持てば、一つの目的は達成されたといえる。マクロ経済学の最先端の研究を十分に理解してもらうことは、当然重要であるが、決して容易なことではない。本書は、対話の契機につながる一石を投じた点でその意義は大きい。 (勁草書房・二、二〇〇円)【東京大学教授 福田慎一】

▼さいとう・まこと 60年生まれ。一橋大学教授。専門はマクロ経済学など。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

中学生の夢―47都道府県47人の中学生の夢
中学生の夢―47都道府県47人の中学生の夢日本ドリームプロジェクト

いろは出版 2007-02
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高校生の夢―47都道府県47人の高校生の夢
高校生の夢―47都道府県47人の高校生の夢日本ドリームプロジェクト

いろは出版 2007-02
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先生の夢―47都道府県47人の先生の夢
先生の夢―47都道府県47人の先生の夢日本ドリームプロジェクト

いろは出版 2007-02
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全国の学校現場の夢を集めた『中学生の夢』『高校生の夢』『先生の夢』(いろは出版)の三冊が刊行された。いろは出版が二〇〇三年より進めている日本ドリームプロジェクトの一環で、応募のあった全国一万六千人の「夢」から、四十七都道府県ごとに一人ずつを選び、写真も掲載した。「暗いニュースだけでなく元気な学校の姿も発信したい」(同社)という。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

日本サッカー史―日本代表の90年 1917-2006
日本サッカー史―日本代表の90年 1917-2006後藤 健生

双葉社 2007-01
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日本サッカー史 資料編―日本代表の90年 1917-2006
日本サッカー史 資料編―日本代表の90年 1917-2006後藤 健生

双葉社 2007-01
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昨年のドイツ・ワールドカップのように、日本のサッカーが芳しい成績を残せないと「日本のサッカーには歴史がないから」といわれがちだ。しかし、幕末の横浜・居留地に始まる史実をたどった本書を読めば、その言い訳が否定される。著者自身も「日本にもそこそこ歴史はあると思っていたが、掘れば掘るほど先へ続いて、世界とつながっていった」と驚く。

例えばサッカーの母国、英国でフットボール・アソシエーション(FA)が設立され、統一ルールが定められたのは一八六三年。その三年後には横浜フットボールクラブに関する新聞記事が残っていた。やはり英国のサッカーの聖地、ウエンブリー・スタジアムが完成した翌年には現在の国立競技場の前身といえる競技場が造られている。

長い歴史を見渡せば、日本サッカーの浮沈も見える。「もし明治のころ、サッカーが学校だけではなく一般の人にも広がり、そして第二次大戦がなければ、現在は全く違っていたかもしれない」。一九三六年のベルリン五輪では、日本代表は準々決勝まで進んだ。戦前の日本の水準は、意外に高かったのだ。

国内に資料は乏しく、欧米、アジアへ出かけるたびに各地のサッカー協会や図書館を訪れた。「小さな街の新聞までたどらないと、分からないことも多かった」と振り返る。今回の本は二〇〇二年に出した自著の追加・改訂版でもあるが、記述が膨大になったため、本編とは別に「資料編」を同時刊行、一九一七年以降の日本代表の全千二十一試合の記録をまとめた。

取材でゆかりの地を巡るのは楽しかったという。「日本で最初にフットボールが行われた横浜の山手に行ったら、傾斜地で、本当にここでできたのかと不思議で」。調査の旅は今も続いている。(双葉社・二、〇〇〇円。「資料編」は一、八〇〇円)

(ごとう・たけお)1952年東京生まれ。慶応大学大学院博士課程修了。サッカージャーナリスト。『サッカーの世紀』など著書多数。

■2007/02/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

医療年金問題の考え方―再分配政策の政治経済学〈3〉
医療年金問題の考え方―再分配政策の政治経済学〈3〉権丈 善一

慶應義塾大学出版会 2006-08
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医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か小松 秀樹

