メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年11月12日~11月19日
| 戦場でメシを食う | |
![]() | 佐藤 和孝 新潮社 2006-10-14 売り上げランキング : 5207 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
戦場ジャーナリストである著者がアフガニスタンで最初に覚えたのは「腹減った」という意味の現地語。食べなければ戦えない。戦士たちにとっても食は切実な問題だ。一枚のナンの味が胃にしみ渡る。チェチェンのレストランでは羊の焼き肉が唯一のメニューだった。戦争の描写も食の描写も生々しい一冊。
| 森のバロック | |
![]() | 中沢 新一 講談社 2006-11-10 売り上げランキング : 23204 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 日本経済に関する7年間の疑問 | |
![]() | 村上 龍 日本放送出版協会 2006-11 売り上げランキング : 2386 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
金融と経済をテーマに一九九九年三月に創刊したメールマガジン「JMM」に寄稿していた専門家たちに対して、著者が七年間書き続けてきた質問とエッセーをまとめた。「変化と格差」「北朝鮮をめぐって」など七つのテーマを設けて編み直されている。当時の小泉首相の消費税増税否定を「わたしの内閣では、景気の回復はない」と読み替えるなど、著者ならではの視点が光る。
| HASHIGRAPHY―Future D〓j〓 Vu《未来の原風景》 | |
![]() | 橋村 奉臣 アートン 2006-09 売り上げランキング : 220890 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は1968年に単身渡米し、広告写真の第一線で活躍する写真家。モノの存在価値をいかに表現するかに心を砕いてきた著者が、本書では「時」の作り出す価値を表現しようと試みた。古代ギリシャ・ローマの彫刻やパリの風景などをテーマにした作品はどれも印画紙の端がちぎれて変色し、被写体がくぐり抜けてきた時の移ろいを象徴している。写真は「考える人」(オーギュスト・ロダン、1987年撮影)。
| 浮世でランチ | |
![]() | 山崎 ナオコーラ 河出書房新社 2006-09-12 売り上げランキング : 92477 おすすめ平均 ![]() 発展途上 心地よい「宗教」♪ 共感よりも反発を生むくらいでいいのに。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いじめを受けた子どもの自殺が相次いでいることでも分かるように、他人とかかわることはなかなか厄介だ。煩わしさを避けるため、孤独を選ぶ人も多い。この長編小説の主人公である二十五歳女性も人付き合いは苦手なタイプ。それでも彼女はアジアへの一人旅を経て、人との出会いによって周りの景色が少しだけ変わることを知る。コミュニケーションの面倒さと面白さを、透明感のある文章でつづっている。
物語は主人公である丸山君枝の現在と過去が交互に語られる。十四歳のときは、中学の同級生たちと祭壇を作ってお祈りする「宗教ゴッコ」をするなど、仲間とともに濃密な時間を過ごしていた。二十五歳となった今は、同僚の女性たちが昼ごはんを一緒に食べるのを尻目に、いつも公園で一人コンビニ弁当を食べている。そのうち、彼女は会社を辞め、アジアへと旅立つ。タイ、マレーシアを経て、最終地のミャンマーを訪れたとき、二つの時間は奇跡のように重なり合う。
大きな事件が起こるわけでもなく、主人公が劇的に変わるわけでもない。それでもこの小説が静かに心にしみ入るのは、生きづらい世の中であっても、心のもちよう次第で見え方が変わることを示しているからかもしれない。ランチの味が誰と食べるかで一変するように。恋愛小説『人のセックスを笑うな』でデビューした新鋭作家の幅広さを感じさせる第二弾である。
| 中国の経済構造改革―持続可能な成長を目指して | |
![]() | 日本経済研究センター清華大学国情研究センター 日本経済新聞社 2006-10 売り上げランキング : 173772 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
改革・開放で粗放型の急成長を遂げた中国に、さまざまなひずみが出ている。富める沿海都市部と貧しい内陸農村部の格差の拡大、外資依存の行き過ぎ、無秩序な投資が生んだ生産能力の過剰、資源浪費と環境破壊の進展――などだ。急速な高齢化が目前に迫っているのに社会保障制度が整備されないことも、国民の不安に拍車をかけている。
本書はこうした課題の解決に向け、日本経済研究センターと中国・清華大学の国情研究センターが共同でまとめた政策提言書。日中の各分野の専門家十人が主張や意見を盛り込んで書き上げている。取り上げた課題は、中国が今年から始めた「第十一次五カ年計画」の問題意識でもある。計画作りに参画した胡鞍鋼・清華大学教授が執筆陣に加わって計画を解説しており、中国指導部が課題をどうとらえているのかも理解できる。
日本の経験と教訓を中国に生かそうという提言があちこちに出てくる。執筆メンバーに、日本で研究活動をしている中国人学者が多く入っているせいだけではない。中国の抱える課題の多くが実は、日本が高度成長期に乗り越えてきたものだからである。
政策提言書というと堅苦しそうなイメージがあるが、どの章も問題をわかりやすく説き起こし、中国に精通していない人でも読めるように工夫がなされている。各章の冒頭に、ポイントを三点に要約して掲げているのも読者に親切だ。
| サンカの真実 三角寛の虚構 | |
