メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年5月28日~6月4日
| 漱石の孫 | |
![]() | 夏目 房之介 新潮社 2006-04 売り上げランキング : 4622 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
夏目漱石の孫で漫画コラムニストの著者が、テレビ番組の収録でロンドンを訪れる。約百年前に留学した祖父の下宿先に足を踏み入れた際、文学論と格闘する漱石の後ろ姿が思い浮かび、長い思索が始まる。実際には会ったことのない漱石に改めて向き合い、父から聞いたエピソードを思い出しながら人物像に迫っていく。「文豪の孫」として自分をみる周囲に反発しながら、少しずつ事実を受け入れてきた自分史についても語る。
| イッツ・オンリー・トーク | |
![]() | 絲山 秋子 文藝春秋 2006-05 売り上げランキング : 13824 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「沖で待つ」で今年芥川賞を受賞した作家のデビュー作。表題作は東京・蒲田に暮らす画家の女性の、大学同窓の都議会議員、うつ病のヤクザ、出会い系サイトで知り合った痴漢、居候のいとことの交流を、テンポのよい筆致でつづっている。乗馬仲間だった男女の恋愛を描いた「第七障害」を併録。
| 巨大地震の日―命を守るための本当のこと | |
![]() | 高嶋 哲夫 集英社 2006-03 売り上げランキング : 110422 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 「坂の上の雲」と日本人 | |
![]() | 関川 夏央 文藝春秋 2006-03 売り上げランキング : 7577 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』をテキストに、明治以降の近代日本の歩みを追った。作品に刺激を受けて縦横無尽に広がる著者の解説を通じ、日露戦争(一九〇四―〇五)に至る時代の諸相が明らかになっていく。
旅順攻略戦、日本海海戦など小説のハイライトを取り上げて、当時の日本が取り組んでいた近代化の実態に切り込む。満州(現・中国東北部)での日本軍の進撃は、戦略施設としての鉄道整備が支えていたこと。米食偏重の日本軍がかっけに苦しめられた一方、ロシア軍はビタミンCの欠乏による壊血病が広まっていた事実を通じ、近代戦は栄養補給の戦いでもあったと指摘するなど、ユニークな着眼点が続く。
著者はさらに司馬の他のエッセーなども引用しながら、『坂の上の雲』の時代と、実際に執筆された時代の持つ共通点までを読み取ろうとする。明治維新と太平洋戦争の敗戦。どちらの時代も大きな変革の波が押し寄せた後、新たな社会の仕組みを作りだそうとした時期にあたる。戦後人は『坂の上の雲』によって、かつての明治日本が体験した「オプティミズム(楽天主義)」を歴史的記憶として学び直したと、著者は説く。
本書は若手編集者を集めて実施したレクチャーの記録を再構成したもの。日露戦争だけでなく、司馬遼太郎さえもが歴史上の人物になった世代にも、手に取りやすい読み物に仕上がっている。
| 反社会勢力からの企業防衛 経営者のための法務対応マニュアル | |
![]() | 民暴実務研究会 日経BP社 2006-05-11 売り上げランキング : 628 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
総会屋や暴力団などの反社会的勢力から、法律を盾に会社を守るにはどうすべきか。民事介入暴力に詳しい弁護士たちによる実践的な解説書である。難解な法解釈ではなく、豊富な実務経験や資料に基づき、有名な事件の分析も交えて分かりやすく書いてある。テーマに関心のある読者なら一気に読了しそうだ。五月に施行された会社法の活用法も具体的である。
特に読み応えがあるのが第四章。いわゆる「敵対的買収」ならぬ、「反社会勢力からの『買収・乗っ取り』に対する企業防衛」を取り上げ、処方せんを上場企業と中小企業に分けて示している。上場企業については買収提案者に情報開示を要求する「属性スクリーニング・パッチ」の概要と意義を詳述。松下電器産業や新日本製鉄など大企業が導入した防衛策と照らし合わせながら読むと興味深い。
株式に譲渡制限を設けている中小企業でも、反社会的勢力と無縁ではいられないことも力説した。オーナー経営者が亡くなり、株式を相続した子息に暴力団関係者が絡んできたら……。暴力団が関係するフロント企業に会社が吸収合併されたら……。切実なQ&Aを設定したうえで、会社法の活用法を説く。
