メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年9月3日~9月10日
| 水の道具誌 | |
![]() | 山口 昌伴 岩波書店 2006-08 売り上げランキング : 9411 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
水にかかわる三十三種の生活用具・設備を取りあげた。金魚鉢、和傘、洗濯板など、現代生活から消えつつある昔懐かしい名前が並ぶ。道具研究の第一人者らしく、製法や起源、ちょっとしたウンチクを紹介。昭和三十年代に国内外で流行した球形の手回し洗濯器など、知る人ぞ知る優れものも取りあげている。
| 人間とヘビ かくも深き不思議な関係 | |
![]() | R.&D.モリス 小原 秀雄 藤野 邦夫 平凡社 2006-08-12 売り上げランキング : 188086 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ヘビは、世界各地で信仰の対象とされてきた一方で、アダムとイブの話のように邪悪の象徴とされることもある。本書は、英国の動物学者と歴史家の夫妻が、人間とヘビの矛盾に満ちた関係を解き明かそうとした書の初邦訳。神話、ペット、食用など様々な視点で語る。小原秀雄監修、藤野邦夫訳。
| グロテスク〈上〉 | |
![]() | 桐野 夏生 文藝春秋 2006-09 売り上げランキング : 161 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| グロテスク〈下〉 | |
![]() | 桐野 夏生 文藝春秋 2006-09 売り上げランキング : 177 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
実際の殺人事件にヒントを得て書かれた直木賞作家の長編小説。悪魔的な美貌(びぼう)を持つユリコと、競争心があだとなって孤立する和恵。名門女子高の同窓生である二人は、夜の女として街頭に立ち、やがて殺されてしまう。ユリコの姉である「わたし」の悪意あふれる語りや登場人物の手記など重層的な構成によって、堕(お)ちることで生きようとした女性たちを描ききっている。泉鏡花文学賞受賞作。
| トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇 | |
![]() | 『週刊東洋経済』村上ファンド特別取材班 東洋経済新報社 2006-07-28 売り上げランキング : 10099 おすすめ平均 ![]() 村上氏の正体とは…テレビのイメージと現実 聞きかじった断片的な情報を羅列して無理して村上叩きをやっている本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
インサイダー取引容疑で逮捕される直前に記者会見を開き、世間を驚かせた村上ファンド前代表、村上世彰被告。そんなパフォーマンスの裏に隠されたウソをあぶり出そうとしたのが本書だ。題名が「ペテン師」を意味するのもそのためだ。
著者は経済週刊誌の記者二人で、膨大な取材や資料を基に村上被告の実像に迫る。同被告はニッポン放送や阪神電気鉄道株を買い集めるなどで、「物言う株主」として時代の寵児(ちょうじ)になったが、これは虚像と断じる。
例えば、同被告が小学生時に父からもらったお金でサッポロビール株を買い、投資家としてスタートしたという伝説。著者は当時の株価をチェックするなどで、「しこって塩漬けになった」可能性があると指摘する。「良き家庭人」として描かれる際に使われるタケノコ狩りのエピソードについても、これがどのように世間に広まったのかを調べたうえで、「どこか作為が見え隠れする」と記す。
村上ファンドについては、逮捕直前の会見も含めここまで徹底的に検証した本はほかにないと見られる。事件は日銀総裁を巻き込むほどの広がりを見せており、ファンドの運用成績など数字も押さえた本書の資料的な価値は高い。 残念なのは、村上ファンド批判に力を入れるあまり、文章がやや感情的になっている点だ。「水に落ちた犬をたたく」印象を読者に抱かせかねない。
| 役行者と修験道―宗教はどこに始まったのか | |
![]() | 久保田 展弘 ウェッジ 2006-06 売り上げランキング : 127792 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
