メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年9月17日~9月24日

感染症列島
感染症列島日本経済新聞科学技術部

日本経済新聞社 2006-07
売り上げランキング : 48001

おすすめ平均 star
star感染症の基礎知識が網羅されている

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新型インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、西ナイル熱など、現代の日本では感染症が脅威となっている。ペットブームや循環式浴槽がもたらした感染症の実態、結核を撲滅できない理由など、科学記者が豊富な取材を基に感染症の実態を明らかにした。取りうる対策もわかる。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

算法少女
算法少女遠藤 寛子

筑摩書房 2006-08
売り上げランキング : 1896

おすすめ平均 star
star江戸中期の町人文化と算法のおもしろさを満喫

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「算法少女」は、医師が娘の手伝いを受けつつ書いたとみられる和算書。明治維新前の日本で女性がかかわった唯一の数学の本といわれる。史実を交えながら、著者はこの本の成立を巡る物語を同名小説として執筆。医師の父に手ほどきを受けた算法好きの少女が活躍する。楽しみながら和算を知る格好の入門書だ。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

アメリカよ、美しく年をとれ
アメリカよ、美しく年をとれ猿谷 要

岩波書店 2006-08
売り上げランキング : 2960

おすすめ平均 star
starアメリカはこれ以上失望させないでほしい
star「私の履歴書」風
star老アメリカ史家,渾身の一冊!

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歴史家として半世紀以上も米国とつきあってきた著者が今、「老醜をさらすな」と叫ぶ。若き学者として訪れた米国は、自由で思いやりにあふれていた。その同じ国が強大な軍事力を背景に「大米帝国」の道を歩む。自分をはぐくんでくれた国への愛情と、将来への不安が書かせた一冊だ。友との交遊を振り返り、なぜ米国が嫌われるようになったのかを考える。そして「軍事力より文化力を」と訴えている。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

トカゲの脳と意地悪な市場
トカゲの脳と意地悪な市場テリー バーナム Terry Burnham 柳沢 逸司

晃洋書房 2006-08
売り上げランキング : 996

おすすめ平均 star
star新ネタ少ない

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トカゲの脳とは、人間の頭に潜む原初の脳の働きをいう。食べ物を探し、住み家を見つけ、子孫を残す役目を果たす。その脳は直近の歴史を過信するきらいがある――。

株式に投資したことのある人なら、本書のこんな書き出しにピンと来るだろう。長く続く上げ相場は投資家を過度の楽観に浸らせる一方で、相場の低迷が長期化すると極端な悲観がまん延する。

従来の効率的市場仮説には、株価は常に正しいという前提がある。トカゲの脳が投資家を支配しているとすれば、こうした仮説は現実離れしていることになる。

本書は四部で構成される。第一部ではトカゲの脳を基に「新しい不合理の科学」を唱え、第二部で「古いマクロ経済学」から米経済をスケッチする。第三部では債券、株式、不動産投資に「不合理の科学の応用」を試みる。第四部は、いかに「不合理の科学から利益を得る」かである。

事例先行の投資指南書のようにも見えるが、不合理な行動を丹念に解析し、収益機会を求めようとする姿勢は至ってまじめである。日本語版の「はしがき」には、「手も足も出ないほど徹底的に打ちのめされたときが、買いの最良の時期」とある。

確かに、外国人投資家は最悪期に日本株を大量に購入した。当時、外資ハゲタカ論を唱え、いままた格差を言い募る識者を尻目に、トカゲの脳を知る投資家はトカゲのように俊敏だ。柳沢逸司訳。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

地震の揺れを科学する―みえてきた強震動の姿
地震の揺れを科学する―みえてきた強震動の姿山中 浩明 岩田 知孝 佐藤 俊明

東京大学出版会 2006-07
売り上げランキング : 9409

おすすめ平均 star
star地震の「揺れ」についての入門書

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地震についての一般向けの本は多いが、多くは地震の原因や起こりやすい場所、あるいは家具の転倒防止や避難の心得といった被害を減らすノウハウについて書かれたものだ。この本のように、震災の直接の原因となる「地面の揺れ」について真正面から取り上げたものは少ない。

揺れの大きさは一般に、地震の規模と、震源からの距離によって決まるとされるが、実際は単純ではない。阪神大震災では、建物倒壊の被害が特に大きい地域が細長く広がる「震災の帯」が確認された。この一帯の地面だけが特に強く揺れたことを意味する。

また、将来予想される東海地震や東南海・南海地震といった巨大地震では、関東平野や濃尾平野のような人口集積地で、沖積平野という地下構造の影響で、地震波の振幅が大きくなり、地震に強いとされる超高層ビルが大きく揺れることも懸念されている。

