メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年7月23日~7月30日
| 人体 失敗の進化史 | |
![]() | 遠藤 秀紀 光文社 2006-06-16 売り上げランキング : 14024 おすすめ平均 ![]() 遺体科学の現場からAmazonで詳しく見る by G-Tools |
地球上の生き物としてヒトはどんな存在なのか。動物の遺体を解剖することで、ヒトや動物の進化の歴史を研究する京大霊長類研究所教授が解き明かす。ヒトは進化の過程で、「設計図」を何度も書き換え、大きな脳を獲得した。だが、自分たちが生活する地球を破滅するほどの状況を作り出したヒトは、動物として失敗作と著者は言い切る。「遺体科学」という耳慣れない学問の実態も興味深い。
川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選
川端 康成
若い娘の腕と過ごした一夜の体験を描く表題作、遠く捨てた子供の物音に父親が殺される「心中」など短編二十九作を収録。川端の怪談はポルターガイスト現象など心霊学の諸要素を取り込み、心霊と性愛のモチーフを融合させたという編者の解説通り、幽暗妖美な世界が広がる。
| 明治天皇―苦悩する「理想的君主」 | |
![]() | 笠原 英彦 中央公論新社 2006-06 売り上げランキング : 103210 おすすめ平均 ![]() 苦悩する「理想的君主」 史料との距離、扱いに疑問 端正な文体ににじむ明治天皇の人物像Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日清・日露の両戦争に際し、明治天皇は政府の決定を承認しながらも、個人的には戦争への否定的な考えを変えなかった。著者は、ことあるごとに政府の意向と自らの意志の矛盾に悩む君主の姿を描き出す。近代日本の立憲君主制は、政府と宮廷の間で様々な対立、危機、妥協を繰り返しながら確立してきたことがわかる。
| グラーグ―ソ連集中収容所の歴史 | |
![]() | アン・アプルボーム 白水社 2006-07 売り上げランキング : 57911 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ソ連の集中収容所「グラーグ」問題というと、ノーベル賞作家ソルジェニーツィンの著作「収容所群島」を思い浮かべる向きは多い。本書も内容的にはそれに似通っている。一九八〇年代以降発表された収容所体験者の回想記を下敷きにし、それに著者の膨大な取材を加えてまとめたノンフィクションだからだ。ソ連崩壊後ロシアが発表したグラーグに関するおびただしい資料がこれを可能にしたことは間違いない。
内容は収容所問題を通じてみたソ連史というべきものだ。第一部ではロシア革命後の収容所の発生から一九三〇年代のスターリンによる国内圧政の強化。第二部では体験者の回想を中心に収容所の生活と労働。第三部では第二次世界大戦のぼっ発からソ連末期まで収容所がいかに形態を変え産業複合体として体制に活用されたかなどをまとめている。
たとえば大戦中、ソ連軍は東ポーランド占領後ソ連初のポーランド人捕虜収容所を設けたが、この中の将校多数が「カチンの森」で虐殺された経緯が記されている。この問題は現在もロシアとポーランドとの関係に暗い影を投げかけている。
圧政の象徴である収容所問題は北朝鮮の強制収容所だけでなく、イラクのアブグレイブ刑務所やグアンタナモ米海軍基地収容所での虐待など現代にも尾を引いている。歴史の教訓はまだ生かされていない。川上洸訳。
| 名も知らぬ遠き島より―ひとり身の渚を枕に「種子島・屋久島・吐〓(か)喇」亜熱帯漂流 | |
![]() | 日高 恒太朗 三五館 2006-05 売り上げランキング : 9811 おすすめ平均 ![]() 説得力ある島への愛情が伝わってくるAmazonで詳しく見る by G-Tools |
種子島に生まれ育ったノンフィクション作家の著者が、本土の鹿児島と奄美大島の間に点在する故郷の島々をルポした。種子島、屋久島、トカラ列島など、現在は高齢化と過疎化に悩む島々だが、本土と沖縄の境に位置し、古くから独自の文化をはぐくんできたことが、著者の歩みとともに明らかになってゆく。
