メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年8月6日~8月13日

都心回帰の経済学―集積の利益の実証分析
都心回帰の経済学―集積の利益の実証分析八田 達夫

日本経済新聞社 2006-06-01
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大都市都心部では様々な規制緩和が実施され、オフィスビルやマンションの建設が盛んになってきた。特に最近の東京都心部の変貌(へんぼう)は目を見張るばかりである。一九七〇年代初頭に国土の均衡ある発展を旗印に実施されてきた地方重視の国土開発から、二〇〇〇年以降、東京を中心とした大都市圏重視の国土開発へ回帰がはじまろうとしている。このような中、本書は大都市への集中促進政策を実施することが経済再生に重要であるということを論じ、それを基礎付けした書である。

本書は、大きく三つの側面からなっている。まず第一は、都心部集積の効果と「国土の均衡ある発展政策」の誤りの指摘である(第1章、第2章)。第二は、大都市都心部回帰に伴う交通問題や交通インフラ整備についての分析である(第3章、第4章、第5章)。そして第三は、都心部再開発を行うことによるメリット・デメリットの比較である(第6章、第7章)。

こういった一連の分析によって、都心部回帰のメリットが示されている。例えば、本書で得られた結論の一部を紹介すると、(1)東京の生産性が高い要因は、都心部の集積の違いによること(2)「均衡ある国土の発展政策」によって大阪が一番の被害を被ったこと(3)集積の利益を追求するためには、空港や港湾の集中化政策を行う必要があること(4)東京の丸の内・大手町地区において容積率を二倍近く緩和する場合、通勤混雑激化による費用よりも再開発の便益の方が大きいこと、などである。

地方に居住している者にとってはなぜ東京ばかりに集中させる必要があるのかという疑問が当然想起されるだろう。また、本書で取り上げている分析の中にはかなり大胆な代替案の提示――伊丹空港と神戸空港を廃止し、西宮沖に新空港を建設せよというような提案――も見られ、全(すべ)てにおいて同意できるような結論ではないかもしれない。

しかし、編者を含む八人の著者による分析は、副題にあるように、既存のデータをもとに実証モデルを構築し、そこから結論を導くという方法をとっており説得力がある。色々な点で刺激を受ける興味深い書である。ぜひ一読を奨めたい。【評 神戸大学教授 水谷文俊】

▼はった・たつお 43年生まれ。国際基督教大学卒。大阪大学教授などを経て国際基督教大学教授。専門はミクロ経済学、財政学、都市経済学など。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

補給戦―何が勝敗を決定するのか
補給戦―何が勝敗を決定するのかマーチン・ファン クレフェルト Martin van Creveld 佐藤 佐三郎

中央公論新社 2006-05
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star読み応えのある解説
star英語にかなりの自負がない方はこの邦訳を...
star名著の復刊の文庫化+有益な解説文=お買い得

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十六世紀から第二次大戦までの欧州における主要な戦争を、イスラエルの歴史学者が補給の成否という観点から分析する。ナポレオンのロシア遠征や普仏戦争、一九四四年の連合国軍によるノルマンディー上陸作戦などにおいて、後方部隊からの兵員や弾薬、食糧などの円滑な補給こそが勝敗を決める最大の要因だったと論じる。一九八〇年初版の単行本を文庫で復刊した。佐藤佐三郎訳。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

よみがえる芥川龍之介
よみがえる芥川龍之介関口 安義

日本放送出版協会 2006-06
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芥川龍之介は自死したこともあって、厭世(えんせい)的で芸術至上主義者とのイメージが強い。長年芥川を研究してきた著者は、近年見つかった資料も駆使して、「野性の美」へのあこがれなど、新たな作家像を提示する。さらに芥川は社会を鋭く見つめるジャーナリストの側面を持っていたと指摘する。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

無名
無名沢木 耕太郎

幻冬舎 2006-08
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ノンフィクションの名手が自らの「父」を描いた。酒好きでギャンブルで身を持ち崩すが、知性に富み、死の床にあっても達観している。父の句集を作り始める著者が、死の床の父との対話を通し、記憶をたぐり寄せて描くのは、無名のままで死んでいく父の厳粛な生と、そこに対比される著者自身のむき出しの生だ。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

「小泉改革」とは何だったのか―政策イノベーションへの次なる指針
「小泉改革」とは何だったのか―政策イノベーションへの次なる指針上村 敏之 田中 宏樹

日本評論社 2006-06-01
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日本の経済システム改革―「失われた15年」を超えて
日本の経済システム改革―「失われた15年」を超えて鶴 光太郎

日本経済新聞社 2006-07
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star読み応え有りです

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新経済成長戦略
新経済成長戦略経済産業省 経産省=

経済産業調査会 2006-08
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立秋を過ぎたからというわけでもなかろうが、自民党総裁選への国民の熱も冷めてきたようにみえる。現時点で立候補に意欲を示している人々のなかで安倍晋三氏の当確を疑うひとは少ない。これが第一の要因だろう。

しかし、それだけで選挙熱が奪われた理由を説明するのは難しい。企業経営者もまた冷めた眼(め)で選挙戦をみている。これは安倍氏にかぎらず各候補が経済政策、なかでも構造改革の推し進め方をはっきりと語っていないことが一因ではないか。