新株予約権を利用した毒薬条項(ポイズンピル)や拒否権付種類株式(黄金株)など防衛策への理解も深まる。会社の総務、法務などの部門に配属された社員には好適の入門書といえそうだ。
| 世界を数式で想像できれば―アインシュタインが憧れた人々 | |
![]() | ロビン アリアンロッド Robyn Arianrhod 松浦 俊輔 青土社 2006-04 売り上げランキング : 1675 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現代の物理学が描き出す世界には、我々が普通の感覚で理解することが難しいものが多い。「宇宙はビッグバンで生まれた」と言われても、直接には確かめようがない。この本を読むと、そんな違和感を覚えるのも無理はないと思う。物理学の方が途中で手口を変えて「現実離れ」した世界を次々生み出すようになったのが真相で、我々の頭が悪いせいではないのだ。
オーストラリアの数学者である著者によれば、物理学の今日の発展は、その「言語」に数学を使ったことによるという。方程式が数学の論理に従って結果を紡ぎ出し、未知の存在や関係性が導かれる。ブラックホールも、量子力学の世界での不思議な現象も数式から結論づけられた。
数学や数式は物理学には元来つき物との印象が強い。しかし著者によれば運動方程式を駆使したニュートンの場合でも、自然現象を記述する手段にとどまっていた。
転機は十九世紀後半、電磁気現象の方程式で有名な英国のマクスウェルの登場だという。この方程式から電磁波の存在が理論的に予言され、数年後に実験で証明された。この流儀を継承したアインシュタインは数式から常識を覆す宇宙像を見いだしていくことになる。物理学の大きな流れがつかめるという点でも有益な本だ。数式も少なからず出てくるが、総じて平易な説明だ。物理学の歴史で重要な革命の様子を追体験する醍醐味(だいごみ)が味わえる。松浦俊輔訳。
| 地球の食卓―世界24か国の家族のごはん | |
![]() | ピーター メンツェル フェイス ダルージオ Peter Menzel TOTO出版 2006-05 売り上げランキング : 11563 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
米国の写真家とジャーナリストの夫婦が、世界24カ国30家族の「食」を記録した。難民キャンプから超大国まで、一家族の食卓に上がる1週間分の食材や栄養面、食文化に至る報告は、とりもなおさず富める国の過食ぶりを告発する。栄養過多の時代、日本の「腹八分」の発想こそ秀逸と著者は結んでいるが、耳が痛い。写真はブータンの一家。13人家族1週間分の食費は594円なり。
| SIGHT (サイト) 2006年 07月号 [雑誌] | |
![]() | ロッキング・オン 2006-05-31 売り上げランキング : 713 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
主に音楽、映画などの話題を扱ってきた季刊雑誌「SIGHT」(ロッキング・オン)が五月末に誌面を一新、政治や思想、社会問題に軸足を置く総合誌として再出発した。憲法改正や日中、日韓関係の行方に関心が集まり、新書『国家の品格』がベストセラーになる昨今。「硬派」な話題へのニーズが高まっているという読みが、雑誌の世界にも広まってきたようだ。
「最近の論壇誌は物事をエモーショナル(感情的)にとらえすぎ。もっと冷静で知的な議論、分析を求める読者は多いはずだ」。一九九九年の創刊時からSIGHT編集長を務める音楽評論家の渋谷陽一氏(54)はリニューアルの動機をこう語る。ロック音楽や漫画などサブカルチャーを中心にした誌面作りからの転換に伴い、判型も他の論壇誌とほぼ同じサイズに縮小。二〇〇六年夏号として五万部を発行した。
巻頭特集は「小泉靖国参拝で日本は何を失ったか」。田中秀征・元経済企画庁長官と藤原帰一・東大教授の対談や加藤紘一・元自民党幹事長のインタビューなどを通じ、靖国神社への首相参拝が日本のアジア外交の障害になっている現状を分析する。
雑誌全体を貫くテーマは「リベラルに世界を読む」。靖国参拝についても、批判的な立場からの論調だ。「最近のオピニオン誌では保守的な主張が目立ってきている。それとバランスを取るためにも、リベラルな考えを表明する場がもっと必要だと感じた」(渋谷編集長)という。得意のサブカルチャーについても引き続き取り上げ、他誌との違いを出す。最新号では米国のロックを代表する歌手ニール・ヤングのインタビューを掲載。詩人の長田弘氏がポピュラー音楽の歌詞を論じる連載エッセーも始まった。