トカラ列島の平島、中之島、宝島など、大きな島々の影に沈みがちだった小さな島々にまでじっくりと足を運んだことが、本書の大きな特色だ。青い海、白い砂浜、のんびりした暮らしという離島のイメージ。著者はこうした魅力にも目を注ぐ一方、島の人々への丹念な聞き取りを通じ、本土の文化流入、もはや補助金なしでは立ちゆかない地域の経済と生活、といった複雑な現実も漏らさず書き留める。
そんな現状に対し、著者は決して悲観的にはならない。島に住む人々が、昔から海を越えて互いに助け合ってきた歴史を掘り起こす。
象徴的な事例が、トカラ列島の七島にある「オヤコ関係」という習慣だ。ある島に住む島民が、その他の六島に一戸ずつ、親兄弟同然に付き合う家族を持つ「擬似親子関係のネットワーク」。本土という「中央」ばかりを向いていた島々に、横の関係を取り戻すカギになると著者は言う。
ふるさとに対する著者の愛着と、島々の生きた姿を多くの人々に知らせたいという思いがぐいぐいと伝わってくる本だ。
| 貝と羊の中国人 | |
![]() | 加藤 徹 新潮社 2006-06-16 売り上げランキング : 352 おすすめ平均 ![]() 中国理解に不可欠の書 中国理解の最適の1冊 表層的ではない中立的な中国論Amazonで詳しく見る by G-Tools |
漢民族の祖型は、今から三千年前、殷(いん)と周の両民族がぶつかり合ってできたという。殷人は農耕民族。「貝」を貨幣として使用し、目に見える財貨を重んじた。周人の元祖は遊牧民族と縁が深く、「羊」を神にささげ善行や儀礼などを大切にした。「ホンネとしての貝の文化と、タテマエとしての羊の文化の両方を受け継いでいる」のが現代中国人の強み、と著者は説く。中国で金もうけと共産主義が両立する理由もそこに帰結する。
歴史分析をベースに、日本人には測りがたい中国人の思考や行動論理を理解するのが本書の目的だ。京劇研究家である著者は、「人口」「ヒーロー」「地政学」「国の呼称」などの観点から、日本人と比較しながら、中国人の特質を解き明かしていく。例えば、日本の歌舞伎では登場人物の善悪が途中で変わることが多いが、中国の芝居では、善玉は徹底して善玉だし、悪玉は最後まで悪玉だ。観客の感情移入も激しく、悪役「秦檜」を演じた俳優が、興奮した客に殺された記録すらある。そんな特質を考えれば、日中関係改善のためには、政府開発援助(ODA)の金額をうんぬんするよりも、卓球の福原愛のように中国人に愛されるヒーローを増やしたほうが有効だとのユニークな提言も。
いまだに「言論後の自由」のない中国では、人々はホンネとタテマエを使い分けざるをえないという。ホンネを語れぬ彼らを思いやりをもって見つめているのも本書の特徴だ。
| 2015年アジアの未来―混迷か、持続的発展か | |
![]() | 日本貿易会「2015年アジア」特別研究会 東洋経済新報社 2006-06-01 売り上げランキング : 3801 おすすめ平均 ![]() うならせる刺激的アジア像Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本貿易会が一年間にわたり研究会で議論してきた研究成果をまとめた。まず最初に二〇一五年のアジアの未来図が示され、そのうえで地域の抱える数多くの課題への対応策が検討されている。大手商社の調査部門のトップクラスがメンバーの会だけあって、未来図が絵空事になっていないのが特徴。未来図を支える定量的な分析などがあれば、本書はさらに興味深い内容となっていただろう。
| ルイズが正子であった頃 | |
![]() | ルイズ ルピカール Louise Lepicard 未知谷 2006-06 売り上げランキング : 253807 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九二八年、仏領インドシナでフランス人の父、日本人の母の間に生まれた著者は、太平洋戦争期を主に母の故郷、長崎県で過ごすことになる。ふるさとの人々はためらいつつも、文化も言葉も違う異国からきた著者ら兄弟姉妹を温かく受け入れた。戦争の時代に自分を失うことなく日本の社会を見つめ続けた著者の観察力に感嘆。異色の昭和史として、貴重な記録だ。
