メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年6月25日~7月2日

開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済
開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済池尾 和人

NTT出版 2006-05-25
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おすすめ平均 star
star現代金融史の本です

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制度、組織や政策には慣性の法則が働き、それらが役に立たなくなってからも、存続しようとする。だから「成功は失敗の父」になりがちだ。本書はそんな問題意識に基づき、日本の金融の成功と失敗を跡づける。

まな板に乗せられるのは、戦後日本の開発主義金融だ。「追いつけ追い越せ」の掛け声の下に、民間の資金を成長のために動員する――。そんな開発至上の経済の舞台となったのが金融だった。企業の投資を促すために「人為的低金利政策」が採用され、政府介入の道具である金融機関を保護し縛る狙いで「護送船団行政」が採られた。そのシステムは一九七〇年代の高度成長期まではうまく働いた。

成功の故に、開発主義の仕組みは成長率が低下した八〇年代にも温存され、金融の暴走を招く。民間の資金需要が減少するなかでも、人為的低金利は続けられた。その結果、金融機関は資金運用難に直面した。

金融機関の経営者が新しいビジネス機会を切り開く意思と能力を持っていたら、資金は有効に使えたかもしれない。実際には規制に慣れた経営者たちの意識は、銀行や証券の業際問題に矮小(わいしょう)化された。あふれるマネーは不動産関連の事業へ流れ込んでいった。八五年のプラザ合意以降の急速な円高局面でとられた金融緩和が、バブルを生んだのは必然だったともみえる。それは、不吉な予言を自己実現してしまう「オイディプス」の物語のようである。

バブル崩壊後、銀行は膨大な不良債権を抱えた。皮肉にも、その際に主張されたのは自己責任政策だ。銀行というクッションがあったために、家計は問題の深刻さに気付かなかった。政治家も公的資金投入という不人気だが、必要な政策の採用をためらった。暴走の後に保身の時代が訪れ、経済は長期停滞に陥る。

開発主義金融の先に何が訪れるのか。本書は金利など価格機能を生かした市場型間接金融への転換を、将来像に描く。村上ファンドに資金を拠出した福井俊彦日銀総裁が非難の矢面に立たされているが、福井氏が唱え続けたのは市場や金利機能、新しいリスクマネーの大切さだった。そのメッセージまでかき消されてしまうとしたら、これからの金融の青写真をどう描いたら良いのだろうか。 (NTT出版・二、四〇〇円)

▼いけお・かずひと 53年生まれ。慶応義塾大学教授。専門は金融論。著書に『日本の金融市場と組織』『銀行リスクと規制の経済学』など。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

コメを選んだ日本の歴史
コメを選んだ日本の歴史原田 信男

文藝春秋 2006-05
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star米によって形作られた日本

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コメは日本人にとって今も食と文化の中心だ。さまざまな主食がある中で、なぜ日本人はコメを選んだのか。その選択の背景から政治や経済、社会に与えた影響まで歴史をさかのぼって考察する。コメ栽培が国家成立を促した経緯、経済の基本となった石高制社会の成立などひと味違った切り口が新鮮だ。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

近所がうるさい!―騒音トラブルの恐怖
近所がうるさい!―騒音トラブルの恐怖橋本 典久

ベストセラーズ 2006-06
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おすすめ平均 star
star日本人へのよき啓蒙書

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隣近所の騒音が巻き起こす様々なトラブルや当事者の心理、対策などを、騒音の専門家が豊富な実例をもとに解説する。一九七四年の「ピアノ殺人事件」など、騒音が原因で殺人が起きることも度々である現代社会では、ある程度の騒音を許す寛容な社会への転換が必要であると説いている

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

もぐら随筆
もぐら随筆川崎 長太郎

講談社 2006-06-10
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小田原の生家の物置小屋で暮らしながら、創作に専念して私小説一筋の生涯を貫いた作家のエッセー集。代表作「抹香町」の舞台となった私(し)娼(しょう)街への思いをつづった随想や、六十歳で得た若い妻と暮らす喜びが伝わる紀行文などを収める。「私の生涯に殆(ほと)んど決定的な翳(かげ)を落したものとも云(い)えようか」と振り返る宇野浩二をはじめ、中山義秀、水上勉、丹羽文雄ら交友のあった作家との思い出も興味深い。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

まほろ駅前多田便利軒
まほろ駅前多田便利軒三浦 しをん

文藝春秋 2006-03
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おすすめ平均 star
star落ち着いたエンタテイメント
starなんとこの人は芸達者なんだろう
star古風で爽やかな物語