「特に社会で中心的な役割を果たしている四十、五十歳代には、批評的な視点を提供する雑誌へのニーズが確実に存在している。既存の総合誌だけではそれに応えきれていない」と渋谷編集長は話す。
ほかにも講談社が二月に不定期の雑誌「RATIO」を創刊し、アジアのナショナリズムを特集した。散発的な動きではあるが、ニーズを掘り起こすほどの、新鮮な視点や論調を生み出せるかが問われている。
| 脳をめぐる冒険 | |
![]() | 竹内 薫 藤井 かおり 飛鳥新社 2006-04 売り上げランキング : 1668 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近話題になっている脳の世界を、ファンタジー小説の形で紹介している。主人公の「カオル」は、不思議な少年「アキラ」に連れられ、自分の脳の中を探検する。脳細胞が死んでいくのを悲しみ、「左脳ホテル」の“ウェルニッケ野”では言葉を担当する気難しげなおじさんに出会い、右脳では担当のお姉さんのドジぶりにほほ笑む。最後には「アキラ」の意外な正体が明らかに――。楽しみながら、脳の基礎知識に触れることができる。
トチ餅は東京産―その味は遙かなる縄文とのきずな
濱屋 悦次 (著)
トチの実に魅了された農学博士の著者が、トチもち作りを通して日本の食文化の歴史を縄文時代までさかのぼる。強烈な苦みがあるトチの実を食べるには大変な労力と工夫が必要だが、そこまでして食用にしたのはなぜか。主食のクリの実が病害虫で激減し、生き延びるためにトチの実を食べざるを得なかったと推察する。苦みを取り除こうとする著者の悪戦苦闘ぶりとその方法も紹介。トチの実をめぐる実践と理論のドキュメントだ。
| 海に眠る船 コロンブス大航海の謎 | |
![]() | クラウス・ブリングボイマー クレメンス・ヘーゲス シドラ 房子 ランダムハウス講談社 2006-05-25 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
副題は「コロンブス大航海の謎」。一九九六年、パナマ沖の海底で難破船が発見された。その船がコロンブスが米大陸に渡った船ではないかとの検証を端緒に、航海日誌や手紙、裁判記録などを分析しながらコロンブスの人生をたどる。大嵐が来るのを読んだり、いい航路を見つけたりと優れた能力を持つ航海者だったことを示す一方で、現地人虐殺などにも言及している。シドラ房子訳。
| 建築家の本 まちへ―都市・景観を考える | |
![]() | JIA『建築家の本 まちへ』編集チーム 日刊建設通信新聞社 2006-05 売り上げランキング : 148770 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
戦後の日本では、なぜ美しいまちづくりができなかったのか。その理由をひもときながら、内藤廣、隈研吾ら多くの建築関係者が打つべき手を模索する。討論による第一部とテーマを深掘りした第二部で構成。防犯、複雑系、自動車など多彩な視点で語り、建築家自身のあり方にも言及する。「都市」ではなく「まち」と身近な呼び方をすることで住人による主体的なまちづくりを提示する点などは、住人の意識も喚起する。
| いまこの国で大人になるということ | |
![]() | 苅谷 剛彦 紀伊國屋書店 2006-05 売り上げランキング : 1659 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「大人になる」をキーワードに、文学、経済学、心理学など様々な分野の専門家十六人が思い思いのメッセージを語った。編著者の苅谷は大人になる準備期間であったはずの学校が大人をつくりだすことを難しくする場に変化してきたことを手掛かりに、大人になることを考えていく。「ひきこもり」を専門とする精神科医の斎藤環はアニメの作品史から「成熟」概念の変化を語る。現代の若者を取り巻く状況を多様な視点からあぶり出す一冊だ。
| 医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か | |
![]() | 小松 秀樹 朝日新聞社 2006-05 売り上げランキング : 42392 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