朝日新聞社 2006-05
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おすすめ平均 star
star買いです。
star拍手!
star医療崩壊になるまえに

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入門 医療経済学―「いのち」と効率の両立を求めて
入門 医療経済学―「いのち」と効率の両立を求めて真野 俊樹

中央公論新社 2006-06
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おすすめ平均 star
star新書に医療経済学が登場する時代の不幸と幸福
star硬い語り口でわかりにくい
star納得ナットク

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社会保障の明日―日本と世界の潮流と課題
社会保障の明日―日本と世界の潮流と課題西村 淳

ぎょうせい 2006-12
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おすすめ平均 star
star社会保障の全分野を総覧

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子供の数が減り続けている。一人の女性が生涯に産む子供の数は二〇〇五年に過去最低となる一・二六を記録。政府は、この先も長くこの程度の出生率が続くと推計する。一方で高齢者は増える。そうなると心配なのが社会保障制度だ。

年金・医療・介護などの各制度は基本的に現役世代が高齢世代を支える仕組み。少子高齢化の下では現役世代の国民や企業の負担が過重なものとなり、制度が維持できなくなるといわれる。加えて日本は国と地方合わせて七百兆円を超える長期債務を抱え財政悪化も深刻。「今の制度ではだめ。社会保障に回せるカネはないのだから給付を大幅に減らすべきだ」という議論になりがちだ。果たしてそれは唯一の考え方なのだろうか。

●予想以上の少子化
まずは年金から考えてみよう。権丈善一著『医療年金問題の考え方』(慶応義塾大学出版会、二〇〇六年)は「今の制度はそう悪い制度ではない」と論じている。従来の公的年金は給付水準をまず決め、そのために必要な保険料負担を設定していた。ところが予想を超えて少子化が進むため、給付を下げ、保険料を上げるという小手先の直しを繰り返さざるを得なくなり、国民の信頼を損ねていた。

これが〇四年改革で大きく変わった。保険料負担の上限を決め、その財源の範囲内で給付する形にしたのだ。少子化が進んだ分や経済が低迷した分は自動的に給付が減る。言い換えれば、子供を産み育てやすい社会をつくって少子化を食い止め、安定成長を維持できれば給付はあまり減らさなくても済む。新制度は「世の中を変えなければと思わせる仕掛けを組み込んだ」のだ。単純な給付削減論や無責任な年金破綻論にとらわれず、日本の将来を信じて前向きな議論も必要であることがわかる。

医療はどうだろうか。年金制度とは違い、給付と負担のバランスだけでは論じることができない。病気になれば治療が必要でそれには費用がかかる。病気になりやすい高齢者が増えれば、医療費は必然的に増える。しかし政府は財政の観点から医療費をできる限り抑えようとしている。

そんな状況のなかで、小松秀樹著『医療崩壊』(朝日新聞社、二〇〇六年)は医療現場で何が起こっているのかを克明に報告している。医療費が抑えられているから医療現場には十分な人が配置できない。医療スタッフの労働環境も過酷になり、事故も起こりやすくなる。一方で患者の側では安全・安心への期待が高まり、医療過誤訴訟が増えている。警察の介入により医師が逮捕されることもある。「もうやっていられない」とばかりに病院の勤務医が辞めていき、開業医になる例が増えている。本ではこの現象を「立ち去り型サボタージュ」と名付けている。

●重要な政府の役割
現実に病院から産科医が消え、お産に支障を来す地域が出始めている。小児救急なども地域によって不十分。必要なときに必要な医療が受けられるとは限らない状況なのだ。

医療にかかる規制を取り払い、市場原理に任せることが、費用を抑え、質も高い効率的な医療を実現する道であるとの考え方もある。例えば政府が決める公定価格ではなく自由価格で株式会社病院に競争させることなどが考えられる。

ただそれでは低所得者が十分な医療を受けられない恐れなども出てくる。市場原理で医療制度を改革することの問題点については真野俊樹著『入門 医療経済学』(中公新書、二〇〇六年)や前出の『医療年金問題の考え方』に詳しい。