| ドリームボックス―殺されてゆくペットたち | |
![]() | 小林 照幸 毎日新聞社 2006-06 売り上げランキング : 2435 おすすめ平均 ![]() 真剣に今の現状と向き合える本です。 もう飽きたから捨てちゃった 衝撃です、でも現実です。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
各都道府県の動物愛護センターで殺処分される犬猫は年間約四十万匹。密室内で高濃度の炭酸ガスを噴出する殺処分装置は「ドリームボックス」と呼ばれる。ルポライターの著者は某県センター職員の視点から、犬猫の処分までの様子や職員の日々、無責任な飼い主を描く。処分されるのは野良犬や野良猫に加え、チワワやプードルなどかつてペットとして愛された犬猫も増えている。ペットブームの陰に隠れた現状に切り込んだ。
| 「レジ袋」の環境経済政策―ヨーロッパや韓国、日本のレジ袋削減の試み | |
![]() | 舟木 賢徳 リサイクル文化社 2006-07 売り上げランキング : 159399 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
スーパーなどで無料配布されるレジ袋を「使い捨ての象徴」とみる著者が十七年間にわたって取り組んできた研究の集大成。レジ袋の歴史や環境汚染の現状、各地で行われている削減への取り組みを詳しく紹介する。欧州、韓国の先行事例にも触れ、日本で有料化した場合の社会的利益を試算してみせる。自治体や流通業界の関係者、リサイクル問題に関心を持つ人にとって基礎資料としても読み物としても価値のある一冊。
| 中国の頭脳 清華大学と北京大学 | |
![]() | 紺野 大介 朝日新聞社 2006-07 売り上げランキング : 53070 おすすめ平均 ![]() アジアの最高学府Amazonで詳しく見る by G-Tools |
表題の通り、中国の国立大学の頂点に位置する二つの大学に焦点を当て、その歴史や現状をリポートした。ハーバード大やマサチューセッツ工科大など世界的な頭脳の最前線に伍(ご)する清華大、北京大の多面的な実力、その実力と人材育成が明りょうな国家戦略のもと培われてきた流れをくっきりと描き出す。著者は技術系企業を経て現在は創業支援の非営利組織(NPO)活動に従事する。実地で多くの中国の研究者や大学関係者と交流してきた体験から、頭脳立国を目指す現代中国の側面を危機感とともに浮かび上がらせている。
| さつよ媼 おらの一生、貧乏と辛抱 | |
![]() | 石川 純子 草思社 2006-06 売り上げランキング : 33845 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「農婦は私のルーツ」と語り、東北の農村で生まれ育った女性たちの聞き書きを続けている。農婦とは「自分の体を頼りに、人力で畑を耕し、種をまいて収穫してきた人」であり、農業に機械が導入された後の農家の女性と区別する。八十―九十代の高齢になった彼女たちならではの言葉を書き留めるのは「絶滅の危機にある」との思いからだ。
『さつよ媼(おばば) おらの一生、貧乏と辛抱』は、現在九十六歳の早園さつよさんの半生記。家が貧しく九歳で子守に出され、小学三年で学校をやめて十六歳で製糸工場に。妹、兄夫婦ら家族を相次ぎ失い、離婚、子別れ……。ドラマ「おしん」も驚く波乱に満ちた日々だ。母が衣料品を商っていた実家は近所の女性のたまり場になっており、“さつよ媼”はそこに集う一人だった。
「控えめなおとなしいおばあちゃん」と思っていたが、信頼関係が生まれると堰(せき)を切ったように「言葉があふれ出した」。その言葉を一つ一つ、十六年にわたり記してきた。離婚後はモッコを担いで土木工事に携わり、九十歳で漢字を習い始めた“さつよ媼”は、「入り日明るくて(若い時に苦労しても老いて幸せ)」と言われる毎日を送る。
「おばあちゃんが一番多く使った言葉が『可哀想(もぞい)』。今の人たちのニュアンスと違い、おばあちゃんたちは自分と他が一体になってかわいそうと思う。共感能力が高い。そういう優しさが農婦の世界なんです」