●まだ芽生えの段階
小泉純一郎首相が五年半の闘いを通じて一つひとつ勝ち取ってきた改革はどれもまだ芽生えの段階だ。これをどんな戦略で太い幹に育て、どんな考え方に基づいて花開かせようとしているのか。改革の深耕役を安倍氏に期待する声は多いが、肝心の点はよくわからない。昨年の郵政選挙で小泉改革を熱烈支持した国民も戸惑いは隠せない。

あたり前だが総裁選に公職選挙法の規定はおよばず、有権者は一票を投じることができない。だからといって次の首相は国民が渇望している改革深化路線に背を向けることはできない。そうすれば政権は短命におわる。小泉改革をどう受け継いでゆくのか、これからのひと月は侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が必要だ。

上村敏之/田中宏樹編著『「小泉改革」とは何だったのか』(日本評論社・二〇〇六年)は、文字どおり五年半の総括を試みた書だ。編著者を代表とする提言集団「政策創見ネット21」の若手研究者らが年金、金融、財政・税制、三位一体――などの分野について現政権が主導した改革の中身を検証し、独自の改革像を示そうとしている。

経済財政諮問会議の司令塔は昨秋の内閣改造で竹中平蔵氏から与謝野馨氏に代わった。与謝野氏を財務省の代弁者と決めつけるような記述はいくぶん気にかかるが、諮問会議の民間議員を常勤にすべきだという提案には、次の首相は耳を傾けるべきだ。ここにきて格差問題と規制改革とを関連づけて論じる傾向が一部で強まっている。小泉改革を総括するなら、これへの反論も読みたかった。

最近、安倍氏は「次の時代は創造的破壊からしっかりした国造りに向けて皆で手をつなぎ協調しなければならない」と述べている。この真意はよくわからないが、改革に軋轢(あつれき)や摩擦は付き物だ。次の指導者がそれを避けたいと考えているのなら、改革の行程表はたちどころに小泉以前に回帰する。

小泉改革の五年半は「失われた十五年」のうしろの三分の一にあたる。ここで検証の起点を再度バブル直後の十五年前に遡(さかのぼ)り、日本の経済と社会がどう変わってきたかを精緻(せいち)に分析しようと試みたのが鶴光太郎著『日本の経済システム改革』(日本経済新聞社・二〇〇六年)だ。

著者はいまや数少ない官庁エコノミストのひとり。経済企画庁から経済協力開発機構(OECD)や日銀金融研究所を経て、経済産業研究所の上席研究員を務めている。この本は制度論より民の側のシステム改革の検証に重きを置いたのが特徴だ。雇用を論じた章は来年の国会で審議される予定の労働法制法案を考えるうえで参考になる。

●官僚統治も課題に
改革抵抗勢力の牙城ともいえる官僚機構に対しては、透明性の向上こそが政府のガバナンス改革を促進させると説く。官僚生活を送っている自身の経験をふまえた論だろう。次期首相にとっては官僚機構のなかで内なる改革派をどう登用するかも人事戦略の課題になる。

「改革なくして成長なし」と小泉首相は念仏のように唱え続けた。この惹句(じゃっく)は半分正しいが、ならば成長していれば改革は不要なのかと、突っ込みを入れたくもなる。日本経済が好況か不況かにかかわらず構造改革には強い推進力が欠かせない。

ことしの骨太方針の柱のひとつに新しい成長軌道への見取り図がある。経済産業省編『新経済成長戦略』(経済産業調査会・二〇〇六年)はその報告書だ。同省の審議会が中心になってまとめた。本のつくりは粗削りで読みやすいとはいえないが、人口減少と少子化・高齢化の大波にどう立ち向かい、成長を追求するかを考えるときの参考書として脇に置きたい。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

物語 現代経済学―多様な経済思想の世界へ
物語 現代経済学―多様な経済思想の世界へ根井 雅弘

中央公論新社 2006-07
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おすすめ平均 star
star現代経済学の歩みを「物語」風に叙説

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多様な考え方が交錯し、一つの政策を巡って激しく意見をぶつけ合う。多くの人は「経済学」にそんなイメージを重ねあわせるかもしれない。しかし、現実はさにあらず。米国型の教育の普及に伴い、日本でも経済学を学ぶ学生はひたすら「主流派」と呼ばれる理論体系を無批判に学ぶようになっている。その結果、自由な思考を展開するうえで重要な要素であったはずの、社会科学としての経済学の多様性はすっかり失われ、視野の狭い研究者や、学生が大量生産されるようになった。

最近真剣に読まれることの少ない、ケインズ、サミュエルソン、ガルブレイスらのエッセンスに触れることで、本来経済学が持つ多様性の魅力を再発見してほしい、というのが著者のメッセージである。著者の問題意識は評者もまったく同感であり、その意欲は高く評価したい。

もっとも、わずか二百ページほどの書物のなかで何人もの碩学(せきがく)の思想を一気に紹介しようというのだから、無理があるのは正直否めない。そのためか、巻末には実際に何を読んだらよいのか、読書案内が付されている。恐らくは現代経済学の多様性を巡る本当の「物語」は、読者が実際に経済学説史を彩ってきた多彩な人物の書物や論文に直接触れることによって初めて始まるという著者の考え方を映しているのだろう。読者には読み物としてではなく、あくまでも本書をブックガイドとして読むことをお薦めしたい。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