できる限り多くの国民が公平に医療や介護、年金の恩恵を受けるには政府の役割は重要。税や社会保険料によるさらなる負担も必要になりそうだ。それとは別に公的な負担増は回避し、国民の自助努力を重視する道もある。西村淳著『社会保障の明日』(ぎょうせい、二〇〇六年)は現在の社会保障の課題、欧米各国の制度改革の傾向をコンパクトにまとめている。国民の生活に密着した重要な問題であるだけに、制度を知り、どうあるべきかをよく考えたい。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む
食べる西洋美術史  「最後の晩餐」から読む宮下 規久朗

光文社 2007-01-17
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おすすめ平均 star
star僕はダメでした
star感動的な美術史
starこのような講義が聴ける神戸大学の学生は恵まれていますね。

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絵画に登場する食事に込められた意味を追った一冊。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」ではパンがキリスト自身を象徴、魚の切り身には禁欲の意味を読み取ることができるという。ゴッホは「馬鈴薯を食べる人々」で大地の恵みへの感謝を表した。ウォーホルなど二十世紀の作品にも言及している。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

クワタを聴け!
クワタを聴け!中山 康樹

集英社 2007-02
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一九七八年にデビューして以来、日本語のロックを開拓してきたサザンオールスターズの桑田佳祐。これまでに発表された三百五十曲以上に及ぶ桑田の楽曲を、音楽評論家である著者が一曲ずつ詳細に批評する。「時代的音楽的混沌(こんとん)と融合が凝縮された」という楽曲の魅力が伝わってくる。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

寄席放浪記
寄席放浪記色川 武大

河出書房新社 2007-02-03
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「子どものときの夢は、寄席の席亭になることだった」という直木賞作家が、昭和十年代の十歳前後のころから見続けた落語家や芸人、時代劇スターらの思い出をつづる。酔客に「引っこめ」と言われて高座をおりてしまった四代目柳家小さん、「汗だくのサービス芸」を貫いた林家三平、交差点ですれ違った古今亭志ん生。立川談志らとの対談も収録、寄席に対する著者の並々ならぬ愛情がにじむ。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

歴史と外交
歴史と外交山内 昌之

中央公論新社 2007-01
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「歴史と外交」とは、ずいぶん大きく構えた題名である。折に触れて書いた論文をまとめたわけだから、テーマは多岐にわたる。それらを貫く問題意識が歴史と外交だ、と著者が考えたのだろう。

したがってどの論文から読んでもいい。どれを読んでも、古今東西の書物に通じた教養の厚さ、それを駆使した文章技術に驚かされる。高坂正堯氏が亡くなって以降、これほど格調高く、平易で、思い切った文章を書けるのは著者ぐらいだろう。

「はじめに」と題する冒頭の必ずしも短くはない書き下ろし論文は「北朝鮮問題と中東問題の連鎖」の副題がつく。そこにあるのは「イランと北朝鮮の間に『非神聖同盟』ともいうべき連携がある」との見方であり、日本からもっと強く発信されるべきメッセージである。

ブッシュ米大統領の一般教書は、イランには何度も触れながら、北朝鮮には間接的にしか触れなかった。核実験をした国と核疑惑段階の国のどちらが危険か。前者に決まっているのだが、ブッシュ政権は後者と考える。

無論、米国でも安全保障専門家たちは、それにとっくに気づいている。が、米メディアの関心は明らかにイランに傾斜している。それは米政府と米国民の関心の反映であり、日本の知識人がそれを戒める言説を発信するのは意味がある。もし本書が英語でも書かれていれば、さらに意味があったろう。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

俳優の領分―中村伸郎と昭和の劇作家たち
俳優の領分―中村伸郎と昭和の劇作家たち如月 小春

新宿書房 2006-12
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おすすめ平均 star
star如月さん、もっと仕事をして欲しかった。