同じ表題で保阪正康氏による本が二〇〇一年に出ている。片やノンフィクション作家、今回は現場の医師の著作だが、いずれも医療事故を軸に現在の医療制度の矛盾や医療の質を問うている。併読して思うことは、この五年間、医療を巡る問題には解決の兆しが見られず、逆に破断界に近づきつつあるのではないかということだ。
いま、日本の医療は二つの課題に直面している。医療費の抑制と安全性の向上である。両立は非常に難しい。医療財政の“健全化”が言われる一方、より安全な医療を求める声も強くなっている。そのはざまで良心的な医師は右往左往――という構図がかいま見える。
医療事故を中心に医療を巡る警察の動きや法律のありかた、厚生労働省の姿勢、コストと安全、医師教育と医局制度など語る範囲は多岐にわたっている。そして、著者は現在の日本の医療の姿を表す言葉の一つとして「立ち去り型サボタージュ」を使う。
長く医師の頭にあった「一所懸命」の考えが薄れてきていると指摘する。一つところにとどまって命懸けで事に当たることが少なくなり、より安寧な立場に移る。外科医や産科医、小児科医など医療事故のリスクが大きい職種が敬遠され、仕事が多い病院勤務医から仕事が比較的楽で収入も多い開業医へシフトするのも「立ち去り型サボタージュ」の表れではないか。
医療事故を少なくする方策の一つに「警察的な発想は止めよう」ということがある。警察の使命は犯人を探すことだから「悪いのは誰か(何か)」が主眼になる。しかし、医療事故は犯人を特定するだけでは減らない。再発を防ぐための対策を取らないといけないのである。
また、医療に無謬(むびゅう)性を求めてはいけないと思う。医師をはじめ医療に携わるのは人間である。人間は過ちを犯すかもしれない、という前提に立ってシステムを作るなら、医療事故を減らすことにつながる。航空工学などでは当たり前の考えが、なぜ医療には取り入れられることが少ないのだろうか。
医療が崩壊した例として著者は英国を挙げる。現状に手をつけないままでいると、日本の医療も英国の轍を踏むのではないか。(編集委員 中村雅美)(朝日新聞社・一、六〇〇円)
▼こまつ・ひでき 虎の門病院泌尿器科部長。02年の慈恵医大青戸病院での医療事故に関し問題点を書いた。
| 角川俳句大歳時記「夏」 | |
![]() | 角川学芸出版 角川書店 2006-05-31 売り上げランキング : 33421 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
俳句作りに欠かせない季語、約五千三百語を網羅した『角川俳句大歳時記』(全五巻、角川学芸出版)の刊行が始まった。「時候」「生活」「植物」などのジャンルごとに収録。例句は松尾芭蕉から現代の俳人まで、約四万句を掲載する。伝統的な季語については、その誕生と変遷を解説する。既刊は「夏」で、以後「秋」「冬」「新年」「春」と続く。各巻四千円。「夏」のみ十一月末まで三千六百円。
| 世界秘儀秘教事典 | |
![]() | エルヴェ マソン Herv´e Masson 蔵持 不三也 原書房 2006-05 売り上げランキング : Amazonで詳しく見る by G-Tools |
古代からの宗教思想を網羅した『世界秘儀秘教事典』(原書房)が刊行された。「フリーメイソン」「聖杯」「天使」「テンプル騎士団」など八百項目の言葉の意味を紹介している。例えば「占星術」は「大部分の隠秘科学にとって、占星術はその扉を開ける鍵ともいえる」などと詳述されている。著者はフランスの画家、エルヴェ・マソン氏。蔵持不三也訳。
| 世界の音を訪ねる―音の錬金術師の旅日記 | |
![]() | 久保田 麻琴 岩波書店 2006-04 売り上げランキング : 14122 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
非西欧圏の音楽を総称する「ワールドミュージック」という言葉が定着して十五年以上がたつ。著者はそのずっと前、一九七〇年代から世界各地を訪ね、現地の音楽を曲作りに生かしてきた。初の著作となる本書は、最近一年間の印象深い旅をまとめた旅日記だ。
ディック・リー、ライ・クーダーら海外の音楽家とも親交が深く、ワールドミュージックについては実体験に根ざした豊富な知識がある。だがそれを文章にまとめることは避けてきた。「音楽家が文章を操るのは不純だという思いがあった。たまたま別の出版の仕事を手伝った関係で書くことになって」と苦笑する。