![]() | 筒井 功 文藝春秋 2006-10 売り上げランキング : 84484 おすすめ平均 ![]() 三角寛の実像に迫る サンカを描くのでなく三角を描く:攻撃の指向性があれば 三角寛を知らない人は買わないことAmazonで詳しく見る by G-Tools |
農具の箕(み)作りや川魚漁を生業とする非定住の職能民「サンカ」について膨大な著作を残した三角寛。独自の文字や掟(おきて)を持ち、強力なリーダーが統率する不可視の社会があった――。三角が描き出したサンカ像は、今なお一定の影響力を保っている。
本書は具体的な証拠を挙げてそれを打ち砕いたリポートである。元通信社記者の著者は徹底した取材を基に、三角のサンカ像がほとんど捏造(ねつぞう)されたものだったと告発し、代表的な著作『サンカ社会の研究』はウソやごまかしで塗り固められていると主張する。
たとえば、三角は各地のサンカと交流したとして生活ぶりを豊富な写真で紹介している。著者はそれらの画像を入念に検証し、実は関東地方の数家族の写真を巧妙に使い分けて場所や撮影時期を偽っていたことを解明していく。
さらには被写体になった人物を特定し、直接取材を重ねて驚くべき証言を引き出している。「三角はサンカのイメージに合う衣装を持参して自分たちに着せ、それを撮影した」というのである。サンカ文字や統治機構の存在についても三角の創作だったことを浮かび上がらせている。
本書は、サンカとは何かという本質的な問いに答えているわけではない。三角の生い立ちについて過剰な追及も目立つ。しかし、その「研究」の実相を調査報道的な執念であぶり出した手際は鮮やかであり、今後の議論に一石を投じることは間違いないだろう。
| イスラーム帝国のジハード | |
![]() | 小杉 泰 講談社 2006-11-15 売り上げランキング : 7903 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 空の帝国 アメリカの20世紀 | |
![]() | 生井 英考 講談社 2006-11-15 売り上げランキング : 9254 おすすめ平均 ![]() 新しい観点も内容もない歴史的に自堕落な本Amazonで詳しく見る by G-Tools |
興隆の陰には滅亡の歴史がある。が、滅亡した側の視点から歴史がつづられることはない。歴史は常に勝者の歴史である。その意味で、歴史は「半分の歴史」でしかない。
歴史の波間に消えてしまった勢力、国家を改めて掘り起こし、現代とのかかわりを視野に入れて歴史を描こうとする世界史全集『興亡の世界史』(全二十一巻、講談社)の配本がこのほど始まった。
第一回は、第06巻の『イスラーム帝国のジハード』(著者は小杉泰・京都大学教授)と第19巻『空の帝国 アメリカの20世紀』(同じく生井英考・共立女子大学教授)だ。
編集委員は、歴史学の杉山正明・京都大学教授、福井憲彦・学習院大学教授のほか美術史の青柳正規・国立西洋美術館長、建築史の陣内秀信・法政大学教授が務める。
遊牧民やイスラム世界を正面からとらえる一方、ローマ以前の地中海世界やケルトを取り上げるなど目新しさを感じさせるタイトルが並ぶ。例えば『イスラーム帝国のジハード』では、帝国の空白地帯であったアラビア半島でなぜ一神教が広まったのかを深く考察。ムハンマドが人々を部族主義からイスラムへと変換させていった手法を「魂の錬金術」という比喩によって読み解こうとする。
『空の帝国 アメリカの20世紀』では、二度の世界大戦、ベトナム戦争、東西冷戦を経て「空の覇権」をにぎった超大国の「戦争の世紀」を描く。
第01巻の『アレクサンドロスの征服と神話』(著者は森谷公俊・帝京大学助教授)では、従来別々に語られてきたギリシャ史とオリエント史を、両地域にまたがる大帝国を築いたアレクサンダー大王を真正面から取り上げることによって再考。ギリシャ中心のヘレニズム観を見直す。
第03巻『通商国家カルタゴ』(著者は栗田伸子・東京学芸大学教授、佐藤育子・日本女子大学講師)など新たな題材を盛り込んだほか、姜尚中・東京大学教授が歴史学者とは異なる視点から、第18巻『大日本・満州帝国の遺産』を執筆する。
編集委員の一人、杉山氏は「近代西欧を中心とする価値観・歴史観を超える世界史・人類史を目指す」と語る。月一回配本の予定。
| 粉飾の論理 | |
![]() | 高橋 篤史 東洋経済新報社 2006-09 売り上げランキング : 5331 おすすめ平均 ![]() カネボウとライブドアAmazonで詳しく見る by G-Tools |
ライブドアなど粉飾事件が相次いでいる。粉飾は投資家をだます行為だが、その実態はなかなかわかりにくい。本書は、ライブドアのほかカネボウ、メディア・リンクス、監査法人に焦点を当てたドキュメントだ。著者は現役の経済誌記者で、生々しい話も随所に盛り込みながら、構造問題に切り込んでいる。一部の経営トップや会計士だけで粉飾が行われているわけではなく、そこには直接、間接に多くの関与者がいると指摘する。
| ビッグバンの父の真実 | |
![]() | ジョン・ファレル 吉田 三知世 日経BP社 2006-10-19 売り上げランキング : 93364 おすすめ平均 ![]() 生真面目な宇宙物理学者の生涯に涙が出たAmazonで詳しく見る by G-Tools |
今年のノーベル物理学賞は宇宙がビッグバンで始まった証拠を人工衛星による観測で確認した米国人二人に与えられる。一九二〇年代にビッグバン理論を最初に提唱した一人である、ベルギー出身のカトリック司祭にして宇宙物理学者、ジョルジュ・ルメートルの知られざる生涯に光を当てた本。アインシュタインやガモフとの論争・交友など、科学者が織りなす現代にいたる宇宙論史としても読める。吉田三千世訳。
| 昼の学校 夜の学校 | |