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二〇〇〇年十二月に亡くなった劇作家、演出家の遺著。小津安二郎の映画や三島由紀夫の演劇で活躍した俳優中村伸郎の評伝である。

一九〇八年、中村は裕福な銀行家の家に生まれ、小松製作所創業者の養子になった。画家を志すが、パリ留学の夢破れたのを機に俳優になる。築地座を経て文学座結成にかかわり、岸田国士、久保田万太郎、三島由紀夫、別役実ら優れた劇作家とともに歩んだ。大正リベラリズムや芸術至上主義のにおいを伝える「新劇」の象徴的名優だった。

六〇年代末から七〇年代にかけて勃興(ぼっこう)した小劇場運動は新劇批判を旗印としたが、その遺産を断ち切ってしまう負の側面があった。八〇年代に頭角を現した著者は「失われた過去」の再発見に向かう。

中村が三島の盟友として文学座脱退にかかわった事件の顛末(てんまつ)がくわしい。三島の問題作「喜びの琴」の反共的セリフが問題視され、上演中止になったとき、中村は作家とともに小松製作所に金策に行った。幻に終わった「三島劇団」が歌舞伎や新派と異なる新しい芸術演劇を強く打ちだそうとしていた事実は記憶されていい。

今や演劇を芸術と考える俳優も少なくなった。渋谷の小劇場ジァン・ジァンで不条理劇「授業」をロングランし、別役実のセリフに注文をつけていた話術の達人は実に貴重な存在だった。今の演劇に何が足りないかを考えさせる労作。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

コンテナ物語ーー世界を変えたのは「箱」の発明だった
コンテナ物語ーー世界を変えたのは「箱」の発明だったマルク・レビンソン 村井 章子

日経BP社 2007-01-18
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おすすめ平均 star
starもしもコンテナがなかったら・・・

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米国におけるコンテナ物流の発明と世界への普及が企業経営、都市や国家の盛衰、消費生活などに対し、いかに大きな影響を与えたか。歴史をひもときながら語る著者はニューヨーク在住のエコノミスト。コンテナの価値は箱自体ではなく、最小限のコストで貨物を運ぶ高度なシステムにあると著者は説く。

かつて港湾物流は危険を伴う労働集約型産業だった。輸出入の輸送コストの半分は港湾に落ちたという。トラック業界の異端児が陸海一貫システムの構築を発案、一九五六年に米東海岸で本格コンテナ船の第一号を船出させる。五年後には国際機関がサイズの標準化を話し合っている点から衝撃の大きさが分かる。

物流費の劇的な低下と正確性・迅速性の向上は原料調達、部品製造、組み立てを最適地に分散するグローバル・サプライ・チェーン戦略を生む。消費者も商品選択の幅が広がると同時に物価も下がるという利益を享受した。革命の波をつかむ町や企業は栄え、既得権や既存の仕組みにしがみつく者(米国の鉄道など)は取り残されていく。日本はいち早く東京や神戸などの港をコンテナ対応型に改造し電気製品や衣料品を輸出、高度成長を遂げた。港湾改造が遅れたアフリカは低廉な労働力を工業化に生かす機会を逸したとの指摘は興味深い。

経済のグローバル化とはどういうことか、具体的なモノの動きを通して理解できる。村井章子訳。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

私は毎日、天使を見ている。
私は毎日、天使を見ている。渡邉 博史

窓社 2007-01
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ハンセン病患者を救済した聖人サン・ラザロの名をいただく精神科病院がエクアドルの首都キトにある。植民地下の18世紀に造られた建物内には、古いキリスト像やマリア像など聖職者が看護を担った時代の遺物が残る。どこかで時間の流れがせき止められたような不思議な空間だ。その中で暮らす人々の肖像を著者は淡々ととらえた。レンズの焦点は被写体の病ではなく、その奥の人間性にあわせている。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

