メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2007年1月7日~1月14日
| 国際連合―軌跡と展望 | |
![]() | 明石 康 岩波書店 2006-11 売り上げランキング : 946 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九六五年、著者が少壮の国連官僚だったころ、本書の初版は世に問われた。ニューヨークのイーストリバーのほとりに建つ国連本部は、多くの日本人にとって、まぶしかった。理想主義の殿堂に見えた国連で働く著者は超のつくエリートであり、あこがれの存在だった。
四十年以上たって日本人の国連観は変わったか。相変わらず過度に理想化した見方もある。一昨年、日本政府が常任理事国を目指した時にあった警戒感は、その変形だったろう。米国、中国などの大国エゴによってこれが阻止されると、幻滅感が広がった。あの縦長の館は国際政治の醜さの象徴と映るようにもなった。
二〇〇六年十二月十八日、日本は国連加盟五十周年を迎えた。それに合わせて大幅改定を施して出版された本書は、国連を等身大に描く作業である。著者はおそらく日本人でただひとりの「歩く国連史」であり、国連の歴史や現在直面する問題をめぐって最も説得力ある議論ができる人である。
著者は「国連について啓蒙(けいもう)的な本を書くことは、容易でないとしみじみ感じている」とあとがきに記す。本書には冷戦時代、冷戦後にそれぞれ国連が果たした具体的な役割は簡潔に述べられているが、最も強調したかったのは、国連の歴史の啓蒙よりも、現在の国連が直面する問題だったろう。
二〇〇四年暮れに公表されたハイレベル委員会の報告は、人類に対する六つの脅威を指摘する。テロリズム、大量破壊兵器などを含むこれらに対応するために国連は十分に機能できるのか。誰もがそうではないと知っている。それでも、例えば国連平和維持活動(PKO)では、著者が「第四世代」と呼ぶ、軍事行動を想定した活動も出てきた。
著者は日本の安保理常任理事国入りの必要性を国際舞台で説き続けたひとりである。その経験からPKOに対する現在の日本の姿勢には不満がある。「世界のなかの日本」という言葉は陳腐化した。誰もがそれを当然と考えるからだが、現実は必ずしもそこまで意識が進んではいないと本書は教える。
▼あかし・やすし 31年生まれ。東大卒。57年から国連事務局に勤務し、国連事務総長特別代表などを歴任。現在は日本国連学会理事長。著書に『国連から見た世界』など。
| 十七歳の硫黄島 | |
![]() | 秋草 鶴次 文藝春秋 2006-12 売り上げランキング : 143 おすすめ平均 ![]() 息を呑むような描写に引き込まれる 一兵卒の書いた「硫黄島の戦いの真実」 当事者の言葉の凄みAmazonで詳しく見る by G-Tools |
太平洋戦争の激戦地から生還した著者が戦後、戦場の最後の様子を克明に記した手記。飲み水もなく硫黄臭の漂う島は、上陸する米軍への日本軍の総攻撃後、さらに陰惨を極める。米軍による地下ごうへの水攻め、火攻め。軍紀を失い、無法地帯化した中で混乱する日本軍の兵士たち。無残な自決――。ハリウッド映画の公開を機に様々なメディアが硫黄島を取り上げているが、初めて公開された著者の証言が心に重くのしかかる。
| 人はなぜ危険に近づくのか | |
![]() | 広瀬 弘忠 講談社 2006-10-21 売り上げランキング : 4117 おすすめ平均 ![]() 生命力のある人、無い人 確かにそうかも!!の連発☆Amazonで詳しく見る by G-Tools |
災害心理学の第一人者が、災害や事故などの危険といかに付き合うべきかを説く。大切なのは誰もが被害にあう可能性があると自覚し、そこから目をそらさないことだという。女性に比べて必要もないのに力を誇示しようとする傾向がある男性には、危険軽減のために肩の荷を下ろすことを勧める。
| 落語で江戸のうらおもて | |
![]() | 京須 偕充 筑摩書房 2006-12 売り上げランキング : 113764 おすすめ平均 ![]() がっかりAmazonで詳しく見る by G-Tools |
落語のCDプロデューサーで江戸っ子の著者が、落語のちょっとした「ことば」から江戸東京人の気質を解読し、落語の楽しみ方を指南する。「あの娘が、おめえに御座(ござ)ってるぜ」、「おまえは達引(たつひき)が強い」など、日常語としては死語になっていることばが噺(はなし)の重要な彩りになっていることを実感する。
| アメリカの終わり | |
![]() | フランシス・フクヤマ 会田 弘継 講談社 2006-11-29 売り上げランキング : 607 おすすめ平均 ![]() ネオコンの適切な解説と優れた提言 「重層的多国間主義」の内実Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二〇〇六年春、米国の論壇で衝撃的な本と受け止められた原題「岐路に立つ米国」の邦訳である。著者のフランシス・フクヤマは「歴史の終わり」で世界的に知られた政治思想家である。