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東京の外れにあるまほろ市で便利屋「多田便利軒」を営む多田と、そこに転がり込んできた高校時代の同級生・行天が主人公。ペットの世話や塾に通う子供のお迎えといった依頼をきっかけに、二人は事件に巻き込まれる。現代家族が抱える問題を扱いつつも、多田・行天コンビの漫才のようなやりとりをはじめ、筆致はあくまで軽妙。それがこの気鋭作家の連作短編集の楽しさにつながっている。

多田が行天と久しぶりに再会するところから、物語は始まる。高校の授業中、行天が事故で小指を切断したことに責任を感じていた多田は、行く当てがないという行天を事務所兼自宅に引き取る。渋くてまじめな多田に対して、ハンサムだが変わり者の行天は一見対照的。しかし、熱い気持ちを秘めている点で二人は共通している。

親に愛されていないと感じて犯罪に加担していた小学生に、行天は言う。「与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる」。家族のきしみがもたらす様々な事件に、二人は「家庭内の他人」という立場で立ち向かう。

物語が進むにしたがい、多田と行天の二人も、家族に関してつらい過去を背負っていることが明らかになる。探偵モノにも似た痛快な「便利屋物語」である一方で、家族のあり方という重いテーマも突きつけている。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

現代経済学の誕生―ケンブリッジ学派の系譜
現代経済学の誕生―ケンブリッジ学派の系譜伊藤 宣広

中央公論新社 2006-04
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おすすめ平均 star
starマーシャル以降の現代経済学の再発見
star若手研究者による経済思想史
star良書です

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マーシャルとケインズの名前は多くの人が知っているだろう。しかし、二人の間にほかにも有力な経済学者がいて、活躍していた事実はどうだろう。私たちがそれを知らないのは、当時の英国の経済学が「ケインズ革命」といった括(くく)りで語られることが多く、今日までそうした状況に変化がないためである。

「革命」という言葉には、伝統の縦糸を断ち切り、新しい価値観に従ってゼロからつくり直すという響きが混じる。その結果、何が起こったのか。著者によれば、ケインズの名前ばかり前面に出るようになり、当時の他の経済学者はすっかり忘れ去られた。

そうした既成概念から離れ、当時の経済学者の業績を再検証、再評価してみようというのが本書の主題である。著者によれば、ケインズの中核をなす考え方の多くは、彼の独創ではなかった。「既知であったばらばらのピースを、より洗練された形で有機的な理論体系に統合した」。それこそ彼の真骨頂だった。

今年はケインズが亡くなってから六十年目にあたる。今日彼の名前で論じられていることの中には、同僚や弟子の考え方や理論も少なくない。それは体系化することに長じ、抵抗感なくそれをやってのけた彼自身の責任でもあったが、その理論を云々(うんぬん)する以上、ベールを取り去り、実像に迫る作業は避けては通れない。ケインズ経済学とは何だったかを再考する上で、本書は格好の手引きとなるだろう。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

経済財政諮問会議の戦い
経済財政諮問会議の戦い大田 弘子

東洋経済新報社 2006-05
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おすすめ平均 star
star小泉総理のリーダーシップ

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「骨太方針」なる奇妙な造語は、いまでこそ新聞紙上でふつうに使われるが、小泉政権が発足した当初は何のことだか分からない人がほとんどだった。正式には「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」。いわば小泉改革のよりどころだ。この方針をつくる舞台が首相が議長を務める経済財政諮問会議である。

著者は諮問会議の「台本作家」を三年強の間、務めた。任期付きの官僚任用制度で二〇〇二年春に大学教授から内閣府に転じ、〇五年夏までに四人の諮問会議民間議員の補佐・調整に奔走した。

それだけに、改革の方針が粗削りな段階から、誰の手でどういう経路を経て現実の政策に育っていくのかを克明に描いている。その領域は予算編成、税制改革に始まり、年金・医療や自治体の税財政改革、規制改革、郵政改革――と実に幅広い。首相が改革抵抗勢力と名指しした自民党の族議員やそれぞれの政策を直接担当する霞が関官僚との攻防劇の記録でもある。

著者を内閣府に引き入れたのは当時の竹中経財相だ。複雑な政策決定過程を首相主導に変えるには、毎回官邸で開く諮問会議の活用が手っ取り早いと考えて、脱官僚型の政策決定の演出役に抜擢(ばってき)した。

ことしの骨太方針が決まるのは七日。すでに竹中氏は担当を外れ、会議の運営にも潮目の変化が出ている。小泉政権後、諮問会議はさらに変質していくのか。それを予測するうえでも必読だ

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

Earthsong 地球の歌
Earthsong 地球の歌ベルンハルト エドマイヤー

ファイドン 2005-07
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おすすめ平均 star
star風景写真には見えない
star地球はやっぱりでかい!