吉野作造―人世に逆境はない
吉野作造―人世に逆境はない田澤 晴子

ミネルヴァ書房 2006-07
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「民本主義」を提唱した政治学者、吉野作造の生涯を追った。学問のみならず、社会事業やアジアとの交流、明治文化の研究など、様々な分野に豊かな知識と関心を広げる大正知識人の一つのモデルとして、吉野をとらえる視線が生きている。

著者は長年、吉野の出身地宮城県にある「吉野作造記念館」の主任研究員を務めた。それだけに全編を通じて「故郷」から見た人物像が浮き彫りにされるのが特徴だ。

吉野は富商の家に生まれ、故郷の誉れとして東京帝国大学に入学。気鋭の研究者として雑誌時評などにまで健筆をふるった。しかし昭和の戦争期に向かう中、「主権を行用するに当つて、一般民衆の利益幸福並に其意向に重きを置くといふ主義」を唱える人物は、郷里の偉人とはなれなかった。偉人はむしろ、商工大臣などを歴任した実弟、吉野信次のほうだったという。そこには近代日本における「成功」や「出世」という価値観の問題も透けて見える。

天津で袁世凱の息子の家庭教師を務め、辛亥革命や五四運動に共感を抱くなど、吉野が中国から大きな影響を受けた点も興味深い。福沢諭吉や北一輝を例にとっても分かるように、近代以降の日本の思想は東アジアとの関係の中で鍛えられ、発展してきた側面が大きい。東アジア共同体の議論が注目を集める現代。吉野らの思想を再検討する試みは、大きな意味を持ちそうだ。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ツアー1989
ツアー1989中島 京子

集英社 2006-05
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連作短編集とも長編ともとれるこの小説は、「迷子つきツアー」なる不思議なパック旅行をめぐる物語である。客の中に「迷子」役がまじっており、その人物は旅先で行方不明となる。しかし、もともと印象の薄い人を選んでいるため、大騒ぎにはならない。かくして参加者には様々な余韻が残るというわけだ。

一九八九年、香港行きの迷子つきツアーで、一人の男子大学生が“本当に”姿を消してしまう。十五年後、青年やツアーと関係があったと見られる三人が、当時のことを思い出そうとする。青年が書いたとおぼしき自分あての手紙が届いた主婦、引っ越し作業中に香港旅行について書いた自らの日記を読む元会社員、旅行期間中の四日間だけを記したブログを見つけた元添乗員。しかし、いずれも自分の記憶とずれている。

若いフリーライターが青年の足跡をたどる最終章「吉田超人」で、十五年前に何があったのかが明らかになる。いわばミステリータッチの小説だが、三年前に田山花袋『蒲団』を現代によみがえらせた小説でデビューした注目作家の作品は、単なる謎解きだけの魅力にとどまらない。

最終章で迷子となった青年は「みんなして僕の過去を塗り替えようとしているみたいなんです」と語る。他人のうわさによって、全く身に覚えのないもうひとりの「自分」が生まれるという不気味さ。この凝った構成の物語は、不穏な空気に満ち満ちている。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

Deep Inside
Deep Inside西澤 丞

求龍堂 2006-05
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おすすめ平均 star
star深い深い内側の世界を見事表現!
starこれが先端技術!

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ごみ処理場の制御室、原子力発電所の炉心部分、宇宙の起源を調べる研究機器、地底に建設中の高速道路。人々の生活を根底で支えながら、普段は目にすることのない風景を著者はフィルムに収める。用途をとことん追求すれば、逆にとぎすまされた美しいフォルムができあがる。その見事な実例が並んだ写真集でもある。写真は茨城県つくば市にある「高エネルギー加速器研究機構 前段加速器」。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

モダニズムのニッポン
モダニズムのニッポン橋爪 紳也

角川学芸出版 2006-07
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日本の美術絵はがき1900‐1935―明治生まれのレトロモダン
日本の美術絵はがき1900‐1935―明治生まれのレトロモダン生田 誠

淡交社 2006-03
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写真でよむ昭和モダンの風景―1935年‐1940年
写真でよむ昭和モダンの風景―1935年‐1940年津金澤 聰廣

柏書房 2006-05
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戦争の陰に隠れがちだが、明治後半から昭和初期にかけては華やかで活気に満ちた市民文化が花開いた時代だった。最近、パンフレット、絵はがき、写真などを通じて当時の文化に光を当てる本が相次いで刊行されている。

商業建築や博覧会史などを研究する橋爪紳也著『モダニズムのニッポン』(角川書店)は、パンフレット、チラシなどによって戦前のモダニズムの息吹をあぶり出す。商品の宣伝媒体や雑誌は、市民生活の裏返しである。当時新しく登場した電球、旅行、カフェなどが市民にどんな期待を抱かせようとしたかを、軽快に読み解いていく。

例えば一九三五年に開かれた「家庭洗濯科学展覧会」のチラシには、清潔に洗濯した洋装で気持ちよさそうな顔をした女性のイラストが載っている。この図で訴えようとしているのは清潔でいることの心地よさ。背景には洋装の普及や新しい洗濯技術の導入がある。チラシ一枚からも、近代生活の側面が見えるのだ。

絵はがき収集家の生田誠著『日本の美術絵はがき1900―1935』(淡交社)には、浅井忠、東郷青児、竹久夢二らの画家が原画を描いた美術絵はがきが並ぶ。人物、風俗などを版画やコロタイプ印刷で刷ったもので、想を尽くした図柄が多いのに驚く。