![]() | 森山 大道 平凡社 2006-08-26 売り上げランキング : 24142 おすすめ平均 ![]() 含蓄に富む言葉Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ぶれやぼけを持ち味にした写真家が、大学などで行った講義を記録した一冊。学生の質問に答える形で展開しており、読みやすい。汚く見える写真でないとダメなのかとの問いには、世の中はそうきれいなものじゃないと答える。携帯電話のカメラをどう思うとの問いには、新宿歌舞伎町の真夜中は普通のカメラよりもリアルに写せるのでは、と新しい技術を否定しない。言葉の端々に、自分を裏切らずに来た生き方がにじみ出ている。
| J.D.パワー 顧客満足のすべて | |
![]() | クリス・ディノーヴィ、J.D.パワーIV世 ダイヤモンド社 2006-08-25 売り上げランキング : 31353 おすすめ平均 ![]() クリアな指針を示してくれたAmazonで詳しく見る by G-Tools |
経営における顧客満足(CS)の重要性が指摘され始めて久しいが、掛け声だけにとどまっている企業も多いのではないか。CSに関する国際的な調査・コンサルティング企業がCS経営の理論と実際を丁寧に説いたのが本書だ。豊富な事例の中にはトヨタ自動車やスズキも登場する。「不誠実な企業には、不誠実な顧客が集まる」「(特定の部署による)情報の抱え込みを許すな」など、役立つ法則も満載。蓮見南海男訳。
| 遣唐使・井真成の墓誌―いのまなり市民シンポジウムの記録 | |
![]() | 藤田 友治 ミネルヴァ書房 2006-09 売り上げランキング : 533530 おすすめ平均 ![]() やさしめ井真成解説書Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国・西安で見つかり、二〇〇四年十月に公表された遣唐留学生の墓誌には、「国号日本」「井真成(いのまなり)」などの文字があった。八世紀前半の中国に渡り、若くして亡くなった留学生の墓誌は昨年、千数百年の時空を超えて里帰り、大きな話題となった。本書はなぞ多き留学生の有力な出身地とされる大阪府藤井寺市で開かれた二度にわたるシンポジウムの記録と墓誌研究の最新成果を収録。古代中国の政治・文化状況や東アジアの歴史を再考する手掛かりとなる。
| ザ・ペニンシュラ・クエスチョン―朝鮮半島第二次核危機 | |
![]() | 船橋 洋一 朝日新聞社 2006-10 売り上げランキング : 239 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
時間をかけて入念な取材をし、文章にも気を配って準備した書物を世に問おうとすると、時機を逸することも多いらしい。本書は北朝鮮の核実験を織り込み、それを待つかのように書店に並んだ。
二〇〇二年から始まる朝鮮半島の第二次核危機をめぐる国際政治の過程をつまびらかにする壮大なノンフィクションである。問題はまだ終わっていないからまさに現代史、同時代史である。
インタビューリストが圧巻だ。日本、米国、ロシア、韓国、中国の高官、名前は明示されていないが北朝鮮の情報源もある。
日本関係では小泉純一郎首相の二度にわたる北朝鮮訪問をめぐる政府部内の動きを丹念に描く。それを演出した田中均外務省アジア大洋州局長(当時)を竹内行夫外務次官(同)は「ハーメルンの笛吹き男」と呼んだという。よくぞここまで書いたと思わせる話にあふれている。
北朝鮮の行動を許したのはだれの責任か。それをひとりあるいは一国に絞るのは正しくはないのだろう。ただ読み終えて感じるのは韓国の盧武鉉政権の融和政策への違和感である。それは米国、日本との関係をぎくしゃくさせた。
二〇〇五年六月の米韓首脳会談で、こんな話があったらしい。
ブッシュ大統領は、韓国内の反米、反日感情が地域の不安定をもたらすのではないかとの危惧を述べた。盧大統領は「われわれが、日本のことだけを心配しているわけではないのです。中国のことも同じように心配しています。韓国が一〇〇%中国に依存し、米国のような古い友人を忘れるなどということは心配するには及びません」と語ったという。
面白いのは、韓国の外交通商省高官がこれを「眼目は日本批判だが、それに絞り込むとブッシュの不興を買うので、中国からの侵略をわざと語ることでブッシュを喜ばせようとした」と解説した話を紹介している点である。外国政府高官から、これほど本音の話を聞き出す取材力が本書を成立させ、内容の信頼性を高めている。
来年春に出る英語版には、脚注、引用が掲載される。そうなれば信頼性はさらに高まり、本書は学問的意味を持つ。
| ひとかげ | |
![]() | よしもと ばなな 幻冬舎 2006-09 売り上げランキング : 3442 おすすめ平均 ![]() 『ひ』とかげ 詩のような小説 新しくなった「とかげ」Amazonで詳しく見る by G-Tools |
欧米でも評価の高い人気作家が、一九九三年刊行の短編集『とかげ』の表題作をリメークした。ともに心に深い傷を持つ男女が寄り添いながら「再生」に向かうという骨格は生かしながら、登場人物たちの背景を肉付けすることで、二人の関係性を明確に浮かび上がらせている。
「映画監督の塚本晋也さんが『とかげ』の一部を朗読するのを聞く機会があった。自分の作品であるのを忘れ、なかなか悪くない小説だと思った半面、やり残したことがあるように感じた」のが今回のリメークのきっかけ。ただ「若いころに書いたものを否定しているわけではなく、別物としてとらえてもらいたい」ため、タイトルを変えて発表することにしたという。
様々な問題をかかえる児童の専門クリニックでアシスタントをしている男性「私」と、スポーツクラブのインストラクターから気功師に転じた「とかげ」が物語の主人公。「『とかげ』の時の『私』は職業意識が甘いと感じたので、その辺りを変えた」。実際に児童施設を取材したとき、その職員の大変さを実感したことも影響している。「子ども五人中一人は救えていないなどと批判されることも多いが、四人が立ち直っているのはすごいことだと思う」と話す。
とかげの両親も詳しく描かれている。「ぎりぎりの状態にある二人が愛情に対して正常でいられるのは、親がそう伝えたから。前はとかげを謎めいた存在にしたかったが、今回はリアリティーを重視した」と振り返る。自らが母親となり、「親は子どものためなら犠牲になることもいとわない」と感じたことも背景にあるようだ。