震源で断層がどれほどの規模でずれ、地震波がどのような経路をたどって住宅地などに到達するのか。さらに建物がどんな地盤の上に乗っているのか――。様々な要素が複雑にからみ、揺れ方が変わってくる。そうした研究の最近の成果を幅広く取り上げ、大学や建設会社の専門家が、数式などは使わず平易な解説を試みている。

大地震を迎え撃つためには相手をより詳しく知っておくのが重要だ。一般の人々にとっても「敵」の姿をイメージするのに役立つ本だ。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ありふれた魔法
ありふれた魔法盛田 隆二

光文社 2006-09-21
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恋愛小説の名手による書き下ろし長編。中年男性が部下の女性と「人生を狂わすほどの恋」に落ちていくというストーリーはそれほど珍しいものではない。しかし、登場人物たちの精緻(せいち)な造形と、「盛田節」とでもいうべき抑制された筆致によって、理性を超える恋愛の不可思議をリアルに描ききっている。

城南銀行五反田支店次長の秋野智之は四十四歳。年上の妻と三人の子どもと暮らしている。部下でひと回り以上年下の森村茜が顧客に謝罪するときに同行したのがきっかけで、いっしょに食事をするようになる。茜が抱えていた同僚からのストーカー問題を智之が解決したこともあって、二人は急速に親しくなる。

しかし、取引先の逆恨みによって、二人の関係は家族や職場に知られてしまう。妻との不和、そして転勤の辞令。自らの恋愛によって、それまで比較的順調だった智之の人生に狂いが生じる。「自業自得」ともとられそうな智之の人生だが、むしろ共感を覚えるのは、彼が自らの責任から逃げない魅力的な人間として表現されているからだろう。

恋愛小説はともすればおとぎ話めいたものになりがちだが、本書では銀行という職場の実態や家庭での親子関係が丁寧に書かれているため、地に足がついている印象が強い。インターネットを通じて仲間が交流するソーシャル・ネットワーキング・サービスの世界をいち早く物語に登場させているのも興味深い。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

最後の夏 1991
最後の夏 1991小林 紀晴

バジリコ 2006-08-12
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著者は1995年、アジア諸国で出会った日本人の若者の姿と心に写真と文章で迫る『アジアン・ジャパニーズ』で脚光を浴びた写真家。本書は91年、著者がアジアの旅に出る直前に撮影した私家版写真集を再編集し、新たにエッセーを収録した。人影まばらなプラットホーム、誰もいないバスの車内。バブル時代の狂騒になじめず、それとは離れた視点で社会を見つめようとした著者の原点が浮かび上がる。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

中国の統治能力―政治・経済・外交の相互連関分析
中国の統治能力―政治・経済・外交の相互連関分析国分 良成

慶應義塾大学出版会 2006-08
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大国化の道をひた走る中国だが大規模な騒乱が頻発し、共産党政権の統治能力の低下が問題視されている。本書は政治、経済、外交の計二十六人の専門家を動員し、この問題についての検証を行っている。結論は、中国の統治能力はまだ危機的状況にはないが、矛盾も急拡大しつつある。政治・経済体制の抜本的改革が必要だが、それは共産党政権の将来を危うくしかねないという深刻なジレンマに陥っている。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

捕鯨問題の歴史社会学―近現代日本におけるクジラと人間
捕鯨問題の歴史社会学―近現代日本におけるクジラと人間渡邊 洋之

東信堂 2006-09
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捕鯨問題が国家間の対立を呼んで久しい。その中で、捕鯨禁止を欧米による日本への文化的押しつけとのみ考える前に、クジラと人間とのかかわりを歴史的に見ていく必要があることを説いたのが本書だ。近代以前は日本で鯨肉を食べる習慣は局地的な現象にすぎず、十九世紀末のノルウェー式捕鯨技術の導入後、捕鯨業が一大産業に成長し、全国に広まったのだという。乱獲による生態系の破壊などの視点も提示し、日本人も客観的に考えるべきだと教えてくれる。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

農!黄金のスモールビジネス
農!黄金のスモールビジネス杉山 経昌

築地書館 2006-09-13
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おすすめ平均 star
star個人が自由にクリエイティブに生きるための新しいモデル?
star前作“農で起業する”の詳細版です

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「農は宝の山」。バブル期に外資系メーカーの営業統括本部長を辞め、果樹農家に転じた著者はそう強調する。「農業経営」といえば大規模化による効率向上の必要性がもっぱら叫ばれているが、本書の見方は逆。生産性、収益性の悪い作物は思い切ってやめて、規模を縮小することを勧める。さらに「経営管理」と「マーケティング」が重要と説く。農業を有望なビジネスとしてとらえ、その成功モデルを提言している点がユニークだ。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