鏑木清方による和装でバイオリンを弾く女学生、松岡映丘による和洋折衷の女神、岡田三郎助によるアール・ヌーヴォー風美女。スキーの場面を描いた無名画家の作などもある。美術絵はがきは時代のモダンを写した媒体だった。

メディア史研究の重鎮、津金澤聰廣監修の『写真でよむ昭和モダンの風景』(柏書房)は、写真誌「ホーム・ライフ」の三五―四〇年の号から約九百点の写真を抜粋した。この写真誌は「(新聞で)没になった小さな社会事象をとおして現代社会を描く」志向があった。洋装で銀座を歩く女性、流線型自動車のおもちゃ、乗馬に興じる男女、暖炉のある洋風建築……。日中戦争に入っていたこの時期にも、モダンな生活はなお健在だったことを映し出す。

当時の市民生活には現代の世相と重なる部分も大きく、公に残りにくい生活史料の収集や解読はこれからも進みそうだ。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

真相―イラク報道とBBC
真相―イラク報道とBBCグレッグ ダイク Greg Dyke 平野 次郎

日本放送出版協会 2006-06
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二〇〇四年一月、イラクの大量破壊兵器に関する報道の信憑(しんぴょう)性を巡り、英国放送協会(BBC)のグレッグ・ダイク会長が辞任した。イラク攻撃を正当化するため、英政府が兵器を巡る証拠文書を粉飾したという報道だ。ブレア政権、BBC双方の信頼が問われる事件に発展したが、本書はその本人が内情を描いた作品である。

原題は「グレッグ・ダイク――インサイドストーリー」。物語はBBCの経営委員会との対立から辞任を決意するまでの苦悩の描写から始まる。大量破壊兵器はその後の調査では見つからず、自らの報道判断が正しかったことを強調する一方、BBC改革にかけた自身の功績と職員からの信望の説明に多くの紙面を割いている。

著者によれば本書には英国の政治、放送業界、自伝という三つの要素が描かれているという。事件の当事者だけに政治の内幕話としても面白いが、本書の醍醐味(だいごみ)はむしろBBCの経営改革のほうにある。著者は番組制作会社のスタッフからBBCの会長にまで上りつめ、BBCの官僚主義を排し、初めてコスト意識を持ち込んだ人物だからである。

中でも著者が最も力を入れたのが日本より五年早く始まった地上放送のデジタル化である。NHKと同様、受信許可料に支えられたBBCでも運営費用に多くの無駄があった。著者は高い間接費用に大なたを振るい、その分をデジタル化や多チャンネル化投資、インターネット対応などに充てた。

さらに著者が腐心したのがBBCの独立性をいかに保つかであった。イラク報道を巡る政府介入を排除したのはその象徴であり、ジャーナリズムとしての公共放送のあるべき姿を懇々と説いている。原書は二〇〇四年の発刊だが、今回、日本で翻訳されたのも、NHKの経営改革への関心が高まっていることが背景にあろう。

その意味では訳者がNHKの元解説委員、監修が元放送総局長、版元がNHK出版、さらにNHK放送文化研究所の解説付きというのも興味深い。BBC改革は日本の放送業界にとっても決して人ごとではない。英国の放送業界の動きを日本語で読める作品は少ないだけに一見の価値がある。

▼著者は47年英国生まれ。BBC会長在任中ブレア政権と対立し退任。ヨーク大学長。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

悪魔のピクニック―世界中の「禁断の果実」を食べ歩く
悪魔のピクニック―世界中の「禁断の果実」を食べ歩くタラス グレスコー Taras Grescoe 仁木 めぐみ

早川書房 2006-07
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star大爆笑のピクニックだ!

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密造酒、チーズ、クラッカー、チョコレート、葉巻、コカ茶…。共通するのは、どこかの国で禁止法の対象になったことがあることだ。人間は、食べるなと言われると食べたくなるものだ。モントリオール在住の旅行記者は、禁断の食べものや飲みものを求めて旅に出た。フランス、ボリビア、米国など七カ国を訪れ、禁止する側と禁止される側の話を聞き、実際にそれらを口にし、歴史を振り返りつつ「禁断」の真相に迫る。仁木めぐみ訳。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

モーツァルト ミステリーツアー
モーツァルト ミステリーツアー中川 右介

ゴマブックス 2006-06
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今年生誕二百五十年を迎えたモーツァルトを、十の謎をキーワードに解説する。著者が助手の女性とザルツブルクやウィーンなどを巡りながらモーツァルトの謎を探る設定で、親しみやすい。なぜ死んだのか。実はスパイだったのではないか。謎の多いこの作曲家の人生には諸説ある。本書では会話形式を生かし、研究者では明言しにくい大胆な推測を提示する。モーツァルトを神聖視する風潮への皮肉もちらり。そこが痛快だ。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

生きてるだけで、愛
生きてるだけで、愛本谷 有希子

新潮社 2006-07-28
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劇作家・演出家であり、最近は小説家としても注目を集める著者の恋愛小説集。芥川賞候補となった表題作の主人公は、躁鬱(そううつ)体質で過眠症ぎみの二十五歳女性、寧子(やすこ)だ。合コンで出合った男性の部屋に転がり込み、インターネットの掲示板に書き込む以外はほとんど寝ている。そこに男性の元彼女が訪れたことで寧子の生活は大きく変わる。生きづらさを感じる女性の内面を、流れるような文体でつづっている。ささいなことで恋人とけんかして家を出た女性を描いた短編「あの明け方の」を併録。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