役行者は仏教史を彩る高僧像の中で、聖徳太子と弘法大師に次いで多いそうだ。にもかかわらず、近年までその存在が軽視されていた。明治初期に廃仏毀釈が行われた際に、役行者を信仰の対象とし山中で厳しい修行をする修験道が禁止されたときの影響が続いていたからだという。
そう指摘する著者が説いた本書は、四十年以上に渡って修験道ゆかりの地を訪ね歩いたフィールドワークに裏打ちされている。修験道のルーツを探り、大陸からの仏教受容との関係を問うことで、日本の宗教の系譜全体を見直す内容だ。
もともと古樹や滝などを崇拝の対象としていた日本の原始信仰は、異なる宗教の受容に柔軟で、神仏習合がはぐくまれる土壌があった。奈良時代には神をまつる寺として「神宮寺」が創建された。山林修行者だった最澄に新しい宗教をもたらしてもらうことを望んだのは、不安な政情を抱えながら平安京に遷都した桓武天皇だったという。続く空海、円仁らの活躍によって、平安は山岳宗教の時代になる。そこから本地垂迹(すいじゃく)説などの神仏習合文化につながる。
無宗教が一般的な現代日本で、改めてたどった宗教の系譜の構成に説得力があるのは著者が実際に訪ねた様々な土地で霊場の空気を感じ、命を賭けた修行の現場に臨み、祭りを見るなどの体験の積み重ねゆえだろう。生と死の境界を行き交う比叡山の千日回峰行に同行したくだりは圧巻。
| スーパー都市災害から生き残る | |
![]() | 河田 惠昭 新潮社 2006-06-29 売り上げランキング : 91148 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「スーパー都市災害」とは、防災の専門家の間で使われ始めている新しい概念だ。都市インフラは本来、地震や風水害など自然の脅威を減らす機能を持つ。だが大規模な天変地異の前には、高度な都市機能があだとなり、通信インフラの途絶などで災害の深刻さが増幅する。東京の直下型大地震などではこうした未曽有の事態が想定されるという。
著者は京都大学防災研究所所長。阪神淡路大震災の経験などを踏まえ、都市住民が警戒すべきスーパー災害のイメージを浮き彫りにする。地震だけでなく、台風の大型化傾向やテロの脅威など、都市の災害への脆弱(ぜいじゃく)性は増しているというのが著者の見方だ。
本の後半は都市住民のサバイバル実践集だ。地震被害などを例として、どう備え、行動すべきかが示される。都心部の会社から郊外の自宅に安全・確実に戻るためのルートの選び方、高層マンション上層階での心構えなど、うなずかされるものが多い。
関西在住の著者が東京に出張に来るたびに実践している、昼も懐中電灯を持ち歩き、地下鉄乗車前には飲み水を購入する、といった対策も披露。読者にも「自分ならこうしよう」と考えさせる内容になっている。
スーパー都市災害のイメージを頭にたたき込んでおき、発生後にどう行動するかによって、生き残れる可能性は高まる――。こうしたメッセージが、理論と実践の両面から伝わってくる。
| 続・眠らない風景 Sequel to Visions of a still night | |
![]() | 松本 コウシ 求龍堂 2006-08 売り上げランキング : 81355 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者はこの17年間、ストロボを使わず長時間露光と広角レンズで夜の風景を撮り続けている。第2弾の今作は2003年の前作に比べ、被写体より闇の空間そのものの持つ雰囲気が、香り立ってくるようだ。しんとした工事現場にたたずむ重機、街の明かりにほの赤く染まる墓石、山あいの草地に幻想的に浮かぶ野生動物のオブジェ。暗闇に目を凝らすと、昼間の光では決して見えない異質な世界が開けてくる。
| 北朝鮮クライシス | |
![]() | 日本経済新聞社 日経= 日本経済新聞= 日本経済新聞社 2006-08 売り上げランキング : 51826 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
七月五日、国際社会の再三の警告を無視して北朝鮮の金正日総書記が放った七発のミサイル。その狙いは。日米中韓など関係国の思惑は――。北朝鮮の行為は危機感をあおって相手の譲歩を誘う「瀬戸際戦術」なのか。それとも「核・ミサイル大国」の座を狙ったものなのか。内外の記者で構成する日本経済新聞「北朝鮮問題取材班」が、日本の安全保障に直結する北朝鮮危機の展望を探った緊急書き下ろし。
| 犯罪被害の体験をこえて―生きる意味の再発見 | |