執筆と子育てで多忙な合間をぬってフラダンスを習っている。「先生の前で踊らなくてはいけないので、人前に出るのは苦手ではなくなりました」と笑う。
| 現代漫画博物館 | |
![]() | 小学館漫画賞事務局 竹内 オサム 小学館 2006-11-07 売り上げランキング : 463 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一九四五年から現代までの代表的な漫画作品を年代別にたどった『現代漫画博物館』(小学館)が刊行された。日本の主要な漫画賞受賞作品を中心に、その時代の話題作を加えた約七百五十作品を、図版、作品解説、初出・終了時期などデータも入れて紹介している。本体以外に、「作家人名事典」や「現代漫画史年表」を載せた別冊資料集もついている。
| 書物の宇宙誌―澁澤龍彦蔵書目録 | |
![]() | 国書刊行会編集部 国書刊行会 2006-10 売り上げランキング : 53139 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
異端の文学を愛した仏文学者、小説家である澁澤龍彦の蔵書を収めた『書物の宇宙誌 澁澤龍彦蔵書目録』(国書刊行会)が刊行された。約一万冊に及ぶ蔵書の全データと、創作ノートなども収録した。蔵書データは書棚の並び順に記載する凝ったつくりになっており、来年没後二十年になる澁澤龍彦の思考の一端がうかがえる。書名通り、さながら書物の小宇宙のようだ。
| 世界秩序の崩壊 「自分さえよければ社会」への警鐘 | |
![]() | ジョージ・ソロス 越智 道雄 ランダムハウス講談社 2006-10-12 売り上げランキング : 1441 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
世界的な投資家として知られる著者は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの学生時代、カール・ポッパーに学んだ。師の政治哲学のキーワードになった「開かれた社会」を発展的に継承し、理想とするオープン・ソサエティーを世界に広げていくことを、ソロス氏は自らの目標として繰り返し強調してきた。著者が回顧録の代わりに世に問うたと来日時に説明していた本書は、米国の変容、特に九・一一以後の米国の政治姿勢への強い危機感を示す本だ。
覇権国家である米国が自国の都合さえよければいいと考えるようになり、開かれた社会に欠かせない批判的思考を停止させるような体質の政治権力を米国自らが許容している。ブッシュ政権の外交の誤りが大きすぎた結果、米国の影響力は極度に低下した。このままでは世界が危うい――。著者は激しく警鐘を鳴らし、「文明の危機」という認識まで示す。
ソロス流の比喩によれば、「テロとの戦争」のスローガンはタカ派のナショナリズムを鼓舞し反対意見を封じる“偽りのメタファ”であり、ブッシュ政権は恐怖に直面して理性を失いがちな人間の感情と自己保存の本能に訴え、テロの衝撃を求心力に利用する対テロ戦争ポリティクスに走りすぎた。その結果、米国全体がおかしくなり、「均衡とはほど遠い領域」に迷い込んだと著者は言う。
本書は国際協力が不可欠な重要命題として地球温暖化への対応などを取り上げ、米国が自国の利益の方ばかり向いてリーダーとしての責任を果たせなくなっているのが問題であり、米国は世界における自らの役割を再考すべきだと説く。この結論は日本の読者の多くに素直に受け入れられるだろう。
ただし、日本語版の前書きには首をひねる。日本で過激な右翼勢力が台頭して帝国主義的秩序の復元を唱え、彼らに反対するとメディアによる嫌がらせも受け、小泉前首相は右傾化を批判する意見を公表する権利を守らなかった、という文脈になっているからだ。開かれた社会を追求する著者の使命感と同時に、最近の米欧での極端な日本認識を示す一例としても、話題になる本であろう。(越智道雄訳、ランダムハウス講談社・一、九〇〇円)【評 論説副主幹 脇祐三】
▼著者は30年ハンガリー生まれの投資家で、リベラル政治活動家でもある。現在の個人資産は百十億ドル。社会貢献活動にも熱心でこれまでに四十億ドルを投じた。
| 善と悪―倫理学への招待 | |
![]() | 大庭 健 岩波書店 2006-10 売り上げランキング : 936 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
物事の善悪を判断する基準とは何か。そもそも存在するのか。時代や社会によって全く答えが違ってくるこの問いかけを糸口に、倫理学者が道徳や倫理の考え方の基本を解説した。いかに背景が違えど、我々の誰もが他人に対して何者かとして存在する一方で、誰もが他人とは取って代われない単独者であるという事実は変わらない。深みのある解説だが専門用語をほとんど使わずに豊富な事例を挙げており、理解しやすい。
| 主君「押込」の構造―近世大名と家臣団 | |
![]() | 笠谷 和比古 講談社 2006-10-11 売り上げランキング : 35885 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
伊達騒動の発端になった伊達綱宗の隠居、八代将軍吉宗の対抗馬でもあった尾張徳川家の宗春の隠居……江戸期にたびたび起こった家臣による主君の強制的隠居事件の背景にはどんな社会的合意があったのか。その君臣秩序の構造に迫った画期的論考。初版刊行から十八年、改訂増補して文庫化した。
| 「日本の祭り」はここを見る | |
![]() | 八幡 和郎 西村 正裕 祥伝社 2006-10 売り上げランキング : 79996 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