会社法を活かす経営
会社法を活かす経営武井 一浩

日本経済新聞社 2006-06
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おすすめ平均 star
star実務家による会社法入門書

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企業間の訴訟などが増えるのに伴い、企業法制も経営にとって重要な基盤となっている。とりわけ、五月に施行された会社法はその中核的な存在であり、会社法を正しく理解し、経営に生かすことは経営にとって欠かせない条件の一つとなり始めている。実際の経営戦略と会社法はどういう場面で絡むのか、個々の経営行為にはどのような法律的な裏付けがあるのか――等々を専門用語の使用を極力控えながら解説している。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

子育ての変貌と次世代育成支援―兵庫レポートにみる子育て現場と子ども虐待予防
子育ての変貌と次世代育成支援―兵庫レポートにみる子育て現場と子ども虐待予防原田 正文

名古屋大学出版会 2006-07
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少子化をめぐってはさまざまな議論があるが、本書は子育ての現場から問題に迫った一冊。二〇〇二―〇四年に兵庫県で行われた子育ての実態調査と二十年前に大阪で行われた調査を比較、分析。母親の置かれた状況は厳しさを増し、どこで幼児虐待が起こってもおかしくない状況と訴える。著者は精神科の「小児・思春期外来」に長く携わり、子育て支援のNPO法人も主宰する。こうした経験もまじえて、今本当に必要な支援策は何かを考察している。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

我々はどこへ行くのか―あるドキュメンタリストからのメッセージ
我々はどこへ行くのか―あるドキュメンタリストからのメッセージ川良 浩和

径書房 2006-07
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NHKの看板番組「NHKスペシャル」の企画制作に十七年かかわり、国内外で多くの賞を受けた屈指のドキュメンタリストが、自ら手がけた番組を振り返った。

きっかけは一九九五年にさかのぼる。「21世紀への奔流」という長期企画を準備していた時、出版社が執筆を持ちかけた。「テレビ番組は後に残らない。一度、活字で自分の仕事をまとめてみようかと思った」と話す。自ら携わった百五十本から、世界の動きを扱った五十本を選びだした。

執筆にあたり全番組のビデオを見返し、当時の台本、取材記録など自宅の資料もすべてひっくり返した。本業をこなしながらの作業だったため「気づいたら、いつの間にか十一年たっていた」と苦笑いする。

番組の題材を選ぶときには「その出来事が、今までの世界の歴史とどうかかわっているのかを考えた」という。本書の内容も多岐にわたる。昭和天皇に戦争責任はあるとした一九八八年の本島等・元長崎市長発言、ベルリンの壁崩壊、ユーゴスラビア内戦、そして二〇〇一年の米同時テロ。取材の過程を忠実にたどった文章を読み進めるうち、再放送を見ているような気になる。

今、世界で起きていることは第三次世界大戦に匹敵する重みがある、と著者に語った人がいる。「ならば今何が起きているのかを記録しておくのが私たちの使命」と語る。楽屋話を極力排した禁欲的な書きぶりに、歴史の語り部に徹するドキュメンタリストとしての誇りがのぞく。

NHKに在職中は「川良の現場が一番過酷」と言われたという。今年七月、約三十年務めた古巣から子会社に移った。ハードな仕事ぶりは変わらず。「今から番組の企画を考えないといけないんです」と、資料でパンパンに膨れたかばんを手に笑った。(径書房・二、二〇〇円)

(かわら・ひろかず)1947年佐賀県生まれ。72年NHK入局。ドキュメンタリー番組の企画制作に長年かかわる。06年7月からNHKエンタープライズ。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

藤田省三対話集成〈1〉
藤田省三対話集成〈1〉藤田 省三

みすず書房 2006-07
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近現代の日本政治体制の研究で知られる思想家、藤田省三(一九二七―二〇〇三年)の対談・座談を収めた『藤田省三対話集成』(全三巻、みすず書房)の刊行が始まった。既刊の第一巻は、一九六〇年に新安保条約が衆院で強行採決された直後からほぼ五年間の政治状況をめぐる発言に絞って収録。江藤淳、武田泰淳、谷川雁、鶴見俊輔、日高六郎らとの対話を集めている。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

経営教育事典
日本経営教育学会25周年記念編纂委員会

経営学、経営教育学を広く学ぶための『経営教育事典』(学文社)が刊行された。「経営学の基礎」「日本的経営と国際経営」「経営教育と人的資源」の三部構成で、各部ごとに五十音順で用語が並ぶ。また、各部の最初には、最新の知見を盛り込んだ論説を四―五編ずつ収録。日本経営教育学会25周年記念編纂委員会編(委員長は齊籐毅憲氏)。

■2006/08/13, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

爆笑問題の「文学のススメ」
爆笑問題の「文学のススメ」爆笑問題

新潮社 2006-06
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恋愛やロマンなどについて作家と論じた番組「爆笑問題のススメ」を活字化。平野啓一郎とのハリウッド映画・教科書問題など「世間で熱くなりすぎているもの」談議は聞きもの。他に花村萬月、松尾スズキら。読書家・児玉清との座談会で、太田光の祖父が島崎藤村の書生だったことが明らかに。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

DIVE!!〈上〉
DIVE!!〈上〉森 絵都

角川書店 2006-06
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おすすめ平均 star
star知季・飛沫編
starスポ根モノではない!