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地球が誕生して約46憶年、対するホモ・サピエンスはたったの30万年。地上にはまだ人間の支配を受けない広大な土地がある。そんな場所を空中からダイナミックに撮っている。ガスを吹く活火山や塩沼、砂丘が日夜さまよう砂漠。今も激しく変容する惑星の生きた姿、美しさを堪能できる。地質学者アンジェリカ・ユング=ヒュッテルの解説つき。写真はニュージーランドのフランツ・ヨーゼフ氷河。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

白洲次郎 占領を背負った男
白洲次郎 占領を背負った男北 康利

講談社 2005-07-22
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star戦後の坂本龍馬か。
star日本人はもっと「白洲次郎」を知るべきだ
star「手垢のついていない言葉!!」

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風の男 白洲次郎
風の男 白洲次郎青柳 恵介

新潮社 2000-07
売り上げランキング : 615

おすすめ平均 star
star坂本龍馬より絶対偉い
star是非読んでほしい人物です。
star白洲次郎氏の入門書!

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プリンシプルのない日本
プリンシプルのない日本白洲 次郎

新潮社 2006-05
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おすすめ平均 star
starことばに出して実行する凄さ

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終戦直後にGHQとの交渉に当たり、その後は貿易庁(現経済産業省)の初代長官、東北電力会長などを歴任した白洲次郎(一九〇二―八五年)。GHQに「従順ならざる唯一の日本人」と言われた彼の生涯や発言を紹介した本が、ここに来て人気を集めている。

最近の白洲本ブームのきっかけとなったのが、昨年八月刊行の北康利『白洲次郎< 占領を背負った男』(講談社)。銀行系証券に勤務する著者が、日本が占領されていた時期の白洲の活躍を中心に、その人生を追いかけた評伝である。

留学などで七年間過ごした英国仕込みの流ちょうな英語で、米軍相手に主張すべきところは主張した様子が描かれている。GHQのホイットニー民政局長に英語をほめられた時には、「閣下の英語も、もっと練習したら上達しますよ」と答えたほどだ。

今春にはNHKのテレビ番組「その時歴史が動いた」で白洲次郎が取り上げられたこともあり、発行部数は十万部を突破した。「白洲次郎はノブレス・オブリージュ(高い身分に伴う義務)の格好良さを体現した人であり、独特の壮快感を持つ。政界や財界にヒーローがいない現代にあっては、あこがれの存在に映るのだろう」と北氏は見る。

生前の白洲を知る文芸評論家の青柳恵介氏による評伝『風の男 白洲次郎』(新潮文庫)も、ロングセラーを続けている。特に今年に入ってから売り上げを伸ばしており、発行部数は二十三万部を超えた。白洲が雑誌などに発表した文章や対談を収めた『白洲次郎 プリンシプルのない日本』(同)も、文庫化一カ月で十四万部に達している。

編集担当の小林加津子氏は「次郎さんは権力者に対しても歯に衣(きぬ)着せぬ物言いをした。今はそんな大人が減っていることもあって、人気を集めているのではないか」と話す。読者の多くは三十―四十代以上の男性で、妻で文筆家の白洲正子の読者が女性中心であるのとは対照的だという。

さらに「憲法改正論議が盛んになってきたことも、(憲法制定をめぐってGHQとやりあった)白洲次郎への注目につながっている」(北氏)。白洲をめぐる本は戦後史を知る上での、貴重な参考書にもなっているようだ。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

行動経済学 経済は「感情」で動いている
行動経済学 経済は「感情」で動いている友野 典男

光文社 2006-05-17
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おすすめ平均 star
star人間の意思決定総論
starマーケッティングにも応用できる
starわたしにもわかります!!

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標準的な経済学では、人間は感情に左右されず、冷徹な合理的判断と自制心を持って、自己利益の最大化を目指すと仮定される。これに対して、最近注目されている行動経済学では、認知心理学などの知見を取り入れ、感情に揺れ動き、他人を気遣い、時に間違った判断をし、時に自制できない普通の人間像を想定して、経済学の再構築、拡充を試みている。

この分野は欧米を中心に一九八〇年代から発展してきたが、二〇〇二年度のノーベル経済学賞を認知心理学者のダニエル・カーネマンが受賞して一気に弾みがついた。新書ながら本書のような行動経済学の本格的入門書が日本人研究者によって出版されたことは喜ばしい。

本書は、カーネマンと故トヴェルスキーによる三つの受賞対象研究を、最近の発展までも視野に入れて、厳密性を維持しつつ、わかりやすく解説している。また、非合理とも見える衝動的行動を説明する「双曲割引」や関連テーマについて、批判的な文献も取り上げて詳説している。さらに、利他心など人間生来の社会的選好に関しても、実験ゲームの膨大な研究結果を手際よく紹介している。