京都の祇園祭や徳島の阿波踊り、青森のねぶたなど百万人以上が集まる祭りから、素朴な村祭りのようなものまで、日本には大小三十万以上の祭りがあり、年中行われているという。本書は神事や伝統芸能の継承などの切り口で、全国の祭りを紹介。観光ガイドとしても便利だ。
| 働くみんなのモティベーション論 | |
![]() | 金井 壽宏 NTT出版 2006-10-13 売り上げランキング : 1745 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する | |
![]() | ジョン・マクスウェル 宮本喜一 ダイヤモンド社 2006-09 売り上げランキング : 1383 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 実践EQ 人と組織を活かす鉄則―「共鳴」で高業績チームをつくる | |
![]() | リチャード ボヤツィス アニー マッキー Richard Boyatzis 日本経済新聞社 2006-09 売り上げランキング : 4396 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 無形資産価値経営―コンテクスト・イノベーションの原理と実践 | |
![]() | 寺本 義也 原田 保 生産性出版 2006-09 売り上げランキング : 7557 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
三年ほど前、取材先の企業で人事担当者が「社員に『やらされ感』が強まっている」と漏らした。今も覚えているのは、創造性に富んだイメージの強い優良企業二社で、同じような言葉を続けて聞いたからだ。
理由も似ていた。業績向上で会社は大きくなるが、業務効率は落とせない。効率を高めるために業務を細分化するため、個々の社員には自分の仕事の意義がつかみづらくなる。このため、仕事に対して受動的になりやすいのだという。
上場企業の九月中間決算の発表が続いている。過去最高の利益を上げる企業も多いが、社員の意識がどうなっているのかが気になる。増える仕事に追われて受け身になる社員が増えているとすれば、内からの衰退が始まりかねない。
資源がなく、人口も減り始めた日本。企業が絶え間ない革新で競争力を高めるには、いかに社員のやる気を高めて潜在能力を引き出すかが、これまで以上に重要な課題になる。人事評価・賃金制度を含め、ヒトの生かし方を見直すときだろう。
●意欲の調整巧みに
金井壽宏『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版・二〇〇六年)はそのヒントになる。著者は読者に、モチベーション(やる気、意欲)を自分で調整するための持論を確立しようと提唱する。誰でも仕事へのやる気が出たり、出なかったりの波を経験するだろう。いつもやる気満々では身がもたない。職業を問わず、優れた業績を残す人々はその波を巧みにコントロールしているという。モチベーションを外発的、内発的に分けて論じた章では、外発的報酬のマイナス面も指摘する。いわゆるアメとムチで社員を操縦しようとすれば、社員同士の人間関係が悪化したり、社員が与えられた課題以外に挑戦しなくなったりする。成果主義賃金の副作用と読み替えられるだろう。ただ著者は外からの刺激を頭から否定せず、内からわき出る意欲との組み合わせが重要だと指摘する。
会社員なら、仕事への意欲は上司によって左右されると感じる人が多いだろう。ジョン・C・マクスウェル『あなたがリーダーに生まれ変わるとき』(宮本喜一訳、ダイヤモンド社・二〇〇六年)は部下をもった人に一読を薦めたい。人材育成について著者は、部下に「自分は価値ある存在だ」と感じさせることや、激励の重要性を強調する。
激励など当たり前のようだが、複数の人にパズルを解かせる実験にはギクリとする。ウソの成績を教えると、良かったと言われた人は次に成績が上がり、悪かったと言われた人は下がるという。リーダーの褒め方次第で部下の意欲が左右され、その部下もいずれはリーダーになる。影響は後々まで及ぶ。
●ストレス克服策も
優れたリーダーでも仕事のストレスや家庭の問題などで疲弊し、失格の危機に陥ることがある。リチャード・ボヤツィス、アニー・マッキー『実践EQ 人と組織を活かす鉄則』(田中健彦訳、日本経済新聞社・二〇〇六年)は、実例を基にリーダー転落の要因を分析し、再生への処方せんを示す。能力の高い人物ほど仕事の負荷が過重になりやすく、「自己犠牲症候群」にかかる危険性があると警告する。ユニリーバの会長からロイター会長に転じたナイル・フィッツジェラルド氏も登場する。ユニリーバの洗濯関連商品部門で責任者だったとき、洗剤の品質問題などで苦境に陥った。しかし、死が目前に迫った親友の言葉で目覚め、自分を取り戻す決意をしたという。リーダーは生身の人間でありながら、弱みを見せにくい立場にある。こうした研究は貴重だ。
寺本義也、原田保『無形資産価値経営』(生産性出版・二〇〇六年)は知識社会時代の組織変革を扱っている。価値創造のためには経営理念や人材などの転換が必要だと説き、松下電器産業やネットベンチャーのはてな、品川女子学院など多様な事例を挙げる。人的資産が競争力の源泉になる時代に、リーダーシップを発揮すべきなのは経営トップや特定階層のリーダーに限らないと指摘している。
| ルビコン―共和政ローマ崩壊への物語 | |
![]() | トム ホランド Tom Holland 小林 朋則 中央公論新社 2006-09 売り上げランキング : 48785 おすすめ平均 ![]() 珠玉の一冊 時間を忘れさせる 塩野七生より面白い!!!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書の舞台は二千年前の地中海世界。約五百年間続いた共和政ローマが崩壊し、帝政ローマに移行する古代史の大きな転換点を描いた歴史ノンフィクションだ。タイトルの「ルビコン」は紀元前四九年、ガリア(主に現在のフランス)を征服したカエサルがライバルの実力者ポンペイウスとの対決を決心し、本国イタリアとの境界をなすルビコン川を渡った故事にちなむ。