![]() | ハワード ゼア Howard Zehr 西村 春夫 現代人文社 2006-07 売り上げランキング : 22391 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
犯罪被害者と加害者の対話などを通じて、被害者の感情を和らげるとともに、加害者の更生につなげる「修復的司法」の第一人者による犯罪被害者へのインタビュー集。肉親が殺害されたり、性的虐待に遭うなど、悲惨な経験を彼らがどう受け止め、被害経験以降の生を立て直してきたか。語ることそのものが「修復」の過程であるという実践の書であると同時に、司法の場で置き去りにされがちな被害者のニーズを探る上で示唆に富む。西村春夫ほか監訳。
| 金融はこれからどう変わるのか | |
![]() | 高橋 琢磨 金融財政事情研究会 2006-07 売り上げランキング : 1320 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ライブドア事件や村上ファンド事件を機に、鬼の首でもとったように「市場至上主義」の破綻を批判する声が高まる。だが日本の金融は本当に市場機能が十分に果たされているのだろうか。本書はこんな問題意識を基に、市場を軸にした金融システムの構築を唱える。規制の体制から自由の体制へ。システムの転換を訴えつつ、証券化、国債、株式市場などの望ましいあり方を示す。証券系シンクタンクに長年勤務した経験が生き、記述は地に足が着いている。
| 芝居語り 渡辺えり子対話集 | |
![]() | 渡辺 えり子 小学館 2006-07-22 売り上げランキング : 79327 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
劇作家で演出家、女優でもある著者が、一九四五年の終戦以前に生まれた先輩俳優と語り合った対談集。三國連太郎、加藤治子、美輪明宏、植木等、長岡輝子、岸田今日子ら十三人をゲストに招き、「演じるとはどういうことか」など演劇に対する思いに迫る。作品へのアプローチの仕方など、同業者だからこそ語り合えるテーマが興味深い。山口百恵主演の「赤い運命」に出演した三國は戦中戦後の暗部を生きた児玉誉士夫を念頭において演じたという。先達の言葉から演じることの奥深さを実感する。
| ブレイクスルー -イノベーションの原理と戦略- | |
![]() | Mark Stefik Barbara Stefik 鈴木 浩 オーム社 2006-07-11 売り上げランキング : 289 おすすめ平均 ![]() インターネットがどのようにして実現したかがわかった! ブレイクスルーの質的研究 待ちに待った翻訳書の出版Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いざなぎ超えを指呼のうちに望む一方で少子高齢社会に突入するとなると、イノベーションをテコにした新しい経済成長を目指すのが日本の課題。しかし、どうすればブレイクスルーをなし遂げイノベーションを実現できるのか。人材を集め、資金をつぎ込み、必要な技術もアウトソーシングで調達できれば可能なのか。もしそうならヤンキースやレアル・マドリード級の集積が世界各地に誕生し、経済発展のエンジンに不足しない。
本書はATTのベル研究所と並んで世界的に有名なゼロックスPARC(現PARC)が、独立研究所に移行する転換期に、同研究所の優れた研究者であり管理者としても手腕を発揮した著者が、著名な発明家や研究マネジメントの専門家にイノベーション実現への取り組みや課題を聞いたもの。PARC関係者をはじめベル研、IBM研究所やGE、ソニーの研究所、さらにスタンフォードなど有力大学など世界の主要な研究開発拠点の関係者の中でも、何度も成功した実績を持つ、えりすぐりの専門家に絞っているのが特徴である。
それだけに率直なナマの声を集めている。成功した起業家であり、スタンフォード大学理事長(前学長)のJ・ヘネシーは採用に当たって「スタンフォードは打席に立ってバントを決めたり、単打で一塁に駆け込んだりするような人を探していない。ホームランを打とうという気持ちでバットを振る人材だ」と教授陣に叱咤(しった)するそうだ。
発明からイノベーションに発展させる間に知的、人的、組織的に多くの壁が立ちふさがる。寛大なパトロンに依存した研究と顧客を確保しながらの研究とはどちらが有効なのか、中央研究所の衰退と企業経営の視野の短期化は後に禍根を残さないか、など構造的な問題も横たわる。真剣に体験を回想し、答えを模索する専門家たちの悩みが伝わってくる。