最終章では、脳科学との共同研究である最先端の「ニューロエコノミックス」を取り上げ、意思決定が「理性と感情のダンス」に他ならないことを示唆する脳画像を駆使した諸研究を興味深く紹介している。若干性急との印象を拭(ぬぐ)えないが、人間の進化的特徴と、社会文化の発展との相互依存関係を探る最新研究にも言及している。

ただ欲をいえば、標準的な経済学の、条件付き最大化に対応する行動経済学の基本パラダイム(枠組み)とはなんであるか、行動経済学の政策的意義、さらには行動経済学に対するあり得べき批判について、もう少し突っ込んだ議論が欲しかった。

しかしこれだけまとまった行動経済学のテキストは、日本はいうに及ばず海外でも類を見ない。巻末に膨大な参考文献もあり、一般読者だけでなく、この分野に興味をもつ学生や専門家の要求にも十分応えられる内容を持った力作である。 (光文社新書・九五〇円)【早稲田大学教授 晝間文彦】

▼ともの・のりお 54年生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授。専門は行動経済学、ミクロ経済学。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

京大探検部「1956‐2006」―部創設50周年記念出版
京大探検部「1956‐2006」―部創設50周年記念出版京大探検者の会

新樹社 2006-03
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一九五六年に創部した日本初の大学探検部の元メンバーらが五十年の歴史を振り返った。梅棹忠夫、川喜田二郎ら歴代の顧問が創設当時の熱気を回想し、本多勝一、石毛直道ら多彩な元学生部員は、ヒマラヤやトンガなどへの探検調査行の一部始終をつづる。海外渡航が制限されていた時代から綿々と続く、未知へのあこがれと学術的探究がセットになった「探検精神」のありようがいきいきと伝わってくる。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

川崎病は、いま―聞き書き川崎富作
川崎病は、いま―聞き書き川崎富作細川 静雄 原信田 実

木魂社 2006-06
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患者の五%に心臓障害が起こる小児疾患「川崎病」。今も患者は増え続けており、年間一万人に達するという。治療法は確立されつつあるが、原因は特定されていない。その発見者である小児科医の川崎富作氏が、謎の病気と格闘した四十五年間を中心に、自らの人生を振り返った。一九六二年に発見された「新しい病気」は、学会での大論争を経て、世界的に知られるようになる。「僕の今の主たる関心事は、『川崎病の原因の究明』に尽きます」と、八十一歳の今も情熱は全く衰えていない。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

殿様の通信簿
殿様の通信簿磯田 道史

朝日新聞社 2006-06
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江戸時代前期、諸大名の行状を記した書物「土芥寇讎記(どかいこうしゅうき)」が書かれた。隠密の諜報を基に幕府高官がまとめたものとみられる。歴史家で茨城大助教授の著者がこの書物をひもとき、取材を加えて後世に名を残した大名ら八人の知られざる姿を描いた。お忍びでしばしば町に出て、酒宴に興じた徳川光圀。女癖が悪かった浅野内匠頭。「安定した豊かな時代になると、人間はひたすら個人の享楽世界にのめり込む」。現代の日本社会にも通じる教訓のようなものが垣間見える。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

サイバー監視社会―ユビキタス時代のプライバシー論
サイバー監視社会―ユビキタス時代のプライバシー論青柳 武彦

電気通信振興会 2006-05-01
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star一度読むべし

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全国で防犯カメラを設置する動きが広がっている。実際、長崎の幼児誘拐殺人事件のように、カメラが犯人の割り出しに重要な役割を果たすケースもあった。しかし、そうした監視社会は、同時に私たちのプライバシーを監視する社会という側面も併せもっている。監視のまなざしとプライバシーの擁護をどのように両立させるべきなのか――。現代社会が抱える難しいテーマに果敢に取り組んだ著者の意欲を評価したい。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

バブル文化論―“ポスト戦後”としての一九八〇年代
バブル文化論―“ポスト戦後”としての一九八〇年代原 宏之

慶應義塾大学出版会 2006-05
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おすすめ平均 star
starわれわれは、踊り、踊らされたのか?