農婦に原点を感じたのは長男を出産したとき。「三歳で父を亡くし、自分は何者なのか、浮遊した感覚があった。子供を産んで女たちのつながりを実感し、根っこを見つけた」と語る。分からないことがあると「これ、なして(どうして)?」と聞き続け、祖父に「根っこ掘りわらし」と言われた。「こんな年齢になってもまだ根っこ掘りわらしなんです」とほほ笑んだ。(草思社・一、九〇〇円)
(いしかわ・じゅんこ)1942年宮城県生まれ。東北大卒業後、高校教師となり、90年退職。古老たちの聞き書きを始める。著書に『まつを媼 百歳を生きる力』ほか。
| 別冊早稲田文學〈1〉 | |
![]() | 坪内 逍遥 早稲田文学会 2006-07 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一八九一年、坪内逍遥によって創刊された老舗文芸誌「早稲田文学」の掲載作品を精選、再録した『別冊早稲田文学』(早稲田文学会)の刊行が始まった。第一期は全三巻で構成する。既刊の第一巻は坪内逍遥、島崎藤村、伊藤整らの評論、短編小説に加え、現代の作家、研究者らのエッセー、学生の卒業制作なども収録した。価格は四千円。第二巻は二〇〇七年春、第三巻は〇八年春に刊行予定。
五木寛之ブックマガジン〈初夏号〉
五木 寛之
| 五木寛之ブックマガジン―作家生活40周年記念出版 (冬号) | |
![]() | 五木 寛之 ベストセラーズ 2006-01 売り上げランキング : 143208 おすすめ平均 ![]() コッポラ、アベドンへのインタビュー再録が懐かしく、面白い。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 五木寛之ブックマガジン〈秋号〉 | |
![]() | 五木 寛之 ベストセラーズ 2005-10 売り上げランキング : 138906 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 五木寛之ブックマガジン〈夏号〉 | |
![]() | 五木 寛之 ベストセラーズ 2005-07 売り上げランキング : 136712 おすすめ平均 ![]() 我が青春の書。懐かしい。この時期に再読するのも楽しい。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
五木寛之の小説を自身の責任編集で雑誌形式の書籍として刊行した『五木寛之ブックマガジン』第一期全四巻(KKベストセラーズ)が完結した。文庫本三冊分の内容が一冊五百円という手ごろな価格で買える設定。「70年代傑作選」(秋号)「北欧小説特集」(秋号)などのテーマ特集のほか、フランソワーズ・サガンとの対談(初夏号)や読者の声も掲載。
| コルナイ・ヤーノシュ自伝―思索する力を得て | |
![]() | コルナイ ヤーノシュ Kornai J´anos 盛田 常夫 日本評論社 2006-06 売り上げランキング : 1191 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
コルナイは、旧共産主義国ハンガリーの生んだ、東西を越えて巨大な影響力を持つ経済学者である(昨年まで世界経済学会連合の会長であり、また近年常にノーベル経済学賞の受賞者に擬せられている)。
作者は「メモワールとエッセイ集の合体したもの」と自身特色づける本書が「経済学者や他の専門研究者、年輩(ねんぱい)者と若者、ハンガリー人と外国人、東の人々と西の人々」などに、ひろく手に取られることを期待する。実際本書を一つの視点やテーマにのみもとづいて評価することは難しい。多面的で、豊かな構造と内容を有しているからである。少なくとも次の三つの側面がある。
一つは「ドナウの真珠」ともいわれるほど文化的に豊かだった国のナチによる突然の支配とユダヤ人の迫害(作者の父親を含む)、素朴な献身から分析的批判の対象へと転じていく共産主義体制の現実、前首相を含んだ数百人の処刑者と二十万人に及ぶ亡命者を生んだ一九五六年のハンガリー革命、そして共産主義体制の崩壊と市場経済への移行という激動を身をもって生きた知識人による証言と歴史的洞察という側面である。