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DIVE!!〈下〉
DIVE!!〈下〉森 絵都

角川書店 2006-06
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おすすめ平均 star
star要一編 そして…
starドキドキさせられました
starオリンピック代表は誰の手に??

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森絵都著 「高さ十メートルからの飛翔」「時速六十キロの急降下」「わずか一・四秒の空中演技」――。一瞬の妙技を競う飛び込み競技。本書は、一般にはなじみの薄いスポーツを題材にした、すがすがしい青春小説だ。知季(ともき)、飛沫(しぶき)、要一というオリンピック出場を夢見る三人の少年と、彼らを取り巻く女性コーチや家族の物語が躍動感あふれる筆致で描かれる。先ごろ直木賞を受賞した著者の代表作。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

ガウディの伝言
ガウディの伝言外尾 悦郎

光文社 2006-07-14
売り上げランキング : 639

おすすめ平均 star
starなるほどガウディは、すばらしい

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スペイン・バルセロナで百二十年以上もの間、建設が続いているサグラダ・ファミリア。著者は一九七八年以来、彫刻家としてここで石を彫っている。なぜ図面がなくてもガウディの構想通りにつくり続けられるのか。二重螺旋の運動が生み出した柱の秘密とは。この大聖堂の謎と魅力をあますところなく語る。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

“狐”が選んだ入門書
“狐”が選んだ入門書山村 修

筑摩書房 2006-07
売り上げランキング : 435


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著者は匿名の評者「狐(きつね)」として四半世紀にわたり、切れ味の良い書評を書き続けてきた。覆面を取って書いた本書は「入門書」が対象。「ある分野を学ぶための補助としてあるのではなく、その本そのものに、すでに一つの文章世界が自律的に開かれている」という視点で選んだ二十五冊が、魅力たっぷりに紹介されている。

三好達治『詩を読む人のために』では、島崎藤村「千曲川旅情の歌」というあまりに有名な詩が最初に取り上げられていることに着目。「俗のまとわりついた詩」をあえて選び、緻密(ちみつ)な音韻分析によって新しい読み方を示すという「厄介さ、むずかしさ」に挑んでいると見る。それは著名な絵であるレオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」を分析した若桑みどり『イメージを読む』も同様だ。

それぞれの本の味わいを引き出す著者の技は見事だ。窪田空穂『現代文の鑑賞と批評』に対しては、「あるものを鉛筆を手にして描きながら見るのと、鉛筆を手にしないで見るのとでは、まったくちがう」というポール・ヴァレリーの文章を持ち出す。その上で指摘する。「窪田空穂は、ヴァレリーのいう『鉛筆』をもっている人でした」

「入門書」は「手引書」とは異なり、特定の分野に関して書いていても、それ自体が読書の楽しみを味わうことのできる書物を指すという。その意味でも、本書は優れた「入門書」の一つである。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

新・風に吹かれて
新・風に吹かれて五木 寛之

講談社 2006-07-06
売り上げランキング : 1088


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七十歳を超えてなお時代の風を感じ続けている作家の、漂然としたエッセー集である。週刊誌連載をまとめた本だけに、話題はあちこちへと飛ぶが、それがそのままこの作家の関心の広さと絶妙のトレンド感覚をくっきりと映し出す。

「年甲斐もなき人生かな」と言う。常に胸を張って前のめりで歩き、階段を見ると上りたくなり、家電量販店をしょっちゅうのぞくため、いろんな店のポイントカードを持ち歩いている。ある一文にはこの半年でデジタルカメラを六台も買ったと書き付ける。車や靴、かばんといった「ちょい悪おやじ」の好むようなグッズへの関心もまるで衰えていない。その一方で百寺巡礼で古寺名刹を訪ね、釈尊に思いをはせ、養生について語る。

古いものや昔からの観念への関心さえ、この人が語ると今日的な皮膚感覚と通底したように感じられるから不思議だ。実際、中高年の間では古寺巡りがちょっとしたブームになっているし、治療ではなく養生をというような考え方も、昨今の「がんばらない」がんとの付き合い方などとして広がりを見せている。好奇心の赴くままモノや人や土地に接し、思索を紡いでいくと、そのまま世の関心の赴くところとなるという感じだ。

この感覚こそ、なお新たな読者を獲得し続ける源泉なのだろう。軽薄とは違った軽みのある文章がストレートに作家の感性を伝えてくれる。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ファインマンの手紙
ファインマンの手紙リチャード・ファインマン ミッシェル・ファインマン 渡会 圭子

ソフトバンククリエイティブ 2006-04-15
売り上げランキング : 4778

おすすめ平均 star
star本気なんだか、真面目なんだか、ええかっこしなのか?