心の調べ
心の調べ宮城 道雄

河出書房新社 2006-08-25
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今年没後五十年になる、日本を代表する箏曲家のエッセーを再編集した。幼いころに視力を失った日々の暮らし、後に影響を受けた西洋音楽との親しみ、内田百閒ら文化人との交流などがつづられる。目の見えない中で耳を澄ませる生活の豊かさが立ち上る。日常の物音すべてに音楽を感じ、人の足音や声で人物や人柄をも聞き分ける。彫刻や絵画まで手で触れることで出来を感じ取る。「今はもう眼が明きたくない」という言葉も、説得力を持つ。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

伊藤元重のマーケティング・エコノミクス
伊藤元重のマーケティング・エコノミクス伊藤 元重

日本経済新聞社 2006-07
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おすすめ平均 star
star小売流通業界の「今」を把握できる

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消費の様々な場面で今、実際に起きていることを題材に、背後にどのような論理がひそんでいるのか、経済学の発想で切ってみた場合、消費者の行動や、企業の戦略にはどのような意味や意思を読み取ることができるのか――などをテレビのコメンテーターとしても知られる学者が解説した。新聞連載がベースになっているため、掘り下げ方には物足りなさも残るが、テーマは広範で、記述もこなれていて読みやすい。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

一枚のディスクに―レコード・プロデューサーの仕事
一枚のディスクに―レコード・プロデューサーの仕事井阪 紘

春秋社 2006-08
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欧米で最も有名なクラシック音楽の日本人プロデューサーの一人。CDではなくレコードの制作にこだわり、世界中の音楽家に信頼されて、数々の名作を世に送り出してきた。

本書では、普段は日の当たらないプロデューサーの仕事ぶりを紹介。「一枚のレコードにどれだけの苦労と情熱が込められているかを知ってほしい」と語る。

無限の音を封じ込めるレコードによる録音は、記録ではなく芸術と言い切る。「ある時代の最高の演奏を切り取り、最良の形に編集して提供するのが使命」

プロデューサーの役割とは、聴衆の代表になることだという。自分の感覚を頼りに確固たる理想の音楽をイメージする。収録中リズムや音程が外れると「僕はこういうふうに聴きたい」と音楽家に伝える。時におだて、激しく論じ合う。求める理想に音楽家が共鳴してくれたとき、初めて最高の演奏が生まれるという。

若手や面識のない音楽家と仕事をする場合は、準備に三、四年を充てる。その間、幾度も本人のコンサートを聴き、酒を飲んで話し合う。「音楽家のあらゆる可能性を引き出すには、その人の癖や、最も良いモノを知っていなければならない」と、努力を惜しまない。

筆を執った理由の一つには、レコードによる録音文化の衰退を憂う気持ちがある。一九八〇年代にCDが普及。音楽ソフトの低価格化が進み、クラシックも薄利多売の戦略で、次々と市場に出された。制作費が削減された影響で、会場にマイクを設置して音を拾い、デジタル技術で雑音をカットするといった粗雑な作りの録音CDが多く出回った。「録音技術のアマチュア化が進んでいる」と嘆く。

「芸術性と市場の評価は一致しない。レコード録音の技術を後世に残すにはどうすれば良いか、考えるべきときにきている」。真剣な問いかけが胸を打つ。(春秋社・二、〇〇〇円)

(いさか・ひろし)1940年和歌山県生まれ。レコード会社勤務を経て78年独立。ランパル、ガッゼローニらと1500枚のレコードを制作。文化庁芸術祭大賞などを受賞。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

女性の服飾文化史―新しい美と機能性を求めて
女性の服飾文化史―新しい美と機能性を求めて日置 久子

西村書店 2006-09
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十八世紀半ばの産業革命から現代まで、女性のファッションがどのように変化してきたかを解説した『女性の服飾文化史』(西村書店)が刊行された。マリー=アントワネット、ヴィクトリア女王らの権力者から、シャネル、ゴルチエ、高田賢三らデザイナーまで、各時代の人々の思想・生き方とのかかわりから服飾を問い直している。著者はファッション・ジャーナリストの日置久子氏。

■2006/09/24, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

異常気象の正体
異常気象の正体J・コックス 東郷 えりか

河出書房新社 2006-06-21
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気候パニック
気候パニックイヴ ルノワール Yves Lenoir 神尾 賢二

緑風出版 2006-03
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歴史に気候を読む
歴史に気候を読む吉野 正敏