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一九八〇年代末に花開き、数年でしぼんだ「バブル文化」とは何だったのか。著者はそれを戦後文化と断絶したポスト戦後文化の誕生と位置づける。虚構が夢を生み、生まれた夢が目の前で実現していく「お祭り」のような日々。その構造を社会理論と具体的事象の両面から解析していく。素材となるテレビ番組やファッション雑誌などメディア現象の選択に、この時代に青春期を送った著者の実感がうまく生かされている。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

極上 歌丸ばなし
極上 歌丸ばなし桂 歌丸 山本 進

うなぎ書房 2006-05
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今年は芸歴五十五年、レギュラーを務める「笑点」四十周年、八月には七十歳となる記念の年。そこで、「デコボコの半生を振り返る」自伝を出版した。

「小学四年で落語家になろうと決めて以来、好きなことでおまんまが食べられてるんだから幸せだね。その分、勉強しなきゃと思う。大喜利の歌丸で終わりたくない、落語家として通用したいという思いもあった」

それが一九七四年から、横浜の三吉演芸場で始めた独演会に結実する。年五回、毎回二席ずつ三十年間、古典落語に挑み続けた。師匠の古今亭今輔は新作派だったが、「新作でも基本は古典だ」と言い、ずいぶん古典のけいこを付けてくれたという。「だから、古典へ移るのに抵抗はなかった。ただ、『殿』と言うところを『社長』と言っちゃったり最初は苦労した」と笑う。

埋もれた噺(はなし)の発掘や、近年は三遊亭円朝の「怪談牡丹燈籠」「真景累ヶ淵」などに取り組み、成果を上げている。「噺をいったんバラバラにし、現代に通じない事柄はカットし通じるものをはめ込んでいく。自分なりに変えられるのは『新作をやってた強みだ』って楽太郎さんに言われた」

落語芸術協会の会長になって三年目。「余計な口出しはせず、みんなの意見を聞いて進めていく」という就任時の姿勢を貫く。五月に腰痛の手術をした。決心させたのは会長、「笑点」の司会者、そして円朝噺の継承者という三つの大任を全うするためだった。

さて、落語ブームといわれる昨今、寄席にも若いお客が増えている。「今こそ落語は面白いもんだと印象付けないと。そのためにも落語家は一つでも多く自分のネタを持たないとダメ。落語を残していくのも、落語好きのお客を残していくのも落語家の責任ですから」。独演会の丁寧な記録まで収めた自伝に落語を背負う気概がにじむ。(うなぎ書房・二、〇〇〇円)

(かつら・うたまる)1936年横浜市生まれ。中学3年の秋に5代目古今亭今輔に入門、のちに4代目桂米丸門下へ。68年真打ち昇進。2004年落語芸術協会会長に就任。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

仏教の名随筆〈1〉
仏教の名随筆〈1〉国書刊行会編集部

国書刊行会 2006-06
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書で見る日本人物史事典
書で見る日本人物史事典坪内 稔典

柏書房 2006-06
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仏教に関する作家たちのエッセーを集めた『仏教の名随筆』(国書刊行会、全二巻)の刊行が始まった。第一巻では「仏教は古いどころか常に新鮮である」と語る岡本かの子「仏教の新研究」をはじめ、武者小路実篤「幸福な生き方」、中野重治「平泉 金色堂 中尊寺」などを収録。七月刊行の第二巻では与謝野晶子、種田山頭火、井伏鱒二らの作品を収める。各二千二百円。

書を通して歴史上の有名人の人間像をあぶり出すことを試みた『書で見る日本人物史事典』(柏書房)が刊行された。聖徳太子、空海、源頼朝、足利尊氏、小林一茶、夏目漱石、手塚治虫などの為政者、宗教家、文化人などの中から百二十三人の書と解説を掲載。自信、余情、品格など、書ににじみ出た人間性が見える。監修は坪内稔典仏教大学教授。

■2006/07/02, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石
ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石河原 温

中央公論新社 2006-05
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中世欧州の商業・文化の中心地として繁栄した、ベルギーの古都ブルージュの歴史と文化をたどる。市内にまで整備された水路網を通じて各地からヒト、モノが集まったこの都市は、一大金融市場としても発達し、富の集積はルネサンス期、ファン・エイク、メムリンクらのフランドル絵画に結実した。欧州連合(EU)の時代に再び政治的中心として浮上している小国ベルギー。その魅力を知る手がかりを与えてくれる。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

赤ちゃんは世界をどう見ているのか
赤ちゃんは世界をどう見ているのか山口 真美

平凡社 2006-05-11
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言葉を話せないため未知の部分が多い赤ちゃんの視覚について、心理学者の著者が十年あまりの研究成果をまとめた。人の顔を見分け、映像の奥行きを感じるといった能力を、赤ちゃんは生後八カ月の間に身につける。脳の発達とともに、同じ世界でも見え方がまるで違ってくることが分かる。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ウルトラマン誕生
ウルトラマン誕生実相寺 昭雄

筑摩書房 2006-06
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四十周年を迎えた「ウルトラマン」の草創期の制作現場を振り返った。著者が「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で計十本の作品を監督したいきさつや、「シュワッチ」という声の由来、限られた道具で説得力のある特撮映像を生み出す苦労をエピソードを交えて明かす。豊富なイラストも楽しい。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