モーツァルトの手紙
モーツァルトの手紙高橋 英郎

小学館 2006-12-12
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モーツァルト全作品事典
モーツァルト全作品事典ニール ザスロー ウィリアム カウデリー Neal Zaslaw

音楽之友社 2006-12
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モーツァルトとダ・ポンテ―ある出会いの記録
モーツァルトとダ・ポンテ―ある出会いの記録リヒャルト ブレッチャッハー Richard Bletschacher 小岡 礼子

アルファベータ 2006-12-15
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モーツァルト生誕二百五十年の昨年、日本各地で記念演奏会やイベントが催されたが、出版の分野でも昨年末から年初にかけて相次いで関連書籍が刊行された。それらをひも解くと、モーツァルトが書き残した手紙や作品、それに人間関係などから大作曲家の実像に迫っていて、いずれも読みごたえがある。

仏文学者でモーツァルト研究者でもある高橋英郎が著したのが『モーツァルトの手紙』(小学館)。モーツァルトの手紙や、モーツァルトあてに書かれた多数の手紙を読み解きながら、その人間像を描き出す。編年順に並べた手紙の合間を、著者が評伝風に書きつなぐ構成で、息をつかせず読ませる。

「ヴォルフガングはいま、退屈なので四重奏曲を書いています」「驚くほどたくさんのキスが飛び回っている。――いるいるたくさん、はっ! はあ!……三つつかまえたぞ」。こうした手紙のあっけらかんとした言葉から、時に無邪気で、時に悲しみに満ちた大作曲家の顔が目に浮かぶ。

米国の音楽学者ニール・ザスローほか編『モーツァルト全作品事典』(音楽之友社)は、楽曲をさまざまな視点でとらえた論考集として興味深く読める。例えば交響曲第四十一番の項目には、「彼の不満もしくは理想主義は、ノーマルな束縛から自分自身を解放するほど大きかったに違いなく、そのため彼は、社交界が通常交響曲に期待する音楽的・技術的・哲学的限界を、《ジュピター》が超えてゆくのにまかせた」などとある。通常の解説では見えにくい楽曲成立の深層に踏み込んでいる。

モーツァルトの三つの歌劇「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」の成り立ちを、台本を書いたロレンツォ・ダ・ポンテとの関係を軸に解き明かそうと試みたのが、リヒャルト・ブレッチャッハー著『モーツァルトとダ・ポンテ』(アルファベータ)。ウィーン国立歌劇場で演出家として活動した経歴を持つ著者が、二人の出会いから別れまでの足跡を丹念にたどった労作だ。

これらの書籍を通して人物や作品に深く触れてから演奏会に足を運ぶと、はっとするような新しい響きが聞こえて来るかもしれない。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

実践TOBハンドブック
実践TOBハンドブック石井 禎 関口智弘

日経BP社 2007-01-25
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TOB(株式公開買い付け)がM&A(企業の合併・買収)の手法として盛んに活用されるようになってきた。本書は実務者向けに書かれており、TOBに必要な手続きを友好的なケースと敵対的なケースに分けて例示するなどの工夫が凝らされている。TOBルールは近年頻繁に改正されており、その経緯も解説。敵対的買収も想定した最新の改正については、改正前の論議も紹介しながら、特に詳しく説明している。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

カーブアウト経営革命―新事業切り出しによるイノベーション戦略
カーブアウト経営革命―新事業切り出しによるイノベーション戦略木嶋 豊

東洋経済新報社 2007-01
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社内に眠っている技術や事業の一部を企業自らが切り出し、事業化に向けて一定額を出資するとともに、第三者からの出資も仰いで事業の成長を目指す「カーブアウト」という手法が注目を集めている。本書はその解説書。豊富な事例を通して、まだ日本ではなじみの薄い概念をわかりやすく説明している。この手法は企業の研究部門が充実し、中核事業以外の技術も幅広く研究する日本企業に一番適しているという著者の主張には説得力がある。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