個性や才能を包容して開花させる組織力、興味を誘発する研究のエコロジーが重要というのは当たり前だが、多くのMOT(技術経営)関連書よりよほど説得力がある。情報技術関連のイノベーションに関心が傾斜している嫌いはあるが熟読したい労作だ。(鈴木浩監訳、岡美幸・永田宇征共訳、オーム社・二、六〇〇円)
▼マークはPARCの発明家兼研究フェロー。バーバラはマークの妻。トランスパーソナル心理学者。
| ランボー全集 | |
![]() | 平井 啓之 中地 義和 湯浅 博雄 青土社 2006-08 売り上げランキング : 31832 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
早熟の天才詩人とうたわれたアルチュール・ランボーの詩作品や書簡を収録した平井啓之ほか訳「ランボー全集」(青土社)が刊行された。文学を放棄して以降、武器商人として活動していたころの家族や上司、商人仲間との書簡も収録。文学に情熱を注いだ前半生との鮮やかな対比が「人間ランボー」を理解する一助になる。
| ブロンズの地中海 | |
![]() | 司 修 集英社 2006-08 売り上げランキング : 145810 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現代の日本から第二次大戦下のパリへ――。戦争前夜に愛人を追って渡仏した芸者のカヨさんの生涯を軸に、現在を生きる主人公の「私」や姉が自在に時空を行き来する不思議な小説だ。波乱の人生を送った芸者には実在のモデルがいるが「ほんとうは亡くなった姉を書きたかった」と明かす。
物語の冒頭、すでに亡い姉からの電話で、「私」の少年時代の記憶がよみがえる。焼け跡から立ち直ったばかりの故郷、群馬県前橋市。置き屋に暮らす姉が月に一度だけ帰宅し、浴衣姿でキセルを吸う――。実際の姉も新橋の芸者だった。著者は父親を知らない自らの生い立ちを恨んで育った。しかし、年の離れた姉は母とも血がつながっておらず、「僕以上に不幸だったんじゃないかと亡くなってみて思った」。小説を書くことで「そんな姉に死んでからは自由に生きてもらいたかった」という。
姉はいつの間にかカヨさんになり代わり、六十年以上前の気ままな暮らしぶりを語り始める。愛人と別れ、絵画を習いだした美術学校ではユダヤ系フランス人の女性と恋に落ちる。ニースで画家のマチスと出会い、マルセイユから逃げる途上でドイツ軍の捕虜になった。カヨさんがたどった道のりは史実通りだが「戦時下でも日本にいるよりは楽に暮らせたのでは」と想像し、創作部分が膨らんだ。「一人の女を生かす快感があった。でも同性愛の部分はちょっと気ままに動かしすぎたかな」と笑う。
幻想的な作風で知られる画家でもある。最近は敬愛する詩人、萩原朔太郎の詩画集を刊行。メキシコに移住した明治の女性や与謝蕪村を小説化する構想も練っている。「何もない焼け跡が僕の原点。食べ物や衣服など色々なものが少しずつ増えていく喜びを強烈に感じて生きてきた。あれもこれもやってみたい。けっこう欲張りなんです」。
(つかさ・おさむ)36年群馬県生まれ。主な作品に小説「犬」(川端康成文学賞)、『戦争と美術』『賢治の手帳』など。
| 日本の放浪芸 オリジナル版 | |
![]() | 小沢 昭一 岩波書店 2006-08 売り上げランキング : 5995 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九七〇年代、消えていく放浪芸を各地に訪ね歩いた記録。万歳、絵解き、舌耕芸、香具師の口上など、どれも学術的に貴重な記録だ。加えて門付けを実体験し、俳優である自らの身体感覚から説いていく語り口に説得力がある。過去にCDや単行本になった記録をもとに編んでいる。
| 後白河法皇 | |
![]() | 棚橋 光男 講談社 2006-08-11 売り上げランキング : 31640 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
後白河法皇は古代から中世の転換期に老かいな政治手腕を発揮する一方、「梁塵秘抄」を編さんするなど新しい文化の保護者でもあった。本書は「この政治的巨人の精神史を、内面から、歴史学の方法で分析し叙述する」ことを目指した。学界では影が薄かった後白河法皇にいち早く注目した研究者の遺稿集である。
| 映画館と観客の文化史 | |
![]() | 加藤 幹郎 中央公論新社 2006-07 売り上げランキング : 13388 おすすめ平均 ![]() 目から鱗が落ちた映画論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