学生社 2006-06
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昨年、超大型のハリケーンが米南部を襲うなど、世界各地で気象の異変を疑わせる事態が相次いでいる。今年も欧米では各地で異常な高温を記録。日本では梅雨明けが大幅に遅れ、南九州や長野県などで大雨被害が出た。自然災害の多発で保険会社の支払いが急増しているという報告もある。

誰しも気になるのが、地球温暖化と異常気象との関係だろう。気温が高いと大気や水の循環が活発になり、豪雨や干ばつそれぞれが強烈になるという見方がある。海水温が上がれば台風は大型化しやすい。温暖化に伴って気候の分布パターンが変われば、地域単位では異常気象ということになる。

●気温2℃上昇で…

二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出が増えれば地球が温暖化し、異常気象も増加する、という流れに沿って、将来の地球の姿を赤裸々につづったのが山本良一責任編集『気候変動+2℃』(ダイヤモンド社・二〇〇六年)だ。

本の作りはかなりユニーク。一九五〇年から二一〇〇年までを三年刻みに、過去の気温とコンピューターシミュレーションによる気温上昇の予測を地図上に描き出し、これに伴う異常気象や感染症の増加などを年代記風に記述している。パラパラ漫画のようにページをめくると、最初は緑色の地球が、高温を示す赤色から黄色に染まっていく。温暖化に今ブレーキをかけないと手遅れになる、というメッセージが伝わってくる。

米国の科学ライターの手になるジョン・D・コックス『異常気象の正体』(東郷えりか訳、河出書房新社・二〇〇六年)は、近年注目されている「急激な気候変動」についての研究を追った著作。地球は氷河期と間氷期が交互に訪れているが、その移行期はゆっくりと気候が変わるわけではなく、温暖化あるいは寒冷化を繰り返すことが、南極の氷などから得られた古気候データから分かってきた。

その変動サイクルは数年単位の小刻みなものもあり、気候は極めて不安定な状態が続く。もしも今が人為的な温暖化の時代に入りつつあるとすれば、今後一本調子に気温が上がるのではなく、ジェットコースターのような変動を繰り返すことにもなるのだろうか。そんな不吉な気持ちを抱かせる。

やや異なる視点から異常気象を説明しようというのが、フランスの気候学者による、イヴ・ルノワール『気候パニック』(神尾賢二訳、緑風出版・二〇〇六年)だ。気候や気象は太陽エネルギーの変化やその未解明の増幅作用、大気や海洋など様々な条件が複雑に絡み合った結果であるとし、原因を温暖化だけに求めようとする議論は排している。温暖化予測の根拠となっている数値モデルの精度についても懐疑的な見方を示す。

●社会への影響も

人間の経済活動の影響のない昔から、気候変動や異常気象はいくらでも存在していたわけで、気象の異変と感じられることが、自然変動の範囲内かどうかを見極めるのは難しい。人間は何に付け原因を求めたがるものであり、今は異常気象が地球温暖化に結びつけて語られがちだ。だが著者によれば、異常気象の根本対策という目的で、温暖化ガスの削減だけにまい進するのは的はずれの対応ということになる。

過去、気候の変動が社会に様々な影響を与えてきた。吉野正敏『歴史に気候を読む』(学生社・二〇〇六年)は、中世の寒冷期にバイキングの活動が衰退したことなど、古代からの国内外の例を引きながら、気候や気象が歴史を変えてきた興味深い物語を紹介している。

こうした視点は、今後を考える上でも重要だ。異常気象の多発や気候のシフトは、自然災害の増加に加え、干ばつによる食糧の供給不安や、暑い地域が広がることによる感染症の増加など様々な問題をもたらす。地球温暖化との関係については今後さらに解明が進むだろうが、そうした成果を待ついとまもなく、予想以上のペースで迫る気象パニックへの対応を迫られることになるかもしれない。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

成長への賭け(上)
成長への賭け(上)アンドリュー・キャンベル ロバート・パーク 鈴木 立哉

ファーストプレス 2006-07-14
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おすすめ平均 star
star本業に資する新規事業を求めて

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成長への賭け(下)
成長への賭け(下)アンドリュー・キャンベル ロバート・パーク 鈴木 立哉

ファーストプレス 2006-07-14
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おすすめ平均 star
star主張の裏づけに若干の心残りアリ

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企業の経営者は、どのような選択基準で新規事業の候補をふるいにかけるべきか。それが本書の主要なテーマだ。書名に「賭け」(gamble)とあるように、著者は新規事業の成功確率は一般に低いとみる。本業で成功した米国のインテルやマクドナルドも挫折を繰り返した。そこで失敗を未然に防止するために、トラフィック・ライト(交通信号)と呼ぶ審査基準を提案している。