サステナビリティ経営
サステナビリティ経営三橋 規宏

講談社 2006-11-29
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おすすめ平均 star
star21世紀の経営モデルを探るー環境経営の価値
star環境時代の必読書
star★お薦めの環境図書★

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石油など資源の先細りや、地球規模の環境汚染への警鐘を込めて著者は今を「地球限界時代」と位置づける。そこでは企業はすべて環境経営を目指さなければ生き残れないという。百年住める木造の家をつくる住宅メーカー、土木事業から自然再生事業へと転換した建設会社など、日本で生まれ始めた先進的な取り組みをリポート。持続可能性をキーワードとする新しいビジネスモデルを具体例を通じて明快に示す。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

梁塵秘抄 うたの旅
梁塵秘抄 うたの旅桃山 晴衣

青土社 2006-12
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「遊びをせんとや生まれけむ……」のうたで知られる中世の歌謡集「梁塵秘抄」。三味線音楽の作者・奏者である著者は、後白河院が自ら編さんしたとされるこの歌謡集に長年、深い関心を持ってきた。本書は、明治末に一部が発見された歌詞集を引きながら、梁塵秘抄を生み出した社会・政治状況や文化など中世の日本を浮かび上がらせる。音楽家としての足跡を交え、独特のリズムで訴えかける。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~リリー・フランキー

扶桑社 2005-06-28
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おすすめ平均 star
star正直で素敵な親子愛
starたわいもない日常の中で家族に心が動く瞬間
star淡々と語る・・・

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鏡の法則 人生のどんな問題も解決する魔法のルール
鏡の法則 人生のどんな問題も解決する魔法のルール野口 嘉則

総合法令出版 2006-05-10
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おすすめ平均 star
starそういうことだったのか
starいい本だと思います。一度お試しを。
starんー?

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出版文化産業振興財団(JPIC)の第一回「読ませ大賞」は、文芸部門がリリー・フランキー著『東京タワー』(扶桑社)、ノンフィクション部門が野口嘉則著『鏡の法則』(総合法令出版)に決まった。同賞は読者の口コミによる読書振興をねらって設けた。昨年十月から十二月まで投票を受け付け、一万四千七百五十七件の応募があったという。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ネパール王制解体―国王と民衆の確執が生んだマオイスト
ネパール王制解体―国王と民衆の確執が生んだマオイスト小倉 清子

日本放送出版協会 2007-01
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ネパールでは一九九〇年代から都市部と山岳地帯での著しい貧富の差やスキャンダルまみれの王室への反発、隣国インドと中国の対立などを背景にして、マオイスト(ネパール共産党毛沢東主義派)が生まれ、今世紀には一大勢力になった。現地在住のジャーナリストである著者は政府軍の無差別攻撃にさらされながら、マオイストに密着。主権が国民に戻された昨年まで十数年間にわたり第三者の冷静な視点で取材した記録をまとめた。ネパール語で市民の証言を集め、複雑な政治問題の裏の情報を伝える。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

法と企業行動の経済分析
法と企業行動の経済分析柳川 範之

日本経済新聞社 2006-11
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法律は経済活動の重要なルールである。最近このルールが大きく変更された。著者はこれを経済のIT化やグローバル化に対して迅速な対応が求められた結果と評価しつつも、一般に法改正は長期的な影響を持つことから、慎重かつ地道な基礎研究、評価が必要だと注意を促している。

本書はインセンティブをどう持たせるかの観点から、法律が企業行動や経済全体にどのような影響を及ぼすのか、どのような法律が望ましいのかを経済理論を用いて検討している。テーマは多岐にわたるが、主眼は日本経済のインフラである法制度の何が、なぜ変わらなければいけないのかという点にある。

選ばれたトピックスも読者がこうした変化を実感できるように、コーポレートガバナンス、事業再編、破綻法制といった最近のものに限定されている。本書が大部であるにもかかわらず読者を飽きさせないのは、こうした工夫に依(よ)るところが大きい。