フクヤマはイラク戦争の開戦に反対し続けた。論壇的に言えば、それは自らを育てた知的土壌――後にネオコンと呼ばれた――の仲間たちとの決別だった。それを宣言したのが本書である。
米国を代表する思索者の関心領域は極めて広い。バイオテクノロジーに関心を持てば、中南米の政治史にも詳しい。「表面的なことしか知らないけれど……」と謙虚だが、本書が扱うのは米国の外交政策である。
一九八〇年代末に「歴史の終わり」を書いたころ、ブッシュ政権下の国務省政策企画局にいた著者にとっては久々に本来の土俵での勝負である。訴えているのは「現実主義的ウイルソン主義」に基づく外交である。
それは価値の実現のためには手段を選ばぬネオコンでもなく、勢力均衡を信じるリアリストでもなく、国際機関の機能を重視するリベラルでもない。あえて言えば、リアリズムとリベラルの混合型理論である。
外交官たちは「理論で現実の問題を解決できるのか」と疑問を発する。確かに本書にはイラクの現状の解決法は書かれていない。しかし現実の出来事の根源に何があるのかを考えさせる。会田弘継訳。
| おまけより割引してほしい―値ごろ感の経済心理学 | |
![]() | 徳田 賢二 筑摩書房 2006-11 売り上げランキング : 166 おすすめ平均 ![]() 内容に意外性は無いですが、納得はいく説明 必読! 値ごろ感覚と消費者心理Amazonで詳しく見る by G-Tools |
副題に「値ごろ感の経済心理学」とある通り、「値ごろ感」をキーワードに、われわれの消費行動を左右する隠れた法則を解き明かす。消費者が日々の買い物時に下す意思決定は気まぐれなようでいて、実は一つの数式で表現できると著者は説く。その式とは「値ごろ感=価値/費用」。消費者が商品・サービスに抱く値ごろ感は費用を分母、価値を分子とする分数であり、その値が一定以上になったとき財布を開くと説明する。
おまけは分子を大きく、割引は分母を小さくして値ごろ感を高める戦略。両者が同額なら消費者のおトク度は一見同じ。しかしこの数式に当てはめると値ごろ感に差があることがくっきり示される。実際、小売りの現場でもおまけより値引きが喜ばれるのだ。著者はベストセラーや牛丼などの具体例をもとに、人々の直感的な消費行動に潜む経済合理性を証明していく。
時間の二面性に関する分析も面白い。通勤途上でモノを買える携帯通販は「買い物時間」という費用をゼロにすることで人々に支持された。一方テーマパークで過ごす「楽しい時間」は費用ではなく価値。高いぬいぐるみをつい買ってしまうのは分子の増大が値ごろ感を高めたからだとの指摘にはうなずかされる。
近年出版が盛んな消費者行動論の中でも事例のリアルさ、語り口の妙、理論の整理のされ方で一頭地を抜く。消費者と企業、どちらの立場で読んでも得るものが多い。
| ドキュメンタリーの修辞学 | |
![]() | 佐藤 真 みすず書房 2006-11 売り上げランキング : 27640 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
映画「阿賀に生きる」の監督、佐藤真は優れたドキュメンタリー作家であると同時に、現代映画を巡る論客である。雑誌などに発表した短い論考を集めた本書も、著者の鋭敏な問題意識を端的に示している。同時代作品への批評に加え、フィクションとドキュメンタリーの境界、映画と写真の境界という主題が、それぞれ一章ずつを構成する。
一九九〇年代以降の日本のドキュメンタリー映画の傾向を批判的に分析した「私的ドキュメンタリー私論」に迫力がある。若い世代がプライベートな世界を追求する傾向を、先行世代の「政治主義」を打破する根拠としてかつて支持した著者は、「あえて私的小宇宙にカメラを据えることへの戦術や戦略がどうしても感じられない」作品群を批判。「私性」の意味を問い直し、「素材の力」を見極めるところに作家の主体性を求める。
私的ドキュメンタリーへの傾斜の背景として著者が挙げる「政治の空洞化」「デジタル機材の普及」は実はあらゆる表現分野に共通する事象だ。論考は優れた同時代批評であり、現代芸術の存立基盤そのものへのまなざしが潜む。
制作現場で獲得した生きた言葉にも説得力がある。ほぼ全編が静止画からなるクリス・マルケル「ラ・ジュテ」の各ショットの秒数を分析し、写真と映画の境界のグレーゾーンに迫る論考はその好例だ。「時間軸がない」映画としてのフレデリック・ワイズマン論も読ませる。
| 私が独裁者?モーツァルトこそ!―チェリビダッケ音楽語録 | |
![]() | シュテファン ピーンドル トーマス オットー Stefan Piendl 音楽之友社 2006-11 売り上げランキング : 16072 おすすめ平均 ![]() 裸の王様による暴言集Amazonで詳しく見る by G-Tools |
巨匠指揮者、セルジュ・チェリビダッケ(一九一二―九六年)の没後十年に当たる昨年、生前の発言や講演を収めた書籍が出た。
チェリビダッケはルーマニアからベルリンに出て音楽や現象学を学び、第二次大戦後の混乱期、「非ナチス化裁判」で復帰が遅れた常任指揮者フルトヴェングラーに代わり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を精力的に指揮。その後、常任指揮者の座をフォン・カラヤンに奪われると七〇年代半ばまで欧州各地を転々とし、日本には厳格な指導と毒舌だけが漏れ伝わる状況が続いた。