著者は英BBCラジオの放送作家で、ギリシャ・ローマ古典作品をもとにした番組の脚色を担当。『プルターク英雄伝』や雄弁家キケロの著作を自在に援用し、カエサル、ポンペイウス、アウグストゥスら世界史の教科書でおなじみの登場人物が織りなすドラマをよみがえらせる。
全編を通じて強い印象を与えるのは、共和政ローマの政治世界には暴力、裏切り、買収、ねたみ、愛欲にかかわるスキャンダルなどあらゆる否定的な要素が渦巻いていたことだ。相次ぐ国内の反乱を捕虜の虐殺で終わらせた独裁官スッラ、並外れた財力と権謀術数をもとに政界の頂点、執政官まで上り詰めたクラッスス。共和政の息の根を止めたカエサル顔負けの役者がそろう。
共和政ローマが理想とした「自由」という価値は、平和や平等という観念と共存するものではなかった。自由と民主主義を掲げた超大国が世界を席巻する現代を分析する、貴重な視座を提供してくれる。小林朋則訳。(中央公論新社・三、三〇〇円)
| リスク社会を見る目 | |
![]() | 酒井 泰弘 岩波書店 2006-09 売り上げランキング : 13691 おすすめ平均 ![]() 経済学者が見る目線Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「リスク」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)するようになってからどれぐらい時間が経(た)つだろう。今日、平均的な日常生活を送るうえで、リスクという概念をまったく考えなくてもよい日はほとんど一日たりともない。私たちはまさにリスク社会を生きているといっても過言ではないだろう。
しかし、現実にリスクといった場合、どのような種類があり、どういった影響を受けているのか、そしてその帰結としてリスクとどう向き合っていったらよいのかを私たちはつい見落としがちである。
本書は私たちが視聴するNHKの大河ドラマや血液型、大相撲でごくたまに目にする三者による優勝決定戦、巴(ともえ)戦などの身近なケースを題材に、そうしたケースのなかに潜むリスクと影響を考えることで、私たちが身近なリスクとどう付き合っていったらよいのかを説いている。
リスクというととかくマイナス面を考えてしまいがちだが、リスクなしの人生はあり得ないし、またあったとしても無味乾燥で面白くない。リスクはクスリと同様でプラスマイナスの両面があり、プラス面をうまく引き出せばかえって人生を豊かにするというのが著者の主張である。
著者の思いが強すぎる分、ところどころ文章が冗長になっているのが残念。もっともそうした点を割り引いても、私たちはリスク社会と複眼的に向き合うべきだという著者のメッセージは十分伝わってくる。(岩波書店・二、二〇〇円)
| 投資事業組合とは何か | |
![]() | 田中 慎一 保田隆明 ダイヤモンド社 2006-09-01 売り上げランキング : 6177 おすすめ平均 ![]() LPSを中心にした投資事業組合の解説本 わかりやすく、読みやすいAmazonで詳しく見る by G-Tools |
悪玉論の誤解を正し平易に解説
投資事業組合への風当たりが強まっている。ライブドア事件で粉飾決算の道具に使われたことなどが背景にある。「なんだか怪しい」と思われがちな投資事業組合についてわかりやすく説明し誤解を取り払おうというのが本書だ。
摘発された「村上ファンド」など投資ファンドも投資事業組合であり、投資ファンドについての本はたくさん出ている。その中で本書がひと味違うのは、著者の一人が投資事業組合の「怪しい」部分を身をもって熟知している点だ。ライブドア事件に巻き込まれた監査法人のパートナーを務め、そのときの体験を前作『ライブドア監査人の告白』にまとめた経歴の持ち主なのだ。
投資事業組合について「日本経済に多大な貢献をしてきた重要なプレーヤーの一つ」との立場から、その種類や仕組みを解説する。ライブドア事件など個別事例も取り上げ、著者なりの問題意識も提示している。例えば、福井俊彦日銀総裁の村上ファンドへの出資問題。出資の際に使われた投資事業組合が福井総裁専用の匿名組合だったことから、「匿名組合悪玉論」に拍車がかかった。これについて「スキームそのものに違法性はまったくない」とし、「あくまで福井さん自身の倫理上の問題」と指摘する。
「投資事業組合が悪いわけではない」とのメッセージを発しているとはいえ、本書は基本的には解説書・実用書。一般のサラリーマンでもサラッと読める内容だ。(ダイヤモンド社・一、六〇〇円)
| 真説 鉄砲伝来 | |
![]() | 宇田川 武久 平凡社 2006-10-11 売り上げランキング : 3516 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
鉄砲は天文十二年(一五四三年)にポルトガル人によって種子島に伝えられ、日本各地に広がったというのが通説である。
それ以後紀州根来、泉州堺、近江国友などで大量に作られ、従来の戦法を一変させるほどの威力を発揮した。信長、秀吉による天下統一は鉄砲があったからこそ可能になったと言っても過言ではないが、その実態については不明な点が多い。
種子島に漂着したのは明国のジャンク船で、船長は海賊として名高い王直だったというし、鉄砲鍛冶の技術、砲術師の活動、硝石の輸入ルートについても、分らないまま放置されている観がある。
長年鉄砲の研究にたずさわってきた著者は、現存する火縄銃や各流派の砲術秘伝書をもとに、こうした謎の解明にいどんでいる。その結果分ったのは、鉄砲は明国の海賊たち(後期倭寇(わこう))が中心となって、種子島ばかりでなく西日本一帯に分散・波状的に伝えたという事実である。
また、最初は贈答品や狩猟道具として用いられた鉄砲が、砲術師たちの活躍によって次第に実戦用に改良され、凄まじい速さで全国に普及していった様子も明らかになった。