著者は新規事業候補の評価軸として、(1)競合他社などと比較した優位性(2)新市場の収益性(3)競合他社と比較したリーダーや親会社の優劣(4)既存事業に与える影響――の四つを挙げる。

それぞれを詳細に分析し、評価がプラスなら「青」、中立か不確実なら「黄」、マイナスなら「赤」と判定し、赤が皆無で青が一つでもあれば新規事業を進めてもよいと指摘する。米ヒューレット・パッカードがパーソナル・コンピューター事業に参入したときは、三つの青信号がともっていたという。しかし、赤が一つでもあれば中止しなければならない。

実際に新規事業を検討中の経営者が読めば、かなり厳しい基準に思えるだろう。しかし、人材確保などが不十分なままで新規事業に乗り出し、結局は撤退に追い込まれて、「本業の強化に経営資源や時間を費やすべきだった」と後悔した経営者も多いのではないか。著者の「事業機会を探すよりも、人材探しからスタートした方がよい場合も多い」といった主張にも説得力がある。社内ベンチャー方式についてもタイプ別に詳述しているが、評価はおおむね辛口だ。

信号方式で新規事業候補を審査し、結果が思わしくなかったらどうすべきか。著者は用意した資金を自社株買いか増配に当てるべきだという。経営者は成長への熱狂に取りつかれるのではなく、冷静に判断すべきだと説き、「リアリズムの時代」がやってくると予言している。

日本の大企業の多くはバブル崩壊後、新規事業の整理に追われてきた。「選択と集中」が合言葉になった現象がそれを示している。自社の経験に照らしながら本書を読めば、今後の事業展開に役立つのではないか。【評 編集委員 塩田宏之】

(鈴木立哉訳、ファーストプレス・各一、八〇〇円)▼A・キャンベル氏はコンサルティング業務のほか、ロンドンのシティ・ユニバーシティ客員教授。R・パーク氏は銀行勤務を経てコンサルタントとして独立。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

YS-11世界を翔けた日本の翼
YS-11世界を翔けた日本の翼中村 浩美

祥伝社 2006-08
売り上げランキング : 4777

おすすめ平均 star
starまた違った切り口の一冊

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今月三十日で日本の定期路線から姿を消す日本初の国産旅客機、YS―11。「サラブレッドの容貌を持った農耕馬」といわれたこの名機の歴史、技術や構造の特徴、引退の事情などをコンパクトにまとめた。時折差し挟まれる、長く航空業界を取材した著者ならではの思い出話も読ませる。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

体の記憶
体の記憶布施 英利

光文社 2006-07-05
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おすすめ平均 star
star

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東京芸大ではデッサン実習で体を外から、東大解剖学教室では体の中を観察し研究した著者の、体に関する論考は、地に足がついている。三十数億年の人類進化史の中で体の様々な部位に宿る記憶を手繰り、「乳房はどう動くか」「死体はモノか」「うんちとは何か」などの視点で体を巡る謎解きの旅に出る。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

入門 医療経済学―「いのち」と効率の両立を求めて
入門 医療経済学―「いのち」と効率の両立を求めて真野 俊樹

中央公論新社 2006-06
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おすすめ平均 star
star医療に関係する経済学
star最新のデータで読みやすい
star良く纏まっています

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名医であっても新米の医師でも診察費用が変わらない医療の世界――。一見、この世界は経済原則と無縁のようにみえるが、実はそんなことはない。他のさまざまな市場と同じく、経済学的な分析が可能だと著者はいう。医師の資格を持つ異色の経営学者の手になる本書は、それぞれの視点をうまく生かしながら、最新の医療制度改革のトピックスを理解するうえで必要な経済学の基礎知識を丁寧に解説している。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

アジア主義を問いなおす
アジア主義を問いなおす井上 寿一

筑摩書房 2006-08
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おすすめ平均 star
star「アジア主義」という「親米」

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前書きにあるように、本書は「一九三〇年代のアジア主義の歴史的経験に学びながら、これからの日本とアジアとの外交関係を考える」ことを目的としている。

日中戦争が本格化したこの時代に、実は日本では官民各界で様々なアジア主義が芽生えていた。近衛内閣の有力ブレーンだった蝋山政道は「東亜共同体論」において「開放的地域主義」を唱え、日中提携と対米協調の双方をめざしていた。

近年の東アジア共同体論議にも通用する革新的な構想だったが、軍部主導で進んだ日中戦争の泥沼化や対米開戦によってもろくも瓦解し、戦後は忘れ去られた。

著者は中韓との政治関係が悪化する一方で、経済交流が急拡大する現状と、「一九三〇年代の雰囲気が酷似している」点に注目し、歴史の中に日本外交の教訓、手掛かりを求めようとしている。