日本語の歴史
日本語の歴史山口 仲美

岩波書店 2006-05
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種類が膨大で読み方が多様な漢字と、独自の工夫が生んだ二種類のかなを組み合わせた日本語は、習得が難しい言葉だといわれる。だが、著者の導きでその歴史を振り返ると、現在の日本語が、血の通った文章を書くのに向いたすぐれた言語であることが分かる。

平安貴族の男性は「漢文」を書くのが素養だった。その時代に女性を中心に発達したひらがな文は、日本語に革命をもたらした。話し言葉で文章が書けるようになったことだ。「源氏物語」や「枕草子」は、日本語の発達が生んだ名作だったのだ。近代語形成の起点は、「アナタ」「ワタシ」などの人称代名詞、「おっしゃる」などの敬語表現が生まれた江戸時代にあった。明治以降は、話し言葉と書き言葉によるせめぎ合いの歴史を経て、漢字かな交じり文による言文一致の現在につながる。その結果、現代人は話し言葉で思うように文章を書けるようになったのである。

本書は、現代人が日ごろ当たり前に使っている日本語について、一から考え直させてくれる好著だ。鎌倉時代、主語を示す「が」の登場が日本語の論理性を高めた例などは、「あいまい」の一言で片づけがちな日本語観にクギを刺す。カタカナの外来語を日本語の乱れと指摘して安易に漢語に置きかえるだけが正しいあり方ではないことなど、現代日本語を巡る課題についても、根拠をきちんと提示して教えてくれる。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

さざなみ情話
さざなみ情話乙川 優三郎

朝日新聞社 2006-06
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男女が結ばれるまでに大きな困難があるのが恋愛小説の王道。この直木賞作家の新作時代小説では、遊女という境遇が最大の壁となる。たとえ年季が明けたとしても、身請けするには多額の金が必要になるからだ。くじけそうになりながらも、いっしょに暮らせる日を夢見て、必死で生き抜く男女の姿は胸に響く。

主人公の修次は小さな高瀬舟の船頭。いとこと二人で、銚子から江戸・日本橋までしょうゆや魚油を運んでいる。渇水期の川は浅くなるので、人力で船を「歩かせる」必要があり、重労働となる。漁師だった父と兄は遭難死しており、修次が母と家に引きこもり気味の妹を支えなければならない。

修次が無理して船を手に入れたのは、仕事の途中で立ち寄る松戸の遊女、ちせのためだった。彼女の素直さにひかれた修次は、「奉公」が終わる四年後までに金をため、請け出したいと考えたのだ。やがてその期限が近づく。しかし、ちせを身請けしたいという裕福な男が登場し、修次は不利になる。いとこも船を買って独立すると言い出し、商売の先行きにも暗雲が垂れ込める。追いつめられた修次はある決断をする。

日々の生業(なりわい)をこなすことに苦しむ中、修次との逢瀬(おうせ)につかの間のやすらぎを見いだし、未来への希望をつなぐちせ。抑制された静かな筆致によって、どん底に生きる人々のたくましさや力強さを描き出している。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

日銀はだれのものか
日銀はだれのものか中原 伸之

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本書は一九九八年四月初めから二〇〇二年三月末まで日銀審議委員を務めた中原伸之氏の、主に金融政策に関する回想録である。金融政策決定会合を巡る、人間模様が記されている。中原氏が日本経済の直面したデフレ不況をいかに深刻なものと判断していたかは、本書に詳しい。

九八年六月に金利引き下げを提案して以来、九九年二月のゼロ金利、二〇〇一年三月の量的金融緩和に至る金融緩和策を先導してきた。中原委員の提案はほとんどの場合、一対八で否決されてきた。中原氏は二〇〇〇年八月のゼロ金利解除にも強く反対した。

その間、当時の速水優総裁ら日銀執行部との景気認識や政策対応を巡る溝が深まっていく。光栄ある孤立を保った提案は否決され続けたが、最後は執行部が中原提案を追認していった。日銀事務方は遅すぎて小出しすぎるというのが、中原氏の批判である。

本書でも速水総裁に対する筆致は容赦ない。その一方で、随所で連絡をとっていた小渕恵三首相については、「こちらの言うことはよく聞いてくれる人」と振り返る。

中原氏に日銀審議委員就任を要請したのは、本書によれば当時の福井俊彦副総裁(現総裁)という。その福井氏は大蔵省・日銀接待汚職事件の責任をとり、中原氏の審議委員時代には日銀を去っていた。もし福井氏が当時の日銀にいたら、中原提案はどう扱われていただろうか。藤井良広聞き手・構成。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