喜多尾道冬訳で日本語版が出た言行録『私が独裁者?モーツァルトこそ!』(原題は「速記的な抱擁」、シュテファン・ピーンドルとトーマス・オットー編、音楽之友社)でも、仇敵(きゅうてき)カラヤンを「大衆を夢中にさせているやり方を知っている。コカ・コーラもしかり」と切り、録音を自慰行為と批判する。ここまで辛辣(しんらつ)に徹すると、天衣無縫の雰囲気が漂うから不思議だ。
七七年、読売日本交響楽団への客演で初来日が実現した時、多くの聴衆は異常なまでに研ぎ澄まされた最弱音と、旋律の綾(あや)がレントゲン写真をみるように浮き彫りになった“牛歩”に匹敵するテンポ感に困惑した。この「チェリ・ワールド」に日本人が慣れるのは八〇年代末、ミュンヘン・フィルとのブルックナー演奏を連続して体験した時だ。
八五年六月にミュンヘン大学で行った講演の記録『チェリビダッケ 音楽の現象学』(石原良也と鬼頭容子訳、アルファベータ)では、「テンポが遅い」と批評するジャーナリストに対し、「多様性のすべてを知覚していない」と反論。「四オクターヴ上の響きの帯を出現させるために、ボウイング(弓づかい)に信じられないほど差をつけるよう努めます。(中略)もし皆さんに能力がなくてこれらの高いオクターヴを聴くことができなければ、テンポが遅過ぎると思うはず」と演奏の奥義を語る。
「モーツァルトこそ独裁者で、冷酷無情この上ない人間だ。彼は私たちに嬰ニを嬰ハに変えることを許さず、嬰ニであることを要求する」。言行録の一言には、自己に厳しかった再現芸術家の作曲家に対する強い使命感が凝縮されている。
| 日本経済を問う―誤った理論は誤った政策を導く | |
![]() | 伊東 光晴 岩波書店 2006-12 売り上げランキング : 4526 おすすめ平均 ![]() 真っ当に日本経済を論じるとこの本に行き着くAmazonで詳しく見る by G-Tools |
長年にわたりケインズ経済学を研究してきた著者が雑誌などに発表した原稿をまとめた。「誤った理論は誤った政策を導く」という副題はいささかどぎつく、市場原理主義者批判にはやや一方的な雰囲気を感じさせる部分がある点は否めないが、中身の分析はいたって常識的。著者のすべての主張に同意するかどうかはともかく、年金問題の現状打開策として支給開始年齢の引き上げしか方法がないとの分析などは説得力があり、興味深い。(岩波書店・一、八〇〇円)
| 日本の所得分配―格差拡大と政策の役割 | |
![]() | 小塩 隆士 府川 哲夫 田近 栄治 東京大学出版会 2006-11 売り上げランキング : 10559 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
所得格差に関する議論に一石を投じる書だ。税制や公的年金制度などの「再分配」政策が格差の拡大傾向にどのように対応してきたかという視点を軸に、八人の専門家が分担執筆を通じて分析・提言を試みている。夫婦の学歴の相関が女性の就業構造に及ぼす影響を論じた章が興味深い。もっとも全体として文章はこなれておらず、専門家以外の人には読みやすいとはいえない。大学生や大学院生の教科書としては適当だろう。(東京大学出版会・三、八〇〇円)
| 絵筆の姉妹たち―19世紀末パリ、女性たちの芸術環境 | |
![]() | タマール ガーブ Tamar Garb 味岡 京子 ブリュッケ 2006-10 売り上げランキング : 354250 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一八八一年、パリで創設された「女性画家彫刻家同盟」は、男性社会だった当時のパリ美術界でプロの美術家を目指す女性の地位向上をはかり、国立美術学校への入学許可を求めることなどを主張した。様々な抵抗にあいながらも十五年後には女性の入学が認められ、所期の目的はかなう。その経緯をたどり、女性美術家を取り巻く当時の実情を明らかにしたのが本書だ。芸術における女性らしさについても、多くのページを割いている。味岡京子訳。(ブリュッケ・三、八〇〇円)
| おきなわ女性学事始 | |
![]() | 勝方=稲福 恵子 新宿書房 2006-12 売り上げランキング : 17683 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
従来の歴史・民俗研究に女性の視点を加え、沖縄を複眼的にとらえようとする著者の試みをまとめた。世界でも珍しい女性中心の祭事を保つ社会の歴史をひも解き、沖縄の女性が日本女性として単一にはくくれないアイデンティティーをはぐくんできた軌跡を分析。戦前期に登場した幻の女性作家、久志芙沙子らを取り上げ、国家や文化の境界線で生きてきた沖縄女性の生活の多様性を浮き彫りにする。(新宿書房・二、八〇〇円)
| 中東欧の日系ハイブリッド工場―拡大EUに向かう移行経済における日系企業 | |