著者が指摘する教訓は、蝋山ら一部を除き、日本の大勢が中国のナショナリズムを軽視し、蒋介石政権との和平、和解に失敗したことにある。しかも日本と蒋介石の仲介をめざした汪兆銘に過酷な要求を重ね、傀儡(かいらい)政権としか扱わなかった。

隣国と敵対する一方、米英をも敵に回して東アジアで完全に孤立した。同じ失敗を繰り返さないためにも、日本は中韓とも協力して東アジア共同体の形成に努めると同時に、米国との協調関係を維持すべきだと提言している。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

債権回収最前線
債権回収最前線中川 剛毅

中央公論新社 2006-08
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不良債権問題が峠を越え、不良債権回収を目的にする整理回収機構(RCC)が話題になることも少なくなった。だが今年はRCCが発足してちょうど十年。RCCを舞台にして債権者と債務者が繰り広げる人間くさい物語を取り上げ、現場からのルポとしてまとめたのが本書だ。

著者は、大手新聞社のベテラン記者からRCCの広報顧問に転じ、債権回収の現場をつぶさに見てきた。本書は、現場に密着しなければ得られないようなエピソード十一話で構成されており、いずれもスラスラと読める仕上がりになっている。

例えば、若い女性が五千万円ほどの借金を半分に減らしてくれとRCCに頼み込んでくる話。RCCの担当者がその女性から手紙を受け取り、心を打たれ、希望にこたえようと奮闘するシーンが臨場感をもって描かれる。RCCが警察官も動員して、暴力団関係者が占有するビルを一掃する話なども生々しい。

著者がRCC関係者であるだけに、個々のエピソードはすべて「現場ではこんなに頑張っている」というトーンで書かれている。現実には、RCCの初代社長が強引な債権回収の責任を取って、弁護士廃業を表明したケースが象徴するように、きれい事ばかりでは済まされない。

それを割り引いても本書の価値は損なわれないだろう。本書を読むと、借金を巡る人間ドラマは時に感動をもたらすことがわかる。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

摩天楼とアメリカの欲望
摩天楼とアメリカの欲望トーマス・ファン レーウェン Thomas van Leeuwen 三宅 理一

工作舎 2006-09
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十九世紀末から二十世紀初頭にかけ次々と建設された米国の超高層ビル、摩天楼は富と権力の象徴であり、もっとも米国的ともいえる存在だ。にもかかわらず、建築史において「実務的建築家」が生み出した「そこそこの容(い)れ物」として扱われてきたと著者はいう。本書は、オランダの建築史家が摩天楼に魅入られた人々と米国社会の欲望のありかを描く摩天楼の精神史だ。

高さは成功の価値を示す。「商業の大聖堂」ウールワース・ビルを建てた小売り王ウールワース。彼は心酔するナポレオンの「人間は自ら残したモニュメントによって偉大となる」という言葉に忠実だった。新聞王ピュリッツァーらが高さ競争を繰り広げた新聞社ビルは公共性や規範性という価値を体現した。

著者はこうした世俗的な欲望の背後にある神話的な構造を掘り下げる。高層の建築物は神の警告を無視して築き上げたバベルの塔になぞらえられる。ゴシック様式の尖塔(せんとう)はそれ自体宗教的モチーフだ。「歴史がない」米国で高層建築で都市の秩序が形作られる様は、いわば近代の宇宙創造という。世界の覇権を競い始めた当時の米国のアナロジーを見いだすことも可能だ。

宗教学、歴史学から果ては進化論まで博覧強記を誇る著者だけに、ついて行くのに難渋する部分がある。ただ、絵はがきなど著者が収集した図版が多数収録されており、理解を助ける。三宅理一、木下壽子訳。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

アレクサンドリアの風
アレクサンドリアの風池澤 夏樹

岩波書店 2006-07
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フォースター、ダレル、カヴァフィス……。近代欧州の小説家、詩人たちが描いた国際都市アレクサンドリアの風景に欠けていて、この写真集に存在するものは何か。それは「エジプト人」だと池澤夏樹は言う。街角で祈りをささげ、談笑する人々の飾らない姿。アレクサンドリアの今を写し出す一枚一枚の裏側に、かつて西洋の芸術家が抱いたいささか身勝手な幻想=オリエンタリズムが浮き上がってくる。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

チェーホフ・ユモレスカ
チェーホフ・ユモレスカアントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ 松下 裕

新潮社 2006-07-28
売り上げランキング : 8249


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チェーホフを楽しむために
チェーホフを楽しむために阿刀田 高

新潮社 2006-07-28
売り上げランキング : 155650

おすすめ平均 star
starはっきり言います、駄作!