同時に、本書は理論モデル分析にかなりの頁(ページ)を割いている。その意味で大学の教科書と言えるかもしれない。これによって読者が限られるとすれば残念なことである。しかしあえて評者は類書にない理論モデル分析にこそ本書の価値があると言いたい。

法改正の議論にとって重要なことは、法改正に対し経済主体が期待通りの反応を示すかどうかである。しかしこれを予測するのは難しい。利害の異なる多数の経済主体が不完全な情報に基づいて行動するとき、複雑な駆け引きが起こるからである。こうした駆け引きの結果を厳密に予測し、そこから含意を導き出そうとすれば、モデル分析が不可避となる。

モデル分析の一部で契約理論の最近の研究成果が簡潔に紹介されている点も大きな魅力である。読者の負担を軽くするため、本書ではモデルを限界まで単純化し、全章を同じモデルで統一している。これが決して容易でないことを評者は強調しておきたい。

最後に評者は本書により明確な政策提言を期待したが、こうした性急な結論はむしろ著者の戒めるところかもしれない。【大阪経済大学助教授 林田修】

▼やながわ・のりゆき 63年生まれ。東京大学助教授。経済学博士。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ごはんとパンの考古学
ごはんとパンの考古学藤本 強

同成社 2007-02
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考古学に関する話題を一般向けに解説するシリーズ「市民の考古学」(同成社)の刊行が始まった。既刊は藤本強著『ごはんとパンの考古学』(千八百円)。ごはんとパンを題材に、その起源や歴史的な広がり方などを紹介する。東大名誉教授の著者が一般向けの講演で話した内容をもとに書き下ろした。今後、身近な話題や古代都市、日本列島などをテーマに年間三冊前後のペースで刊行する。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

夢を与える
夢を与える綿矢 りさ

河出書房新社 2007-02-08
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おすすめ平均 star
star救いが無い…かな?
star面白かったけど、長かった
star重い・・・。

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他人と群れることに違和感を覚える女子高生の日常を一人称で描いた第二作『蹴(け)りたい背中』で、最年少の十九歳で芥川賞を受賞。以来短編一本を発表しただけだった注目作家が、三年半ぶりに刊行したのが本書だ。幼いころからテレビCMのモデルとして活躍してきた主人公の夕子は、高校受験など“素”の表情を見せることで人気者となるが、十八歳のときに恋愛が原因でアイドルとしての命脈を失ってしまう。芸能界という華やかな世界に生きる一人の少女の成長と挫折が描かれている。

「赤ん坊のころから活躍できる職業は何かと考えたときに、思いついたのが芸能界。原稿ができあがってから芸能事務所のプロデューサーの方に取材したが、ほとんどがテレビを見て育ってきた私の想像です」。主人公の姿は若くして芥川賞を受賞した自身と重なるようにも見える。「自己投影しているつもりはありません。でも、取材してもらったり、授賞パーティーに参加したりした経験は生きています」と振り返る。

刊行までに時間がかかったのは、過去二作とは違って、三人称の長編小説を目指したから。「大学の授業で小説論を学び、『(小説の)可能性っていっぱいあんねんな』と感じて、『人称』を変えることで世界を広げたいと思った」。ところが、そこからは悪戦苦闘の連続。ほぼできあがった原稿を「お蔵入り」にしたことも。それだけに今回の小説をほぼ一年半かけて書き上げたときには「『できた』という壮快感があった」と笑顔を見せる。

今、理想としているのは「『風と共に去りぬ』のようなうねりのある小説」という。昨年三月に大学を卒業、専業作家となった。海外旅行に出かけたり、趣味の手芸をしたりという「比較的ゆったりとした生活」の中で、次作の構想を練っている。

(わたや・りさ)作家。1984年京都府生まれ。早大教育卒。2001年「インストール」で文芸賞を受賞してデビュー。ほかの著書に『蹴りたい背中』。

■2007/02/18, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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