今回、採り上げたのはブラジル北東部の古都レシーフェ、モロッコのエッサウィーラ、シンガポール、スリランカのコロンボ。中でも引かれたのはレシーフェだという。「豊かな音楽的土壌に現代性が混じり合い、ぐるぐる回っている。七〇年代前半のニューオーリンズやジャマイカ同様、偉大な音楽が生まれそうな、何かただならぬ力を感じた」と振り返る。
気まぐれな書きぶりの中に、現地の歴史や社会構造への洞察がのぞく。たとえばユダヤ社会の存在。レシーフェとエッサウィーラに共通するのは、西欧社会から追われ、改宗を余儀なくされたユダヤ人「マラーノ」の存在だという。
ブルースやレゲエは奴隷貿易で連れてこられた黒人が生み出した。いわば人類の「負の歴史」の産物だ。「レシーフェなどで優れた音楽を生み出したのも、並々ならぬ理由で離散させられた人々だったのではないか」と、土地の人々の苦難に思いをはせる。
執筆に対する慎重な姿勢は今も変わらず、次回作の予定はない。「でも今回の執筆で自分の頭が整理された。今後作る音楽も違ったものになっていきそうな気がする」と締めくくった。(岩波新書・九四〇円)
(くぼた・まこと)1949年京都府生まれ。同志社大学卒。73年にバンド「久保田麻琴と夕焼け楽団」結成。アルバム「ハワイ・チャンプルー」などを発表。現在はフリーの音楽家、プロデューサー。
| 若者殺しの時代 | |
![]() | 堀井 憲一郎 講談社 2006-04 売り上げランキング : 229 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
現代は「若者が得だとは言えなくなった」時代だと著者はいう。豊かにはなったが、自らの居場所は大人に占領され、可能性を生かせない。その状況を「若者殺し」と呼ぶ。著者は社会風俗の変遷を徹底的に調べるコラムニスト。「若者殺し」の源を、自らが青春時代を過ごした一九八〇年代に求め、この時期に若者を金銭的、時間的にしゃぶり尽くすシステムが作り上げられていった過程を検証する。
| ファンタジスタ | |
![]() | 星野 智幸 集英社 2006-04 売り上げランキング : 12341 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
野間文芸新人賞を受賞した短編小説集。元サッカー選手でカリスマ性のある政治家が、首相になろうとしている。主人公は抵抗感を覚えながらも、その流れに巻き込まれていく。政治を真正面から取り上げた表題作以外に、小学生の“集団無差別殺人”を扱った「砂の惑星」など二編を収める。
| なんとなく、日本人―世界に通用する強さの秘密 | |
![]() | 小笠原 泰 PHP研究所 2006-05 売り上げランキング : 5192 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
海外での豊富なビジネス経験を持つ著者による日本人論。国際人を気取っていても、日本人であることに安堵(あんど)を覚えるのはなぜか。言語、企業活動のあり方、若者の動向などから、その理由を探る。刻々と世界情勢が変わる中で、日本人として自らを見つめ直すには手ごろな体験的エッセーだ。
| 市場と取引―実務家のためのマーケット・マイクロストラクチャー〈上〉 | |
![]() | ラリー ハリス Larry Harris 宇佐美 洋 東洋経済新報社 2006-04 売り上げランキング : 1347 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 市場と取引―実務家のためのマーケット・マイクロストラクチャー〈下〉 | |
![]() | ラリー ハリス Larry Harris 宇佐美 洋 東洋経済新報社 2006-04 売り上げランキング : 1349 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
グローバリゼーションが進展するなか、国内外や異なる金融市場の間に存在していた垣根が取り払われ、文字通り一つの市場が登場しつつある。本書は取引の場である市場と取引手法、市場参加者について、最新のデータと知識に基づいて記したものだ。
上巻はニューヨーク証券取引所における具体的な株式取引から入り、先物やオプション取引に進む。債券や外国為替取引についても触れている。そのうえで株式市場を中心に、具体的な注文のやり取りを詳しく解説している。
厚みのある市場を形成するには、様々な種類の参加者が必要である。自らリスクを負って値ザヤ稼ぎをする投機家と、円滑な売買ができるように流動性を提供するディーラーやトレーダーたちだ。これらの主役たちに関する記述は、とても実践的だ。