しかも興味深いのは、戦国大名たちの鉄砲の受容の仕方である。
たとえば家康は、慶長五年三月に豊後に漂着したオランダ船リーフデ号を大急ぎで領国の浦賀に廻航させている。
この船は大砲十八門を搭載し、銃五百挺、銃弾五千発、鏈弾(れんだん)三百発、火薬五千ポンド(約二千二百七十キログラム)、火箭(ひや)三百五十本を積んでいた。最新式の鉄砲と大量の火薬を手に入れた家康は、これらを駆使して関ケ原の戦いに大勝する。
あるいはリーフデ号を手に入れたことが家康に開戦を決意させたのかもしれないし、合戦の当日松尾山の小早川勢に鉄砲を撃ちかけたのは、驚異の新兵器があることを誇示して内応をうながすためだったのかもしれない。
さまざまなことを想像させる、知的刺激に満ちた「鉄砲の社会史」である。(平凡社新書・八〇〇円)
▼うだがわ・たけひさ 43年生まれ。国立歴史民俗博物館教授。中・近世水軍史、日本銃砲史専攻。著書に『戦国水軍の興亡』などがある。 作家 安部 龍太郎
| MANDALA 光の旅―釈迦如来 | |
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髪の毛一筋ほどの太さの筆で描かれた「釈迦如来曼荼羅(まんだら)」をクローズアップ技法を駆使して撮影した。著者は細野晴臣やCoccoらミュージシャンのCDジャケット撮影を中心に活動する写真家。一枚のマンダラが、光のあて方で虹のように多彩な金色に変わる。カメラは極限まで細部に近づき、マンダラの諸相を際だたせようと試みる。仏たちの優雅な所作とほほ笑みが、その努力に報いているようだ。
| ドキュメンタリー映画は語る―作家インタビューの軌跡 | |
![]() | 山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局 未来社 2006-10 売り上げランキング : 96681 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
映画批評と映画ジャーナリズムの衰退が嘆かれて久しい。好況をうけ雑誌にネットに映画記事はあふれているが、大半は宣伝のために一方的に流される「情報」だ。情報量に反比例して「言説」はやせ続けている。
そんな折、映画を巡る言説の力を感じさせる本を見つけた。山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局編『ドキュメンタリー映画は語る』(未来社)というインタビュー集だ。同映画祭が一九九二年から年二回発行してきた機関誌「Documentary Box」に掲載した記事を収録している。
語り手は二十六人。亀井文夫(生前の講演記録)から、岩波映画出身の土本典昭、黒木和雄らを経て、原一男、佐藤真、森達也まで。さらに実験映画の鈴木志郎康や松本俊夫、ドキュメンタリーと劇映画を往還する是枝裕和や河瀬直美、スタッフとして現場を支えた松村禎三、たむらまさき……。
折々の特集上映などを機に取材したもので、必ずしも体系的とはいえないが、十七年続く映画祭の蓄積は大きく、日本のドキュメンタリー映画の厚みを感じさせる人選だ。さらに興味深いのは映画祭スタッフが務める聞き手が「ドキュメンタリーとは何か」という問題意識を共有していること。それが作り手の問題意識とも響き合い、生々しい対話が成立しているのだ。
例えば従軍して中国戦線を撮った瀬川順一について問われた土本が「キャメラマンとして、どうしても撮れないという肉体がある」という瀬川の言葉を引き、「体の中に染み込んだ知性」と評価する。原はテレビの「やらせ」を問われ「カメラがそこにある限り自然の人間の姿だけ撮るなんてありえない」と断言する。いずれもドキュメンタリーの本質を突く強烈な言葉だ。
八九年、九一年の同映画祭でデイリーニュースを編集したのは大阪で自主上映活動をしていた「映画新聞」(九九年に休刊)のスタッフだったが、九二年以降の同紙を集めた『映画新聞合本3』(ブレーンセンター)も刊行された。ここにも見る側(批評家、編集者)と作る側(監督、スタッフ)が肉声で語り合うような緊迫感がある。
映画祭や上映運動は見る側と作る側の双方を引き込む“磁場”を作る。そこに言説が生まれるのである。
| 金融商品取引法入門 | |
![]() | 黒沼 悦郎 日本経済新聞社 2006-08 売り上げランキング : 8773 おすすめ平均 ![]() 概観するにはすごくいいです。Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今年の六月、証券取引法が大幅に改正され、金融商品取引法としてその主要部分は来夏に施行される運びとなった。本書は新しく生まれ変わった金融商品取引法を、柱となる重要項目を中心に、法律の専門知識のない読者でもわかるように基本から丁寧に解説した。最終章では残された検討課題に触れると共に、今後どういう制度設計が望ましいのかに関する著者自身の考え方も示している。
| 和を継ぐものたち | |
![]() | 小松 成美 小学館 2006-09-29 売り上げランキング : 16399 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
工芸や芸能など日本の伝統を現代に受け継ぐ職人や楽器奏者など二十二人へのインタビュー集。将棋の棋士、三味線奏者、鵜匠(うしょう)、火消し用の纏(まとい)を作る職人、からくり人形を作る職人など分野は多様だ。文楽人形師は、足を操るだけで十年の修業が必要だという。伝統芸能の厳しさを物語るそんな言葉にうなずきつつも、喜びをもってわざを継承する彼らの姿を知るのは楽しい。登場するのはベテランだけではない。二十代の能楽師や三十代の書家らの話ははつらつとしており、読む側も新鮮な気持ちになる。(小学館・一、四〇〇円)
| 社員力革命―人を創る、人を生かす、人に任す | |