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短編小説「犬を連れた奥さん」や戯曲「桜の園」で知られるロシアの文豪チェーホフ(一八六〇―一九〇四年)。没後百年を迎えた二年前から再び注目を集めており、今年に入ってもショートショート集や解説本が続いている。

『チェーホフ・ユモレスカ』(松下裕訳、新潮社)は、劇場の片隅に居座る名物男の悲喜劇を描いた「男爵」など超短編六十四編を収める。初めて日本語に訳されたのが十五編。「額。その機能――物乞いするときには床に打ちつけ、それが充されないときには壁に打ちつける。非常にしばしば銭金に反応する」(「簡約人体解剖学」)など風刺の利いた小品が多い。

松下氏は訳者解題で、こうした小品にこそ作家の批判精神が表れていると指摘している。「チェーホフは社会的、政治的に直接的な反逆の叫びをあげない。酷薄な現実や考えをずばり描写するだけで効果をあげる」

作家の阿刀田高氏による入門書が『チェーホフを楽しむために』(新潮社)。代表作の一つ「かわいい女」を、新人のころに書いた「謎の性格」と比べて、「短編小説を発想する方法においては二つは非常によく似ているのだ。あえて言えば、自分の幸と不幸を結婚相手の立場や属性に委ねて生きる女を、すこぶるわかり易い形で呈示していること、(略)などが共通している」と作家らしい視点で作品を読み解いている。

阿刀田氏は八月末に開かれたイベントで、「それまでのロシアでは文学者は人生を教えてくれる人というイメージがあったが、チェーホフは人生をありのままにスケッチすることを重視した。にび色の作品が多いが、必ずほんの少しの明るさがあり、それはロシア革命を予見していたのかなとも思う」などと語った。

「江古田文学」(日本大学芸術学部・江古田文学会)最新号は、特集「チェーホフの現在(いま)」を組んでいる。その中で文芸評論家の清水正氏は「チェーホフ的とは何かというと、激しくないということです。日常的なありふれた中で、人間の狂気とかいろんなものを描き出している」と語っている。先行きが不透明な現在だからこそ、冷静な視線で社会を眺めたチェーホフの作品に注目が集まっているのかもしれない。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ヨーロッパの東方拡大
ヨーロッパの東方拡大羽場 久美子

岩波書店 2006-06
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冷戦後から今日に至るまで、欧州連合(EU)は東方に向かって拡大し続けている。多様性や異質性を内包しながらも拡大を続けるEUの求心力の源泉はどこにあるのか――。それを探ったのが本書である。執筆メンバーの関係で制度や社会システムなどに比べ、経済に関する記述が少ないのが難点だが、新たに加盟した国、加盟を予定している国ごとの事情まで丹念に追っている。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ベーシック 環境問題入門
ベーシック 環境問題入門小林 辰男 青木 慎一

日本経済新聞社 2006-07
売り上げランキング : 8866


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地球温暖化やオフィスの省エネ、あるいは身近なレジ袋の問題――。環境問題のその間口は極めて広い。かつての公害問題とは異なり「被害者」と「加害者」も複雑に絡み合い、底流を流れる経済の論理も無視できない。環境問題を取材してきた日本経済新聞のベテラン記者が、歴史的・国際的視点を踏まえ、豊富な現場のエピソードを交えながら、環境問題を手ほどきする。一読すれば問題の広がりが実感できる。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

圓楽 芸談 しゃれ噺
圓楽 芸談 しゃれ噺三遊亭 圓楽

白夜書房 2006-07
売り上げランキング : 177418


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今年五月に「笑点」を卒業した落語家の初の自叙伝。「五十年は食えませんよ」と師匠の六代目円生に言われ、「三十歳までに真打ちになれなかったらやめる」と約束。見事、二十九歳で真打ち昇進を果たす修業の日々、昇進をめぐるライバル談志、志ん朝とのエピソードが思い入れたっぷりに語られる。一九七八年の「落語協会脱退」のてんまつは師弟のきずなが伝わり感動的。「落語は私の命」もまた師から受け継いだ真情だ。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

見えない震災―建築・都市の強度とデザイン
見えない震災―建築・都市の強度とデザイン五十嵐 太郎

みすず書房 2006-09
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耐震強度偽装事件を受け、危ないとされた物件の住民に自治体が自主的な退去を求めた。これは実際に震災が起きていないのに、同じ結果をもたらす「見えない震災」だと編者はいう。こうした法律違反とは別に、現在の耐震設計基準を満たさない物件は住宅総数の四分の一とされるが、すべてを建て替えるのは現実的ではない。本書は建築関連の各分野の専門家が、耐震改修のあり方や災害に強い街づくりについて論考し、持続可能な都市・建築のあり方を探っている。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