KOBE 1995 After the Earthquake
鈴木 明 (著), 宮本 隆司 (写真)

確かにあると信じていた世界が一瞬のうちに崩れてしまった。虚無とも悲しみとも違う、立ちすくむような感覚は、実際にあの大震災直後の神戸に立った人間でなければわからないだろう。廃虚の写真で知られる著者は、被災地を「記録」しようとはしていない。まさしく世界の崩壊の感覚、予感にカメラを向けた。11年を経て、作品はよりリアリティーを増して見える。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

芸術都市の創造―京都とフィレンツェの対話
芸術都市の創造―京都とフィレンツェの対話今道 友信 岡野 弘彦 高階 秀爾

PHPエディターズグループ 2006-06
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ともに芸術都市である京都とフィレンツェの姉妹都市提携四十周年を記念する二つのシンポジウムをまとめたのが本書。芳賀徹・京都造形芸術大学学長は「戦後、我々は過去を犠牲にして現在を享受してきた。しかしこれからは、現在を犠牲にして、ひたすらに過去を守る」必要があると説き、高階秀爾・大原美術館館長は、日本の伝統である「文字と絵が一体となって表現される世界」の豊かさを見直すべきだと主張する。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

色で読む中世ヨーロッパ
色で読む中世ヨーロッパ徳井 淑子

講談社 2006-06-10
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ヨーロッパの聖堂を鮮やかなステンドグラスが飾った十二世紀。カラーの挿絵入りの書籍が制作されたり、美しい染織品が日常を彩ったりと、色は一気に人々の生活を豊かにし始めた。本書は、「色」をキーワードに中世ヨーロッパの生活や文化を読み解いた一冊だ。ブリューゲルが絵画に描いた青いマントは欺瞞(ぎまん)を表し、騎士物語の中で登場する緑の騎士は破壊を象徴するなど、美術や文学から色に関する様々な話題を抽出し、やさしく論じている。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

社会運動の力―集合行為の比較社会学
シドニー タロー (著)

フランス革命から現代の国境を越えた環境・人権保護運動まで、共通の目的を持つ人々の集合体による運動の歴史を探る。著者は米コーネル大で教べんを執る政治社会学者。最初は無秩序で分散した動きが、地域の文化や経済状況などの違いによって様々な形態の運動に発展する仕組みを分析する。大畑裕嗣監訳。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

和歌文学の基礎知識
和歌文学の基礎知識谷 知子

角川学芸出版 2006-06
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「和歌は、日本人が自然や人間の心情を理解し、解釈するための装置」だったと著者はいう。例えば「掛詞」は、人間の心と自然の事物が横並びになって二重の文脈を織りなす。著者は、そこに日本人の自然観を読み取る。本書では、七世紀に編まれた万葉集に始まり、平安時代の古今和歌集や鎌倉時代の新古今和歌集、さらには江戸時代まで下って和歌の変遷をたどる。「枕詞(まくらことば)」や「序詞」といった修辞法もかみ砕いて説明。和歌の魅力を分かりやすく解説する。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ミュージアム・マーケティング
フィリップ コトラー (著), ニール コトラー (著)

美術館・博物館が直面する多くの課題に回答とヒントを与える好著。減少する公的資金に代わる資金調達の方法、利用者のターゲティング、効果的な広告の出し方、展覧会の価格の決め方など、運営に携わる人々にとって有益な具体的データがシカゴ美術館やボストン科学博物館といった米国のミュージアムを例に示される。著者の一人フィリップ・コトラーは、企業だけでなく非営利組織にもマーケティングの理論を広げてきた第一人者。すべてが日本の環境にはなじまないだろうが、文化施設に適用が進む「市場原理」の基本的な理解のためにも役立つ。井関利明・石田和晴訳。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

財政投融資
財政投融資新藤 宗幸

東京大学出版会 2006-05
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巨大な政府金融システムである財政投融資――。近年その大きさは年間の投融資規模で四十兆円、残高で四百十七兆円に達していた。資本主義国では例外的な存在でありながら、日本の経済運営の中核を担った財政投融資は、「二〇〇一年改革」をきっかけに歴史的な変革に直面している。

本書はここに至るまでの展開を行政学の視点から分析している。これまでも制度の解説や、制度の一部に注目した経済学的な書物や論文は少なくなかった。これに対し、本書は制度の全体像を詳細に検討すると共に、制度が変質し、硬直していく過程、すなわち「制度化」していく過程を、経済発展の歩みと共に考察するという独自の手法をとっている。この点は貴重であり、高く評価したい。