![]() | 苑 志佳 東洋経済新報社 2006-09 売り上げランキング : 6937 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本人にとって中東欧はまだまだ遠い地域だが、ハンガリー、ポーランド、チェコなどが拡大欧州連合(EU)のメンバーになったのを受け、経済的に中東欧は急速に身近な地域に変貌(へんぼう)を遂げつつある。本書はそうした地域に進出した日本企業が日本的な生産システムをどのように移植し、どういった形で現地化を進めているのか、どのような困難に直面しているのかをそれぞれの企業の戦略と絡めながら分析している。拡大EU時代の海外戦略を考えるうえで数多くの示唆に富んでいる。(東洋経済新報社・三、八〇〇円)
| ぼくの村は戦場だった。 | |
![]() | 山本 美香 マガジンハウス 2006-11-22 売り上げランキング : 2983 おすすめ平均 ![]() 世界史の現実だ! ジャーナリスト魂。 世界を知るための本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界の紛争地を取材するジャーナリストが、一九九六年に初めて訪れたアフガニスタンから、昨年夏のイラクで見届けた自衛隊の撤退まで、十年間の取材成果をまとめた。
CS放送局の記者からフリーに転じ、テレビ、雑誌で戦地からのリポートを手がけてきた。「でも短い報告では、どうしても酌み取り切れない話がある。それをまとめておきたかった」と執筆の動機を話す。
著者の視線は戦時下の日常に向かう。イスラム原理主義組織タリバンが支配していたアフガンには、女性の学習を禁じるタリバンに隠れて秘密の勉強会を開く女性たちがいた。著者が居候したカブール郊外の家では、第一夫人と第二夫人が激しい嫉妬(しっと)の“戦争”を続けていた。
「普通の人々がどんな暮らしをしているか。それを私自身が知りたかった。人々は悲惨な状況下でもたくましく暮らしていた。笑ったり、泣いたり、嫉妬したり。私たちと何も変わらなかった」と振り返る。
そんな普通の人々が真っ先に犠牲になるのも、また戦争だという。内戦が続くウガンダでは、ゲリラに耳や唇を切り取られた女性たちに出会う。コソボ自治州では、集団埋葬された遺体の身元を割り出す作業に立ち会った。鼻を突く死臭が今も忘れられないという。
「無残な、耐え難い光景にいくつも出合った。でも、そこから目を背けたところで状況は何も変わらない。だから絶えず戦地に足を運び、現状を伝え続けたい」と力を込める。
仕事柄、戦地で年を越すことも多い。今年は久々に日本で新年を迎えた。「やっぱり日本はいい。便利だし」とほほ笑むが、近いうちに再びアフガンかイラクに向かうつもりだ。「人々のたくましい姿を見ていると、こちらが勇気づけられる。だからこの仕事はやめられません」。(マガジンハウス・一、五〇〇円)
(やまもと・みか)1967年生まれ。都留文科大卒。イラク取材で2003年度のボーン・上田記念国際記者賞特別賞を受賞。
| 暗号事典 | |
![]() | 吉田 一彦 友清 理士 研究社 2006-12-15 売り上げランキング : 9830 おすすめ平均 ![]() 一線を越えた待望の書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
インターネット商取引などが広がる中、重要性を増している暗号に関する知識を網羅した『暗号事典』(研究社)が刊行された。ローマ時代に使用されたカエサル暗号や通信手段としての公開鍵暗号といった実用暗号、そしてエドガー・アラン・ポーから『ダ・ヴィンチ・コード』にいたるフィクションの中の暗号など約千三百項目を取り上げ、仕組みや歴史を解説した。吉田一彦、友清理士著。四千円。
| まいにち薔薇いろ 田辺聖子A to Z | |
![]() | 田辺 聖子 『田辺聖子全集』編集室 集英社 2006-12 売り上げランキング : 2566 おすすめ平均 ![]() かもかのおっちゃんAmazonで詳しく見る by G-Tools |
田辺聖子の文学世界を「事典」形式で紹介した『まいにち薔薇(ばら)いろ 田辺聖子A to Z』(集英社)が刊行された。「A(芥川賞)」「B(文学)」「C(中年もの)」などキーワードを立てて、人生の滋味とほろ苦さに満ちた田辺作品を読み解いている。豊富な写真とともに、単行本未収録の短編六編、作家の江國香織と川上弘美のエッセーも収める。千五百円。
| そこまでやるか!―あなたの隣のスゴイヤツ列伝 | |
![]() | 日本経済新聞社 日経= 日本経済新聞= 日本経済新聞社 2006-10 売り上げランキング : 1410 おすすめ平均 ![]() すごいワザですねAmazonで詳しく見る by G-Tools |
自転車に大量のケーキを積み、家々を訪ねて売りさばく菓子職人、口ベタゆえ聞き役に徹してトップセールスを実現した保険外交員、百分間で弁当百十二個を売った新幹線車内販売員。その道のプロ六十六人の半端ではない努力を描く。「全力を尽くす」とはどんなことかを教えてくれる。
| 紐育 ニューヨーク!―歴史と今を歩く | |