第二は、東欧とハーバード大学という西洋経済学のメッカの間を行き来しながら、マルクス主義、新古典派経済学理論の枠組みと、生きた経済の観察との間のギャップに悩み、そのなかから独自の体系を次々と構想していく、その思考の軌跡を描いた(私的)学説史としての側面である。彼による「ソフトな予算制約」という概念は、共産主義体制の崩壊を理解する鍵概念であったばかりか、日本の金融・財政危機の原因やその帰結を理解する上でも有用だ。欧米の大学や学界の風俗を垣間見るという面白味(おもしろみ)もある。
本書の原題は『思想の力を得て』であるが、政治権力や経済的富、マスコミなどから距離を置くことによってこそ、発揮され得る思想の力にかんする倫理学的省察と、個人的思想の生成・危機・再生の過程を扱った創作心理学ともいうべき三つ目の側面も見逃せない。
かなりの時間、読書に没頭するに値した本格的な知的作品である。【評 スタンフォード大学名誉教授 青木 昌彦】
著者は28年ブダペスト生まれ。共産党機関紙記者、ハーバード大教授などを歴任し、現在はハーバード大名誉教授。著書に『社会主義システム』など。
| 表現したい人のためのマンガ入門 | |
![]() | しりあがり 寿 講談社 2006-07 売り上げランキング : 19073 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
副題に「表現したい人のための」とあるとおり、シュールな画風で今をときめく漫画家の著者による、実践の書。会社勤めとの二足のわらじをはいた自身の経験をもとに、「売れる漫画」とは何かを説きおこす。そこにはマンガが持つ「芸術」と「産業」の要素をうまく橋渡しするためのヒントが隠れている。
誠実な詐欺師
トーベ・ヤンソン
お金のことしか頭にない娘カトリは、手っ取り早く稼ぐため裕福な画家アンナに目をつける。ムーミン童話で知られる作家が大人を主人公にした長編は、ウサギやオオカミといった要素をファンタジーに通じる手法でちりばめながら、北欧の冬空のように寒々とした人間のエゴと孤独を描き出す。冨原真弓訳。
| トレンド記者が教える消費を読むツボ62 | |
![]() | 石鍋 仁美 日本経済新聞社 2006-06-01 売り上げランキング : 31743 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
路地裏に立つカフェ、手触り・肌触り・舌触りで訴えかける「触感系」商品、普通のおじさんがギターの弾き語りをする「フォーク酒場」、気軽に撮影、ネット上で公開する「ケータイ写真家」――長年消費トレンドを観測してきた記者が近年の消費トレンドを解説する。ヒット商品のルーツ、背景分析などを書き込んだ記事は、日本の消費社会の特異性をも明らかにする。
| ひとがた流し | |
![]() | 北村 薫 朝日新聞社 2006-07 売り上げランキング : 3062 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「登場人物の流すものとしては《涙》という言葉も使うまいと思った」。この小説の巻末にある「付記」で、著者はそう述べる。単なる「泣ける小説」にしたくない、そんな意気込みが伝わってくる言葉だ。病気と闘う主人公の凛(りん)とした生き方と、周囲の人々の友情と愛情は、胸をじんと熱くさせるとともに、人生にとって大切なものは何かを考えさせる。
アナウンサーの千波、作家の牧子、写真家の妻である美々は、高校時代からの知り合いで現在四十代初め。独身の千波に対して、牧子と美々には離婚歴があり、それぞれ娘が一人いる。家が近いこともあり、三人は家族ぐるみのつきあいをしている。
千波は念願だった朝のニュース番組のメーンキャスターに抜てきされることが決まった直後、乳がんの宣告を受ける。しかも治らない種類のがんだという。美々の働きかけによって、千波は放送局の後輩である良秋と結婚する。千波は良秋にとってあこがれの女性だった。彼女は年下の夫や長年の友人に支えられ、不治の病に向き合う。
この女性三人の関係がとてもいい。「(千波の)投げる球を受けるキャッチャーは、牧子なんだ。(略)ただ、この世にいてあげればいい」と美々は語り、自分は別の役割を果たそうとする。こんな友人がいるのはうらやましい。ミステリーなど幅広い分野で活躍する作家の、新境地を示す長編だ