財政投融資を巡っては、かねてから資金の流れが複雑で、運営に関する情報が入手しにくいため、多くの問題が闇の中に置かれたままとなっていた。本書はそれらの問題の幾つかを「構造的欠陥」の例として俎上(そじょう)にのせ、特殊法人の増殖や一般財政の拡張を可能にしたメカニズムを明らかにすると共に、官僚と政権党との「協働」作業の中で、政策金融が拡充されていく過程を照らし出すことに成功している。

特に近年は郵貯などから流入してくる潤沢な資金を、「安全確実な運用」と称し、国債や地方債の大量購入に向かわせる流れが定着した感があるが、著者はこの仕組みこそ、財政赤字を膨張させ、泥沼化させたと批判している。

一方、市場経済にはもともと不確実性が内在するため、政策金融機関の、長期の安定的資金が必要になるという構造的な側面がある。しかし、そうした側面に関する本書の検証は、十分とは言えない。著者は政府機関の独立行政法人化を組織の「衣替え」に過ぎないとみるが、それなりに改革が進んだ面もあり、より客観的、実証的な分析が必要なのではないか。

いくつか注文はあるものの、本書は読み応えがある書物であり、日本の経済や政策決定の分析に関心を寄せる各層の人々に、広く活用され、政策論議や研究が前進することを願って止まない。(東京大学出版会・二、六〇〇円)]

▼しんどう・むねゆき 46年生まれ。千葉大学教授。著書に『技術官僚』など。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

神話と歴史
神話と歴史直木 孝次郎

吉川弘文館 2006-05
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江戸ッ子
江戸ッ子西山 松之助

吉川弘文館 2006-05
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室町戦国の社会―商業・貨幣・交通
室町戦国の社会―商業・貨幣・交通永原 慶二

吉川弘文館 2006-06
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歴史書出版の吉川弘文館が、在庫切れリストの中から学術的評価の高い十三冊を選んで復刊する「歴史文化セレクション」の刊行を始めた。既刊は江戸文化の担い手であった「江戸っ子」の成立を独特の都市条件に求めた西山松之助『江戸ッ子』(千七百円)など計三冊。今後の出版予定は村上重良『国家神道と民衆宗教』、児玉幸多『近世農民生活史』など。毎月一冊ずつ刊行する。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

岩波漢詩紀行辞典
岩波漢詩紀行辞典竹内 実

岩波書店 2006-05
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屈原、李白、杜甫、魯迅、毛沢東ら多彩な詩人の作品を収めた『漢詩紀行辞典』(岩波書店)が刊行された。西湖、蘇州、中原など八十カ所の地名を項目に、その地にゆかりのある三百三十の詩を紹介。地名の情報、訓読、注、解説、現代語訳、編著者の竹内実・京都大学名誉教授の紀行で構成しており、漢詩を多面的に鑑賞できる。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

お茶は世界をかけめぐる
お茶は世界をかけめぐる高宇 政光

筑摩書房 2006-05
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創業七十年の茶葉販売店三代目店主が、日本茶の近現代史を十五年かけて調べ上げ、本にまとめた。

調査で茶葉の生産地を訪ねるうち、「各地域によって特色のあるお茶があることに驚いた」という。商品として流通させる煎茶(せんちゃ)ではなく、生産者が自ら飲むために作る番茶。豆茶や柿の葉茶など茶葉以外の植物から作られた茶も多く、釜炒りしたり煮たりと製法は多岐にわたる。

ところが、その作り手がほとんど七十歳以上であることに、大きなショックを受けた。「このまま受け継がれなければ、先祖代々伝えられてきた番茶は消えてしまう。伝統ある地域の茶文化を残したい、という危機感が本を書くきっかけになった」と語る。

それゆえ、世界を巡る華々しい歴史を追う一方で、その影に埋もれゆく番茶の姿をやさしく書き留める。煎茶は十八世紀中ごろに誕生し、明治に入って米国や欧州など外国への輸出品目として着目され、盛んに生産奨励される。一方の番茶は、輸出できない異物混入の贋茶(がんちゃ)として敬遠された。

以降、番茶は農家が自ら飲むお茶として細々と生産されるにとどまった。「政策としては正しかったのかもしれないが、結果的に地域の茶文化を破壊してしまった」

世界を巡った煎茶は一九六〇年代後半になり、日本に帰る。高度成長に伴い、大衆の所得が増えるに連れ、煎茶の消費量は急増した。一方、番茶はというと、農家の若者が続々と都会に出て働き始め、作り手そのものを失ってしまう。

「地域の多様な食文化を大切にしてこそ、豊かな食文化が根付いていくのだと思う。この本が問題意識を高めるきっかけになればうれしい」と話す。

今後、生産地の調査をさらに進め、番茶の置かれている実態をより詳しくまとめた本を書くつもりだ。

■2006/06/25, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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