![]() | 鈴木 ひとみ 集英社 2006-12 売り上げランキング : 3883 おすすめ平均 ![]() やっぱりニューヨークは面白い!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ニューヨーク在住のジャーナリストが、都市の魅力を記す。拝金主義のロウワー・マンハッタンから、のんきでいい加減なグリニッチ・ビレッジへ。ブッシュ政権と距離をおく市民気質は米国の多様性を示す。そんな街歩きの面白さをのりのいい軽快な文章でつづる。グラウンド・ゼロのルポも。
| プレイバック1980年代 | |
![]() | 村田 晃嗣 文藝春秋 2006-11 売り上げランキング : 10141 おすすめ平均 ![]() これぞ現代日本史! ミレニアムに80’sのデジャブを見る。 青春を振り返る1冊Amazonで詳しく見る by G-Tools |
多くの読者に懐かしさを感じさせる本である。
五十歳代以上の人々には、恐れを知らぬ勢いで働いていたあの時代が現れる。三十歳代、四十歳代の人たちには青春時代がよみがえる。二十歳代はうっすらと記憶に残る昭和末期を思い出すだろう。
著者は同志社大学で国際政治を講じる学者だが、本書は政治外交の通史を目指した本ではない。一九八〇年代の日本を世相、風俗を織りまぜて語る。
冒頭に「日米同盟が強化された」「世界中で反米機運が高まった」「ベンチャー企業のオーナーが逮捕された」など十項目が示される。最近の出来事に思えるこれらがいずれも八〇年代にも起こったことを思い出させる。
グローバル化という言葉はまだなかった。その代わりに国際化が語られ始めた。日本経済が世界経済のなかで重い存在感を持つようになり、国内システムが変化を迫られるようになった時代だった。
堅い本ではない。むしろ「サブカルや流行については、祇園や先斗町での『酒場の会話』に大いに啓発されたことも、白状しておかねばなるまい」と著者が書いているように、読みやすい軟らかな本だが、それだけでもない。
目次には「『同盟』迷走」、「『歴史の復讐(ふくしゅう)』と中曽根の登場」などとあり、案外しっかりした八〇年代の政治外交の通史にもなっている。あの時代を歴史のなかに位置づけようとする試みも読みとれる。
| インド世界を読む | |
![]() | 岡本 幸治 創成社 2006-10 売り上げランキング : 1244 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本でインドへの関心が急速に高まったきっかけの一つはゴールドマン・サックスが二〇〇三年十月に出したいわゆる「BRICs報告」だろう。インドは今やソフト産業大国として、あるいは巨大人口を擁するポスト中国の成長国として注目を浴び、インド株を対象にしたファンドも高い人気を集めている。
しかし関心の高さとは裏腹に、一般の日本人はこの国のことをまだよく知らない。本書は今のインドを理解するのに必要な知識を、一冊で一通り身につけられるよう工夫した本と言っていいだろう。
それだけに取り上げている分野は幅広い。日本人のインド観の変遷、インドの現代史、印僑の活躍ぶりと祖国への貢献、ソフト産業の成功要因と課題、すばらしいというイメージがある教育の実態、カースト制度や中間層の現状、交通インフラの実情、中国や米国との関係――といった具合である。著者は三十年以上この国にかかわり続けている元商社マンだけに、実学的な視点にも富んでいる。
全体を通してインドへの深い思い入れが感じられるが、対照的に中国に対しては強い警戒感が随所ににじむ。最終章の「アジア政策の再検討」はそんな立場から打ち出した日本外交への意見。東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓で構成する「東アジア共同体」は中国を中心に据える新華夷体制になると警告し、東方政策を推進するインドを巻き込む必要性を説いている。
| 乗っ取られた聖書 | |
![]() | 秦 剛平 京都大学学術出版会 2006-12 売り上げランキング : 126351 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
エジプトのアレクサンドリアを舞台に、ヘブライ語の旧約聖書をギリシャ語に訳したのが「七十人訳聖書」。紀元前三世紀ごろ、創世記、出エジプト記の翻訳が始まり、紀元後、地中海に広がったキリスト教世界で「七十人訳」が旧約聖書を正確に反映したものとして受容されていく。その成立にまつわるエピソードを紹介、時には大胆な仮説も交えて読み解く過程は推理小説並みの面白さがある。
古代イスラエルの著述家ヨセフスの「ユダヤ戦記」「ユダヤ古代誌」などの翻訳書を出している著者は、キリスト教成立の事情に詳しい。目からうろこの話がたくさんあるが、原理主義者が思い込んでいるような完全無欠なテクストはないということは興味深い。ヘブライ語の旧約聖書も種々の写本があり、転写の過程で写し間違えや意図的改変がされているというのだ。