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「親愛なる教授へ 賭けの詳細が書かれた文書を見つけ、貴殿が多く払いすぎているのに気づきましたので、ここに一五ドルを返金いたします。…(中略)…おしまい!」一九七六年一月六日に、米国マサチューセッツ工科大学のV・ワイスコップ教授あての手紙である。

賭けは六五年にノーベル物理学賞を受賞した時から十年間のうちに、自分が「管理職」に就いたかどうかが対象になった。証人の署名付きの賭けはファイマンの勝利だった(ついに管理職に就かなかった)。彼の“おもしろさ”をあらわすエピソードだ。

ファインマンは有名な物理学者であり学生時代に「ファインマン物理学」で苦労した人もいるだろう。彼が亡くなる二年ほど前、八六年までの手紙をまとめたものである。

書簡集といえば手紙が書かれた背景などが付けられている。しかし、養女の手になる本書は、序文や時々ある短い説明を除いて、淡々と手紙が紹介される。ファインマンを知らない人には不親切かもしれないが、読んでいるうちに人柄が知れるのが不思議だ。

年を追って編集されているが、一読して驚くのはファインマンは無名な人にせっせと返事を出していたことだ。彼のキャラクターが十分に出ていると言える。以前に出た『ご冗談でしょう、ファインマンさん』『困ります、ファインマンさん』などと合わせて読むのもよいだろう。渡会圭子訳。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

木村伊兵衛のパリ
木村伊兵衛のパリ木村 伊兵衛

朝日新聞社 2006-07
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1954年から55年、木村はカラーフィルムを携えて欧州を旅した。そこで撮影した中からパリの風景だけを選び、未発表作品も加えた170点で構成。戦前の東京の下町をライカで生き生きととらえたように、チーズ売りの露店や焼きぐり屋など、普通の市民生活を写した作品が素晴らしい。モノクロとはひと味違う木村の魅力も発見できる。写真は「下町のおかみさん」(1955年)。田沼武能・金子隆一監修。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

税財政の本道―国のかたちを見すえて
税財政の本道―国のかたちを見すえて大武 健一郎

東洋経済新報社 2006-07
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著者は元財務官僚。大蔵省時代を含めて三十五年間の役人生活のうち、二十年を税制立案・税務行政に携わった。この経験を生かして財政改革をわかりやすく説いている。一九七〇年代を戦後日本経済の転換点ととらえ、いま財政が立ちゆかなくなりつつある真因をその時代転換に求めた分析は、政府税制調査会の研究とも重なる。だが豊富なデータと平易な語り口は財政問題にさほど興味を持っていない人の理解も助けるだろう。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

CSR 企業と社会を考える
CSR 企業と社会を考える谷本 寛治

NTT出版 2006-06-15
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企業不祥事や企業買収を契機に、社会との関係を切り口に企業の本質やその在り方を問い直す動きが強まっている。その際に用いられるのが「企業の社会的責任(CSR)」という考え方だ。日本企業の間でもCSRは盛り上がりをみせているが、中には正確な知識を欠いていたり、浅薄な理解にとどまっているケースも少なくない。CSRを一過性のブームに終わらせないためにはどうしたらよいか、その方途を著者は説いている。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

銀色の翼
銀色の翼佐川 光晴

文藝春秋 2006-06
売り上げランキング : 32008

おすすめ平均 star
star痛み

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夫婦の問題を扱った中編小説集。表題作は脳腫瘍(しゅよう)に倒れて、うつ病にかかったため、大学を退学せざるをえなかった男性が主人公。彼は「日本慢性頭痛友の会」で知り合った看護師の女性と結婚、彼女の助けで鍼灸(しんきゅう)師として自立するようになる。しかし、やがて妻は精神に異常をきたしてしまう。「痛み」に向き合う人々をリアルな筆致で描ききった作品。炭焼きの男性が自分の片足を失った事件について語る「青いけむり」を併録している。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド
株式投資 長期投資で成功するための完全ガイドジェレミー・シーゲル 石川 由美子 鍋井 里依

日経BP社 2006-07-13
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過去二百年にわたり金融資産の利回りを子細に分析した著者が長期投資(著者の考える長期投資は二十年)の基本原則と最適な戦略をまとめた。著者によると、あらゆる金融資産のなかで株式の利回りが最も高く、分散投資を堅持することが長期投資では大切だという。結論自体に驚きはないが、きちんとしたデータの実証があるだけに「投資家として成功するためには忍耐が必要である」という著者の言葉は重みがある。林康史、藤野隆太監訳。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

料理をするとはどういうことか―愛と危機
料理をするとはどういうことか―愛と危機ジャン=クロード コフマン Jean‐Claude Kaufmann Marie‐France Delmont

新評論 2006-07
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洗濯やアイロン掛けなど家事の楽しさと苦痛を分析するフランスの社会学者が、家庭で料理を作る二十二人にインタビューし、家族と現代社会を浮き彫りにする。宗教、ダイエット、冷蔵庫などの家電製品……。著者はあらゆる角度から、家庭の食卓に踏み込む。出来合い食品の普及などの利便性の一方で、食にまつわるさまざまな“主義”が生まれ、「自由で不安定な時代に突入した」との著者の指摘は重く迫る。保坂幸博、マリーフランス・デルモン訳。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ビッグバン宇宙論 (上)
ビッグバン宇宙論 (上)サイモン・シン 青木 薫

新潮社 2006-06-22
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おすすめ平均 star
star人類が宇宙解明に注いできた努力の歴史
starトンデモ本である
star宇宙論の功名が辻

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ビッグバン宇宙論 (下)
ビッグバン宇宙論 (下)サイモン・シン 青木 薫

新潮社 2006-06-22
売り上げランキング : 48

おすすめ平均 star
starインド人にビックリ!
star"Science is a self-correcting process"(Carl Sagan)の意味が良く分かる!