| 国債の歴史―金利に凝縮された過去と未来 | |
![]() | 富田 俊基 東洋経済新報社 2006-06 売り上げランキング : 169637 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国債が身近な存在になってきた。だが、私たちは国債のことをどれほど知っているだろう。私たちの感じる素朴な疑問に、歴史を振り返ることで答えたのが本書である。
序章で国債の基本的な仕組みや日本の現状を説明。第一章以降で主要国の国債の歴史を丁寧にひもといている。それによると、英国で国債の発行が本格的に始まったのは、一六九二年に議会が恒久的な税金を新設し、それを利払いの担保にすることにしてからだという。当時の国債はデフォルトリスクが大きく、その分金利も高かった。
数百年にわたる国債の歴史を通観してみると、国債が戦争と密接に結び付いていたことがよくわかる。日本で発行額が増えたのは戦争期だったし、第二次大戦に向けナチス政権下でも国債は見えない形で大量に発行され、膨大な戦費の半分強を賄っていた。
本書の最後で著者は第二次世界大戦直前、ロンドン市場で日独の国債金利が極めて高く、戦争に勝つ可能性は開戦前から低いとみられていたと明かす。その国の未来をも見通そうとする国債金利だけに、その意味するところは小さくなかったはず。それにもかかわらず、両国政府は市場の警告を真摯(しんし)に受け止めることがなかった。「国債」というフィルターをとおして歴史を眺めると、知っているはずの歴史からもう一つの、未知の側面が浮かび上がってくる。読みごたえのある興味深い大冊である。
| 日中関係―戦後から新時代へ | |
![]() | 毛里 和子 岩波書店 2006-06 売り上げランキング : 5240 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日中関係が「政冷経熱」とか「政冷経涼」と表現されるようになって久しい。両国は一衣帯水の距離にあるにもかかわらず首脳同士の交流は途絶えたままで、関係は一九七二年の国交正常化以来、最悪だとも言われる。昨年四月に中国各地で発生した反日デモはそんな状況に追い打ちをかけ、日本人の対中心理をいっそう冷え込ませた。
現代中国論を専門とする著者はこのデモにショックを受け、一念発起して戦後の日中関係史を調べ上げる。本書はその研究の集大成。中国の建国後を(1)冷戦下の対立期(一九四九―七一年)(2)国交正常化後の戦略的友好期(七二―七九年)(3)中国の改革・開放後の安定・発展期(八〇―九〇年代半ば)(4)経済の相互依存が深まる一方で競合関係も強まる構造的変動期(九〇年代後半―二〇〇四年)(5)反日デモ以降(〇五年―)の五つに区分して見直し、最後に健全な関係の再構築に向けた提言で締めくくっている。
「政府レベルでの共同事業を始める」「ナショナルな利益から地域の利益へという新思考をもつ」という著者の提言は、傾聴に値する。それが信頼醸成につながり、最終的には歴史的和解ももたらすという論理だ。中国を悩ます環境問題への日本の協力、「東アジア共同体」の建設に向けた作業への参画などがその取っかかりになりそうだ。
日中関係を問う中で、アジアの一員としての日本の生き方を考えさせられる書である。
| 亡骸劇場 | |
![]() | 小林 伸一郎 講談社 2006-06-06 売り上げランキング : 5866 おすすめ平均 ![]() 何か足りない... 表紙が一番きれい。だまされた!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ホテルのベッド、遊園地の観覧車、小学校の黒板、レストランのいす……。色あせてぼろぼろになり、あるいはさびつき、置き去りにされたものや場所。15年かけて全国の廃虚を撮り続けてきた写真家は、そうした風景に「当時の男や女、子どもたちのさまざまな哀歓の気配を強く感じる」のだという。停止した時間の記憶が写り込んでいる。
| 「ひらめき」の設計図 | |