ギリシャ語訳ができる経緯は、アレクサンドリアに住みついたユダヤ人が、プトレマイオス朝の有力ギリシャ人がユダヤ人に抱いていた誤解を解くため、ユダヤ人が古い歴史を持つ民族であることを示そうと企画された。その権威付けに七十人余の訳者がエルサレムから来たという伝説が作られたと著者は見る。
この後、キリスト教徒たちは、キリスト教の教義を確立するため、ヘブライ語の旧約聖書に頼らず「七十人訳」を利用した。ユダヤ人が訳したギリシャ語訳聖書が「乗っ取られた」のだ。
| 西域の貌―SILK ROAD | |
![]() | 長倉 洋海 山と溪谷社 2006-12 売り上げランキング : 228414 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
戦火のアフガニスタンを20年以上取材してきたフォトジャーナリストによるシルクロードの写真集。だが、ここにあるのは歴史ロマンを感じさせる遺跡群ではない。著者の関心はこの地域に暮らす人々に向かう。市場にたたずむ老人、文字を習う少女、鮮やかな民族衣装……。多くの民族が暮らし、幾度となく戦乱が続いた土地に暮らしながら、生き生きとした日常の表情を崩さない生活の力強さが胸を打つ。
| 失われゆく鮨をもとめて | |
![]() | 一志 治夫 新潮社 2006-11-29 売り上げランキング : 32845 おすすめ平均 ![]() 鮨を喰うということは、「命」を頂くことである。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 闘う純米酒 神亀ひこ孫物語 | |
![]() | 上野 敏彦 平凡社 2006-12-14 売り上げランキング : 13111 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 百年の食 食べる、働く、命をつなぐ | |
![]() | 渡部 忠世 小学館 2006-10-26 売り上げランキング : 75075 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
年末年始で疲れた胃腸を七草がゆでいやしながら、この国を取り巻く「食の危機」を考えたい。そんな思いにさせる好著が相次いでいる。年末のかき入れ時に東京・上野の「アメ横」では祝いの食卓に欠かせないマグロの刺し身が高値をつけたように、確かに、食の異変が目立つ。
一志治夫著『失われゆく鮨(すし)をもとめて』(新潮社)は、ノンフィクション作家が都内のあるすし店の仕入れ先をめぐる旅のルポルタージュである。「食に対して狂気すら見せる親方」を指南役に、著者は旅に出る。それは消えゆくホンモノの素材を求める旅になる。
利尻のウニや昆布、鹿嶋港のハマグリ、富山のブリ――。華麗な食材が並ぶが、「東京湾から食材を得られるのであればそれに越したことはない」というのが親方の本音だ。実際、親方の父の世代はほとんど東京湾の食材でまかなえた。
親方が仕入れる食材の産地も決して安泰ではない。たとえば利尻ではニシンは今は揚がらない。鹿嶋のみならず、日本中の海から浅瀬が消えつつもある。すし種を切り口に「少しずつみんなが我慢」するという環境保全へのメッセージが説得力を持って描かれる。
ホンモノが失われつつあるのは日本酒でも同様。上野敏彦著『闘う純米酒』(平凡社)は、こうした流れに抗した酒蔵の記録だ。醸造用アルコールに糖類と調味料を加える「三倍増醸酒」をいち早くやめたほか、二十年前には蔵の酒を全量純米酒に切り替えた埼玉県の「神亀」が主人公だ。
業界からの批判や、税務署からの圧力など、この蔵が直面した様々な闘いを支えたのはやはり危機感だ。良質の酒米を手に入れるため、農業にも深く関与していく。「神亀」に刺激されるように、全国の酒蔵から個性的な純米酒が出始めている。純米酒は確かに食と農を結ぶ格好の接点だ。
渡部忠世著『百年の食』(小学館)は、アジアの米や稲作に詳しい著者が、農業、農村の衰弱した状況を憂い「民族の滅びへとつながる道ではないか」と指摘する。定年退職を迎える団塊の世代に向け、農業に加わることを勧めている。きっかけは何であれ、わが事としてとらえることから将来に向けたヒントが浮かび上がってくる。
| ザ・ファンドマネジャー その仕事と投資哲学 | |
![]() | 依田 孝昭 日経BP社 2006-10-19 売り上げランキング : 42018 おすすめ平均 ![]() 散漫な印象 ファンドマネジャーを志す若者へ 投資・運用業界を目指す学生さんは必読Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は内外の投資顧問で三十年余り資産運用の仕事をしてきた、運用の専門家である。家計金融資産の運用の巧拙が人生設計をも左右する時代が到来した。では実際の運用に携わるファンドマネジャーたちは、期待に応えられるだけの仕事をしているのか。自らの経験を踏まえて、資産運用の現場の風景を描き、運用戦略についてかみ砕いた解説をしたのが本書である。単なるノウハウ本ではなく、批判的な視点から運用ビジネスの課題を率直に記している。
| 日米企業の利益率格差 | |