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十六世紀のコペルニクスに始まった天動説から地動説へという宇宙観の転換。その完成者といえるガリレイは宗教裁判で説の放棄を命じられながらも、「それでも地球は動く」とつぶやいた。しばしば取り上げられる、科学史におけるおなじみの逸話である。

このときに匹敵するようなパラダイムの転換を二十世紀後半に人類は経験したばかりだ。宇宙が原初状態から急激に膨張したというビッグバン(大爆発)説が、それまでの静的な宇宙観にとって代わったのだ。

コペルニクスやガリレイらと同様に、ここでも語り継がれるであろう人物がいる。宇宙の膨張を観測したハッブル。ビッグバン説を一九四〇年代に予言したロシア生まれの科学者ガモフら。そしてビッグバンの名残である電波を検出したペンジアスら米ベル研究所の研究者――。

半世紀以上続いた論争の決着は九二年四月に訪れた。米科学衛星がとらえた初期宇宙に存在した特有の密度分布パターンがビッグバンの動かぬ証拠として発表された。翌日の米英の主要紙は一面でビッグバン説の勝利を大々的に報じた。

この科学ノンフィクションでは、大団円に至る一部始終が確かな考証と豊富なエピソードとともに描かれる。大部ではあるが、各章ごとに科学論争の経過を表すフローチャートを示したり、対立する学説の星取表を掲載したりなど、読者を物理学の細部の説明でつまずかせないよう工夫を払いつつ一気に読ませる。

欧米を主たる舞台にした同論争への宗教上の観点からの関心の高さが印象的だ。五一年、時のローマ法王ピウス十二世はビッグバン説を「現代科学に照らした神の存在証明」と強力に支持。ガリレオの時代とは違って外野席からではあるが、科学論争の盛り上げに一役買ったという。

書店の科学書コーナーには「分かりやすい宇宙論」といった解説書は多い。本書もタイトルだけ見れば、そんな類書の一つのようだが、読んだ印象は大きく違う。科学読み物には珍しい骨太の物語だ。

▼著者は67年英国生まれ。ケンブリッジ大で博士号取得。BBCに勤務。著書に『フェルマーの最終定理』など。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

携帯メール小説
携帯メール小説佐藤 正午 盛田 隆二

小学館 2006-08-01
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五百字から千字という超短編小説を集めた『携帯メール小説』(小学館)が刊行された。文芸誌「きらら」が二〇〇四年から公募している携帯メール小説大賞の受賞作・佳作と、選考委員を務める作家の佐藤正午、盛田隆二の作品の合計百三編を収めている。ゴリラ顔であることを理由に交際を断ってきた女性を描いた「晩婚のゴリラ顔からの手紙」など、魅力的な作品が並んでいる。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ゲーデルと20世紀の論理学(ロジック)〈1〉ゲーデルの20世紀
ゲーデルと20世紀の論理学(ロジック)〈1〉ゲーデルの20世紀田中 一之

東京大学出版会 2006-07
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「不完全性定理」など、現代論理学の基礎定理を証明したクルト・ゲーデル(一九〇六―七八)の業績を振り返るシリーズ「ゲーデルと20世紀の論理学(ロジック)」(東京大学出版会、全四巻)の刊行が始まった。編者は田中一之・東北大学教授。既刊の第一巻『ゲーデルの20世紀』はゲーデルを中心に、近現代における論理学の歩みを解説する。第二巻は十月刊行。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

アジア新聞屋台村
アジア新聞屋台村高野 秀行

集英社 2006-06
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おすすめ平均 star
star分かっているようで全然知らなかったアジアの懐深さ

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ニンニク、トウガラシ、ショウガ、パクチー。雑多な香辛料のにおいとアジア各国の人種が入り乱れる謎の在日アジア系新聞社「エイジアン」。そこにただ一人の日本人「編集顧問」として雇われた青年の奮戦記だ。小説仕立てだが、エピソードは十年ほど前の実体験に基づく。

編集方針なし、プロ意識ゼロ、会社への忠誠心絶無、雑誌の丸写しは日常茶飯事。社長以下アジア人社員たちの所業に「いい加減もいい加減にしろ」と叫ぶ主人公。だが会社が倒産の危機に見舞われた時、活路を開いたのは彼らの「エイジアン」的生き方だった。

それは「自分の人生は自分で決めて、自分の生きたいように生きること」。良くも悪くも他人を頼らず、自分のことしか考えないから、組織がつぶれても個人はつぶれない。「一言で言えば自立している。アジアで何となく感じていたことが、日本の会社というところではっきり比較できた」

早大探検部在籍中にアフリカ・コンゴでの珍道中を書いた『幻獣ムベンベを追え』で「秘境ライター」としてデビュー。南米や東南アジアの奥地も踏破してきた。人間なら「ちょっと異常な人たちに興味がある」と言う。「変だったり、不合理に見えるものには全部、何かを気づかせてくれる可能性がある」

最近は命の危険を伴う冒険こそしないが「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す」旅は続いている。今、取り組んでいるのは「ゾウ語」の研究。東南アジア各地のゾウ使いが、ゾウに命令する時の言葉だ。

ゾウ使いの歴史は少数民族の歴史に重なる。いまだ文書で記録されたことのない歴史だ。「ゾウ語を調べれば、知られざる民族移動や文化の伝達ルートも解明できるんじゃないか」。遠大な夢を描いている。

■2006/08/06, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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