人が「映画を見る」という時、普通は映画館での鑑賞を指す。だがその意味を検証する作業が不十分だった、と著者は指摘する。再生装置の普及によって映画をみるという行為自体が変わりつつあるように、映画館と観客の関係も絶えず変わってきたという。その歴史を本書は日米の事例から詳細に解き明かす。戦後の京都には「香水の完全冷房」を売りにした映画館が存在したことなど、興味深い事例を紹介している。
| 夏と夜と | |
![]() | 鈴木 清剛 角川書店 2006-08 売り上げランキング : 4077 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ファッション業界の若者たちが登場する『ロックンロールミシン』で、三島賞を受賞した作家の長編小説。服飾専門学校の同級生三人による少し不思議な関係を、さわやかな筆致で描く手法は今回も健在。その一方で、“大人”になった彼らが出会う場面は、心にずんと響く。この幻想的な青春小説は、著者の新境地を示すものである。
服飾のパタンナーとして独立した三十二歳の「僕」が主人公。結婚して四年たつが、子どもはまだいない。会社をやめた妻といっしょに過ごす時間が増えたことで、お互いに息苦しさを感じている。そんな中、「僕」は専門学校時代のクラスメートだった和泉みゆきと再会する。彼女は最近、卒業の二年後に亡くなった共通の友人、スウちゃんの幻を見るのだと告げる。
「僕」は「楽園」を追い求めて、三人で過ごした若き学生時代を思い出す。植物が生い茂った不思議な「シカジカの森」にある自分の別荘に「僕」を誘った和泉みゆきは、意外な事実を明らかにする。そんな二人の前にスウちゃんが姿を現す。
「ああ、なるほど、僕たちはまだ、何も始まっていないらしい。何も見つけていないし何も得ていないし何も持っていない」。最後の場面で「僕」はそう思い、文字通り未知数だからこそ、不安と期待が交錯する未来へ踏み出す。弱々しい印象だった主人公が、次第にたくましくなっていく姿は読む者を元気づける。
| 男の晩節 | |
![]() | 小島 英記 日本経済新聞社 2006-07 売り上げランキング : 70 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いま「人間」が面白い。本書は拝金主義が横行する現代社会にあって、いまいてほしい人物や志をもった人物二十人のドラマをつづる。
ゴルフも料亭も大嫌いで修行僧のような精神を貫いた元経団連会長の土光敏夫、「葬儀も勲章も要らぬ」と言いのこした電力の鬼、松永安左エ門、戦争中、軍部からにらまれた硬骨の自由主義者、石橋湛山など「男の晩節」をまっとうした人物が登場する。
本書を読むと、なぜこういう魅力的な人物がいなくなったのか、いまいたらもう少し日本も変わっていただろうと考えさせられる。例えば大原社会問題研究所や大原美術館をのこしたクラレの創業者の大原孫三郎。ただ自分の会社を発展させて利益を稼ぐだけでなく、そこから得た多大な資産を社会活動や奉仕活動に散じた姿勢は、マネーゲームや私利私欲に走る経営者が目立つ中で、「あって欲しい経営者」の姿を示している。
登場するのは政治家、経済人、学者、軍人、ジャーナリスト、教育者、宗教家、剣士と多彩。しかし生き方の潔さ、覚悟の強さ、志の高さ、視野の広さなどで共通する。
著者は新聞記者から作家に転じて時代小説、評伝、ノンフィクションなどを手がける。経済記者や文化記者時代に多くの人物に接してきただけに、文献資料だけに依存せず、記者生活で培った「人間を見る目」や自分の美学で輝かしい航跡をもつ二十人を選んでいる。
| 「改革」のための医療経済学 | |
![]() | 兪 炳匡 メディカ出版 2006-07 売り上げランキング : 73 おすすめ平均 ![]() 医療経済学の入門書としては良書。 読ませる工夫にまず脱帽Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の医療については「非効率で、質も高くなく、患者満足度も低い」と考える人が珍しくない。そのようなイメージを背景に国の財政も厳しい折、医療費はもっと切り詰めるべきだとの声が強まっている。財政支出を減らしても「民間企業の参入でよい医療はできる」との考え方だ。
この政策やイメージは正しいのだろうか。本書は欧米の医療経済学の最新の成果や、医療に関する様々なデータを駆使して、この疑問に答えていく。見えてくるのは日本での通説のおかしさだ。