![]() | 伊丹 敬之 有斐閣 2006-11 売り上げランキング : 2819 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本企業は米国企業に比べて利益率が低いと言われてきたが、それはなぜか。利益率が低いのに国際競争力を高められたのはなぜか。本書は長期のデータを収集し、多角的に分析している。日米の利益率に格差があるのは経営効率だけの問題ではなく、企業観や市場観、利益観の違いが背後にあるという。目を引くのは、米国で企業間格差が拡大しているというデータだ。伊丹氏はこれを米国株式市場資本主義のたそがれとみる。
| アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業 | |
![]() | グレン・アーバン スカイライトコンサルティング 山岡 隆志 英治出版 2006-11-14 売り上げランキング : 1311 おすすめ平均 ![]() 投資対効果の視点がないのでやや物足りなさが残る。 今日、さらに支持される概念 目から鱗が落ちましたAmazonで詳しく見る by G-Tools |
アドボカシーとは支援、擁護、代弁の意味。派手な広告やイメージ戦略より信頼獲得を最優先し、顧客に最適だと判断すれば競合他社の製品を推薦する。そんな姿勢が長い目で見れば企業を成功に導くと説く。安さを打ち出しながら各種条件を小さく印刷する携帯電話の広告が駄目な例の典型として挙げられている。CAO(チーフ・アドボカシー・オフィサー)の設置など米国の先進企業による取り組みも参考になる。山岡隆志訳。
いのちの回廊
北日本新聞社編集局
患者主体の医療という言葉に象徴されるように、患者からの医療への要求水準が高まっている。一方、医療費抑制策や、新臨床研修制度の導入などで、地方では医師不足など地域医療が苦境に立たされている。本書は地方紙取材班が、悩む医療現場を丹念に取材した連載をまとめた。連載中に起きた延命中止問題も盛り込んでおり、医療を考えることは死生観を問い直す作業にほかならないというメッセージが伝わってくる。
編集者斎藤十一
斎藤 美和
「週刊新潮」「フォーカス」などの有名雑誌の創刊に携わった新潮社の伝説的編集者、斎藤十一(じゅういち)。同社の「天皇」と呼ばれた男の七回忌に際し、生前に縁のあった人々が文を寄せた。自らを「俗物」と呼ぶ斎藤は刺激的な企画を次々と立て、部下には無理難題を求めた。例えば、佐野眞一はライター時代、何度も絞め殺してやろうかと思ったと振り返る。斎藤は仕事を離れれば音楽と哲学を愛し、実は照れ屋だったという。そんなカリスマの多面性をうかがわせる一冊だ。
| MOT“技術経営”入門 | |
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種を植え、水をやり、きれいな花を咲かせるまで育てて、さていよいよ実をとろうとしたら誰かに持っていかれてしまう。優れた技術力はあるのに収益になかなか結びつかない日本の製造企業の悩みは深い。なぜなのか。どうしたらいいのか。技術経営のテキストである本書は、製造企業が技術や商品に関するマネジメントを通じて付加価値を最大化するための経営のあり方を体系的に解説する。
目指すべきは価値創造(花を咲かせる)と価値獲得(実をとる)の両方であり、そのための鍵は、コア技術、組織プロセス、事業システムからなる、長期的に鍛え上げられた組織能力であるというのが、本書を貫く主張である。不確実性に満ちた技術経営だからこそ、深い戦略思考と強いリーダーシップに基づく、ブレのない長期的な取り組みが重要であることが解き明かされる。
ここ数年、いくつか類書が出ているが、本書は一線を画している。他が米国流の技術経営の紹介であったり、ノウハウや分析手法の解説書であったりするのに対して、本書は(米国の技術経営研究の成果を活(い)かしつつも)、日本の製造業を対象に絞り込んだ明確なメッセージを持ち、技術経営に取り組む上での基本的な考え方、姿勢を論じている。
米国の技術経営論は米国企業がかつての不振からの復活を目指す中で発展した。日本の技術経営論も、日本企業が抱える固有の問題から出発し、やがて内外に通用する知見の体系を築いていくとすれば、本書はその重要な一片となるはずだ。価値獲得や事業システムについてもっと多角的に論じてほしかったが、これは、本書の問題というよりは、技術経営論が今後さらに検討すべき課題だということだろう。
日本経済はひところの不振を脱したが、好景気は優れた技術経営の維持にとってかえって妨げになることがあると著者は警告している。短期的な浮き沈みに一喜一憂することなく、本書が説く「花も実もある技術経営」の課題にじっくり取り組まなくてはならない。調子が芳しくない企業の方はもちろんのこと、好調な企業の方にも、この本を薦めたい。
▼のべおか・けんたろう 59年生まれ。神戸大学教授。
| NHK vs 日本政治 | |
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通信と放送の融合や国際放送の強化、命令放送、受信料の強制徴収など、二〇〇六年はNHK問題が注目された一年だった。不正支出事件に伴う視聴者のNHK離れが発端だが、NHKと自民党との微妙な関係が問題をより複雑にした。本書はNHKが抱える構造的問題を米国人政治学者の目で鋭く調査分析した研究書である。