下巻は流動性やボラティリティー(振れ)といった市場の基本について理論的に解き明かしている。そのうえでバブルの形成や崩壊、インサイダーなどについて記述する。暴落を防ぐためにサーキットブレーカーをどう機能させるべきかなどを、これまた実務的な観点から記してある。
上下二巻合わせて千ページ余りにのぼるだけに、初心者にとっては重いと感じられるかもしれない。でも内容は包括的であり、記述もこなれている。金融の実務に携わる人は一度ひもとくと良い。宇佐美洋監訳。浜田隆道ほか訳。
| 愛の流刑地〈上〉 | |
![]() | 渡辺 淳一 幻冬舎 2006-05 売り上げランキング : 268 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 愛の流刑地〈下〉 | |
![]() | 渡辺 淳一 幻冬舎 2006-05 売り上げランキング : 238 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本紙朝刊に連載を始めるにあたり著者は、精神的なつながりだけの愛を「幼稚な愛」と切り捨て、こう予告した。「精神と肉体と両方がつながり密着し、心身ともに狂おしく燃えてこそ、愛は純化され、至上のものになる/その純愛のきわみのエクスタシーがテーマである」と。
五十代半ばの中年作家菊治と三十代の主婦冬香は、文字通り心身ともに燃え上がる激しい性愛におぼれ、作者のこの挑発的な言葉を体現していく。妻と別居状態、すでに作家としても旬を過ぎた菊治と、三人の子をなしながら夫の一方的で暴力的な性に耐えきれない冬香。二人の抱える生活背景は、互いの体に深くのめり込む強い動機ともなるが、そんな現実さえ無化するほど、彼らはひたむきに求め合う。言葉を超える感覚の世界を言葉で丁寧に掬(すく)っていく手腕が、前半の読ませどころである。
自我を忘れて天上の高みにかけ上ろうとする二人を、現実の悲劇が引き戻す。性愛のクライマックスでの冬香の死。最愛の女を失い茫然(ぼうぜん)自失の菊治が、現実社会の無理解にさらされながら、裁きを受ける後半部。感性の入り込む余地のない知と論理の法廷世 界に、孤立無援の戦いを挑む菊治の姿は、こっけいでもあり、悲痛でもある。それはまるで、頑迷固陋(ころう)な常識の壁をやわらかな言葉で突き崩そうとする小説家の営みのようでもある。菊治=作家の叫び声は、読者に届くだろうか。
| ユダの福音書を追え | |
![]() | ハーバート・クロスニー 日経ナショナル ジオグラフィック社/日経BP出版センター 2006-04-29 売り上げランキング : 31 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
古代に異端の書として非難された「ユダの福音書」の写本が実際に見つかったというのは驚きだ。イエスは弟子のユダに裏切られ十字架にかけられたという通念と違い、イエスは自らの魂を「肉体の牢獄(ろうごく)」から解放するためユダに指示して密告させたと、内容が一八〇度異なっている。
写本が発見された経緯、骨董(こっとう)品として転売されるうちに破損し、粉々になったパピルスの断片を最新の技術で復元し、解読、年代測定していったプロセスの記述を読んで、捏造(ねつぞう)の疑惑は払拭(ふっしょく)された。
「ユダの福音書」は、エジプト中部のカララ山地の墓地で見つかった三十二折の文書中、十三枚のパピルス紙の裏表に書かれていた。ギリシャ語の原本から古代エジプトで話されていたコプト語に訳した写本だ。「トマスの福音書」など一九四五年にエジプトのナグ・ハマディで発見されたグノーシス文書と同系列に属する文書と診断された。
著者は作家兼映画製作者で宗教学者の協力を得た。ナショナルジオグラフィック協会の支援で復元、解読に成功し、こうしたプロセスをミステリー風に書いている。
ユダの名前は裏切り者の代名詞になり、ユダヤ人迫害の根拠ともなった。『ダ・ヴィンチ・コード』でキリスト教の裏面史が関心を喚起している折、「ユダの福音書」がキリスト教見直しの流れに、新たな一石を投じることは間違いない。関利枝子ほか訳。
東京湾の穴
平賀 勝 (著)
不思議なタイトルの意味はすぐにわかる。東京湾に捨てられた空き缶の数々。それ自体が腐食して一つの「穴」になるのだが、さらにびっしりと缶表面を覆うフジツボや名前の知れない生き物が、無数の穴を開けている。廃棄物と生き物が合体したこの奇怪なオブジェを、著者はとりつかれたように撮り続けた。グロテスクな面々は、海底でひそかに交わされた、人間と自然の闘いを連想させる。