宝石泥棒の告白―怪盗メイソン
宝石泥棒の告白―怪盗メイソンビル メイソン リー グルエンフェルド Bill Mason

集英社 2006-07
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三十年間で四十億円もの宝石類を盗んだ米国のすご腕泥棒、ビル・メイソンが、自らの過去を明らかにした。メイソンが窃盗を続けたのは、スリルと陶酔感からだと告白。マフィアのボスの家に金庫破りに入った時には、幸運にも鍵がかかっていなかった。俳優、ワイズミューラー宅から盗んだのが、水泳選手時代に手にした五輪の金メダルだと知った時には、この上なく後悔したという。犯罪を巡る心の機微の描写が鮮烈だ。共著者は米国の作家。田村明子訳。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

甲子園怪物列伝
甲子園怪物列伝小関 順二

草思社 2006-08
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おすすめ平均 star
starソレナリに懐かしいダイジェスト。

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ノートとペンとストップウオッチを持って全国を飛び回る。取材対象はアマチュア野球選手。昨年はプロ十四試合、アマ二百五十九試合を観戦した。「いい選手を見つけると気持ちがいい」。炎天下の球場回りで日焼けした顔がほころぶ。

プロ野球やドラフトに関する著書はあったが、高校野球を正面から取り上げたのは本書が初めて。太田幸司、江川卓、原辰徳、荒木大輔、桑田真澄、清原和博、松井秀喜、松坂大輔……。高校球児として、この四十年の甲子園球場を沸かせた選手を紹介した。

「高校野球はあらゆる野球選手にとって原点ともいうべき場所」「高校時代の三年間は完結された小宇宙」。中でも、球児のあこがれ、甲子園球場は“女神”もいれば、“魔物”も住む。取材する者にとっても「特別な場所。気持ちが厳粛になる」と言う。

野球部には入らなかったが「子供のころから野球が一番好きだった」。大学卒業後は仕事の傍ら、週末を利用して有望なアマ選手を追いかけた。一九八八年には趣味が高じ、仲間と「ドラフト会議倶楽部」を創設。ファンによる模擬ドラフトを開催して注目を集めた。

五年前、フリーのライターに転身した。「選手を見る目はプロ球団のスカウトと同じ。下手な選手には興味がない。いずれプロに行く選手は何億円も稼ぐ可能性があるのだから、高校生といえども権力者。厳しい目で見るのは当然」と言い切る。本書にも高校球界への苦言や、プロで伸び悩む甲子園の元スターへの直言がちりばめられている。

今夏、久しぶりに日本中の目が甲子園に集まった。早実の斎藤佑樹投手は大学進学を表明し、駒大苫小牧の田中将大投手は二十五日の高校生ドラフトを待つ。「二人は違う人生を歩み始めたが、いずれプロでつながるはず」。新たな「怪物列伝」が待たれる。(草思社・一、四〇〇円)

(こせき・じゅんじ)1952年神奈川県生まれ。日大芸術学部卒。出版社勤務などを経て、スポーツライターに。著書に『プロ野球のサムライたち』『野球力』など。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

日本古典への誘い100選〈1〉
日本古典への誘い100選〈1〉諏訪 春雄 芳賀 徹 山折 哲雄 小松 和彦

東京書籍 2006-09
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文学だけでなく、歴史書、宗教書、芸術書も取り上げた古典作品の案内書「日本古典への誘(いざな)い100選」(全二巻、東京書籍)の刊行が始まった。既刊の第一巻では、古事記、南総里見八犬伝、心中天の網島、往生要集、五輪書など五十作品を取り上げ、作品解説、現代語訳、多様な視点のコラム「学際の窓」で構成する。諏訪春雄・学習院大名誉教授ら四人が監修した。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

公共哲学〈19〉健康・医療から考える公共性
公共哲学〈19〉健康・医療から考える公共性市野川 容孝 金 泰昌

東京大学出版会 2006-07
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政治、経済や社会現象を公共性という観点から論考する「公共哲学」(全二十巻、東京大学出版会)が鈴村興太郎ほか編『世代間関係から考える公共性』の刊行で完結した。二〇〇一年の刊行開始当初は一般的ではなかったが、各界の不祥事や地方分権の進展などのテーマが浮上するにつれ注目され、各大学で科目の新設などが相次いだという。三千二百円から四千七百円。

■2006/09/17, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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