![]() | 久米 是志 小学館 2006-05-30 売り上げランキング : 1651 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本田技研工業(ホンダ)の第三代社長だった著者が、創造する心を持ち続けるにはどうしたらよいのか、組織の創造性を発揮し、高めるにはどういった取り組みが有効なのか――等々を考察した。ベースになっているのは自らの過去の体験だが、それにとどまらず、哲学や宗教など様々な角度から創造の源泉に迫ろうとしている。単に思い出や成功体験を綴(つづ)った、経営者にありがちな書籍とは一線を画している。
| 志ん生的、文楽的 | |
![]() | 平岡 正明 講談社 2006-06-24 売り上げランキング : 13451 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昨年、自らのトラウマを超えて落語を語った『大落語』とこれは姉妹編。元はひとつだった論考を二つに分け、前著では「大づかみ」の落語像を、本書では「文楽と志ん生のおしくらをする白熱地点」を軸にしたという。戦中旧満州(現中国東北部)での志ん生・円生の落語放送からカストリ雑誌、マゾヒズム文学にまで話題が振れる戦後落語論、老舎「駱駝祥子」と比較した志ん生の「らくだ」論など、落語をこの国の文化の根底に据えて語る論考には読み応えがある。
| 競争的共創論―革新参加社会の到来 | |
![]() | 小川 進 白桃書房 2006-06 売り上げランキング : 96681 おすすめ平均 ![]() 構成がわかりやすい。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
商品開発過程にメーカー以外の様々な企業が加わるようになっている。その典型がコンビニエンスストアだ。専用製品の開発ではメーカーに代わって、コンビニが開発の主導権を握る光景が今やすっかり当たり前になった。著者が「競争的共創」と呼ぶ状態の出現だ。本書はそうした商品開発の現状を気鋭の研究者が正面から分析した。ページの端々から新しい動態的な商品開発論を打ち立てたい、という著者の思いが伝わってくる。
| 入門・アーカイブズの世界―記憶と記録を未来に 翻訳論文集 | |
![]() | 記録管理学会 日本アーカイブズ学会 日外アソシエーツ 2006-06 売り上げランキング : 7443 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
急速に進む社会の電子化によってアーカイブズ(記録資料)は大きな問題に直面している。膨大な量の電子メールや電子文書から何を選別し、どう保存するかという問題だ。本書は世界の著名なアーキビストの講演記録や論文を分かりやすく紹介。少しの不注意で起きる「オリジナルの消失」など根幹を揺るがす多くの問題に直面する現状が指摘される。ほとんど議論もされない日本が心配だ。
| 『氷点』停刊の舞台裏―問われる中国の言論の自由 | |
![]() | 李 大同 三潴 正道 日本僑報社 2006-06 売り上げランキング : 15738 おすすめ平均 ![]() 中国共産党の考える「言論の自由」とは?Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国の人気週刊誌『氷点週刊』が一月末、当局に突然停刊を命じられ、編集主幹の李大同氏らが免職となった言論弾圧事件は内外で大きな関心を集めた。李氏は本書で事件のいきさつと、弾圧の不当さを強く訴えている。李氏らが中国の歴史教科書の偏向を指摘した学者論文を掲載したことが共産党の規律に背いたというのが処分の理由だった。しかし世論の強い反発で当局はその一カ月後に復刊を余儀なくされた。中国の言論統制の実態を赤裸々に描いている。三潴正道監訳、而立会訳。
| Google誕生 ―ガレージで生まれたサーチ・モンスター | |
![]() | デビッド ヴァイス マーク マルシード 田村 理香 イースト・プレス 2006-05-31 売り上げランキング : 209 おすすめ平均 ![]() おもしろいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