![]() | 綱島 邦夫 日本経済新聞社 2006-09 売り上げランキング : 420 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一流のスポーツ選手は意外と目立たない体格をしている。それと同じで、競争力抜群の会社や超優良企業を訪ねてみると、経営手法も人事制度も意外に平凡で拍子抜けすることがある。しかし、プロの目利きは競争優位の源泉を見逃さない。優れたスカウトが選手の素質を鋭く見抜くように、経験豊富なコンサルタントである著者は、一見すると地味な経営の裏にある「強さ」の秘密を探り当てる。著者によると、それは社員が自発的に協力し合い、問題を発見・解決する「人材基盤経営」である。
欧米では伝統的な大企業が苦境にあえぐ中で、米GEは一九八〇年代半ばに官僚制的な職務主義から全社員が経営成果に貢献できる組織へ大改革を行った。それが九〇年代の躍進につながった。日本企業の中にも、人材基盤経営で成果をあげている企業がある。著者はそれを三つのタイプに分け、代表的な企業としてトヨタ自動車、松下電器産業、武田薬品工業をあげる。
トヨタは社員の考える力、問題発見能力を育て続けてきた。松下電器は組織のフラット化、ウェブ化によって社員の意欲と能力を生かすという経営スキームを取り入れた。武田薬品は有為の人材に任せる仕組みをつくり、対象を外国人にまで広げた。そして、これらのタイプには共通している点がある。それは個々の社員が自分の仕事の範囲に閉じこもることなく、広い視野に立ってコラボレーション(協働)できるよう、システム化されていることである。
けれども欧米の一流企業に比べると、まだ不足している部分があるという。著者は人材基盤経営確立に向け日本企業に七つの提言をしている。中でも特に強調しているのが、報酬哲学の見直しである。狭い報酬観を払拭(ふっしょく)し、非経済的報酬の意義を認識することが必要だと指摘しているが、評者も同感だ。
景気回復によって、人事制度改革の議論も棚上げされたままになっている。成果主義か年功主義かといった陳腐な論争を蒸し返すのではなく、強い組織では社員のモチベーションがどこから生まれているかを究明することから始めるべきだろう。(日本経済新聞社・一、八〇〇円)
▼つなしま・くにお 49年生まれ。コンサルティング業務などを展開している。 同志社大学教授 太田 肇
| 立原道造全集〈1〉詩1、短歌・俳句、物語1、戯曲 | |
![]() | 立原 道造 筑摩書房 2006-11 売り上げランキング : 3414 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二十四歳の若さで亡くなった昭和初期の詩人・建築家、立原道造の創作の全容を明らかにする「立原道造全集」(全五巻、筑摩書房)の刊行が始まった。既刊の第一巻は生前に発表された詩、短歌、戯曲などを収録。七千六百円。今後、三カ月ごとに発行する続刊では、生前未発表の詩や手記、創作ノート、建築図面、デッサンなどを掲載する予定だ。
| 最新スポーツ科学事典 | |
![]() | (社)日本体育学会 平凡社 2006-09-26 売り上げランキング : 100100 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
近年大きな進歩を遂げているスポーツをめぐる理論を網羅した『最新スポーツ科学事典』(平凡社)が刊行された。体育史や体育心理学、スポーツ医学といったスポーツそのものに関連する項目のほか、人類学など周辺の文化的な項目も収録。総項目は約四千で、一万二千項目の索引も付けた。日本体育学会の監修で、約四百人の研究者が執筆した。一万四千円(来年三月末までは一万二千円)。
| 理想の出版を求めて 一編集者の回想1963-2003 | |
![]() | 大塚 信一 トランスビュー 2006-11-02 売り上げランキング : 53496 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
岩波書店の社長を七年間務めた著者による回想記だ。会社では編集担当役員を務めるなど中枢を担ったが、「私が編集者として立ててきた企画は、アンチ岩波というべき企画ばかりだった」と振り返る。岩波を覆う「一流意識に耐えられなかった」という。
岩波で本を出す人は大家でなければならず、遇するのは一流の料理店、送迎はハイヤーで。入社早々、こうした光景に触れ違和感を抱く。編集会議などで一流の議論がかわされていればまだ良かったが、「大家の意見ばかり尊重され、編集者の主体性がなかった」。
山口昌男、河合隼雄、中村雄二郎といった研究者たちの無名時代から伴走してきた。「一流」の岩波にとって冒険といえたが、著者は学会の大御所の推薦を取り付けてなんとか企画を通す。保守本流からは「生意気」呼ばわりされたが、ベストセラーで実績を積み上げ、新しい人文科学の形成に寄与してきた。
若手執筆者の発掘に努めたのは、それこそが出版社の使命だと考えたからだ。「小さい出版社が育てた執筆者も、岩波が依頼すればまず断られることはない。それでは小出版社に申し訳ない」との思いもあった。若手研究者を集めた勉強会を続け、そこからいくつも企画が生まれた。
社長に就任したのは出口がみえない出版不況期。大口取引先の倒産にも見舞われた。「アンチ岩波だった私が、今度は岩波を守るのに必死だった」。ブランドは刷新してこそ価値を維持できる。「アンチ岩波」の姿勢がブランド価値再生に幾分寄与したとの思いもある。
本書は初めての著書。次の本の予定はまだないが「執筆者たちのことは書き残す義務がある」。「販売部数が減る中、忙しさばかりが増している」現役世代に向け、エールを送り続けるつもりだ。(トランスビュー・二、八〇〇円)
(おおつか・のぶかず)1939年東京生まれ。63年国際基督教大卒、岩波書店に入社。「思想」編集部を経て、数々のシリーズを世に出す。97年から2003年まで社長。






発展途上
共感よりも反発を生むくらいでいいのに。

三角寛を知らない人は買わないこと

