| 新・日本の時代―結実した穏やかな経済革命 | |
![]() | スティーヴン・K. ヴォーゲル Steven K. Vogel 平尾 光司 日本経済新聞社 2006-05 売り上げランキング : 1706 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
外国人が語る日本論は多いが、最も衝撃をもたらしたのは三十年近く前に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いた米ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授だろう。本書の著者は同教授の息子で、ジャパン・タイムズ記者を務めたこともある日本通。終身雇用など日本型モデルがバブル崩壊を経て進化し、新しいモデルができつつあると指摘。米国に加えてドイツとの比較も取り入れ、米国型万能主義とは一線を画す。
| 日本のイノベーション・システム―日本経済復活の基盤構築にむけて | |
![]() | 後藤 晃 児玉 俊洋 東京大学出版会 2006-04 売り上げランキング : 8246 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
独立行政法人、経済産業研究所が昨年開催した技術革新に関するシンポジウムを基にまとめた。今後の日本の産業発展には技術革新が不可欠だが、高度な技術や知識はこれまでとは異なり、数多くの企業や大学などに幅広く分散するようになっている。そのため、産学連携のような、外部と連携してまったく新しいモノを生み出す仕組みをどのぐらい構築できるか否かに、日本の将来がかかっているという。
| 脱「風景写真」宣言―二〇一〇年の花鳥風月 | |
![]() | 宮嶋 康彦 岩波書店 2006-03 売り上げランキング : 18004 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ただ美しいだけの写真を撮ることに飽き、自分なりの個性を出したいと感じたときに、何が必要か。自然の写真を撮り続けているプロの写真家である著者が、いかに被写体と向き合ってきたかを語り、その答えを探った一冊だ。「写真の幸福は思索の果てにある」「花を見て木を見ないという浅薄」「光がクライマックスを語るときまで待つ」など、撮影の心構えを語る印象的な言葉が随所にちりばめられている。掲載された写真と文章とは、共に雄弁だ。
| 「正しい戦争」という思想 | |
![]() | 山内 進 勁草書房 2006-04-08 売り上げランキング : 4258 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
太平洋戦争を経た戦後の日本では「戦争はすべて悪い」といった思考が有力となり、戦争の考察までが悪に位置づけられかねなかった。だが、戦争はなくなるどころか対テロや人権保護を名目に新しいタイプの戦争が次々と起きている。本書では複数の研究者が各宗教や法学者の戦争観の変遷をたどりつつ「正しい武力行使」について論考を加えた。戦争に価値判断を持ち込むのは困難で危険を伴うが、平和を実現する上では避けて通れない作業だろう。
| アフリカのひと―父の肖像 | |
![]() | J.M.G. ル・クレジオ Jean Marie Gustave Le Cl´ezio 菅野 昭正 集英社 2006-03 売り上げランキング : 34167 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
パナマ、メキシコ、モーリシャスなど、文明世界の周辺に身を置いて文学作品を発表してきた著者が、自らの原点となる少年時代のアフリカ滞在経験をつづった。表題の「アフリカのひと」とは、英国植民地の医官として現在のナイジェリアに勤務していた著者の父のこと。現地の人々と同じ平面に立った医療活動を志したものの、植民地主義の現実に幻滅していく一人の男性の姿が、共感を込めたまなざしを通して描かれる。菅野昭正訳。
| ヒルズ黙示録―検証・ライブドア | |
![]() | 大鹿 靖明 朝日新聞社 2006-04 売り上げランキング : 63 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昨年から今年にかけて、東京の六本木ヒルズに居を構える「ヒルズ族」にかつてないほど世間の注目が集まった。メディア業界を舞台に派手な買収合戦が行われ、ライブドア前社長の堀江貴文被告が粉飾決算疑惑で逮捕されるなどで、関連書籍も多数出版された。