実は本書の登場は二〇〇〇年にさかのぼる。六年後に翻訳されたのは、新たなNHK改革論議に対し、本書が一つの視座を提供してくれると判断されたからだろう。執筆に十五年を費やし、多くの関係者への取材から説き起こしたNHK論は、著者の日本語版序文にもあるように、今もって本質的な面を突いているといえる。
政治とメディアは古くて新しい政治学のテーマだが、六〇年安保以降の日本の安定がテレビの普及に支えられたという著者の指摘は興味深い。それを担ったのがNHKであり、言論機関ではなく中立的な報道機関を標榜(ひょうぼう)したことが国民の信頼を獲得した。
一方、NHKは予算承認を国会に委ねたことから、多数与党である自民党の介入を招き、政治との微妙な力関係の中で中立性を維持する運命を背負った。従軍慰安婦に関する放送に自民党議員が関与したと朝日新聞が報じたが、その点が今もNHKのアキレス腱(けん)になっていると言う。政治との複雑な力関係が最もよく表れているのが会長人事である。
NHKの問題は、ピークより人数は減ったものの、肥大化した組織とそれを統治する体制にある。さらに民放によるニュース報道番組の強化がNHKの地盤を脅かしたと著者は指摘する。インターネット放送の影響までは言及していないが、有料放送の登場や民放とのニュース番組競争の中で、公共放送としてのNHKのあり方が再び問われていると言う。
英BBCのような欧米の公共放送との経営比較など、外国人でしかできない分析も目を引く。NHKの改革論議は二〇〇七年の重要なテーマでもあるだけに、関係者はもちろんのこと、視聴者である国民にも関心を持ってほしい問題提起がなされている。
▼著者は44年米テネシー州生まれ。スタンフォード大学大学院卒。95年からカリフォルニア大学で政治学を教える。
| 集合住宅の時間 | |
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「青い山脈」を作詞した西條八十が戦前暮らした東京の銀座アパートメント。戦後は奥野ビルと改称、今では多くの画廊が入り、美術愛好家たちが廊下を行き交っている。東大本郷キャンパス近くの求道学舎は大正期に建った鉄筋コンクリート造りの建築だ。アーチ窓が印象的で、暮らしながら宗教を実践する場として数年前まで機能していた。
本書は、主に大正から昭和初期に造られた集合住宅を訪ね歩いた記録だ。著者はアール・デコ風の階段室やステンドグラスの美に驚き、建物のひびやクモの巣に時間の蓄積を味わう。
「建築を専攻して興味を持ったのは、たくさんの人のにおい、言ってみれば生活の記憶がしみついた集合住宅だった。建物が取り壊しになると聞くたびに無性に行ってみたくなった」。こう話す著者は、学生時代から歴史的な集合住宅巡りを始めた。東京各地の同潤会アパートにも、取り壊し前に頻々と通った。
一九六〇年に暗殺された日本社会党(現・社民党)の浅沼稲次郎委員長が住んでいた同潤会清砂通りアパートには九五年から十回も通った。「浅沼の部屋は調度品が生前のままで、毎年故人の誕生日に様々な人が集まり、浅沼をしのぶ場として機能し続けていた」
そこで得た資料から、四五年の東京大空襲のときに浅沼が消火の指揮を執り、ぬれぞうきんで木製サッシをぬらし続けて多くの部屋を守ったことが分かった。
これらの集合住宅では、中庭を畑にして耕す、噴水や遊具を設置するなど、建物の利用価値を高めるための話し合いが積極的にされていたという。「近年のマンションの管理組合のように資産価値を守る視点で議論するのとは違う。ボロボロの建物に見えたとしても、実は裏に住人との良好なつながりがある。これからも、人と建物のいい関係を考え続けたい」。(王国社・一、九〇〇円)
(おおつき・としお)1967年福岡県生まれ。東大卒。東京理科大建築学科助教授。共著に『消えゆく同潤会アパートメント』など。
| 世界史史料 (10) | |
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近年の歴史研究のあり方を反映し、多様な視点で史料を収めたシリーズ「世界史史料」(全十二巻、岩波書店)の刊行が始まった。歴史学研究会(代表・西川正雄氏)編で、定訳のある場合を除き各分野の専門家が新たに訳出した。既刊の第十巻『二〇世紀の世界I』(四千円)は日英同盟の協約、米国の禁酒法、世界恐慌下の英国の炭鉱労働者の回想などを掲載している。
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日本を代表する魚類学者で、随筆の名手としても知られた末広恭雄(一九〇四―八八年)の初めての選集『随筆で楽しむ日本の魚事典』(河出書房新社)の刊行が始まった。既刊は『海水魚(1)』で、当面六冊を刊行する予定。八十冊を超える著書から「イワシ」「カツオ」など魚種別に随筆を収録。木村清志・三重大助教授により、最新の研究成果も「追補」として盛り込んだ。










内容に意外性は無いですが、納得はいく説明


