例えば、実は日本は世界で最も効率的に医療制度を運営していることなどが解説される。医療費増大の原因はよく「人口の高齢化」とされるが、そうではなく「医療技術の進歩」。「予防でコストが削減できる」という効果もほとんど期待できない。米国では公的医療保険市場に民間企業を参入させたところ、かえって余計なコストがかかった。
政府はこれまでも医療費を抑えるために様々な手を打ってきたが、原因もわからないまま、根拠も明確でない対策を出してきたために効果的でなかったのだ。意味のない政策を繰り返さないためにも、著者はまずは必要なデータ収集とその公開、政策を評価できる研究者の育成を急ぐべきだと主張する。
「勘と度胸」で医療政策を動かしていたのでは国民の命綱である制度が崩壊しかねない。広く読まれる価値がある一冊だ。
| NEVERLAND マイ・ハバナ―百瀬俊哉写真集 | |
![]() | 百瀬 俊哉 窓社 2006-07 売り上げランキング : 4032 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は上海、ニューヨーク、ブエノスアイレスなど世界の都市を巡り、人影の絶えた「からっぽの風景」を撮り続けてきた。誰もいない街角や扉を閉じた店先は、逆にさっきまでそこにいた人々の気配、街のにおいを濃厚に漂わせる。今回は人物を魅力的にとらえた写真も多い。シンプルなキューバ人の暮らしにすがすがしい共感を覚えたと著者は言う。その共感が、貧しいはずの景色も豊かに彩っている。
| 神話の心理学 | |
![]() | 河合 隼雄 大和書房 2006-06-15 売り上げランキング : 1094 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
不安や孤独、男と女、親子の関係。臨床心理学者の著者は、現代人が直面する様々な問題を乗り越える「深い知恵を学ぶ素材として、『神話』がある」という。古事記のイザナキ・イザナミの神話から「死の認識」の重要性を説きおこし、ギリシャやジャワの神話まで参照して、男女がなぜ引かれあい、すれ違ってゆくのかに答えを出そうと試みる。「人間存在のもっとも根源的なこと」について書かれた数々の神話を読み解く、手ごろな入門書だ。
| 新会社法の核心―日本型「内部統制」問題 | |
![]() | 牧野 二郎 岩波書店 2006-07 売り上げランキング : 1620 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
会社法についての本は多数出ているが、多くは実務家向けのノウハウ本。その意味で本書は異色だ。会社法が作られた背景に焦点を当てて、同法の導入は無批判に米国型の株価至上主義システムを日本に取り入れることになると警鐘を鳴らす。米国型はエンロン事件などで必ずしも機能しないことが明らかになっており、特に内部統制では日本の事情に合わせた対応が必要と指摘。カネボウ事件など個別事例も詳しく分析する。
| 誰が教育を殺したか? | |
![]() | 夏木 智 日本評論社 2006-08 売り上げランキング : 9836 おすすめ平均 ![]() 現場からの改革案Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「教育改革が学校を混迷させた」。茨城県立高校の教師が、昨今の改革の弊害を論じる。学歴の価値を過度に低下させた結果、社会的に有利な待遇を得られるという報酬を失った子供が学習意欲を失った、などと指摘。その上で、「授業を妨害する生徒を排除せよ」「教員の負担減のため部活動を学校から切り離せ」といった持論を展開する。賛否が分かれるだろうが、現実を冷静に見つめた上での提言だけにうなずけるものがある。
| 絲的メイソウ | |
![]() | 絲山 秋子 講談社 2006-07-22 売り上げランキング : 27717 おすすめ平均 ![]() いとやまさんのぶつぶつの日常Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『沖で待つ』で芥川賞を受賞した作家の初エッセー集。カラオケを誘う人は「うまい話があるんだよ」といった顔をしており、それは「歌は善」との思想に基づくのではないかと見る。愛煙家なので、長時間禁煙を強いられる海外旅行は「殆(ほとん)ど諦(あきら)めている」。可能性があるとすれば「飛行機を買う」こと。ひのき風呂付き、ベッドあり、機内誌は自著と想像は膨らむ。でも「快適すぎてひきこもりそうでこわい」。ストレートな物言いに時折加わるユーモアが楽しい。