そんな中で本書はひと味違う輝きを放つ。現役の週刊誌記者が堀江被告らヒルズ族に密着取材し、詳細な事実を積み上げたことで、迫力あるノンフィクションに仕上がっている。
本書の主役は堀江被告のほか、通称「村上ファンド」を率いる村上世彰氏、TBSに経営統合を提案した楽天社長の三木谷浩史氏らだ。そこにテレビ界の重鎮や外資系投資銀行のすご腕バンカーも加わり、ニッポン放送株争奪戦などを巡る人間ドラマが描かれる。
取材は徹底している。村上氏については、著者は故郷の大阪まで出向いて少年時代を知る人たちにインタビュー。近所のおばさんには「うちの子はよく、あの子(村上氏)に口で泣かされましたもん」と語らせている。タキシード姿の堀江被告が酔っぱらいながらフジテレビ会長の日枝久氏と初対面し、開口一番「あのー、ちょっと、お水を一杯」と言う場面もリアルに再現。そんなわけで本書は小説を手にしているような気分で読める。
ただ、個々の会話やエピソードがどこまで事実に肉薄しているのかはうかがい知れない。必ずしもだれから聞いた話なのか情報の出所が明示されていないためだ。本書に登場する主人公の中には「私についての人物描写はゆがめられている」と苦言する人もいる。
著者に問い合わせたところ、主人公たちが交わす会話などはすべて当事者か目撃者への取材に基づいている。だが、すべての事実を複数の当事者に当たってチェックできたわけではなく、限界もあったという。当たり前だが、現実に起きたことをもれなく正確に再現するのは無理であり、完ぺきなノンフィクションはあり得ない。
類書で読みごたえのあるノンフィクションには、フジサンケイグループを題材にした中川一徳著『メディアの支配者』もある。これは歴史的な事実も掘り起こした力作で、時事問題に焦点を当てた本書と併せて読むと理解が深まる。(編集委員 牧野洋)
▼おおしか・やすあき 65年生まれ。週刊誌「AERA」編集部記者。
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「ランドスケープ・ガーディナー」と名乗っている。日本語に訳せば「景観造園家」になる。「単なる『造園家』では、個人の庭造りが仕事だと誤解されるから」だ。
大学で造園を学んだ後、城跡を利用した公園づくりや旧宿場町の地域計画、スキー場の計画・設計などを手掛けた。「レクリエーション施設を造るには、その地域の歴史も知っていなければいけない。必然的にレジャーの歴史を調べることになった」
本書では江戸時代の庶民の楽しみ、レジャーの歴史をたどった。江戸時代初め、遊びの主役は武士だったが、次第に庶民、町人へと移っていく。歌舞伎、相撲、ご開帳、大道芸……。「花見一つとっても何時間もかけて出かけていった。江戸の人々はアウトドアレクリエーションを中心に遊びを膨らませた」
文政年間、江戸で人気を博した「籠細工(かございく)見世(みせ)物」の分析では、一定数の人間が行動を起こすと、ほかの人々にも影響を与える法則性に着目した。最高で一日で一万五千人の人出があり、五十日の興行予定が百日に延びた。その結果、客数は延べで少なくとも十三万人に達したと推測する。こうした想定には、レジャー施設計画に携わった経験が生かされている。
「今の日本は階層化が進み、『遊べる人』と『遊べない人』にはっきり分かれる。江戸時代も身分制度が固定化されていた時代だが、庶民は身の回りに、遊びのタネを見つけ、育てる名人だった。物質的には貧しかったが、精神的には豊かだった」。本書に込められたメッセージは「遊び心を忘れてしまった」現代人への警告でもある。
自ら設立した会社を昨年閉じ、執筆活動に軸足を移したばかり。「次は名造園家だった森鴎外の足跡を調べたい」と意気込んでいた。(中央公論新社・二、八〇〇円) (あおき・こういちろう)1945年生まれ。千葉大園芸学部造園学科卒。著書に『明治東京庶民の楽しみ』『大正ロマン 東京人の楽しみ』など。
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日本の政治・行政構造をえぐり、行政学の前途を展望した「行政学叢書」(東京大学出版会)の刊行が始まった。第一回配本は、官僚制の「病理」をさぐる『官庁セクショナリズム』(今村都南雄著)と、政府金融システムの虚実を問う『財政投融資』(新藤宗幸著)の二冊。全巻の編者は、西尾勝東京市政調査会理事長。全十二巻。各巻二千六百円。







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