二〇〇四年八月十九日は世界のネット業界にとって記念すべき日である。米情報検索大手のグーグルがナスダック市場に上場、初日終値は過去二十年で最高の百ドル強をつけ、時価総額約三兆円の企業が誕生したからだ。その熱狂ぶりはインターネットブームを巻き起こした一九九五年のネットスケープの上場を思わせ、株式市場の流れはこの日を機に変わった。
それから二年。米国ではネット技術の新しい潮流を表す「Web(ウェブ)2・0」が話題を呼ぶ。ネットの向こう側、すなわちサーバー側に様々な情報が蓄積され、いつでもどこでも情報が得られるユビキタス情報時代が登場したというわけだ。本書は米国の著名新聞記者がその新しい革命の旗手が誕生するまでの舞台裏を描いたノンフィクションである。
スタンフォード大学の二人の大学院生によってグーグルが設立されたのは九八年。ネット企業としては遅い出発だった。すでにアルタビスタ、インクトミといった優れた検索技術があり、決して注目される存在ではなかった。そのグーグルが後に世界市場を席巻したのは、創業者のラリー・ペイジ、サーゲイ・ブリンの技術に対するこだわりがあったからだ。
当時の検索技術はキーワードを多く含むサイトを機械的に表示するのが主流だった。その結果に不満を抱いた二人はサイト同士のリンクに目をつけ、重要サイトからのリンクが多い順に表示させた。検索各社が総合サイトへ脱皮しようという時に検索の正確さを求める姿勢が結果的には幸いした。
二人は環境にも恵まれた。後にライバルとなったヤフーの創業者は大学院の先輩。真に技術を追求するなら会社を興すことを勧められた。ネットバブル崩壊で上場こそ遅れたが、おかげで失業した優秀な技術者を雇い入れることができた。本書にはそうした様々な秘話が余すことなく描かれている。
最近は大成功を収めたグーグルに対し秘密主義や情報統制を懸念する声も聞かれる。マイクロソフトのビル・ゲイツ会長の退任報道がそうした声を増幅させているが、グーグルの企業精神、経営戦略、技術者の育て方などを理解するには格好の書物だといえる。
▼ヴァイス氏は「ワシントン・ポスト」記者。マルシード氏は「ワイアード」創刊者。
| オートフィクション | |
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三年前、舌へのピアスといった「身体改造」をモチーフとした中編『蛇にピアス』でデビュー。同書で二十歳にして芥川賞を受賞し一躍注目を集めた。書き下ろし長編である本書は、女性作家がオートフィクション(自伝的創作)を書くことで、自らの過去を振り返るという設定である。
「春にフランスを訪れた時に、執筆中だったこの小説について話したら、現地の記者から『それはオートフィクションのようなものか』と聞かれた。作家の体験に基づく小説のジャンルらしい。すぐに新作のタイトルに使おうと決めた」
主人公はリンという二十二歳の女性。物語はハネムーンの飛行機の中から始まる。幸せの絶頂のはずなのに、夫にほかの女が言い寄るのではないかとの妄想めいた不安を抱く。編集者にオートフィクションを書くと約束したリンは、十八歳、十六歳、十五歳と、男との愛憎に満ちた過去をさかのぼっていく。
「これまでの作品でも、『実体験ですか?』との質問をよく受けた。今回も作者である私と主人公のリンを重ねて読む人は多いでしょう」と話す。その上で「それを逆手に取ってみたいとの気持ちもある」とも付け加える。
単行本の書き下ろしは初めて。文芸誌には締め切りがあるが「今回は納得いくまで手元に置いておきたかった」からという。「(いったん過去に戻った後に現在に戻ってくる)メビウスの輪のような構造を目指したこともあって、執筆中の八カ月間は悩み続けた」と振り返る。
いきなり芥川賞を受賞したことについては「プレッシャーとは思わないが、ハードルは高くなった」と感じている。「編集者が『前作を超えるまでは出さない』というので、それをねじ伏せるだけの作品を書くのがたいへん」と笑う。次は初めての短編に挑む。
(かねはら・ひとみ)1983年東京生まれ。作家。著書に『アッシュベイビー』『AMEBIC(アミービック)』など。
戦略とイノベーション
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史料との距離、扱いに疑問





















表紙が一番きれい。だまされた!