| サザエさんの“昭和” | |
![]() | 鶴見 俊輔 齋藤 愼爾 柏書房 2006-07 売り上げランキング : 3163 おすすめ平均 ![]() サザエさんの大衆性に対する意見集Amazonで詳しく見る by G-Tools |
敗戦後まもない一九四六年に新聞連載が始まった、長谷川町子の「サザエさん」。本書は「私たちの心の裏側に、一つの風景となってはりついている」(草森紳一)このマンガについて書かれたエッセーを集めた。サザエさんの性生活についての考察から日本の「家」の権威主義という問題に踏み込む寺山修司の著名な論考。「家庭の幸福」のあり方という視点から「サザエさん」の笑いの構造に迫る新藤謙。国民的マンガを鏡にして、戦後の昭和の姿が浮かび上がる。
| 円谷一―ウルトラQと“テレビ映画”の時代 | |
![]() | 白石 雅彦 双葉社 2006-07 売り上げランキング : 20433 おすすめ平均 ![]() 貴重な1冊Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今年は「ウルトラQ」「ウルトラマン」の放送開始から四十年。現在も多くのファンを持つこの番組にはあまたの記録があるが、まだあまり語られていない人物がいた。このシリーズを生み、特撮の神様ともいわれた円谷英二の長男、一(はじめ)。現在のTBSのドラマ制作で業績を上げ、円谷プロダクションの代表取締役に就任。「帰ってきたウルトラマン」などで円谷プロを立て直し、一九七三年、四十一歳で急逝した。本書はこの人物に迫った評伝だ。
「強烈な個性の人ではないけれど、いつも人の輪の中心にいて、人の良い部分を引き出せた人」と円谷一の印象を語る。資料が少なく調査は困難だったが、「一さんのことなら」と著名監督や放送界の大物も快く思い出話をしてくれたという。その話から浮かぶ人徳に、映像の制作現場で働いたことのある自身も「この人と仕事をしてみたかった」と感じたという。
円谷一の人生には「運命としかいいようがない」巡り合わせがあるという。幼いころはバイオリンを学び、父の仕事を継ごうとしていた様子はない。TBSでは「煙の王様」で芸術祭賞を受賞するなどドラマの演出家として順調な足跡。父の死がなければ放送局で大成したかもしれない。しかし円谷プロへ転身後、旺盛な仕事と「呑みニュケーション」で体調を崩す。
取材を進めるうち、円谷一がテレビ発達史の重要な位置にいたことにも気付いた。テレビ初期は、ドラマはスタジオから生放送された。そこから、外部のプロダクションがフィルムで撮る「テレビ映画」へと移行するが、一は「この二つの映像文化がクロスするところの中心にいた」。本書は、この時代の放送界を記録した「テレビ映画史」でもある。テレビには、まだ未検証の部分がある。「知られざるテレビを、これからもっと書いていきたい」。
(しらいし・まさひこ)61年秋田県生まれ。専門学校卒業後、映画の制作現場へ。脚本も手掛ける。編著書に『平成ゴジラ大全』など。
| 現代短歌の鑑賞事典 | |
![]() | 馬場 あき子 東京堂出版 2006-08 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
多彩な個性・語彙(ごい)・文体を持つ歌人百四十八人の作品を収めた『現代短歌の鑑賞事典』(東京堂出版)が刊行された。魅力ある一首の鑑賞、簡潔な歌人論、三十首の秀歌選で構成。木俣修、斎藤史、近藤芳美、塚本邦雄、寺山修司、春日井建、道浦母都子、穂村弘、俵万智ら幅広い世代の作品を収めている。監修は歌人の馬場あき子氏。栗木京子氏、小島ゆかり氏ら女性歌人九人が編集した。
| 苗字と地名の由来事典 | |
![]() | 丹羽 基二 新人物往来社 2006-08 売り上げランキング : 3983 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
苗字(みょうじ)と地名のかかわりなどについての長年にわたる調査結果を基に著した『苗字と地名の由来事典』が、新人物往来社から刊行された。日本には約三十万種類の苗字があり、そのうち九割は地名としても存在するという。本書では、特徴的な三百の苗字と地名の由来を平易に解説している。著者は、苗字の研究を三十年間続けてきた丹羽基二氏。






村上氏の正体とは…テレビのイメージと現実
聞きかじった断片的な情報を羅列して無理して村上叩きをやっている本

























